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ウェディング・ウォーズ!!(前)




 小さい頃―――特に、オンナのコなら。
 大概、一度は。親に訴えたコトが、無いだろうか?

 ”どうして○○○って名前をつけたの? もっと、×××のが良かったのに” 

 ○○○には、自分の名前。
 ×××には”可愛い”でも”キレイ”でも、何でもスキな表現を入れて欲しい。

 ………そして”彼女”。
 ガンマ学院理事長マジックが、異様に溺愛する一人娘の場合は―――こうだった。

「何だって、シンタローなんて名前、つけやがったッッ!! もっと女らしい名前、思いつかなかったンかよッッ!!!」

「えー。だってパパ、あんまり日本人の名前に、詳しくなかったし。最初の子供には”タロー”って付けるといいって、聞いた事あったからぁ………」

「そりゃ、オトコの話だろ~~~~~がッッ!!!」

 ………そう。この、非常識オヤジ。
 可愛い可愛い、最初の娘に―――よりにもよって”シンタロー”なんて名を、つけやがったんだっっ。

 大体、母親も母親である。

 何だって、反対してくれなかったんだ、と。
 幼き日のシンタローは、もちろん詰め寄ってみたモノだが。

 ――― 一体、ドコが良かったのか。
 このヤッカイ極まりない親父に、ベタぼれだった彼女は。

 『パパの付けてくれた名前に、文句なんてあるハズないじゃないー?』とか。

 おっとりのんびり、100%ノロケで構成された、切り返しに。
 思わず、それ以上の文句を言う気力の失せた、彼女だった。

 ………何故なら。そういう場合に、必要以上に食い下がった場合。
 その後、たっぷり三時間は。出会いから、現在の暮らしに至るまで。
 
 200%、天然ノロケで構成された『パパとママの恋物語』を、延々聞かされるハ
メに陥るので。

 ―――そんな、お茶目な母親も。
 数年前、病がモトであっけなく天に召され。

 現在、思春期真っ盛りの、シンタローは。
 言動と行動に、とかく問題の多いコノ父親と、二人暮らしなのだが。

「ところで、シンちゃん? 何だって今更また、そんな事言い出したんだい?」

「………うっせぇ。一生っ、何百回だって言ってやるッッ!!!」

 ずずずず~~~~~~っ、と。
 音を立てて、味噌汁をすすりつつ。彼女は憮然と、宣告して。

 ―――シンちゃんって、見た目は、とびっきりの美少女なのにねぇ?
 ―――まぁ、その性格では。大概のオトコがヒクのも、無理も無いだろうな。

 同い年の従兄弟どもの、昨日の言葉を思い出すと。
 改めて、ムカッ腹が立ってくる。

 『オレの性格が歪んだのは、こんな名前つけやがった、オヤジの責任だッッ!!!』との、シンタローの反論には。

 『持って生まれたもん(でしょ)(だろ)』と。
 ご丁寧にも、声を揃えて、言い切って下さり。

 ―――最後の、マトモな頼みの綱を。
 自分で切っちまった、と。彼女が気づいた時には、もう遅く。

 思わず。力一杯、タメ無し眼魔砲を喰らわせてしまった後で。
 命にこそ、別状は無かったが。二人とも、全治一ヶ月+αの大怪我。
 
 ―――包帯グルグル巻きの……なんて。絵になるわきゃ、ねーし。
 ちっくしょ、結局。あんなヤツとスル羽目に、なっちまったじゃねーか………うぜぇナ。

「ごっそさん………んじゃ、行ってくる」

 ザザッとすすいだ食器を、洗浄器に突っ込んで。
 床に転がしてた、学生鞄を取り上げると。

 シンタローは背中越し、父親に手を振って。
 そのまま、玄関に向かおうとしたのだが。

「待ちなさい、シンタロー」

「………んぁ? ぁんだヨ」

 イキナリ、そう呼び止められ。
 目一杯不審そうに、面倒臭そうに、顔だけ振り向いた。

 ―――コイツがオレを『ちゃん』外して、呼ぶ時にゃ。
 後に続く台詞は、どうせロクなもんじゃねぇんだよナ。
 
「パパに何か、隠し事をしていないかい?」

「あぁ、してるぜ?」

 ―――キッパリ、と。
 何だ、そんなコトかヨ、と言わんばかりの態度で、言い切ってやると。

「………酷いっ、酷いよッ、シンタローッッ!!!! 母さんが死んだ時『二人で手を取り合って生きていこう』って誓ったのにッ、パパに隠し事をするなんて~~~~~~ッッ!!!!」

 よよよよッ!!! と。エプロンの裾を噛み締め、泣き喚く父親(四十代)の姿は。

 ………血の繋がりを、全面否定してやりたくなる程、見苦しい。

「うっせーなッッ!! 十七にもなった娘が、父親に隠し事ぐらい。フツーするに、決まってんだろーがッッ!!!」
 ―――つーかそもそも、どこのどいつが『手を取り合って生きていこう』なんて、誓ったんだヨッッ!!??

 勝手な作り話に憤る、彼女の前で。更にマジックは言い募る。
 
「だってっ、シンちゃん今までパパに隠し事なんか、しなかったじゃないかッッ!!!」

「してたに決まってるだろーがッッ!!! 隠し事だらけだヨッ、アンタとオレの関係なんか………って、ぅああああッッ!?」

 アホな事ばっか言ってんじゃねぇ!! と。
 ついには体ごと振り向き、怒鳴った、シンタローの視界に。
 マジックの背後に設えられた、掛け時計が飛び込んできて。

 あと数分で8時となる、その表示に。思わず彼女は、息を飲む。

 ―――そうだった!! オヤジと、悠長に早朝漫才カマしてる場合じゃ、ねぇッ!!

 今日は、彼女の所属している生徒会の、恒例早朝ミーティングの日だ。

 ………かったりぃ、と思うけれど。
 会長であるシンタロー自らが、遅刻して行くわけにもいかない。

「ヤッベェ、もう行くぜッッ!!」
「あっ、待ちなさいッッ!! ちょっと、シンちゃん、まだ話は………ッッ!!!」

 マジックの制止の声を、あっさり無視し。
 焦りまくった彼女は、くるりと身を翻すと。

「オヤジも遅刻すんじゃねーぞっ、んじゃーなッッ!!!」
「待ちな………ちょっと、シンちゃ――――んッッ!!!」

 まだ、何ごとか叫んでいる、彼を置き去りに。
 シンタローは、自宅から徒歩十分の学校へと。
 プリーツスカートの裾を乱し、猛ダッシュをかける。

 才色兼備、文武両道の誉れも高い。マジックの自慢の、愛娘の姿は。
 あっという間に、見えなくなり。

 しなやかで眩しい、その後姿を
 ただ呆然と、見送ることしかできなかった、マジックの胸の内に。

 モヤモヤとした不安が、頭をもたげてくる。

 ―――だぁから、よぉ? アニキ。干渉し過ぎだって言ってるだろ?

 くつくつ、と。
 マジックの、頭の片隅で。問題児の弟が、唇を歪めて嘲笑う。

 ―――シンタローは、アンタから逃げちまうかもナ?

 数日前の会話を、リフレインさせながら。
 ギリギリと、無意識に。唇を、噛み締めていた。




******************




 生徒会執行部の、恒例ミーティングは。
 毎週金曜の朝、八時からHRまでの三十分間。
 何故、こんな中途半端な”早朝ミーティング”などというモノがあるのか、というと。

 シンタローが会長を務める、ガンマ学院高等部、生徒会会則には。
 『週に一度は、執行部の全員が一同に介し、より良い活動の為に協議を行う事』という。
 代々絶対厳守とされてきた、創立以来の、決まりがあって。
 
 そして、執行部のメンバーの内。
 シンタローとアラシヤマ以外の全員が、何らかの部活動に所属している現状で。
 「放課後の定例会は、勘弁して欲しい」という、要請を受け。
 早朝ミーティングが、恒例と相成った次第だ。

 とは言っても、十二月に入った、現在。
 差し迫った決議事項も無ければ、生徒会主催の、学校行事の予定も無い。

 イベントは、あるにはあるのだが。
 『クリスマスと忘年会、併せて”クリボー”』という、終業式の後に開催される、任意参加のお気楽イベントは。

 伝統的に、派手好きでお祭り好きで恥知らずな、我が学院の理事長と校長が結託し。
 その全面バックアップの下、各教師に任命された、特別委員会主催となる為。
 生徒会執行部は、基本的にノータッチとなる。
 
 故にこの時期、定例会以外の仕事が無い。
 つまり、一言で言うと。珍しくも生徒会が、ヒマな季節なのである。

 ―――っつってもヨ。煩雑期にゃ、イヤでも毎日顔を合わせてるっつーのに、ったく。

 メンド臭くて、ショーがねぇ、と。その美麗な顔中に、力一杯殴り書きしているが。

 だからと言って、唯一の決裁権を持つ彼女が、サボってしまえば。
 そもそもこのミーティング自体、意味が無くなる、というコトを忘れられるほど。
 無責任にもなれない、シンタローである。(ちなみに。”父親譲りだ”と事実を指摘されると、激怒する)

 『生徒会執行部』と記された。木製の簡素な看板の掛かる、その扉を開けると。
 何やら”ジメッ”とした空気が、流れ出してきたが。

 しかしもう、哀しいコトに。シンタローは、すっかり慣れたもので。
 
「おぅ、アラシヤマ。おはよーさん………アレ? オメーだけかよ」

 あっさりと。その”ジメッ”の発生源である、相手に声を掛け。
 定刻ジャストに、席についているのが彼だけだったコトに。

 ―――焦って損した、とか。かなりガッカリしてしまう。

 書記のミヤギとトットリは、いつもワンセットだから。
 一方が遅れるなら、間違い無く、もう一方も遅れる。

 会計のコージは、そもそも『誰がコイツを、会計にした!?』と思うほど。
 おおらかかつ、大雑把な人間の為。
 予定時刻など、破られる為に存在する、と思っているようだし。
 
 いつもは一番乗りの、副会長キンタローだが。
 昨日、彼女に撃沈され。
 『死んじゃう~、学校なんか行けなーい』とか、喚き立ててるに違いない、グンマを思えば。
 ソレを宥めるのに、いっぱいいっぱいで。ミーティングどころでは、ないのだろう。
 
 ………ったく、キンタローはともかく。
 何だってオレの従兄弟のクセに、あんな軟弱なんだヨ、グンマってヤツは!?

 もう何十回、イヤ、何百回目になるのかも解らない。
 不甲斐のないイトコに対する、不満に。むぅ、と眉根を寄せた瞬間。

「おおお、おはっ、おは………あのっ、あのっ、シンタローはんッッ!!!」

 『ジメッ』としているのは、相変わらずだが。
 半分髪の毛に覆われた、端麗な顔を。うっすら上気させた、アラシヤマに。
 そう、声を掛けられ。

「あぁ? ァんだよ?」

 爽やかな朝に、全く似つかわしく無い。
 妙にギラついた、熱っぽい視線で見つめてくる彼に。
 『妙なコトしやがったら、三秒で静めンぞ!?』という気迫を込め。
 シンタローが、睨みつけると。

「あ、そのっ、ゆ、昨夜のコトなんどすケド………」

 ―――避ける事が出来ないのは、解っていたけれど。
 ギリギリまで、ソッとしておいて欲しかった話題を持ち出された。

「………あー、アレね。まァ、よろしく頼むわ」

 ポリポリ、頭を掻きつつ―――微妙に遠い目で、そう答えると。 

「そそそ、そのッ!! ホンマに、わてでええんどすかッ!!??」

 鼻息も荒く、ズズイッっと迫ってきて。

 思った以上に(イヤ、コイツだし。ある程度は、想像してたんだけどヨ?)過剰な、アラシヤマの反応に。

 シンタローは、早まったかナ、と早くも後悔を始め。
 なるべく目を合わすまい、と。
 明後日の方向を向いたまま、思いっきり本音で呟く。

「………別に。オマエがイヤなら、オレは他の相手、探すケドよ?」

「―――そんなッッ!!! イヤやなんて、そんなアホなコトッッ!!! わて、喜んでシンタローはんと、ケッコン………」

「うああああぁぁ!!! 言うなッつったろーがッッ!!!!」

 ―――クソッ、やっぱコイツにだけは、持ちかけンじゃなかったッッ!!!

 慌てたシンタローが、アラシヤマに飛びつき、その口を塞いだ瞬間。
 ガラリ、と扉が開いて。ゾロゾロと、他の執行部メンバー達が入って来る。

「おはよー、だっちゃわいやー。アレ? シンタロー、何でアラシヤマとイチャついてるっちゃ?」

「オハヨだべ。何のかんの言いつつ、仲いいべなぁ、オメら」

「おう、早いのう、ヌシら!! 何じゃあ、今、『ケッコン』とか聞こえた気がするんじゃがのぅっ!!??」

 一気に、騒々しくも個性的な面々に囲まれた、彼女は。
 内心焦りまくりで、アラシヤマの首筋を締め付けつつ、ニッコリ挨拶を返す。

「おぅ、オハヨーさん。『ケッコン』じゃなくて『ケットウ』だぜ『決闘』。ワン・ツー・スリー!! ホラ、オレの勝ちぃ~~~~~!!!」

 そのまま一気に、アラシヤマの頚動脈を止め、オトしてしまうと。
 青く冷たくなった体を、放り出し。
 
「つーか、オマエら遅刻ッ! いくら開店休業中だからって、気ィ抜くな? ホラホラ、ミィーティング始めっぞ!!!!」
 何事も無かった態度で、テキパキと指示を出す。

 結局、定刻より、10分遅れのスタートだが。
 前述の通り、議題など有って無いようなモノだ。

 十二月に入った今、年間の重要行事の殆どは、終わっていて。
 本年度内の決定事項と言えば、三月の三年の卒業式の進行と、来年度の予算編成ぐらい。
 そして、そのどちらも。本格的に討議に入るのは、年が明けてからになる。

「アレ? 副会長は、どしたべ?」

「グンマの体調不良で、遅刻か休み。んじゃ、トットリ、始めてくれ」

「あ、えっと。来年度の予算案と、後、学院側から『冬季休業前の風紀の乱れ』についての対策だわいや」

「…………風紀の乱れぇ? 校長が言ってんのかよ。そもそも、この学院、理事長と校長の存在自体が、風紀乱してるだろっつーの」

「ワレ、相変わらず身内にキッツイのぅ………。ワシなんか、妹のウマ子がもぅ、可愛ゅうて可愛ゅうてvv」

「オマエの妹自慢は、聞く耳持たねぇ!! 後、学院内でオレの身内の話、すんな!!!」

 無遠慮な、コージの言葉に。
 むぅっ、とシンタローは。唇を尖らせ、その内容を全否定してやるが。

 そんな、表情をすると。
 普段『凄まじい美人』とか『息を飲むほど美しい』などと評価される、彼女の容姿は。

 ………意外な程、歳相応の『微笑ましくも、可愛らしい』印象となる。

 そんな表情を、垣間見る事が出来るのは。
 彼女が”身内”と認めている、ごく限られた人間だけなのだが。

「………今更隠すだけ、無駄だべ?」

「もうみんな、知ってるだっちゃいやー」

「うっせぇ!! だから、尚更思い出させるなっつてンだッ!!」

「あははは、無駄な足掻きだっちゃね、シンタロー」

 邪気が無い分、トットリのコメントには、殊更に腹が立って。
 人生最大にして、最悪の悩みを。
 アッサリ”無駄な足掻き”で片付けられてしまった、彼女は。

 相変わらず、呑気に床で伸びている”アラシヤマ”を、腹立ち紛れに蹴り上げた。

「………はッ!!?? な、何どす!!??」

「テメ、イツまで寝てんだヨッ!! とっくにミーティングは始まってンだぜッッ!!??」

「ひぃぃぃっ、シンタローはんっ、かんにんどすっっ!!!」

「ほいで、ミヤギ、トットリ。風紀の乱れいうたら、具体的に何じゃあ?」

 完全なる八つ当りを始めた、シンタローだったが。
 この場の全員、このテの光景には慣れている為。
 何事も起こっていないかのように、ミーティングは続く。

「ホレ、もーすぐクリスマスだべ? 毎年この時期、まとまった金欲しさに、学院側の許可の降りねぇ、イカがわしいバイトに精を出す輩が、多いらしいべ」

「生徒会の方でも、各部の部長連に通達して、取り締まりを強化するようにって。校長からの、指示だわいや」

「ほーぉ、校長からの、のぅ………」
 ―――理事長ならともかく、”あの”校長がのぅ………?

 不思議そうに、仕切りに首を傾げるコージの姿に。
 つい、八つ当たりの手を止めてしまった、シンタローは。
 気づかれぬよう、小さく舌打ちをする。

 ~~~~~アノ、どーしようも無ぇ親戚、自分も片棒かついてやがるくせにッッ!!!

「シンタロー、どしたべ?」

 急に大人しくなった、彼女に。不思議そうに、ミヤギが問い掛け。
 彼女は、不自然な程の力を込め、左右に首を振った。

「何でも無ぇっ!! よし、ミヤギ、トットリ。部長会に回して、ソレゾレに言い含めるようにしといてくれ。後、何か具体的な対策が有れば上げて来いってな」

「………あのぉ、シン………ひっ!!」

 おずおずと、口を開きかけた、アラシヤマだったが。
 彼女が、キッと鋭い視線を投げかけ。
 
「………何だ? 何か、意見でも有るのかヨ?」

 言葉とは、裏腹に。
 余計なコト、一言でも洩らしやがったら、ブッ殺す!! という。
 無言のメッセージが、伝わってくる。

 大変に凄惨な笑顔で、シンタローに応じられた、彼は。

「いいいい、いえ、そんな、滅相もありまへんッッ!!!」

 ビビりまくって、大慌てで首を左右に振り立てた。

「他に意見ねぇかッ、ねぇなッ、んじゃHR始まっから、解散ッッ!!!」

 一刻も早く、この議題から遠ざかりたかった、彼女は。
 やや(かなり?)強引に締めくくると。
 唖然としている、他のメンバーを他所に。

 コノ場に置いておくと、絶対に余計なボロを出す、と。
 自信を持って断言できる、アラシヤマの首筋を、引っ掴むと。

 じゃあな、と手を振り。
 ”ソレ”を引きずったまま、生徒会室から出て行く。

 そんな、彼女の。
 思いッ切り不自然な、その態度に。

 ………ウチの王女様ときたら。相変わらず、隠し事が下手だ、と。

 残された、執行部メンバーは。
 苦笑混じりに、顔を見合わせた。




 ――― 一方。
 人気の無い階段下に、アラシヤマを引きずり込んだ、シンタローは。

「シ、シンタローはんっ、わて、そんなっ!! まだ、心の準備がッッ!!」
「どアホウッッ!!! んなややこしい準備いらんわっ、大体、式は放課後だっっ!!」
 寝ぼけたコトをほざく相手の耳元で、声を潜めて怒鳴りつける。 

「あああっ、夢のようどすっvv シンタローはんとケッコ………」
「だから、言うな、つッとろーがッッ!!!」

 ………ダメだ、とてつもなく不安だ。 

 ドコまでも舞い上がっていく、アラシヤマを尻目に。
 本気で彼女は、自分の人選ミスを、シミジミ後悔し始める、が。

 ガンマ学院の、理事長―――即ち、マジックが。
 (異常に)溺愛する一人娘の、彼女に。
 こんな話を、持ち掛けられれば。

 一般の生徒なら、まず間違いなくビビって、逃げ出すだけだ。
 あまつさえ、ソコから話が広がりでもしたら、計画は総ておじゃんとなる。

 それだけの根性と、尚且つ、自分に見合う容姿を持ち併せて。
 更に、沈黙を守ってくれる、口の堅い者、と言えば。
 ガンマ学院広しとは言え、ごく限られていて。

 もちろん、最有力候補だった、キンタローがツブれた(というか、ツブした)昨夜。
 
 アラシヤマだけは、なるべく避けたい、と。
 ミヤギ、トットリの順に、ケータイをかけたのだが。

 生憎、どちらも、いつまでたっても話中で―――二人揃って遅刻してきたトコロを見ると、二人で長電話でもしてたんだろう。つーか、オンナかョ、おまえらはッッ!!―――シビレを切らした上に、切羽詰ってもいた、彼女は。

 結局。しぶしぶ、アラシヤマに、掛けてみるしかなく。

 ―――そして。出来れば断ってくれ、という願いも虚しく。
 話を持ちかけた受話口で、ウンともスンとも反応が無くなるコト、数分間。
 
 切ってやろうか、とシンタローが思った時。

「~~~~~ッふふふふ、ふつつかものですが、よろしゅうお願いしますぅぅぅッッ!!!」

 鼓膜を破らんばかりの、絶叫が帰ってきて―――しばしの、沈黙の後。

「あーそーふーん、受けてくれちゃうのねー、ありがとー」

 はははは、と。
 思いッ切り心の篭もらない、お礼を。
 乾いた笑い声と共に、放つしかなかった。

 ちなみに、コージを外した理由は。

 ―――どう考えても、アイツの顔キズ。こういうののビジュアル的に、問題があっからなァ。
 
 ハァ、と。小さく、息を付くと。
 何とか、ポジティブな方向に思考を持っていこうと、思い直す。

 ―――まぁ、アラシヤマは。友達がいない分、万が一にも話が洩れる心配は無いし。

 扱いさえ、間違えなければ。
 オレの言う事なら何でもきく、とってもベンリーくん♪ なんだし―――ケド。
 だが、しかし。

「嗚呼、シンタローはんッッvv 最初の子供は、男の子と女の子と………」

 ―――常人を遥に凌駕する、突出した、暴走する妄想僻がなァ………。

「いーから、テメェ、もうクラスに戻れ。後、今日一日、いつも以上に誰とも口聞くな、側にも寄るな、キノコ生やしてろ」

 ………まぁ、言うまでも無く。
 普段から不気味なアラシヤマが(カオはイイのにねぇ)、コレほど紫のオーラを噴出してれば。
 フツー、マトモな神経の持ち主なら。
 半径一メートル以内には、決して近づこうとは、思わないであろう。

 クラスが別なのは、果たして幸いなのか、不幸なのか?

 この、ニヤケ切った不気味な薄笑いを、一日中見ないで済むのは、有り難いが。
 この、尋常ではない、浮かれッぷりで。妙な事、口走らない保証は、ドコにも無い。

 じ――――ッッ、と。
 本当に大丈夫か、コイツ? とか。力一杯不審げな、シンタローの視線に。

「はッ!? あ、も、もちろんどすえッッ!! こぉーんな嬉しいコト、誰が他人になんぞ教えてやるもんどすかッッ!!!」

 ………ありがとう、アラシヤマ。
 喜びを、トコトン自分一人で噛み締める。
 トコトン他人に嫌われる性格のオマエが、コレほどあり難いと思ったコトは無ェ。

 カナリ虚しい、喜びに浸ったアトで。ちょっぴり疲れてきた、シンタローは。

「まぁ、頼んだぜ。んじゃ、放課後な」
 そのままクールに、アラシヤマに背を向けたが。

「へぇvv わて、この日のコトを一生忘れませんえ!!」

 ―――シンタローはん、アイラビューンvvv

 アラシヤマの飛ばす、ピンクのハートが。
 背後から、ガンガン突き刺さってくるのを、感じ。

 ………相手、間違えた。絶対。

 自分から頼んだクセに、しみじみと。
 思いッ切りブルーな、溜息を止められなかった。



ウェディング・ウォーズ!!(後)




 ―――放課後。

 早めに部活を切り上げたコージが、生徒会執行部の部室を訪れると。

 既に。ミヤギ、トットリ、キンタロー。
 シンタローとアラシヤマを除く全員が、顔を揃えていて………+α。

「あー、コージだー。いらっしゃーい♪」

 当り前のように、関係者以外立入り禁止の部室で。まくまく、オヤツを貪っている。
 科学部部長にして、シンタローとキンタローの従兄弟たる、グンマの。
 全く立場を弁えていない、歓迎にも、もはや慣れている。

「………なんじゃあ、ヌシらも、気になったんじゃぁ?」

 その存在を気にせず、そう声を掛けると。

「まー、ウチの女王様、隠し事下手だべさ………」
「だっちゃわいや」

 腕組みするミヤギに、うんうん、とトットリは頷き。

 何のかんの言っても、シンタローは。生徒会執行部の、ただ一輪の大切な『華』だ。

 ―――否。この、オトコだらけの、ガンマ学院で。
 誇るべき、鮮やかで艶やかな、唯一の『華』と言うべきか。
 
 (実は、もう一人。少々毛色が違うものの『華』と称される生徒は、いるのだけれど。その『華』は、少々常識に外れる一派に、がっちり固められている為。基本的に、勘定には入らない)
 
「それで、副会長? 昨日の夜、何があったべ?」

「………オマエ等にも、シンタローから?」

「僕ら、電話切った後で。着信メール、十件ぐらい送られてきただわいやー」

「でも、もう真夜中だったんで、掛け直さんかったべ」
 ―――今朝聞こう思たら、それどころじゃねぇ雰囲気だっただべ?

「………ということは。アイツ、本気で………」

 トットリと、ミヤギの証言に。
 何やらキンタローは、真剣な表情で、眉を潜めていたが。

「やぁ、お邪魔するよ」

 ノックと、殆ど同時に。執行部の扉が、開かれて。

 入ってきたのは、鮮やかな金髪の、品の良い壮年男性―――この学園の”名物”とさえ言われる。シンタローの父親にして、キンタロー達の伯父たる、理事長マジックだった。
 
「あれぇ? オジさまー?」
「叔父貴………」
「理事長!!」

 各々が。思いがけない突然の訪問者に、驚いている間に。
 素早く中を見回し、愛娘がソコにいないコトを確認した、彼は。

「ココにもいないな………キミ達、シンちゃんがドコに行ったか、知らないかい?」
「いや、知ら………」

 ―――内心の動揺を、押し殺し。
 素知らぬ顔で、答えようとした、キンタローの言葉を遮り。

「シンちゃんなら、今頃、結婚式だよ?」

 啜っていたジュースから、唇を離して。
 あっさりと、グンマが口を挟む。

「「「「――――――ッッ!!!」」」」

 四人分の、声にならない悲鳴が、その場に響き渡る中。
 マジックの、端麗な顔が―――笑顔のまま、見る見る内に、凍りついて行き。

「誰が………結婚式だって?」

「シンちゃん。んっとね、今日どうしても、結婚したいんだってー」

 その部屋に流れ始めた、異様な雰囲気をモノともせず―――というより、気づいてさえいないと思われる―――ペラペラと、グンマは。
 昨日のシンタローの、不審な行動を。ストレートに、総てバラし。

 その場の誰もが、頭では、グンマの口を止めなければ、と思っているのに。

 マジックから放たれ、凄まじい勢いで増していく。
 尋常では無い、威圧感に………呼吸さえ、ままならない。

「………で、場所は?」

「えっとね、ハーレム叔父様の知り合いの、教会。多分、ホラあの、新しく出来たトコだよねぇ、キンちゃん?」

 やはり、まったく。
 自分が、メガトン級の核爆弾を投下したことさえ、気づいていないグンマは。
 殆ど病人のような顔色で、固まっている。
 従兄弟と同級生達に向かって、のーんびり同意を求めてみたが。

 その答えを、待たずして。マジックは無言の内に、踵を返す。

 運悪く、気の弱い人間が目にしたならば………絶叫を上げ、腰を抜かしそうな。
 恐ろしく獰猛な表情で、大股に歩く、彼の脳裏に。
 くっきりと甦る、弟の不吉な言葉。

 ―――案外、シンタローだって。アニキの束縛がうっとおしくて、逃げ出そうとしてるかも、ナ?

 ―――まさか!! ウチの、シンちゃんに限って!!!

 やや、心当たりがある為。
 少々、引きつりながらも………そう、全面否定した、兄に。

 ―――そうかぁ? アニキが思ってるより、ずっとカゲキだぜぇ、最近の女子高生は。そうそう、シンタロー。何かオレに『結婚式場』について、とか聞いてきてたしなァ………?

  ”シンタロー、アンタから逃げちまうつもりかもナ?”と。

 常に見られない、兄の動揺ッぷりを楽しむように………その、問題児の弟は。
 やたらに意味ありげに………そんな風に、締めくくって。

 直後に、PTAと教職員全員による会議が始まった為。
 追及の機会を失い、今日迄来てしまった。

 ―――しかし、まさか。まさか、そんな、馬鹿な話………ッッ!!!

 マジックの歩調は、次第に早まり―――やがては。
 自ら作った『廊下はゆっくり歩きましょうvv』という校則を、粉々にする勢いで。

 ウッカリ遭遇した、不運な生徒達を跳ね飛ばしつつ………人間離れした速度で、走り出した。




******************




 『荘厳』と言うには、程遠い。如何にも”式の為だけに設えました”という。
 どうにも安っぽい、教会風の部屋に鳴り響いていた、電子オルガンの音が止むと。

 何だか、フランシスコ・ザビエルに、やたらに酷似した(そういう禿げ方だったのだ)神父が。
 1980円で、フツーに本屋に売ってそうな、ありふれた聖書を片手に。
 型通りの、誓いの言葉を述べ始めた。

「………では、新郎アラシヤマ。汝は、その健やかなるときも、病めるときも………」

「誓いますえッ!!! 誓いまくりますッ、わてには一生、シンタローはんだけどすぅっ!!!」
 ―――揺り篭から墓場まで、わてらはず~~~~ッッと一緒どすえッ!!!

 興奮がピークに達しているらしい、アラシヤマは。
 神父の言葉を遮り、そんな絶叫をカマしてくれて。
 二人の後ろに居並ぶ、参列客の間から。クスクス笑いが、洩れる。

「~~~~ッッ、アホ!!! 『誓います』だけでいいって、言っただろぉーがぁッッ!!!」
 
 猛烈に恥ずかしくなった、シンタローは。
 思わずポカリと、その後頭部を殴りつけ―――すると。クスクス笑いが、ドッと爆笑の渦になり。
 真っ赤な顔で、俯くしかなくなる。

 すると。彼女の視界に、飛び込んでくるのは。
 目に痛いほど、真っ白な――――純白の、ウェディングドレス。

 形の良い、Dカップの胸から。
 キュッとくびれた、ウェストまでのラインを強調する、上半身のデザイン。

 ソレと対照的に。チュールを、幾重にも重ねたスカートは。
 ふんわりと、腰から下を覆い。身動きする度に、サラサラ揺れる。

 ―――ねぇ、ホント。なんて綺麗な花嫁さんなのかしら。
 ―――二人とも、真っ赤だぜ? 初々しくて、お似合いのカップルだよなァ?

 イヤでも飛び込んでくる、参列客の評価がイタい。

 とにかく、早く。こんな式を、終らせて欲しくて。
 シンタローは、縋るような視線を、神父に送った。
 
「………ごほん。えー、では、新婦シンタロー。汝は、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

 神父の、大仰な言い回しに。自ら、望んだというのに。

 ―――言いたくねぇなァ、と。
 この期に及んで、彼女は。本気で、ゲンナリしてしまっていたが。

 言わなければ。
 いつまで経っても、このこっ恥ずかしい、晒し者状態が終らない。
 
 しぶしぶ。ハゲの神父も、舞い上がりまくったアラシヤマも。
 なるべく視界に入れぬよう、不自然に顔を反らしたまま。

 シンタローは”その言葉”を、紡ごうとした。

「………ッ、ち、誓…………」

「――――ッッ、待ちなさいッッ!!!」

 突然の、怒声―――それと、同時に。

 ガァン!!! と。凄まじい勢いで、祭壇の真反対に位置する扉が、開かれた。

 ………と言うより、外から吹っ飛ばされ。
 蝶番が外れたらしい、哀れな扉は。
 爆音と爆風を巻き上げ、内側へと転がり込んで来て。

「げぇっ、オヤジぃ!?」
「り、理事長ッ!!??」

 共によく知る、乱暴な闖入者に。
 シンタローとアラシヤマは、一緒に、潰れた悲鳴を上げてしまう。

「……………………………」

 だが、マジックは、無言のまま。
 焦りまくる二人に、冷たく光る青い瞳を、ぴったり見据え。

 固く唇を引き結び、ツカツカと硬質の足音を響かせて。

 今、まさに。
 永遠の愛を誓わんとしていた二人へと、歩み寄ってくる。

 先刻まで。文句の付けようがない、美男美女の結婚式に。
 うっとりと見惚れていた、参列客達は―――有り得ない、突然の展開に。
 固唾を飲んで、ただ、成り行きを見守る。

 祭壇の、一歩手前までたどり付いた、彼は。
 ぴたり、とその足を止め。

「………許さない」

 ―――低い低い、呟きが。その唇から、洩れた。

「ひぃっ、マジック理事長ッ!! こ、これはその………ッッ!!」 
「だっ、おち、落ち着け………つーかアンタ、何でココにッ!!?? 」
「シンタローが、おまえなどと結婚ッ!? 私は、許可をした覚えは無いッッ!!!」
 
 二人の言い訳を、遥に凌駕する。
 大音声の宣言と共に―――閃光が、走る。

 予告さえ無く、ブチかまされた。
 一片の容赦も無い、タメ無し眼魔砲。

 それは、見事に。シンタローの立っている部分だけを、避け。
 哀れなアラシヤマは、もちろんの事………気の毒な神父さえも、巻き込んで。
 
 祭壇もろとも、遠い夜空のお星様と化してしまう。



 ―――永遠にも、思えるような。耳の痛くなるような、沈黙。




 最初に我に返った、参列客の悲鳴を皮切りに。
 ほんの、数分前まで。
 メッキでしかなくとも。それなりに、荘厳な静けさに包まれていた、教会は。

 この常識外れの、闖入者への恐怖に。
 一気に、出口へと殺到する参列客達で。蜂の子を突いたがごとくの、騒ぎとなった。

「…っ……マジック、アンタ………ッッ!!」

 そんな中、シンタローは。
 よりによって、この、最も大切なシーンを。
 完膚無きまでに、叩き潰してくれた父親に対し。
 声と共に、ふるふると。剥き出しの白い肩をも、震わせていたが。

「帰るぞ、シンタロー」

 彼は、それに構う事無く。
 冷たく光る青い瞳を、ギラつかせたまま。
 娘の手を、乱暴に掴もうとする。

 ………しかし、その時。
 凄まじい激情に、駆られていたのは。

 彼女もまた、同じであった。

 とんでもない、惨状を巻き起こしてくれた、マジックに対し。
 震えながら、呆然と。瞬きを繰り返し―――ついで、青くなり、赤くなり。

 最終的に。
 父親のソレを、凌駕する怒りに捕われた、シンタローは。

「~~~~~てんめぇ、マジックッッッ!!! この、馬鹿タレ親父が――――――ッッ!!! 」

 死人さえ、思わず生き返るような罵声を放つと。
 同時に、パッと。白いウェディングドレスの裾が、翻った。

 露になった、細い………だが。
 鍛えられているが故に、メリハリの効いた、惚れ惚れするような美脚は。

 マジックの、胃の真上に。
 攻撃力+10の、高いヒールでクリーンヒットし。
 
 ゆうに、彼女の二倍はあると思われる。
 マジックの巨体は、易々と吹っ飛び―――無人と化した、客席を破壊しつつ。
 騒音と破片を撒き散らし、半ばまで埋まってしまう。

「………ぐぅッッ!!! シ、シンちゃん~~~~!!??」

「『シンちゃん?』じゃねぇだろーッ!!! アラシヤマだけならともかく、一般人を巻き込みやがって!!! 大体、どーしてくれンだよッ!? コレでバイト代、パァじゃねーかッッ!!!」

 ―――その時の、マジックの。
 整い過ぎるほど、整った。端正な顔の、切れ長の瞳を―――見事に二つ、点状にした。

 それはそれは、間の抜けた表情は………特筆にさえ、価する程で。

「………へ? ば、イト………?」

「模擬結婚式の、単なるバイトなンだョ、コレわッッ!!」
 ―――ジョーシキで、考えて。二十歳にもなンねぇ娘が、親の許可無く結婚出来るわきゃ、ねーだろッッ!!!

 憤然と言い捨てた、シンタローの指摘は。
 非の打ち所がなく、正しい。

 それでもまだ、やや状況が飲み込めない様子で。
 マジックは、覚束ない口調で呟く。

「バイトって………お金、欲しかったんなら。パパに、言ってくれれば………」

 シンタローのお小遣いなら、毎月口座に振り込んでいる。
 それも。普通の高校生であれば、ちょっと使い途に困る程の額を。

 それで足りない、と文句を言われた事も無いし。
 足りない、と言われれば。
 もちろんマジックは、最愛の愛娘の願いを(幾許かの、彼にとってだけ楽しい条件付で)聞き入れるつもりでは、あったが。
 
 同年代の女子高生より、確実に堅実な、彼女は。
 無駄な浪費をする事も無く、ちゃんと貯金までしているようで。

 さすがは、パパの娘vv と。
 そんなトコロにさえ、愛しさはいや増すばかりだった、と言うのに。

「………アンタに貰った金で、アンタにモノ買ってやって、どーすんだヨッ!?」

 真っ赤な顔のまま―――殆ど、泣き出しそうに上気した顔で、食ってかかられ。

 ………マジックは、軽く息を飲む。

 思い出すのは。数週間前に、交わした会話。

 それは、数ヶ月ぶりに顔を見た、愛娘との。
 軽い冗談で、コミュニュケーションの一環の、つもりだった。

 ―――ねぇ、シンちゃんvv パパの今年の誕生日、何のプレゼントくれるー?
 ―――ハァ!? イキナリ、何言い出すんだョ。大体、誕生日祝うようなトシじゃ、ねーだろ。

 ガンマ学院理事長以外にも、幾つかの肩書きを背負っており。何かと忙しい、マジックである。
 近年、誕生日当日。日本にいないことさえ、しばしばで。

 ………今年も、誕生日が近づいて来たなぁ、と思うと同時に。
 そういえば、母親が亡くなって―――ここ数年。
 愛娘に、自分の誕生日を祝ってもらえた記憶が、無く。
 
 ふと、思い出して。
 ちょっと、寂しくなって、言ってみた。
 
 予想通り。可愛い、シンタローの反応は。
 ブリザードのように、冷淡だったが。
 幸いにして今年は、久しぶりに、日本で誕生日を迎えられそうだと告げて。

 ――― 一緒に、ゴハンを食べようネvv と無理矢理頼み込んで。

 その場で、レストランの予約(自分で、自分の誕生日の。ちと虚しいデス)なんか、していたりしたのだけれど。
 
 ………まさか。
 本気で、プレゼントを用意しようとしてくれていた、なんて………。

「でも、何で………バイトなら、他にも………」

「アンタが、急に今年の誕生日はコッチにいる、とか言い出すからだろーがッッ!! こんな短期間でそれなりの金額叩きだすにゃ、知り合いのツテで、単発の高額バイト紹介してもらうのが一番イイんだよッ!!」

 ~~~~くっそぉ!! ハーレム叔父貴のヤツ。水商売はヤだっつったら、こんな恥ずかしいバイトばっか、紹介しやがって!!!

「………あの、愚弟に? 何で?」

「―――あの獅子舞。部下共々、顔だきゃ、やたらに広ぇからナ」

 まだ、目一杯怒っている様子の、シンタローだが。
 それでも一応、ぶっ飛ばしてやったコトで、少しは溜飲が下がったのか。

 腹立たしくてしょうがない、という口調ではあるが。
 簡潔に、ココに至った経緯を説明してくれた。

 例年どおり、メールか電報でも打って、終わりにしようと思っていたから。
 コレといって、プレゼントを用意していなかったコト。

 当日、顔を合わせるのに。
 何もナシじゃカッコが付かねぇ、と。叔父―――サービスに、相談をしたコト。
 ソコにタマタマ居合わせた、もう一人の叔父………ハーレムが。今回の、模擬結婚式も含め。
 (校長のクセに)校則スレスレの単発のバイトを、幾つか紹介してくれたコト。

「そのクセ、あのオッサン!! 急に邪魔するようなコト、言い出しやがって!!!」

 ―――それは、まぁ。
 ハーレムにはハーレムの、ちょっとした事情があってのコトだが。
 ソレはまた………別の、物語ゆえに。
 この時点でのシンタローには、叔父の行動がサッパリ解らない。

 ただ、今回の件で。
 (ロクでも無いバイトばかりとは言え、確かに収入には、文句の付けようが無いものばかりで)ちょっとは、感謝してやっていたというのに。
 再び『どーしよーも無ぇ、親戚』にまで、評価が逆戻りしただけ、のコトだ。

「じゃ、最近。あんまり、家に居なかったのって………」

 流れのままに、問い掛けながら。
 もちろん、聞くまでも無く解っている。
 自分の誕生祝いを、買うために。頑張ってくれていた、というコトは。

「あーもぉ、知らねぇョ!! 今年のプレゼントも、ナシだ。あとココの弁償、アンタがしろよなッッ!!」
 ―――くっそぉ、こんな格好までして、アラシヤマにまで頭下げたってのによォッ!!!

 ………頭を下げたかどうかは、ともかくとして。
 まったくもって、今回『骨折り損のクタビレ儲け』となってしまった、シンタローは。

 一刻も早く、この場から逃げ出したくて―――何せ、自分はウェディングドレスだし。祭壇の壁に、大穴は空いているし。参列客は全員、廊下に避難して。恐る恐る、コチラを伺っているし。

 プンプンに膨れたまま、ズカズカと式場の出口へと向かう。

 ―――目標の金額は、このバイトで達成出来るハズだったのに。

 父親の誕生日は、もう明日に迫っていたのだ。
 日払いの、バイト代を貰ったら。その足で、プレゼントを買って帰るつもりだった。
 
 プレゼントしたかったのは、新しい小銭入れ。

 恐ろしいコトに、コノ父親。
 有り余る程の、名声と権威と財力を持ちながら。

 その昔。まだ、シンタローが小学生だった頃。
 彼女が家庭科の授業で作った、チャチな小銭入れを―――タマタマ、彼の誕生日が近かった為。父親仕様で、作ってみたソレを―――未だに、後生大事に使っているのだ。

 恥ずかしいから、いい加減買い換えろ、というのに。
 ボロボロのソレを、いつまでも手放さなくて。

「あーもう、見せモンじゃねぇぞ、散れ散れっ!!」

 何やら。信じられない珍獣でも、見るかのように―――それは、そうであろう。ドコから見ても清楚可憐といった風情の、美しい花嫁が。自分の倍以上の体格の男を、ふっ飛ばしたのである―――参列客(正しくは、模擬結婚式を見学に訪れた、カップルとその家族)達は。
 未だシンタローに、視線を釘付けにしていて。

 何故ならば。
 肩を怒らせ、品がイイとはとても言えない態度で、ズンズン歩むその姿は。

 まるで、野生の雌豹のように。
 危険であると解っていても、目が反らせなくなる………そんな種類の。
 魂に刻まれるような、強烈な美しさ。

 ―――だー、どいつもこいつも、ムカつッッ………!!??

 一向に、散ろうとしない観衆に。
 シンタローが、力一杯舌打ちした瞬間。

「………ッ、わ………ッ!!??」

「はっはっはっ。皆さん、お騒がせしました。それじゃあ、私たちはコレで♪」
 ―――あ、弁償請求は、ココに回してくださいネvv

 突如、マジックは。その背後から、シンタローを抱き上げ。
 従業員らしき制服の男性に、名刺を押し付けると。

 全身に、降り注ぐ。恐怖と好奇心の入り混じった視線から、彼女を護るかのように。
 悠然と、式場に背を向ける。

「ちょっ、コラ!! アホ親父ッッ!!! 降ろせッ、つーか着替え、このドレス借り物ッッ!!!」

 あまりに唐突な、マジックの行動に。思わず、ボーゼンとしていた、シンタローは。
 
 慌てて、ポカポカその頭を殴りつけ、訴えたのだが。
 マジックは、構わず歩みを進めて。

 入り口に、横付けに乗り捨てていた車に。強引に、彼女の体を押し込むと。
 素早く運転席に乗り込んで、アクセルをふかし、車を急発進させた。

「って、ぎゃ~~~~~ッッ!!! 何てコトすんだ、アンタわッッ!!!」

 みるみる内に、遠ざかっていく建物を、振り返り。
 純白のドレスに、身を包んだままのシンタローは。
 常に無い父親の乱暴な運転に、シートにしがみついたまま、そう叫ぶと。

「花嫁奪還、成功♪」

 チラリとこちらに、視線を送り。
 とてつもなく、満たされた表情で―――ニコニコと、笑う。

「………そもそも、そーいうんじゃ無ぇョ。つーかもぉ、オレの制服~~~~ッッ、鞄~~~~~ッッ、靴ぅぅ~~~~~~ッッ!!!」

 盛大に嘆いている、シンタローだったが。
 さすがに、運転している人間に眼魔砲をブチかませる程、命を粗末に思ってはいない。

「後で、ティラミスに取りに行かせるって。それより、ねぇ、シンちゃん?」

「あぁ? ンだよ」

 完全に、不貞腐れてしまった、彼女に。
 マジックは。ウェディングドレスのままの、彼女に向かい、上機嫌に呟いた。

「プレゼント、コレがいいんだケド」

「はァ? アンタに合うサイズなんか、ねーだろ」

 おあつらえ向きに、車はオープンカー。
 まさか、こういう状態を、狙ってのコトじゃねぇだろーな、と。
 シンタローは少し、不審に思うけれど。

 ―――ともあれ、コノ父親に関わると。ホンッッと、疲れるッッ!!!

 十二月の前半なのだが。
 暖冬の影響の濃い、小春日和の日差しであり。

 何より、相当カッカきたせいで。

 ………受ける風が、むしろ、心地良い。

 ココまできたら、もうどうとでもなれ、と。
 シートにぐったり、身を沈めてみると。

「イヤ、そうじゃなくて」
 
 シンタローの。まるで解っていない、コメントに。
 ちょっと苦笑した、マジックは。
 
「このままの、シンちゃんが欲しいナ」


 ―――約束して。このままのシンちゃんで、ずっとずっと、パパの側にいてくれるって。


 改めて、そう言い直し。
 ようやく、その意味を理解した、シンタローは。

 また、コノ親父は、と。
 額に手をやり、溜息混じりに言い返す。

「アホ。可愛い娘を、行かず後家にするつもりかヨ?」

「うぅーん。孫の顔は見たいよネ………あ、じゃあ!! シンちゃんが結婚するトキには、パパも一緒についていく………って、うぅぅぅッ………ッッ!!」

「ドコの世界に、父親連れで嫁ぐヨメがいンだヨッッ!!! つーか、想像でむせび泣くな、まだ嫁いでねぇだろーがッッ!!!」

「やっぱり!! 可愛いシンちゃんを、断固としてお嫁になんかやらないからッッ!!! パパより強い男じゃないと、認めないヨッッ!!!」

「………あのなぁ、ゴジラとでも結婚しろっつーんかッ!! つーか、てめっ、前見て運転しやがれ~~~~~~ッッ!!!!」

 激しく厳しい、シンタローの突っ込みに。
 旗色の悪さを、悟ったマジックは。

「あはははvv ところでシンタロー、寒くないかーい?」

 必殺『笑って誤魔化す』を発動させ、そう尋ねてくる。

「………さみぃョ、当たり前だろッ!!」

 伊達に、鍛えているワケではないから。
 本当は、さほどでもないのだけれど………未だ、ご機嫌斜めの彼女が。
 ソッポを向いたまま、そう答えると。
 
「うわッ!?」

 バサリ、と………彼女の、頭の上から。
 父親の、赤いジャケットが降って来た。

「ハイ。コレ、着てなさい」

 運転しながら、上着を脱ぐという。
 大変に、難易度の高いワザを。
 名前どおり、手品師顔負けの素早さで披露してくれ。

 得意げに笑う父親を、ちらりとねめつけて。

「………走りながら脱がなくても、車止めればいいだろーがッ」

 ブツブツ、文句を言いつつも、シンタローは。
 
 それでも少々、肌寒さは感じていた為。
 父親の香りと………体温の、残る。
 彼女には随分大きなソレに、素直に袖を通し。

 ―――あったかい、と。
 
 無意識に、顔を綻ばせた。







 当人達(特に素直でない、片方)が、どう思おうと。

 傍目に見れば。
 充分、標準以上に仲の良い、父娘の。
 家路までの、短いドライブを。





 燦燦と。
 柔らかな初冬の陽は、降り注ぎ―――包み込む。




******************




 ウェディングドレス姿の、シンタローを助手席に。
 ハンドルを握っている、マジックの機嫌は、かなりイイ。
 
 家に着いたら、着いたで。
 着替えたいに違いない、シンタローと。
 着替えさせたくない、彼との間で。また一悶着も、二悶着もするだろうが。

 そのヤリトリを想像するだけで、嬉しくて頬が緩む。

 ―――けれど。ソレはソレ、コレはコレだ。
 青の一族、というものは。
 受けた恩義は忘れても、仇を忘れる事は、けして無いのだ。(←パパったら(^_^;))



 ………あの、愚弟め。

 家路までのハンドルを、操りつつ。

 モトモト、自分の差し金だったクセに。散々、動揺を誘う発言をし。
 狼狽する長兄の姿を、楽しんでいたに違いない。
 獅子舞に酷似した、弟の姿を思う。

 事実はけして、そればかりでは無いのだけれど―――それはやはり、別の話であり。シンタロー同様に、マジックもまた。総てを知るわけでは、無いのだから。

 実の兄はおろか、姪っ子の信用のさえ失った(つくづく、日頃の行いというものは大切である)ハーレムへの報復を、練り始めた。

 ………長兄を、舐めてはいけない。
 マジックは、ハーレムの弱点ぐらい、とっくに知っていたのだ。

 ―――年は、そう。シンタローより、一つ下。金と黒の髪が印象的な、元気で可愛い青少年。
 名は………確か、リキッドとか言ったっけ?

 古来より、ヒトを呪わば、穴二つと言う。

 ―――さぁて、どうしてやろうかナ♪ と。

 突然、鼻歌なんか歌い始めた父親を。
 当然のコトながら。
 助手席の。純白のドレスに赤いジャケット、というちょっとミョーな格好だが。

 文句無しに美しい、黒髪の花嫁は。

 ………また、何か妙なコト考えてるナ、このアホ親父。

 完全に、危ないヒトに向ける視線で。
 冷ややかに、見つめるのであった。
 








 ※追記。
 その頃の、アラシヤマだが。
 共に吹っ飛ばされた、神父に。『わてとお友達になっておくれやす!!』と頼み込み。
 丁重に、お断わりをされていたらしい。











○●○コメント○●○
 当日がムリになったので、早めにパパBDお祝いしちゃいますvv
 今年は、余裕を持って間に合いました。

 本当は「マジシン同盟」様の「パパムスメ部屋」に投稿させて頂きたかったのですが。
 当サイトがダブルヒロイン(最近、トリプルになりつつ。。゛(/><)/ ヒィ)の為、どうしてもビミョーなもう一個のカプの痕跡を消せず、諦めて自サイトで。

 最近コスがマイブーム♪ 今回、ウェディングドレスです。実はお蔵入りにした、学園モノパラレルを、単発で引っ張り出し(笑)
 ちなみに現「ニッキフウ」と、どっちにするか最後まで迷った連載仕様です(苦笑)
 こんな祝い方でゴメンなさい、パパ………。
<2004.12.6 カケイ拝>









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