Happy birthday,dear papa
―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………
………ウルサイ………。
頭は完全に眠ったまま。
―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………
それでも鳴り続ける、聞き慣れたメロディに。
いつしか、体が勝手に反応し。
彼は、反射的に携帯を取っていた。
******************
「もー、シンちゃん、出ないよぉっ!!!」
いらいらと。
携帯を手にしたまま、グンマは唇を尖らせる。
「まぁまぁ、グンちゃん。シンちゃんは、忙しいから………」
「だって、おじ………じゃなかった、おとーさまっ! アレほど、ボクが何回も何回も何回もッッ!! メール入れておいたのにっ!!!」
―――招待状だって、100通は出したのにッッ!!!
…………ソレは、もう殆ど。
不幸の手紙とか、スパムメールの域に達しているのでは、無いだろうか、と。
思わず、キンタローは、溜息をついてしまう。
「そうです、マジック様!! この会場の飾り付けにしても、わたしとグンマ様が徹夜で行ったんですよ!?」
―――そんな健気な、グンマ様の真心を踏みにじるなど。全くもって、許し難い!!!
気炎を上げる、高松の後ろでは。
「あ。だから、こんなに飾り付けの趣味が悪いっちゃね♪」
それはそれは、無邪気に、トットリが。
招待客の誰もが言えなかったヒトコトを、代弁し。
………間髪入れずに、バイオハマナスに巻き付かれた。
******************
世間では、クリスマスムード一色に染め上げられる、この時期だが。
ここ、ガンマ団においてだけは―――少なくとも、表向きは。
年末最大の行事、と言えば。
12月12日の今日、つまりは総帥マジックの誕生日パーティである。
シンタローに代替わりした今では『元総帥』なのだが。
長年の習慣は代わることなく………イヤ、むしろ。
今年は、実はマジックの実の息子、と判明し。
にわかに権力を増してしまったグンマが、張り切って陣頭指揮をとったせいで。
規模は例年以上に拡大し――――殆ど強制的に集められた招待客は、例年の倍の広さの会場に、入りきらない上。
グンマと高松という、有る意味最強コンビが徹夜で行ったという、場内の飾りつけは。
あちこちに、微妙にファンシーなロボットやら、不気味に動き、客を威嚇するバイオ植物やらが、ゴテゴテと配置され。
極めつけに。バブル全盛期の結婚式を、彷彿とさせるような。中央にででん、と置かれた12段重ねのバースディケーキは。
『マジックくん、おたんじょうびおめでとう』の電光表示板を背負い、ところ狭し、とばかりに、あらゆる表情とポーズの、砂糖菓子製のシンタロー人形が飾られている。
………余りの不調和さに、コメディーを既に通り越し。
もはや、祝ってるんだか呪ってるんだか、というような有様で。
トットリの意見は、至極正しい、と。
この場で、当事者二人を除き、誰もが内心頷いていたが。
誰も―――それこそ。
通常なら、真っ先に眼魔砲で、このアヤシイ場を破壊しかねない、マジックの兄弟達でさえ。
大人しく、参加している理由は。
「もぉー、シンちゃん、出てよぉ………シンちゃんがいなきゃ、パーティが始められないじゃないぃ」
ほとんど、半べそで携帯に耳を押し当てている、グンマが。
本当に、頑張ったのだ、ということが解っていたから。
血の繋がらない息子を、溺愛する父親と。
そんな父親の気持ちに。
ちっとも応えようとしない、意地っ張りの息子の為に。
パーティの開始時刻を、とっくに過ぎた会場で。
グンマは、携帯を握りしめたまま、途方に暮れて立ち尽くす。
―――もう、いいから。始めよう………。
見かねた、マジックが。そう、声を掛けようとした瞬間。
『ふぁい、もしもし………』
プッ、という接続音と共に。如何にも寝起きです、と解る。
シンタローの、低く掠れた声が、響いた。
「あ、もしもし? シンちゃん!?」
ぱっ、と輝いた、グンマの顔は。。
しかし、次の瞬間、キッと引き締められ。
『あー。んだよ、グンマ。おめーかよ………』
「おめーかよ、じゃないよ!! 今日は、おじ……おとーさまの誕生日でしょ!? 招待状だって、送っておいたのに!!」
金切り声で、まくし立てると。
ただでさえ、寝起きの不機嫌そうなその声が。
いっそう低く、凄みを増した。
『………用事がそれだけなら、切るぞ。時差を考えろよ、何時だと思ってんだ、テメー』
「ちょっと、シンちゃん!!」
『オヤジに言っとけ。イイ年齢して、誕生日ごときで浮かれるなってナ』
――――――プツッ!!
「シンちゃん!? シンちゃん!!!」
呼びかけても、既に携帯は切れた後。
何度リダイヤルしても、電源を切られたらしく。
『しばらくたってから、おかけ直しください』のアナウンスのまま。
「………シンちゃんの、バカ――――――ッッ!!」
ぶわぁぁぁーんっっ!!! と。
切れた携帯を握り締め。グンマはついに、座り込み、大声で泣き出した。
「あ゙あ゙あ゙――――っ!! グンマ様を泣かすなど、許し難いッ!! もうあんな男は放って置いて、私達だけでパーティを始めましょう!!!」
「高松のおバカぁっ!! シンちゃんが来なきゃ、意味がないんだってばぁッ!!」
―――慰めるつもりが、逆に、言い返され。思わず鼻血と涙を同時にこぼし、高松は硬直する。
「仕方が無いだろう、グンマ。確かに、アイツの遠征の場所は、難しい場所だから………」
シンタローの、新総帥としての激務を知っている、キンタローも。
何とか、宥めようとするが。
しかし、グンマは大きな瞳からボロボロ涙をこぼしつつ、キッと
「忙しいのも、遠いトコに行ってたのも、キンちゃんだって一緒だもんっっ!!」
―――それでもキンちゃんは、ちゃんと時間の都合をつけて、来てくれたじゃないっっ。
………更に、言い返され。グゥの音も出なくなる。
確かに、キンタローは。
祝い事には、とにかく顔だけでも出すべきだ、という常識に従い。
招待状が届いて以来、身を粉にして働き。何とか今日一日の、時間の都合をつけたが。
しかし、その常識は。そもそもシンタローの内に在る間に、培われたモノで。
つまり、その原型たるシンタローが来なかった、という事は。
こちらの想像を絶するほどに、忙しいのでは、無いだろうか………とか。
そう言いたいのは、山々だったが。
グンマがどれほど頑張ったか、高松から聞いている、キンタローには。
この瞬間の、彼の怒りや、悲しみも、理解が出来て。
「シンちゃん、去年は南国でバカンス中で、お祝いもしてあげなかったしッッ!!」
――――だから。だから、今年こそは………。
「グンマ? シンタローは、バカンスしてたんじゃなくて、漂流した挙句、幼児と犬の家政夫になってたんだよ………?」
見かねたサービスも。身も蓋も無い、フォローを入れてみるが。
「同じことだもんッッ!!!」
―――ちっがーう!!!
………その突込みを、誰も入れられなかったのは。
駄々をこねつづける、グンマの秘石眼が。
キラキラと輝きを増し、発動寸前の状態であることを悟ったから。
ひぃぃぃっ、と一般団員は頭を抱え。
伊達衆はトットリ救出の為、バイオハマナスと格闘し。
固まったままの、高松とキンタロー。
説得を諦め、優雅に持参の紅茶を啜る、サービスに。
不穏な気配に、せめて一杯、と勝手にやりはじめた特選部隊。
もはや、収拾は不可能かと思われる混乱の中。
………ぱんぱんっ!! と。
小気味良い、破裂音が響いた。
「はぁい、ソコまで」
柔らかい―――けれど、良く通る低い声が、その場に響いて。
「さ。待たせちゃったけど、パーティを始めようか」
今までの混乱が、ウソのように。思わず全員が、動きを止め、注目する中。
すたすたと、マジックは。
会場の真ん中にいる、グンマの―――息子の元へ、歩いて行き。
―――ぽん、と。座り込んだままの彼の頭に、大きな手を乗せた。
途端に。
………すぅっと、引いていく、グンマの秘石眼の光。
「お……とーさま。だって………」
まだ、瞳に涙を溜めたまま。
くすんっ、と鼻を鳴らす、グンマに。
「ありがとう、グンちゃん。でもね、いいんだよ」
―――実はね。シンちゃんからは。もうちゃんと、プレゼントを貰ってるから。
そう、囁いたマジックに………ピタリ、とグンマの涙が止まる。
「え、ソレ、ほんと? おとーさま」
ホントなら。
ホントなら………シンタローは、マジックの誕生日を忘れていなかった、コトになる。
だったら。
招待状も、メールも。無駄では無かった、という事になり。
じっと、見つめてくる、グンマの視線に。
にっこり、と。マジックは上機嫌に微笑む。
「うん。シンちゃんが恥ずかしがるから、内緒にしてたんだ。ゴメンねvv」
「えー、ナニナニ? ナニもらったの!!」
―――今泣いたカラスが、何とやら。
見せて見せてvv と。
顔一杯に書いてわくわく、と詰め寄るグンマに、少し首を傾げ。
「見せる、というか………聞かせることなら、できるんだけど」
マジックは首を傾げつつ、答える。
「じゃあ、聞かせて聞かせてvvv」
「んんー、どうしようかなぁ?」
迷うそぶりながらも、聞かせたいのは明白な素振りの、彼に。
―――多分。
最初から、あの混乱を予想しておきながら。
ワザと黙っていたのだろう……と、簡単に想像のついてしまう、その歪んだ性格とか。
一瞬にして、あれだけの騒ぎを静めてしまった。未だ健在の、そのカリスマ性や。
シンタローが先刻、あれほど不機嫌だった理由さえ。
単純な、グンマと違い………ここまでのやりとりで。
色々なものが、見えてしまった、キンタローは。
それでも。
とりあえず、大事なイトコが泣き止んでくれた事に、ホッとして。
「………今はやめておけ、グンマ」
と。
肩を抱いて、囁いた。
―――そして、遅れること、一時間後に。
盛大なパーティは、始まった。
******************
「………ったく。なァにが、誕生日だよ」
ぶちっ、と携帯の電源を切り。
シンタローは。再び、ベッドに身を委ねる。
―――眠い、眠い、とにかく眠い。
何せ、色々あって。
眠りについたのは、午前4時を回っていた。
七時の起床まで、三時間は眠れる、と思っていたのに。
グンマの責任で、中途半端な時間に、叩き起こされて。
―――まァ、でも。しょうがないけどさ、今回は。
うとうと、と。
すぐに全身を気だるい眠気が包み―――やがて、完全に眠りに堕ちる。
―――Happy birthday,Dear papa………
………数時間前に、呟いた歌を。もう一度、夢の中で歌いながら。
………本能の求めるまま、眠りについたシンタローは、まだ知らない。
目覚めて、再び。電源をオンにした際、入ってくる爆弾メールの事を。
『昨夜は、お疲れさま(^-^)ニコ 今日はゆっくり休んでね♪
あ、そうそう。プレゼントは、着信音に登録しといたたヨvv』
―――眠気も、寝不足ゆえのだるささえ、吹っ飛ぶ。その、とんでもない内容に。
ワナワナ、と震えつつ。天井を仰いで。
「………あンの、クソ親父~~~~~~~ッッ!!!!」
と。絶叫するハメに、陥る事を。
******************
それから、しばらくの間。マジック元総帥の携帯が鳴る度に。
たどたどしくも、艶のある。
シンタローの声で謡われる「ハッピーバースディ」が響き渡り。
思わず聞き惚れる団員達で、業務が完全にストップする現象が多発し。
その為、シンタロー新総帥は。
溜まりに溜まった、書類業務の監督の為。
ガンマ団本部に、戻らざるを得なくなったのだった。
○●○コメント○●○ コレをUPしたかったが為に、予定のパパの誕生日のサイト開設が「なんちゃって開設」になってしまった、という、イワク付きのSSデス。
だって、パパの誕生日記念に作ったサイトに、パパへのプレゼントが無いなんて、許されないじゃあないですか(T^T)クゥー
ちなみに。色々と深読みが出来る内容ですが………深読み禁止でお願いします(苦笑)
その内、ウラを作ったら、書くでしょう、メールにまつわる色々。
ともあれ………大好きな、マジックパパvv 誕生日、おめでとうございました。今後とも、末永くお願い致しますvv
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