ひとつ
窓を水滴が叩く音がする。
「シンタロー」
それを何処か遠くで聞きながら、キンタローは、叔父達のように双子ではないけれど、それでも今もっ
て誰より近くに存在していると叫ぶ事の出来る片割れを呼ぶ。
「ん?どした、キンタロー」
そしてシンタローと呼ばれた長い黒髪黒眼の青年は、膝に乗せ読んでいた雑誌から目を離した。
金髪碧眼と、外見はまるで真逆のキンタローのその目を覗くために。
自分がソファに座りシンタローが足元のフローリングに直接腰を下ろしている事から、キンタローは自
然シンタローを見下ろす事になる。
オニキスを見ながら、キンタローは以前から何度か思っていた事をまた繰り返し思う。
これから先何度でも思うだろう。
真っ直ぐに相手の目を見つめ、誤魔化しや嘘を突き倒そうとするそれは好ましい、と。
「雨が降り始めたな」
「ああ、まあ天気予報でも100パーセントだったからな。これで少しは外の温度も下がるんじゃね?」
天気予報を信じて洗濯を温室に干して良かったな、と続ける辺りガンマ団総帥の言葉とは思えないが、
同意するキンタローもその補佐とは思い難かった。
その事実を幸か不幸なのか、団内に気にする者は皆無で。本人達もそれが問題だと思った事は無い。
パタリと広げていた雑誌をシンタローが閉じるのと、キンタローがソファから下りシンタローの向かい
に座り込むのはほぼ同時だった。
その距離は、他者から見ればあまりに近過ぎて、彼等には少しもどかしくて。
「ん。」
「ああ」
両者の、剥き出しの腕と上腕部の半分が布に包まれた腕が計四本伸ばされた。
緊張の欠片も見出せない、互いの静かな息遣いが聴こえる。
真夏に暑苦しいだろう体温は、この空調の利いた室内では感じる煩わしさなど何処にも無い。
「親父達、何時頃帰ってくるんだったっけか」
「五時前後には帰宅すると言っていたな。濡れていないだろうか」
「グンマに折り畳み傘持たせたから大丈夫だろ」
「そうか」
ぷつり、と会話が途絶え、彼等は互いに己とは違う色の髪に頬を寄せ合った。
伸ばした腕は、隙間を埋めるように背に回っている。
密着した胸から響く鼓動は、跳ねる高さに刻むリズムにも寸分の狂いは無かった。
時々、特に雨に関わらず水の音がするとこうしたくなる。
先述のように双子ではないから羊水で共に母に育まれた訳ではないのだし、母体で原初に一つの卵だっ
た訳でもないからその頃の無意識の記憶の安らぎを求めている訳でもなかった。
それでも、こうしていると安らぎは確かに其処に在るのだ。
狂おしく体を求め合うよりも、時に優しかった。
確かにシンタローは『キンタロー』の表に居て、本来居る筈のキンタローは『シンタロー』の心の意識
されない淵に居た。
『一つ』に限り無く近かったが、別の存在だった。
しかし、一番近くに『在った』。
互いが向き合う瞬間まで、シンタローは本人が知らなくともキンタローという存在を包んでいたし、
キンタローはシンタローの心の中で世界を見て他者に叶う事の無いシンタローの心をダイレクトに感じ
ていた。
『一つ』ではなかった。
でも一番近かった。
『一つ』ではなかったが、いつだって『独り』じゃなかった。
その行為は、互いが離れても『独り』ではないと確認するためなのかと、
二人は思い水音の気配に実行する。
夏がかなり関係ないです。
そして片桐は裏書けません。多分。いや、挑戦した事ないですけど・・・・・。無理。
シンタロさんとお気遣いの紳士は、よくよく思えば元から『一つ』ではなかったんですよね。
一つの体に同居していただけで(片方無自覚)、根源は同じものじゃなくて別個の存在だった。
それでも生まれた瞬間から共に存在し続けたのは、不思議な関係だと思うのです。
この文章は05/8/19~05/9/19までお持ち帰り自由でした。
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