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こうやって、戯れに髪に触れるたび。

「仕事の邪魔だから触んなよ」

指に絡めた真っ黒なそれが、指を離れていくのを目にするたび。

「だって話しかけても相手してくんねーじゃん?」

ひどく、悲しくなる。

「だから仕事中だって言ってんだろ」

どうしてあのとき、

「仕事中だからこうしておとなしくしてるんじゃん」

どうしてあの場所で、

「……もういい。勝手にしろ」

この男と俺は、

「おう、勝手にする~」

 1つに、なれなかったんだろうかと。










溶け合ってしまえたらいいのに









毛足が長すぎてちゃんと座れているか不安になるような絨毯の上で、男の座る椅子に寄りかかる。

そして上から降ってくる髪を、またくるくると指に絡めた。

部屋に反響しているのは、男がペンを走らせる音と、2人分の息遣いだけ。

2人っきり。

この多くの人間に好かれてしまっている男を、確かに独占しているといえる状況なのに、心は、それに

満足してくれない。

構ってもらえないとか、こっちを向いてほしいとか、そういう理由からではない、それ。
 
理由なんてわかっていて、だから、指に絡まった男の髪を見つめながら、脳はまた同じ過去の再生を始

める。

『シンタロー、俺の中に来い!』

あのときはただ、使命に急かされていただけだった。赤の番人としての役目を果たすため、ただそれだ

けのためにあの男と1つになろうとした。

1つの器の中で2つの魂を重ねあって、混ぜあって、肉体を通しての感覚、剥き出しの魂を通しての記

憶、知識の共有を進めて、果たさねばならないことのために、1つに、と。溶け合ってしまえ、と。

結局それは後でわかった赤と青の反発とか、あのとき自己の放棄を拒んだお前の精神とか、そういうの

に邪魔されて叶わなかったんだけど。

でも、あのときはそれでよかった。混じりあえなかったことを、よかったと思えた。

だってそのおかげで俺はサービスと、ついでに高松ともまた共に過ごす時間を得られた。

失った分の時間を埋め合わせるように、そばに寄り添うことが許された。

そして、面と向かって向き合うことで、シンタローに惹かれることだってできてしまった。

嬉しくて、幸せで、喜んだ。満たされていて、悲しいことなんて何もなかった。

でも今はそのことに、混じりあえなかったことに物足りなさを感じている。

シンタローのことを好きになれたのは嬉しい。それが2つに別れていたが故にできたことだというのも

確かにわかっている。

けれど、好きになれば好きになるほど寂しい。いつか、こうして寄り添い合うこともできなくなったら

と考えてしまって。

これまで生きてきた長い長い人生。その中でも別れはたくさんあった。

親しくしていた者たちは、皆自分より早く死んでいった。

青の一族が島を出ると、唯一同等の時間を生きていた、アスまでもが遠ざかった。

別れは死別であれ離別であれ関係なく、必然として目の前に存在していて、避けることなどできなかっ

た。

だから、怖い。

また、今度はシンタローを失ってしまうのではないかと思えて仕方ない。

元々俺の身体だったシンタローの今の肉体は不老ではあっても不死ではない。

秘石がそばにあればいくら傷つこうが修復してもらえるが、聖地に旅立ってしまった秘石は遠く、復活

も必ずではありえない。

それに別れは死別だけではない。

シンタローが俺を嫌いになる、俺の存在を厭うようになる。その可能性がないと、誰が保証できる?

指に絡んでいた髪がするすると解けていく。まるでそれが未来の暗示であるかのように。

悔しくてさっきより強くその髪を引けば、背後から「痛ぇっ!」という声と苦情が届く。

「あ、悪ぃ悪ぃ」

何を考えていたかなんか読ませないように明るく返事をすれば、「今度は気をつけろよ」と振り返った

シンタローが言った。

やめろ、と言われないのが嬉しくてにこにこと笑っていれば、「アホ面」と罵られる。

でもそれで構わない。相手がシンタローであれば別にいい。

「ちなみにお前も笑えばこの顔だぞ?」

今度はにやりと口端を歪めて見せれば、「知ってるからやめろって言ってんだよ」と上から頭を小突か

れた。少し痛い。

仕事に戻るシンタローを見届けてから、やんわりと掴んだ髪を指に巻きつけてキスをしてみる。

顔が見えないのが惜しい。見えたら絶対にあの顔は真っ赤に染まるから。

『1つになってしまったら、もう2度とシンタローと直接触れ合うことはできないんだぞ?』
 
たった1人、俺の願望を知る男の声が耳に甦ってくる。

1つの身体に2つの魂が共存するという経験を、24年もの間強要されていた男の言葉が。

『俺がシンタローの中に閉じ込められていた状況と、お前とシンタローが1つになる状況とではタイプ

が異なるのだろうが、結論は一緒だ。

1つである限り、触れ合うことは決してできない』

また1つになりたいと、シンタローの中に戻りたいと思うことはないのかと、尋ねたときに返された言

葉だ。

1人の人間として生きる中で受け入れていかねばならないしがらみとか、不意に訪れる苦境とかにぶつ

かったとき、

男は確かにシンタローの中に帰りたいと思うと言い、その後に付け足された言葉。

『あの場所は俺にとって母の胎内のような所だった。自由はないが安全で、確かに守られていると感じ

られる場所だ。

戻りたいと思わないと言えば嘘になる』

だが、と男は言った。

それでも戻りたくはないのだ、と返した。

『あそこにいる限り俺はシンタローに触れることはできない。何もしてやれないし声すらも届かない。

そんな状況はごめんだ。それを幸せだとは、俺には思えない』

男の意見に対する反論などは特になかった。

正論と呼べるものだと確かに感じたし、納得もした。

そのうえで、それでもなお、俺は望んだのだ。

『それでも俺は、シンタローと1つになりたいな』

離別からの永遠の解放。

それが得られるのなら、触れ合えないことなど耐えられる。思いが届かなくても構わない。

そう言ったら、あの男は苦笑した。苦く苦く、だがそれ以上何も言う気はないという顔で。

『そうか』

と一言だけ返事をくれた。

『そうだよ』

とにっこり笑って見せたら、男の顔の苦味が増して、


『可哀想だな』


と呟かれた。

多分相手が他の人間なら、そんな愚かな願望に固執することを馬鹿にされたんだと捉えたと思う。

でも、相手は他の誰でもないあの男で、だから本当の意味を確かに理解して、返した。


『そうだろうな』


好きな相手と1つになるなんてことは、本来なら絶対に叶わない願い。

だから人間は手を繋いだりキスをしたり、もっとそれ以上のことをして相手に近づこうとする。

たいていはそれ以上が不可能だと知っているから、そこでちゃんと満たされて終わるんだけど、俺は違

う。

1つになれることを知ってしまって、しかもそれに失敗してしまった。

だからこんなにも求めてしまう。また1つになりたいと望んでしまう。

不可能ではなく可能だと、知ってしまっているが故に貪欲になってしまう。

可哀想。確かにそうなんだ。

「なあなあ、シンタロー」

くいくいと、痛くはない程度で髪を引く。

「あんだよ」

仕事中だと言いながらもちゃんとシンタローは振り返ってくれるから、笑う。

「好きだぜ。お前のこと」

突拍子もなくありのままの言葉を告げる。

シンタローはやっぱり驚いたけど、次の瞬間にはすぐ背中を向けてしまった。

「勝手に言ってろ」

声はひどく素っ気ない。でも戻り際に見えた頬は赤かった。

髪が、またサラサラと降り注いできた。

『知ってる』

そう言っているみたいに、俺の肩に滑り落ちる。


今の関係に、不満があるわけではない。

この状況で、幸せになれないわけじゃない。


ただ、足りないから。

満たされきることができないから、だから、また髪に触れる。

髪に触れて、馬鹿みたいな願いを胸に抱えて、期待してる。


ああ、このまま1つに溶け合ってしまえたらいいのに。










































『空知らぬ雨』の管理人、椿さんから相互記念で頂きましたー!

うわわわわ、有難う御座いますホントに!ジャンとシンタローなんてドマイナーなもの頼んだのにこの様な素晴らしい作品を・・・!

ジャンが哀れで寂しくてすごく愛しいです。

『大切』を喪う痛みを知っているから、どんな別れも訪れさせないようにと一つになりたいジャン。

外的に触れ合う事が出来なくても、離れるよりはずっと良い。

そんな風に思うジャンが切なくて、でも何処か必死な子供のようで。

満たされなくとも、せめて互いが一番近くに居れる事を願います。


ジャンとキンタローって、ある意味で対極ですね。

一つになって絶対な安心感を得たいジャンと、別たれる事によってそれを失った代わりに、触れる事が出来る両腕を得たキンタロー。

キンタローは最初に一つだったから別で在る事の幸福を知っている。

もしも後にジャンがシンタローと一つになれたとしても、いつか充足感が枯れてしまうのではないかと思います。

一つであるから別れは来ないけれど、二つであるから感情は喚起されるのですから。




何やら訳分からない事ぬかしてすいません。(汗)

椿さん、どうも有難う御座いました!





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