ゆさゆさ
「シンちゃん朝だよ。起きて」
寝ている自分を揺する手に、シンタローは睡魔から無理やり放された。
「ん~~~」
それでも、まだ半分ほど自分の意思で睡魔の虜となっている。
「シンちゃん! 掃除まだ残ってるんだろう?」
声と手の主は少しだけ手を大きく動かすが、
シンタローは掃除で疲労していたのと、隣の部屋が静かだったコトと、
なにより心配事に目処がついたため、昨晩久しぶりに熟睡できたのだ。
そしてその熟睡モードは今も続いている。
「まったく。他の二人はもうおきてるよ!」
少しだけ声を荒げるが、それでも起きる様子はない。
業を煮やした彼は方法を変えようと布団の上から手を放し、
代わりにシンタローの頬を包んで自分の唇でシンタローのソレを覆った。
───んちゅぅううううっ
シンタローの肺に収まっている酸素をすべて奪うような逆人工呼吸。
「っぶはぁっ!!」
流石にこれは効いたのか、シンタローは自分に覆いかぶさっている男を無理やり払いのけ、
ベッドに横になったまま大きく息を吸い込んだ。
「起きた?」
「...見りゃ...分るだろ...」
荒い息のまま、声の主をぎろりとにらみつけ、
そこでシンタローの動きが止まった。
「....................マ...ジ.....ック?」
「父さん。だろう?」
硬直するシンタローに、声の主...マジックは
シンタローがよく覚えている笑顔で、耳にタコが出来るほど聞かされた台詞を言った。
それが、他の第3者が生み出した幻でも、誰かが扮している偽者でもない証だった。
となると次の質問は決まっている。
「なんでこんな所に?」
体を起こしながら問うシンタローに、マジックはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「今日はクリスマスだろう?
だからプレゼントだよ」
ほら。とマジックが差し出した彼の左手首には、一体いつの間につないだのか、
シンタローの左手首とを結ぶ赤いリボンがついていた。
しかし、マジックの答えはシンタローが求めている答えと、外れてはいないが的を得ているともいえない。
クリスマスプレゼントだとしたら、一体誰からの?
『クリスマスプレゼント』を無視するとしたら、一体どうやってここに来たのか、どうしてここにいるのか。
───おや...滑ったかな?
左手を見て俯いたまま硬直しているシンタローを見て、マジックはそう判断した。
「シンタロー? 大丈夫かい?」
こりゃいきなり暴れだすだろうか。ベッドの上で暴れたら埃が大変だ。
窓を開けようにもあけたら寒いぞと、変な方向の心配をする。
「~~~ッツ!」
無言のままシンタローが拳を振り上げる。
───あー...やっぱり怒ったか...無理もないけど。
まぁシンタローの気持ちはよく分るし。混乱しているのもあるだろうし。
ここは一つ大人しく拳の一振りくらい甘んじて受けるか。
大人の余裕を見せ、マジックは瞳を閉じた。
どすどすどすどすばきがすめきょっ
マジックの体が宙を舞う。
妙に耳に響く音を立てて。
「し...シンちゃんってば相変わらず容赦ないんだから...」
「うるせぇ!」
床に不時着し、ずりずりと這いながら再びベッドに。
「大体なんであんたがいるんだよ! プレゼントっつったってサンタなんかいるわけ...
いたとしても! 悪魔(しかも大人)のところに来るか!
訳のわかんねーコト言ってねーで、少しは、人の質問の、意味を、しっかり酌んで...」
シンタローの台詞は、途中で遮られた。
自らの頬を流れる涙に。
「~~~ッツ」
「シンタロー...」
マジックはそっとシンタローに手を伸ばし、パシッと払われた。
「触るな!
どうやってここに来たのかしらねーけど、
悪魔と人間が一緒になれるわけねーだろ!
ずっとそう思ってて、せっかく、人がやっと落ち着いてきたってのに...。
どうしてそっとしておいてくれないんだよ!」
───ずっと?
「あんたなんか嫌いだ! さっさと人間界に帰っちまえ!」
「シンタロー。私の話を聞い...」
「嫌だ! 」
シンタローに触れようとする手をことごとく払いのけ、
泣いたまま癇癪を起こしたように暴れ、マジックの手から逃れようとする。
「───シンタローッツ!」
「ッツ!!?」
突然大きな声で名前を呼ばれ、ビクっとシンタローの体が震えた。
マジックの手が動くのを見て、殴られると反射的に体を硬くする。
だが、その腕はシンタローに触れると、自分のほうに引き寄せ、力強くシンタローを抱きしめた。
「シンちゃんさっき悪魔と人間じゃ、って言ったね
これを見ても同じコトがいえるかな?」
バサッ
シンタローの瞳に映ったのは、マジックの耳より上から生えた乳白色の角
そして背から生えた黒い羽。
伝承に出てくる邪龍のような漆黒の黒
頂点には白く光るまがまがしい角。
シンタローの羽よりもはるかに大きくたくましいソレは、紛れもなく悪魔の翼だった。
呆然とするシンタローに、マジックはあくまでやさしく告げる。
「とりあえず落ち着いて私の話を聞いてくれないか?
暴れるのはその後で良いし、また殴ってもいいから。
ね?」
少しだけ体を離し、まっすぐ正面からシンタローの目を見つめる。
シンタローが言葉もなく頷くのを見ると、満足したように微笑み
「とりあえず、ティッシュだね。
ほら。せっかくの可愛い顔が台無しだよ。」
シンタローは無言でマジックが渡したティッシュ箱をマジックに向かって投げつけた。
「───さて、どこから話そうか。」
昼に近い時間。
シンタローの自室ベッドの上。
マジックはシンタローを正面から抱きしめ、
お互いの顔が見えないようにシンタローの顔を肩に埋めて話し始めた。
昨晩のコトだよ。
私はシンタローがいない寂しさから毎晩毎晩涙で枕を濡らして床についていたんだ。
けれど、昨日はクリスマスイブだったからね、兄弟そろって食事に行ったんだよ。
それでほろ酔い加減で部屋に戻ると、突然黒い煙が立ってね、
一体なんだと固まっていたら、その煙の中から、2人の悪魔が出てきたんだ。
私は、一目見て君の関係者だと気づいたよ。
2人のうち一人は髪の色も目の色も違うのに、なんとなく君に似ていると思ったんだ。
...もう一人は分らなかったけれど。
で、驚いている私に彼らはこういったんだよ。
『お前がマジックだな。
俺はキンタロー。見ての通りの悪魔だ』
『僕はグンマ。悪魔なのはキンちゃんと同じ。』
『...悪魔?』
『あぁ。つい最近までお前が飼っていたのと同じだ。』
『キンちゃん! 飼っていたんじゃなくて、同居してたんだよ!』
『いや、私は同棲のつもりなんだけど』
バキ!
「シンちゃんまだ話の途中だよ!」
「うるせぇ! ドサクサ紛れに何言ってやがる!」
そ、それでだね、
『その同棲してたやつの話なんだが』
これを聞いて、私は悪魔がお礼参りに来たと思ったんだよ。
たとえ私が君をどんなに愛していて、ソレが故の行動だったとしても、
君の力を封印していたわけだし、立派に悪魔から怨まれるような事だったと思ってね。
覚悟を決める私に、もう一人の、グンマって悪魔はね明るい声でこういったんだよ、
『シンちゃんの代わりに僕たちが願い事3つ、叶えてあげる』
「...は? 俺の代わり?」
「うん。私も最初耳を疑ったんだけどね。」
『詳しい説明を求めて良いかな?』
『ソレが1つ目の願いか?』
『いや...違うけど。』
『なら早くしてくれ』
私の願いは決まっていたんだよ。この時点でね。
この2人がシンちゃんの関係者ってのはもう確定だったし、
だったら願いごとなんて決まっているじゃないか。
『じゃぁ一つ目。まず私はシンタローと一緒に暮らしたい。
2つ目。私を悪魔に...上級悪魔にしてほしい』
『一つ目に付いて説明するよ。
こぶが2つほどついているけどいい?』
グンちゃんはやけに明るい声で言ったね。自分たちを指差しながら。
『今までと変わらないさ』
それにこの2人とならうまくやっていけそうな気がしたしね。
『2つ目についての説明だ。
俺たちはシンタローと同じ下級悪魔だ。
流石に下級悪魔が上級悪魔を作り出すのは出来ない。
だから、シンタローから聞いてるか知らないが、俺たちのはるか上司に当たる石に助けてもらう』
『でもさ、キンちゃん。秘石良いって言ってくれるかな』
『この尻拭いを言い出したヤツは誰だ?』
『あ、そうか』
二人の会話は、この時点ではよく分らなかったんだけれど、
とにかく魔界に行ってみようって話になったんだ。
『じゃ、魔界につれてくけど、とりあえず先に秘石のところに行こう!』
『え? 私としては少しでも早くシンタローに会いたいのだけれど...』
『だめだめ! こっちは少しでもシンちゃんを大きく驚かせたいの!』
...なるほど。
で、二人が作り出した扉──私には煙にしか見えなかったんだけれど──を通って、
魔界に行ったんだ。
『ここが魔界?』
ついたところはこのうちの前だったよ。
『そう。それでここが僕たちのうち。
前におじさんが住んでいたところからすれば、狭いと思うけど
僕たちしかいないからね。十分なんだよ』
なるほど。3人で暮らしているのか。
ということはシンタローがこっちにいる間二人っきりだったわけだ。
...悪いコトしたなぁ。
「あんまし悪くもないみたいだったぞ」
「え? なんで?」
「あの二人俺がいない間、色々仲良くなっていたからな。」
「あ、そうなんだ。」
それはともかく、
『で、秘石って言うのは...』
『うん。シンちゃんから何か聞いてる?』
『魔界の創始者というのと、下級悪魔は秘石に頼んで進化させてもらうってコトくらいだね』
『それだけ聞いていれば十分だ。』
『───?』
聞きなれない第三者の声に振り向くと、金髪長髪の人が立っててね、
『グンちゃん。この人は?』
『...アス。最上級悪魔だよ。』
『秘石に次ぐ、魔界のナンバー2だ』
『あぁ。そういえばシンちゃんそんなコトも言っていたなぁ。』
『人間界の、マジックだな。』
『いかにも。』
『話は聞いていた。最上級悪魔、それとここの3人と一緒に暮らす。で良いんだな』
『あぁ。』
そんな話をしていると、アスが青い宝石を私にかざしたんだ。
丸くて、真っ青で、見ていると引き込まれそうな...
少しの間浮遊感があって、気がついたらこんな体だったんだよ。
「シンちゃん朝だよ。起きて」
寝ている自分を揺する手に、シンタローは睡魔から無理やり放された。
「ん~~~」
それでも、まだ半分ほど自分の意思で睡魔の虜となっている。
「シンちゃん! 掃除まだ残ってるんだろう?」
声と手の主は少しだけ手を大きく動かすが、
シンタローは掃除で疲労していたのと、隣の部屋が静かだったコトと、
なにより心配事に目処がついたため、昨晩久しぶりに熟睡できたのだ。
そしてその熟睡モードは今も続いている。
「まったく。他の二人はもうおきてるよ!」
少しだけ声を荒げるが、それでも起きる様子はない。
業を煮やした彼は方法を変えようと布団の上から手を放し、
代わりにシンタローの頬を包んで自分の唇でシンタローのソレを覆った。
───んちゅぅううううっ
シンタローの肺に収まっている酸素をすべて奪うような逆人工呼吸。
「っぶはぁっ!!」
流石にこれは効いたのか、シンタローは自分に覆いかぶさっている男を無理やり払いのけ、
ベッドに横になったまま大きく息を吸い込んだ。
「起きた?」
「...見りゃ...分るだろ...」
荒い息のまま、声の主をぎろりとにらみつけ、
そこでシンタローの動きが止まった。
「....................マ...ジ.....ック?」
「父さん。だろう?」
硬直するシンタローに、声の主...マジックは
シンタローがよく覚えている笑顔で、耳にタコが出来るほど聞かされた台詞を言った。
それが、他の第3者が生み出した幻でも、誰かが扮している偽者でもない証だった。
となると次の質問は決まっている。
「なんでこんな所に?」
体を起こしながら問うシンタローに、マジックはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「今日はクリスマスだろう?
だからプレゼントだよ」
ほら。とマジックが差し出した彼の左手首には、一体いつの間につないだのか、
シンタローの左手首とを結ぶ赤いリボンがついていた。
しかし、マジックの答えはシンタローが求めている答えと、外れてはいないが的を得ているともいえない。
クリスマスプレゼントだとしたら、一体誰からの?
『クリスマスプレゼント』を無視するとしたら、一体どうやってここに来たのか、どうしてここにいるのか。
───おや...滑ったかな?
左手を見て俯いたまま硬直しているシンタローを見て、マジックはそう判断した。
「シンタロー? 大丈夫かい?」
こりゃいきなり暴れだすだろうか。ベッドの上で暴れたら埃が大変だ。
窓を開けようにもあけたら寒いぞと、変な方向の心配をする。
「~~~ッツ!」
無言のままシンタローが拳を振り上げる。
───あー...やっぱり怒ったか...無理もないけど。
まぁシンタローの気持ちはよく分るし。混乱しているのもあるだろうし。
ここは一つ大人しく拳の一振りくらい甘んじて受けるか。
大人の余裕を見せ、マジックは瞳を閉じた。
どすどすどすどすばきがすめきょっ
マジックの体が宙を舞う。
妙に耳に響く音を立てて。
「し...シンちゃんってば相変わらず容赦ないんだから...」
「うるせぇ!」
床に不時着し、ずりずりと這いながら再びベッドに。
「大体なんであんたがいるんだよ! プレゼントっつったってサンタなんかいるわけ...
いたとしても! 悪魔(しかも大人)のところに来るか!
訳のわかんねーコト言ってねーで、少しは、人の質問の、意味を、しっかり酌んで...」
シンタローの台詞は、途中で遮られた。
自らの頬を流れる涙に。
「~~~ッツ」
「シンタロー...」
マジックはそっとシンタローに手を伸ばし、パシッと払われた。
「触るな!
どうやってここに来たのかしらねーけど、
悪魔と人間が一緒になれるわけねーだろ!
ずっとそう思ってて、せっかく、人がやっと落ち着いてきたってのに...。
どうしてそっとしておいてくれないんだよ!」
───ずっと?
「あんたなんか嫌いだ! さっさと人間界に帰っちまえ!」
「シンタロー。私の話を聞い...」
「嫌だ! 」
シンタローに触れようとする手をことごとく払いのけ、
泣いたまま癇癪を起こしたように暴れ、マジックの手から逃れようとする。
「───シンタローッツ!」
「ッツ!!?」
突然大きな声で名前を呼ばれ、ビクっとシンタローの体が震えた。
マジックの手が動くのを見て、殴られると反射的に体を硬くする。
だが、その腕はシンタローに触れると、自分のほうに引き寄せ、力強くシンタローを抱きしめた。
「シンちゃんさっき悪魔と人間じゃ、って言ったね
これを見ても同じコトがいえるかな?」
バサッ
シンタローの瞳に映ったのは、マジックの耳より上から生えた乳白色の角
そして背から生えた黒い羽。
伝承に出てくる邪龍のような漆黒の黒
頂点には白く光るまがまがしい角。
シンタローの羽よりもはるかに大きくたくましいソレは、紛れもなく悪魔の翼だった。
呆然とするシンタローに、マジックはあくまでやさしく告げる。
「とりあえず落ち着いて私の話を聞いてくれないか?
暴れるのはその後で良いし、また殴ってもいいから。
ね?」
少しだけ体を離し、まっすぐ正面からシンタローの目を見つめる。
シンタローが言葉もなく頷くのを見ると、満足したように微笑み
「とりあえず、ティッシュだね。
ほら。せっかくの可愛い顔が台無しだよ。」
シンタローは無言でマジックが渡したティッシュ箱をマジックに向かって投げつけた。
「───さて、どこから話そうか。」
昼に近い時間。
シンタローの自室ベッドの上。
マジックはシンタローを正面から抱きしめ、
お互いの顔が見えないようにシンタローの顔を肩に埋めて話し始めた。
昨晩のコトだよ。
私はシンタローがいない寂しさから毎晩毎晩涙で枕を濡らして床についていたんだ。
けれど、昨日はクリスマスイブだったからね、兄弟そろって食事に行ったんだよ。
それでほろ酔い加減で部屋に戻ると、突然黒い煙が立ってね、
一体なんだと固まっていたら、その煙の中から、2人の悪魔が出てきたんだ。
私は、一目見て君の関係者だと気づいたよ。
2人のうち一人は髪の色も目の色も違うのに、なんとなく君に似ていると思ったんだ。
...もう一人は分らなかったけれど。
で、驚いている私に彼らはこういったんだよ。
『お前がマジックだな。
俺はキンタロー。見ての通りの悪魔だ』
『僕はグンマ。悪魔なのはキンちゃんと同じ。』
『...悪魔?』
『あぁ。つい最近までお前が飼っていたのと同じだ。』
『キンちゃん! 飼っていたんじゃなくて、同居してたんだよ!』
『いや、私は同棲のつもりなんだけど』
バキ!
「シンちゃんまだ話の途中だよ!」
「うるせぇ! ドサクサ紛れに何言ってやがる!」
そ、それでだね、
『その同棲してたやつの話なんだが』
これを聞いて、私は悪魔がお礼参りに来たと思ったんだよ。
たとえ私が君をどんなに愛していて、ソレが故の行動だったとしても、
君の力を封印していたわけだし、立派に悪魔から怨まれるような事だったと思ってね。
覚悟を決める私に、もう一人の、グンマって悪魔はね明るい声でこういったんだよ、
『シンちゃんの代わりに僕たちが願い事3つ、叶えてあげる』
「...は? 俺の代わり?」
「うん。私も最初耳を疑ったんだけどね。」
『詳しい説明を求めて良いかな?』
『ソレが1つ目の願いか?』
『いや...違うけど。』
『なら早くしてくれ』
私の願いは決まっていたんだよ。この時点でね。
この2人がシンちゃんの関係者ってのはもう確定だったし、
だったら願いごとなんて決まっているじゃないか。
『じゃぁ一つ目。まず私はシンタローと一緒に暮らしたい。
2つ目。私を悪魔に...上級悪魔にしてほしい』
『一つ目に付いて説明するよ。
こぶが2つほどついているけどいい?』
グンちゃんはやけに明るい声で言ったね。自分たちを指差しながら。
『今までと変わらないさ』
それにこの2人とならうまくやっていけそうな気がしたしね。
『2つ目についての説明だ。
俺たちはシンタローと同じ下級悪魔だ。
流石に下級悪魔が上級悪魔を作り出すのは出来ない。
だから、シンタローから聞いてるか知らないが、俺たちのはるか上司に当たる石に助けてもらう』
『でもさ、キンちゃん。秘石良いって言ってくれるかな』
『この尻拭いを言い出したヤツは誰だ?』
『あ、そうか』
二人の会話は、この時点ではよく分らなかったんだけれど、
とにかく魔界に行ってみようって話になったんだ。
『じゃ、魔界につれてくけど、とりあえず先に秘石のところに行こう!』
『え? 私としては少しでも早くシンタローに会いたいのだけれど...』
『だめだめ! こっちは少しでもシンちゃんを大きく驚かせたいの!』
...なるほど。
で、二人が作り出した扉──私には煙にしか見えなかったんだけれど──を通って、
魔界に行ったんだ。
『ここが魔界?』
ついたところはこのうちの前だったよ。
『そう。それでここが僕たちのうち。
前におじさんが住んでいたところからすれば、狭いと思うけど
僕たちしかいないからね。十分なんだよ』
なるほど。3人で暮らしているのか。
ということはシンタローがこっちにいる間二人っきりだったわけだ。
...悪いコトしたなぁ。
「あんまし悪くもないみたいだったぞ」
「え? なんで?」
「あの二人俺がいない間、色々仲良くなっていたからな。」
「あ、そうなんだ。」
それはともかく、
『で、秘石って言うのは...』
『うん。シンちゃんから何か聞いてる?』
『魔界の創始者というのと、下級悪魔は秘石に頼んで進化させてもらうってコトくらいだね』
『それだけ聞いていれば十分だ。』
『───?』
聞きなれない第三者の声に振り向くと、金髪長髪の人が立っててね、
『グンちゃん。この人は?』
『...アス。最上級悪魔だよ。』
『秘石に次ぐ、魔界のナンバー2だ』
『あぁ。そういえばシンちゃんそんなコトも言っていたなぁ。』
『人間界の、マジックだな。』
『いかにも。』
『話は聞いていた。最上級悪魔、それとここの3人と一緒に暮らす。で良いんだな』
『あぁ。』
そんな話をしていると、アスが青い宝石を私にかざしたんだ。
丸くて、真っ青で、見ていると引き込まれそうな...
少しの間浮遊感があって、気がついたらこんな体だったんだよ。
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24日クリスマスイブ。
関係ねーけど。
久しぶりの性欲処理のため、すっきりした体としこりの残った心をつれて、キッチンに。
今日の朝食担当は俺だ。
さて何がいいか。
半年間ずっとイギリスに住んでいた所為か、どうもマジックがよく作ってくれたものが思い浮かぶ
つまり、コーヒーか紅茶、ジュース、シリアル、ヨーグルト、トースト、ベーコン、卵料理、
ベイクドビーンズ、マッシュルーム、焼いたトマト等々。
ずいぶんな量だが、マジックが言うには
『これはFull English Breakfastっていって、昔1日2食だった時の物なんだよ。
今はみんな昼に軽いサンドイッチを取ったりするから、
普通の家庭では朝食はコーヒーか紅茶、ソレに薄いトーストかシリアルだね。
ただ、私は朝食はしっかりとったほうがいいと思うから、こうしてるんだよ。
朝じっくり時間を食べて食事をするというのはなんとなく優雅だろう?
To eat well in England you should have breakfast three times a day.ってね』
イングランドでおいしい食事をとろうと思ったら、朝食を三度食べるべきだ。だそうだ。
話がそれた。
紅茶にしよう紅茶。
ほかに飲み物は、冷気貯蔵庫(常に冷気で満たされている箱。グンマ発明のマジック.ボックス)に
牛乳とバナナがあったからソレでジュースでも作ろう。
ヨーグルトもあったよな。
パンは...いいや。そのまま出そう。ジャムとマーガリンは各自にお任せ。
卵はコカトリスの卵でスクランブルエッグを出そう。
グンマがいるから砂糖で味付け。俺は嫌だけど。
トマトはめんどくさいから熱湯に浸けた後水にさらして皮をむき、くし切りにして出す。
味は塩かマヨネーズ。これもテーブルの上に出しておけばいいだろう。
グンマのは細かく刻んでコーヒーカップに入れて砂糖少々。
これをスプーンで食うとうまいらしい...(汗)
しかしジューサーといい冷気貯蔵庫...いわゆる冷蔵庫と言い、
他の悪魔の家には冷蔵庫はともかく、ジューサーはない。
グンマが人間界でメジャーになった家電製品を
こっちで、電気の代わりに魔力で色々作れないかと試した結果なのだ。
この辺アイツの技術には舌を巻く。
ということで、今日の朝食は、
バナナジュースと食パンヨーグルトにスクランブルエッグ。
それと小皿にトマト。
...緑のものがほしいな。ブロッコリーを昨日ゆでて取っておいたはず。
「おっはよー!」
「おはよう」
「おはようさん」
寝起きからハイテンションなグンマとすでに普段着に着替えているキンタロー。
「今日は勝手にパンに何かつけろよー。」
「はーい!...イチゴジャムある?」
「ほらよ」
「どーも!」
残り少なくなったイチゴジャムを手渡す。不必要なほどにでっかい元気なお返事が返ってきた。
「キンタローは?」
「...そうだな。グンマと同じでいい。」
こっちは妙に歯切れが悪い。
これはひょっとして...
俺はパンにりんごジャムを塗る手を止め、二人を交互に見つめて言った。
「なぁグンマ、キンタロー」
「え? なぁに??」
「...どうした」
満面の笑みで返してくるグンマとピクリと肩を震わせてこちらを見つめるキンタロー。
対照的な二人だが、これは多分...
「昨日聞こえてた...むしろ聞いていたな?」
あぁこめかみがピクピク動くのがわかるよ。
「何のコトだ?」
「大丈夫だよ。聞こえてなかったって。」
...二人とも平然としてる...フリをしているがな、
「キンタローはともかく、グンマの大丈夫って何がだ?」
「...あ。」
しまった! とグンマの瞳が物を言う。
「まぁそういうことだ」
おまえは立ち直りが早いなキンタロー。
「おまえらはよぉおお~~~!」
畜生やっぱり聞いていやがったのか!
「だ...だってシンちゃんのあんな声聞いたことなかったし...」
「普通は聞いたことないままで終わるんだよ!」
「仕方ないだろう。部屋が隣なんだから。」
ぐぅうう~~!
「で、でもシンちゃんも僕らの声聞いていたんでしょう?
だったらおあいこだよ。ね?」
「俺は強制的に聞かされたんだよ!」
「まぁまぁ。そんなことよりこのトマトおいしーねー」
さっきも言ったが、グンマのトマトは荒いみじん切りに砂糖を加えたものだ。
イメージするとして、
噛んでいる感じはシャーベットで、味はトマトに砂糖...トマトジャム? みたいなものだろうか。
トマトに塩なら分るが、トマトに砂糖。
これも俺がいない間に、グンマが考えたものらしい。
どんな状況下で生み出したのやら。
「くっそー...まぁ...色々釈然としねーが、
過ぎたことだし忘れよう。
もうすぐ年末だ。そろそろ家の掃除を始めるぞ」
「はーい!」
「了解」
自室の大掃除は今日1日で終わった。
少しキッチンもキンタローと2人で掃除したが(グンマは研究室の掃除)『腕が落ちた』と評された。
確かに去年はもうちょっと手際よくできた気がする。
今まで掃除なんてしなかったからな。
それに半年いないうちに細かいものの場所が変わっていて、いちいちキンタローに確認をとっていたからな。
にしても疲れた...
風呂にゆっくり浸かって、ぐっすり寝よう。
どうせ明日も早いんだ。
人間界では今日明日とイルミネーションが町を彩るだろう。
アイツのご自慢のイルミネーションはどうなっただろう?
むしろ、アイツはどうしているだろうか。
...年が明けたら、挨拶に行ってもいいかもな。
しばらくあいつと離れていた所為か、だいぶ自分の気持ちに整理ができた。
年があけたら挨拶くらいに行ってみよう。
また捕獲されないように今度は3人で。
いきなり行ったらどんな顔をするだろう。
行くなと引き止めるのだろうか。それとも封印をといた日のように笑って送り出すのだろうか。
ま、とりあえず、今は年末で掃除とかもろもろの整理で忙しいから、年が明けたらだな。
************************************************
コイツら何語で話してるんだという突っ込みはナシの方向で。
関係ねーけど。
久しぶりの性欲処理のため、すっきりした体としこりの残った心をつれて、キッチンに。
今日の朝食担当は俺だ。
さて何がいいか。
半年間ずっとイギリスに住んでいた所為か、どうもマジックがよく作ってくれたものが思い浮かぶ
つまり、コーヒーか紅茶、ジュース、シリアル、ヨーグルト、トースト、ベーコン、卵料理、
ベイクドビーンズ、マッシュルーム、焼いたトマト等々。
ずいぶんな量だが、マジックが言うには
『これはFull English Breakfastっていって、昔1日2食だった時の物なんだよ。
今はみんな昼に軽いサンドイッチを取ったりするから、
普通の家庭では朝食はコーヒーか紅茶、ソレに薄いトーストかシリアルだね。
ただ、私は朝食はしっかりとったほうがいいと思うから、こうしてるんだよ。
朝じっくり時間を食べて食事をするというのはなんとなく優雅だろう?
To eat well in England you should have breakfast three times a day.ってね』
イングランドでおいしい食事をとろうと思ったら、朝食を三度食べるべきだ。だそうだ。
話がそれた。
紅茶にしよう紅茶。
ほかに飲み物は、冷気貯蔵庫(常に冷気で満たされている箱。グンマ発明のマジック.ボックス)に
牛乳とバナナがあったからソレでジュースでも作ろう。
ヨーグルトもあったよな。
パンは...いいや。そのまま出そう。ジャムとマーガリンは各自にお任せ。
卵はコカトリスの卵でスクランブルエッグを出そう。
グンマがいるから砂糖で味付け。俺は嫌だけど。
トマトはめんどくさいから熱湯に浸けた後水にさらして皮をむき、くし切りにして出す。
味は塩かマヨネーズ。これもテーブルの上に出しておけばいいだろう。
グンマのは細かく刻んでコーヒーカップに入れて砂糖少々。
これをスプーンで食うとうまいらしい...(汗)
しかしジューサーといい冷気貯蔵庫...いわゆる冷蔵庫と言い、
他の悪魔の家には冷蔵庫はともかく、ジューサーはない。
グンマが人間界でメジャーになった家電製品を
こっちで、電気の代わりに魔力で色々作れないかと試した結果なのだ。
この辺アイツの技術には舌を巻く。
ということで、今日の朝食は、
バナナジュースと食パンヨーグルトにスクランブルエッグ。
それと小皿にトマト。
...緑のものがほしいな。ブロッコリーを昨日ゆでて取っておいたはず。
「おっはよー!」
「おはよう」
「おはようさん」
寝起きからハイテンションなグンマとすでに普段着に着替えているキンタロー。
「今日は勝手にパンに何かつけろよー。」
「はーい!...イチゴジャムある?」
「ほらよ」
「どーも!」
残り少なくなったイチゴジャムを手渡す。不必要なほどにでっかい元気なお返事が返ってきた。
「キンタローは?」
「...そうだな。グンマと同じでいい。」
こっちは妙に歯切れが悪い。
これはひょっとして...
俺はパンにりんごジャムを塗る手を止め、二人を交互に見つめて言った。
「なぁグンマ、キンタロー」
「え? なぁに??」
「...どうした」
満面の笑みで返してくるグンマとピクリと肩を震わせてこちらを見つめるキンタロー。
対照的な二人だが、これは多分...
「昨日聞こえてた...むしろ聞いていたな?」
あぁこめかみがピクピク動くのがわかるよ。
「何のコトだ?」
「大丈夫だよ。聞こえてなかったって。」
...二人とも平然としてる...フリをしているがな、
「キンタローはともかく、グンマの大丈夫って何がだ?」
「...あ。」
しまった! とグンマの瞳が物を言う。
「まぁそういうことだ」
おまえは立ち直りが早いなキンタロー。
「おまえらはよぉおお~~~!」
畜生やっぱり聞いていやがったのか!
「だ...だってシンちゃんのあんな声聞いたことなかったし...」
「普通は聞いたことないままで終わるんだよ!」
「仕方ないだろう。部屋が隣なんだから。」
ぐぅうう~~!
「で、でもシンちゃんも僕らの声聞いていたんでしょう?
だったらおあいこだよ。ね?」
「俺は強制的に聞かされたんだよ!」
「まぁまぁ。そんなことよりこのトマトおいしーねー」
さっきも言ったが、グンマのトマトは荒いみじん切りに砂糖を加えたものだ。
イメージするとして、
噛んでいる感じはシャーベットで、味はトマトに砂糖...トマトジャム? みたいなものだろうか。
トマトに塩なら分るが、トマトに砂糖。
これも俺がいない間に、グンマが考えたものらしい。
どんな状況下で生み出したのやら。
「くっそー...まぁ...色々釈然としねーが、
過ぎたことだし忘れよう。
もうすぐ年末だ。そろそろ家の掃除を始めるぞ」
「はーい!」
「了解」
自室の大掃除は今日1日で終わった。
少しキッチンもキンタローと2人で掃除したが(グンマは研究室の掃除)『腕が落ちた』と評された。
確かに去年はもうちょっと手際よくできた気がする。
今まで掃除なんてしなかったからな。
それに半年いないうちに細かいものの場所が変わっていて、いちいちキンタローに確認をとっていたからな。
にしても疲れた...
風呂にゆっくり浸かって、ぐっすり寝よう。
どうせ明日も早いんだ。
人間界では今日明日とイルミネーションが町を彩るだろう。
アイツのご自慢のイルミネーションはどうなっただろう?
むしろ、アイツはどうしているだろうか。
...年が明けたら、挨拶に行ってもいいかもな。
しばらくあいつと離れていた所為か、だいぶ自分の気持ちに整理ができた。
年があけたら挨拶くらいに行ってみよう。
また捕獲されないように今度は3人で。
いきなり行ったらどんな顔をするだろう。
行くなと引き止めるのだろうか。それとも封印をといた日のように笑って送り出すのだろうか。
ま、とりあえず、今は年末で掃除とかもろもろの整理で忙しいから、年が明けたらだな。
************************************************
コイツら何語で話してるんだという突っ込みはナシの方向で。
「んんっ...!」
ズボンの中に手を突っ込み半ば勃っているそれにそぉっと触れる。
目を閉じ、事務的に擦っていただけで、だいぶ硬くなった。
と、ティッシュティッシュ...
「うぅっ」
ガサガサとしたティッシュで包んだだけなのに、過敏に反応する。
「はぅ...くっ......っッツ!
───んん~~~っ」
思わず声を出しそうになり、慌てて枕に窒息しそうになるほど顔をうずめ、
何とかして声を押し殺す。
「っ...ぷはっ」
汚れたティッシュを捨て、湿った手を別のティッシュでふき取りゴミ箱に投げ捨てる。
...うし。上手く入った。
軽い喜びとともに少しの焦燥。
つまるところ───足りない。
どうすれば満足するのかは分るが...
そうしたら戻って来れなくなる。
けれど...
『うきゃぁああっ!』
隣にはすでに行ったやつがいるしなーッ!!
っくそ。
覚悟は決めた。俺も男だ!来るなら来い! 行くなら行ってやる!
右手の指をしっかり舐めて濡らして尻のほうに持って行く。
ズボンは全部下ろしたし、掛け布団も剥いだ。
暖房は魔力を使ってどうにでもなるし、だいぶ体も温まってきてる。
とはいえ流石にまだ暖房が部屋中に回ってなくて肌寒いので、パジャマの上着だけは着たままだが。
「あっ」
ぬれた指でソコに触れただけでビクンと身体が震える。
「っく...ぅう...」
周りを何周か、指の腹でなでた後、人差し指に力をいれゆっくりと差し込んで行く。
───はぁ...
人差し指がすべて埋まり、そっと息を吐く。
隣から声は聞こえてこない。
2ラウンド目を終えて、まったりしているか、寝ているか、シャワーを浴びているかのどれかだろう。
しかし声を抑えるに越したコトはない。
大量にティッシュを取り、再び枕を口に当てて、手の動きを再開した。
「んっ...ぅ...んんっっ!」
───シンちゃん。気持ち良い?
指を増やす。1本から2本。3本と
「ふっ...ぅ....んん───っ」
───私はイイよ? 君の中。熱くて、とけちゃいそうだ。
いつもヤツが弄くってた所を見つけ、ソコを何度も指で押し上げる。
「っぷは...。っつぅう...」
───あぁ。君も気持ち良いんだね。こっちもトロトロになってる。
もう一度、あいている方の手で前を軽く握り、親指の腹でこする。
「ぅんっ...んんっんぅ........」
───マジックじゃないだろう?何度も何度も父さんって呼ぶように言ったじゃないか。
隣からは物音一つしない。
きっともう寝てしまったのだろう。
少しは声を出しても大丈夫だろうか?
むしろ、酸素が必要で、呼吸が大きくなって...枕で抑えてなんかいられない。
「っふぅ...あ...あぁ...」
枕から顔を離し、大きく息を吸い込む。少しは楽になった。
───さ、父さんって呼んでごらん?
...なんでここまでリアルにアイツの台詞が再現できるんだろう。
だが...体はもっと欲しがっている。
どうせここには誰もいないんだし、隣も寝ているようだし少しさらけ出しても大丈夫だろう。
「うん...と...ぉさん...もっと...」
そう。誰もいない。だから、少しくらい欲望をさらけ出しても問題はない。
───はい。よく言えました。
「ひっ...」
いつもアイツがしていたように後ろの弱点を何度も刺激し、前も強く擦りあげる。
「あぁっ...っ...んっく......あはっ......」
も......だめ...だっ
俺は次に来る快感に耐えるように息を大きく吸い込み、目を硬く閉じた。
「んくぅうううッツ!!」
頬を枕に押し付け、頭のてっぺんから足の先まで強張らせ、ティッシュに熱い体液を吐き出す。
そのまま、糸が切れたあやつり人形のようにくったりとベッドに倒れこんだ。
「はぁ...はぁ...」
何枚にも重ねたはずのティッシュがやけに湿っているように感じる。
ソレを適当に高く放り投げてひと睨み。
ティッシュのかたまりは床に着く前に燃え尽きた。
「...ふぅ...」
息を整え、頭に残る顔を何とか追い出し、隣が静かになっているのを確かめ、俺は浴室に行った。
ズボンの中に手を突っ込み半ば勃っているそれにそぉっと触れる。
目を閉じ、事務的に擦っていただけで、だいぶ硬くなった。
と、ティッシュティッシュ...
「うぅっ」
ガサガサとしたティッシュで包んだだけなのに、過敏に反応する。
「はぅ...くっ......っッツ!
───んん~~~っ」
思わず声を出しそうになり、慌てて枕に窒息しそうになるほど顔をうずめ、
何とかして声を押し殺す。
「っ...ぷはっ」
汚れたティッシュを捨て、湿った手を別のティッシュでふき取りゴミ箱に投げ捨てる。
...うし。上手く入った。
軽い喜びとともに少しの焦燥。
つまるところ───足りない。
どうすれば満足するのかは分るが...
そうしたら戻って来れなくなる。
けれど...
『うきゃぁああっ!』
隣にはすでに行ったやつがいるしなーッ!!
っくそ。
覚悟は決めた。俺も男だ!来るなら来い! 行くなら行ってやる!
右手の指をしっかり舐めて濡らして尻のほうに持って行く。
ズボンは全部下ろしたし、掛け布団も剥いだ。
暖房は魔力を使ってどうにでもなるし、だいぶ体も温まってきてる。
とはいえ流石にまだ暖房が部屋中に回ってなくて肌寒いので、パジャマの上着だけは着たままだが。
「あっ」
ぬれた指でソコに触れただけでビクンと身体が震える。
「っく...ぅう...」
周りを何周か、指の腹でなでた後、人差し指に力をいれゆっくりと差し込んで行く。
───はぁ...
人差し指がすべて埋まり、そっと息を吐く。
隣から声は聞こえてこない。
2ラウンド目を終えて、まったりしているか、寝ているか、シャワーを浴びているかのどれかだろう。
しかし声を抑えるに越したコトはない。
大量にティッシュを取り、再び枕を口に当てて、手の動きを再開した。
「んっ...ぅ...んんっっ!」
───シンちゃん。気持ち良い?
指を増やす。1本から2本。3本と
「ふっ...ぅ....んん───っ」
───私はイイよ? 君の中。熱くて、とけちゃいそうだ。
いつもヤツが弄くってた所を見つけ、ソコを何度も指で押し上げる。
「っぷは...。っつぅう...」
───あぁ。君も気持ち良いんだね。こっちもトロトロになってる。
もう一度、あいている方の手で前を軽く握り、親指の腹でこする。
「ぅんっ...んんっんぅ........」
───マジックじゃないだろう?何度も何度も父さんって呼ぶように言ったじゃないか。
隣からは物音一つしない。
きっともう寝てしまったのだろう。
少しは声を出しても大丈夫だろうか?
むしろ、酸素が必要で、呼吸が大きくなって...枕で抑えてなんかいられない。
「っふぅ...あ...あぁ...」
枕から顔を離し、大きく息を吸い込む。少しは楽になった。
───さ、父さんって呼んでごらん?
...なんでここまでリアルにアイツの台詞が再現できるんだろう。
だが...体はもっと欲しがっている。
どうせここには誰もいないんだし、隣も寝ているようだし少しさらけ出しても大丈夫だろう。
「うん...と...ぉさん...もっと...」
そう。誰もいない。だから、少しくらい欲望をさらけ出しても問題はない。
───はい。よく言えました。
「ひっ...」
いつもアイツがしていたように後ろの弱点を何度も刺激し、前も強く擦りあげる。
「あぁっ...っ...んっく......あはっ......」
も......だめ...だっ
俺は次に来る快感に耐えるように息を大きく吸い込み、目を硬く閉じた。
「んくぅうううッツ!!」
頬を枕に押し付け、頭のてっぺんから足の先まで強張らせ、ティッシュに熱い体液を吐き出す。
そのまま、糸が切れたあやつり人形のようにくったりとベッドに倒れこんだ。
「はぁ...はぁ...」
何枚にも重ねたはずのティッシュがやけに湿っているように感じる。
ソレを適当に高く放り投げてひと睨み。
ティッシュのかたまりは床に着く前に燃え尽きた。
「...ふぅ...」
息を整え、頭に残る顔を何とか追い出し、隣が静かになっているのを確かめ、俺は浴室に行った。
明日はいよいよクリスマス・イブだ。
といっても悪魔には何の関係もない話だ。
人間界やお祭り好きの天上界の奴らも何故か一緒になって騒いでいるだろう。
魔界の奴らには関係なし。
少なくとも俺は昼になってもベッドの上でごろごろと惰眠をむさぼっていた。
『シンちゃんは、悪魔なんだよね』
『あん?何をいまさら?』
『悪魔がこうやって目の前にいるんだから、
神様も本当にいるんだよね?
それとも神様や天使なんていなくて、悪魔だけがいるのかな?』
『...いろんな誤解があるようだな。
まぁどうせ風呂が沸くまで暇だし説明してやるよ。
いいか、お前らが住んでいる人間界と、次元を別にして俺が住んでいる魔界のほかに、
さらに次元を異にした天上界ってのがあるんだ。』
『いかにもな名前だね。』
『まぁな。
で、人間界は説明しなくても分るな。お前らが住んでいる世界だ。
魔界ってのは、青の秘石っつー...わけの分らん石があって、
そいつが生み出したって言われている。
魔界には悪魔やその他魔物...たとえば吸血鬼、人狼とかが住んでいる。
悪魔や吸血鬼みてーな知性の高い生き物は青の秘石や、
その直属の最上級悪魔『アス』の統治の下、町や都市を形成しているが、
知能の低い生き物は野生でうろうろしているな。』
『たまに人間界に来たりするのかい?』
『一応禁止されているけど、実際には、あってないようなものだな。
飲酒運転くらいのレベルだ。
ある程度魔力がありゃ人間界への扉を開くのは簡単だからな。
だから、たまーに裏出版で人間界の観光案内なんてのも出てる。』
『ずいぶんと俗っぽいね』
『そんなもんだ。
正式な許可は、秘石..とまでは行かなくても、魔界の幹部連中から出るな。
アンタがやった悪魔召喚の儀式は実は意外にも高度な技術でな、
青の秘石直通なんだ。
あれをすると青の秘石にあんたのデータが行って、
それに見合った力を有する悪魔を、秘石が直接送り込むんだよ』
『へー』
『で、天上界だな。
天上界っつてもお空の上にあるわけじゃねーぞ。他の2世界と次元が違うだけだ。
赤の秘石をトップに、秘石が生み出した天使達や
同じく秘石が生んだユニコーンとかなんだか「それ」ッぽい生き物が住んでる。
青の秘石と赤の秘石は対を成す存在で、
最上級悪魔『アス』に対して、最上天使『ジャン』ってのがいる。』
『天上界と魔界ってやっぱり中が悪いのかい?』
『伝統的にな。相容れねーんだよ』
『へぇ? んじゃ戦争とかあるの?』
『大昔はあったみてーだけど、
青の秘石と赤の秘石が直接ぶつかった事はないみたいだな。
うん。今は戦争まであとちょっと!とか
武力による小競り合いがちょこちょこ起こってるわけじゃねーぞ。
ほら、お前らイギリスとフランスみたいなもんだ。
お互いに気質があわないがゆえに気に入らないってな感じで。』
『神様って言うのは?』
『...結論から言うとだな、『神』っつー存在はいねえ』
『...赤の秘石とは違うのかい? 天使はいるんだろう?』
『いいか、考えても見ろ、神っつーのは人間それぞれの理想像だ。』
『...なるほど。』
『分るか? たとえば...、
二つの村があって、二つの長老がいた。
ある日片方の村の長老が、もう片方の長老に言った。
「私の村に素晴らしい若者がいた。
彼ものの父親が羊を盗んだが、息子はそれを役人に告げたのだ」
ソレに対してもう片方の長老が言うには
「私の村で言う素晴らしい若者は、
父親のために父親の盗みを隠し、父親は息子のために隠す者を言う」』
『なるほど。価値観の違いか。もしも片方の長老の考えを支持する『神』がいたら、
もう片方の長老には支持されないわけだから、彼とっては『神』ではない。』
『私の神がそんな事を言うわけがない!!ってことだな。』
『キリストは? 彼は神の子だろう?』
『あー...神って名づけたのは失敗なんだろうな。
天上界の奴らは、人間界に対して世話を焼くのが好きでな。
そうやって色々世話を焼いた結果なんだ。』
『...世話...って』
『人間界が災害や、その他色々なコトで深刻に困っていたら
ついつい世話を焼いちまうんだよ。
人間からしたらわけの分らない生き物?がやってきて
なんだか分らないけど助けてくれた。
これはきっと万能な存在がいるに違いない! これが奇跡なんだ!って所か。』
『...悪魔の場合は?』
『人間みたいに弱い奴らをからかうのが好きなだけだ。』
『...からかうって...』
『だからからかってるだけだって。
俺がアンタに3つの願いを叶えて、代わりにあんたの魂は俺のもの。
普通は色々悩んだり考えたりして、でもって、死んだ後に魂をもらうわけだが、
人間の魂なんかもらったところであんまり意味無いからな。
ぽーいっとかって適当に捨ててるぞ。』
『...ひどい』
『かわりに3つの願い叶えてやるんだろ。
色々破滅して行くやつがいるからな、そういうの見ているのが楽しいんだ。
悪魔と人間の知恵比べってのもある。』
『いたずら感覚って事か。』
『そういうことだ。
基本的に血の気が多かったりノリと勢いだけで生きてるやつが多いからな。
お前らから見りゃ結構ひどいことしてるんだろーな。』
『ま、私の場合は最高だけどねv』
『アンタこそが悪魔だよ...』
『ところでシンちゃん。』
『あん?』
『いつも羽出しっぱなしにしているけど、邪魔じゃないのかい?』
『...邪魔だけどまだ仕舞えねーんだよ』
『まだ?』
『俺はまだ下級悪魔だからな。上級悪魔だったらしまえるんだけどよ』
『下級? 上級?』
『生まれたての悪魔は一通りの知識を身につけたところで、「下級悪魔」
通称「見習い悪魔」と呼ばれるようになる。
経験を積む事で羽がだんだんおっきくなって行って、
ある程度の大きさに行くと、さっき言った青の秘石に頼んで「進化」するんだ。
進化したら「上級悪魔」になる。』
『具体的にはどう代わるんだい?』
『魔力が桁違いに上がるな。
それと、物理的に考えて下級悪魔の羽の大きさでは飛べねーんだけど、
上級悪魔になると羽だけで飛べるほど大きくて立派になる。』
『でもそれって邪魔にならないかい?』
『なる。もちろんなる。
だからその桁違いの魔力を使って、
羽や、やっぱりでかくなった角を消す魔法をまず最初に覚えるんだよ。』
『へーぇ。悪魔もそれなりに面倒だねぇ』
『まぁ人間に比べて余計なものがついてるからな。』
『他には他には?』
『...キラキラした子供のような目で見るのはやめろ。
汚れまくってるくせに』
『失礼な。
シンちゃんを想うこの心に汚れた部分なんてありはしないよ!』
『...じゃぁしばらく一人で寝ろよ』
『あ、ソレは無理。』
『速ッツ!』
『むしろ君を嘘偽りなく愛しているからこそ、
もっと別の色々な形で愛を表現したいんじゃないかッ!』
『ほーぉ。じゃぁこの俺の尻を撫でているのも愛情表現か?』
『当然!』
『...風呂沸いたな。先に入るぜ』
『あ、私も一緒にv』
『入るな! よって来るなぁああ!!』
『洗いっこしよーねぇv』
『アンタが一緒だと洗うだけですまねーから嫌なんだよ!』
『なんだかんだで喜んでるくせにぃ』
『ソレはアンタがうま...じゃなくて、
とにかく来るなぁああ!』
───回想終了───
か、関係ないところまで回想してたな。
それはともかく、アイツにも説明したとおり、『神』と呼べる明確な存在はいない。
人間が神と指しているのは、赤の秘石だろう。
天上界のトップじゃねーか。
人間にならまだしも、俺たちに奇跡なんて起こるわけがない。
だから、
「何だ。おきているのか」
「...キンタロー...
せめてノック位してくれ。」
必要最低限の礼儀だというとヤツは肩をすくめ
「返事がなかったからな。
中で死んでいるのかと思った」
死んでたまるか。
「で、何のようだ?」
「布団を干す」
................あん?
「布団乾燥機をグンマが作ってな。
少し実験させてくれ」
布団乾燥機って...そりゃ確かにあったかい布団は気持ちが良いけどよ。
つか実験?
「...自分のところでやれ」
「却下」
「なんでだよ」
「失敗したら寝るところがなくなるからな。
お前以上に困る」
...ソレは今夜グンマとヤルってコトデスカ...?
そゆことを堂々と示唆するな!!
いや、だったら!
「失敗したらグンマの所にとめてもらえば良いだろ?」
どっちの部屋でも一緒だろが。
「グンマの部屋はぬいぐるみやその他でどうにもその気になれなくてな。
───分るだろ?」
分りたくない分りたくない。
兄弟の部屋が色んな意味でロリポップな雰囲気で
お菓子の甘い匂いがふんわり漂ってて
日を間違えると機械が床に散乱しているなんてコト知りたくない!
「別に台所とかでも良いんだが、明日そこで朝食を作るということを考えるとな。
ちなみに明日はお前の担当だったな」
ぐはっ!
「わ...分った! わかったよ!!
布団乾燥機でも布団圧縮袋でも持ってきやがれ!」
「布団圧縮はないが...じゃぁ失礼する
その間ベッドは使えないから適当にうろうろしててくれ」
「へーいへいへい」
俺は重い腰を(比喩だぞ)持ち上げ、台所に行った。
「あ、シンちゃーん。
おそよーv」
お早うと言いたいのだろうか。
そりゃ昼まで寝てりゃ早くもねーけど、なんか最後についたハートが怖い。
そんなに説明しないのが腹立つのか?
心配かけた罰として3ヶ月皿洗い引き受けてやっただろうに。
「キンちゃんは?」
「お前が作った布団乾燥機使って俺の布団乾燥させてる」
「あぁ。大掃除に向けて造ってみたんだよ。すごいでしょ。」
「あーすごいすごい」
「お布団が寒いとどうにもやる気がしなくて」
「ふーん。何がだ?」
「え? 色々」
...コイツが言っているのは本当に「お布団が寒いと何をするにしてもどうもやる気が出ない」という意味だろうかそれともやっぱり『そっち』の意味なのだろうか。俺が人間界に行くまでのグンマだったらあっさりと前者を選んだんだがキンタローとそういう関係になっていったと知るとやはり後者としか思えないような気もするし。しかしどんな状況下に置かれようとグンマがグンマであるコトに変わりはないわけだからやはりこれは前者で良いのだろう。そもそも部屋さえ温かければ布団が多少冷たいくらい我慢できるだろうし俺の場合は電気毛布が入っていたから関係なかったけれどって何を思い出させるんだこの
「馬鹿グンマ───!!」
「えぇえええ!!??」
...はっ!
し、しまった。つい心の葛藤と現実を混ぜちまった...ッ!
正気に戻ってグンマを見てみれば、硬直しているコイツの姿。
「えーと...」
「シンちゃん。やっぱり人間界で何かあったの?」
「そりゃ...何にもなけりゃ半年以上もいねーよ。
けど色んな理由で言えねぇ。」
何度も言ったけどな。こればっかりは言えねぇ。
「はぁ...聞きたいけど、いいよ。諦めた。
シンちゃんって昔っから強情なところあったもんね。」
そうだな。自分でもそう思うよ。
「でもね、
自分がしなくちゃいけないことをしっかり理解するのも大事だよ。」
「............」
「どしたの?」
「いや...お前に言われるとは思わなかったからな。」
「.........どういう意味?」
「あの部屋の散らかりよう。
キンタローが嘆いてたぞ」
「ぐぅ。」
コイツが何を知っているのか、それとも何にも知らないで出てきた言葉なのか分らないが...
「少しの間外に出てくる。
すぐ戻る」
「いってらっしゃーい」
自分がしなくちゃいけないことをしっかり理解する...か。
そんなの、とっくに理解してるんだよ。
「グンマ。」
「あ、キンちゃん。聞いてたの?」
「今、シンタローに言ったコト...しなくちゃいけないことってのは...」
「うん、アスから連絡があってね、シンちゃん契約とか何にもしないで帰ってきたんだって。
まぁぼくらが無理やりつれて帰ったんだけど...
だから...」
その夜。
グンマが新しく作った布団乾燥機とやらは無事成功したらしい。
布団が柔らかくなっていた。
それから、
『...あぁ...はぁ...』
『あんっ...』
隣の部屋から聞こえるグンマの声。
ちなみに隣の部屋はキンタローの部屋で、俺のベッドがある壁の、すぐ反対側にはキンタローのベッドがある。
つまり、壁一枚を隔てた向こうでは、キンタローとグンマが...
『いぁっ...』
だぁああああああああっ!!!
眠れねーッ!!
そりゃいくらなんでも兄弟のあえぎ声が聞こえたら眠れるもんも眠れんわ!!
くっ! こうなったらベッドの位置をずらすか?
い、いやいやいや。それだと振動が向こうに伝わってベッド移動しているのがばれる!
そんなことする理由はたったの一つなんだから聞いてたってばれる!
い、いや、好きで聞いてるわけじゃなく、聞こえちまってるんだから別に俺がすまないと思う義理はねーんだが...
くそー...
こうなったら意地でも寝てやる!!
『んぁっ!』
............
........................
....................................
『ああぁあああっ!』
...イったか。
じゃぁこれから静かに...
『きゃぁッ!』
え?
悲鳴にも似た声に何かあったのかと、耳を壁につけないまでも、耳をすませると、
よくは聞こえなかったが、なにやら言い争いをしているような雰囲気だ。
痴話げんかか?
..................
『あっ! あぅっ...』
単に2ラウンド開始かぁああああっ!!
まったくキンタローも若いな。
大体グンマも女みてーな、いつもより甲高い声あげるからよけーに煽られるんだろうが。
まぁあーゆー時はえてして裏返ったりするもんだけどよ。
俺だっていつも...
『くぅッツ!』
や...やべぇ...
勃ってきた───ッツ!!
どうすんだよこれどうすんだよこれどうすんだよこれぇッツ!
そ、そりゃここに来る前は毎晩のようにマジックに抱かれていたから今まで大丈夫(何が)だったけれど、
かんがえてみりゃ先週の木曜から一度も処理してねぇ!
なおかつ今日はこの状況...。
勃たないわけがない!
などと威張ってみたところでどうにかなるわけではなく、
...どうするんだよ本気で。
1、我慢
2、トイレにGO!
3、ここで処理
1は...
この隣からよく見知った二人がそーゆーコトをしているという事実がある以上、
というか音が聞こえてくる以上我慢は無理だ...
そもそも我慢して寝られるわけがねぇ。
2は、トイレ...
け、けどドア開けたら音が響くような気がする。
もしもそれで二人の邪魔をしちまったら...ッ!
.........邪魔してやろうか。
あ、じゃなくて、
どちらにしろ明日気まずい雰囲気になるような気がする。なんとなく。
3、ここで...
声を押し殺せば、奴ら自分らの行為に没頭しているだろうから、気づかれないような気がする...
だ...大丈夫だろうか。
再び耳を澄ませば、しっかり聞こえるグンマの嬌声。
......うわなんか腹立ってきたし。
何でコイツら+1のためにここまできつい思いしなくちゃいかんのか。
このままキンタローの部屋に殴りこみ...
だめだ! 痛すぎる!
あーちっくしょー...
これも結構イタいもんがあるけど...
おれはうつ伏せで寝ていた状態から、足をまげて腹を浮かせ…………、
side;サービス
「───で、結局帰るタイミング失っているわけだ」
「そんなおじさんはっきりと...」
義理の甥がなにやら真剣な面持ちで相談したいコトがあると言ってきたからなんだと思ったら...
今まで彼を苦しめてきた封印をかけた本人があっさりとはずしたというのだ。
その人の───兄の真意がつかめないと言うことらしい。
クッキーを頬張りつつ眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
「なんか企んでいるようには見えないし...」
「じゃぁ素直に帰れば良いじゃないか。
家族が待っているんだろう?」
「...そうなんですけれど...」
「兄さんと離れるのがつらい?」
「───んなっ!?」
面白いぐらいに反応される。
ある意味素直なんだが。
「まぁシンタローの感情はともかくとして、
どんな形にしろ色々な物に情が移ったんだな」
シンタローのコトを気にかけてくれる古株のメイドとか。
私達とか、そしてもちろん兄さんにも。
「離れがたいんだろう?」
「まぁ...そりゃ半年以上も一緒にいたら...」
「だったら一度向こうに行って、また戻ってくれば良い。
なんだったらその家族も連れてきても良いし。」
シンタローの話によると2人ほど家族と呼べる存在がいるらしい。
「私も、兄さんもシンタローの家族だったら大歓迎だよ?」
多少家族が増えたってどうにでもなるしね。
「それもそうなんでしょうけど、
なんか親父の策にはまっているようで嫌なんですよ!」
やれやれ...
素直になればずいぶんと楽になるだろうに。
ギリギリにならないと...なっても自分の本音をさらけ出さないんだろうな。
「ま、タイミングが分らないってのなら分るまでいれば良いんじゃないかな。
どうせそうなるんだろう?」
「...そうなるんだろうな。」
ポツリと返ってきた返事は、何か変化を期待するように聞こえたのは、気のせいだろうか?
Side;ルーザー
「どういう風の吹き回しですか?」
「んー? なんか一石投じてみたくなってね」
先日の兄さんの誕生日で、溺愛する悪魔とさっさと部屋に戻ったから
翌日は遅く起きてくるだろうと予想していたのだが、予想に反してこの兄は早く起きてきた。
心なしか顔色も良い。
どうしてかと尋ねると、昨晩はぐっすりと眠れたというのだ。
具体的に話を聞くと、寝る前にシンタローの封印をとき、
混乱するシンタローをそのままにベッドに入ったのだという。
「ソレでよく眠れましたね」と言うと、「シンちゃんがなんか魔法かけて眠らせたみたい」と。
───悪魔というのは何でもありだな。
それで起きてみたらシンタローの姿はなく、ハーレムの話によれば朝早くからサービスの部屋にこもっているらしい。
いきなり封印をとかれたものだから、帰るにしても家族達にどう話をすれば良いのか分らないし、
帰らないにしても、今まで散々帰りたい帰りたいといっていたのに、
何故帰らないのかと尋ねられたらどう答えて良いのか分らないのだろう。
それでサービスの部屋に逃げたわけだ。
それ以来食事はもちろん、ベッドに入るのも兄さんを強制的に寝かしつけてからだという。
つまるところ、徹底的に避けられているらしい。
ややこしいカップルだ。
私に言わせれば、(兄弟として贔屓目もあるが)シンタローが素直になれないのが問題だと思う。
「兄さんは、シンタローが兄さんのコトをどう思っていると思います?」
「んー...愛されてるんじゃないかなぁ」
「ずいぶんあっさり言いますね」
こういう時はせめてためらったりするものだろう。
「だってシンちゃん素直だし」
「ソレは上に「ある意味」がつくでしょう」
「まぁそうなんだけど...」
だからね、と一呼吸置いた後に、我が兄が言うには、
「こうやってちょっと突き放すって言うか
今までとは少し違った状況において、シンちゃんの心を揺さぶるわけだよ。
『今までずっと帰らしてくれなかったのに何でいきなりそんなコト言うんだよ。
もう俺のコトはどうでも良いのか?
ううん。父さんが俺のコトを代わらず愛してくれているって言うのはよく分っている。
だからこそ俺の封印をといたんだろう。
でも、どうして俺は帰る気にならないんだろう。家族も心配して待っているだろうに。
これはやっぱり...薄々気づいていたけど俺は父さんを』」
「『一発ぶたないと気がすまないんだ!』」
「違うッツ!」
突然聞こえた第3者の声と台詞内容に今までの(ゆかいな)一人舞台はどうしたのか、
声のしたほう、ドアの方をきっとにらみつける。
「ハーレム!
せっかく人がルーザーに愛息子の分りやすい心情解説をしていたというのに
いきなり邪魔するんじゃありません!」
「僕は頼んでませんよ」
「傍から見ていてあまりにも楽しそうだったからな。
ついチャチャ入れたくなったんだ。気にするな」
「おまえたちは~~!!」
交互に僕とハーレムをにらみつけてくるが、慣れている僕らにとっては怖くもなんともない。
「ところで、サービスとシンタローは?」
「またサービスの部屋だぜ?
シンタローも強情だよな。」
なんであのプライドの高いサービスが、あっさりとシンタローを受け入れたのかは分らないが、
とにかくあの二人は仲が良い。
兄としては気になるところだ。
しかしそう言う所を見ると、ハーレムでもいい加減見抜いているらしい。
シンタローがマジックをどう思っているか。
「自覚がなくて自分の気持ちに戸惑っているのか、
自覚がうっすらあってどうして良いのか分らないのか、
どっちだと思います?」
「ルーザー兄貴らしくもねえな。
そんなの『自覚はあるけど認めたくないから逃げてる』んだろ?」
『やっぱりハーレムもそう思うか?』
...台詞がかぶったな。
「しかしマジック兄貴も、よくシンタロー断ちが続いているな。」
「...息子をタバコや酒みたいに言わないでくれないか?」
「僕も数日絶っていれば絶対禁断症状が出ると思いましたよ」
「むしろ薬物なの!?」
だって今日が16日でしょう?
あれから4日。
よく我慢できるものだ。
「将来のための投資だよ。しかもだいぶ近い将来の」
...なるほど。そういうことか。
「クリスマスカップルですか」
「やっぱりそんなオチかよ」
私達は半ばあきれて、「クリスマスはまた一緒にイルミネーション見に行くんだーっv」
とはしゃいでいる兄を置いて部屋から出て行った。
side シンタロー
結局夕方までおじさんの部屋で時間をつぶしてしまった。
というか、この封印がとかれてから一度もオヤジと会話していない。
明日はちゃんと話そう話そうと思って4日が過ぎてしまった。
オヤジ(兼自分)の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
マジックは今なら書斎に行っているはずだ。
今のうちに、とりあえず、冷静に、今、自分がやるべきコトを考えねーと...
そう、まずは、魔界に戻って赤の秘石に報告。だよな。
それと、心配しているだろうからグンマとキンタローのところにも早く行かねーと。
「それから...」
それから?
───はぁああ~~~~~~......
盛大なため息をつきつつ部屋に到着。
念のため部屋の中を確認するため、ドアに耳を当てる。
ぴとっとドアにへばりつくのは傍から見ていて格好悪いが、
今はなりふりかまっていられないのだ!
『───...』
ん?
ドアの奥からなにやら音が聞こえる。
何の音だともう一度よく耳を澄ませ───
『ねぇねぇこの部屋であってるのかな』
『シンタローの残り香はあるぞ?』
『...残り香ってなんかえっちな感じ。』
『...グンマ、この状況分ってるのか?』
『いや、気分を和まそうかと...』
『シンタローを見つけてからにしろ』
───グンマとキンタロー?
何でコイツらがここに?
いや、目的は分るけど。
『とにかく探さないとな。』
『じゃぁ僕が発明した、シンちゃんお探し3点セットを』
3点セット?
『...何度見ても妙な外見なんだよな。
怖くて今の今まで聞けなかったが、どうやって使うんだ?』
『うん。まずこの辺一体をこのレーザーで廃墟と化すの。』
ほうほう。
「ってそりゃいかんだろーがぁああ!!」
バンッ!!
「シンちゃんッ?」「シンタローッツ!!?」
突然ドアが開き、探していた当人(俺だ)が出てきて驚愕する2人。
二人は俺の姿を認めると、即座にグンマの手元に視線を落とし、
その手にはどこかで見たようなパペットタイプの牛さんと蛙さん、平べったい黄色い犬の人形がッ!
「うわ早速発明の効果がッ!!」
『違うッ!』
見当違いの反応をするグンマに、即座に突っ込む俺ら2人。
きょろきょろと人形ズと俺を見比べるグンマは放っておいて、
キンタローは俺に向き直り、
「シンタロー封印はどうしたんだ!?
解かれていたのなら何で早く帰ってこなかったんだ!!
───という話は魔界に帰ってから聞く!
帰るぞ! ほらグンマも!!」
───へ?
何でお前俺が封印されてたって知っているんだ?
いや、そもそも帰るって───
と考えるまもなく、キンタローは俺の腕を引っ張って窓から外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てキンタロー。
俺はまだやるコトが───」
「シンちゃん? 今なんかすごい音がしたけど...」
ぎょっとしてドアのほうを見る俺ら3人。
そこには『シンちゃんラヴ』と書かれたピンクのエプロンを着て
黄色い汁(おそらくカレー)がついたお玉を持ち、
エプロンと同じ柄の三角巾をかぶったオヤジの姿。
お約束とも言える緊張感のかけらもない格好をしたマジックの表情が驚きに変わる。
「シンちゃん。この子達は───」
「行くぞ! グンマ『扉』を開け!!」
「りょーかい!」
マジックの言葉を無視して、キンタローは俺の手をつかんだまま窓から外に飛び出す。
その先にはグンマがいつの間にか開いていた魔界への扉。
ここに来たときとまったく同じ、黒い煙を潜り抜け、
俺は魔界に『帰った』
side;グンマ
「でだ、シンタロー。お前晩御飯まだだろ。
ここ来る前に作っておいたんだ。」
「今夜はチゲ鍋だよー!
火をかけたまま来たから、すぐ食べられるよ!!」
「あぁ。」
『...................』
むぅ!
せっかく久しぶりにシンちゃんに会えたのに!
なんだかシンちゃんテンション低いよ場がしらけてるよ!
こっちは聞きたいコト色々あるのに!
なんだか聞くような雰囲気じゃないよ...
誰もなにも口を聞かないまま、久しぶりに3人そろった夕食は始まった。
さっきキンちゃんシンちゃんに聞きたいコトがあるって言ったのに。
その質問内容も言ったのに。
どうして二人ともなにも言わないんだろう。
「ほらグンマ、豆腐煮え立つぞ」
「うん。ありがとう」
もう!! 今重要なのは火のとおり具合じゃないのに!
「...なぁグンマ。」
「え? な、なに?」
シンちゃんからいきなり名指しで指名されて、僕は動揺してしまった。
って言うかなんで僕?
僕とキンちゃん二人に言うべきことがあるんじゃないの?
「首の痕くらい隠しておけ」
「ええぇええええぇッツ!!?」
僕はがたんと席を立ち、反射的に首を隠した。
「ひどいキンちゃんッ! つけないって言ったのに!!」
明日は(今日のコトだけど)シンちゃん迎えに行くんだから
動揺させるといけないからつけないでねって僕は言ったのに!!
おなべから白菜を取っていたキンちゃんは、手の作業を続けたまま抑揚のない声でただ一言
「つけてない」
つけてないって...!
じゃぁ何でシンちゃんは...
............
「あぁああ~~~~!!!」
だ、騙されたぁあ!!
思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
ちらりと二人を見ると、キンちゃんはともかく、シンちゃんは顔がにやけていた。
「やーこうもあっさり行くとはなぁ。」
「隠す気はなかったんだがな。」
う~~~っ!
も、もう怒ったよ!!
僕はきっとシンちゃんをにらみつけ思いっきり言ってやった。
「そ、そりゃ半年以上ずっと二人っきりだったんだもん。
シンちゃんがいないのが悪いんじゃないか!
だいたいなんで帰ってこなかったの!
どうして帰ってきたのに嬉しそうじゃないの!!?
あの年甲斐もなくピンクのエプロンつけたオジサンがそんなに悦かったの!!?」
勢いに任せて言うと、シンちゃんとキンちゃんはなぜか頭を抱えていた。
「どったの?」
「『よかった』言うな。」
「核心に触れまくった台詞なんだが、どうにも言い方が悪いな。」
...なんだか失礼なコトを言われているような気がする。とくにキンちゃん。
「で、実際どうなの?」
「なにがだよ。」
「何があったの」
これ以上は我慢できない。
全部何があったのかなにを考えているのか聞き出してやる!!
side;……もう一度シンタロー
『...........................』
2人の視線が交差する。
俺の目の前には、珍しく本気で怒っているグンマ。
言うべきだろうか。
≪商人のサービス精神に負けて力を封印されたあげく、グンマの言うピンクのエプロン来た親父に捕まり
息子として養子縁組まで組まされていました。
封印が解けても帰ってこなかったのは、タイミングがいまいちつかめなかったからです。≫
───言える訳がねぇ!!
最後のはともかく最初の一文は特に!
どうやってコイツをごまかそうかと思案していると、キンタローから助け舟が出た。
「グンマ。」
「なにッ!?」
「今夜はもう遅い。シンタローを問い詰めるのならいつでもできるだろう」
できればそのままなし崩し的にずっと言いたくないのだが。
「だって~~~っ。
キンちゃんは気にならないの!!?」
「もちろん気になっているが...」
ちらりとこちらを一瞥し、再びグンマに視線が戻る。
「コイツが言いたくなければどんなに問い詰めても言わないだろう。」
違うか?と聞かれ、グンマはうっと詰まった。
流石キンタロー。俺のコトをよく分ってるぜ。
「だがシンタロー。」
「あん?」
「俺やグンマはともかく、赤の秘石にはちゃんと報告しておけ」
げ。
「赤の秘石なら言わなくても全部分ってるんじゃないか?」
「けじめだ。」
はいはい。
「わかったよ。明日報告書をまとめておくさ。
そんじゃ、ごっそーさん」
まだ腑に落ちない、納得できないという表情のグンマと、
いつものようにポーカーフェイスのキンタロー。
二人を置いて、俺は自室に戻った。
翌日。
1日中部屋にこもって赤の秘石に渡す書類を書き上げていた。
とりあえず書いたのは、向こうに行ったとたん
人間界に残っていた悪魔の力を封印するアイテムによって人間に捕らわれてしまったコト。
そのせいで魔界に戻るコトもできず、今までずっと過ごしてきたということだけを簡潔にまとめておいた。
...結局3つの願い、一つも叶えてやれなかったな。
つまり、人間に捕まった挙句願いも叶えずに逃げてきたという形になってしまったが、
マジックがあんなアイテムを持っているなんて調べられなかった秘石が悪い。
そのコトも示唆しておいた。
書類は黒ケットシー(有翼猫)印の宅配便を使って郵送する。
マジック...とおじさんたち、今頃どうしてるかな?
「おい兄貴…」
「ん~~?」
「明日ゴミの日なんだからシンタローの物整理しておけよ」
「だめだよ。いつ必要になるか分らないじゃないか。」
「...帰ったんだろ?」
「きっと帰ってくるさ。」
............昨日、晩飯の席にシンタローは現れなかった。
なんでも台所で兄貴が飯を作っていると、自室でなにやら音がしたから行ってみたら
シンタローの他に黒い羽をした悪魔が2人ほどいて、シンタローを引っ張っていったという。
さぞかし落ち込んでいるだろう、下手したら自殺しかねんと俺は心配したが、
予想に反して兄貴はのほほんと構えていた。
今も昨日残ったカレーの冷凍保存の作業中だ。
「連携があまりなっていなかったから、計画していたことじゃないと思うんだ。
たぶんシンちゃんの実家が痺れを切らして迎えに来たんじゃないかな。
シンちゃんも無理やり手を引っ張られていたみたいだし。」
冷静な分析だがな、
「そのまま音信不通になるんじゃねーか?」
あるいは自然消滅とかな。
「演技でもない事言わないでくれないかい?
そんなわけないだろう」
ずいぶんな自信で。
「だってシンちゃん私のコト愛してるしね。」
......本当にずいぶんな自信で。
「それでも素直になれないのなら...」
「なら?」
「私がシンちゃんの実家に行くさ」
「ずいぶんな自信だな」
今度こそ声に出していった。
「───で、結局帰るタイミング失っているわけだ」
「そんなおじさんはっきりと...」
義理の甥がなにやら真剣な面持ちで相談したいコトがあると言ってきたからなんだと思ったら...
今まで彼を苦しめてきた封印をかけた本人があっさりとはずしたというのだ。
その人の───兄の真意がつかめないと言うことらしい。
クッキーを頬張りつつ眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
「なんか企んでいるようには見えないし...」
「じゃぁ素直に帰れば良いじゃないか。
家族が待っているんだろう?」
「...そうなんですけれど...」
「兄さんと離れるのがつらい?」
「───んなっ!?」
面白いぐらいに反応される。
ある意味素直なんだが。
「まぁシンタローの感情はともかくとして、
どんな形にしろ色々な物に情が移ったんだな」
シンタローのコトを気にかけてくれる古株のメイドとか。
私達とか、そしてもちろん兄さんにも。
「離れがたいんだろう?」
「まぁ...そりゃ半年以上も一緒にいたら...」
「だったら一度向こうに行って、また戻ってくれば良い。
なんだったらその家族も連れてきても良いし。」
シンタローの話によると2人ほど家族と呼べる存在がいるらしい。
「私も、兄さんもシンタローの家族だったら大歓迎だよ?」
多少家族が増えたってどうにでもなるしね。
「それもそうなんでしょうけど、
なんか親父の策にはまっているようで嫌なんですよ!」
やれやれ...
素直になればずいぶんと楽になるだろうに。
ギリギリにならないと...なっても自分の本音をさらけ出さないんだろうな。
「ま、タイミングが分らないってのなら分るまでいれば良いんじゃないかな。
どうせそうなるんだろう?」
「...そうなるんだろうな。」
ポツリと返ってきた返事は、何か変化を期待するように聞こえたのは、気のせいだろうか?
Side;ルーザー
「どういう風の吹き回しですか?」
「んー? なんか一石投じてみたくなってね」
先日の兄さんの誕生日で、溺愛する悪魔とさっさと部屋に戻ったから
翌日は遅く起きてくるだろうと予想していたのだが、予想に反してこの兄は早く起きてきた。
心なしか顔色も良い。
どうしてかと尋ねると、昨晩はぐっすりと眠れたというのだ。
具体的に話を聞くと、寝る前にシンタローの封印をとき、
混乱するシンタローをそのままにベッドに入ったのだという。
「ソレでよく眠れましたね」と言うと、「シンちゃんがなんか魔法かけて眠らせたみたい」と。
───悪魔というのは何でもありだな。
それで起きてみたらシンタローの姿はなく、ハーレムの話によれば朝早くからサービスの部屋にこもっているらしい。
いきなり封印をとかれたものだから、帰るにしても家族達にどう話をすれば良いのか分らないし、
帰らないにしても、今まで散々帰りたい帰りたいといっていたのに、
何故帰らないのかと尋ねられたらどう答えて良いのか分らないのだろう。
それでサービスの部屋に逃げたわけだ。
それ以来食事はもちろん、ベッドに入るのも兄さんを強制的に寝かしつけてからだという。
つまるところ、徹底的に避けられているらしい。
ややこしいカップルだ。
私に言わせれば、(兄弟として贔屓目もあるが)シンタローが素直になれないのが問題だと思う。
「兄さんは、シンタローが兄さんのコトをどう思っていると思います?」
「んー...愛されてるんじゃないかなぁ」
「ずいぶんあっさり言いますね」
こういう時はせめてためらったりするものだろう。
「だってシンちゃん素直だし」
「ソレは上に「ある意味」がつくでしょう」
「まぁそうなんだけど...」
だからね、と一呼吸置いた後に、我が兄が言うには、
「こうやってちょっと突き放すって言うか
今までとは少し違った状況において、シンちゃんの心を揺さぶるわけだよ。
『今までずっと帰らしてくれなかったのに何でいきなりそんなコト言うんだよ。
もう俺のコトはどうでも良いのか?
ううん。父さんが俺のコトを代わらず愛してくれているって言うのはよく分っている。
だからこそ俺の封印をといたんだろう。
でも、どうして俺は帰る気にならないんだろう。家族も心配して待っているだろうに。
これはやっぱり...薄々気づいていたけど俺は父さんを』」
「『一発ぶたないと気がすまないんだ!』」
「違うッツ!」
突然聞こえた第3者の声と台詞内容に今までの(ゆかいな)一人舞台はどうしたのか、
声のしたほう、ドアの方をきっとにらみつける。
「ハーレム!
せっかく人がルーザーに愛息子の分りやすい心情解説をしていたというのに
いきなり邪魔するんじゃありません!」
「僕は頼んでませんよ」
「傍から見ていてあまりにも楽しそうだったからな。
ついチャチャ入れたくなったんだ。気にするな」
「おまえたちは~~!!」
交互に僕とハーレムをにらみつけてくるが、慣れている僕らにとっては怖くもなんともない。
「ところで、サービスとシンタローは?」
「またサービスの部屋だぜ?
シンタローも強情だよな。」
なんであのプライドの高いサービスが、あっさりとシンタローを受け入れたのかは分らないが、
とにかくあの二人は仲が良い。
兄としては気になるところだ。
しかしそう言う所を見ると、ハーレムでもいい加減見抜いているらしい。
シンタローがマジックをどう思っているか。
「自覚がなくて自分の気持ちに戸惑っているのか、
自覚がうっすらあってどうして良いのか分らないのか、
どっちだと思います?」
「ルーザー兄貴らしくもねえな。
そんなの『自覚はあるけど認めたくないから逃げてる』んだろ?」
『やっぱりハーレムもそう思うか?』
...台詞がかぶったな。
「しかしマジック兄貴も、よくシンタロー断ちが続いているな。」
「...息子をタバコや酒みたいに言わないでくれないか?」
「僕も数日絶っていれば絶対禁断症状が出ると思いましたよ」
「むしろ薬物なの!?」
だって今日が16日でしょう?
あれから4日。
よく我慢できるものだ。
「将来のための投資だよ。しかもだいぶ近い将来の」
...なるほど。そういうことか。
「クリスマスカップルですか」
「やっぱりそんなオチかよ」
私達は半ばあきれて、「クリスマスはまた一緒にイルミネーション見に行くんだーっv」
とはしゃいでいる兄を置いて部屋から出て行った。
side シンタロー
結局夕方までおじさんの部屋で時間をつぶしてしまった。
というか、この封印がとかれてから一度もオヤジと会話していない。
明日はちゃんと話そう話そうと思って4日が過ぎてしまった。
オヤジ(兼自分)の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
マジックは今なら書斎に行っているはずだ。
今のうちに、とりあえず、冷静に、今、自分がやるべきコトを考えねーと...
そう、まずは、魔界に戻って赤の秘石に報告。だよな。
それと、心配しているだろうからグンマとキンタローのところにも早く行かねーと。
「それから...」
それから?
───はぁああ~~~~~~......
盛大なため息をつきつつ部屋に到着。
念のため部屋の中を確認するため、ドアに耳を当てる。
ぴとっとドアにへばりつくのは傍から見ていて格好悪いが、
今はなりふりかまっていられないのだ!
『───...』
ん?
ドアの奥からなにやら音が聞こえる。
何の音だともう一度よく耳を澄ませ───
『ねぇねぇこの部屋であってるのかな』
『シンタローの残り香はあるぞ?』
『...残り香ってなんかえっちな感じ。』
『...グンマ、この状況分ってるのか?』
『いや、気分を和まそうかと...』
『シンタローを見つけてからにしろ』
───グンマとキンタロー?
何でコイツらがここに?
いや、目的は分るけど。
『とにかく探さないとな。』
『じゃぁ僕が発明した、シンちゃんお探し3点セットを』
3点セット?
『...何度見ても妙な外見なんだよな。
怖くて今の今まで聞けなかったが、どうやって使うんだ?』
『うん。まずこの辺一体をこのレーザーで廃墟と化すの。』
ほうほう。
「ってそりゃいかんだろーがぁああ!!」
バンッ!!
「シンちゃんッ?」「シンタローッツ!!?」
突然ドアが開き、探していた当人(俺だ)が出てきて驚愕する2人。
二人は俺の姿を認めると、即座にグンマの手元に視線を落とし、
その手にはどこかで見たようなパペットタイプの牛さんと蛙さん、平べったい黄色い犬の人形がッ!
「うわ早速発明の効果がッ!!」
『違うッ!』
見当違いの反応をするグンマに、即座に突っ込む俺ら2人。
きょろきょろと人形ズと俺を見比べるグンマは放っておいて、
キンタローは俺に向き直り、
「シンタロー封印はどうしたんだ!?
解かれていたのなら何で早く帰ってこなかったんだ!!
───という話は魔界に帰ってから聞く!
帰るぞ! ほらグンマも!!」
───へ?
何でお前俺が封印されてたって知っているんだ?
いや、そもそも帰るって───
と考えるまもなく、キンタローは俺の腕を引っ張って窓から外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てキンタロー。
俺はまだやるコトが───」
「シンちゃん? 今なんかすごい音がしたけど...」
ぎょっとしてドアのほうを見る俺ら3人。
そこには『シンちゃんラヴ』と書かれたピンクのエプロンを着て
黄色い汁(おそらくカレー)がついたお玉を持ち、
エプロンと同じ柄の三角巾をかぶったオヤジの姿。
お約束とも言える緊張感のかけらもない格好をしたマジックの表情が驚きに変わる。
「シンちゃん。この子達は───」
「行くぞ! グンマ『扉』を開け!!」
「りょーかい!」
マジックの言葉を無視して、キンタローは俺の手をつかんだまま窓から外に飛び出す。
その先にはグンマがいつの間にか開いていた魔界への扉。
ここに来たときとまったく同じ、黒い煙を潜り抜け、
俺は魔界に『帰った』
side;グンマ
「でだ、シンタロー。お前晩御飯まだだろ。
ここ来る前に作っておいたんだ。」
「今夜はチゲ鍋だよー!
火をかけたまま来たから、すぐ食べられるよ!!」
「あぁ。」
『...................』
むぅ!
せっかく久しぶりにシンちゃんに会えたのに!
なんだかシンちゃんテンション低いよ場がしらけてるよ!
こっちは聞きたいコト色々あるのに!
なんだか聞くような雰囲気じゃないよ...
誰もなにも口を聞かないまま、久しぶりに3人そろった夕食は始まった。
さっきキンちゃんシンちゃんに聞きたいコトがあるって言ったのに。
その質問内容も言ったのに。
どうして二人ともなにも言わないんだろう。
「ほらグンマ、豆腐煮え立つぞ」
「うん。ありがとう」
もう!! 今重要なのは火のとおり具合じゃないのに!
「...なぁグンマ。」
「え? な、なに?」
シンちゃんからいきなり名指しで指名されて、僕は動揺してしまった。
って言うかなんで僕?
僕とキンちゃん二人に言うべきことがあるんじゃないの?
「首の痕くらい隠しておけ」
「ええぇええええぇッツ!!?」
僕はがたんと席を立ち、反射的に首を隠した。
「ひどいキンちゃんッ! つけないって言ったのに!!」
明日は(今日のコトだけど)シンちゃん迎えに行くんだから
動揺させるといけないからつけないでねって僕は言ったのに!!
おなべから白菜を取っていたキンちゃんは、手の作業を続けたまま抑揚のない声でただ一言
「つけてない」
つけてないって...!
じゃぁ何でシンちゃんは...
............
「あぁああ~~~~!!!」
だ、騙されたぁあ!!
思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
ちらりと二人を見ると、キンちゃんはともかく、シンちゃんは顔がにやけていた。
「やーこうもあっさり行くとはなぁ。」
「隠す気はなかったんだがな。」
う~~~っ!
も、もう怒ったよ!!
僕はきっとシンちゃんをにらみつけ思いっきり言ってやった。
「そ、そりゃ半年以上ずっと二人っきりだったんだもん。
シンちゃんがいないのが悪いんじゃないか!
だいたいなんで帰ってこなかったの!
どうして帰ってきたのに嬉しそうじゃないの!!?
あの年甲斐もなくピンクのエプロンつけたオジサンがそんなに悦かったの!!?」
勢いに任せて言うと、シンちゃんとキンちゃんはなぜか頭を抱えていた。
「どったの?」
「『よかった』言うな。」
「核心に触れまくった台詞なんだが、どうにも言い方が悪いな。」
...なんだか失礼なコトを言われているような気がする。とくにキンちゃん。
「で、実際どうなの?」
「なにがだよ。」
「何があったの」
これ以上は我慢できない。
全部何があったのかなにを考えているのか聞き出してやる!!
side;……もう一度シンタロー
『...........................』
2人の視線が交差する。
俺の目の前には、珍しく本気で怒っているグンマ。
言うべきだろうか。
≪商人のサービス精神に負けて力を封印されたあげく、グンマの言うピンクのエプロン来た親父に捕まり
息子として養子縁組まで組まされていました。
封印が解けても帰ってこなかったのは、タイミングがいまいちつかめなかったからです。≫
───言える訳がねぇ!!
最後のはともかく最初の一文は特に!
どうやってコイツをごまかそうかと思案していると、キンタローから助け舟が出た。
「グンマ。」
「なにッ!?」
「今夜はもう遅い。シンタローを問い詰めるのならいつでもできるだろう」
できればそのままなし崩し的にずっと言いたくないのだが。
「だって~~~っ。
キンちゃんは気にならないの!!?」
「もちろん気になっているが...」
ちらりとこちらを一瞥し、再びグンマに視線が戻る。
「コイツが言いたくなければどんなに問い詰めても言わないだろう。」
違うか?と聞かれ、グンマはうっと詰まった。
流石キンタロー。俺のコトをよく分ってるぜ。
「だがシンタロー。」
「あん?」
「俺やグンマはともかく、赤の秘石にはちゃんと報告しておけ」
げ。
「赤の秘石なら言わなくても全部分ってるんじゃないか?」
「けじめだ。」
はいはい。
「わかったよ。明日報告書をまとめておくさ。
そんじゃ、ごっそーさん」
まだ腑に落ちない、納得できないという表情のグンマと、
いつものようにポーカーフェイスのキンタロー。
二人を置いて、俺は自室に戻った。
翌日。
1日中部屋にこもって赤の秘石に渡す書類を書き上げていた。
とりあえず書いたのは、向こうに行ったとたん
人間界に残っていた悪魔の力を封印するアイテムによって人間に捕らわれてしまったコト。
そのせいで魔界に戻るコトもできず、今までずっと過ごしてきたということだけを簡潔にまとめておいた。
...結局3つの願い、一つも叶えてやれなかったな。
つまり、人間に捕まった挙句願いも叶えずに逃げてきたという形になってしまったが、
マジックがあんなアイテムを持っているなんて調べられなかった秘石が悪い。
そのコトも示唆しておいた。
書類は黒ケットシー(有翼猫)印の宅配便を使って郵送する。
マジック...とおじさんたち、今頃どうしてるかな?
「おい兄貴…」
「ん~~?」
「明日ゴミの日なんだからシンタローの物整理しておけよ」
「だめだよ。いつ必要になるか分らないじゃないか。」
「...帰ったんだろ?」
「きっと帰ってくるさ。」
............昨日、晩飯の席にシンタローは現れなかった。
なんでも台所で兄貴が飯を作っていると、自室でなにやら音がしたから行ってみたら
シンタローの他に黒い羽をした悪魔が2人ほどいて、シンタローを引っ張っていったという。
さぞかし落ち込んでいるだろう、下手したら自殺しかねんと俺は心配したが、
予想に反して兄貴はのほほんと構えていた。
今も昨日残ったカレーの冷凍保存の作業中だ。
「連携があまりなっていなかったから、計画していたことじゃないと思うんだ。
たぶんシンちゃんの実家が痺れを切らして迎えに来たんじゃないかな。
シンちゃんも無理やり手を引っ張られていたみたいだし。」
冷静な分析だがな、
「そのまま音信不通になるんじゃねーか?」
あるいは自然消滅とかな。
「演技でもない事言わないでくれないかい?
そんなわけないだろう」
ずいぶんな自信で。
「だってシンちゃん私のコト愛してるしね。」
......本当にずいぶんな自信で。
「それでも素直になれないのなら...」
「なら?」
「私がシンちゃんの実家に行くさ」
「ずいぶんな自信だな」
今度こそ声に出していった。