GIFT
朝というものは、爽やかなものである、と。
古来より、相場は決まっている。
ましてや今は、薫風さやかに窓辺を渡る、皐月の盛り。
一年で最も、清清しい時期のはずなのに。
今朝のガンマ団は、何やら。
凄まじい殺気と、欲望渦巻く。不気味な、紫色のオーラにすっぽりと包まれていた。
「………ドコだべッ!?」
「ダメだっちゃ、こっちにもいないっちゃよ!?」
「あっちにも、おらんかったけんのぉ!」
「わて、向こう見てきますわ!!」
切羽詰った形相で迷走する、伊達衆及び、一般の団員達。
「いいか、オマエら? 見つけられなきゃ、全員、今月の給料は無いと思え!!」
「―――エエッ、また今月もタダ働きッスかッ!?」
「…………(泣)」
「その代り、あの方を捕まえれば。特別ボーナスですね?」
タダでさえ、オットダラケで。潤いに欠けるガンマ団だというのに。
名も無き雑兵から幹部に至るまで、団員達の尽くが。
血相を変えた挙句、猫の子一匹見逃さないという血眼で、東奔西走している光景は。
物々しいを通り越し、暑苦しい程だ。
………一連の騒ぎを。
元総帥室の、高い塔より見下ろしていた、マジックは。
苦笑を浮かべ、窓際から離れると。
室内の、何の変哲も無い、真白な『壁』の前に立つ。
軽く拳を握り締め―――決められた位置を。
決められたリズムで、決められた回数だけ、叩くと。
カチリ、と。歯車の合わさる音がして。
『壁』は、内側から開いた。
ごく限られた、一部の者しか知らないが。
対ガンマ砲設備もカンペキな、この『元総帥室』には。
主の趣味により。隠し通路に隠し部屋、隠しカメラに隠しマイク、更にはガス噴出装置etcetc………まさに『付けられる機能はみんな付けちゃえ~♪』ばりの装備が、施されていたりする。
ちなみに。この、完成した『元総帥室』を披露した際。
代替わりした直後の息子には「いらん設備に散財すんな、忍者屋敷じゃねーんだぞッ!!」と、激しく叱られたものだったが。
ちゃんと、今。こうして役に立っているのだから。
―――やっぱり、人生って。備えあれば嬉しいナ、だよねぇ♪
微妙に間違ったコトワザを胸に抱き。『隠し部屋』の、入り口をくぐると。
6畳程の空間に。壁と向い合わせに、デスクが一つ。
その前を陣取る黒髪の青年は、忙しそうに書類を繰っていた。
「………どうだ?」
こちらに背を向けたまま、短く問いかけてきた彼………シンタローに。
マジックは、上機嫌に報告を返す。
「今の所、異常ナシだよvv あ、そうそう………」
引き締まった背に流れる、ぬばたまの艶やかな髪に。
思わず見惚れつつ、言葉を続けようとする、が―――。
「現金。スイス銀行、振込みで」
……………………しばしの、沈黙の後。
「シンちゃんッッ、聞く前から答えないでくれるっ!!??」
相変も変わらず。とりつくシマの無い、長男の態度に。
ハンカチを噛み締め、抗議をしてみるが。
振り向くことなく、シンタローは。キッパリした口調で、たたみかける。
「等身大のアンタ人形はいらねぇ。もちろん、ミニマスコットもいらねぇ。ポスターなんぞ押し付けやがったら、目の前で燃やすぞ」
デスクに向かい、書類を読んでいるせいで。
普段ピンと張られている背筋は、前屈みの姿勢となり。
そこから、機嫌がサイアク、というオーラが立ち昇っている。
―――その様子は、まるで。気が立った猫そのものである。
「でも、さぁ………やっぱり。プレゼントって、お金には代えられない、心に残る何かが良くない?」
珍しくも、マジックは。真っ当な不満を、主張してみたのだが。
生憎、ご機嫌斜めのシンタローの内部に、特に感銘は呼ばなかったようで。
「貰うのは、オレだ。だったら、リクエストする権利もオレにある」
――――ロクでも無いもの押し付けやがったら、その場で燃やしてやるという。
確固とした、意志を示されただけに終わり―――そして。そんなヤリトリの間にも。
カリカリと、シンタロー愛用の万年筆は、動きつづけ。
マジックの方へ、顔を向ける素振りすら無い。
「シンちゃぁぁ~~~ん。まだ、怒ってるの~~~~???」
マジックはついに音を上げ。非常に情けない声で、最愛の息子にお伺いを立た………その、瞬間。
―――ファンファンファンファン!!!!
某アニメの「敵機来襲!!」を彷彿とさせる、けたたましい警報音が。
秘密の小部屋に、響き渡る。
『…………来た』
珍しくも。親子の心情が、ピッタリ重なった。
「………いいか、てめぇ。解ってるだろうな………」
さすがにその手は、止まったものの。
それでもまだ、デスクの書類に、目を落としたまま。
声だけにドスを効かせ、シンタローが念を押すと。
「だァいじょぉぶッッvv パパに任せておいてよ、シンちゃんvvv」
………根拠は何だろう、と疑いたくなるほど。
マジックは、むやみに自信満々に。どんっっと、厚い胸板を叩いてくれて。
―――ほんっとーに、任せて大丈夫なんだろうな、コイツッッ!!??
そのあまりに軽い態度に、却って不安が増したのだが。
振り向くコトは、ぐっとこらえ。再び、万年筆を動かし始める、シンタローの。
その、背中越しに。
大丈夫だよ、と………もう一度、声を掛けて。マジックは、隠し部屋を後にした。
******************
入り口のロックを、解除すると同時に。
息せきって飛び込んできたのは、天使のように美しい青年。
「お父様、お父様ッ!! シンちゃん、ココにいるんだよねッッ!!?」
甥だと信じて、疑ったことさえ無かったのに。
何と実の息子だった、というオチがついた、グンマ博士と。
「もちろんですよ、グンマ様。この高松の頭脳にかかれば、シンタローがドコに隠れようと、一目瞭然ですともッッ!!!」
その後ろから。
このヤヤコシイ事態を作り上げてくれた張本人の、高松………そして、もう一人。
「―――むしろ、オレ達以外がココに押しかけていない方が、不思議なんだが」
真実を微妙に掠った呟きと共に、肩を竦めるのは。
ある日突然、現れて。息子かと思ったら、実は甥だったという。
それはそれは、複雑な出生の(公然の)秘密を持つ、キンタロー。
―――正直、厄介だな、と。マジックは内心で顔を顰めた。
訪れたのが、グンマと高松だけであれば。
煙に巻くことなど容易いと、思っていたのだけれど。
が、もちろん彼とて。
伊達に長年ガンマ団総帥として、クセ者揃いの組織に君臨し続けていたワケではない。
そんな本音など、微塵も感じさせない態度で。
「え? 今日は、来てないよ」
いけしゃあしゃあと。如何にも、予想外のコトを耳にした、という態度で。
不思議そうに、首を振って見せた。
―――一方、その頃のシンタローは。隠し部屋内に設えられた、モニターを通じ。
うっすらと、冷や汗を浮かべ。祈るような、想いで。
一連のヤリトリを、見守っていた。
『えぇ? じゃあ、お父様。何でそんなに、落ち着いてるのさ?』
モニター越しに聞こえる、彼の疑問に。
グンマにしては、鋭い所を付きやがる………と。思わず、舌打ちが盛れたが。
イトコという、立場上。
物心ついて以来、マジックのシンタローへの執着ぶりは。
常に間近で、見せ付けられてきた、彼であるから。当然といえば、当然の疑問だ。
―――頼むから。こんな所で、尻尾を出すんじゃねーぞッ!!??
シンタローの、切実な願いを知ってか知らずか。
マジックは、動揺すること無く、むしろ至って余裕の表情で。
あっさりと、言葉を返した。
『だって。どうせ後で、パーティで会えるだろ?』
―――まァvv 何て、物分りのイイ、賢い坊ちゃん………っていうか。
アンタに限り、そのコメント、恐ろしくありえねぇッッ!!!
対象者のシンタローでさえ、突っ込みたくなる。
まったくもって、らしくない、マジックの台詞に。
『…………マジック様。あからさまに、怪しいですよ』
案の定。グンマの腰巾着、高松から冷静な突っ込みが入り―――息を詰め、見守るシンタローの前。
『んん? 怪しくないよ』
ニコニコと、マジックは。それはそれは、愛想良く微笑んで。
―――次の瞬間。
凄まじい爆弾を、投下してくれた。
『だって。日付変更線越えて、今朝方まで、あの子の部屋でお祝いしてたんだもん~~~vvv』
―――やっぱり、こういうのは。一番最初に、オメデトウって言いたいからねぇ♪
ちなみに、シンちゃん起こさないように、帰ってきたから。その後は、知らないんだよネvv
「…………!!!!」
シンタローの目前が。鮮紅色に染まり。
理性の総てを総動員し、タメ無し眼魔砲の連射を抑える。
100%事実無根だ、と言い切れないトコロに………尚更。
ぶつけられない、怒りが。凄まじい勢いで、内圧を高めていき。
ギリギリギリ、と。
歯軋りしつつ、モニターをにらみ続けていると。
『今、何か聞こえなかったか?』
画面の向う側。キンタローが、ボソリと呟いて。
沸点寸前だった、シンタローの頭から。一気に、血の気が引いていく。
………まさか。隠しカメラの存在に、気づいたのであろうか。
一見したところで、解るような位置にはないのだが………真っ直ぐな彼の視線は。
明らかに、コチラに焦点を据えており。
イヤなカンジの冷や汗を掻きつつ。
シンタローはカチンコチンに固まった。
******************
「今、何か聞こえなかったか?」
「さぁ、別に? 気のせいじゃない?」
キンタローの問いかけに、マジックは。
間を空ける事無く―――さりとて、不自然なほど早すぎもせず―――ごくあっさりと、答え。
自分に気づかれていることは、解っているはずなのに。
………さすがだな、と。改めて見なおした。
グンマと高松はまだ、巧妙に隠されたカメラの存在には、気づいていないようで。
どうしたものか―――キンタローが、迷っていると。
彼にだけ、解るように。マジックが、小さく目配せし。
数秒の逡巡の後、キンタローは。
カメラのある位置から、目を逸らして………小さく息を吐く。
そもそも、浅からぬ因縁―――というより。
二十四年の長きに渡り、自分は彼の内に在り続けたのだから。
その居所も、気配も。
幾ら巧妙に隠されたところで、解ってしまう。
もちろん。この壁を隔てた先に、シンタローが隠れているコトなど。
この部屋に入る前から、ちゃんと解っていた。
そもそも。本人よりも、その気持を理解しているキンタローは。
よりによって、今日。『この日』を邪魔するつもりは、毛頭無かったのだ。
―――それでなくとも。ヒトの恋路を邪魔する者は、ウマに蹴られて、死ぬらしいし。
だが。もう一人の大切なイトコ、グンマの見解は、まるで違っていて。
「お父様とシンちゃんが結婚したら、シンちゃん、僕のお母様になるんだからッッ!! 僕はシンちゃんの特別なの~~~~~~ッッ!!!」
男にしては高いキィの声で、涙ぐむ姿は。
まるで………数年来の片恋の挙句。今日こそ告白する、と思い詰めた乙女のようだが………言っている意味を、理解しての発言なのだろうか。
「如何にマジック様とは言え、グンマ様を泣かせるのであれば。この高松、遠慮はしませんよ!!??」
言いながら、懐から。うじゅるうじゅるした、紫がかったナゾのナマモノを取り出す高松は。
自分同様、総てを解っているクセに―――どうやら、完全に悪ノリしているらしい。
敵に回したくない伯父と、最愛の分身を取るか。可愛い従兄弟と、自分たちの保護者を取るか。
『表』に出て。まだ、一年足らずの年月しか過ごしていない、キンタローが。
ちょっと、自分の手には余る、と思われる問題に………葛藤を抱いた瞬間。
「シンタローが、いたべッッ!!!」
―――中庭から、歓喜に近い絶叫が上がる。
「え、ウソ!! シンちゃん、ドコドコ!!??」
途端に、グンマは。日頃のおっとりのんびりぶりを、かなぐりすて。
殆ど瞬間移動のようなスピードで、窓辺に走り寄る。
高い塔から見下ろした、彼の視界を掠めて、消えた。
―――長い黒髪を、なびかせた。
真っ赤なジャケットとパンツの………後姿。
後姿だけでも。
見紛えようも無い。よく見慣れた、大好きな従兄弟の『シンちゃん』の姿。
大きな瞳を見張ったまま、見下ろすグンマの視界の中。
更に、後からどやどやと追いかける、伊達衆やら叔父やらの集団が通過していき。
――――このままでは。彼らに、シンタローを奪われてしまう。
「行くよ、高松、キンちゃんッッ!!」
「え!? ぐ、グンマ様!! お待ちください~~~~~~!!!」
キッと顔を上げたグンマは、窓辺から身を翻すと、一目散に駆け出し。
それに、慌てて高松も続く。
怒涛の勢いで、駆け去っていった二人を、見送っていると。
「アレ? キンちゃんは、『シンちゃん』を追いかけないのかい?」
ぬけぬけと言い放つ、マジックの表情は。
悪戯を成功させた、少年そのものだ。
総て、仕組んだ上で。
それでも。キンタローだけは、見抜いていると、解っているクセに。
「………伯父貴」
―――つくづく性格の悪い、問いかけに。
この男に、本気で執着されている、半身の不幸を想うと………もう。
絶望的な溜息しか、出ないのだけれど。
それでも一応、これだけは言っておこう、と。キンタローは重い口を開く。
「言うまでも、無いだろうが。茶番は、夜までにしてくれよ」
「解ってるって♪ 協力してくれるよね、キンちゃんも」
むしろ。あわよくば共犯者に仕立てよう、という意図を。
隠そうともしない、明るい即答に。
「………何のことだ? オレは、アイツらと『シンタロー』を、追うぞ」
―――努めて淡々と、言い置くと。
キンタローは。苦手な伯父に、背を向けた。
******************
壁向うの秘密の小部屋に戻った、マジックを迎えたのは。
「てめぇっ、いらないコトを、べらべら喋るんじゃねぇぇッッ!!!」
仁王立ちで。腕組みの上に、柳眉を吊り上げたシンタローの姿。
美人が本気で怒ると、大変に怖い――――しかし。
マジックは。にへらっ、と頬を緩めた。
「あ。良かった、やっとこっち向いてくれた」
―――機嫌、直ったんだねvv
その指摘に、シンタローは。
今朝方立てたばかりの―――今日一日、絶対にマジックとは、視線を合わせねぇッ!!―――という固い固い誓いを。
怒りのあまり、あっさりと破ってしまっている、ウカツな自分に気付く。
しまった、と思うが………こうなってしまえば、後悔など役に立たずで。
やたらに嬉しそうなアホ父親から、ほんのり頬を赤らめ、プイッと顔を反らす。
そんな、ささやかな抵抗こそが。
―――もう、可愛くて、可愛くて、可愛くてッッッ!!! と。
こっそり横を向き、鼻血を拭っている、マジックに。
「さっきの………ジャン、かよ?」
シンタローの唇から、洩れた呟きは。問いかけではなく、確認だ。
他のガンマ団員は、ともかく。
長い付き合いのグンマでさえ、騙されるのも………無理はない。
シンタローは。ジャンと寸分違わぬよう、青い秘石により、創り出された存在なのだから。
背格好や顔立ちはもとより。気配さえもが、まったくの彼の相似形。
故に、彼がその気で演じれば。
逃げていく後姿だけで、そうと見抜けるものは。殆ど皆無に、違いない。
―――さすがに。
かつてシンタローと『同じモノ』であったキンタローだけは、騙されなかったようだが。
………結局、オレは。何者なんだろうな。
埒も無いことを、ふ、と思い――――慌てて、その思考を打ち消して。
「サービス叔父さんに、叱られるぞ?」
とにかく、遅れた仕事を取り戻そうと。再度デスクに向き直ろうとした、が。
「ところで、シンちゃん。パパ、自惚れていい? ………今、ここにいてくれるってコトは」
突如、話題を変えたマジックの。次の台詞は、容易に想像できて。
「パパとの時間を、選んでく………」
「んなわけ、ねェだろッ!! オレが今日、ドコに隠れた所で。てめぇだけは、地の果てまで追って来るだろーがッッ!!!」
シンタローは、最後まで言わせる事無く。鼻息荒く、マジックに詰め寄る。
かつて。地図に無い絶海の孤島、パプワ島にまで。
自分を求めて、現れたように。
この父親の、自分に対する執着は、ハンパではないと。骨の髄まで身に染みている。
どうせ、見つかって邪魔をされるのなら。逃げ回る時間がムダだ、という合理的な(或いは、後ろ向きな)思考で。
―――だから、仕方なく。
これ以上、仕事を邪魔されたくないから、ココでやってんだよッッ!!!
まったくもって。迷惑極まりない、アーパーオヤジめ!!! と。
シンタローは、力一杯の主張をしてやった、というのに…………。
「もちろん。パパ、その自信があるよーvv」
………誉めてねぇっつーの………って、ああもう。
トロケそうな表情で表情で、コクコク頷いてんじゃねぇッッ!!!
「だぁぁ、もう!! 無駄口叩いてないで、サクサク手伝えッッ!!!」
―――大体。テメーの陰謀で、遅れた書類なんだヨッッ!!!
先月の今頃は、まだ普通に遠征の真最中だった。
何だか、スケジュールが操作されている? と気付いたのが、一週間前………だが。
気付いた時には、総てが遅かった。
その時には、シンタローの予定は。
5月の半ばから、終盤近くまで。本部での決裁事項の処理が、きっちり詰められていて。
挙句、尊敬する叔父のサービスに。
『兄さんに、幹事を任命されてね。盛大なパーティを用意して、待っているから』
などと宣言されては、どうしてシンタローに否やを言えよう?
―――チクショウ。謀りやがって。
もちろん、コレは。単なるマジックのワガママだけではなく。
ただでさえ、実の息子ではない上に。
まだまだ経験浅い自分の、地盤固めだ、という事は解っている。
こういった。他の組織の人間等も招き、権勢を誇示するコトも。
戦略的に、非常に重要な手段である、と。
けれど。ココまで、お膳立てしてもらえなければ。
解っていて………どうしても現場を、離れられなかった。
部下の命を、預かっている間だけは。
確かに自分が、ガンマ団総帥、シンタローだという自信を持てたから。
自分が何者なのか、など。
考える暇も、無かったから。
その。複雑なシンタローの胸の内を、知ってか知らずか。
「それでね、シンちゃん。プレゼントなんだけど………」
――――だぁぁ、シッツコイっつー…………あ。
その瞬間。大事な事を思い出した、シンタローは。
再び、般若のような形相となり、マジックに詰め寄る。
「そうだ、テメェ!! アレ消せ、消しやがれッッ!!!」
『アレ』とは。
かつて、アーパー父親の誕生日に、強奪された挙句。
着歌に登録され、団内中のサラシモノにされた、シンタローによる誕生歌のコトである。(*注「Happy birthday,dear papa」(参照))
「え? 着歌は、止めたよ」
突然の息子の剣幕に、戸惑ったように、瞬きを繰り返しているが。
シンタローが、これまで彼と過ごした(振り回され続けた)、25年の年月は伊達ではない。
『着歌は』ということは、他のナニかには使っている、というコトだ。
「今度は、何に使ってやがる、あぁん!?」
「あああ、ホラホラ、シンちゃん? 書類終らせないと~~~♪」
ドスを効かせた、シンタローの脅しに。
マジックは、不自然な感じで、話題を反らそうとするが。
「誤魔化すんじゃねぇ、言えッッ!!!」
―――そんな単純な誤魔化しに、引っかかるハズがなかろう。ってーか、バカにしとんのか、このアホ親父わッッ!!!
しかし。場所が場所なだけに、眼魔砲はカマせない。
こんな狭い完全密室で、そんなモノを撃ってしまえば。
自分も真っ黒コゲになることが解らないほど、アホではない。
仕方なく、更に視線に圧力を込め、睨み据えていると。
「………あのね。目覚まし専用」
観念した様子で、あっさり白状する。
「目覚ましィ?」
思っても見なかった答えに。シンタローが、虚を付かれた表情でいると。
「だからね。携帯で使ってたら、シンちゃんが怒ったから。今は、目覚まし代わりにしてるんだ………今は部屋のベッドの脇に、置いてるんだけど」
一度、言葉を切ると、マジックは。意味深に、首を傾げてみせる。
「どうしても、消して欲しいなら。今からベッドまで、取りに来るかい?」
「誰が行くかッ!!!」
コンマ0.2秒を切る、シンタローの即答に。
「そう? パパなら24時間、365日体勢で、ウェルカム♪♪ なのに」
マジックは残念そうに、肩を落とす………それは、間違いなく本音であるが故に。
ノコノコ取りに行ったりすれば、その後の展開は、火を見るより明らかで。
これ以上、この件について追及する事は………自らの首を締めるだけだ。
そう悟った………というより、悟らざるを得なかった、シンタローは。
「~~~~~~~ッッッ!!! 口はいいから、手を動かしやがれッッ!!!」
―――チックショウ、謀りやがって、謀りやがって、謀りやがってッッッ!!!!
キリキリ、眉と瞳を吊り上げたまま、今度こそ猛然と書類の山に立ち向かう。
そんなシンタローに。
マジックも、軽く肩を竦め………昔取った杵柄である、書類業務の手伝いを始めた。
2人きりの、秘密の小部屋に。
しばらくの間。ペンの走る音と、紙ズレの音だけが響き……………………………。
………………………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………………………。
………………………………………不意に。マジックが、呟いた。
「そうそう、シンちゃん? 手を動かしてたら、口も動かしていいんだよね?」
「ンだよ」
どうせ、また、ロクでもないことをぬかすつもりだろう、と。
身構えたまま、横目で睨みつけると。
「公式のプレゼントは、パーティの時に渡すけど………もう一つ、ね」
トントン、と、シンタローの決裁済みの書類を、揃えつつ。
ニッコリ、と笑い…………おもむろに、口を開いた。
―――Happy birthday,to you――――
…………やけに、シツコイと思ったら。どーしてもコレが、やりたかったワケね。
シンタローは半ば呆れて、肩を落とす。
「………うっせーぞ」
それでも、止めろ、とは言わない。
父親の声は………声だけなら、割と好きなのだ。
―――Happy birthday,to you―――
彼の唇から、紡がれる。
耳に心地よい、うっとりするような、テノール。
「………オンチ」
―――Happy birthday,my dearest son.happy birthday,to you…………。
最後のフレーズが終わると。
シンタローの手は思わず止まり………整った彼の横顔を、マジマジと凝視していた。
その視線に、気付いているのか、いないのか。
マジックは、何食わぬ顔で。決裁済みの書類を纏める作業を、続けている。
さすがに、慣れたもので。その動きは、一連の流れのように、正確で、無駄がない。
―――この調子ならば。期限内に、事務処理を終わらせる事が、可能かも知れない。
今は、滅多に見られ無いその姿に。シンタローはしばし、視線を捕われ。
………ふ、と。
零れるような、吐息と共に―――その肩から、力が抜ける。
「サンキュ………」
小さな、感謝の囁きが。
秘密の小部屋を、甘やかに満たした。
○●○コメント○●○ 携帯繋がりで、ネッッvv って、いつから続き物に???
すみません。珍しく、マジシンがネタ切れ起こしたので。
遅れた挙句、無理矢理捻り出しました。うっわぁ、纏まりナーイ(-_-;)
…………お、オメデトウの気持ちだけです。
それしか、持ってないんです~~~~~(泣逃)
PR