美しかった港町ー
修行を積んだ鍛冶屋の小屋ー
華々しい式典が行われた広場も、今や火の海と化しているー
「なんとかしなければ・・・」
混乱し逃げ惑う人々の間を逸る気持ちで駆け抜けた。
~Die Lorelei 3~
それは深海の闇を思わせるような黒い船だった。
(未だ屋敷への攻撃はない・・・奴らはどこまで情報をつかんでいる?)
シンタローは夜の闇に身を隠し、接岸した略奪者達の船を見上げる。
火の手が上がり明るくなった町とは反対に、海辺の闇は暗く静かだ。
船からは灯りが漏れている。
月明かりだけでは見えずらかったが時折船のまわりに人影が見えた。
(・・・おそらくこの船に海賊どもの船長がいるはずだが、どうする?)
シンタローはしばらく思案したが、意を決すると船へ向かった。
+++++
贅を尽くした豪華な船室には3人の男が居た。
「マジック様」
今しがた音もなく部屋に入って来た赤毛の青年。
「なんだい?チョコレートロマンス。ノックもなしに」
マジックと呼ばれた男は、青年を咎めるわけでなく楽しそうに返事をした。
「はっ!申し訳ありません。実はマジック様に会いたいと言う者が来たのですが・・・」
気にした風もない主に、それでも非礼を詫びながら彼は報告する。
「私に?この島の者かい?」
「はい。本人はそう言っております。それで・・・目的の物を持って来たなどと言ってるのですが、どうしますか?・・・かたづけますか?」
チョコレートロマンスは平然と不穏な事を言った。
もう一人、マジックの後ろに控えていた金髪の青年が腰に帯びた得物に手を移す。
しかし、続く主の言葉に姿勢を戻した。
「まぁ、待ちなさい。・・・ふむ」
マジックは、しばし考えるように目を閉じるとこう言った。
「来た者の外見は?」
「は、ええと・・・黒髪で・・・整った面立ちをしておりました。年は・・・十代後半かと」
マジックはまたしばし考えるとチョコレートロマンスにこう言った。
「よし。ここへつれておいで。あぁ、手荒な事はしなくていいよ」
「はっ!」
主の命を受けチョコレートロマンスは部屋を出て行く。
「マジック様・・・」
後ろに控えていた金髪の青年ーティラミスは控えめに主に声をかけた。
「まだ、わからないけどね。反応は強くなっている。その子が”目的の物”を持ってるのは間違いないよ」
不適に笑ってみせる主にティラミスはそれ以上何も言わなかった。
+++++
赤く、赤く燃える町ー
今も激しい爆破音が振動と共に本部の塔を揺らす。
最上階から見える光景は正に地獄絵図だった。
「グンマ、奴らの手口が判明した。」
島の中枢、一切を取り仕切る最高司令室。
そんなものものしさなど微塵も感じさせないこの部屋の主ーグンマは窓の外の光景から目を離すと報告に戻ったキンタローを振り返った。
「キンちゃん、ご苦労さま~。」
こんな状況下に有りながらも、彼の表情は変わらず穏やかだ。
いや、むしろ楽しんでいるようにすら感じられるほどに笑顔だった。
「・・・敵は2組、島の南側ー町の近くと・・・やや離れた位置にもう1隻。主に攻撃して来ているのは南側の船だけで、離れた位置にいる船に動きは見られない。だが、どうやら動きのない船にはほとんど人が乗っていないようだ。上陸してきた奴らが乗ってきた船だと思われる・・・」
グンマは一通り報告を聞くと、にっこりと笑った。
「伊達衆のみんなも迅速に動いてくれてるみたいだね。」
「あぁ、だが・・・1つ気になる報告が上がっている・・・」
言いよどむキンタローに、しかしグンマは変わらぬ笑顔でこう言った。
「上陸した海賊達があり得ないくらい“頑丈”だって話?」
目を見張るキンタローにさらにグンマはこう告げた。
「問題ないよ。いくら頑丈でも捕まえてしまえば何も出来ないでしょ?」
「そんなに簡単にいくだろうか?」
「・・・簡単にいかなくても、僕達には守る者があるんだ。やるしかないよ。」
強い光を秘めた青い瞳は、挑むように窓の外を振り返る。
「さぁ、反撃開始だよ。」
++++
細い通路ー
照らし出す灯りは波に揺れー
ここは闇色の船の中ー
(正直、ここまで案内されるとは思っていなかったな・・・)
前を行く赤毛の男ーティラミスの後ろに付いていきながらシンタローは考えていた。
(高松はコタローが狙われていると言ったが・・・だとしたら何故俺を船に乗せる?やはり・・・)
船に乗り込む際、シンタローは見張りの海賊に「目的の物を持って来た」と言った。
当然、シンタローはコタローを連れてなどいない。
目的がコタローならこの言葉はもちろん嘘であり、海賊がシンタローを案内する理由が分からない。
しかし、やって来た海賊は「船長の元へ案内する」と言った。
(やつらの狙いはコタローじゃない?高松が嘘を?いや、あんな状況で高松が嘘を言う事に意味はない・・・やはり狙いはコタロー・・・?しかし・・・)
薄暗い通路はまだ続く。
シンタローは無意識に胸元へと手をやった。
「!」
カチリと何かが嵌る音が頭の中で聞こえた。
「・・・着きましたよ。」
気付くと赤毛の青年がこちらを振り返っていた。
「言っておきますが、主の前で妙な事はなさらないようお願いいたします。」
するどく睨まれ、すぐに視線を外される。
開かれた扉から眩しい光が溢れた。
目が眩む程の光のあとに豪華な室内が視界に入る。
部屋の奥、窓を背にして豪奢な椅子に座る金髪の男に目を奪われた。
「船長はお前か?」
案内の男にも思った事だが、椅子に座る男からは海賊らしからぬ品の良さが感じられる。
椅子に座る男はかるく微笑むと口を開き、そしてー
「そのとおり!ようこそ!ブラック☆パール号へv私が船長のマジックだよv」
男ーマジックは何がそんなに楽しいのか喜色満面と言った声で話し始めた。
「・・・お・思ったよりふざけた野郎だな・・・。」
先刻まで緊迫していた空気は男の発したふざけた声音に吹き飛んでしまった。
(こ・こんな奴が海賊っ!しかも船長ぉ!?)
一瞬、目的を忘れる程の脱力感が駆け巡ったものの、ココに来た目的を思い出した俺は男の目の前まで行くと声を張り上げた。
「今すぐ帰れ!そして二度と来るな!!」
「おやおや、ずいぶん嫌われたみたいだね私は・・・でもそれは出来ない相談だね。私たちは海賊だもの。誰の命令も受けない。欲しいモノは奪うまでだよ。」
怒りにまかせ放った言葉に、男は冷笑を浮かべながら答える。
その笑みに寒気さえ覚えながら、しかし俺は引かなかった。
「欲しいもの・・・目的は何だ?」
「おや?キミは届けに来てくれたんだろう?私の探し物を・・・ネv」
男はどうやら俺の「目的の物を持って来た」という言葉を信じているらしい。
だが、
「探し物ってのはなんだ?それがこの島にあるっていう確かな根拠はあるのか?」
挑発するように言うと、背後の気配ー赤毛の男から明確な敵意を感じる。
俺は隠していたナイフに手を伸ばそうとしたが、目の前の男は笑みを深くすると軽く手を挙げ背後の青年を押しとどめ椅子から立ち上がった。
端正な男の顔が見下ろすように俺を覗き込む。
「根拠ね・・・。」
覗き見る男の青い瞳が近づいてくるのに、金縛りにあったように動けない。
男の手が俺の胸元へ触れる。
「我々は呼び合っているんだよ・・・こんな風にねっ!」
言いざま男は俺の服を勢い良く引きちぎった。
「なっ!」
乱暴に暴かれた胸元から光が溢れる。
(っ!やはり本当の目的はー!)
光の発生源はあのメダルだった。
今までずっと身につけてきたが、それは初めて目にする光景だった。
「やはりね・・・。」
男は愛しそうにメダルを撫でている。
「っ!離せっ!」
メダルを隠すように手で胸元を遮ると、男から距離を取ろうともがく。
だが、背後には赤毛の青年がすでに得物を手に立ちはだかっていた。
「ふふふ・・・。今のが証拠になったかな?」
あっさりとメダルから手を離すと男は楽しげに嗤った。
とたんメダルは煌煌とした光を失い、いつもの鈍い光を弾くだけの金属にもどっていく。
(逃げ道は・・・ない・か・・・)
「キミの名前は?」
観念した俺に男は名を訪ねてくる。
とっさに俺はこのメダルの本来の持ち主の名を口にした。
「・・・コタロー。」
「!」
口にした名前にわずかに男は反応を見せた。
(やはり奴らはコタローを知っているのか?ならば・・・)
もはや逃げ道のない俺は賭けに出る事にした。
「お前らのねらいはこのメダルと・・・俺だろう?たのむ、街からは手をひいてくれ!!」
この海賊達がどれほどの戦力を有しているかは知らないが、奇襲を賭けて来た事から見て海軍と長く渡り合う程の戦力はないはずだ。
目的を達すれば速やかに手を引いてくれるかもしれない。
「おとなしく付いてくるってことかい?ふむ・・・」
男はしばらく考えるように俺を眺めると満足げ笑いながらこう告げた。
「いいだろう、目的は達した。お前の望みのままにしてやろう。撤収するぞ!」
闇色の船は滑るように島を離れた。
つづく
◇あとのあがき◇
パイレー○オブカリビアンを元にした長編パラレル3話目。
やっとこマジック様とシンちゃんご対面!
会話文だけからここまで文章起こすのは正直めんどk・・・(強制終了)
えー巷ではシリーズ3部作最終章が上映開始されましたね~♪
早く観に行きたいデス♪
・・・別にそれで「あ!パラレルもの続きupしなきゃ!」って思い出した訳じゃないですよ!
ちゃんと覚えてましたよ!アセアセ;(疑わしい)
実に2話目から半年以上が経ってしまった・・・(滝汗)
亀の歩み寄りさらに遅いですがまだまだ続きます。
2007.05.26
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「そりゃ確かに俺は海賊だ。だがよぉ、てめぇらの・・・家族?の命の恩人に対してこの扱いはないんじゃねぇの?」
ハーレムは牢屋に入れられていた。
「シンタローを助けてくれた事には感謝しよう」
とキンタローが、
「そうそう、シンちゃんを助けてくれた事には感謝してるよ~」
とグンマが言う。
だが彼らに、ハーレムを牢屋から出す気はまったくなかった。
「ちっ。器の小さいやつらだな・・・。そんで?俺様はこの後どうなるわけだ?」
最初から話がわかるとは思っていない。
ハーレムは横柄に尋ねた。
「決まっている。海賊はみな縛り首だ。明日には刑を執行する」
淡々とキンタローは言い、話は済んだとばかりにグンマと共に部屋を出て行く。
「じゃ、また明日ね~」
がしゃーん
扉は閉じられた。
ハーレムだけが残された牢屋にのんきなグンマの声が響いていた。
~Die Lorelei 2~
~なじかは知らねど 心わびて
昔の伝えは そぞろ身にしむ
波間に沈むる 人も船も
くすしき魔が歌 歌うローレイライ~
「お兄ちゃん・・・。声はキレイなんだけどね」
「コタロー!!・・・聞いてたのか;」
港を一望できる、バルコニー。
シンタローは海に沈む夕日を見ながら、なんとなく思い出したこの歌を口ずさんでいた。
「下手じゃないんだけど・・・なんだろう?たどたどしいって言うのかな?不思議な感じ」
「うっ・・・;」
(たどたどしいって・・・)
ちょっぴり傷つくシンタローだった。
「あ、そういえばさ!今日お兄ちゃんを助けたあいつ!やっぱり海賊だって!」
話題を変えようと思ったのか、コタローはグンマ達が捕まえた海賊ーハーレムの話をする。
シンタローはどこか浮かない顔で相づちをうった。
「そうか・・・」
(ならば、明日には刑が執行されるのだろう。あの海賊に同情する気じゃないが・・・気が重いな)
仮にも自分を助けてくれた相手である。
それに、コタローの事も気がかりであった。
「・・・・・・」
(・・・何もしないよりはましか・・・)
シンタローは何かを決めたように空を見上げた。
××××××××
その夜、シンタローはハーレムに会いに牢屋へ忍び込んでいた。
「・・・なんだ?命の恩人である俺を助けに来てくれたのかい?お坊ちゃん」
余裕の姿勢を崩さず、決して人が良さそうとは言えない笑みを浮かべ、ハーレムはシンタローを迎えた。
「別に助けるつもりじゃない・・・聞きたい事があったからだ」
実際、恩をあだで返したくない事も理由の一つではあった。
だがそれよりも、
(もしかしたら、コタローの事を何か知っているかもしれない・・・)
コタローは海賊の象徴とも言える髑髏のメダルを首に下げていた。
(海賊のこいつなら、コタローがどの海賊の子だということまで分かるかもしれない)
シンタローは、そんなことは嫌だったが後でグンマやキンタローにバレてからじゃ遅い。
万一の可能性に備えて、コタローを守るためにも真実を知っておきたかった。
「・・・お前が気にしてるのはあのガキの事かぁ?そいつに答えたらここから出してくれるのか?」
「!コタローを知っているのか?」
(やはりコタローは海賊の子だった!?)
こちらが話始めるより早く、ハーレムは聞きたかった事を言い当てた。
不敵にハーレムは笑ってみせると、楽しそうに言った。
「ふん・・・俺の想像どおりならな・・・あいつは大物だぜぇ?」
シンタローが愕然としたその時、
どどぉおん!!
轟音と激しい振動が襲ってきた。
××××××××
「マジック様、船員の上陸準備が整いました」
「敵の動きは?」
「奇襲攻撃が上手くいっています。命令系統をうまく断てましたので、落とすのは楽かと・・・」
「うん。まぁ私たちが負けるわけはないけどね。一応ここはかの有名な海軍本部だ。舐めてかからない事にしよう・・・」
ごごぉん・・・
船と陸とを繋ぐ橋が架けられる。
「行けお前達!目的のものはもう目の前だ!」
「「はっ!!」」
今、海の略奪者達は解き放たれた。
「もうすぐ、会えるんだね・・・」
命令を下した男は誰にも聞こえないようにそう呟いた。
××××××××
「何だ?!この揺れは?!」
地下にある牢屋には今も断続的に爆発音や振動が伝わってくる。
「俺のお仲間かもしれねぇぜ~?」
ふざけた調子でハーレムが言った。
「海賊が?海軍本部のあるこの島に?そんなことがあるわけ・・・!」
しかし、シンタローは別の事態を想定した。
(もし、こいつの言うとおりなら・・・他にもコタローの事を知ってる海賊がいるかもしれない!?)
「・・・コタロー!」
言うが早いか、シンタローはすぐさま身を翻し牢屋から出て行く。
「!おい!俺を牢屋から出していけよ!おぉーい!!」
ハーレムは叫ぶが、すでにシンタローの姿はない。
シンタローは急いで屋敷に戻った。
××××××××
「なんということだ!」
だんっ!
激昂したキンタローは机を強く殴りつけた。
「落ち着いてよ、キンちゃ~ん。状況を報告してくれる?」
いつもとあまり調子の変わらないグンマは、窓の外を見つめながらキンタローを促す。
どぉおん・・・ごぉ・・・ん・・・
突然の襲撃。
砲撃音は今も断続的に聞こえてくる。
海軍本部最上階にある司令室からは、あちこちで火の手が上がる町が見えた。
窓の外の光景を忌々しげに睨みつけ、キンタローは報告した。
「・・・奴らは町を中心に攻撃してきている。おそらく、送電線がやられた。通信機器が使い物にならない。町に駐在する兵には連絡が取れない。今までにない事態だ、皆パニックに陥りつつある」
最後の一言は心の中だけで呟く。
(状況はかなり悪い・・・)
「・・・すぐに伊達衆を集めてもらえる?」
報告を聞き、暫く黙っていたグンマだったが、窓の外からキンタローに視線を移すと、にっこり笑ってそう言った。
「わかった、すぐに呼んでこよう」
キンタローは命令に従い、すぐに部屋を後にする。
指令室に残されたグンマは一人呟いた。
「さぁてと、どうしようかな~?」
町を見つめる瞳には静かな怒りが燃えていた。
××××××××
シンタロー達が住む屋敷は町からだいぶ離れた所にある。
馬車や馬で移動することが多いのでさほど不便な距離ではないが、今夜は早く帰り着きたいという思いからかやたらと長く感じられた。
「コタロー!!」
馬を駆り、急いで帰ってきたシンタローだったが屋敷には誰一人姿が見えない。
(いったいどこに・・・本部に非難したのだろうか?)
そう思った時、
「シンタロー様。どうなされたのですか?」
背後ろから高松が現れた。
「高松!コタロー・・・とグンマは?」
グンマは恐らく本部だろうが、確認のため聞いてみる。
「グンマ様はキンタロー様と本部におります。コタロー様は・・・」
「コタローは何処だ?!」
シンタローは掴みかからんばかりの勢いで高松に詰め寄る。
「どうしたんですか?少し落ち着いてください!」
高松の言葉にシンタローは我に返った。
何故誰一人として姿が見えないのだろう、と思ったが当り前だ。
メイド達はすでに休んでいる時刻だった。
「・・・コタロー様は自室でお休みですよ」
高松は溜め息とともにやっとそれだけ言った。
「そっ・・・そうか・・・悪いな、混乱してた・・・」
(とにかくコタローは無事だ。グンマにもばれてない・・・)
シンタローが安堵しいると、高松が真剣な面持ちで聞いてきた。
「いえ・・・、それよりも何か起きたのですか?かすかに地面が揺れているような気がするのですが・・・」
「あぁ・・・。こっちにはまだ攻撃がきてないんだな・・・敵襲だ」
「この島を?!」
高松は驚いた。
「おそらく・・・な。状況を知りたいがグンマは本部か・・・。ここまで攻撃がくるかわからんが非難した方がいいだろうな・・・」
(といっても本部はダメか・・・もしもコタローが海賊の子と知れたらマズイ)
シンタローが考えていると、高松が何事か呟いた。
「きっとねらいはコタロー様だ・・・」
「!!?」
シンタローは高松の呟きを聞き逃さなかった。
「どういうことだ!」
瞬間、高松はしまった!という顔をしたがもう遅い。
「なぜコタローが狙われなきゃならねぇ!!お前・・・何か知っているのか?!」
シンタローは今度こそ高松に掴みかかった。
苦しげに高松が答える。
「・・・それは・・・あなたもご存知なのでは?」
「!!」
シンタローに先程の会話が蘇る。
『あいつは大物だぜぇ?』
「・・・」
シンタローは暫く押し黙ると、決心したように高松を見上げた。
「高松・・・コタローを頼む!」
「!?どうするつもりですか?」
俺はコタローの寝室へと急いだ。
「コタロー・・・」
コタローは眠っていた。
起こさないようにそっとコタローを布団ごと抱き上げる。
(守ってやるからなコタロー)
言葉をかける代わりに、きゅっとわずかに強く抱きしめた。
「ココに隠れてるんだ。ほとぼりが冷めたら助けを呼べ」
俺は高松と眠っているコタローを階段わきにある地下の物置部屋に押し込んだ。
「シンタロー様?!」
バタン!がちゃっ・・・
外から鍵をかける。
(目的がコタローなら、屋敷は攻撃はされずに、じきここに海賊達がやっってくるだろう。その前に・・・)
俺は次の行動に移った。
どぉん!どぉん!
いまだに攻撃は続いているらしい。
美しかった町からは煙が上がっている。
(早く何とかしなければ・・・)
俺は海岸へと急いだ。
××××××××
目を閉じ、神経を集中させる。
(こちらにやってくる・・・)
「・・・反応が強くなってきている。こちらに近づいているようだ」
豪華な船室で男が側近に告げた。
「作戦が上手くいっているのでしょう」
側近の男は作戦の確実性を主に述べた。
「だといいが・・・」
失敗すれば命はない。
言葉の裏にそんな脅しが隠されているような男の呟き。
金髪に冷たく青い瞳を持った男ーマジックは、船室の窓から見える月に目をやった。
冷え冷えとした蒼い月の光さえも、男のもつ瞳には敵わない。
「マジック様」
そこへ別の側近が入ってきた。
「なんだい?チョコレートロマンス。ノックもなしに」
「はっ!申し訳ありません。実はマジック様に会いたいと言う者が来たのですが・・・」
「私に?この島の者かい?」
「はい。本人はそう言っております。それで・・・目的の物を持って来たなどと言ってるのですが、どうしますか?・・・かたづけますか?」
チョコレートロマンスと呼ばれた男は平然と不穏な事を言った。
「まぁ、待ちなさい。・・・ふむ」
マジックはしばし考えると、再び目を閉じ神経を集中させた。
(反応がさっきより強くなっている・・・)
「来た者の外見は?」
「は、ええと・・・黒髪で・・・整った面立ちをしておりました。年は・・・十代後半かと」
マジックはまたしばし考えるとチョコレートロマンスにこう言った。
「よし。ここへつれておいで。あぁ、手荒な事はしなくていいよ」
「はっ!」
主の命を受けチョコレートロマンスは部屋を出て行く。
「マジック様・・・」
初めから部屋にいた側近の男ーティラミスは控えめに主に声をかけた。
「まだ、わからないけどね。反応は強くなっている。その子が”目的の物”を持ってるのは間違いないよ」
不適に笑ってみせる男にティラミスはそれ以上何も言わなかった。
◇あとのあがき◇
パイレー○オブカリビアンを元にした長編パラレル2話目。
やっと、マジックパパの登場です。(微妙に出番少ない?)
次の話からシンちゃんとパパが行動を共にするんで、沢山出てくる予定です。
乞うご期待!
・・・とかいいつつ、この話以降から会話文のみでしか構成考えてなかったり・・・(爆)
次回更新はかなり遅くなると思います。き・気長にお待ち下さいませっ(汗)
そして、毎度の事ですが文章変です。でたらめです。
特に今回場面切り替えが多いんで、混乱する事うけあい(おい)
・・・
文才ないんだよぅ!(叫)
ツッコミは真摯に受け止めたいと思います。
2006.11.11
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~なじかは知らねど 心わびて
昔の伝えは そぞろ身にしむ
波間に沈むる 人も船も
くすしき魔が歌 歌うローレイライ~
~Die Lorelei~
霧深い海の上。
夜の闇にまだ幼さの残った歌声が吸い込まれるように消えていく。
「シンちゃん・・・船に乗ってて“船が沈んじゃう”なんて歌うのは止めた方がいいんじゃない?」
背後からかけられた言葉にシンタローは慌てて振り向いた。
「きっ・・・聞いてたのっ!!グンマッ!」
時刻はまだ夜も明けきらない早朝。
濃い霧の中を進む船の上、二人の少年が話している。
「もしかして・・・シンちゃんってば、音痴って言われたこと気にしてたの?」
金髪の少年、グンマと呼ばれた方が笑いまじりにそう答える。
「うるさいなぁ!!別に気にしてなんて・・・」
一方、先ほどまで歌を歌っていた黒髪の少年、シンタローは怒ったように声をあげた。
「じゃぁなんで真夜中に歌なんて歌ってるのさ~。」
「むぅ・・・。」
「こっそり練習してたんでしょ~?」
しっかりと図星を指されてしまったシンタローは、バツが悪いのかグンマから逃げるように船の前へと走っていく。
「あ~待ってよ~シンちゃん!別に下手じゃなかったよ?さっきの歌とっても綺麗な声だったもん♪」
「当り前じゃん!僕の声なんだから。問題は音程で・・・って、あ・・・!」
「やっぱり気にしてるじゃない。」
少し呆れたようにグンマが言うと、
「うるさい!うるさい!馬鹿グンマぁ!!」
不貞腐れたシンタローはさらに船の舳先まで行ってしまった。
「シンちゃ~ん。危ないよぉ~」
グンマが甲板から呼ぶ。
しかし、シンタローはー
「これくらい平気平気。落っこち・・・!!」
落っこちるもんか!おそらくそう言いたかったのだろう。
「シンちゃん!!!!!」
舳先から足を滑らせたシンタローは、あっという間に落ちて見えなくなった。
「シンちゃん!シンちゃん!!どうしよう!シンちゃんがッシンちゃんが~!!」
グンマはパニック状態になり、早くも目には涙が浮かんでいる。
「どうしよう!どうしよう~・・・うぇぇぇん。」
「ォーィ・・・」
泣き出したグンマに、かすかに声が聞こえてきた。
「ひっく・・・え?」
「ォーイ・・・グンマァ~・・・」
「シッ・・・シンちゃん?!シンちゃんなのっ?!」
船の下の方から聞こえるシンタローの声に、慌ててグンマは船の縁から下を覗き込む。
「あはは・・・ロープが絡まって助かった・・・。」
見ると海面すれすれのところでロープに絡まったシンタローが見えた。
「・・・グンマ~。誰か呼んできてくれない?」
「よかったぁ!!うん。今お父様達を呼んでくるよ!待ってて!」
さっきまで泣いていたのが嘘のように、グンマは笑顔で駆け出していった。
「はぁ~・・・かっこわる~い・・・。」
(グンマが助けを呼んでくるまでロープに絡まって宙吊りかぁ・・・)
辺りは霧につつまれ、シ・・・ンと静かだ。
すぐ目前にある海面は何も映し出さない深い闇。
なにか不気味なものを感じて、シンタローはきょろきょろと辺りを見回した。
すると、霧の中から、かすかな声が聞こえてきた。
「ォギャー・・・ャー・・・ォギ・・・ー・・・」
「な・・・なんだろう・・・;」
恐る恐る耳を澄ましてみる。
「オギャーオギャーオギャー・・・」
「赤ん坊の声だ!!」
シンタローは注意深く辺りをきょろきょろと見回す。
「あっ!アレだ!!」
見るとこちらに向かって小さな船のように、たらいに入った赤ん坊が流れてくる。
(助けなきゃ!!)
シンタローは近くまで流れてきた、たらいの中の赤ん坊に精一杯手を伸ばす。
「もう・・・ちょっと・・・」
たらいの縁にやっと手が届いた。
「うわぁ・・・。」
シンタローは、赤ん坊を見て感嘆の溜息を漏らした。
蜂蜜色のさらさらとした金髪。
ほんのりと赤いほっぺたは、とてもやわらかそうで頬ずりしたくなる。
そして、見つめる赤ん坊の瞳は、カリブの海を思わせるような鮮やかな青色だった。
「キレイだなぁ・・・。」
シンタローは、たらいから赤ん坊を抱き上げるとそっと胸に抱いた。
「もう大丈夫だよ。」
あやすようにそう言うと、赤ん坊がにっこりと笑う。
「可愛いっ!!」
我慢できずに、赤ん坊にすりすりと頬をよせた。
「僕が守ってあげるからね。」
赤ん坊は暖かい腕の中に安心したのか、そのまますぅすぅと寝息をたて始めていた。
すっかり赤ん坊の虜となったシンタローは、赤ん坊の可愛い寝顔を見つめていた。
そして、ふと赤ん坊の首にかけられている鎖に気がついた。
(赤ちゃんがネックレス?なんだろう?お守りかなぁ・・・)
気になったシンタローは鎖を手繰り寄せる。
「!!これって・・・」
赤ん坊の懐から出てきた物は中央に髑髏のマーク、周りに複雑な模様が掘り込まれた金のメダルだった。
(どくろは海賊のシンボル!!もしかして、海賊の子!?)
シンタローが考えを巡らせていると、
「シンタロー!大丈夫かー!!」
「シンちゃーん!!おとうさま達を呼んできたよ~!!」
「おとうさん!!グンマ!」
上からの声に、顔を上げたシンタローは、
(どうしよう!!これが見つかっちゃったら・・・!!)
シンタローとグンマの父は、海賊を取り締まるイギリス海軍の総督だ。
(この子が海賊かは分かんないけどこんなものを持っていたら・・・)
シンタローはとっさにメダルを自分の懐へと隠した。
「今引き上げるからな!じっとしてるんだよ!」
ほどなくしてシンタローは船の上へと引っ張りあげられた。
××××××××
(あれから、もう10年たつのかぁ・・・)
シンタローはベットから身を起こすと自分の胸元を見た。
夢で見た過去、自分の懐へと隠したものー。
髑髏と複雑な模様が掘り込まれた金貨は、10年前と変わらない光を放っていた。
「そろそろ・・・コタローにこれを返すべきなんだろうな・・・。」
(今の生活が壊れてしまうかもしれないけれど・・・)
窓の外に広がる街を見下ろしながらそんな事を考えていると、
「シンちゃ~ん♪入るよ~?」
能天気な声が返事も待たずに入ってきた。
慌ててシンタローはメダルを隠す。
「勝手に入ってくんなよ!グンマ。」
「だってシンちゃん、いつまでたっても起きてこないんだもん。今日は大事な式典があるんだからね~?」
そういうグンマは確かに式典用の海軍服を着ていた。
「式典?」
シンタローは訝しげに眉を寄せた。
「僕とキンちゃんの昇進式だよぉ~♪」
「昇進・・・ってまさか・・・!!」
グンマは、まるで子供の頃のように瞳を輝かせながら得意げに告げる。
「僕はイギリス海軍総督。キンちゃんは提督になるんだよ~♪」
(マジかよっ!!この目の前の能天気お馬鹿グンマがッ、海軍最強を誇るイギリス海軍の総督~?!提督になったときでさえ信じられなかったのにッ!!)
シンタローは「まさかグンマが頂点に立つ日が来るとは!!」と驚愕に目を見開いた。
「シンちゃんの服は僕が用意しといたから。これを着てきてね。」
驚愕で固まっている俺にグンマは服を渡してくる。
「ほんとはシンちゃんにも、僕らとおんなじ海軍服を着て欲しかったんだけどね・・・。」
ほんのすこし寂しそうにグンマは笑った。
その言葉に正気付いた俺は、呟くようにこう返した。
「・・・俺は海兵にならなかったからな。」
海軍総督の父を持ちながら、シンタローはグンマと違い海軍に入らなかった。
(もし、コタローが海賊の子だったとしたら・・・)
その思いがシンタローに海兵の道を進ませなかったのだ。
彼は刀鍛冶の道を歩んでいた。
「グンマ様~そろそろお出かけになりませんと・・・。」
「あ、高松。馬車の準備は出来てる?」
いつのまに控えていたのか、執事の高松が戸口に立っていた。
「もちろん準備できてますよ。コタロー様はもうお乗りです。」
「うん、わかった。高松、先に乗っててくれる?シンちゃんとすぐに行くから。」
グンマは高松を先に行かせると、シンタローに向き合った。
「シンちゃん・・・。」
「なんだ?」
常にない深刻なグンマの表情に我知らず緊張する。
場の空気が変わったのがわかった。
子供っぽい性格だが、今はグンマがこの家の家長なのだ。
普段は兄と言うよりむしろ弟だと感じるグンマが、真剣な表情で話をしようとしている。
「実は話をしておきたいことがあるんだけど・・・」
「・・・コタローの事か?」
静かに問えば、グンマの動揺した瞳が自分を写した。
あの事件の翌日、近くの海域でコタローが乗っていたと思われる船の残骸が発見された。
生存者はおらず、哀れに思った父が養父となりコタローは俺達の弟として育てられた。
当時、赤ん坊だったコタローは、自分が“助けられた子供”だなんて覚えていない。
俺達を血の繋がった兄弟だと思っている。
その後、別の航海中に海賊との交戦で父は銃弾を受け殉職。
今ではコタローが実の兄弟でない事を知っている者は、ほんの一握りの人間だけだった。
当然、グンマはその一人である。
「お兄ちゃんたち!!早くしないと式典に遅れちゃうよ~!!」
どれくらい沈黙していたのか、突然現れたコタローに驚いて二人して戸口を見る。
「あ・・・あぁ。ごめんごめん。今行くよコタローv」
「・・・ごめんねコタローちゃん。待たせちゃって。」
先ほどまでの重い空気を隠し、いつもの調子にもどした。
「ほら、早く。これ以上待たせたりなんかしたらお兄ちゃん達でも訴えるよ!そして勝つよっ!!」
お決まりの決め台詞を残し、コタローは先に行ってしまった。
「シンちゃん・・・今の話は、とりあえずまた後で話そうか?」
「そうだな・・・。」
コタローに聞かれていなかった事に安堵しながら、俺達は部屋を後にした。
××××××××
「ん?何の音だぁ・・・やけににぎやかだな。」
式典開始のファンファーレの音とは知らず、男は崖の上にある外壁を見上げる。
今にも沈みそうな船にその男、ハーレムは乗っていた。
黒い船長帽に、幾重にも巻かれた貴金属のネックレスや指輪などの装身具。
その割に黒くてボロボロの服、背中の長い金髪も少しぼさぼさしている。
見るからに胡散臭げな男であった。
「さてと・・・あっちに見えてんのが、世界最速の船、プリンセススワン号か・・・ネーミングもいまいちだがなんなんだあの船は・・・。」
ハーレムは目的の船をげんなりと見つめた。
全体的に白い船体だが、舳先だけは黄色でまるでアヒルのような船である。
「バカッ船・・・いや、でも世界最速なのは確かだし。頂いちまってからぬりかえればいいな。」
決して人が良いとは言えない笑みを浮かべながら、ハーレムは楽しげに呟いた。
程なくしてハーレムは岸に着いた。
それと同時に今にも沈みそうだった彼の船は海へ沈んでいった。
×××××××××
式典が終わり、人もまばらになった広場にシンタローたちはいた。
「式典も無事終わったし、みんなで食事に行こうよ♪僕とキンちゃんのお祝いってことでv」
そんなグンマの提案に、シンタローはうんざりとした視線を向ける。
「い・や・だ。」
「えぇー!!なんでさぁ!!シンちゃんは僕らの事、お祝いしてくれないの?」
すぐにグンマの非難の声があがる。
「・・・俺は先に屋敷に帰ってる。」
(別に家族で行くなら問題はない・・・問題なのは・・・)
シンタローには行きたくない理由があった。
それは、今一緒にいる男の存在だった。
「そうか・・・。ならば、俺が家まで送ってやろう。シンタロー。」
「キンタロー・・・。」
後ろから聞こえた声に、シンタローはいまいましげに振り返った。
キンタローと呼ばれた青年は、金髪に青い瞳、グンマと同様に式典用の海軍服を着ていた。
「ご機嫌斜めのようだな。シンタロー。」
言葉とともに恭しく一礼した男に、うんざりとした視線をよこしながらシンタローは答える。
「えーえー、お前が出てこなけりゃもっと機嫌よかったですよ俺は。」
シンタローが行きたくない理由とは、この男の存在だった。
「そんなに俺やグンマが、出世したのが気に食わないのか?」
「別に。そういうことじゃねぇ・・・」
「ならば祝え。食事に行くぞ。・・・じっくり話もしたいしな?」
どこか余裕の表情でキンタローは言った。
(一体何の話をじっくりとしたいのだか・・・)
「・・・お前のそういうところが嫌いだ・・・。」
「それは残念だな。俺はお前の事がー」
「わー言うなッ!!!わーった!分かったから!!」
慌ててシンタローはキンタローの言葉を遮った。
(グンマやコタローの前で何言おうとしてんだこの男はっ!!やっぱ、苦手だ・・・)
シンタローは、自分に想いを寄せているらしいこの男、キンタローのことが苦手だった。
(つーか俺ら男同士よ?!そこんとこなんとも思わんのかねこのお坊ちゃんは・・・)
軽く溜息をつきながら、コタロー達が乗った馬車に向かう。
「お兄ちゃ~ん!どうしたの?早く行こうよ~?あっ?!」
その時コタローの帽子が風で飛んだ。
「僕の帽子~!!」
慌てて馬車から追いかけようとするコタローをシンタローは止める。
「まかせろ!コタロー!お兄ちゃんが取ってきてやる。」
海に向かって飛んで行った帽子をシンタローがすぐさま追いかける。
(!早く追いつかないとこの先は崖だー)
帽子に追いつこうと走るスピードを上げる。
なんとかシンタローは、崖ギリギリのところで帽子をキャッチすることに成功した。
すんでのところで崖からは落ちなかった。
しかし、
びゅうぅうう!!
「え?」
まるで何かに吸い寄せられるように海に向かって風が吹いた。
(落ちるー)
「だっはー?!」
シンタローは叫びながら、まっさかさまに海へと落ちていった。
「シンタロー!!」「シンちゃん!!」「お兄ちゃん!!」
ほぼ同時に3人が叫ぶ。
どぼーん!!
激しい水しぶきと音を上げ、シンタローは海に沈んでいった。
×××××××××
「さてどうやってあの船に入り込むか・・・」
岸壁に沿って船の近くまでハーレムは来ていた。
(しっかし・・・近くで見れば見るほどバカッ船だな・・・)
ハーレムがまじまじと船を見ていると頭上から叫び声が聞こえた。
「シンタロー!!」「シンちゃん!!」「お兄ちゃん!!」
声にハーレムは顔を上げると、
「なんだぁ?!」
(空から人が降ってきやがった!?)
どぼーん!!
すぐそばに激しい水しぶきが上がる。
「お兄ちゃん!!」
ハーレムは、どうしたものかと上から聞こえる声に再び顔を上げると、
(あの面はっ?!)
必死の形相で声を上げる金髪の少年、コタローを見たハーレムは何かを決めたようにすぐさま海へと飛び込んだ。
「ちっ!!」
ざばーん!
空気の泡を作りながら海底へ向かって泳ぐとすぐに黒髪の青年、シンタローを発見した。
(ちっ気を失ってやがる。早く海面へ・・・)
ハーレムはシンタローを片腕に抱くとすぐに海面へむけて泳ぎ始める。
(ん?これは・・・)
その時、ハーレムの目にきらりとしたものが映った。
(ーなんで、こんなもんがこんなところに?アイツのか・・・?)
それは、シンタローが首に下げていた金のメダルだった。
ごぼっ
(まずい。息がつづかねぇ!早く海面に!)
ハーレムはひとまず考えるのを止め、再び海面へと泳ぎだした。
「ぶはぁっ!!」
海面にでると思いっきり酸素を吸う。
すぐにハーレムは岸へと泳いだ。
「おいっ!!大丈夫かよ?生きてっかぁ?」
「・・・。」
ハーレムは声をかけるがシンタローの反応はない。
「ちっ!息してねぇ!・・・しかたねぇなッ!」
(本当は男相手にこんなことやりたくねぇんだけどな。いろいろと聞きてぇ事があるし・・・)
ハーレムは、シンタローの鼻をつまみ顎を上向かせると、唇に自分の唇を押し付ける。
(こいつ男だよなぁ・・・なんでこんな唇がやわらかいんだ・・・?)
あわせた唇の思わぬやわらかさにそんなことを考えながら、肺に息を吹き込んだ。
吹き込み終わると、息継ぎにシンタローの唇を離す。
顔を離した事でハーレムの目に目を閉じたままのシンタローが映った。
艶やかな黒髪、端正な顔、均整の取れた体つきー
ごくっ
我知らずのどがなったことに気づく。
(はっ!!俺とした事が、男なんかにっ・・・?!)
ハーレムが悶々としていると、
「シンタロー!!」
「ぐふぉお!!!」(キンタローに突き飛ばされた。)
ざっぽーん!
崖から落ちてしまったシンタローを追って、キンタロー、グンマ、コタローがやってきた。
「シンタロー!!しっかりしろ!!」
少しパニックになっているのか、キンタローはシンタローの襟元をつかむとがくがくと揺さぶった。
「キンちゃん代わって!こういう時は人工呼吸だよッ!!」
パニック状態のキンタローを制して、冷静にもグンマが救命措置をとろうとする。
「!分かった、グンマ。俺がする!」
グンマの言葉に冷静を取り戻したのか、言うとおり人工呼吸をしようとしてー
「てんめぇ!よくもやりやがったなー!!」
「ぬぁっ!!?」(ハーレムに蹴り飛ばされた)
じゃっぱーん!
先程キンタローに海に突き飛ばされたハーレムが、今度はキンタローを蹴り飛ばす。
「あぁぁ!!キンちゃーん!!」
キンタローが海に沈みグンマもパニック状態に。
「うわぁぁぁん!おにいちゃんが死んじゃうよー!!」(パニック)
やはり、パニック状態のコタローが叫んだ。
「お前?!」
ハーレムがコタローを凝視しているとー
「けふっ!ごほっごほっ!!」
シンタローが息を吹き返した。
「シンタロー!!」「シンちゃん!!」「おにいちゃん!!」
ようやく気がついたシンタローに駆け寄ると、皆一様に安堵した。
パニック状態の4人(キンタロー・グンマ・コタロー・ハーレム)をよそに、高松だけが一人冷静に対処していた。
「まったく・・・みなさん、もうすこし落ち着いてくださいよ。」
「あ・・・?高・・・松?」
朦朧としているのだろう、発した言葉は途切れ途切れでおぼつかない。
「シンタロー様、大丈夫ですか?」
高松はシンタローを腕に抱き抱えた。
「あ、あぁ・・・大丈夫だ・・・。」
キン・グン・コタ「よかった・・・」
それでもまだ一人では立てないのだろう。
そのまま高松がシンタローを、横抱き(いわゆるお姫様抱っこ)で運んでいった。
「キンタロー様!グンマ様!」
そこへ、海兵のミヤギ、トットリ、コージ、アラシヤマの4人が駆けつけた。
「シンタロー様は無事だっちゃか?」
「町の人さ聞いで、心配したっぺ!」
「あぁ。問題ない。高松が馬車へ運んでいった。」
「それはなによりどした~。」
「大事なくてよかったけんのぉ!」
「・・・・・・・・・」
(まずいな・・・)
ハーレムはやってきた兵達を見た。
(いろいろ聞きたい事があったが・・・海兵なら俺の顔を知ってるかもしれネェ・・・ここはひとまず)
こっそり抜き足・差し足・忍び足で逃げようとするハーレムだったがー
「何処へ行く気だ?」
「そーだよ。まだ、名前も聞いてないしお礼も言ってないんだよ~?」
キンタローとグンマに呼び止められてしまった。
内心「まずった・・・」と思っている事などおくびにも出さず、ハーレムは2人の方を振り向いた。
「名乗るほどもねェよ。礼なんて・・・ま、貰えりゃ嬉しいけどよ。さっさと逃げた方が良さそうだしなっ!!」
言うが早いか、ハーレムはその場から離れようとした。
「!その男を捕まえろ!!」
キンタローは鋭い声をあげる。
伊達集4人『はっ!!』
気合一声、4人はすかさずハーレムを取り囲む。
先程シンタローを助けるために海に飛び込んだのだ。
衣服は水を吸い重たくなっている。
多勢に無勢と言う事もあり、ハーレムは連行される事になった。
つづく
◇あとのあがき◇
パイレー○オブカリビアンを元にした長編パラレル話。
ちなみにおおまかな配役としては・・・
シンタロー&コタロー→ウィル・ターナー?エリザベス?(どっちがどっちだか)
ハーレム→ジャック・スパロウ
グンマ→スワン総督
キンタロー→ノリントン提督
マジック→キャプテン・バルボッサ
っというとこでしょうか?
あくまでパイレーツにあてはめたらなんで、設定は多少違います。
(管理人にとっては)長い話になる予定~。
当然マジシン!かと思いきや、シンちゃんモテモテ~な話になる予感です。
マジシンが基本ってとこは変わらないと思いますがね!
あ、タイトルのDie Loreleiは曲名からとってます。
die=死ぬ の意ではありませんので~・汗
ピンポンパンポーン、とマヌケな案内音が寮内に響く。
『250号室のシンタロー君、電話が入ってるよー』
電話なんて珍しいと思いながらシンタローは部屋を出た。
この寮の電話は管理人室の横にしかない。
携帯電話を持てば、いちいち呼び出されなくてはならない煩わしさから開放されるが、一度父にプレゼントされた携帯をぶち壊してから、シンタローは携帯を持つのを拒否していた。
ちなみに携帯を壊したのは、ストーカー並に入ってくる父からの電話とメールに切れたからだ。
父には、寮の電話は皆の共有物だから滅多なことではかけるなときつく言ってある。くだらないことでかけたら絶交だとも。
誰だろう?と思いながらシンタローは受話器を取った。
「もしもし?」
『やあ、シンタロー。久しぶりだね』
親父によく似た声だけど、声質はもっと若い。
「…サービス叔父さん!?」
『そうだよ。元気だったかい?』
「うん、スッゲー元気!」
久しぶりの叔父の電話に、シンタローは声を明るくした。
サービスはシンタローが身内では唯一心から信頼し、尊敬している人物だ。
いつまでもシンタローを子ども扱いするマジックとは違い、サービスは自分を対等なひとりの人間として扱ってくれる。
シンタローは幼いころから大勢の大人に囲まれて育った。
そのほとんどがシンタローを「マジックの息子」として扱う中、サービスだけが特別な存在だった。
「どうしたの、電話なんて。なんかあった?」
『実は今度急に日本に行くことになってね。お前の顔を見て行こうと思うんだが、食事でもどうだい』
「マジで!超嬉しいよ!」
シンタローの声が思わず弾んだ。
気になることもあるし、サービスになら相談できるだろう。
「いつ来んの?」
『今週の土曜だよ。そうだな、3時くらいに銀座まで出て来れるかい?』
「ん、大丈夫。やったぁ!何食わしてもらおうかな~」
『何でも好きなものを。何を食べたいか考えておいてくれよ。じゃあ、土曜日に』
耳障りのいい微かな笑い声を残して、サービスは電話を切った。
大好きな叔父に会える、ということが自然にシンタローの顔を緩ませる。
スキップしそうなキモチで部屋に戻ろうとしたところ、廊下でばったりとアラシヤマに出くわした。
「…どうしましたん?ニヤニヤしはって気持ち悪いわ」
「…っせぇナ、テメーに関係ねーよ」
「それもそうどすな」
すごみを効かせたつもりだったが、アラシヤマは平然と受け止めて歩き出した。
スタスタと向かって行く先は寮のエントランスだ。
「…おい、どこ行くんだよ」
あのアラシヤマの電話を聞いた日以来、シンタローはそれとなくアラシヤマの動向を気にするようになっていた。
例の、言った覚えの無いシンタローの家の事情について問いただしても、『誰ぞ話してたんを聞きましたんや。有名なことでっしゃろ』というばかり。
アラシヤマに対して、何かがおかしい、とは感じていても、決定的な証拠は見つけられなかった。
「…ちょお、忘れ物しましてん。ガッコに取りに行くんですわ」
ふと時計を見るとすでに10時を回っている。
「この時間じゃ空いてねーよ」
アラシヤマの言うことが本当かどうかはわからなかったが、できる限りアラシヤマに不審な行動はさせたくないと思った。
「でも、リキッドが図書室の窓の鍵が壊れてて、そっから入れる言うてましたえ?」
確かに、それは事実だった。
この学校の図書室は、校舎の一番寮に近い位置にあり、『緊急事態』用として生徒だけが知る出入り口となっているのだ。
あのヤンキー小僧め。余計なことを…。
シンタローは短く舌打ちした。
「…忘れモンて何だよ?」
「明日提出の化学のレポートどす。ジャンのペナルティーはきついて聞きましたえ」
化学は明日の1限だ。
化学教師のジャンは、クラス担任としては甘いが、教科担任としてはすこぶる厳しい。
レポートを忘れたのなら、今取りに行かなければ間に合わないだろう。
「…わかった。俺も行く」
シンタローの申し出に、アラシヤマは不快そうに眉間にしわを寄せた。
「別に、一人で行けますわ」
ほな、とアラシヤマはシンタローに背を向けて歩き出した。
「でも、オメーどの窓が空いてるか知ってんのかよ?」
ぴた、とアラシヤマの動きが止まる。
「図書室の窓は10コ近くある。[当たり]の窓以外に異変があるとセコムに通報されるぜ?」
ゆっくりと振り返ったアラシヤマは、ハアと大袈裟にため息をついた。
「…あのヤンキーの情報はあてになりませんわ…」
「俺がついていってやるよ。感謝しな」
シンタローは靴を履き替えて、アラシヤマとともにひんやりと冷たい夜の森に向かった。
* * * * *
夜の森は肌寒く、夜気がしっとりと体にまとわりつくようだ。
湿った落ち葉を踏みしめると、布製のスニーカーに夜露が滲みた。
「チクショー、さすがに夜は寒ぃな」
シンタローは両腕を組んで体を縮こませた。
吐く息がわずかに白い。
「そんな薄着してくるからや。何年この森ん中に住んではるん?」
アラシヤマはちゃっかりとウィンドブレーカーを着込んでいる。
アラシヤマの物言いにカチンと来たが、指摘されたことは事実だ。
シンタローは部屋着代わりにしているパーカーのまま。
上着のひとつでも取ってくれば良かったと後悔した。
何か言い返すのも分が悪く、シンタローは憮然とした表情のまま、赤くなった指先に息を吹きかけた。
「……ホレ」
シンタローの目の前に、アラシヤマのウィンドブレーカーが差し出された。
「えッ…?い…いらねーよ、テメーが着てろよ」
アラシヤマの突然の行動に驚いて、思わずどもってしまう。
「わては、風邪ひいたことないんや。こんくらいの気温はどうってことあらしまへん」
アラシヤマはぐいぐいとウィンドブレーカーを押し付けてくる。
いらねぇ、と返したかったが、すでに入浴を済ませたあとで、寒さがかなり身に凍みていた。
アラシヤマはウィンドブレーカーを脱いでも平然とした顔をしている。
これ以上突き返すのも子供っぽい気がして、シンタローは素直にウィンドブレーカーを受け取った。
「…サンキュ」
小さく礼を言うと 、アラシヤマは短くフンとだけ答えた。
校舎の図書館は、寮の裏手を回って数分ほどの距離にある。
あとから増築されたため、図書室だけが校舎から飛び出たような形になっていた。
シンタローは、凸型に飛び出した校舎の右端の窓に近づいた。
観音開きタイプの木枠の窓は、古いが頑丈な造りになっている。
しかし、鍵部分にトントンと振動を与えると、差込式の窓の鍵が、周りの金具ごとゴトリと外れた。
「こんな風に、こいつだけ付いてる振りしてるわけよ」
「…セキュリティは万全て聞いとったんやけど…」
アラシヤマはぼそりと呟いた。
「まあ、でもココは何年か前の先輩が必死でセキュリティ破ったんだってヨ。一応全部の出入り口にセコムしかけてんのはホントらしいぜ」
シンタローは鍵の外れた窓を左右に開くと、窓枠に足をかけてよじ登った。
図書室の中は、火災報知器の明かりでぼんやりと赤く浮かび上がっている。
シンタローは床に着地する前に、窓枠につかまりながら器用に靴を脱ぎ、靴底を上にして机の上に置いた。
ひらりと窓枠に飛び乗ったアラシヤマも、同じようにシンタローにならって靴を脱ぐ。
「そんなわけで、ここが非常口。鍵は中からしか戻せないから、使った奴が朝一で戻すってのが暗黙のルールになってる」
シンタローは中に落ちていた鍵と金具を拾った。
「だからオメー、明日朝一で鍵戻しに来いよナ」
鍵と金具をアラシヤマに手渡すと、アラシヤマは嫌そうにうなづいた。
しかし、 いくら[非常口]があるとはいえ、夜の学校に入ろうと思う奴はそう多くいない。
シンタローもこの非常口を使うのは2度目で、中学のときにやった肝試し以来だった。
「…オメー、懐中電灯なんて持ってきて…ねーよな…」
アラシヤマはこくりとうなづいた。
図書室を出ると、目の前に続くのはそのまま闇の世界に続いているように見える真っ暗な廊下。
「今は月が雲に隠れてるんやろ。しばらくしたら目も慣れますわ」
そういえば、森の中は月明かりがあった。
廊下の窓の方角からすると、雲が晴れれば月の光が入ってくるはずだろう。
アラシヤマは闇に臆することなく、スタスタと歩き出した。
「あッ…、オイ、待てよ!」
シンタローが慌てて追いかけると、少し先で待っていたアラシヤマにドカッとぶつかった。
「…ッたぁ…、気ぃつけなはれ」
「悪ィ、そんな近くにいたのかヨ」
しかし、一寸先は闇といえるくらいに、周りがほとんど見えない。
「なあ、月が出るまでちょっと待とうぜ。これじゃ何にも見えねーじゃん」
おそらくほんの数センチ先にいるのだろう、アラシヤマの顔すら見えない。
「わては夜目が効くさかい、多少は見えてますえ」
「マジかよ?目に赤外線でもついてんじゃねーの?」
シンタローが手を前に出すと、アラシヤマの手にぶつかった。
「…ホンマ、窓の場所だけ言うてくれりゃ良かったんに…」
アラシヤマがハァとため息をつく。
足手まといだと遠まわしに言われて、カッと頭に血が上った。
「連れてきてやったのに、その言い方はねーだろーがよッ!!」
「ああ、もう。ホンマ、短気なお人でんなぁ」
アラシヤマの手がシンタローの手をつかんだ。
繋いだ手が、ぐっと引っ張られる。
「たぶん、月が出るのはしばらく後や。こうして行くしかないやろ?」
不本意だが、仕方がない。
シンタローはアラシヤマに手を引かれて歩き出した。
繋いだ手は、驚くほどに熱かった。
* * * * *
「おい、あったかヨ?」
「そうせかさんといておくれやす。これだけの明かりじゃなかなか…」
アラシヤマは携帯電話の液晶画面の明かりで、周囲を調べている。
ようやく化学室までたどりついたものの、セコムに通報される恐れがあるため、電気をつけるわけにいかない。
アラシヤマは携帯をチカチカさせながら、ガス管のついた机の下を這い回っていた。
…結局、ついて来ても意味なかったかもしんねーなぁ…。
シンタローはわずかな携帯の明かりを目で追いながらそう思った。
こんなに暗いんじゃ、アラシヤマが何かしててもわかんねぇし。
それに…。
シンタローは少しずつ、アラシヤマに対する警戒心が解けはじめていた。
否、「解きたい」と思い始めていた。
アラシヤマが、一般人ではないことは確かだろう。
アラシヤマの身のこなしは、かつてシンタローが教えを受けたSPや元軍人、武術家などのどれとも違っていたが、「特別な訓練を受けた人間」であることは間違いない。
一切足音を立てない歩き方は、一朝一夕で身につくものではないだろう。
けれど。
上着を貸してもらったからというわけじゃねぇけど。
アラシヤマはシンタローに、少なくとも敵意は持っていないように思えた。
それとも、俺がそう思いたいから、気がつけないだけなのか?
アラシヤマはたぶん何かを隠してる。
そしてたぶん、「一般人」じゃない。
でも、俺とはなんの関係もねぇかもしれねーじゃん。
そうだったらいいのに。
そうしたら、俺とこいつはただの隣人でクラスメイトだ。
「あ、あった。ありましたえ」
アラシヤマが嬉しそうに携帯を振った。
「うし。帰ろーぜ」
化学室を出ると、窓には月明かりが戻ってきていた。
アラシヤマの白い輪郭がぼんやりと浮かび上がる。
アラシヤマはノートを大事そうに抱えて笑っていた。
「…そんなに嬉しいことかヨ?化学好きなのか?」
「え?や、そんなことはないんやけど、何か楽しゅうて…」
初めて見る、アラシヤマの表情。
いつもの、無愛想で何を考えているのかわからないのとは違う。
それは、同じ17歳の少年らしい表情だった。
「わて、今までほとんど学校行かずに育ったんどす。ベンキョはみんな家庭教師で…。せやから、夜の学校忍び込むなんて、小説の中だけのことやと思うてましたわ」
「え!?ソレ、マジで?」
今まで学校に行ったことがないというのは、そうとうに特殊な環境だろう。
シンタローもマジックに『家庭教師をつけるから学校に行くな』と言われたことがある。
猛反発し、ハンストまでして何とか学校に通うことができたが、アラシヤマも似たような事情なのかもしれなかった。
「そーいや、オメーがココに来て、もう1ヶ月近く経つのに、オメーのこと何にも知らねーな」
「別に、特別話すようなこともあらしまへんえ」
アラシヤマはさらりと流すと、あごをしゃくって廊下の先を促した。
歩き出したアラシヤマの後を慌てて追う。
「でも、ガッコ行ったことねぇっつーのはかなり特殊だろ?何で?」
「…家の事情どす。…育ての親が…船乗りみたいなもんで、世界中転々としてたんですわ」
育ての親、ということは本当の親ではないのか?
気にはなったが、そこをこちらから突っ込んで聞くのはあまりに無神経な気がした。
「じゃあ、何でわざわざこんな時期にココに来たんだよ?」
「…親の知り合いのコネや。知ってはります?ココ入学するんには、学力や寄付金以外にも、学校関係者や卒業生の紹介状が要るんどすえ」
そうだったのか。親がココの卒業生という奴が妙に多いのはそういうわけだったのか。
「まあ、単にタイミングが良かったんどす。全寮制なんも好都合やったし」
そのとき、また雲が月を隠してしまった。
わずかにあった明かりが、重い闇に溶けていく。
「あーくそ、また見えねぇじゃん…」
まるで目をつぶっているのと変わらない。
「あんさん、鳥目なんとちゃいますの?」
アラシヤマの手が、シンタローの手をつかむ。
「さ、またお手てつないで帰りますえ」
「…ちぇ、ふざけろよ」
暗くてアラシヤマの顔はわからない。
けれど、きっと笑っているのだろう。
「なあ、アラシヤマ」
手をつないで闇の中を歩き出す。
ほとんど周囲の見えないシンタローを気遣ってか、歩調はゆっくりだった。
「お前さ、もっと色んなこと話せよ。話したくねぇことは言わなくていいからさ。好きな食べモンとか、趣味とかでもいいから」
お前のことを、教えてくれよ。
そう言うと、アラシヤマはしばらく間を置いた後で、「せやなぁ」と短く答えた。
* * * * *
寮に着いたときには、すでに12時をまわっていた。
出掛けに開けて来た非常階段のドアから、こっそりと中に入る。
「あ!お前達どこ行ってただ!?」
シンタローが顔を出すなり、ミヤギが怒ったような表情で駆け寄ってきた。
寮生が無断で外出するときは、いつもこの2階の非常階段が出入り口になる。
ミヤギはシンタローとアラシヤマがいないことに気がつき、ここから戻ってくることをふんで見張っていたのだろう。
「勝手にいなぐなられちゃ困るべ!出るなら出るでオラに一言言っとぐれって、いつも言ってるでねぇが!」
「悪ぃ悪ぃ。点呼までに戻ってこれると思ってたんだよ」
シンタローはミヤギを拝むように手を合わせた。
「…A定おごってもらうかんな。寮監には上手ぐ言ってあるさけ、早ぐ部屋さ戻れ!」
本当に面倒見のいい寮長に感謝しつつ、シンタローは逃げるように部屋に駆け戻った。
ほぼ同時に、隣でもバタンと扉を閉める音が聞こえる。
アラシヤマもミヤギに文句を言われる前にと、部屋に入ったのだろう。
「…あ」
部屋に入ってしまった後で、シンタローはアラシヤマのウィンドブレーカーを着たままだったことに気がついた。
…まあ、明日返せばいいか。
あいつももう今日は外に出ねぇだろうし。
シンタローはウィンドブレーカーを脱ぐと、壁のフックにかけた。
とたんに寒くなった気がして、慌てて布団に入り込む。
あいつの手ぇ、熱かったな…。
アラシヤマと、こんなに長い時間二人でいたのは初めてだった。アラシヤマは学校にいても寮にいても、いつも一人で消えてしまうからだ。
無愛想で嫌味な奴だけれど、少年らしい一面が見えたことにシンタローは安堵していた。
初めて、アラシヤマの個人的な話を聞いた。
学校に行ったことがないというのも、あの性格や今までの行動が裏づけしているような気がした。
……あいつは一体、何者なんだろう?
シンタローは布団を頭まで被って、少しだけ体を丸めた。
アラシヤマと繋いだ右手が、いつまでも熱を持って熱かった。
「なぁ、夢って抑圧されてる願望を出して、欲求不満を解消する作用があるんだってよ」
「マジで?オレ、こないだモー娘。全員が妹になる夢見たけど、別にモー娘。興味ねーよ?曲とか1曲も知らねーし」
「モー娘。は問題じゃなくて、妹がたくさん欲しいって意味なんじゃねーの?」
「えー?まじで?それはそれで何かショックだー…」
扉の向こうを、生徒たちがくだらない話をしながら通り過ぎて行く。
話し声が聞こえなくなったところで、アラシヤマは押さえつけていたシンタローの口から手を離した。
「危なかったどすなぁ、シンタローはん。下手に騒いでこないなトコ見られたら事ですもんなぁ」
アラシヤマの自室のベッドの上。
シンタローは一糸纏わぬ姿で横たえられている。
アラシヤマがシンタローの顔を覗き込むと、シンタローは面白くなさそうに顔を背けた。
横を向いてしまったシンタローの顔をとらえて、無理やりにキスする。
深く舌を絡めると、シンタローはわずかに反応を返した。
「…シンタローはん…。好きや…」
ちゅっと音を立てて唇と離す。
シンタローは憮然とした表情のまま、アラシヤマを真っ直ぐにとらえた。
「それで?これからどーする気だヨ?」
「…え?どーする気って…」
どーする気も何も。
その体に触れたくて。
とにかく好きだと言いたくて。
「…えっと…、あの…」
自分の衝動にすべてを任せてしまっていた。
改めてどうする?なんて言われても困る。
「…えっと、シンタローはんに触れたりとか…」
「もう触ってんじゃん」
「キスしたりとか…」
「さっきから何度もしてんじゃん」
じゃあ、今問われているのはこれから先のこと?
「オメーはオレを抱きてぇの?それともオレに抱かれてぇの?」
そんな風に、まっすぐに聞かれても困る。
太陽のように日の下を歩く、尊くて愛しくてたまらない人。
「わては…そんなんはどうでもええんや」
アラシヤマはシンタローの頬に顔を摺り寄せた。
「あんさんに触れられるなら、近くであんさんを感じられるならどっちでもええんや」
シンタローの首筋を舐め上げる。しなやかな筋肉がぴクリと動いた。
愛してる。
手が届かないと思っていた愛しい人がこの腕にいる。
それだけで、溶けてしまいように気持ちいい。
「…でもっ…、ホントはどっちがイイんだョ?」
シンタローはアラシヤマの肩を押した。
自分の要望を聞いてくれようとするだけで、もう天にも昇る気持ちだというのに。
シンタローが可愛くて嬉しくて、顔が緩むのを抑えられない。
「…そうやなぁ…」
わては、本当は………。
ガタンッと突然目の前が揺れた。
「ああ、悪い。ぶつかった?」
顔を上げると、生徒二人が机に腰掛けてアラシヤマを見ていた。
「もう授業終わったぜー。お前、ぶっ通しで寝てんだもん。センセも呆れてたぜ」
あたりを見回すと、数人の生徒がバラバラと教室を出て始めている。
………なんや、夢か…。
授業が終わったのも気がつかないまま、夢を見るほど眠り込んでしまったなんて。
しかもあんな内容の。
アラシヤマは思わず顔を抑えた。
「それで、モー娘。はどうしたんだよ?」
「それがよ、妹は妹なんだけど、一緒には住んでないって設定らしくてよー」
「どういう願望なんだよ、ソレ」
アラシヤマにぶつかった生徒は雑談に戻っている。
おそらく、夢の中にこの二人の内容が入り込んでいたのだろう。
アラシヤマは鞄をつかむと、逃げるように教室を出た。
顔の熱はまだ退かない。
夢が願望を表すのだとしたら。
自分はどう答えようとしていたのだろう?
彼を抱きたい?
彼に抱かれたい?
……そんなん、わかるわけないやろ……!!
恥ずかしさを秘めた苛立ちを抱えたまま、早足で玄関に向かう。
そこにいたのは、今一番会いたくない人物。
「あ、アラシヤマ、帰んの?オメー今日、すげぇ寝てたなー」
シンタローは靴を履き替えながら笑った。
これから部活なのか、紺色のジャージ姿だ。
「数学は寝ててもヘーキだけど、古典だけは気をつけろヨ。教科書1冊丸写しの刑だぜ」
そう言い残して、シンタローは校舎の外へ走り出して行った。
シンタローが去っていった後の玄関に立ち尽くす。
さっきの夢が何かを表しているというのなら。
ただ一つ明確なのは、この、もう隠せない恋心だろうと思った。
END
2007/02/02
すみません…ネタ覚えているうちに書いておきたかったんです…。