side;サービス
「───で、結局帰るタイミング失っているわけだ」
「そんなおじさんはっきりと...」
義理の甥がなにやら真剣な面持ちで相談したいコトがあると言ってきたからなんだと思ったら...
今まで彼を苦しめてきた封印をかけた本人があっさりとはずしたというのだ。
その人の───兄の真意がつかめないと言うことらしい。
クッキーを頬張りつつ眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
「なんか企んでいるようには見えないし...」
「じゃぁ素直に帰れば良いじゃないか。
家族が待っているんだろう?」
「...そうなんですけれど...」
「兄さんと離れるのがつらい?」
「───んなっ!?」
面白いぐらいに反応される。
ある意味素直なんだが。
「まぁシンタローの感情はともかくとして、
どんな形にしろ色々な物に情が移ったんだな」
シンタローのコトを気にかけてくれる古株のメイドとか。
私達とか、そしてもちろん兄さんにも。
「離れがたいんだろう?」
「まぁ...そりゃ半年以上も一緒にいたら...」
「だったら一度向こうに行って、また戻ってくれば良い。
なんだったらその家族も連れてきても良いし。」
シンタローの話によると2人ほど家族と呼べる存在がいるらしい。
「私も、兄さんもシンタローの家族だったら大歓迎だよ?」
多少家族が増えたってどうにでもなるしね。
「それもそうなんでしょうけど、
なんか親父の策にはまっているようで嫌なんですよ!」
やれやれ...
素直になればずいぶんと楽になるだろうに。
ギリギリにならないと...なっても自分の本音をさらけ出さないんだろうな。
「ま、タイミングが分らないってのなら分るまでいれば良いんじゃないかな。
どうせそうなるんだろう?」
「...そうなるんだろうな。」
ポツリと返ってきた返事は、何か変化を期待するように聞こえたのは、気のせいだろうか?
Side;ルーザー
「どういう風の吹き回しですか?」
「んー? なんか一石投じてみたくなってね」
先日の兄さんの誕生日で、溺愛する悪魔とさっさと部屋に戻ったから
翌日は遅く起きてくるだろうと予想していたのだが、予想に反してこの兄は早く起きてきた。
心なしか顔色も良い。
どうしてかと尋ねると、昨晩はぐっすりと眠れたというのだ。
具体的に話を聞くと、寝る前にシンタローの封印をとき、
混乱するシンタローをそのままにベッドに入ったのだという。
「ソレでよく眠れましたね」と言うと、「シンちゃんがなんか魔法かけて眠らせたみたい」と。
───悪魔というのは何でもありだな。
それで起きてみたらシンタローの姿はなく、ハーレムの話によれば朝早くからサービスの部屋にこもっているらしい。
いきなり封印をとかれたものだから、帰るにしても家族達にどう話をすれば良いのか分らないし、
帰らないにしても、今まで散々帰りたい帰りたいといっていたのに、
何故帰らないのかと尋ねられたらどう答えて良いのか分らないのだろう。
それでサービスの部屋に逃げたわけだ。
それ以来食事はもちろん、ベッドに入るのも兄さんを強制的に寝かしつけてからだという。
つまるところ、徹底的に避けられているらしい。
ややこしいカップルだ。
私に言わせれば、(兄弟として贔屓目もあるが)シンタローが素直になれないのが問題だと思う。
「兄さんは、シンタローが兄さんのコトをどう思っていると思います?」
「んー...愛されてるんじゃないかなぁ」
「ずいぶんあっさり言いますね」
こういう時はせめてためらったりするものだろう。
「だってシンちゃん素直だし」
「ソレは上に「ある意味」がつくでしょう」
「まぁそうなんだけど...」
だからね、と一呼吸置いた後に、我が兄が言うには、
「こうやってちょっと突き放すって言うか
今までとは少し違った状況において、シンちゃんの心を揺さぶるわけだよ。
『今までずっと帰らしてくれなかったのに何でいきなりそんなコト言うんだよ。
もう俺のコトはどうでも良いのか?
ううん。父さんが俺のコトを代わらず愛してくれているって言うのはよく分っている。
だからこそ俺の封印をといたんだろう。
でも、どうして俺は帰る気にならないんだろう。家族も心配して待っているだろうに。
これはやっぱり...薄々気づいていたけど俺は父さんを』」
「『一発ぶたないと気がすまないんだ!』」
「違うッツ!」
突然聞こえた第3者の声と台詞内容に今までの(ゆかいな)一人舞台はどうしたのか、
声のしたほう、ドアの方をきっとにらみつける。
「ハーレム!
せっかく人がルーザーに愛息子の分りやすい心情解説をしていたというのに
いきなり邪魔するんじゃありません!」
「僕は頼んでませんよ」
「傍から見ていてあまりにも楽しそうだったからな。
ついチャチャ入れたくなったんだ。気にするな」
「おまえたちは~~!!」
交互に僕とハーレムをにらみつけてくるが、慣れている僕らにとっては怖くもなんともない。
「ところで、サービスとシンタローは?」
「またサービスの部屋だぜ?
シンタローも強情だよな。」
なんであのプライドの高いサービスが、あっさりとシンタローを受け入れたのかは分らないが、
とにかくあの二人は仲が良い。
兄としては気になるところだ。
しかしそう言う所を見ると、ハーレムでもいい加減見抜いているらしい。
シンタローがマジックをどう思っているか。
「自覚がなくて自分の気持ちに戸惑っているのか、
自覚がうっすらあってどうして良いのか分らないのか、
どっちだと思います?」
「ルーザー兄貴らしくもねえな。
そんなの『自覚はあるけど認めたくないから逃げてる』んだろ?」
『やっぱりハーレムもそう思うか?』
...台詞がかぶったな。
「しかしマジック兄貴も、よくシンタロー断ちが続いているな。」
「...息子をタバコや酒みたいに言わないでくれないか?」
「僕も数日絶っていれば絶対禁断症状が出ると思いましたよ」
「むしろ薬物なの!?」
だって今日が16日でしょう?
あれから4日。
よく我慢できるものだ。
「将来のための投資だよ。しかもだいぶ近い将来の」
...なるほど。そういうことか。
「クリスマスカップルですか」
「やっぱりそんなオチかよ」
私達は半ばあきれて、「クリスマスはまた一緒にイルミネーション見に行くんだーっv」
とはしゃいでいる兄を置いて部屋から出て行った。
side シンタロー
結局夕方までおじさんの部屋で時間をつぶしてしまった。
というか、この封印がとかれてから一度もオヤジと会話していない。
明日はちゃんと話そう話そうと思って4日が過ぎてしまった。
オヤジ(兼自分)の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
マジックは今なら書斎に行っているはずだ。
今のうちに、とりあえず、冷静に、今、自分がやるべきコトを考えねーと...
そう、まずは、魔界に戻って赤の秘石に報告。だよな。
それと、心配しているだろうからグンマとキンタローのところにも早く行かねーと。
「それから...」
それから?
───はぁああ~~~~~~......
盛大なため息をつきつつ部屋に到着。
念のため部屋の中を確認するため、ドアに耳を当てる。
ぴとっとドアにへばりつくのは傍から見ていて格好悪いが、
今はなりふりかまっていられないのだ!
『───...』
ん?
ドアの奥からなにやら音が聞こえる。
何の音だともう一度よく耳を澄ませ───
『ねぇねぇこの部屋であってるのかな』
『シンタローの残り香はあるぞ?』
『...残り香ってなんかえっちな感じ。』
『...グンマ、この状況分ってるのか?』
『いや、気分を和まそうかと...』
『シンタローを見つけてからにしろ』
───グンマとキンタロー?
何でコイツらがここに?
いや、目的は分るけど。
『とにかく探さないとな。』
『じゃぁ僕が発明した、シンちゃんお探し3点セットを』
3点セット?
『...何度見ても妙な外見なんだよな。
怖くて今の今まで聞けなかったが、どうやって使うんだ?』
『うん。まずこの辺一体をこのレーザーで廃墟と化すの。』
ほうほう。
「ってそりゃいかんだろーがぁああ!!」
バンッ!!
「シンちゃんッ?」「シンタローッツ!!?」
突然ドアが開き、探していた当人(俺だ)が出てきて驚愕する2人。
二人は俺の姿を認めると、即座にグンマの手元に視線を落とし、
その手にはどこかで見たようなパペットタイプの牛さんと蛙さん、平べったい黄色い犬の人形がッ!
「うわ早速発明の効果がッ!!」
『違うッ!』
見当違いの反応をするグンマに、即座に突っ込む俺ら2人。
きょろきょろと人形ズと俺を見比べるグンマは放っておいて、
キンタローは俺に向き直り、
「シンタロー封印はどうしたんだ!?
解かれていたのなら何で早く帰ってこなかったんだ!!
───という話は魔界に帰ってから聞く!
帰るぞ! ほらグンマも!!」
───へ?
何でお前俺が封印されてたって知っているんだ?
いや、そもそも帰るって───
と考えるまもなく、キンタローは俺の腕を引っ張って窓から外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てキンタロー。
俺はまだやるコトが───」
「シンちゃん? 今なんかすごい音がしたけど...」
ぎょっとしてドアのほうを見る俺ら3人。
そこには『シンちゃんラヴ』と書かれたピンクのエプロンを着て
黄色い汁(おそらくカレー)がついたお玉を持ち、
エプロンと同じ柄の三角巾をかぶったオヤジの姿。
お約束とも言える緊張感のかけらもない格好をしたマジックの表情が驚きに変わる。
「シンちゃん。この子達は───」
「行くぞ! グンマ『扉』を開け!!」
「りょーかい!」
マジックの言葉を無視して、キンタローは俺の手をつかんだまま窓から外に飛び出す。
その先にはグンマがいつの間にか開いていた魔界への扉。
ここに来たときとまったく同じ、黒い煙を潜り抜け、
俺は魔界に『帰った』
side;グンマ
「でだ、シンタロー。お前晩御飯まだだろ。
ここ来る前に作っておいたんだ。」
「今夜はチゲ鍋だよー!
火をかけたまま来たから、すぐ食べられるよ!!」
「あぁ。」
『...................』
むぅ!
せっかく久しぶりにシンちゃんに会えたのに!
なんだかシンちゃんテンション低いよ場がしらけてるよ!
こっちは聞きたいコト色々あるのに!
なんだか聞くような雰囲気じゃないよ...
誰もなにも口を聞かないまま、久しぶりに3人そろった夕食は始まった。
さっきキンちゃんシンちゃんに聞きたいコトがあるって言ったのに。
その質問内容も言ったのに。
どうして二人ともなにも言わないんだろう。
「ほらグンマ、豆腐煮え立つぞ」
「うん。ありがとう」
もう!! 今重要なのは火のとおり具合じゃないのに!
「...なぁグンマ。」
「え? な、なに?」
シンちゃんからいきなり名指しで指名されて、僕は動揺してしまった。
って言うかなんで僕?
僕とキンちゃん二人に言うべきことがあるんじゃないの?
「首の痕くらい隠しておけ」
「ええぇええええぇッツ!!?」
僕はがたんと席を立ち、反射的に首を隠した。
「ひどいキンちゃんッ! つけないって言ったのに!!」
明日は(今日のコトだけど)シンちゃん迎えに行くんだから
動揺させるといけないからつけないでねって僕は言ったのに!!
おなべから白菜を取っていたキンちゃんは、手の作業を続けたまま抑揚のない声でただ一言
「つけてない」
つけてないって...!
じゃぁ何でシンちゃんは...
............
「あぁああ~~~~!!!」
だ、騙されたぁあ!!
思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
ちらりと二人を見ると、キンちゃんはともかく、シンちゃんは顔がにやけていた。
「やーこうもあっさり行くとはなぁ。」
「隠す気はなかったんだがな。」
う~~~っ!
も、もう怒ったよ!!
僕はきっとシンちゃんをにらみつけ思いっきり言ってやった。
「そ、そりゃ半年以上ずっと二人っきりだったんだもん。
シンちゃんがいないのが悪いんじゃないか!
だいたいなんで帰ってこなかったの!
どうして帰ってきたのに嬉しそうじゃないの!!?
あの年甲斐もなくピンクのエプロンつけたオジサンがそんなに悦かったの!!?」
勢いに任せて言うと、シンちゃんとキンちゃんはなぜか頭を抱えていた。
「どったの?」
「『よかった』言うな。」
「核心に触れまくった台詞なんだが、どうにも言い方が悪いな。」
...なんだか失礼なコトを言われているような気がする。とくにキンちゃん。
「で、実際どうなの?」
「なにがだよ。」
「何があったの」
これ以上は我慢できない。
全部何があったのかなにを考えているのか聞き出してやる!!
side;……もう一度シンタロー
『...........................』
2人の視線が交差する。
俺の目の前には、珍しく本気で怒っているグンマ。
言うべきだろうか。
≪商人のサービス精神に負けて力を封印されたあげく、グンマの言うピンクのエプロン来た親父に捕まり
息子として養子縁組まで組まされていました。
封印が解けても帰ってこなかったのは、タイミングがいまいちつかめなかったからです。≫
───言える訳がねぇ!!
最後のはともかく最初の一文は特に!
どうやってコイツをごまかそうかと思案していると、キンタローから助け舟が出た。
「グンマ。」
「なにッ!?」
「今夜はもう遅い。シンタローを問い詰めるのならいつでもできるだろう」
できればそのままなし崩し的にずっと言いたくないのだが。
「だって~~~っ。
キンちゃんは気にならないの!!?」
「もちろん気になっているが...」
ちらりとこちらを一瞥し、再びグンマに視線が戻る。
「コイツが言いたくなければどんなに問い詰めても言わないだろう。」
違うか?と聞かれ、グンマはうっと詰まった。
流石キンタロー。俺のコトをよく分ってるぜ。
「だがシンタロー。」
「あん?」
「俺やグンマはともかく、赤の秘石にはちゃんと報告しておけ」
げ。
「赤の秘石なら言わなくても全部分ってるんじゃないか?」
「けじめだ。」
はいはい。
「わかったよ。明日報告書をまとめておくさ。
そんじゃ、ごっそーさん」
まだ腑に落ちない、納得できないという表情のグンマと、
いつものようにポーカーフェイスのキンタロー。
二人を置いて、俺は自室に戻った。
翌日。
1日中部屋にこもって赤の秘石に渡す書類を書き上げていた。
とりあえず書いたのは、向こうに行ったとたん
人間界に残っていた悪魔の力を封印するアイテムによって人間に捕らわれてしまったコト。
そのせいで魔界に戻るコトもできず、今までずっと過ごしてきたということだけを簡潔にまとめておいた。
...結局3つの願い、一つも叶えてやれなかったな。
つまり、人間に捕まった挙句願いも叶えずに逃げてきたという形になってしまったが、
マジックがあんなアイテムを持っているなんて調べられなかった秘石が悪い。
そのコトも示唆しておいた。
書類は黒ケットシー(有翼猫)印の宅配便を使って郵送する。
マジック...とおじさんたち、今頃どうしてるかな?
「おい兄貴…」
「ん~~?」
「明日ゴミの日なんだからシンタローの物整理しておけよ」
「だめだよ。いつ必要になるか分らないじゃないか。」
「...帰ったんだろ?」
「きっと帰ってくるさ。」
............昨日、晩飯の席にシンタローは現れなかった。
なんでも台所で兄貴が飯を作っていると、自室でなにやら音がしたから行ってみたら
シンタローの他に黒い羽をした悪魔が2人ほどいて、シンタローを引っ張っていったという。
さぞかし落ち込んでいるだろう、下手したら自殺しかねんと俺は心配したが、
予想に反して兄貴はのほほんと構えていた。
今も昨日残ったカレーの冷凍保存の作業中だ。
「連携があまりなっていなかったから、計画していたことじゃないと思うんだ。
たぶんシンちゃんの実家が痺れを切らして迎えに来たんじゃないかな。
シンちゃんも無理やり手を引っ張られていたみたいだし。」
冷静な分析だがな、
「そのまま音信不通になるんじゃねーか?」
あるいは自然消滅とかな。
「演技でもない事言わないでくれないかい?
そんなわけないだろう」
ずいぶんな自信で。
「だってシンちゃん私のコト愛してるしね。」
......本当にずいぶんな自信で。
「それでも素直になれないのなら...」
「なら?」
「私がシンちゃんの実家に行くさ」
「ずいぶんな自信だな」
今度こそ声に出していった。
「───で、結局帰るタイミング失っているわけだ」
「そんなおじさんはっきりと...」
義理の甥がなにやら真剣な面持ちで相談したいコトがあると言ってきたからなんだと思ったら...
今まで彼を苦しめてきた封印をかけた本人があっさりとはずしたというのだ。
その人の───兄の真意がつかめないと言うことらしい。
クッキーを頬張りつつ眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
「なんか企んでいるようには見えないし...」
「じゃぁ素直に帰れば良いじゃないか。
家族が待っているんだろう?」
「...そうなんですけれど...」
「兄さんと離れるのがつらい?」
「───んなっ!?」
面白いぐらいに反応される。
ある意味素直なんだが。
「まぁシンタローの感情はともかくとして、
どんな形にしろ色々な物に情が移ったんだな」
シンタローのコトを気にかけてくれる古株のメイドとか。
私達とか、そしてもちろん兄さんにも。
「離れがたいんだろう?」
「まぁ...そりゃ半年以上も一緒にいたら...」
「だったら一度向こうに行って、また戻ってくれば良い。
なんだったらその家族も連れてきても良いし。」
シンタローの話によると2人ほど家族と呼べる存在がいるらしい。
「私も、兄さんもシンタローの家族だったら大歓迎だよ?」
多少家族が増えたってどうにでもなるしね。
「それもそうなんでしょうけど、
なんか親父の策にはまっているようで嫌なんですよ!」
やれやれ...
素直になればずいぶんと楽になるだろうに。
ギリギリにならないと...なっても自分の本音をさらけ出さないんだろうな。
「ま、タイミングが分らないってのなら分るまでいれば良いんじゃないかな。
どうせそうなるんだろう?」
「...そうなるんだろうな。」
ポツリと返ってきた返事は、何か変化を期待するように聞こえたのは、気のせいだろうか?
Side;ルーザー
「どういう風の吹き回しですか?」
「んー? なんか一石投じてみたくなってね」
先日の兄さんの誕生日で、溺愛する悪魔とさっさと部屋に戻ったから
翌日は遅く起きてくるだろうと予想していたのだが、予想に反してこの兄は早く起きてきた。
心なしか顔色も良い。
どうしてかと尋ねると、昨晩はぐっすりと眠れたというのだ。
具体的に話を聞くと、寝る前にシンタローの封印をとき、
混乱するシンタローをそのままにベッドに入ったのだという。
「ソレでよく眠れましたね」と言うと、「シンちゃんがなんか魔法かけて眠らせたみたい」と。
───悪魔というのは何でもありだな。
それで起きてみたらシンタローの姿はなく、ハーレムの話によれば朝早くからサービスの部屋にこもっているらしい。
いきなり封印をとかれたものだから、帰るにしても家族達にどう話をすれば良いのか分らないし、
帰らないにしても、今まで散々帰りたい帰りたいといっていたのに、
何故帰らないのかと尋ねられたらどう答えて良いのか分らないのだろう。
それでサービスの部屋に逃げたわけだ。
それ以来食事はもちろん、ベッドに入るのも兄さんを強制的に寝かしつけてからだという。
つまるところ、徹底的に避けられているらしい。
ややこしいカップルだ。
私に言わせれば、(兄弟として贔屓目もあるが)シンタローが素直になれないのが問題だと思う。
「兄さんは、シンタローが兄さんのコトをどう思っていると思います?」
「んー...愛されてるんじゃないかなぁ」
「ずいぶんあっさり言いますね」
こういう時はせめてためらったりするものだろう。
「だってシンちゃん素直だし」
「ソレは上に「ある意味」がつくでしょう」
「まぁそうなんだけど...」
だからね、と一呼吸置いた後に、我が兄が言うには、
「こうやってちょっと突き放すって言うか
今までとは少し違った状況において、シンちゃんの心を揺さぶるわけだよ。
『今までずっと帰らしてくれなかったのに何でいきなりそんなコト言うんだよ。
もう俺のコトはどうでも良いのか?
ううん。父さんが俺のコトを代わらず愛してくれているって言うのはよく分っている。
だからこそ俺の封印をといたんだろう。
でも、どうして俺は帰る気にならないんだろう。家族も心配して待っているだろうに。
これはやっぱり...薄々気づいていたけど俺は父さんを』」
「『一発ぶたないと気がすまないんだ!』」
「違うッツ!」
突然聞こえた第3者の声と台詞内容に今までの(ゆかいな)一人舞台はどうしたのか、
声のしたほう、ドアの方をきっとにらみつける。
「ハーレム!
せっかく人がルーザーに愛息子の分りやすい心情解説をしていたというのに
いきなり邪魔するんじゃありません!」
「僕は頼んでませんよ」
「傍から見ていてあまりにも楽しそうだったからな。
ついチャチャ入れたくなったんだ。気にするな」
「おまえたちは~~!!」
交互に僕とハーレムをにらみつけてくるが、慣れている僕らにとっては怖くもなんともない。
「ところで、サービスとシンタローは?」
「またサービスの部屋だぜ?
シンタローも強情だよな。」
なんであのプライドの高いサービスが、あっさりとシンタローを受け入れたのかは分らないが、
とにかくあの二人は仲が良い。
兄としては気になるところだ。
しかしそう言う所を見ると、ハーレムでもいい加減見抜いているらしい。
シンタローがマジックをどう思っているか。
「自覚がなくて自分の気持ちに戸惑っているのか、
自覚がうっすらあってどうして良いのか分らないのか、
どっちだと思います?」
「ルーザー兄貴らしくもねえな。
そんなの『自覚はあるけど認めたくないから逃げてる』んだろ?」
『やっぱりハーレムもそう思うか?』
...台詞がかぶったな。
「しかしマジック兄貴も、よくシンタロー断ちが続いているな。」
「...息子をタバコや酒みたいに言わないでくれないか?」
「僕も数日絶っていれば絶対禁断症状が出ると思いましたよ」
「むしろ薬物なの!?」
だって今日が16日でしょう?
あれから4日。
よく我慢できるものだ。
「将来のための投資だよ。しかもだいぶ近い将来の」
...なるほど。そういうことか。
「クリスマスカップルですか」
「やっぱりそんなオチかよ」
私達は半ばあきれて、「クリスマスはまた一緒にイルミネーション見に行くんだーっv」
とはしゃいでいる兄を置いて部屋から出て行った。
side シンタロー
結局夕方までおじさんの部屋で時間をつぶしてしまった。
というか、この封印がとかれてから一度もオヤジと会話していない。
明日はちゃんと話そう話そうと思って4日が過ぎてしまった。
オヤジ(兼自分)の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
マジックは今なら書斎に行っているはずだ。
今のうちに、とりあえず、冷静に、今、自分がやるべきコトを考えねーと...
そう、まずは、魔界に戻って赤の秘石に報告。だよな。
それと、心配しているだろうからグンマとキンタローのところにも早く行かねーと。
「それから...」
それから?
───はぁああ~~~~~~......
盛大なため息をつきつつ部屋に到着。
念のため部屋の中を確認するため、ドアに耳を当てる。
ぴとっとドアにへばりつくのは傍から見ていて格好悪いが、
今はなりふりかまっていられないのだ!
『───...』
ん?
ドアの奥からなにやら音が聞こえる。
何の音だともう一度よく耳を澄ませ───
『ねぇねぇこの部屋であってるのかな』
『シンタローの残り香はあるぞ?』
『...残り香ってなんかえっちな感じ。』
『...グンマ、この状況分ってるのか?』
『いや、気分を和まそうかと...』
『シンタローを見つけてからにしろ』
───グンマとキンタロー?
何でコイツらがここに?
いや、目的は分るけど。
『とにかく探さないとな。』
『じゃぁ僕が発明した、シンちゃんお探し3点セットを』
3点セット?
『...何度見ても妙な外見なんだよな。
怖くて今の今まで聞けなかったが、どうやって使うんだ?』
『うん。まずこの辺一体をこのレーザーで廃墟と化すの。』
ほうほう。
「ってそりゃいかんだろーがぁああ!!」
バンッ!!
「シンちゃんッ?」「シンタローッツ!!?」
突然ドアが開き、探していた当人(俺だ)が出てきて驚愕する2人。
二人は俺の姿を認めると、即座にグンマの手元に視線を落とし、
その手にはどこかで見たようなパペットタイプの牛さんと蛙さん、平べったい黄色い犬の人形がッ!
「うわ早速発明の効果がッ!!」
『違うッ!』
見当違いの反応をするグンマに、即座に突っ込む俺ら2人。
きょろきょろと人形ズと俺を見比べるグンマは放っておいて、
キンタローは俺に向き直り、
「シンタロー封印はどうしたんだ!?
解かれていたのなら何で早く帰ってこなかったんだ!!
───という話は魔界に帰ってから聞く!
帰るぞ! ほらグンマも!!」
───へ?
何でお前俺が封印されてたって知っているんだ?
いや、そもそも帰るって───
と考えるまもなく、キンタローは俺の腕を引っ張って窓から外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てキンタロー。
俺はまだやるコトが───」
「シンちゃん? 今なんかすごい音がしたけど...」
ぎょっとしてドアのほうを見る俺ら3人。
そこには『シンちゃんラヴ』と書かれたピンクのエプロンを着て
黄色い汁(おそらくカレー)がついたお玉を持ち、
エプロンと同じ柄の三角巾をかぶったオヤジの姿。
お約束とも言える緊張感のかけらもない格好をしたマジックの表情が驚きに変わる。
「シンちゃん。この子達は───」
「行くぞ! グンマ『扉』を開け!!」
「りょーかい!」
マジックの言葉を無視して、キンタローは俺の手をつかんだまま窓から外に飛び出す。
その先にはグンマがいつの間にか開いていた魔界への扉。
ここに来たときとまったく同じ、黒い煙を潜り抜け、
俺は魔界に『帰った』
side;グンマ
「でだ、シンタロー。お前晩御飯まだだろ。
ここ来る前に作っておいたんだ。」
「今夜はチゲ鍋だよー!
火をかけたまま来たから、すぐ食べられるよ!!」
「あぁ。」
『...................』
むぅ!
せっかく久しぶりにシンちゃんに会えたのに!
なんだかシンちゃんテンション低いよ場がしらけてるよ!
こっちは聞きたいコト色々あるのに!
なんだか聞くような雰囲気じゃないよ...
誰もなにも口を聞かないまま、久しぶりに3人そろった夕食は始まった。
さっきキンちゃんシンちゃんに聞きたいコトがあるって言ったのに。
その質問内容も言ったのに。
どうして二人ともなにも言わないんだろう。
「ほらグンマ、豆腐煮え立つぞ」
「うん。ありがとう」
もう!! 今重要なのは火のとおり具合じゃないのに!
「...なぁグンマ。」
「え? な、なに?」
シンちゃんからいきなり名指しで指名されて、僕は動揺してしまった。
って言うかなんで僕?
僕とキンちゃん二人に言うべきことがあるんじゃないの?
「首の痕くらい隠しておけ」
「ええぇええええぇッツ!!?」
僕はがたんと席を立ち、反射的に首を隠した。
「ひどいキンちゃんッ! つけないって言ったのに!!」
明日は(今日のコトだけど)シンちゃん迎えに行くんだから
動揺させるといけないからつけないでねって僕は言ったのに!!
おなべから白菜を取っていたキンちゃんは、手の作業を続けたまま抑揚のない声でただ一言
「つけてない」
つけてないって...!
じゃぁ何でシンちゃんは...
............
「あぁああ~~~~!!!」
だ、騙されたぁあ!!
思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
ちらりと二人を見ると、キンちゃんはともかく、シンちゃんは顔がにやけていた。
「やーこうもあっさり行くとはなぁ。」
「隠す気はなかったんだがな。」
う~~~っ!
も、もう怒ったよ!!
僕はきっとシンちゃんをにらみつけ思いっきり言ってやった。
「そ、そりゃ半年以上ずっと二人っきりだったんだもん。
シンちゃんがいないのが悪いんじゃないか!
だいたいなんで帰ってこなかったの!
どうして帰ってきたのに嬉しそうじゃないの!!?
あの年甲斐もなくピンクのエプロンつけたオジサンがそんなに悦かったの!!?」
勢いに任せて言うと、シンちゃんとキンちゃんはなぜか頭を抱えていた。
「どったの?」
「『よかった』言うな。」
「核心に触れまくった台詞なんだが、どうにも言い方が悪いな。」
...なんだか失礼なコトを言われているような気がする。とくにキンちゃん。
「で、実際どうなの?」
「なにがだよ。」
「何があったの」
これ以上は我慢できない。
全部何があったのかなにを考えているのか聞き出してやる!!
side;……もう一度シンタロー
『...........................』
2人の視線が交差する。
俺の目の前には、珍しく本気で怒っているグンマ。
言うべきだろうか。
≪商人のサービス精神に負けて力を封印されたあげく、グンマの言うピンクのエプロン来た親父に捕まり
息子として養子縁組まで組まされていました。
封印が解けても帰ってこなかったのは、タイミングがいまいちつかめなかったからです。≫
───言える訳がねぇ!!
最後のはともかく最初の一文は特に!
どうやってコイツをごまかそうかと思案していると、キンタローから助け舟が出た。
「グンマ。」
「なにッ!?」
「今夜はもう遅い。シンタローを問い詰めるのならいつでもできるだろう」
できればそのままなし崩し的にずっと言いたくないのだが。
「だって~~~っ。
キンちゃんは気にならないの!!?」
「もちろん気になっているが...」
ちらりとこちらを一瞥し、再びグンマに視線が戻る。
「コイツが言いたくなければどんなに問い詰めても言わないだろう。」
違うか?と聞かれ、グンマはうっと詰まった。
流石キンタロー。俺のコトをよく分ってるぜ。
「だがシンタロー。」
「あん?」
「俺やグンマはともかく、赤の秘石にはちゃんと報告しておけ」
げ。
「赤の秘石なら言わなくても全部分ってるんじゃないか?」
「けじめだ。」
はいはい。
「わかったよ。明日報告書をまとめておくさ。
そんじゃ、ごっそーさん」
まだ腑に落ちない、納得できないという表情のグンマと、
いつものようにポーカーフェイスのキンタロー。
二人を置いて、俺は自室に戻った。
翌日。
1日中部屋にこもって赤の秘石に渡す書類を書き上げていた。
とりあえず書いたのは、向こうに行ったとたん
人間界に残っていた悪魔の力を封印するアイテムによって人間に捕らわれてしまったコト。
そのせいで魔界に戻るコトもできず、今までずっと過ごしてきたということだけを簡潔にまとめておいた。
...結局3つの願い、一つも叶えてやれなかったな。
つまり、人間に捕まった挙句願いも叶えずに逃げてきたという形になってしまったが、
マジックがあんなアイテムを持っているなんて調べられなかった秘石が悪い。
そのコトも示唆しておいた。
書類は黒ケットシー(有翼猫)印の宅配便を使って郵送する。
マジック...とおじさんたち、今頃どうしてるかな?
「おい兄貴…」
「ん~~?」
「明日ゴミの日なんだからシンタローの物整理しておけよ」
「だめだよ。いつ必要になるか分らないじゃないか。」
「...帰ったんだろ?」
「きっと帰ってくるさ。」
............昨日、晩飯の席にシンタローは現れなかった。
なんでも台所で兄貴が飯を作っていると、自室でなにやら音がしたから行ってみたら
シンタローの他に黒い羽をした悪魔が2人ほどいて、シンタローを引っ張っていったという。
さぞかし落ち込んでいるだろう、下手したら自殺しかねんと俺は心配したが、
予想に反して兄貴はのほほんと構えていた。
今も昨日残ったカレーの冷凍保存の作業中だ。
「連携があまりなっていなかったから、計画していたことじゃないと思うんだ。
たぶんシンちゃんの実家が痺れを切らして迎えに来たんじゃないかな。
シンちゃんも無理やり手を引っ張られていたみたいだし。」
冷静な分析だがな、
「そのまま音信不通になるんじゃねーか?」
あるいは自然消滅とかな。
「演技でもない事言わないでくれないかい?
そんなわけないだろう」
ずいぶんな自信で。
「だってシンちゃん私のコト愛してるしね。」
......本当にずいぶんな自信で。
「それでも素直になれないのなら...」
「なら?」
「私がシンちゃんの実家に行くさ」
「ずいぶんな自信だな」
今度こそ声に出していった。
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