忍者ブログ
* admin *
[18]  [19]  [20]  [21]  [22]  [23]  [24]  [25]  [26]  [27]  [28
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

mss

ミライノタメニ (前)





 二人が、壊れてしまうのと
 二人で、壊れてしまうのは

 ―――どちらがどれだけ、哀しいのでしょう




******************




「シーンちゃん、シャンプーしたげる♪」
「………いらねぇ」

 ぼそり。
 呟きながら、眼魔砲を飛ばすことも、もちろん忘れない。

 なにもそこまで、と言う無かれ。

 こういう事を、言い出したが最後。
 いつまでもしつこく、しつこく、しつこく!! 付きまとった挙句。

 無理矢理にでもシャンプー、リンス、トリートメントのフルコース………挙句に。
 彼の背中まである黒髪を。切って、編んで、結い上げて。
 心ゆくまで遊ぶのが、彼の父親「マジック」という人物なのだから。

「シンちゃん、ヒドイ…………」

 手加減無しの、一発だったが。
 タメ無しのせいか、さほどダメージも受けていない様子で。
 「よよよよ」と、ハンカチ片手に泣き崩れる。

 いくら、年齢より相当若く見える―――40越えているとはちょっと思えない―――とはいえ。
 実年齢は53歳のオッサンに、ソレをやられると。不気味を通り越して、かなりサブい。

「………昔は、何だってヤラせてくれたのに」
 ボソリ、と。
 ここのセリフだけ、聞いている者がいれば。
 間違いなく、誤解を受けそうな発言をされ。
 ―――と、言うよりも。
 彼の性格を鑑みるに、ワザと誤解させようと仕向けているに、違いなく。

「四捨五入すると余裕で三十になる息子を、小学生レベルで扱うなぁッッ!!」

 ぷちっと切れた、シンタローは。
 再び、本気の眼魔砲をぶちかまし。

 対するマジックは、というと―――それはそれは、楽しそうに。
「はっはっはっ、親子団欒だねぇ♪」
 とか何とか。
 トボけたことをほざきながら、応酬してきて。

 爆音と共に。不吉なきしみを上げ、崩壊を始めたガンマ団本部では。

「総帥と元総帥が、また、親子ゲンカだぁ~~~~~っっ!!!」
「頼むから、外でやってくれェ~~~~!!!」

 ひきつった顔で逃げ惑う、団員達の絶叫が………夕暮れの空に、響き渡った。





******************





 元々。大概、何だって、器用にこなす父親だった。
 長男として。弟達の面倒を見始めた頃には、素地が出来ていたのだろう。
 ………それが。

 病弱な妻に代わって、幼い息子の面倒を見始めてからは、更に拍車がかかり。
 シンタローが、物心ついた時には。
 普通『母親』の役割もこなしてくれる『父親』になっていた。

 それでも。
 ガンマ団の若き総帥としての地位を、確固とし始めていた、当時は。
 遠征やら交渉やらで、殆ど家にいることが無く。
 寂しい思いをすることは、度々だったけれど。

 その埋め合わせのように。
 長く家を空けた後は、必ず。両手いっぱいに、お土産を抱えて帰ってきてくれて。
 食事やら、身の回りの世話やら………一日中でも、側にいてくれた。

 母親譲りと思われていた、シンタローの黒髪は、特にお気に入りで。
 切ったり、編んだり、結ってみたり。

 それが、当たり前だったから。
 シンタロー自身、さしたる抵抗も無く受け入れていたのだけれど。


 ―――それが、憂鬱に変わったのは、いつからだろう?


 「ガンマ団総帥の長男」という特別な立場。
 それを自覚し始めたのは、小学校に上がる頃だった。
 
 今まで、一緒に転げまわって遊んでいた、友達に。
 徐々に、距離を置かれるようになり。
 遊びに誘っても、何のかんの理由をつけられ、断られるようになった。

 最初、シンタローには。周囲の変化の理由がわからず、ただ戸惑うだけだったが。 
 その内、大人達が子供達に言い聞かす、潜めた声は。嫌でも耳に入ってきた。

『あまり、あの子と仲良くしちゃダメよ? あの子のお家はね…………』

 ………気が付くと、一人ぼっちになっていて。
 それでも、当時の。
 幼い―――『悪意』と言う言葉さえ、知らないほど。
 幼な過ぎた、シンタローには………為す術も、無く。
 
 登下校はおろか、昼休みも、放課後の予定すら無いまま―――たった一人で過ごす、学校生活。

 その内に、すっかり塞ぎ込み。
 理由をつけては、学校を休むようになった、一人息子を心配し。
 マジックは、忙しいスケジュールを何とか調整し、遠征も控えるようになって。

 その分、なるべく家にいるようにして―――今までに増し。
 それはそれは甲斐甲斐しく、シンタローの世話を焼いてあげた。

 大好きな父親と、一緒にいられるようになったコト。
 それが本当に、嬉しくて。
 シンタローは、まるで素直な子犬のように。
 父親の行く所ならば、何処へでも付いていった。

 ―――シンちゃんさえ、構わなければ。
 
 ある日、膝に抱えたシンタローの。
 お気に入りの黒髪を、優しく梳きながら………マジックは、言った。

「学校を辞めて、ずっとパパと一緒にいるかい? 勉強なら、家庭教師をつけてあげるし。パパだって、少しは教えてあげられるから」

 学校に、いかなくてもいい―――それどころか。ずっと、大好きなパパと一緒にいられる!!

 一瞬の躊躇も無く、シンタローは頷いた。
 何も、考えていなかった………考えようとさえ、せずに。

 ただ、提示された。自分にとって、都合のいい未来に飛びついた。

 それ程に当時の自分は、子供で―――自分の行動が、周りに及ぼす影響、など。
 考える事さえ出来ない程、甘やかされた子供だったのだ、と。

 今なら、解るのに。


 ―――転機が訪れたのは、その数日後。

 その日も、シンタローは。学校を休み、広い家の庭で一人、遊んでいた。
 いつもなら、一緒に遊んでくれている筈の、マジックは。
 現在、急な来客とやらの応対をしている。

 最初はムクれていたものの、所詮は子供のこと。
 お詫びに、と。
 父親に与えられた、新しいラジコンカーにすっかりハマってしまっていて。

 指先一つで、思いのままに動く。
 その模型の車と一緒に、夢中で走り回っていたシンタローは、気付かなかった。

 ………どんっ、という鈍い衝撃。

「うわっっ!?」

 正面から『何か』に激突したシンタローは、見事な尻餅をついてしまい。

「もうっ、な………」

 ぷうっと、頬を膨らませ。
 突然出現した、大きな『何か』に抗議しながら視線を上げ………小さく、息を飲んだ。

 逆光の中、こちらを見下ろしてくる、巨大な影の正体は。

 ――――ハーレム叔父、だった。

 シンタローは。優しくて綺麗なサービス叔父のコトは、ダイスキだったが。
 子供にも、容赦ない―――というより、単に大人気ないヒトだったのだ、と。今なら、解るのだが―――彼のコトは、大の苦手で。

 尻餅の姿勢のまま、固まっているシンタローに、手を差し伸べるでもなく。
 「不機嫌です」と顔一杯に描かれた、表情で。
 唇を歪め。吐き捨てるように、ハーレムは呟いた。

「………オマエ、まだオムツしてんのか?」

 突然言われた言葉に。きょとん、とシンタローは首を傾げる。
 彼の意図するところが、まるで見えない。

 もちろん。現在小学生のシンタローは、普通の半ズボンを履いている。
 見れば、解るハズなのに。

 大きな目を見張って。
 やたらに、不機嫌そうな叔父を見つめていると。
 
「赤ん坊じゃねーんなら。テメェのケツぐらい、テメェで拭けよ」

 ますますもって、シンタローには、言われている意味が解らなかった。
 
 もちろん、今では。トイレの個室にまで、誰かに付き添われて入る事など、無い。
 いくら父親の面倒見が良くとも、ソコまでしてもらったのは、ごくごく幼少の間だけだ。

 唖然としたままのシンタローを、憎憎しげに睨み付け―――それは。
 まるで、シンタローの背後にいる、見えない誰かを睨みつけているかのように。

「………ガキが。解らねぇなら、教えてやろうかァ!?」

 突如、声を荒げられ。
 シンタローは思わず、ビクリと身を竦める。

 ―――怖かった。
 
 今まで。
 当の本人のハーレムさえ、マジックの目を気にしてか。
 彼の溺愛する一人息子に、こんな態度を取る者などいなかった。

 ただ、竦んだままのシンタローに。
 一歩、ハーレムが足を踏み出す。

「ハーレム、シンタローに何をする気だ!?」

 その時、響いた救いの声に。
 シンタローの、脅えきった顔が、パッと輝く。 

「さーびす、おじさん!!」

 対照的に。チッ、と舌打ちをして………ハーレムは忌々しげに、ソッポを向く。

「シンタロー。大丈夫かい? このシシマイ顔に、何かされなかったかい?」
「シシマイ言うんじゃねーよ、この魔女っっ!!」

 くわっ、と。獅子舞そのものの顔で喚く、ハーレムを完全に無視して。
 サービスは、小さなシンタローの体を抱き上げる。 

 抱かれた暖かな胸に、ほっと力を抜き。シンタローは小さく呟く。

「おじさん………オレ、なにかした?」
「いいんだよ、シンタロー」

 当時のシンタローには。大人の心の機微など、解らなかったが。
 けれど―――応えた、大好きな叔父の心は。
 どこか、晴れやかで無いように、感じ。
 不安そうに、綺麗な顔を見上げた瞬間………再び、ハーレムが。

 大音声で、叫んだ。

「お前らが、そうやって甘やかすからっっ!! コイツはいつまでたっても、自分が邪魔だってコトに、気がつかねーんだろーがっっ!!!」

 ビクリ、と。
 あまりの剣幕に。再びシンタローは、叔父の胸の内で、身を竦め。

「ハーレム、止せっ!」

 サービスの制止など、耳に入らない様子で、ハーレムは吠え続ける。

「いいかぁ!? 今は、ガンマ団が存続すっかどうかの、大事な時期なんだよッ!! テメー、やっぱり疫病神………」

「ハーレムッッ!!!」
「ハーレム。私の息子に当るのは、止めてくれないか?」

 懇願するかのような、サービスの叫び。
 そんな叔父の声を聞いたのも、初めてだったけれど。
 それに、重なった、もう一つの声。

 ―――なんて、冷たい。
 ………氷の塊を、背に押し付けられたような、気さえする。

「お前の力が足りないからだろう? それは」

 ゆっくりと。
 テラスをくぐり、こちらに近づいてくる、足音。

 いつもであれば。
 嬉しくて、叔父の腕から飛び降り………駆け寄っているはずの、人物の足音。

 ―――なのに、何故だろう。今は、体が動かない。

「おまえが気にすることは無い、シンタロー。ハーレムは仕事がうまくいかなくて、ちょっとイライラしてるだけだから」

 いつもと、シンタローの様子が違うことは、解っているであろうに。
 それとも、本当に気づいていないのか。

 にっこり、と。変わらぬ笑顔を浮かべ………そのまま、ハーレムに近づいていく。

「そうだな、ハーレム?」

 対照的に、ハーレムの顔色は。酷く悪い。

「………あ、兄貴………」

「何をしている? 子供に当たるより先に、するべきことがあるだろう」

 呑まれたように、ハーレムは頷くと。
 どこか覚束ない足取りで、踵を返す―――。

 一連のやりとりを。呆然と、見つめながら。
 その時初めて、シンタローは。
 去っていく、ハーレムの。首筋や袖から覗く、白い包帯に気付いた。  

 あの叔父が、とても強いコトは、知っていた。
 その彼に、あれほどの大怪我を負わせた、何かがあり。
 尚且つ、それを労わるでもなく『力が足りない』と、切り捨てる。

 ………コノヒトハ、ダレダロウ?

 そんな父親は、今まで知らない。見た事も、無い。

 ―――凄まじい、違和感に。 

「………パパ?」

 震えを押し殺し、必死に言葉を紡ぐと。

「大丈夫だよ、シンちゃん。シンちゃんが心配するような事は、なァんにもないからねvv」

 いつもと、同じ。優しい口調で言葉を返してくれたが。
 シンタローは、サービスにしがみついたまま、なおも訴えようとする。
 カタチにできない、その感情を。

「でも、パパ………」
「こんなに、シンちゃんを困らせるなんて。後で、ハーレムはうんと叱っておかなきゃね」

 ………コノヒトハ、ダレダロウ??
 
 大好きな、パパと。
 同じ姿、同じ声、同じ笑顔………なのに。

 ―――けして、微笑うことの無い。
 何て、冷たい………碧い瞳。




******************




 子供という生き物は、鈍感な上に、残酷だ。

 もう、その頃には。殆ど、学校に出てこない上。
 たまに来ても、一人ぼっちで椅子に座っているだけの、シンタローは。
 クラス中の、イジメの対象となっていた。

『コイツ、男のクセにカミなんかのばして、おかしいのー』
『シンタローは、オカマだー』

 ―――行く度に、投げつけられる、言葉の暴力。

 大人になってみれば。
 彼らが、無邪気であるが故に。愚かだったことは、良く解る。
 
 自分達が、ちょっかいを出している相手が。
 魔王の子である事さえ、気付かずに。

 ましてや、ヒト以外の存在であったなど。
 想像さえも、しなかったのであろう。

 それは、滑稽で、どこか哀しく。

 ―――切ないほどに、幸せな。幼年期の、終わり。



ミライノタメニ (後)




 見ようと思って、見なければ。
 「見えないもの」は沢山ある。

 あの後、何度か。
 優しいサービス叔父さんに、あの日の出来事について、尋ねてみたけれど。

 ………彼は。ハーレム叔父の行動を、庇う言葉も口にしない代わりに。

 ―――困ったように微笑むだけで。
 父親のように、シンタローが正しい、とも言ってはくれなかった。

 だから。
 シンタローは、今、ここにいる。

 初めて、一人で父親の職場である、ガンマ団に来て。
 初めて、気をつけて周りを見ながら。そこを、歩いてみた。

 幾度が父親にくっついて、訪れていた場所だったが。
 父親と一緒の時には、気付かなかった事。

 ひっきりなしに、輸送艇が。降り立っては、飛び立ち。
 その度に、大量の人間と物資が移動する。

 シンタローの傍らを。
 数台の担架と、白衣の大人達が、慌しく駆け抜けて行き。
 その光景は、初めてでは無かったけれど。
 ………以前見た時より、格段に増えている気がした。

「駄目だ、心拍停止!!」
「叩き起こせ!! まだ、攻略は終っていないんだぞ!?」

 誰も、小さなシンタローになど、気を止めていなかった。
 
 父親の影に、はにかみながらついて歩いていた時は。
 出会う大人達の、誰もが。
 皆、優しく微笑んで、お菓子やジュースを振舞ってくれた。
 マジックの仕事が終るまで、遊んでも、くれた。

 ―――息を飲んだまま。
 更に、歩きつづければ。

 暗い表情でヒソヒソ話す、大人達に出くわした。

 ―――クソッ、何だってマジック総帥は、こんな大事な時期に前線を離れて………。
 ―――千人犠牲にしても、一万人が助かればいいとさ。取り戻せるのかね。
 ―――大体。あの子供は、ヒセキガンさえ持ってないんだぜ!?
 
 シンタローと、遊ぶ事を禁じた。
 友人の親を思い出させる………重くて暗い、その囁き。

 本当に。今ならば、解るのだ。
 あの時の、胸の痛みの理由―――複雑な、葛藤が。

 ………大好きな父親の存在が、自分を苦しめ。
 同時に。自分の存在こそが、今。
 大好きな父親を苦しめているという、紛れも無い事実。

 しばらくの間、ガンマ団内を歩き回る内。
 シンタローは、聞き覚えのある声に、捕獲されてしまう。

「シンタロー!? お前、何だってこんなトコにいんだよ」

 ヒョイ、と。背後から襟首を掴み、持ち上げるという傍若無人な振る舞い。
 首を反らして、その顔を見てみると………案の定、苦手なハーレムで。
 
 だが、相手のほうは。この間の重い一件など、気にも止めていない様子で。
 ニヤリ、と笑うと。くしゃくしゃともう片方の手で、シンタローの黒髪をかき混ぜる。

「オメェ、一人で来たのか?」

 コクン、と頷くと。

 何がそんなに、嬉しいのか。
 満面の笑みで。更にぐしゃぐしゃと、乱暴に黒髪を乱され。

「どうしたよ? 兄貴に、会いに来たのか?」

 もう一度、コクン、と頷くと。

「テメ、口が無いんじゃなきゃ、喋れよ」

 むぎゅっと、唇の端をつねられ………やはり、この叔父はキライだと。
 改めて、認識したが。
 
 思っていたより、元気そうで。
 ホッとしたのも、事実。

「ハーレム。ケガ、へいき?」
「テメーな。何だって、サービスには『おじさん』で、オレは『ハーレム』なんだよ………ったく。大体、あんなモン。怪我の内にも、はいらねーぜ」

 ブツブツ、ぼやきつつも。
 ハーレムは、抱え上げたシンタローを、マジックの元まで連れて行ってくれ。
 
「………オイ、兄貴ッッ!! シンタローが来たぞ!!!」

 その時のマジックの、驚いた顔は。一生忘れられない、と思う。

「シンちゃん!! どうして、こんな所まで………」

 何かの、会議中だったのか。開け放たれた、扉から見える光景は。

 マジックを上座に据え。
 普通にしていれば、偉そうな大人達が。
 揃って、ぽかん、と間の抜けた顔で。こちらを眺めていた。

「てめーら、会議会議って、いつまでやってんだ。こっちは準備万端で、合図待ってるっていうのによォッ」

 即座に、父親は席を立ち、こちらに駆け寄ってくる。
 大きく、広げられた腕。

 しかし、シンタローは。思わずハーレムに、しがみついていた。

「………くっつく相手が、違うだろォ?」

 苦笑しながら、マジックに小さな体を、渡そうとして。
 意外な程の力で、抵抗され。ハーレムは、困惑する。

「ここまで、一人で来たのかい?」

 顔色が、余り良くない………多分、ここの所、ずっとだったハズだ。
 そんな事さえ―――今、初めて、気付いた。

 ハーレムに、しがみついたまま。ぎゅっと唇を、噛み締めて。
 大きな瞳で、ただ見つめているだけの、シンタローに。
 
 マジックは。小さな溜息と共に、視線を反らし。

「ハーレム。お前、今日はこのまま休みなさい」
「オイ、兄貴!? バカ言うなよ、オレの部隊は、今から出陣だろーが!!」

 ハーレムは目を剥いて、マジックに詰め寄り。
 シンタローを抱いていた腕が、するりと解ける。

「構わないから。シンタローを、送ってやってくれ」
「兄貴ッ、いい加減にしろよ!?」 

 自分の力だけで、ハーレム叔父にしがみついたまま。
 シンタローは。
 
 あの日、とも違う。
 哀しそうな、碧い目の大人を、じっと見つめる。

 ………コノヒトハ、ダレダロウ。
 
 ―――コノ、ひとハ………この人、は。


「………かえれる」

 不意に。
 きっぱりと、シンタローが呟いた。

「シンタロー!? ダメだ、危ないだろう!?」

 しがみついた腕を解けば。もう、小さな身体は自由だ。
 自分の意志で、動く事ができる。

「ひとりで、かえれるってば!!!」

 叫ぶと。身を翻し、駆け出した。

 ………パパ。
 お父さん、父親で―――ガンマ団総帥、マジック。

 
 ―――言われるまま、伸ばしつづけていた髪の毛。

 ―――愛玩動物のように、甘やかされるだけの、自分。


 それが。

 怒り、に変わったのは。

 ………その瞬間、だったのだと、思う。




******************




 久しぶりに、学校に顔を出したシンタローを迎えたのは、いつもの風景。

 ――――いつも通りで無かったのは、シンタローの心。
 
 初めて、父親に口答えしてから………心の一部が、壊れてしまった気がする。

 それが、何だったのか。
 大切なものだったのか、どうでもいいものだったのか。
 それさえも、解らなくて。
 ただただ、落ち着かず。ざわめく心を、抱えたまま。

 始業と同時に、シンタローは。
 教室に入ると、長らく不在にしていた、自らの席に着いた。

 すると。
 何も知らない、無邪気な子供達は。
 すぐに、今まで通り―――シンタローをからかい始める。 

『オカマのシンタロー、オカマ、オカマ』
『お前のとーちゃん、コロシヤなんだってなー、こえぇぇ』
 
 ………ウルサイ。

『コロシヤってどんなんだー? オマエのカーチャン見ねぇのは、トーチャンがコロシたからか?』

 ―――ウルサイ………イライラする、イライラする。

『キリサキジャックみたいなもんさ。ヒトの首切るより、息子のカミ、きってやれよなー』

 ―――イライラする、イライラする、イライラするッッ!!!

 ぐいっと。束ねた黒髪を、引っ張られた瞬間。
 ぶちり、と―――シンタローの中で、明確な音とともに『何か』が切れた。

「………こんなモンが羨ましいンなら、くれてやるっっ!!」

 工作用のハサミを取り出し。
 父親が今朝、綺麗に束ねてくれた髪を。一息に、切り落とすと。
 相手に叩きつけると同時に、掴みかかっていた。

 一瞬にして教室は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなり。

 ―――特殊な訓練を、受けていなくとも。
 シンタローはもともと、暴力と身近な環境で育ってきたのだ。
 箍が外れてしまえば。本人にさえ止められない、凶暴な本能。

 女の子達の甲高い悲鳴や、泣き声が響く中。

 ついには、頭を抱え。
 泣きながら許しを請う、イジメのリーダー格だった少年に馬乗りになって。
 容赦なく、拳を振るう。
 
「ナメてんじゃねぇぞ、誰に向かってクチ聞いてんだ、コラァ!!!」

 啖呵を切り―――また、殴りつけて。

 最終的に。大人達に、取り押さえられ。
 父親までが、呼び出される騒ぎとなったが。

 ―――マジックは一言も、シンタローを叱らなかった。

 それが余計に………悲しくて。

 ザンバラになった髪を、綺麗に揃えてくれた後。

 ―――学校、続けるかい? と。マジックに、静かに問われた時。

 今にも、泣き出しそうな顔で。
 それでも、シンタローは。こくり、と頷いてみた。

 それが、生まれて初めて。
 自分の『意志』で、何かを決めた瞬間だった。

 「二人を壊してしまうこと」を。
 選択したのだ、と思う。
 
 ―――――守る、為に。




******************




 その日以来、シンタローは―――元来は。
 人を惹き付ける性質の、子供だったのだから。

 キッカケさえ、掴んでしまえば………むしろ周囲の方が、放っては置かず。
 日を追うごとに、子分やら友人やらが増えて。
 
 陰口だって。
 自分さえ、それがどうした、という態度を貫いていれば。
 やがて聞こえなくなる、という事も、学び。

 にわかに忙しく、回り始める日々。

 シンタローが、自立の道を歩み始めた事を、寂しがっていたマジックも。
 やがてまた。遠征に交渉にと、忙殺される日々が続いて。

 ―――ただ、それからも。
 髪だけは、父親が切ってくれていた。

 月に一度、有るか無いかであった、休みの日には。
 会えなかった時間の、総てを埋めるように。
 色々な事を、語り合いながら。

 大きな手で。
 シンタローの望み通りの髪型に、仕上げてくれた。
 
 




 



 ―――『あの日』まで。









 そして。







 もう一度、コタローに会えますように。
 もう一度、僕らが……家族に、戻れますように。


 ………願いを込めて、想いを込めて、髪を伸ばした。




******************




 もはや、原型を留めていない、総帥室で。

 互いに、ガンマ砲を撃ち尽くした後。
 シンタローとマジックは、ぜぇ、ハァ、と。
 荒い息を付きながら、睨み合う。

「ちょっとイジらせてくれるぐらい、いいじゃないかッッ!!」
「しつっこいんだヨ、テメェ!!」

 同時に、怒鳴り合い―――不毛だ、と思った次の瞬間。
 ハッと、シンタローは我に返る。

 コレだけハデに壊してしまうと。修繕にかかる費用は、ハンパではない。
 ただでさえ、経費節減の、この折なのに。
 総務部辺りから、怒涛のように舞いこんで来る苦情は。
 現総帥のシンタローが、一身に受けなければならず。

 ―――ヤラレタ………このクソ親父め。

 大抵の嫌がらせであれば。
 最近は、聞こえないフリで聞き流して来れたのに。

 『髪』だの『昔』だのを引っ張り出す、実に見事な、ピンポイントの嫌がらせに。
 すっかり忘れていた過去を、引っ張り出され………つい、熱くなってしまった。

「別に。髪なんかに、そんなに手間ヒマかける必要、ねェだろーが」

 落ち着け。落ち着け、自分―――言い聞かせつつ。
 構えを解き、務めて冷静に、反論すると。

「しかし。きちんと手入れしてやらなければ、もったいないじゃないか」

 ………そんなに綺麗な、黒髪なのに。

 本当に惜しそうに、マジックが、そう言うものだから。
 シンタローの唇から、深々と洩れる、溜息。
 
 彼に、してみれば。

 この年齢なのに、白髪さえない。太陽そのものの、マジックの黄金色の髪の方が。

 ―――余程に、美しいと思えるのに。

「ねー、シンちゃーん。絶対、切ったりしないから」

 ちょっとだけでいいから、お手入れさせてvv と。
 
 ………だから、五十三歳にもなって、お願いvv ポーズをとるんじゃねェ………。

 シンタローは、はぁぁぁ、と息をつく。
 何だか、とっても疲れた。

「あーもう、解った解った。アトでな」

「あ、じゃあ。どれがいいか、選んでくれる?」

 わくわく、と。
 マジックが差し出した雑誌を、チラリと見ると。
 
 ソコに、ずらりと並んでいるのは………黒髪に、振袖姿の和風美人モデル達。

 ―――やっぱり、一月は振袖だよねぇvv シンちゃんの黒髪に、とっても映えるし♪

「………『息子』に振袖着せてどうするつもりだっ、このヘンタイ親父ッッッ!!!!」

 気がつくと。
 残りの総ての力を振り絞った、眼魔砲を放っていた。

 僅かに残っていた、壁の部分には。綺麗に、人型の穴が空き。
 鮮やかな放物線を描きつつ、飛んでいくマジックの姿。

 普通の者なら、命は無いだろうが。
 まァ、あの父親のコトだ。怪我一つ無く、戻ってくるであろう。

 それにしても、派手にやってしまったな、と。
 改めて。周囲の惨状を見渡す。
 ………総帥なのに。
 修理代の為に、しばらく給料カットされるかもしれない………総帥なのに。

 トホホ、と肩を落として。

 かつて、窓と呼ばれていた―――今は、硝子どころか。窓枠すら残っていない、そこから顔を出し。

 見上げた空は、鮮やかに青く。

 ………はるかに遠い、彼の人を思い出させる。

 あの子供も、また。
 二人を壊す事で始まる―――新しい未来を、信じたのだと思う。


 だから。 



 ――――髪は、切らない。



 もう一度、会えますように。
 ………もう一度、家族になれますように。


 遠く離れた、南国の空。
 茶色い犬と暮らす、小さな友達に想いを馳せ。
 
 願いながら、瞳を閉じた。







○●○コメント○●○  「とうさん」と打つと、すぐさま「倒産」と変換されるウチのパソ子に眼魔砲★
 ギャグを入れられなかった、自分にも眼魔砲★(←駄洒落と、ギャク大好き)
 マジシンに見せかけて、パプワオチですねσ(^◇^;)
 シンちゃんの髪、時代時代で結構長さ変わってるのに、パプワからPAPUWAで変わってない理由について、思ってる内に出来た、駄文デス。
 結局、年齢データとかも入手出来なかったし(;^_^A
 引っ張った挙句、こんなんで、スミマセンデシタ。





PR
ms

モトネタアリ□




 ………それは、まだ。シンタローが十九歳の頃のお話。


「ねぇねぇ、シンちゃんvv」

 柔らかに春雨の降る、昼下がり。
 ヒマを持て余した、シンタローは。居間のソファで一人、読書をしていた。

「シンちゃん? シーンちゃん、シンちゃんってば!!」

 雨の為、訓練は早めに切り上げられ。家に帰ってみると。

 最愛の弟、コタローは。家政婦さんに連れられ、一年検診に出かけていて。
 シンとした家の中。他に気を紛らわせる事も無く、始めたのだけれど。

 運の悪いことに、遠征帰りのマジックに、纏わりつかれる羽目となり。

「シンちゃん、聞こえてるんでしょ、シンちゃん!!」

 幾度呼びかけても。返事どころか、顔さえ上げない息子に。
 ピクッと、額に青筋を立てて。

 マジックは、おもむろに。シンタローの手の中の文庫本を取り上げる。

「………いい加減にしなさい、シンタロー」

「………ぁんだよ?」

 シンタローは、不機嫌そうに、ギロリと睨んでみるが。
 大抵の者がビビる、鋭い眼光に。父親のマジックが、怯むことはなく。

「もう、さっきから呼んでるのに。返事ぐらいしたらどうなんだ」

 ―――態度、悪いよ? と。
 父親面して、説教をかましてくる相手に。更に視線に、圧力を込めて。

「あのな。それだョ」
 と、シンタローが、言うと。

「え? どれだい?」
 マジックは、実にクサい演技力で。キョロキョロと、周りを見回してみせ。

 ―――9割方はワザとだと解っているので、ムカつく。
 しかし。もしも、残りの一割が本気だったならば。

 ………マジで、ムカつく。

 どっちにせよ。この父親には、ムカついてばかりなんだ、と。
 どこか悟ったようなコトを思いつつ。
 シンタローは、一応、問い掛けてみた。

「アンタ。オレがイクツだと思ってんだ?」
「ヤダなぁ、パパまだ、ボケてないよぉ。シンちゃんの、19歳の誕生日は。朝まで2人っきりで、一緒にお祝いしたじゃないー♪」

 ………朝まで云々の部分に対し、突っ込んでやりたいのは、ヤマヤマだが。
 ココでそれに乗ってしまうと、話は堂々巡りでイツまでたってもループ状態。
 最終的には、完全に話題を反らされてしまう。

 そんな、マジックの手口を熟知しているだけに―――読めてしまう自分を、哀しいとは思うけれど―――敢えてそれには乗らず。

「解ってんなら。もうすぐ二十歳の息子の名に、ちゃん付けすんじゃねぇっ!!! フツーに、シンタローって呼べ!!」

「呼んでるだろう? シンタロー」

 凄まじいシンタローの剣幕に。マジックは、あっさりと返してくるが。
 コレで納得できる程、シンタローの怒りは浅くは無い。

「いつも、そう呼べ。二度と『シンちゃん』言うな」

 何せ、思春期を迎えて以来。
 『シンちゃん』と呼ぶな、という主張はずっと続けてきたのに。
 その度、何だかんだと誤魔化され。未だに、聞き入れられていない。

 切れ長の瞳を据わらせ、キッパリ、と言い切ったシンタローに。

 しばし、マジックは何か考えていたようだが―――ちなみに、こういうやりとりの後に。マジックが、ロクなコトを言った試しは無い―――やがて、ぽん、と一つ手を打った。

「じゃあ、こういうのは?」

「ぁあ?」

 どうせ、また下らない提案だろう、と。
 シンタローが、面倒くさそうに返事をすると。

「『私の愛する、天使みたいにキュートなのに、小悪魔みたいにセクシーなシンタローvv』」

 ―――シンタローの。ヘソから下の力が、一気に抜けた。

「………あのな、マジックッッ!!!!」

 それでも、何とか気を取り直して。拳を握り締め、ギッッと、詰めよると。

 マジックは、にっこりvv と。
 それはそれは可愛らしく、小首を傾げ―――十代の少女がやれば、文句無しに愛らしいその仕草も。44歳のオッサンにやられると、もはや視界の暴力でしかない―――再び、口を開く。

「何だい?『私の愛する、天使みたいにキュートなのに、小悪魔みたいにセクシーなシンタローvv』?」

 一言一句、間違わないところが、小憎たらしい………その上。
 vvと?でわざわざトーンを変えるところなど、実に無駄に芸が細かい。

 ―――天国の母さん。アンタ、こいつのドコが良くて、結婚したんですか?

 常日頃、疑問に思っている。しかし、けして答は得られないであろう、質問を抱いたまま。
 シンタローは、頭を抱え。ぐったりと、全身をソファに埋めてしまう。

「………もういい、シンちゃんでいい」

「そうかい? 私は割と、気に入ってるんだけどねぇ」

 ………まぁ、シンちゃんがそう言うなら。今まで通りで。

 いけしゃあしゃあと抜かすマジックに。

 ―――ムカつく、訂正。いつか絶対、ぶっ殺す。

 シンタローは、そんな物騒な決意を、固めつつ。
 そもそもの原因………マジックが聞こうとしていたであろう事に、答えた。

「夕食、カレーでいい。コタローには、味付け薄めにして、シチューな」







○●○コメント○●○  珍しく、ショートにまとめられました~♪ 良かった良かった。
 ハタチ近くどころか、ミソジ近くなっても『シンちゃん』呼ばわりされてますよねー(笑)
 ちなみに、ナニがモトネタアリ□かというと。
 絶対何かパクってるハズなのに、モトネタが思い出せないんですよ~~~(>_<)
 心当たりのある方、いらっしゃっいましたら、ご一報下さい。出典入れます。
 そんなカンジで卑怯臭く、UPしたSS、時々いじくってマス。前とオハナシ変わってたら、スミマセンm(_ _)m

 ………それにしても。あうー、何をパクったのかなぁっ(>_<)(←それも解らず、UPすんな)





mms

This song is presented for you.




 某国にある、ガンマ団駐屯地において。作戦会議は、紛糾していた。

 戦況は、けして良いとは言えない。
 小競り合い程度の戦闘なら、日常茶飯事だったが。総じて、ほぼ膠着状態に陥っており。
 人間の緊張や集中力というものは、そう持続し続けられるものではない。
 本部を離れ。既に、半年以上が経過した、今。

 ―――いい加減、決着をつけねば………士気に関わる。

 今の団員達の大半は。シンタローの総帥就任後編成された、直轄の部隊である。
 昇竜の勢いたる新総帥に率いられ、勝ち戦しか経験していない―――言わば、経験の浅い者達が殆どだ。
 このまま長引いた挙句、もしもの事態が起きた時には………恐慌を起こし、自滅する危険性は、否めない。

 何とか、今年中にケリを付けたい、というのは。
 当の総帥を始め、幹部連の共通の想いであるが。

 そうは言っても。積極的に攻めるには、あまりに立地が難しかった。

 なにせ、敵の本拠地があるのは。
 罪の無い、ごくフツーの一般の市民達が暮らす、大きな街のど真ん中である。

 近くには商店街、病院、学校などの公共施設が密集していて。
 戦闘の際は、それらに被害の及ばないよう、細心の注意を払わねばならず。

 つまり、今回ばかりは。総帥の一撃必殺ガンマ砲は、完全に封じられた形である。

 更には。下手な手出しをし、逆上させてしまえば。
 こちらが、市民たちに手を出さずとも。
 長らく彼らから搾取し、虐待し続けていた敵は。
 何の躊躇も無く、これまで以上の苦難を彼らに強いるに違いなく。

 当初は、自らの力を過信しきってきた敵を挑発しては、街の外に誘い出し。
 散々に叩きのめす作戦が、有効であったが。

 しばし、ガンマ団の圧倒的勝利が続いた後………真っ向勝負では勝ち目が無い、と踏んだ相手は。
 市民の暮らしと命を盾に、本拠地に閉じこもり。
 どれほど挑発しても、本隊を動かさなくなってしまった。
 
 軽くつついた程度で、出てくるのは。せいぜい血気に逸った、下っ端戦闘員ぐらいで。
 今のところ。完全なる篭城を、決め込まれてしまっている。

 単に、こちらが諦めて去ってくれる事を、狙っているのか。
 或いは、消耗を待ちつつ、密かに兵力を補強しているのか。
 疑心暗鬼を巡らせ、攻めあぐねている内に。はや、数ヶ月が経過してしまっていて。

 ―――だから。交渉などせず、最初から部隊を全滅にしておけば良かったのだ!!
 ―――何とか、相手方の主戦力を。こちらの料理しやすい立地まで、引っ張り出せないか?
 ―――それよりも、刺客を放ち。ある程度かき回した後で、一気に集中攻撃をかけた方が良い。
 ―――それでは、市民に被害が出る。集中攻撃をかけるのであれば、包囲を固めた後だ。

 ガンマ団の方とて、今は実力で勝っていても。 所詮は、他国に攻め入っている身の上である。
 補給線が、無尽蔵のハズも無く。ソコを重点的に狙われれば、かなり厄介な事態に陥る。

 それぞれに、それぞれの根拠あっての、発言を重ねるが。
 費やした時間の割には、大した意見も出ず。誰の顔にも、焦りと疲労の色が濃い。

 激戦を重ねている時より、始末が悪いのかもしれない。

 各部隊長は、敵の動向に気を配るのみならず。
 血気に逸る部下の、士気を落とさぬよう。
 さりとて余計な暴走をさせぬよう、苦心を重ねている日々なのだから。

 時刻は、そろそろ深夜になろうとしていた。
 
 やはり、どうにも。いくら論議を重ねた所で。
 総帥抜きでは、決め手に欠ける………と。総帥側近のどん太が、こっそり溜息をついた時。

「遅くまで、ご苦労だな。ホレ、差入れ」
「あ、どーも………」

 背後から差し出された、オニギリの皿を受け取りつつ。
 どれほど本人がイヤがっても、やはり、こういう気配りは。父譲りばい、と思う。

 思えば。総帥という身分でありながら、マジック様も。
 踏ん張りどころになると、いつも。カレーやら、ハンバーグやら、サンドイッチやら。
 大変美味な、お手製の食事を、差し入れてくれたものだ。

 そして、シンタロー総帥もまた。戦況が、難しくなってくると。
 疲れた部下の為に。父親に負けないほど美味な、手製の差し入れを行ってくれる。

 ………血が、繋がっとらんばってん。やっぱあの2人ィ、親子ばい、と。
 暖かなオニギリの皿を抱きしめて、しみじみ、どん太は感動したのだが――――が。

 ………………………って。えええええぇ!?
 
「な、何で、ココにおるとですか!? シンタロー総帥!!」

 アリエナイ人物の存在に。ようやく気付いたどん太は、思わず指をつきつけて、絶叫し。
 他の全員も、慌てふためき。思わず、壁掛けカレンダーの日付を、確認してしまう。

 ―――間違いない。12月11日の次は、12月12日。
 アナログ時計であれば、針はもうすぐ頂点を差すだろう。
 そう。後、数分もすれば12日………つまりは。

 元総帥の、誕生日となるのだ。

 時差の都合上。ガンマ団本部では、既にその日付になっているはずで。
 移動時間を、考えれば。一番早い飛行船を使ったとしても。
 当然、出発していなければならないハズなのに。

 会議室の幹部連は。
 揃って、ぽかんと口を開け。マジマジと、いるはずのない、黒髪の総帥を見つめ続ける。
 会議室に姿を見せなかった、総帥は――――もちろん。
 ココを自分たちに任せ。ガンマ団本部に、帰ってくれたモノと信じ込んでいたのに。

 しかし。注目を一身に浴びている、当の本人は。
 しみじみと、呆れたような溜息をつく。

「あのなぁ。こういう状況で、司令官のオレがいる事が、不自然か? 至って自然だろーが」
「………ばってん。マジック様の誕生日は、一族全員参加が原則の、誕生日パーティが………」
「あぁ? イイ年齢して、誕生日もクソもないだろーが。大体オレは去年も出てねぇし、サービス叔父さんだって、7年もスッポかし続けてたんだぜ」

 恐る恐る呟いた、どん太の発言を。
 シンタローはきりっとした眉を寄せ、それがどうした、と言う口調で却下する。

 しかし、マジックの。
 シンタローに対する、尋常ならざる執着ぶりを知っている、周囲にとっては。
 むしろ、自らの身の安全の為にも―――是非とも、行って欲しかった。

 でなければ。確実に、最終的には。
 親子喧嘩と言う名の、痴話喧嘩に巻き込まれる、と。
 当事者の、シンタローよりも。余程に周囲の方が、把握していたりする。

「だ、だけど。マジック様は、とても楽しみに待たれとると………」
「………コレ、言いたくねぇんだけどナ。今の、ガンマ団総帥は、誰だ?」

 あの、アーパー親父を認めるのは悔しいが。

 シンタローが総帥となって、まだ一年足らず………その間。
 マジックの影響力は―――良し悪しは、ともかくとして――――相当なものであったのだ、と。
 考えざるを得ない出来事は、度々あった。

 そもそもシンタローは、当然の責任として。
 コレだけ泥沼化している、現場を放っておいてまで。
 父親の誕生日パーティになど、ノコノコ出かける気は、最初から無かったと言うのに。

 ―――夜食の用意の為、ちょっと会議に遅れただけで、この有様である。 

 やはり、団員達は。未だに、マジックのことも慕っているのだろうな、と。
 自分を卑下するワケでは、無いけれど。
 微妙に、複雑な心境で。それでも、表情だけは引き締めたまま、幹部連を睨み据えていると。
  
「………シンタロー様です」

 きっぱりと。最も信を置いている、側近のどん太が。
 真っ直ぐに、シンタローを見つめ、言い切ってくれた。

「そゆ、こと。それよか、作戦会議続けようぜ。何とか、年内に落とすぞ」

 ありがとな、と。どん太に、感謝の目配せを送り。
 シンタローは、本日のとっておき。闇ルートより入手した、敵本拠地の地図を広げた。

「さて。コイツを、どう料理してやる?」

 ニヤリと、不敵な笑いを浮かべると。
 先程までの、何となくダレてきた空気は、一蹴され―――再び、会議室は。
 心地良い緊張感に、満たされる。

 ―――焦りはしない。自分とマジックは、違う人間なのだから。
 目指す方向も、望みも、やり方も。いずれは、認めさせてみせる、と。

 ………シンタローとマジックの。総帥としての、決定的な違い。

 それは。マジックは、独善的に判断を下すことは、しばしばであったが。
 シンタローは、自分と違う部下の意見を。無下に却下する事は、無いということだ。

 例え相手が、一介の戦闘員の意見であろうと。研修中の、団員であろうと。
 意見を述べる者があれば、真剣に耳を傾ける。

 それが、マジックと違った種類のカリスマ性であり―――だからこそ。
 本当はもう、誰しもが。シンタローを総帥として認め、命を預けてくれているのだが。

 ―――だけど。

 テキパキと。皆から出てくる、忌憚無い意見を取り纏め。
 作戦の構想を練り上げつつ、頭のまったく別の場所で、シンタローは思う。
 
 まったく迷わなかった、と言えばウソになる………しかし。

 経験上、シンタローは。戦争というものが、生き物であることを知っていた。

 如何に不利であっても………逆に、優勢であっても。
 ソコに『絶対』という概念は、存在しない。
 ホンの些細なキッカケで、一瞬の内に状況が覆ることは、ままあること。

 自らが任命した幹部たちを、信じていないわけではないが。

 今。自分が、ココを離れてしまうこと。
 それこそが、キッカケになるかもしれない。

 もしも、そうなってしまえば。
 状況はガンマ団にとって、最悪の方向へと流れていくであろう、と。
 戦いに慣れた者だけが、持つことのできる。本能が、告げていたから。

 ―――離れる事など、許されない。

 それが、ガンマ団総帥として。シンタローが出した、結論だった。




******************




 会議が終わり。飛行船内に設えられた、自室に戻ったシンタローは。
 デジタル表示の置時計に、ちらりと視線を送る。

 AM1:57という表示に。スグに寝れば、5時間は睡眠が取れるな、と思いつつ。
 右手で、ガチガチに強張った肩を掴み。思い切り、首を回すと。

 ―――グリッ、ゴリッ、バキッ、バキバキバキッッ!!

 相当、ストレスが溜まっている為か。結構、凄まじい音がした。

 あいてて、と呟きつつ。幾度か、首を回す内に。
 書き物用のデスクの上。転がしたままの、携帯電話に目が止まる。

 どうせ、今日あたりは。TPOを弁えない―――そもそも、そんな概念を持っているかどうかすら怪しい、お節介なイトコから。
 仕事にならない程、大量のメールやら、着信があるだろう、と思い。
 敢えて。放り出したまま、出かけたのだが。

 見る前からウンザリしつつ、ディスプレイを覗き込むと。
 『着信アリ 568件』の文字に、絶句した。
 メールに至っては。
 メモリ容量を越えてまで、受信し続けていたらしく。今朝、総ての履歴を消したハズなのに。

 三百件残せる、その表示の総てが。
 『グンマ』の名で、埋まってしまっている………有りえねぇ。 

「………アホ、グンマ」

 げっそり、と呟くと。
 速攻で、グンマのアドレスを着信拒否・メール受取拒否リストに登録した。

 これでしばらくは、静かに過ごせるであろう………と。
 シンタローは、枕もとに携帯を放り出し。そのままベッドに、寝転がる。

 しかし、瞳を閉じても。
 身体は疲れているはずなのに、眠気が全く訪れてくれない。

 ―――気になるのなら。電話をかければいい………簡単なコトだ。

 ―――いいや、気になんてしていない。気になどならない。疲れているのだ、自分は。

 …………だけど。

 踏ん切りのつかないまま、ウダウダと。とりとめの無い思考に、身を委ねていると。


  ―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………♪


 突如鳴り響いた、不意打ちの呼び出し音に。驚いて、飛び起きる。

 さては、グンマの奴が。他人のケータイを借りれば良い、という発想にたどり着いたのだろうか。
 それにしても。グンマにしては、随分早い。キンタロー、もしくはアノマッドサイエンティストが、余計な入れ知恵でもしたのだろうか………さもなければ。

 ………もしかして。

 一つの可能性を、抱えたまま。
 シンタローは、しばし。鳴り続ける携帯を、見つめていたが。
 設定を、マナーモードにしていない以上。
 相手が、諦めてくれない限り。放っておけば、このまま鳴り続けるであろう。

 ウチの一族は、シツコイ人間が多くて、ホンット困るよナ………と。
 諦めて取り上げた、ディスプレイの表示名は、予想道理で。

 ―――深呼吸のように深い、溜息の後。おもむろに、通話ボタンを押す。

「………アンタかよ」
 開口一番、不機嫌な口調で呟いてやると。そもそもの、元凶。

「こんばんは、シンちゃん。ごめんね、遅くに………もしかして、寝てたー?」

 1、2、1、2―――と。
 何だか、ツイ走り出したくなるような。
 不似合いに、健康的な日付に生まれた、英国紳士の声が弾けた。

「寝てたに決まってんだろォ。こっちは、2時回ってんだよ」
 言ってるコトと、やってることは正反対。
 さほど悪びれた様子もなく、ウキウキと聞いてくるものだから。

 思わず、カチン、ときて。咄嗟に、そんな嘘をついてしまう。

「ゴメンゴメン。でも、そっちも十二日になったんだよね。めでたく、パパのお誕生日になりましたっ♪」

 ―――パチパチパチ。拍手っっ。

 ………せがむな。そして、口で言ってる上に、拍手までするな。
 
 ともあれ、疲労困憊の本日。親切にツッコミを入れるてやるのさえ、面倒で。
 シンタローは、相変わらずの「我が道街道突っ走り、こちらの迷惑顧みない」彼の、行動及び言動を。うんざりしつつも、黙って聞き流してみる。

 それに、呆れはしているが。
 先ほどまでの、自分らしくない状態は。否が応にも、解消され―――少しだけ。

 ホッとしているのも、事実。

「その様子だと、戻れそうにも無いみたいだね」
 シンタローの冷たい反応を、どう取ったのか。
 マジックは苦笑混じりに。今度は、まともな口調で確認してくる。
 
「あー、まぁな。今日はそっちで、勝手に楽しんでくれョ………あと、バカグンマ、何とかしといてくれ」

「あはは。グンちゃんも、初めて出来た『お父さん』だからね。私の為に、何かしたいんだろう」

「ソレにしたって、程度問題なんだョ。ストーカーよりタチ悪いぜ、アイツッッ!!」

 この一ヶ月というもの。
 シンタローが、グンマから受け続けた数々の嫌がらせは。涙無しには語れない、と思う。
 今度会ったら、絶対泣かしてやる、と。固く、心に誓っているのだが。

 ………まったく。あの情熱を、マジメな研究に向けることが出来れば。
 今頃、ノーベル化学賞ぐらいは、軽く受賞できているであろうに。

「私は。子供達の自主性を、重んじるからね」

 マジックの。言っているコトだけは立派だが、その実、完全に他人事のような口ぶりに。
 キッと、シンタローの形の良い眉が吊り上がった。

「へぇ。そんなご立派な父親なら、無理矢理長男に後継ぎを押し付けた挙句、手に負えなくなった次男を、幽閉したりしねーよな? 立派な父親を持って、嬉しいぜ」

 ―――いやぁ、立派立派、ご立派だねぇー。

 嫌味ったらしい口調で、そう述べてやると………通話口の向こう、マジックは。
 思いっ切り気まずそうな咳払いを、繰り返していて。

 ………今日ぐらいは、祝いの言葉の一つでも、述べてやろうと思っていたのに。 

 でも。結局、いつだって、こうなってしまうのだ。

 嘘は言っていないし。自分が、こういう態度をとってしまう、責任の八割以上は………マジックにあると思う。

「………用事ねーんなら、もう切るぞ。疲れてるし、オレ」
 こんな不毛な会話を続けるぐらいなら、話なんか、しない方がマシだ。

 ―――そもそも、AB型のマジックと、B型の自分では。相性は、最悪なのだから。

 何だか、エラく乙女チックなコトを思いつつ。半分自己嫌悪の、吐息をつくと。

「あ。待ってよ、シンちゃん。来れないんなら、プレゼントぐらい、欲しいんだけどな」

 ………フツー、49歳にもなって、恥ずかしげも無く、誕生日プレゼントを請求するか!?

「あー、んじゃ。何か適当に、どん太にでも買いに行かせて、送ってやるョ」

 まったく。ちゃっかりした、父親だ、と。相当投げやりに、シンタローが答えると。

「………スッゴク、心が込もってないね、シンちゃん」
 通話口の向こう。ハンカチを噛みながら、しくしく泣いている相手の姿が見えた。

 別に、シンタローに。透視能力やら、遠視能力やらの超能力があるわけではないのだが。
 見えるものは、見えるのだから―――たやすく想像がつく、とも言い換えられる―――仕方ない。

「ゼータク言ってんじゃねぇ、ったく………んじゃ、何が欲しいんだヨ?」
 面倒くさそうに、後頭部を掻きつつ、問い掛けると。

「んー。動画で、シンちゃんのピ――――ッッ(自主規制しました)画像とか♪」
「コノデンワハ・ゲンザイツカワレテオリマセン・バンゴウヲオタシカメニ………」

 言いながら。
 シンタローが、切る気満々で、終話ボタンに手を掛けた瞬間。

「わ、待って待って待ってッッ!! 冗談だよ、冗談っ!!」

 本気の気配を察したのか。取り乱した様子で、マジックが叫ぶ。
  
「………マジで、オレは疲れてっからな。次に、趣味の悪ィ冗談言いやがったら、容赦無く切るぞ」
「冗談じゃ、無いんだけどね………あああっ、マジメに、マジメに答えるからっっ!!!」

 無言のままシンタローは、再度終話ボタンに手を掛け。
 これ以上の軽口が許されない事を悟った、マジックは。必死で『マジメ』なプレゼントを、リクエストした。

「じゃ、じゃあっ! シンちゃん、アレ!! アレ、やって欲しいナvv」
「アレぇ?」
 また何か、ヘンなコトを言い出したのではないだろうな、と。
 不審そうに。シンタローが鼻の頭にシワを寄せ、首を傾げていると。

「小さい頃、パパの誕生日に歌ってくれたでしょ? ハッピーバースディ、トゥーユー♪ ってヤツ」
 とてつもなく、嬉々とした、マジックの発言に。

「うぇ。アレ、かよ」
 シンタローは。酢でも飲まされたような表情で、ゲンナリとコメントする。

 多少ローンを背負うことになっても。
 金で買えるモンを、リクエストしてくれた方が、まだマシなのに。

 ――――しかしまぁ、シンタローにも。
 去年に引き続き、今年も誕生日パーティをすっぽかす、という弱みがあるものだから。

「………どーしても、アレがいいワケ? 考え直すなら、今のうちだぞ? 今なら、ポールスミスでもディオールでも、エルメスでも買ってやるぞ」
「やだなぁ、シンちゃん。そんなのパパ、いつだって自分で買えるし」

 ちなみに、庶民派の息子は、総帥となる前は。
 ○中のバーゲンで買った、黒の綿パンとランニングを、こよなく愛用していて。

 ―――こんな、ブランドオヤジなんか、キライだ。

 2人の間の、根本的なミゾは、深まるばかりのようだ。

 ………が。ともあれ、マジックはどうあっても、引く気は無いようで。
 うっすらと、頬を染め。ポリポリ、シンタローは後頭部をかく。

「………いいか? これっきり、だからな」
「うんうんvv」

 念を押すと。即座に、期待満々の頷きを返され………腹をくくるしか、無くなって。
 おもむろに、息を吸い込み。シンタローは、やや早口に歌い始める。

 ―――ハッピーバースデイ、ディア、マジッ………。

「ちっがーう!!」

 が。途中、それを遮り。リクエスト者本人より、いちゃもんがつけられた。

「はァ!? 何が違うってんだよ、テメェ!!」

 せっかく恥を忍んで、ココまで大盤振る舞いしてやった、と言うのに。
 返答次第では、ただではおかない、というシンタローの口調に。

「昔はちゃんと『ディア、パパ』って、歌ってくれたッ!」

「………はぁあ??」
 シンタローの語尾が、思わず上がる。

 ―――このオヤジ、またワケの解らん言い掛かり、つけてきやがって………。

「『はぁあ!?』じゃないよ、シンちゃん。ダメ、もう一回やり直しっ!!」
「ふざけんなっ。一回切りだって、言っただろうがっ!!」
「だって『ディア、パパ』じゃなきゃ、納得いかない」
「アホかっ、気持ちがこもってりゃ、問題無いだろーが」
「………気持ち、込めてくれたのかい?」
「んにゃ、全然」

 しばしの言い争いの末。スッパリ、と言い切ったシンタローのセリフに。 

 ――――みぃ――――ん、とした沈黙が、辺りを包み。

「ど、どうしても、イヤかい?」

 何とか気を取り直した、マジックが。再度、尋ねてみるが。

「い・や・だッッ!!」

 それに対し、シンタローは。一文字一文字、わざわざ区切って言い返す。

「………ケチ」

 ボソリ、としたマジックの呟きに。シンタローの額に、10個程青筋が浮かび。

「てめぇ、ケチって………せっかくヒトがッッ………!!」
 喚き立てながら………顔を上げると。
 ふと視界に入った、デジタル時計は。AM2:45と、表示されており。
 
 ――――一瞬にして、どっと疲れた。

 ただでさえ、ここの所。慢性的な睡眠不足に、陥っているというのに。
 その上。何が哀しくて、こんな下らない言い争いで。貴重な睡眠時間を、削られねばならないのか。

 頭に上っていた血が、一気に下がる。

「………あ、そう。んじゃもういいわ、今年のプレゼントは気持ちだけってコトで。おめでとさん、オヤスミー」

 淡々と、それだけ言うと。シンタローは、ぷつん、と。一方的に、通話を断ち切った。

 更には、携帯の電源を切り。部屋の明かりさえ、消してしまって。
 今度こそ、眠るつもりで。ばふっとベッドに、寝転がる。 

 …………パパ、だとぉ? ふざけやがって、あの、アーパー親父ッッ!!

 心の内で毒づきつつ、目を閉じてみるが。
 
 …………大体、いつもいつもいつも、しつっこいんだよ、あのアホ親父はッッ!!!

 肉体的にも、精神的にも。相当疲れているハズなのに。

 …………何が『ディア、パパ』だよ。んな二十年も前の話、覚えてるワケねーだろーがッッ!!!!

 携帯をかけるかどうか、迷っていた時より。イライラは、かえって増しており。
 
 ――――無理矢理、瞳を閉じてみても。
 訪れるのは、心地よい眠気ではなく。際限なく湧き出す、マジックへの罵りのコトバ。

「………くっそぉ~~~~っっ、眠れねぇじゃねーか、あのヤロ~~~~ッッ!!!」

 十分ほど、悶々とした挙句。
 ガバリ、とシンタローは身を起こした。
 
「別にッッ、どうだっていいんだけどっ。このまま放っておいたら、末代までたたられそうだしなっっ!!!」

 誰が聞いているワケでも無いのに、大きな声でイイワケをしてみる。
 しかし、携帯をひっつかんだものの。どうしても、かけ直す勇気は出なくて。

「あー………でも、甘やかすとつけあがるしなっ、あのアーパー親父………」

 ハハハ、と乾いた笑い声を上げ―――ふと、我に帰る。

 ………オレ、アホ? っていうか、寒い? 
 
 こんな夜中だというのに。
 一人で、ああでもない、こうでもない、と。ボソボソ呟いている、など。
 何本か線が切れた、危ない人間そのものではないか。

 だからと言って、放っておけば。ムカつきに、一睡も出来ずに夜を明かしてしまいそうな気がして。

 ―――大体、何だってあんな親父のタメに。このオレが、ココまで悩まなきゃなんねーんだよっっ!!

 そのまま、百年来の敵でも見るかの表情で。シンタローがしばし、携帯を睨みつけていると。

 ………突然。部屋の扉が、遠慮がちにノックされた。
 
 シンタローの表情は、一瞬にして引き締まる。

 ―――誰だ? こんな遅くに。まさか、何か非常事態でも起きたのか!?

 慌てて、ドアを開くと。
 ソコには。恐縮しまくった表情で、どん太が立っていた。

「何だ、オマエかよ………どうした。何か、あったのか?」

 どうやら、この様子では。緊急を要する話では、無さそうだと。
 幾分ホッとしつつ、シンタローが問い掛けると。

「シンタロー様、夜分にほんま、スマンばい………」
 蚊の泣くような声で、どん太は非礼を詫びる。

「何だよ、言ってみろ」
 どこか言い辛そうな、オドオドした態度に。再度、促してみると。
 シンタローの目の前には。どん太愛用の、某メーカーの携帯が差し出された。
 オモチャのような、可愛らしいデザインと。着歌ができて、テレビも見られるアレである。

 ―――とか。携帯分析をしている、場合ではない。

 シンタローは。決して、カンの悪い方ではないから。
 コレで、あらかたの見当はついたが。
 当っても、嬉しくも無い想像に―――敢えて、どん太の次の台詞を待ってみる。

「その…………マジック元総帥が、緊急の用て………そのぉ………」

 キリキリキリ、と。眦の吊り上っていく、シンタローの表情に。
 すっかり怯えた、どん太の声は。次第に、途切れがちになっていき。

 が。ここで、どん太にアタるのは、筋違い、というもの。
 いかにも寝起きです、という様子の、彼の瞼は腫れ上がり。
 あろうことか、この寒いのに、パジャマに素足といった格好である。

 シンタロー同様。少ない睡眠時間を、削られながら。
 マジックの舌先三寸に騙され。必死に駆けつけてくれたどん太は、立派な被害者なのだから。

 ――――落ち着け、落ち着け自分。
 シンタローは。心の内で、何度も自分に言い聞かせる。

「………貸せ」

 ―――しかし………低く、呟き。
 ひったくる勢いで、どん太から携帯をもぎ取った、彼の表情は。
 努力も虚しく、夜叉もかくや、と思えるようなシロモノだったのだが。

「てめぇっ、何の罪も無い部下巻き込んでんじゃねぇぞ、コラアッッ!!!」

 飛行船全体を震わせる程の、大音声で怒鳴った後で。
 ぶちり、と。どん太の携帯の電源も、落としてしまう。

「シ、シンタロー総帥………」

 至近距離でまともに、ガンマ砲並みの罵声をくらった、どん太は。
 衝撃に、くわんくわんしながら。両耳を押さえ、ボーゼンと立ち尽くした。

「………いや、悪かったな。あのアホ親父には、二度とするなつっとくから。部屋帰って、ゆっくり寝てくれよ」

 携帯を返してやると、念の為『今夜は、電源入れるなよ?』と忠告をし。
 シンタローの絶叫の、余波に。ふらつく足取りで去る、どん太を見送って。

 ―――ったく、と。舌打ち混じりの、溜息をつく。

 だが。こうなりゃ、意地でも寝てやる………というシンタローの決意は。
 3分と、持たなかった―――何故ならば。

「あの、すいません、ホントにすいません………」

「総帥、その、申し訳ありません………」

「シンタロー様ぁ、お許し下さいぃぃ」

 その後も。
 続々と部下たちが、携帯片手にシンタローの部屋を、訪れたからだ。
 
 その度に、同じようなやりとりを繰り返し―――ついに、被害者5人目の辺りで。
 シンタローは折れざるを得なくなった。

「だあああああっ、解った、解ったよ、オレのケータイ電源入れてやっから。頼むから、オレの部下達の貴重な睡眠時間、削るんじゃねぇぇぇッッ!!!」




******************




 もしかしなくても。
 ガンマ団員全員の携帯番号、入手してるんだろうな、あのアーパー親父。
 ………ったく、立場を悪用しやがって。

 叫び過ぎで、微かに痛み出した喉に。顔をしかめつつ、シンタローは思う。

 ―――全員に、ガンマ団支給の携帯を解約させよう。そして、個人的に借りさせて、通話分だけ払うシステムに替えよう。でもって個人情報の保護について、厳しく通達しよう。

 新しい制度の導入を検討しつつ、電源を入れた瞬間。
 待ちかねたように、携帯が鳴った。

「歌ってくれる気になったかい? シンタロー」

 してやったり、と言わんばかりの口調は。凄まじく、カンに触るのだが。
 生憎シンタローには、もう争う気力など残ってはいなかった。

「あーもう………くれてやるから。頼むから、この大事な時期に、関係のねぇ人間を巻き込むな」

 がっくりと、肩を落としたまま、ボソボソ呟くと。

「もちろんvv だって私は、シンちゃんからのプレゼントが欲しいだけなんだから」

 ―――だって。こんな機会、一年に一度しかないのに。

 もしかして、この男。
 単に、オレで遊びたいだけじゃないんだろうか―――という疑惑が、一瞬頭を掠めるが。

 だとしても、ココまでくれば。覚悟を決めて、歌うしかない。
 嫌がらせに屈するのは悔しいが、何せ相手は数千キロ彼方の空の下。
 実力行使で沈めてやる事は、不可能なのだから………今度会ったときまで、拳は取っておこう、と。
 いささか物騒な決意を固めて。

 けほん、けほんと、咳払いを二回。

 ………やはり、かなり恥ずかしい。

「ええと。あ――――」

 マジック相手に、散々喚き立ててきた為。声はやや、掠れている。
 幾度かの、逡巡の末の発生練習。
 
 ――――まぁ、聞き苦しい程でもないか。
 ハスキーで色っぽい、と言えるかも。

 ヤケクソ気味に、開き直ると。最後にもう一度だけ、軽く咳払いをし。
 シンタローは、おもむろに口を開く。

 ………Happy birthday,dear papa………Happy birthday,to you………

 それなりに『心』とやらも、込めてやり。
 今度こそ、シンタローは、歌い終え――――訪れたのは、しばしの沈黙。


 ……………………………………………………………………………………ぷちっ。


「あのなっ、ココまでやらせておいてッッ!!! アリガトウとか何とか、人間の基本的なコトぐらい言えねーのかっっ、このクソ親父はッッ!!」

 アレだけせがみ、騒ぎ立てたクセに。
 いざ、歌ってやると、ウンもスンもない。余りに無反応な、マジックに。
 居たたまれない程、恥ずかしくなってきたシンタローが、猛然とくってかかると。

「あ、ごめん。何かちょっと、感動しちゃって………ホント、ありがとうね、シンちゃん」

 更に0.5秒程、ズレたタイミングで返ってきた、マジックの声は………少し、震えていたから。

「まぁ、アレだ。イクツになっても、誕生日はめでたいモンだしな」
 ここまで感動されると………余計に、居たたまれなくなり。
 やたらに親父クサイコメントを述べ。
 
 ―――こんなコトなら。ゴネたりせずに、もっと素直に歌ってやれば良かったかな、と。
 少しだけ、後悔したが。まぁ、喜んでくれたなら、結果オーライというコトで。
 
「………シンちゃん。愛してるよ」
「アホぅ。同性愛は、非生産的なんだろーが」

 続けられた、囁きには。相変わらずの、手厳しいコメントを返してしまうが。
 内容程、彼の口調は厳しく無く。

「私たちは、親子だからね。愛し合って、全然問題ナシだよーvv」
「………余計にマズいだろォが。いいかげん己の言動に、責任持てっつーの」

 毒を喰らわば、何とやら、だ。
 ここまできたら、眠ってしまうまでは、付き合ってやるか、と。
 シンタローは、押し寄せる気だるい疲れに身を任せ。
 一仕事終えた後ような、満ち足りた思いで。ベッドに、倒れ込む。

 どうせ、通話料金は相手持ちだ―――ソツの無い父親だから。そういう事も、計算の上に違いないけれど。

「シンちゃん、いつ頃には帰ってこれそう?」
「………ぁふ、年明け、かな」

 欠伸混じりに、適当に相槌を打つ。

 ………あ。何か、すっげー、眠たくなってきた。

 戦況が膠着して以来、余り眠れていなかったのだが。
 シンタローは。久々の強い睡魔に襲われ、欠伸を繰り返す。

 強いストレスを受けている時。精神は休まらず、ヒトは眠れなくなるものだ。

 深夜にベッドに潜り込んでも。寝付くことが、出来ず―――うとうとしては。
 戦闘中の、それもとびきりの悪夢に襲われ、飛び起きる。
 その繰り返しで、いい加減………疲れ切っていた。

 ―――夢の中まで仕事するほど、勤勉なタイプじゃなかったのにな、オレ。
 苦笑して、瞳を閉じると。急速に意識は、薄れてゆき。

「パパの、大切な。綺麗で、可愛いシンちゃん――――」

 …………寒気がするから、止めろっつーの。

 呟いたハズの言葉は、声にならない。

「シンちゃん………シンタロー? 眠ってしまったのかい?」

 マジックの。耳障りの良い、低い囁きに身を委ねたまま。


 ―――今夜は。夢のない眠りを貪れそうだ、と思った。







○●○コメント○●○  予告しておりました、「Happy birthday,dear papa」の裏事情。
 メールに関するエトセトラです。
 どん太の嘘っぱち博多弁はあまり気にしないでくださいネーvv
 ちょっと、4巻読んで内容変えたくなってしまったのですが………ドコをどういじったらいいか決めかねて、結局このままアップ(^^ゞ
 その上、また恐ろしく長いです。ストーリーのシェイプアップが今後の最重要課題ですね、カケイの。
 ………え? ご期待の内容と違いますか??
 おかしいなァ………(笑)
 ともあれ、お色気息子とナイスミドルに、幸多かれ♪♪ と毎日祈ってマス。





mmm

GIFT




 朝というものは、爽やかなものである、と。
 古来より、相場は決まっている。

 ましてや今は、薫風さやかに窓辺を渡る、皐月の盛り。
 一年で最も、清清しい時期のはずなのに。
 
 今朝のガンマ団は、何やら。
 凄まじい殺気と、欲望渦巻く。不気味な、紫色のオーラにすっぽりと包まれていた。

「………ドコだべッ!?」
「ダメだっちゃ、こっちにもいないっちゃよ!?」
「あっちにも、おらんかったけんのぉ!」
「わて、向こう見てきますわ!!」

 切羽詰った形相で迷走する、伊達衆及び、一般の団員達。

「いいか、オマエら? 見つけられなきゃ、全員、今月の給料は無いと思え!!」
「―――エエッ、また今月もタダ働きッスかッ!?」
「…………(泣)」
「その代り、あの方を捕まえれば。特別ボーナスですね?」

 タダでさえ、オットダラケで。潤いに欠けるガンマ団だというのに。
 名も無き雑兵から幹部に至るまで、団員達の尽くが。
 血相を変えた挙句、猫の子一匹見逃さないという血眼で、東奔西走している光景は。
 物々しいを通り越し、暑苦しい程だ。

 ………一連の騒ぎを。
 元総帥室の、高い塔より見下ろしていた、マジックは。

 苦笑を浮かべ、窓際から離れると。
 室内の、何の変哲も無い、真白な『壁』の前に立つ。

 軽く拳を握り締め―――決められた位置を。
 決められたリズムで、決められた回数だけ、叩くと。

 カチリ、と。歯車の合わさる音がして。
 『壁』は、内側から開いた。

 ごく限られた、一部の者しか知らないが。
 対ガンマ砲設備もカンペキな、この『元総帥室』には。
 主の趣味により。隠し通路に隠し部屋、隠しカメラに隠しマイク、更にはガス噴出装置etcetc………まさに『付けられる機能はみんな付けちゃえ~♪』ばりの装備が、施されていたりする。
 
 ちなみに。この、完成した『元総帥室』を披露した際。
 代替わりした直後の息子には「いらん設備に散財すんな、忍者屋敷じゃねーんだぞッ!!」と、激しく叱られたものだったが。

 ちゃんと、今。こうして役に立っているのだから。

 ―――やっぱり、人生って。備えあれば嬉しいナ、だよねぇ♪

 微妙に間違ったコトワザを胸に抱き。『隠し部屋』の、入り口をくぐると。
 6畳程の空間に。壁と向い合わせに、デスクが一つ。

 その前を陣取る黒髪の青年は、忙しそうに書類を繰っていた。

「………どうだ?」

 こちらに背を向けたまま、短く問いかけてきた彼………シンタローに。
 マジックは、上機嫌に報告を返す。

「今の所、異常ナシだよvv あ、そうそう………」
 引き締まった背に流れる、ぬばたまの艶やかな髪に。
 思わず見惚れつつ、言葉を続けようとする、が―――。

「現金。スイス銀行、振込みで」

 ……………………しばしの、沈黙の後。

「シンちゃんッッ、聞く前から答えないでくれるっ!!??」

 相変も変わらず。とりつくシマの無い、長男の態度に。
 ハンカチを噛み締め、抗議をしてみるが。
 振り向くことなく、シンタローは。キッパリした口調で、たたみかける。

「等身大のアンタ人形はいらねぇ。もちろん、ミニマスコットもいらねぇ。ポスターなんぞ押し付けやがったら、目の前で燃やすぞ」

 デスクに向かい、書類を読んでいるせいで。
 普段ピンと張られている背筋は、前屈みの姿勢となり。
 そこから、機嫌がサイアク、というオーラが立ち昇っている。

 ―――その様子は、まるで。気が立った猫そのものである。

「でも、さぁ………やっぱり。プレゼントって、お金には代えられない、心に残る何かが良くない?」
 珍しくも、マジックは。真っ当な不満を、主張してみたのだが。
 生憎、ご機嫌斜めのシンタローの内部に、特に感銘は呼ばなかったようで。

「貰うのは、オレだ。だったら、リクエストする権利もオレにある」

 ――――ロクでも無いもの押し付けやがったら、その場で燃やしてやるという。
 確固とした、意志を示されただけに終わり―――そして。そんなヤリトリの間にも。

 カリカリと、シンタロー愛用の万年筆は、動きつづけ。
 マジックの方へ、顔を向ける素振りすら無い。

「シンちゃぁぁ~~~ん。まだ、怒ってるの~~~~???」
 マジックはついに音を上げ。非常に情けない声で、最愛の息子にお伺いを立た………その、瞬間。

 ―――ファンファンファンファン!!!!

 某アニメの「敵機来襲!!」を彷彿とさせる、けたたましい警報音が。
 秘密の小部屋に、響き渡る。

『…………来た』

 珍しくも。親子の心情が、ピッタリ重なった。

「………いいか、てめぇ。解ってるだろうな………」

 さすがにその手は、止まったものの。
 それでもまだ、デスクの書類に、目を落としたまま。
 声だけにドスを効かせ、シンタローが念を押すと。 

「だァいじょぉぶッッvv パパに任せておいてよ、シンちゃんvvv」

 ………根拠は何だろう、と疑いたくなるほど。
 マジックは、むやみに自信満々に。どんっっと、厚い胸板を叩いてくれて。

 ―――ほんっとーに、任せて大丈夫なんだろうな、コイツッッ!!??

 そのあまりに軽い態度に、却って不安が増したのだが。
 振り向くコトは、ぐっとこらえ。再び、万年筆を動かし始める、シンタローの。

 その、背中越しに。
 大丈夫だよ、と………もう一度、声を掛けて。マジックは、隠し部屋を後にした。




******************




 入り口のロックを、解除すると同時に。
 息せきって飛び込んできたのは、天使のように美しい青年。
「お父様、お父様ッ!! シンちゃん、ココにいるんだよねッッ!!?」

 甥だと信じて、疑ったことさえ無かったのに。
 何と実の息子だった、というオチがついた、グンマ博士と。

「もちろんですよ、グンマ様。この高松の頭脳にかかれば、シンタローがドコに隠れようと、一目瞭然ですともッッ!!!」
 その後ろから。
 このヤヤコシイ事態を作り上げてくれた張本人の、高松………そして、もう一人。

「―――むしろ、オレ達以外がココに押しかけていない方が、不思議なんだが」

 真実を微妙に掠った呟きと共に、肩を竦めるのは。
 ある日突然、現れて。息子かと思ったら、実は甥だったという。
 それはそれは、複雑な出生の(公然の)秘密を持つ、キンタロー。

 ―――正直、厄介だな、と。マジックは内心で顔を顰めた。
 訪れたのが、グンマと高松だけであれば。
 煙に巻くことなど容易いと、思っていたのだけれど。
 
 が、もちろん彼とて。
 伊達に長年ガンマ団総帥として、クセ者揃いの組織に君臨し続けていたワケではない。
 そんな本音など、微塵も感じさせない態度で。
 
「え? 今日は、来てないよ」

 いけしゃあしゃあと。如何にも、予想外のコトを耳にした、という態度で。
 不思議そうに、首を振って見せた。



 ―――一方、その頃のシンタローは。隠し部屋内に設えられた、モニターを通じ。

 うっすらと、冷や汗を浮かべ。祈るような、想いで。
 一連のヤリトリを、見守っていた。

『えぇ? じゃあ、お父様。何でそんなに、落ち着いてるのさ?』

 モニター越しに聞こえる、彼の疑問に。
 グンマにしては、鋭い所を付きやがる………と。思わず、舌打ちが盛れたが。

 イトコという、立場上。
 物心ついて以来、マジックのシンタローへの執着ぶりは。
 常に間近で、見せ付けられてきた、彼であるから。当然といえば、当然の疑問だ。

 ―――頼むから。こんな所で、尻尾を出すんじゃねーぞッ!!??

 シンタローの、切実な願いを知ってか知らずか。
 マジックは、動揺すること無く、むしろ至って余裕の表情で。
 あっさりと、言葉を返した。

『だって。どうせ後で、パーティで会えるだろ?』

 ―――まァvv 何て、物分りのイイ、賢い坊ちゃん………っていうか。
 アンタに限り、そのコメント、恐ろしくありえねぇッッ!!!

 対象者のシンタローでさえ、突っ込みたくなる。
 まったくもって、らしくない、マジックの台詞に。

『…………マジック様。あからさまに、怪しいですよ』

 案の定。グンマの腰巾着、高松から冷静な突っ込みが入り―――息を詰め、見守るシンタローの前。

『んん? 怪しくないよ』
 ニコニコと、マジックは。それはそれは、愛想良く微笑んで。

 ―――次の瞬間。
 凄まじい爆弾を、投下してくれた。

『だって。日付変更線越えて、今朝方まで、あの子の部屋でお祝いしてたんだもん~~~vvv』

 ―――やっぱり、こういうのは。一番最初に、オメデトウって言いたいからねぇ♪
  ちなみに、シンちゃん起こさないように、帰ってきたから。その後は、知らないんだよネvv

「…………!!!!」

 シンタローの目前が。鮮紅色に染まり。
 理性の総てを総動員し、タメ無し眼魔砲の連射を抑える。

 100%事実無根だ、と言い切れないトコロに………尚更。
 ぶつけられない、怒りが。凄まじい勢いで、内圧を高めていき。

 ギリギリギリ、と。
 歯軋りしつつ、モニターをにらみ続けていると。

『今、何か聞こえなかったか?』

 画面の向う側。キンタローが、ボソリと呟いて。

 沸点寸前だった、シンタローの頭から。一気に、血の気が引いていく。

 ………まさか。隠しカメラの存在に、気づいたのであろうか。
 一見したところで、解るような位置にはないのだが………真っ直ぐな彼の視線は。
 明らかに、コチラに焦点を据えており。

 イヤなカンジの冷や汗を掻きつつ。
 シンタローはカチンコチンに固まった。




******************




「今、何か聞こえなかったか?」
「さぁ、別に? 気のせいじゃない?」

 キンタローの問いかけに、マジックは。
 間を空ける事無く―――さりとて、不自然なほど早すぎもせず―――ごくあっさりと、答え。

 自分に気づかれていることは、解っているはずなのに。
 ………さすがだな、と。改めて見なおした。
 
 グンマと高松はまだ、巧妙に隠されたカメラの存在には、気づいていないようで。
 どうしたものか―――キンタローが、迷っていると。
 彼にだけ、解るように。マジックが、小さく目配せし。

 数秒の逡巡の後、キンタローは。
 カメラのある位置から、目を逸らして………小さく息を吐く。

 そもそも、浅からぬ因縁―――というより。
 二十四年の長きに渡り、自分は彼の内に在り続けたのだから。

 その居所も、気配も。
 幾ら巧妙に隠されたところで、解ってしまう。

 もちろん。この壁を隔てた先に、シンタローが隠れているコトなど。
 この部屋に入る前から、ちゃんと解っていた。

 そもそも。本人よりも、その気持を理解しているキンタローは。
 よりによって、今日。『この日』を邪魔するつもりは、毛頭無かったのだ。

 ―――それでなくとも。ヒトの恋路を邪魔する者は、ウマに蹴られて、死ぬらしいし。

 だが。もう一人の大切なイトコ、グンマの見解は、まるで違っていて。

「お父様とシンちゃんが結婚したら、シンちゃん、僕のお母様になるんだからッッ!! 僕はシンちゃんの特別なの~~~~~~ッッ!!!」

 男にしては高いキィの声で、涙ぐむ姿は。
 まるで………数年来の片恋の挙句。今日こそ告白する、と思い詰めた乙女のようだが………言っている意味を、理解しての発言なのだろうか。

「如何にマジック様とは言え、グンマ様を泣かせるのであれば。この高松、遠慮はしませんよ!!??」

 言いながら、懐から。うじゅるうじゅるした、紫がかったナゾのナマモノを取り出す高松は。
 自分同様、総てを解っているクセに―――どうやら、完全に悪ノリしているらしい。

 敵に回したくない伯父と、最愛の分身を取るか。可愛い従兄弟と、自分たちの保護者を取るか。
 『表』に出て。まだ、一年足らずの年月しか過ごしていない、キンタローが。
 ちょっと、自分の手には余る、と思われる問題に………葛藤を抱いた瞬間。 
 
「シンタローが、いたべッッ!!!」

 ―――中庭から、歓喜に近い絶叫が上がる。

「え、ウソ!! シンちゃん、ドコドコ!!??」

 途端に、グンマは。日頃のおっとりのんびりぶりを、かなぐりすて。
 殆ど瞬間移動のようなスピードで、窓辺に走り寄る。

 高い塔から見下ろした、彼の視界を掠めて、消えた。
 
 ―――長い黒髪を、なびかせた。
 真っ赤なジャケットとパンツの………後姿。

 後姿だけでも。
 見紛えようも無い。よく見慣れた、大好きな従兄弟の『シンちゃん』の姿。

 大きな瞳を見張ったまま、見下ろすグンマの視界の中。
 更に、後からどやどやと追いかける、伊達衆やら叔父やらの集団が通過していき。

 ――――このままでは。彼らに、シンタローを奪われてしまう。

「行くよ、高松、キンちゃんッッ!!」
「え!? ぐ、グンマ様!! お待ちください~~~~~~!!!」

 キッと顔を上げたグンマは、窓辺から身を翻すと、一目散に駆け出し。
 それに、慌てて高松も続く。
 
 怒涛の勢いで、駆け去っていった二人を、見送っていると。

「アレ? キンちゃんは、『シンちゃん』を追いかけないのかい?」

 ぬけぬけと言い放つ、マジックの表情は。
 悪戯を成功させた、少年そのものだ。

 総て、仕組んだ上で。
 それでも。キンタローだけは、見抜いていると、解っているクセに。

「………伯父貴」

 ―――つくづく性格の悪い、問いかけに。
 この男に、本気で執着されている、半身の不幸を想うと………もう。
 絶望的な溜息しか、出ないのだけれど。
 
 それでも一応、これだけは言っておこう、と。キンタローは重い口を開く。

「言うまでも、無いだろうが。茶番は、夜までにしてくれよ」
「解ってるって♪ 協力してくれるよね、キンちゃんも」
 むしろ。あわよくば共犯者に仕立てよう、という意図を。
 隠そうともしない、明るい即答に。

「………何のことだ? オレは、アイツらと『シンタロー』を、追うぞ」

 ―――努めて淡々と、言い置くと。
 キンタローは。苦手な伯父に、背を向けた。

 


******************




 壁向うの秘密の小部屋に戻った、マジックを迎えたのは。
 
「てめぇっ、いらないコトを、べらべら喋るんじゃねぇぇッッ!!!」

 仁王立ちで。腕組みの上に、柳眉を吊り上げたシンタローの姿。
 美人が本気で怒ると、大変に怖い――――しかし。
 
 マジックは。にへらっ、と頬を緩めた。

「あ。良かった、やっとこっち向いてくれた」
 ―――機嫌、直ったんだねvv

 その指摘に、シンタローは。
 今朝方立てたばかりの―――今日一日、絶対にマジックとは、視線を合わせねぇッ!!―――という固い固い誓いを。
 怒りのあまり、あっさりと破ってしまっている、ウカツな自分に気付く。

 しまった、と思うが………こうなってしまえば、後悔など役に立たずで。
 やたらに嬉しそうなアホ父親から、ほんのり頬を赤らめ、プイッと顔を反らす。

 そんな、ささやかな抵抗こそが。
 ―――もう、可愛くて、可愛くて、可愛くてッッッ!!! と。
 こっそり横を向き、鼻血を拭っている、マジックに。

「さっきの………ジャン、かよ?」
 シンタローの唇から、洩れた呟きは。問いかけではなく、確認だ。

 他のガンマ団員は、ともかく。
 長い付き合いのグンマでさえ、騙されるのも………無理はない。

 シンタローは。ジャンと寸分違わぬよう、青い秘石により、創り出された存在なのだから。
 背格好や顔立ちはもとより。気配さえもが、まったくの彼の相似形。
 故に、彼がその気で演じれば。
 逃げていく後姿だけで、そうと見抜けるものは。殆ど皆無に、違いない。
 
 ―――さすがに。
 かつてシンタローと『同じモノ』であったキンタローだけは、騙されなかったようだが。

 ………結局、オレは。何者なんだろうな。

 埒も無いことを、ふ、と思い――――慌てて、その思考を打ち消して。

「サービス叔父さんに、叱られるぞ?」
 とにかく、遅れた仕事を取り戻そうと。再度デスクに向き直ろうとした、が。
 
「ところで、シンちゃん。パパ、自惚れていい? ………今、ここにいてくれるってコトは」
 突如、話題を変えたマジックの。次の台詞は、容易に想像できて。

「パパとの時間を、選んでく………」
「んなわけ、ねェだろッ!! オレが今日、ドコに隠れた所で。てめぇだけは、地の果てまで追って来るだろーがッッ!!!」

 シンタローは、最後まで言わせる事無く。鼻息荒く、マジックに詰め寄る。

 かつて。地図に無い絶海の孤島、パプワ島にまで。
 自分を求めて、現れたように。

 この父親の、自分に対する執着は、ハンパではないと。骨の髄まで身に染みている。
 どうせ、見つかって邪魔をされるのなら。逃げ回る時間がムダだ、という合理的な(或いは、後ろ向きな)思考で。

 ―――だから、仕方なく。
 これ以上、仕事を邪魔されたくないから、ココでやってんだよッッ!!!

 まったくもって。迷惑極まりない、アーパーオヤジめ!!! と。
 シンタローは、力一杯の主張をしてやった、というのに…………。

「もちろん。パパ、その自信があるよーvv」

 ………誉めてねぇっつーの………って、ああもう。
 トロケそうな表情で表情で、コクコク頷いてんじゃねぇッッ!!!

「だぁぁ、もう!! 無駄口叩いてないで、サクサク手伝えッッ!!!」

 ―――大体。テメーの陰謀で、遅れた書類なんだヨッッ!!!
 
 先月の今頃は、まだ普通に遠征の真最中だった。
 何だか、スケジュールが操作されている? と気付いたのが、一週間前………だが。
 気付いた時には、総てが遅かった。

 その時には、シンタローの予定は。
 5月の半ばから、終盤近くまで。本部での決裁事項の処理が、きっちり詰められていて。
 
 挙句、尊敬する叔父のサービスに。

『兄さんに、幹事を任命されてね。盛大なパーティを用意して、待っているから』
 などと宣言されては、どうしてシンタローに否やを言えよう?
 
 ―――チクショウ。謀りやがって。

 もちろん、コレは。単なるマジックのワガママだけではなく。
 ただでさえ、実の息子ではない上に。
 まだまだ経験浅い自分の、地盤固めだ、という事は解っている。

 こういった。他の組織の人間等も招き、権勢を誇示するコトも。
 戦略的に、非常に重要な手段である、と。

 けれど。ココまで、お膳立てしてもらえなければ。
 解っていて………どうしても現場を、離れられなかった。

 部下の命を、預かっている間だけは。
 確かに自分が、ガンマ団総帥、シンタローだという自信を持てたから。

 自分が何者なのか、など。
 考える暇も、無かったから。

 その。複雑なシンタローの胸の内を、知ってか知らずか。

「それでね、シンちゃん。プレゼントなんだけど………」
 
 ――――だぁぁ、シッツコイっつー…………あ。

 その瞬間。大事な事を思い出した、シンタローは。
 再び、般若のような形相となり、マジックに詰め寄る。

「そうだ、テメェ!! アレ消せ、消しやがれッッ!!!」

 『アレ』とは。
 かつて、アーパー父親の誕生日に、強奪された挙句。
 着歌に登録され、団内中のサラシモノにされた、シンタローによる誕生歌のコトである。(*注「Happy birthday,dear papa」(参照))

「え? 着歌は、止めたよ」 

 突然の息子の剣幕に、戸惑ったように、瞬きを繰り返しているが。
 シンタローが、これまで彼と過ごした(振り回され続けた)、25年の年月は伊達ではない。
 『着歌は』ということは、他のナニかには使っている、というコトだ。

「今度は、何に使ってやがる、あぁん!?」 
「あああ、ホラホラ、シンちゃん? 書類終らせないと~~~♪」
 ドスを効かせた、シンタローの脅しに。
 マジックは、不自然な感じで、話題を反らそうとするが。

「誤魔化すんじゃねぇ、言えッッ!!!」

 ―――そんな単純な誤魔化しに、引っかかるハズがなかろう。ってーか、バカにしとんのか、このアホ親父わッッ!!!

 しかし。場所が場所なだけに、眼魔砲はカマせない。
 こんな狭い完全密室で、そんなモノを撃ってしまえば。
 自分も真っ黒コゲになることが解らないほど、アホではない。

 仕方なく、更に視線に圧力を込め、睨み据えていると。

「………あのね。目覚まし専用」
 観念した様子で、あっさり白状する。

「目覚ましィ?」
 思っても見なかった答えに。シンタローが、虚を付かれた表情でいると。
「だからね。携帯で使ってたら、シンちゃんが怒ったから。今は、目覚まし代わりにしてるんだ………今は部屋のベッドの脇に、置いてるんだけど」

 一度、言葉を切ると、マジックは。意味深に、首を傾げてみせる。

「どうしても、消して欲しいなら。今からベッドまで、取りに来るかい?」
「誰が行くかッ!!!」

 コンマ0.2秒を切る、シンタローの即答に。

「そう? パパなら24時間、365日体勢で、ウェルカム♪♪ なのに」
 マジックは残念そうに、肩を落とす………それは、間違いなく本音であるが故に。
 ノコノコ取りに行ったりすれば、その後の展開は、火を見るより明らかで。

 これ以上、この件について追及する事は………自らの首を締めるだけだ。
 そう悟った………というより、悟らざるを得なかった、シンタローは。

「~~~~~~~ッッッ!!! 口はいいから、手を動かしやがれッッ!!!」

 ―――チックショウ、謀りやがって、謀りやがって、謀りやがってッッッ!!!!

 キリキリ、眉と瞳を吊り上げたまま、今度こそ猛然と書類の山に立ち向かう。

 そんなシンタローに。
 マジックも、軽く肩を竦め………昔取った杵柄である、書類業務の手伝いを始めた。
  
 2人きりの、秘密の小部屋に。
 しばらくの間。ペンの走る音と、紙ズレの音だけが響き……………………………。

 ………………………………………………………………………………………………。

 ………………………………………………………………………………………………。

 ………………………………………………………………………………………………。

 ………………………………………不意に。マジックが、呟いた。

「そうそう、シンちゃん? 手を動かしてたら、口も動かしていいんだよね?」
「ンだよ」

 どうせ、また、ロクでもないことをぬかすつもりだろう、と。
 身構えたまま、横目で睨みつけると。

「公式のプレゼントは、パーティの時に渡すけど………もう一つ、ね」

 トントン、と、シンタローの決裁済みの書類を、揃えつつ。
 ニッコリ、と笑い…………おもむろに、口を開いた。


 ―――Happy birthday,to you――――


 …………やけに、シツコイと思ったら。どーしてもコレが、やりたかったワケね。
 シンタローは半ば呆れて、肩を落とす。

「………うっせーぞ」
 それでも、止めろ、とは言わない。
 父親の声は………声だけなら、割と好きなのだ。


 ―――Happy birthday,to you―――


 彼の唇から、紡がれる。
 耳に心地よい、うっとりするような、テノール。
 

「………オンチ」


 ―――Happy birthday,my dearest son.happy birthday,to you…………。


 最後のフレーズが終わると。
 シンタローの手は思わず止まり………整った彼の横顔を、マジマジと凝視していた。

 その視線に、気付いているのか、いないのか。
 マジックは、何食わぬ顔で。決裁済みの書類を纏める作業を、続けている。
 さすがに、慣れたもので。その動きは、一連の流れのように、正確で、無駄がない。

 ―――この調子ならば。期限内に、事務処理を終わらせる事が、可能かも知れない。

 今は、滅多に見られ無いその姿に。シンタローはしばし、視線を捕われ。

 ………ふ、と。
 零れるような、吐息と共に―――その肩から、力が抜ける。

「サンキュ………」

 小さな、感謝の囁きが。
 秘密の小部屋を、甘やかに満たした。









○●○コメント○●○  携帯繋がりで、ネッッvv って、いつから続き物に???
 すみません。珍しく、マジシンがネタ切れ起こしたので。
 遅れた挙句、無理矢理捻り出しました。うっわぁ、纏まりナーイ(-_-;)
 …………お、オメデトウの気持ちだけです。
 それしか、持ってないんです~~~~~(泣逃) 





mm

此処に、在れ (前)




 玄関の開く、気配がした。

「遅いベ、トットリ~!! 待ちくたびれ………」

 買出しに出たまま、中々戻ってこない親友を。
 すきっ腹を抱え、ひたすら待っていたミヤギは。
 猛ダッシュで、玄関に走り出たのだが。

「ハーイ、スペシャルゲストだっちゃわいやー♪」

「………よォ」

 ニコニコ笑う、トットリの後ろ。
 バツの悪そうな顔で立っている、予想外の客人の姿に。
 
 パチパチ、と瞬きを繰り返す。

「………シンタローでねぇか。どしたべ?」
 
「何かー。その辺で、途方に暮れて座り込んどったから、拾っ………ムグッ!!!」

 無神経と紙一重の、相も変わらない素直さで。
 ベラベラ喋り始めた、トットリの口を。
 背後から抱え込むように塞いだ、シンタローは。

「いいから。今夜、泊めろヨ」と。
 頼んでいるというより。オレ様モード全開の命令口調で、そう言い放つ。

「って………ええんだべか? しばらくは『家族水入らずで、過ごすからvv』とか、マジック様が浮かれまくっとったべ?」

 思わずミヤギが、首を傾げていると。

「イイんだヨっ。ホラよっ、差し入れッ!!」

 ミヤギの手に、グイッと、コンビニの袋を押し付け。
 返事も待たずに、さっさと上がり込んでしまう。

「むぐっ、もが~~~~ッッ!!(ミ、ミヤギくぅ~~~~んっ!!)」

 口を塞がれたままの、トットリは。
 助けを求める視線で、奥へとズルズル引きずられていき。

 残されたミヤギは。
 渡された袋の中味が、酒とツマミの類で占められているのを確認し。
 そっと、溜息をつく。

 某ネクラの京美人に。ニブイだの、顔だけだの散々罵られている、彼にさえ。
 
 ―――まぁ。
 何かあったんだろうな、という想像が、簡単につく展開。

「何やってんだよ、ミヤギ、とっとと来いッ!!」

「もがもがふが~~~~ッッ!!!(助けてぇ~~~~ッッ!!)」

 まったく、これじゃ。どっちが客だか、解らないべ、と。
 軽く肩を竦めた、ミヤギは。

 オレ様モード全開の珍客と。それに拉致された親友兼恋人の、後を追い。
 リビングへと、急いだ。




******************




「うっわー、んだよこの貧しい冷蔵庫ッッ!!」
 ―――ったく、しかも汚ねーぞ、この部屋ッッ!!

 勝手に上がり込んだ挙句、勝手な文句をつけ。
 更には勝手に、冷蔵庫まで漁り始めた、シンタローに。
 
「………シンタロー、すっごく偉そうだわいや」

 ようやく解放してもらえた、トットリが。呆れた顔で、呟くと。

「あぁん? 偉いんだよ、オレはッ」

 ホメてもいないのに、威張った様子で。
 冷蔵庫から。なけなしの食材である、キムチと卵を(やはり勝手に)取り出し。
 久しく使われていなかった、ガス台に向かい、何やら調理を始めた。

「オイ、オメーらもっ! ぼーっと突っ立ってないで、皿用意して、その辺片付けてろっ!!」

 その上。堂々とした宣言を裏付ける、偉ッそーな指示を飛ばされて。
 思わず顔を見合わせた、ミヤギとトットリは。

 どちらからともなく、つい、吹きだしてしまい………。

「………笑ってねぇで、さっさと動けヨ」
「あー、ハイハイ。っても、ナニから手ぇ付けたらいいんだべ?」
「ミヤギくん、ボク、部屋片付けるから、おツマミ並べててくれるだらぁか?」

 あの島で過ごしていた時と。変わらない、彼の様子に。
 ―――良かった、と。単純に、嬉しくなって。

 言われるままに。荒れ放題の部屋の片付けと、酒宴の準備を始める。

 そんな二人の態度に………ふん、と。
 少しだけ赤くなった頬を、隠すかのように。再びガス台に向った、シンタローの。
 
 甲斐甲斐しい―――本人に言えば、眼魔砲の洗礼を受ける事間違いなしだが―――新妻のような、その姿からは。ちょっと、想像しづらいのだが。

 一週間後に、彼は。世界最強の暗殺集団だった、ガンマ団を。
 新たな方向へと導く、新総帥となるコトが、決まっている。

 実の息子ではなかった、シンタローの就任が、正式に決定するまで。
 遠い血縁やら、先々代以来のご意見番やら。
 日頃親しくない………けれど、蔑ろにも出来ない。
 面倒な手合いと、イロイロとモメたようだが。

 最終的には、マジックの鶴の一声で。誰も文句は、言えなくなったそうだ。

 ―――島にいた頃は『仲間』であったけれど。
 戻ってきてしまえば。
 所詮は『総帥の息子』と『一介のガンマ団員』という、立場でしかなく。
 ミヤギもトットリも………アラシヤマや、コージに至るまで。 
 その間、ハラハラしながら、成り行きを見守るしか無かったので。

 そのニュースを、聞いた時は………正直。
 助かった、と。本当に胸を、撫で下ろしたのだ。

 あの島での、濃密で優しい時間を過ごした後では。
 暗殺者の稼業になど、とても戻れない。

 アラシヤマとコージは、其々の見解を持っていたようだが。

 二人は。もしシンタローが、総帥になれず。このままガンマ団が、暗殺稼業を続けるのなら。
 退団し。どちらかの田舎に引っ込んで、農業でも始めようか、と。
 半ば本気で、話し合っていたのだから。
 
 今、ココにいるシンタローを見て、実感が湧く。
 一つの時代が終って、新しい時代が始まろうとしている。

 ―――もっと、ずっと。より良くなる為に。

 傍目で見る以上に、問題は山積なのだろうけど。

 でも、大丈夫。シンタローなら、越えていける。 
 ………彼の為なら。自分達は、尽力を惜しまない。
 



 言われるままに、片付けと、テーブルセッティングを済まし。
 大人しく待っていた、二人の前に。

 とん、と皿が二つ置かれた。

「ホラよ、出来たぜ。キムチ入りオムレツと、ハムキャベのヤキソバ………ったく。あんなビンボー臭い冷蔵庫じゃ、こんなモンしか作れねぇじゃねーかっ!!」

「うわぁvv 美味しそうだっちゃねー、さすがシンタロー、天才だわいやvv」

 ………『イヤミ』というモノは。
 相手が『イヤミ』として、認識してくれなければ。何の意味も為さなくなる。

 シンタローは。パチパチ手を叩く、トットリに。
 無邪気で純粋な、尊敬の眼差しを向けられ。

 ちょっと、バツの悪そうな顔をして―――それから。

 それから、つい。
 柔らかに………少しだけ、頬を緩めてしまう。


 ホカホカ湯気を上げる、如何にも美味しそうなオカズに。
 シンタローが買ってきた、おツマミパックやら。
 家にストックしておいた、スナック菓子なんかを合わせると。
 酒肴は、ちょっとした居酒屋並みに、豪華になった。

「よーし、んじゃ、飲もうぜ♪ お疲れっ!!」
「っしゃー、新生ガンマ団に乾杯だべ!」
「いただきます、だっちゃわいや~~~♪」

 各々らしい台詞で、グラスを合わせ。  
 他愛も無い話をしつつ、飲みつづけること数時間。

 三人で。500mlのビールが5本、焼酎の紙パックが一本、冷酒が3本空いた頃には。

 ………真っ先に。トットリが、出来上がってしまっていた。

「みやぎくぅ~んvv ミヤギくんはホントーに、カッコイイだわやvv」

 愛らしい童顔を。アルコールの影響で、ほんのり桜色に染め。
 とろんと潤んだ、大きな瞳で見つめられて。
 手放しに贈られる、トットリからの賛辞に。

 照れくさくなったミヤギは、ポリポリと頭を掻く。

 彼の出身は、東北は宮城県。
 厳しい冬場の暖房と言えば、アルコール類も含まれる(??)
 物心ついた時には、父親の晩酌の相手をしていた(!? )ミヤギであるから。
 酒にはちょっと自信があって。コレだけ空けても、殆ど素面と変わらない。

 コレで、酔ってでもいれば「トットリの可愛さには、負けるべ~vv」とか。
 バカップル振りを、ご披露できたかもしれないが。

 いかんせん。今の酒の、回り具合程度では。
 とてもソコまで、バカの壁は越えられねえべ、と。

「トットリぃ、オメ、しっかりするべ」
 ―――ミヤギくぅーんvv と。
 しなだれかかってくる、トットリの体を支え、揺すってみる。

 その傍ら。一緒に飲むのなんか、初めてだべな? と。
 ちらり、シンタローの様子を伺うと。

 彼もどうやら、酒には自信があるようで。
 顔色一つ変えずに、冷酒をぐい、と飲み干したトコロだった。

 そして。とん、と盃を置き………イチャつく自分たちに―――そんなつもりは、無いのだけれど。そう見られても、まぁ、仕方が無いと思う―――流し目をくれる。

 飛んでくるのは、果たして。
 どんなイヤミか悪態か、と、身構えるミヤギに。

 ヤケにしみじみした調子で、こう言った。

「しっかしオメーら、ホンット、仲いいよナ」

 その様子が………何だか。
 まるで、羨ましがっているように、見える自分は。
 自覚は無いけれど。少しは酔いが、回ってきたのだろうか?

 らしくない、シンタローの言葉に。はて? と思う、ミヤギの前で。
 さらに、溜息混じりに、こう問い掛けてきた。

「おまえらさぁ、うざったくねぇ? いっつも、くっついてて」

 途端に、聞き捨てならない、とでも言うように。
 ガバリと姿勢を正した『完璧なる酔っ払い』トットリが。

「だってボク、ミヤギくん大好きだわいや!!」
 ―――大好きだから。何時だって、ずっとずっと一緒が、いいだっちゃ!!!

 実に堂々とした、宣言をカマす。

「シンタローも、カッコイイと思うけども。やっぱりミヤギくんが、一番だわいや~vv」

 続けて言うと―――更に。もう一度、ことん、ともたれかかってきて。
 すりすり、と、胸の辺りになつき始める。

「ばっ、オメ、離れるべ!!」

 恥ずかしくて。思わず、押し戻そうとしたけれど。
 それを咎めるかのように、トットリは。ミヤギの手を取り、きゅっと握り締め。

「ミヤギくん、ボクのこと嫌いになっただらぁか?」

 ………半泣きで、訴えてくる。

「ボクより、シンタローの方がええんだらぁか!?」

 ………しかも、内容が飛躍している。

「―――オイオーイ。何でソコで、オレが引き合いに出されんだヨっ!?」

「すまんべー、完璧に酔っちまっただべな、コイツ」

 ………イヤソレは、見たら解るけどヨ、と。
 ポリポリ、頭を掻きつつ、一気にグラスを開けるシンタローの前で。
 更には、トットリは。

 ―――捨てないで、ミヤギく~~~んッッ!! とか。
 泣きながら、縋りついてくる。

 ………ええい、この酔っ払いめ、と呆れるが。突き放すコトも出来ず。
 「捨てるワケないべ」と囁いて。
 ぽんぽん、と軽く頭を叩いてやっていると。

 黙って、その光景を見つめていた、シンタローが。
 ―――ふっ、と。
 何かを思い出したかのように、微笑した。

 笑っているのに………どこか、物憂げで。
 目を反らせなくなる、危うさをたたえたその表情。

「………トットリって、素直だよナ」

 心ココにあらずの、小さな呟きに。
 うっかり見惚れていた、自分に気づいて。

「ま、まぁ。そうだべな」

 我に帰ったミヤギが。どぎまぎしつつも、頷くと。
 シンタローは。手の内で、冷酒グラスを弄びながら。

「………グンマも、素直なんだよなぁ………」

 ぽそり、と。
 何の脈絡も無く、そんなことを呟き。 

 ―――やはり。
 少し、様子がおかしい気がして。

 ミヤギは、その端麗な横顔を、見つめながら。
「シンタロー、おめ、何か………」
「アレは素直言うよか、アホだわいや~♪」

 ミヤギの、真面目な問いかけを、遮って。

 さすがの酔っ払い。今泣いたカラスが、何とやら。
 ケロリとしたトットリが、突如会話に復帰してくる。

「アホ! そうそう、アホだよナ♪」

 シンタローも。拭ったように、先刻までの物憂い表情を消し。
 明るくトットリに、調子を合わせたが。

「………でも、アホなコ程、可愛いって言うっちゃね~?」

 その言葉に、シンタローは。
 一瞬、口元を強張らせて………震える手で、盃に注ぐと。
 煽るように、冷酒を飲み干す。

 ―――何か。イロイロと、解った気がした。

「あー、トットリ。おめ、もう大人しく寝てるべ」

 相変わらず、一人陽気に。
 「一番トットリ。中○みゆき、歌うだわいやっ!!」とか叫びだした、困った恋人を捕まえ。
 何とか床に、寝かしつけると。

 甘えるように。膝の上に、頭を乗せてくる。

 そんな、二人のヤリトリを。
 シンタローは。口元だけに微笑を刻み、見つめていたが。 

「オレもやっぱ、独身寮に戻るかなぁ?」
 
 ………唐突な、そのヒトコトに。
 は? と。ミヤギは固まってしまう。

 とってもあっさり、言ってくれたが。
 目の前の男は。これから、ガンマ団総帥になる男である。
 ガンマ団総帥が。一般団員と一緒に、寮に寝泊りなど、許されるはずがない。

 そうでなくとも『マジック総帥と血の繋がりが無い』という、事実は―――ミヤギを含め、彼と親しい誰もが、それがどうした、クソッくらえ!! と思う事実だけれど―――軽んじられる原因となるのに。

 重要なのは、それだけではない。

 もともと『高嶺の花』と呼ばれ。
 下っ端ガンマ団員総ての、憧れのマドンナだった、シンタローなのだ。
 まして、パプワ島から戻って以来。一層、男の色気を増した彼には。
 ちょっとアブない程、熱狂的なファン―――というより、殆ど狂信者―――まで出現し始めていて。

 そんなところに、シンタローが入寮すると言う事は。
 混乱の種を、放り込むようなモノに違いなく。
 
 そんな事を解らないような、シンタローではないハズだ、と思い。
 彼の方に顔を向けた、ミヤギは。

 いつの間にやら。彼の周囲に、林立していた。
 カラになった、冷酒のビンの。その尋常ではない数に、ぎょっとする。

 数えてみると。両手の指を使っても、まだ足りない。

 ―――ひょっとして。

 こくん、と。今も、淡々と。
 盃を干した姿からは、そうは見えないのだけれど。

 ………コイツも、酔ってるんでねぇべか!?

「ミヤギくぅーん? 眠いだわいや~~~~」
「あー、ハイハイ。大人しく寝るベ、トットリ」

 らしくない、シンタローの様子が気がかりで。
 トットリの寝苦情に、つい投げやりな返事を返すと。
 それが伝わったのか。ムッとしたように、唇を尖らせる。

「………オヤスミのキスは、無いだらぁか?」

「はァ!? トッ………!?」

 言いかけた、ミヤギの唇を。ちゅっ、と。
 トットリの、柔らかい―――甘い唇が、塞ぎ。
 
 『奪っちゃったわいや~vv』とか言いながら。
 ゴキゲンに、首筋に抱きついてくるトットリを、ぶら下げたまま。
 赤面し、慌ててシンタローの様子を、窺うと。
 
「なーに、恥ずかしがってんだヨ。キスぐらい、挨拶だろーが」
 あっさりと、そう言ってくれた、が。

 ―――あの。アンタ、目ぇ、据わってねぇべか?

「じゃぁ、シンタロー。お休みのチューは?」
 更に、悪いことに。トットリは、シンタローにまで、絡み出して。

 ―――オメ、何、言うとるべッ!!??
 驚いて、ぽかんと目を見開いた、ミヤギの前。

 通常であれば、ブリザードを伴った、ケーベツの眼差しで見るか。
 虫の居所でも悪ければ。眼魔砲の一発も、カマしていたに違いないだろう、シンタローは。

「おぅ♪」

 ………止めるヒマさえ、無かった。

 エラく解りにくいが。どうやら酔っぱらっているらしい、シンタローは。
 子犬にでもするかのように、ごく無造作に。
 トットリの頬に、ちゅっと、赤い唇をくっつける。

 ―――あまりの、展開に。ただただ、言葉を失い。
 唖然としている、ミヤギにまで。

「………オマエも、する? オレと」

 言いながら、シンタローは。
 危険なほどに、至近距離まで顔を近づけてきて。

 ―――酔っとる。
 絶対っ、酔っとるべ、アンタ!!!

 ………ヘビに睨まれた蛙の気分、とは。こんな心境なのだろうか。

 シンタローは『高嶺の花』だ。

 ガンマ団員なら、恋愛感情抜きにしても、誰もが憧れと尊敬を抱いている。
 ぶちゃけ。一度でいいからお願いしたい、とか不埒な想像を回したりもする。

 しかし、ちゃんと彼のコトを見ていれば。
 その心が何処に在るのか。一体、誰のものなのか、ということは。
 やはり、ガンマ団員なら―――気付かない、ハズも無く。

 ねっとりした、脂汗を浮かべ。硬直したままの、ミヤギに。

 ―――にっこりと、シンタローは。
 シラフの時にはあり得ない、極上の笑顔を披露してくれて。

 次の瞬間。くたり、と………こちらに、倒れこんできた。

「うわ、ちょ、シンタローッ!?」

 もともと、トットリにぶら下がられていたトコロに。
 更に。シンタローに、圧し掛かられる体勢になった、ミヤギは………さすがに、バランスを崩し。

 三人一緒に、床に転がってしまう。    

「………トットリ? シンタロー?」

 恐る恐る、名前を呼ぶが。

 返ってくるのは。
 右から、トットリの。左から、シンタローの。
 すやすやと、規則正しい、寝息だけ。

 二人に、押し倒されたまま。
 ………両手に花って言うんだべか? こういうの。

 右手には、可愛い現在の恋人。
 左手には、かつて憧れていた、特別な美人。

 ―――もの凄くオイシイ、シュチュエーションだ、とは思う。

 思うけれど。

 苦笑して、ミヤギは。
 何とか、二人の間から抜け出すと。

 さて、どうしたものか、と。
 つくづくと、眠る二人を見ながら、腕組みをする。

 ―――トットリだけなら。オラのベッドに、運んでやったらいいんだべが。

 しかし、シンタローを。このまま、放っておくわけにもいかない。
 ガンマ団次期新総帥に、風邪なんか引かせたら。数多のファンに半殺しにされかねない。
 だからと言って、三人で一緒に寝るなど、論外だ………自分が、眠れるハズも無い。

 しばし、悩んでいると………突然。
 真夜中の静寂を破り、玄関チャイムが、鳴り響く。

 ―――あ。やっぱ、来たべ。

 大きな安堵と………少しの、落胆。

 この場合。こんな非常識な時間の訪問者といって、真っ先に思いつくのは。
 急ぎ足で玄関に向かい、ドアを開くと。

「やぁ、こんばんは。遅くにすまないね」

 予想通り、ソコには。
 爽やかな笑顔を浮かべた、金髪の紳士が立っていた。

「………マジック総帥」

 後、少しだけの期間。自分の直属の上司である、青の一族の長。
 部下とは言え、一介のガンマ団員でしかない自分のトコロに。
 彼が来る理由と言えば、たった一つ。 

「シンタローが、お世話になってるみたいだね」

「あ、ハイ………」

 どうして、ココが解ったのだろう、と思ったが。
 愚問だったべ、と。スグにその思考を打ち消す。

 本当の所、シンタローは。
 アラシヤマのコトを笑えないぐらい、友達が少ない。
 だが、もちろん。アラシヤマのソレとは、かなり事情が異なる。

 誰をも引きつける魅力を持つ、シンタローだ。
 友達になりたがっている輩は、掃いて捨てる程、いるけれど。

 ガンマ団総帥の長男、という自分の特殊な立場を考慮してか。
 彼は敢えて、士官学校でも………ガンマ団内でも『特定の友人』というものを作らなかった。
 もちろん、誰とでも挨拶ぐらいはする。
 話し掛ければ、返事もしてくれる。気が向けば、雑談に応じてくれる。

 しかし、一定の場所で、しっかり線引きをされ。
 それ以上は、誰一人踏み込ませてもらえなかった。

 自分にしても。あの島へ、行くまでは。
 こんな風に、シンタローと家で飲む事になるなど、想像さえしたことがなかった。
 
「ええと、上がられますか? 奥で酔っ払って、潰れ………」

「コラ、ミヤギ。誰が、潰れてるっつーんだヨ?」

 背後から、唐突に声がかかり。驚いて振り向くと。
 
 ソコに。先程までの、ぐでぐでっぷりは何処へやら。
 玄関先のヤリトリを聞きつけ、目が覚めたのか。
 急に、シャキッとなったシンタローが、立っていて。
 
 ………あ、あれ?
 
 戸惑って、首を傾げるミヤギの前で。
 マジックは、ニコニコとシンタローに手を差し伸べ。

「遅いから、迎えに来たよ。シンちゃんvv」

「ヤなこった。オレは、コイツと一緒に暮らすんだよッッ!!」

 ―――――はぁぁぁぁッッ!!?? アンタ、何ば言うとっとねッッ!!??

 ミヤギは、仰天のあまり。一時的に博多弁で思考してしまう(何故?)

 ………多分、本人的には。
 先刻の『独身寮に戻ろうカナ?』の延長で、他意は無いと思う、けれど。

 ―――あまりに恐ろしい、爆弾発言である。

 マジック総帥の表情は、一応ニコヤカなままだが。
 しかし、その両の秘石眼が。いつ不吉な色に煌くのか、気が気ではない。

 どうやらシンタローは、心配性の父親の来訪に。
 条件反射で、いつも通り振舞おうとしているようだが。

 ………でもやっぱり、酔ってるんだべなぁ、と。
 しみじみ、思いつつ。

「………頼むから、大人しく帰るべさ、シンタロー」
 ――――オラとトットリの命が、危なぐなるべ。

 ミヤギは、その背後に回ると。
 シンタローの体を、マジック総帥の方へ、ぐいぐい押し出す。
 『親子喧嘩』という名の。痴話喧嘩に巻き込まれるのだけは、勘弁である。

「オイ、ミヤギ!? てめ、何………」

 普段であれば、自分よりずっと強いはずの、シンタローだが。 
 酒で、ヘロヘロになっているおかげだろう。
 ちゃんと、マジック総帥の手の届く位置に、連れて行くことが出来た。

「いーから。今日は、帰るべっっ」
「いや、ご協力ありがとう」

 来た時からまったく同じ笑顔で、礼を述べるマジックは。
 力の入っていない抵抗をする、シンタローを。しっかりと腕の中に抱え込む。

「てめ、離せって!!」
「ハイハーイ、シンちゃん。こんな時間に、他所様のお宅で騒ぐのは、非常識だよー」  
「シンタロー、ちゃんと二人で話し合いしたら、また来るベ」
 ―――そん時ゃあ、コージもアラシヤマも呼んどっから。あの島ぁ肴に、みんなで飲むべ?

 必死の、ミヤギの説得に。
 ふぅぅ、と息をついたシンタローは。

「わぁったヨ、帰るヨッ!!」

 マジックの手を振り払い、邪魔したナ、と玄関から出て行く。

 その後に続こうとした、マジックに。

「あのっ、オラには!! トットリっちゅう、恋人がお………」
 情けないけれど。引きつったまま、イイワケをしかけるが。

「ああ、そうそう。トットリに、ありがとうと伝えてくれるかい? キミにも。これからも、シンタローをよろしく頼む」

 ソレを途中で遮り、彼は。
 ニコヤカにそう言って、悠然と退去していった。


 ―――正直、相当驚いた。
 まさか、あのヒトが。そんな事を言うなんて、思ってもみなかったから。

 はぁぁ、と。大きく息を付き、ミヤギは玄関に座り込む。

 ………ちぃっと、惜しかっただべか? とか。

 シラフのトットリに聞かれたら、首を締められかねないことを。
 チラリ、と思って。

 慌てて左右に、首を振り。不埒な想いを、打ち消してみた。



此処に、在れ (後)




「シンちゃん~? 家はそっちじゃないよ、コッチだよー」

 ―――チッ、もう追いついて来やがった!!

 予想以上に早く、追いついてきた父親に。
 力一杯、舌打ちをカマし。

「引っ張ンなよッ!!」
 シンタローは、うざったそうに。
 まとわりついてくる、マジックの手を、払いのけようとするが。

「だーめ。ていうか、引っ張ってません。シンちゃんが、フラフラしてるだけ」
 ―――まったく。飲みすぎだよ?

 しっかり握られた腕は、離れる事無く。
 挙句………マジックのクセに。そんな偉そーな説教まで、カマしてくれて。
 
 ムッとは、したけれど………頭の芯が、ボーっとしていて。
 あまり、気の効いたイヤミが、思い浮かばない。

「酔ってねェよ、あれっくらいで………うぉぉをッ!?」

 それは。
 何とか振り解こうと、身を捩った瞬間の、惨事。

 ―――いわゆる、前方不注意により。
 シンタローの片足は、その辺に転がっていた(今時とっても珍しい)ブリキのバケツに。
 ズボォッ!! と。ものの見事に、ハマってしまい。

「………シンちゃーん? 大丈夫かーい??」
「何で、こんなモンが転がってんだヨッ!?」

 更に、悪いことに。
 あまりにジャストサイズに、ハマり込んだ為。
 足を振り回しても、一向に抜ける気配は無い。

「クソッ、抜けねーじゃねぇかよっ!!!」

 仕方なく、座り込み………懇親の力で、引っ張ってみても。
 溶接でもされたかのように、どうしても足から離れてくれない。

「シンタロー? パパが、手伝ってあげようか??」

 呆れたように掛けられた、マジックの言葉に。
 ピクリと反応した、シンタローは。

 ―――コイツに助けてもらうよりは、と。

 すっく、と立ち上がると………ガシャコン、ガシャコン賑やかな音を立て。
 片足をバケツに突っ込んだままの、とっても間の抜けた姿で。
 真夜中の住宅街を、再び歩き出す―――いわゆる『歩く騒音公害』である。

 どうやら。靴を脱げばいいという、ごく簡単な解決法さえ。
 思いつかない程、酔っているようだ。

「………しょうがないねぇ」

 ひょい、と。いきなり、シンタローの視界がせり上がり。
 気がつけば、マジックの腕の中。
 その身体は。父親の右肩にもたれかかるように、担ぎ上げられていた。


 ―――固まっていたのは。ほんの、数瞬。


「降ろせよっ、バカマジックッッ!!」
「あはは、シンタロー。こんな夜中に騒ぐと、ご近所に迷惑だぞ?」
「うるせぇっ、離せってッッ!!!」

 じたじたと。
 相変わらず、どこか現実感の無いままに。
 降ろせ降ろせと、騒いでいると。

「もー、シンちゃんたら。あんまり騒ぐと、お姫様抱っこに変えちゃうゾー?」

 あはははと笑う、マジックのその声に。
 正真正銘の、本気が感じられた為。

 シンタローは。思わずピタリと、固まってしまう。

 コレだけ息子が成長しても。衰えのおの字も見せない、人間離れした父親は。
 その重みを、まるで感じていないかのように。
 平然とした表情で、スタスタと歩を進める。

 ―――幼い頃。
 どこへ行くのも、こんな風に抱えて連れて行ってくれた。
 
 まるであの頃の、再現のようだ、と。奇妙な既視感に、浸っていると。

「………あのね。夢だよ、コレ」
 
 ポソッと。マジックが、そんな突拍子も無い事を言い出す。 

「はぁ? 夢なワケねぇだろっ!!」
 ―――また、何をワケの解らないコトを、と。
 シンタローは、精一杯、厳しい顔を作ろうとしたが。

 ………頭が、ボーっとする。
 ―――思考が、纏まらなくて。

 考えた端から、霧散していくこのカンジは。
 確かに、夢の中にいる時と、よく似ている。

「夢だって………痛くないから、つねってみなさい」

 その言葉に、シンタローは。
 ぎうううぅぅぅッッッッ!!! と、力一杯―――――――― 『マジック』を、つねってみた。

「………う。い、痛くないともッ!!」

 思い切り頬を、引き伸ばされて。
 結構、オモシロイ顔になった父親は。

 微妙に、涙目だけれど―――きっぱりと、言い切って。

「痛く、ねぇのか………つまんねー」

 呟いて。ぱすんと、その肩口に顔を埋める。

「だ、だからね、シンちゃん………全部、夢なんだから。何言っても、いいんだよ」

 ―――染み入る、声。優しい、声。

 随分昔に、無くしてしまった。
 大好きだった『誰か』の声。

 ―――ああ、でも。誰だったっけ…………?
 
 シンタローは、目をつむったまま、ぼんやりと。
 伝わってくる体温を『まるで現実のようだ』とも思う。

「………夢、なのか?」

 ―――しんどい。眠い。ダルイ。

 『誰か』の体温に、身体を預けたまま。
 唇だけを動かし、そう問いかける。

「そう、夢だよ。明日になったら、シンタローは、みんな忘れていいから」

 ―――コイツに弱みを見せるのだけは、死んでもイヤだ。
 でも。コイツって『誰』だっけ?

 霞んでいく頭で、ぼやぼやと思いながら。
 泣きたくなるほど、優しい囁きに。心は、揺れる。

 ………夢、だったら。
 全部。何もかも、夢だというなら。

「………何で、オレなんだ?」

 気になって、仕方なくて。
 どうしても聞けなかったコトを、聞いてみたのに。
 相手は、答えない。

 ―――不安が。むくりと、姿を現す。

「アンタの息子は、グンマだ。オレじゃねぇ」

 吐き出すように、そう続ける。

 ―――彼が、次代に譲るべく。
 努力して、築き上げてきた………その総てのものを、正当に受け継ぐべきは。







 一緒に、暮らし始めて。
 実際、今まで気が付かなかったコトが不思議なほど。
 『グンマ』と『マジック』は、良く似ていた。

 父親の末弟のハーレムは『変態以外の共通点が無い』と、笑うけれど。

 例えば。ふとした仕草や、表情。
 言葉の、僅かなアクセント。瞬きのタイミング。
 趣味の傾向や、モノの見方。
 
 相似性を見つける度に、苛立ちは募り。  

 ―――シンちゃんと一緒に暮らせて、本当に嬉しいナvv と。

 素直な笑顔を向けられる度、打ちのめされる。
 
 自ら望んだコトでは無くとも。
 自分は―――父も母も、彼らと過ごす筈の幸福な時間も―――その総てを、奪って。
 のうのうと、生きてきたというのに。


 ………ぽたり、と雫が落ちる。
 その正体が何なのかは、考えたくなかった。 



「………オレじゃ、ないだろ?」

 ………最も濃い、遺伝子を受け継いだのは。オレじゃ、なかった。  
 
 本当なら、もう。
 自分は、ココにいるべきでは、無いのかもしれない。

 ニセモノだ、と解っても。
 バカみたいに、愛してくれる………優しいヒトの為にも。 
 離れなければ、ならないのかも知れない。 



 ―――でも、ココには。コタローがいるから。

 それに………優しい、あのヒトは。
 青の一族を束ねる、至高の存在は。

 一族を捨てるコトだけは、けして、出来ないであろうから。



「………なァんだ、そんなこと?」

「そんなこと!? そんなこと、で済ませられるようなコトじゃ、ないだろうがッ!!」

 散々、悩んでいた事を。あっさりと、片付けられて。

 一気に、頭に血が上り―――同時に。
 ぼやけかけていた意識も、回復する。

 ガバッと、身を起こし。
 抱えられた自分より、下にあるマジックの顔を見下ろす。

 いつもは、微妙に上にある目線が。
 今は、ずっと下にあることが。少し不思議な気がした。

 その、シンタローの視線を受け。マジックは、ニッコリと笑う。

「だって、ねぇ? みんな、シンちゃんがいいんだよ。ミヤギもトットリも、とても喜んでいただろう?」

 ………やりたいコトが、ある。
 それは、マジックにも告げていた。
 
 ―――だったら、ココですればいい。
 彼は、あっさりと、そう言って。
 
 彼の息子も、賛成!! と手を叩いてくれた。
 
 ………今まで、ヒトコトだって、グンマは。
 総てを奪ったオレを。責めるようなことは、言わなかった。

 それが―――苦しかった。


 シンタローの、食い入るような視線を感じながら。
 ゆっくりと、マジックは喋り出した。

「私は、欲張りだからね」

 そんなコトは、とうに知っている。
 自分の前では、いつも。
 バカみたいに甘い『父親』だったけれど。
  
「グンちゃんがいる、キンちゃんもいる。コタローも、いずれ目を覚ますだろうね」

 ―――他の人間に対し。
 どんなに、冷酷に振舞っていたか。
 どれほどの非道を為してきたか。

 そんなコトは、知っている………なのに。



 ―――ヒトとして、生まれた。

 刻まれた本能のままに、恋をした。
 打算でそれは、愛になり………やがて、憎しみになったけれど。

「それでも、シンタロー。おまえがいなければ………私は、満たされないんだよ」

 ―――結局は、この腕の中にいる。
 
「………ふーん」

 再び、マジックの肩に顔を埋める。
 瞳から、零れる。
 止まらなくなった、熱い雫を………見られたくはなくて。

「それに大体、シンちゃんは。プライド高くてワガママで、その割にヘンなトコが抜けてて………」
「オイ。ケンカ、売ってんのか?」

 突然、ガラリと調子を変えて。そんなコトを言い出した、マジックに
 ムッと、するけれど。まだ顔を上げるには、少々障りがあって―――言葉でだけ、凄んでみると。

「とーんでもない。褒めてるんだよ?」
 ―――そんな、シンちゃんだから。みんなが、目を離せなくなる。

 囁きと共に。
 シンタローの身体を支えていた腕が、急に緩んで。  

「うわっ!?」

 そのまま滑るように、地面に両足をついてしまう。

「降ろすなら、そう言………ッ!?」

 突然降ろされた、シンタローの文句は。
 マジックの唇により、遮られた。

 抵抗しようと。とっさに、突き出した腕は。

 奪うように、激しく貪られる口付けに………スグに、力を失い。
 まるで、縋っているかのように。彼のシャツの胸元を、握り締める形となる。

 ガクガクと膝が、不安定に揺れ………やがては総ての重みを、背中に回されたマジックの腕に委ねて。
 
 すっかり力の抜けた、シンタローに。満足げな、微笑みを浮かべ。
 マジックは、いったん唇を離すと――――今度は。

 幾度も幾度も、角度を変えて。
 シンタローの頬に、瞼に、唇に――――慈しむような。
 優しい、触れるだけのキスを、降らせていき。

 ―――解放された、時には。
 シンタローの内から。ここの所、ずっと離れる事の無かった。
 ワケの解らない、焦燥や不安や、もどかしさが………ウソのように、静まっていて。

「こういうキスは、グンちゃんやコタローとはありえない。シンタローとだけだ」

 吐息が触れる距離で。
 ニッコリと、笑うマジックに。

「『息子』とは、フツーはしねぇからな」

 くったりしたまま。皮肉をこめて、言ってやったが。

「ヨソはヨソ、ウチウチ。ウチは、長男とはするんだヨ」

 ………何かもう、眠いし。
 言い返したりすんの、面倒臭せぇや―――そう思って。

 あっそ、と。素っ気無く、答えると。
 
「シンちゃんも、パパとだけって言ってvv」
 ―――言って言ってvv ねぇ、言ってvvv

 とか言いながら、再び抱き上げられた。

「~~~~~~ッ、言うわけねぇだろ、バーカッッ!!」

 すぐ下にある、金色の頭を。ぽかりと一発、殴ってやると。

 はっはっはっ、と明るく笑いながら―――殴られて喜ぶなよ、ヘンタイか!? イヤ、ヘンタイだけど、コイツ―――マジックはシンタローを抱えたまま、歩き出し。
 
 だから、勝手に運ぶなよナ、と。
 通常であれば、ゼロ距離眼魔砲あたり、カマしてやるのだけれど。

 ―――まぁ、ラクだから………運ばせてやるか。何かコレ、夢らしいし?
 
 正直。もの凄く、眠くなっていて。
 夢の中で眠ると、どうなるんだろう―――他愛も無い事を、思いつつ。
 
 シンタローは、マジックの肩に顔を埋めた。 


 ―――温かい。


 ………気持いい。


 心地よい、安心感に包まれて。
 ゆらゆらと揺られながら。


 ―――幼い頃の。幸せな夢を、見た。



*********


 目覚めれば。何だかやたらに、気分が良かった。
 ずっと、つっかえていたものが取れたような、不思議なカンジ。

 ベッドに手を付き、身を起こす―――その指先に。
 温かな、体温を感じ。
 
 シンタローが、視線を落とした先には。
 マジックが、寄り添うように眠っていた。

 ―――ええと。昨日は………イラついた挙句、グンマ達とケンカして。公園で頭冷やしてたら、トットリと会って、ミヤギん家で酒盛りして………。

 そこから、ふっつりと記憶が無い。

 ―――ミヤギん家のワケねぇよな、オレのベッドだし。オヤジがいるし。どうやって、帰ったんだっけ? オレ………。

 顔をしかめつつ、首を捻って。モヤモヤしたものが、形を結ぼうとした、瞬間。

 ―――夢だから。忘れて、いいんだよ?

 突然、脳裏に。そんな囁きが、閃いて。
 次の瞬間、総てが霧散する。

 ………まぁ、いいか。忘れるぐらいなら、大したコトじゃねーんだろ。

 肩を竦めたシンタローは。
 再び、傍らで眠る父親の姿を、見つめてみる。

 起きていてさえ、五十過ぎにはとても見えないのだけど。
 圧倒的な圧力を誇る、両目を閉じていると。
 それよりも更に、若く見える。

 張りのある頬に、片手で触れて………シンタローは。
 そっと自らの顔を、近づけていく。

 ―――唇が、触れるか触れないかの、寸前。

「………テメ。タヌキ寝入りしてんじゃねーぞ、マジック?」

 その耳元で、呟けば。
 
「………バレた?」

 ぱっちり、蒼い瞳を開いて。
 悪戯を見咎められた、子供のように。マジックは、笑った。

「見え見えなんだっつーの。んで? 何で、ヒトのベッドに潜り込んでんの、アンタ?」

 何故だか今朝は、気分がイイので。
 いちおう、イイワケぐらいは聞いてやるか、と尋ねると。

「え!? あ、その、ゆ、昨夜………」
「昨夜ぇ?」
「………うーん。昨夜ね、シンちゃんが帰ってきて『一人じゃ眠れないから、一緒に寝てvv パパvv』って…………」
「―――言うわけねーだろッ、眼魔砲ッッ!!!!」

 せっかく、譲歩してやったにも関わらず。 トコトン悪趣味な、冗談をカマされ。
 シンタローは、結局。お約束通りの、眼魔砲を放っていて。

「―――チッ、避けンじゃねぇ、家が壊れるだろーがッ!!!」
 見事に開いた、扉の大穴に―――かなり本気で、文句を言う。

「シンちゃん、無茶言わないでヨッッ!! 避けなきゃパパ死んじゃうでしょ!!??」
「嘘つけっ!! これっくらいで死ぬようなタマかよッ!?」

 父と息子が、朝っぱらから。命がけの漫才を、繰り広げていると。

「あっれー、シンちゃん、おとーさま。帰ってきてたのー?」
 その騒ぎを聞きつけた、グンマが。
 扉に穿たれた、くすぶる大穴から。ヒョイ、とこちらを覗き込んできて。

「朝っぱらから、団欒ですねぇ」
 その後から、しみじみと、ドクター高松。

「そうか、コレが団欒なのか………」
 真剣に感心して頷く、キンタローと。一気に辺りは、賑やかになる。

「イヤ、違げぇから、絶対ッッ!! つーか、ドクター!! アンタまた、グンマに添い寝しに来てたのかッ!!??」

「おはよー、グンちゃんキンちゃん♪ スグ、朝ゴハンにするからね~」
 そのスキに、マジックは。そそくさと、シンタローの傍らを通り過ぎて行き。

「―――ッ、マジックっ!! まだ話は、終ってねーぞッッ!!??」

 誤魔化されるかっ、と。大声を上げた、シンタローに。
 振り向いて、ニッコリと笑う。

「そうそう。甘えんぼのシンちゃん、可愛かったヨvv」

 ……………………………………………………………はぁあぁ!!??

「ええ~っ!!! おとーさまダイターンvvv」
「オヤ、おアツいですねぇ」
「そうか、良かったな」
 
「~~~~~~~~~~ッッ!! 全員ッ、ぶっ殺すッッ!!!!!」


 爽やかな、朝の一時。
 親子・従兄弟揃いぶみの、絢爛豪華な眼魔砲の饗宴が始まり。

 やがては、会議に迎えに来た。
 (こういう時だけ、ピッタリ気の合う)血縁の、美形の双子により。
 全員、大目玉を食らわされ―――お尻ペンペンの罰を受けたとか、受けなかったとか(さて、どっちでしょう?(笑))





******************













 ―――私の為に、生まれた
 
 一目見た瞬間、捕われた
 失えば、生きていけないとさえ思った
 

 ………また、この腕に戻ってきてくれた


 これ以上は、何もいらない
 どうか、この
 目の眩むような、幸福の日々よ


 此処に、在れ

 永遠に、在れ――――――











○●○コメント○●○
 五月様へ。大変お待たせいたしました。
  「マジシンでパパに甘えたいシンちゃん」………なんですか、コレ???(←ぎ、疑問系!!??)
 初!! アンケにご回答頂けた、余りの嬉しさに。
 無理矢理、リクエストをねだった挙句、二ヶ月もかかり、主旨解ってとんのか!? というシリアスなんだかギャグなんだか、しかもミヤトリミヤなんだかマジシンなんだか。
 そもそもテーマさえ、カスってるのかどうなのか…………あ、あはははははは~~~~~~(x_x;)シュン

 カウントリクやってないのは、出し惜しみしてるワケではなく。
 単にトロくさい上文才が無いから、というのを暴露してしまいましたですー、ハハ…………ゴメンナサイ(T^T)

 補足。誕生日から言えば、グンちゃんが長男のハズなんですが、入れ替わってるんですよね…………?? だったら、キンちゃんが長男、あ、でもキンちゃんは従兄弟。そもそも、公式データの誕生日は、入れ替わった後の誕生日? 戸籍上の誕生日? とか、悩んだ挙句。
 だってアーミンワールドだしvv タンノパパ、アワビだしvv とか、無茶苦茶な言い掛かりで、シンちゃんを長男にしてみましたvv
 大変なお目汚し、失礼致いたしましたm(._.)m ふかぶか。











BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved