もうすぐ私の誕生日だ。
毎年私の誕生日には裏表、両方の仕事を休みにして、家族…兄弟水入らずで過ごしている。
へたすれば取引先主催のクリスマスパーティと重なるときもあり、経済的な影響は避けられないが、
親を早くに亡くし、なんだかんだ言いつつも、兄弟仲の良い私達には大切な日となっている。
今年は一人息子も加わったことだし、にぎやかな誕生日会になりそうだ。
「そういやもうじきアンタの誕生日だろ? どうするんだ?」
夕食も食べ終わり、今夜ベッドに入る前に説明しようか、それともそれは後回しにして…と考えていると、
シンちゃんのほうから聞いてきてくれた。私の誕生日会を気にかけてくれていたのだろうか。
でもさ、そのくらいなら、
「シンちゃん…いい加減パパとかお父さんって呼んでくれても良いんじゃないかな…
「ふん…で、どうするんだよ
どうせあんたの事だからお偉いさん大量に呼んでごーかにやるんだろ?」
「シンちゃん私を誤解していないかい?」
私は無意味に権力を開かしたりするような真似は…嫌いじゃないけど、
たまには兄弟水入らずで楽しみたい時もあるんだよ。
「大体そんなことをしたらまた連中にシンタローを見せなくちゃいけないじゃないか。
ただでさえあの後うちの娘とどうだなんて話が来たっていうのに!」
確かに知力、器量、血筋、その他諸々そろったお嬢さん達は、すばらしいと思うけれど、
この件に関しては下町の娘でも英国王室の御令嬢でもごめんだよ!
「俺もいやだ…っつか無理だろ。」
それは確かにそのとおり。
「でね、いつも…毎年毎回、私達の誕生日には、家族全員集まって食事会開いているんだよ。
ちなみに料理の担当はその日の主役以外の兄弟。
ハーレムとサービスの料理はちょっと不安だけど、
ルーザーは意外にも何でもできるから、安心できるね。」
「じゃぁ兄弟水入らずってことはオレは邪魔者だな。」
「……なんでそうなるのかな?」
やれやれ、シンちゃんは本当に手間がかかるなぁ。
そんなの実際はどうなるか、分かっているくせにワザと言うんだから。
「シンちゃんも私達の家族だろう? 心配しなくてもシンちゃんの席はちゃんとあるよ」
本当はこんなセリフ待っていたくせに。
どうして自虐傾向に走るんだろう。
押してだめなら引いてみろって言うけれど、シンちゃんは引きっぱなしなんだからね。
もっとも私が押しっぱなしなのがいけないのかもしれない。
でも、シンちゃんを見てると、引くなんてコト! 出来るわけがない。
「パーティの用意は、原則として主役はしないことになっているんだよ。
ルーザーたちどんな風にしてくれるのか、楽しみだね。」
「…ふん。」
そう言ってそっぽを向いたシンちゃんだったけれど、少しだけ声が安堵しているように聞こえた。
今度の日曜はいよいよマジックの誕生日だ。
今年は運悪く日曜と重なってしまったため、
取引先が開くパーティをことごとく断る羽目になったらしいが
その分豪華にしてやるとハーレムたちは張り切っていた。
さて、今夜はちょっとした用事があって、
不本意ながらマジック同伴でロンドンの町並みを散歩している。
蝙蝠のような羽と羊のような角があるオレが
何故外に出られたかと言うと冬の寒い気候のおかげだ。
マジックが編んだ編んだニット帽で角を隠し、
羽対策は、まず背中に穴を開けたコート
それから、背負うタイプの大きな鞄にも背中にあたる部分に穴を開ける。
これらの穴から羽を鞄の中に隠す。尻尾はコートに隠れて見える心配なし!
耳は長髪で十分隠れる。
空気は寒いし、下手すれば穴から冷たい空気が流れ込んでくるだろうが、
今までの息苦しい環境に比べたら天と地の差!
11月に入ってから増え始めてきたイルミネーションは、ここ12月に入ってさらに数を増し、
25日を過ぎたら一気に撤去するだろうに、
必死で飾り付けをして近所と競っている姿は悪魔にとって滑稽でもある。
「…見とれている人のセリフじゃないよね」
「うるせぇ!」
ほっといてくれ。
外に出られるようになってもアンタが中々出してくれなかったもんだから、
窓の外から見えていたのが気になってたんだ。
「で、どこか行きたいところは?」
「...アンタ一押しのイルミネーション。それと本屋」
「妙な組み合わせだね。」
確かに自分でもそう思う。
「嫌なら帰っていいぜ」
軽く睨みながら突き放すように言うと、マジックは肩をすくめ「ご冗談。」と言った。
了承と言うことだろう。
「私の一押しのイルミネーションねぇ...」
ふむ、と唇に指を当て考えるしぐさをとる。
「どこかって言われたらうちの本社前のクリスマスツリーかな...」
「でかいのか?」
「大きさはもちろん。
本社入り口のステップの中央に噴水があって、
こっちは時期を問わずにライトアップされているね。
ただクリスマスシーズン中、12月に入ってから25日までクリスマスツリーを飾るんだ。
噴水の奥にもみの木を運んできて、飾り付けするんだよ。」
この辺のクリスマスツリーでは一番立派だと豪語する。
どうやらずいぶんと気に入っているようだ。
まぁ...派手好きなコイツのコトだ。さぞかし立派なツリーなんだろう。
「見に行くかい?」
「行く。どこにあるんだ?」
「えーと...もちろん歩いていける距離だけど、少し遠いかな。
一度家に戻って車を取ってこようか?」
パパ運転するよ? と聞かれたが、色々寄り道したい。せっかく外に出られたんだ。
なら小回りの利く歩きだろう。
「いや、いい。
だったら地図とか買ってこうぜ。ついでにペン。」
「...メモするの?」
「悪いか?」
「いや、悪くないけどさ、そんなに外に出られたのがうれしいのかなって」
ふーんへーぇほおぉおおう?
「だれのせいで7ヶ月近く外に出られなかったんだ?オレは。」
「シンちゃんが可愛い所為です。」
「明らかにあんたの所為だろうがぁ!!
いいからいくぞ!!」
本屋でこの辺の地図とイルミネーションの特集を組んでいた雑誌、記入用の赤いペンを買い、
面白そうな本を適当に見つけ、何冊か出版社と題名、筆者名を控えておく。
後々オヤジに買ってきてもらおう。
「シンちゃん、クリスマス・イルミネーションにそんなに興味があったのか...」
「まぁな。」
「悪魔なのに?」
「悪魔でも芸術は分るぜ。たとえそれがイコンでもな」
地図を見てマジックの屋敷と会社の位置をチェック。
なるほど意外と近い。
それと雑誌を適当に見て、
その近場で目に付いたイルミネーションをチェックし、ここにも案内してくれと頼む。
「クリスマス本番はもっとキレイなんだけどね?」
そう前置きしてつれてこられたマジックの会社前。
「いや...なんつーか...見事だな......」
「ふふ...シンちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」
そういってオヤジは柔らかく微笑む。
しかし実際見事だった。
会社入り口のステップは扇状に広がっていて、その両端に電飾が飾られている。
その中央の噴水はタロットカードの[節制]を思わせるような、
丸い噴水の中央で、立てひざの女性が、水瓶から水を下の泉部分に注ぎ、
その泉部分は複雑な軌跡を描いて水の柱が噴出すようになっている。
マジックによれば、こっちはクリスマスに関係なくライトアップされているとのコトだ。
噴水の光は暖かい薄いオレンジ色...まぁいわゆる普通のスポットライトの色だな。
時間ごとに曲が流れる仕組みらしい。
少しだけ水しぶきでぬれるのを覚悟して、泉を除くと、案の定コインが落ちていた。
「まぁ基本だよな」
「あ、このコインは定期的にさらって、
会社でやっている慈善事業で使わせてもらっているんだよ」
...この会社って犯罪組織の隠れ蓑だよな。
さて、肝心のクリスマスツリーはというと、
近くで見たらまずてっぺんの星が見えないほどの大きさで、
刈り残しなくきれいな二等辺三角形に刈り込んである。
ポイントなのは、ステップ端の電飾とともに、光が青と白で統一されているところだった。
よくある電飾では、白といったらオレンジがかった電灯の色だよな。
ところがこっちは蛍光灯よりも発色が良い、マグネシウムを燃やしたときの白に、
色のはっきりした青。
その2つの光が、ホワイトクリスマスを演出しているようでキレイだった。
本番までまだ数日あるのに、すでにこの状態ってコトは、
クリスマス当日はどうなるのだろう。
「アンタの誕生日もこのままなのか?」
せっかくクリスマスに近いのだから、
会長の誕生日くらいクリスマス並に飾り付ければ良いのに、というと
マジックは相当嬉しかったのか、
「シンちゃんが言うのなら、ちょっと人を雇ってやってみようか」といった。
単純なヤツだ。助かるけど。
この後も雑誌で目をつけたイルミネーションを見て回ったが、
やはり会社の前で見たものと比べるとどうも見劣りしてしまう。
先にこっちを見るべきだったな。
何はともあれ。もうすぐコイツの誕生日だ。オレも色々と準備が...必要ないのか?
クリスマスカラーの飾り付けがなされた部屋の中。
ケーキにさしたロウソクの光が揺らめいている。
明るい部屋の中、4人の歌声が響く。
『Happy birthday to you♪ Happy birthday to you♪
Happy birthday dear My brother![Magic]
Happy birthday to you!!』
ふぅーっと私がロウソクの火を消すと、同時にぱんっぱんッ!!とクラッカーの音が響いた。
「誕生日おめでとうございます兄さん。」
「案外もうめでたくねーかもな。」
「ま、今年も運良く生きながらえたってコトで」
「おじさんソレ素直に喜べる内容じゃありません。」
「うん。素直にお祝いの言葉言ったのルーザーだけだね」
私の誕生日だろうと何だろうと容赦なく普段と変わらない弟達に苦笑しながら
ケーキを切り分けようとナイフを手にする。
「って兄さんなにやっているんですか」
ハーレムに全員のグラスにシャンパンを注ぐよう指示していたルーザーがこちらを見て顔をしかめる。
「へ? ケーキ分けないと。」
「そうではなく、兄さんは今日の主役なんですから座っているだけでいいんです。
会長室にいるときみたいに。」
「人を飾り物みたいに言わないでくれ」
本当に容赦がないなと笑いながらルーザーにナイフを渡す。
ソレを受け取り、ロンドン1のケーキ屋に通いつめて味を覚えたという弟達の手作りケーキを切ろうとして、
ルーザーの動きが止まった。
? どうしたんだと顔を盗み見ると、彼はつぶやくようにぽつりと言った。
「...5等分?」
............なるほど。
確かに丸いケーキを5等分するのは至難の業だな。
果断即決の次男が珍しく思案にふけっているのが珍しいのか、ハーレムがからかうような口調で
「いままでは四等分だったから楽だったんだ.......よな...あ...」
ばかぁぁああああああ!!!
反射的にシンタローを見ると、ソレこそシンタローにしては珍しく、ぎこちない様子で
「あ...なんだったら俺いらねぇ...」
はぁああれむぅうううう!!!
あわや気まずい雰囲気に陥りそうになったかもしれない所を(マジックもちょっぴし混乱中)救ったのは、
ポツリとサービスが言った言葉。
「6等分して兄さんが2つ食べれば良いんじゃないかな...」
「あ、そうか。」
サービスナイスフォロー!!
...紆余曲折あったが、とにかくルーザー監督の下、サービスとハーレムが作ったチョコレートケーキは
甘さ控えめ、ほんのりコーヒー風味の大人の味vで美味しかった。
食事が進めばお酒も進む。
お酒が入ればタガも外れてくる。
最初に外れたのはハーレムだった。
「はーれむ、一升瓶一気飲み行きまーす!!」
相変わらず化け物だな...
「あれって酔う酔わないの前にむせるよな」
ハーレムのこの芸を見たコトがないシンタローは、あきれたような、いっそ感心したような表情で
どんどん中身が減って行く一升瓶を見つめている。
「シンタローもやってみたら?」
万が一倒れても開放してあげよう。
「味が分らなくなるような飲み方はしねぇ」
「じゃぁ二人っきりになった後、ゆっくり楽しむかい?」
「却下」
つれないなぁ...
懲りない私も私だけど。
そうこうしているうちに、料理も減り、話題もなくなった所でお開きとなった。
時間はすでに夜の12時を回っている。
こんな時間までメイドたちを働かせるのは私達の本意ではないので、
後片付けは自分たちでやる。これも毎年恒例だ。
使用人たちは自分たちの仕事だといってくれるけれど、
誕生日だからこそ、普段人任せにしているコトを自分たちでやりたい。
もっとも、当の主役は部屋に送り出されるのだが。
「シンタローは片付けは良いよ。兄さんの面倒を見ててくれ」
「あ、わかりました」
サービスに言われてシンタローは私の元に近づいてくる。
...珍しいな。いつものシンタローなら、サービスと一緒に片付けるほうをとると思うのだが...
「ほら。あんたの部屋行くぞ」
これはひょっとして...
「ねぇシンちゃん」
「あん?」
「今晩オッケーってコトかい?」
ごすっ。
......聞いてみただけなのに...
どこからか出したワインボトルと放り投げると、シンタローはさっさと部屋に戻っていってしまった。
「ソレ着ろ」
一足先に部屋に戻ったシンタローがそういって差し出したのは、黒のロングコートだった。
私のものだ。
「外に出るの?」
「まぁな」
「ふーん?」
...この前チェックしていたイルミネーションでも見に行くのだろうか?
何も考えずにとりあえず袖を通す。
ちらりとシンタローを見ると、彼は部屋着のまま、つまり私が用意した黒の上下以外なにも着ていない。
コートとかなくちゃ寒いだろう。
「シンタローのコートは?」
「いらねぇ。」
「でも...」
「いいから。
そんなことよりオヤジ」
ちょいちょいと呼ばれ、近づく。
「どうしたんだい?」
「この首輪はずせ。」
..............................え?
「そ...れはちょっと...」
困った...困ったぞ。
まさかこうストレートに来るとは思わなかったから...。
本気で困っていると、シンタローはなぜか苦笑いして
「逃げねーよ。こんな方法で封印といたってうれしくとも何ともねぇ」
そうは言われても...
じっとシンタローの目を見つめると、なんだか私に挑むような、けれど柔らかい表情をしている。
...信じてみるか。
「わかった。おいで」
そういうと、シンタローの表情が目に見えてほっとしたようだった。
私に近づいてきて、
「じゃぁこれはサービスだな」
と、明るい声で言うと、
...ぎゅっと抱きついてきた。
「え...えぇ!?」
混乱して思わずシンタローの腰に手を回してこちらもぎゅっと抱きしめる。
「違うだろ。」
即行飛んできたのはいくばくか冷めた声。
しまったついうっかり。
「あ...あぁ。じゃぁ...本当に逃げないでね。」
我ながら情けない声が出てしまった。
チャリ...
小さな音がして金具が外れる。
そっと首輪を取ると、シンタローは確かめるように首を回し、手を当てて、確かめるように首に触れた。
シンタローが私の腰から手を離すと同時に、今度はこっちがシンタローの体にしがみつく。
その手をやんわりとはずすと、シンタローは私の後ろに回った。
「...シンタロー?」
姿が見えないと不安だ。
「んー...ちょっと少しで良いから手を上に上げろ」
...え? ひょっとして拳銃とか持ってる?
「...分った」
言われたとおりにすると、シンタローの腕が私の脇の下を通ってお腹のあたりでがしっと組まれた。
バサッ!
空を切る音に顔を向ければ、シンタローの羽が立ち上がった音だった。
この羽がこうも派手に動いているのを見るのは初めてじゃないだろうか。
シンタローは、しばらく目を閉じて、神経を研ぎ澄ませているようだったが、
やがて目を開くと、再びばさりと羽を動かして...
ふわりと二人の体が浮いた。
「いっくぜ!?」
楽しそうなシンタローの声。
勢いをつけてそのまま窓に向かって...
ぶつかる!?
あわてて目を閉じるが、ガラスに激突する様子は無し。
冷たい空気が肌をなでているのに気づき、恐る恐る目を開けると、そこはもう外...むしろ上空だった。
空に広がる星の海よりも、眼下に広がる光の海のほうが強い。
流石クリスマスシーズンだ。
「...すごいな...」
思わずポツリとつぶやくと、背後から得意そうな声が聞こえた。
「んじゃ、あんたお勧めの場所に行ってみるぜ?」
...あぁ...だからこの前あんなにこだわっていたのか。
「あの辺りは明るいから、あんまり近づくと姿が見えちまうな。」
そういってシンタローはさらに高度を上げる。
見覚えのあるイルミネーションがどんどん過ぎて行く。
シンタローが言う「私のお勧めの場所」にはすぐに着いた。
...見方が違うとこうも代わるものか。
普段決して全体像を見るコトのできない頂点の星を見る。
シンタローの言うとおり、うちのイルミネーションは、星だけでもずいぶん明るく、
近づいたらまず間違いなく地上から上を見ている人に気づかれるだろうとシンタローが心配したため、
ある程度は離れているが、それでもやはり見事だと思う。
人として生きている以上、決して臨むコトのできなかったであろう光景と、
背中に感じる想い人の熱に年甲斐もなく心ときめかせていると、
シンタローが後ろから楽しそうに
「なぁなぁ。ココからコイン落として、あの噴水の中入ると思うか?」
と言った。
「あぁ。よくある、後ろ向きにコインを投げて、運良く入れば恋人と幸せになれるって言う...」
───てそれは...
「シンちゃん...?」
ちょっと期待してシンタローを見ると、彼はしばらく考えていたようだが、すぐにあわてて否定した。
「ち、ちがうぅ! 俺はただ単に難易度と、下にいる奴らが驚くだろうって思ってだな!」
「はいはい。そういうコトにしておいてあげるね。」
「そういうコトに、じゃなくてそうなんだよ!」
「別に照れることないのにねぇ?」
「るっせぇ! それ以上言うと手ぇはなすぞ!」
「うわぁぁああ!!? そ、ソレはご勘弁~~~!!」
いきなり暴れ始めたシンタローをなだめつつ、私達は帰路についた。
歯を磨いてパジャマに着替えて、もう寝る準備万端の私達だが、
さっきの光景を思い出して寝付けそうにもない。
「楽しかったねぇ。ありがとね、シンタロー」
「ふん。誕生日だって言うから特別だぜ」
髪をとかして適当にゴムでまとめながら返事をするシンタロー。
口調は乱暴だが、顔をこちらに向けないところを見るとどうやら本当に照れているらしい。
「ん。本当に楽しかったよ。私も何かお礼しないと」
「あん? 別にいらないぜ? 一応誕生日プレゼントなんだからな」
こちらをふりむき、怪訝そうな顔を向ける。
「いいんだよ。どうせ貰いものなんだから」
はい。と手渡したのは、赤い首輪。
「...おい。これ...」
今渡されたのが信じられないのか、私の顔と、手に無理やり握らされたものを交互に見つつ呆然とした口調で言った。
「骨董品店でおまけで貰ったんだ。
悪魔の力を封じる首輪なんだって。
シンちゃん悪魔なんだから、誰かと喧嘩するときに使えるんじゃないかな?」
さっさと言い、「それじゃぁおやすみ」と先にベッドに入る。
手の中の首輪をじっと目詰めるシンタローを残して。
もちろんベッドの中に入っても眠れなかったが、
しばらく後にシンタローが入ってくるのは分った。
そのまま狸寝入りを続けると、シンタローの声が聞こえた。
「偽りの眠りをさまたげよ。
深き真の眠りにて」
その言葉が終わると同時に、私の意識は沈んでいった。
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