「うあーっ!あっちいんだよチクショウ!!」
蝉の求愛の声
風鈴が風と交わる音
日差しを受けて輝く草木と清流
夏の風物詩。
そして夏と云えば当たり前の様に付属してくる、熔けるようなこの暑さ。
ある時ある季節ある場所で。
この時間帯、丁度日陰になっている縁側で。
俺、シンタローは柱に凭れながらダレていた。
親父とグンマに半ば無理矢理に着せられた浴衣は涼しい。
前をかなり寛げているから尚更に。
が、それは普段の服から考えるとであって。
暑いもんはやっぱり暑い。
ので、さっきから必死に団扇で煽ぎまくっている。
一雨くれば、もう涼しくなるんだがなあ・・・・。
「シンタロー様」
「っ、・・・・・マーカーか」
足音一つ立てずに現れたのは、俺の直属である変態の師。
そして獅子舞な方の伯父の部下だった。
一応俺の部下でもあるが、マーカーの所属する特戦部隊は独立した特殊な位置にあるので、絶対的な決
定権は無い。
「お前、こんな処でも気配消して歩くなよ」
「すみませんね、職業病の一種とでも思って下さい。
・・・大分、暑さにやられているようですね?」
「ああ・・・・最近、クーラーの効いてる部屋に篭りっぱなしだったからな。
すっかり耐性が無くなってやがる。他の奴等は?」
「酒盛の真っ最中ですよ。絡み酒が多いので早々に逃げて来てしまいましたよ」
・・・・こーんな真昼間から、ナニやってんだよあのオッサン等は。
伊達衆の面々も混ざっているだろう事を考えると、何とも云えない気持ちになる。
考えている事が顔に出ていたのか、隣に立っているマーカーが笑っている声が聞こえた。
「・・・・なんだよ」
「いえいえ、お気に為さらず。
それより珍しいですね、御髪を紐で括られているとは」
「んぁ?」
首の後ろで結んでいる髪に触れられるのを感じた。
その時に、マーカーのこんな気温の中でも冷たい指先が首の付け根辺りに当たって気持ちが良い。
「それな、アラシヤマが持ってきた水羊羹の箱に付いてた紐」
「・・・・他に無かったのですか?」
「探せば有ったんだろうけどよ、暑くて仕方なかったんだよ。それに良い色だろ?」
「まあ、確かにそうですが。しかし総帥ともあろう御方が菓子折の飾り紐で・・・・。
身に着ける物は、斯様な場でも選ばれませんと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良いじゃねえかよ別に」
小舅な言葉に謀らずとも拗ねた響きを持つ声が出た。
ふう、と諦めた様な困った様な溜息が背後から聞こえるのと同時に、髪が首に纏わりつく。
「・・・何、すんだよ。暑ぃ」
体を捻って振り返ると、案の定マーカーが紐を持って笑っている。
「もっと高い位置で纏められた方が涼しいでしょうに。
御髪に触れる許可を下されば、御括り致しますよ」
今度は俺が溜息を吐く番らしい。
体を前に戻して、垂れてきていた髪を雑に後ろに流しながら、言う。
「面倒くせぇ言い回しすんなよな。
・・・・暑ぃから、さっさとやっちまってくれよ」
「ええ、喜んで」
張り付いていた髪が、またゆっくりと離れていく。
触れるマーカーの指はさっきよりも少しだけ湿っていて、こんなトコロでも夏を感じた。
「なあ」
「はい?」
「後で、残りの水羊羹二人で食っちまおうぜ」
「・・・ええ、喜んで御一緒しますよ」
2004年暑中見舞いフリーテキストでした。
配布は終了しましたが、もし持ち帰りたいと仰ってくださる方がいたら
管理人までご一報お願いします。
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