「ミヤギ…」
「何だべ?」
「お前の髪ってさぁ…キレイだよナ」
今日。久々にあの島でのメンバーが揃ったという事で、最上階にある総帥 ──── シンタローの私室で呑む事になった。
夜中になり、数時間も酒をかっ食らって、シンタローと自分以外、3人ともダウンしてしまった。
そこらに寝転がり、イビキをかいている。
そのままチビチビと大した会話もなく呑んでいると、唐突にシンタローがそんなコトを言った。
「はァ?ボケただか、シンタロー」
…思わずこう言ってしまっても自分に罪は無いだろう。
「ンだよ…失礼な奴だナ。キレーなもんキレイっつって何が悪い」
「…男に言われても嬉しくない台詞だべ…」
「そりゃあそうか」
憮然とした表情で返せば、そう言ってケラケラと笑う。
……酔っているのだろうか。
「んでも…やっぱ、キレーだ」
やはり酔っている。ソファの背にズルズルともたれ、ぼんやりとやや舌っ足らずな様子で言葉を紡ぐ。
もう寝かせた方が良いだろうと、腰を上げシンタローへと近づく。
我らが総帥に風邪を引かせては色々と後がコワい。
「シンタロ」
「きんいろでさ」
「ヒカリがあたるときらきらして」
「…シンタロー?」
どうも様子がおかしい。
今まで溜まっていたモノが酔っぱらって枷が外れたのだろうか。
「何で…俺だけ黒いんだろーなァ…」
「……」
「とーさんも、こたろーも。…オジさんたちもみーんな綺麗なきんいろなのに…」
──── ああ、この男は。
いつも強い強いと思っていたこの男は、やはり誰よりもずっと強く、そして誰よりもずっと弱い。
「シンタロー。もう寝るべさ」
放っておくと、どんどん深みに入りそうだ。
早く寝かせた方がいいだろう。
「何で…ッ」
シンタローが顔を此方に向けた。
「─── ッ」
「やっぱり、」
「影だから、かな…?」
此方を向いたシンタローの顔は泣いていた。思わず慌てて、シンタローの隣に陣取っていたアラシヤマをソファから蹴落としてしまったが、
だいぶん呑んでいたし、今も目を覚ました様子はないので大丈夫だろう。
とりあえずアラシヤマがいた場所に─── シンタローの隣に腰を下ろす。
が、何をしたら良いのかわからない。
どうしようかと心の中で葛藤していると、シンタローがまた喋り始めた。
「しかも、影の、また更に影だぜ?真っ黒クロー…ってしょうがねェか」
涙をボロボロ流しながら笑いながら喋るシンタローに思わず声が出た。
「オラは、」
「あー?」
どうしよう。というか、何故こんな事になったのか ───…
「オラは、オメェの髪の綺麗だと思っとるべ」
嘘ではない。何も手入れをしていないと言うのがウソの様にシンタローの髪はキレイだと思う。
「きっと、トットリもコージもアラシヤマも、…おめェの家族だって、皆そう思っとるべ」
「…そ、か?」
「そうだべ」
ひとまず泣き笑い(結構コワイ)を止めてくれたシンタローに、自信満々に言い切る。
「それに、オラ達は影だの何だのなんて、関係ねーべ。少なくともオラ達4人はマジック様の息子だからとかでなく、おめだからこそ、付いていっとるんだべ」
「…ん」
「それとも、オラ達じゃ不満だべか?」
「…いや。……あんがとな。」
そう言って何の悪意もなく、キレーに微笑んだ。
…アラシヤマがバーニングなんたらだとか、騒ぐ気持ちが少し、分かった気がする。
綺麗に男も女もない。男でもキレイなモンは綺麗なんだからしょーがない。
男に(しかも上司)に心臓の鼓動が速くなってしまったのに少しショックを受けつつも、それもしょうがない、と思ってしまう。
別に男が好きな訳ではなく、シンタローだったからなワケで。
と、肩が急に重くなった。ちらりと見やるとシンタローが自分の肩を枕代わりに眠っていた。
「…もしかして、完全に酔っぱらってただべか…」
間近にあるシンタローの顔に、またもや速くなってきた己の心臓を自覚しつつ、シンタローの顔にかかっていた髪の毛を自由な方の手で起こさぬように掻き分ける。
その髪の毛は、やはりさわり心地も良く。
「…オラは、好きだべ」
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