10月21日
パーティ10日前
「で、屋敷の改装はいつごろ終わるんだ?」
「んー・・・パーティ1週間前ってところかな。
結構ギリギリだけど・・・ま、何とかなるでしょ。」
「よゆーだな・・・」
「まぁね」
シンタローがマジックにつかまってからもう少しで5ヶ月になる。
初めは逃げようとか、誰にかに封印をはずしてもらおうとか色々考えていたシンタローだったが、
失敗するたびに「お仕置き」と称して色々な事をされたため、
懲りたのか、それとも諦めたのか、あるいはその両方か。
今ではすっかりおとなしく、憎まれ口をたたいたり無意味やたらに暴れる程度になっていた。(おとなしく?)
二人が今いる場所はマジックの部屋。
そこに散乱する裁縫道具と布。
マジックはシンタローにメジャーを当て、寸法を測っている。
今度この屋敷で開かれるハロウィンパーティの衣装を作っているのだ。
シンタローの衣装は例外なくマジックが作っている。
背中に羽が生えているため、それを出す穴が必要なのだが、
どこのブランドでもそれ専用の穴が開いている服を作っているところなどないし、
仕立て屋を呼んで、この悪魔を見せるわけにもいかない。
結局、器用で事情を一番良く知っている当事者、
つまりマジックがシンタローの衣服を作っているのだ。
部屋は今改装中の大広間。
今は機械や職人たちが自らの腕と誇りにかけて作業しているが、
今月の末には自らの権力と美貌を誇りにかけた男女が部屋を彩るだろう。
マジックがシンタローという名前の青年と養子縁組したというのは裏や表でも話題となっていた。
というのも、マジックは超強大企業ガンマコンツェルンと犯罪組織ガンマ団のトップ。
しかし、彼のみならず、彼ら兄弟には子供がいない、結婚や再婚をする気もない。
では、いったい誰が継ぐのかと皆注目していたのだ。
そこに振って沸いた養子縁組である。
シンタローとは何者か?
今までマジックの周りにそんな名前の者はいなかった。
マジックとの関係は?
彼は会長になってからも、まめに会社に通い責務を果たしていた。
すくなくとも、他企業、他組織が雇ったスパイの報告によれば、
仕事中マジックと深く関係を持つようなものなどいやしなかった。
器量はいかほどのものか?
そう。もしもシンタローがマジックの跡を継ぐとしたら、
人を支配する度量はあるのか、社員をまとめる実力はあるのか。
焦燥、疑問、恐怖、好奇心。さまざまな感情がロンドンを駆け巡る。
そろそろ頃合かと見計らったマジックは、表の顔でパーティーを開催することにした。
『10月31日、ハロウィンパーティー。参加者は全員仮装する事』
「仮装パーティーねぇ…」
関係者に贈られた招待状を見て、シンタローが半ば呆れたように口を開く。
「よく考えたでしょ」
メジャーをシンタローに巻きつつ、得意げに微笑むマジック。
どさくさにまぎれて腰に触れているが、シンタローは軽くため息をつくにとどめた。
「これなら『私の息子』に角や羽、尻尾が生えいても不思議はないでしょう?」
「まぁ・・・まさか「本物の悪魔がいる!」なんて誰も考えねーだろうし。
多少動かしたところでも「なんてリアルなんだ」とか思われる程度だろうな」
「さすがに触られたら体温とかでわかっちゃうと思うけど、
ま、触る人なんていない────というか近づけさせないから安心してねw」
「で、どんな衣装にするんだ?」
「んー。基本的に黒一色かな。
とりあえず露出度はそんなに高くしないよ。」
「へぇ?」
「シンちゃんの素肌はできるだけ見られたくないんだよ。」
「……あんたはどんなの着るんだ?」
ここで絡むとまたくだらない言い争いになると今までの経験で学習したシンタロー。
深くは突っ込まず、話をそらしてみた。
「ん~~???秘密?」
「語尾を上げるな。可愛くもねぇぞ」
「失礼な。」
むぅと口を尖らせ軽く反論。
「どうでも良いけど年考えてそれなりの格好しろよな。」
「ますます失礼な。
サービスに比べたらマシな方だよ。」
「・・・おじさん?
何の格好するって?」
「魔女」
────魔女?
言われてシンタローは考える。
三角帽子をかぶってスカートを翻してほうきで飛び回るサービスの姿を。
「似合うからよし!」
「ずるぃいいいい~~~!!
大体前々から気になってはいたけれど、シンちゃんヤケにサービスと親しくないかいッ!!?
そりゃ確かにサービスは美人だけれども!
ちゃんと男なんだからね!!」
「自分に言え自分に!」
至極正論を吐くシンタロー。
なおもブツブツ言うマジックを見下ろし──足の長さを測っているのだ──ポツリとつぶやく。
「とりあえず、あんたの格好も一応楽しみにしておいてやる。
せいぜい笑わせてもらうからな。」
悪態にしか聞こえないセリフ。
マジックはシンタローのコミュニケーションの一環だと微笑ましく思った。
が、シンタローの股下を測っていた彼には気付かなかった。
シンタローの頬がわずかに染まっていたと言うことに。
「俺は…何にもしなくていいのか?」
「何かしてくれるのかい?」
「…………」
バタバタと慌しい屋敷の中の一室。
自分ひとりがジッとしているのも居たたまれなくなり、
何か手伝えることはないのかと尋ねたのだが、
返ってきた答にシンタローは沈黙するしかなかった。
今この屋敷に出入りしているのは、マジックが信用していた家 政婦や執事だけではなく、
それに加えて、パーティー会場の飾り付けを依頼された職人た ち。
もちろんその個人個人に対して念入りな調査はしているが、
それはあくまで身の回りの調査。
間違っても『羽と角と尻尾を生やした奴を怪しむか』という調査ではない。
第一怪しむに決まっているのだから。
つまるところ。 シンタローは職人たちがいる間はマジックの部屋から出られない。
かといって暇なわけでもない。
マジックが延々とかまってくるからだ。
それでも、外でばたばたと騒がしい音がしている中、
自分(とマジック)だけが部屋でごろごろしているのは
活動的なシンタローには耐えられないのだろう。
「出来ることはないだろうけどな。
でも、ほら。招待された客の顔や名前を覚えろとか…」
「無理だと思うよ?
人数が2桁簡単に越したし、
何より中途半端な知識はかえって邪魔になる。」
「あん?」
自分が今どんな立場にいるのか分かっているのだろうが、
危機感の薄いシンタローにマジックは少々丁寧に、ゆっくりと 説明しだした。
マジックが頂点に立つ表の組織、裏の組織のこと。
シンタローが将来そのトップに立つのではないかと噂されてい ること。
今回のパーティーも皆シンタローの器量を測りに来ているようなものなのだ。
「だから、もしも君が私の後を継ぐのだと思われたら、
みんなつぶしに来るか、あるいは取り入ろうとするだろう?」
「取り入るのはともかく、つぶしに来られても問題ねーと思うぜ?
俺は…あんたには負けたけど、それなりの武術は使えるし
、 何よりここに侵入できる奴がいるとも思えねーけど」
「念には念を入れるのが私だよ。
それに、殺すにしてもみんな情報を集めようとするだろう?
ひょっとしたら誰かが君が普段でも角と羽を生やしているなーんてことに気づくかもしれないよ。」
「あのなぁ…」
「もちろんそれが、」
シンタローの台詞をさえぎって無理矢理続ける。
「いきなり悪魔にまで発展するとは思えないけど、みんな変だ と思うじゃない?
ひょっとしたら私も君もコスプレ(しかも悪魔系)が好きな んだって思われたら…
あんまり良い気しないだろう?
それに身の回りを探られるのだって気分悪いし。」
「うーん…」
考えこんだのを見計らい、マジックは畳み込むようにいった。
「だから、君は何も知らないほうが良い。
『君は私の後を継がない』
参加者にそう思わせておくんだ。いいね?」
「つまり馬鹿な不利でもしとけって事か?」
「そこまでは言っていないけれど…」
「けど?」
「むしろシンちゃんには私だけ見ていてほしいなぁって。」
「言ってろ。」 マジックの結論はたいていこのあたりに集約できる。
いつものオチに、シンタローはあきれながらも少しだけほっと していた。
───こいつが真面目なこと言ってるとなんだか気持ち悪いか らな。
パーティ10日前
「で、屋敷の改装はいつごろ終わるんだ?」
「んー・・・パーティ1週間前ってところかな。
結構ギリギリだけど・・・ま、何とかなるでしょ。」
「よゆーだな・・・」
「まぁね」
シンタローがマジックにつかまってからもう少しで5ヶ月になる。
初めは逃げようとか、誰にかに封印をはずしてもらおうとか色々考えていたシンタローだったが、
失敗するたびに「お仕置き」と称して色々な事をされたため、
懲りたのか、それとも諦めたのか、あるいはその両方か。
今ではすっかりおとなしく、憎まれ口をたたいたり無意味やたらに暴れる程度になっていた。(おとなしく?)
二人が今いる場所はマジックの部屋。
そこに散乱する裁縫道具と布。
マジックはシンタローにメジャーを当て、寸法を測っている。
今度この屋敷で開かれるハロウィンパーティの衣装を作っているのだ。
シンタローの衣装は例外なくマジックが作っている。
背中に羽が生えているため、それを出す穴が必要なのだが、
どこのブランドでもそれ専用の穴が開いている服を作っているところなどないし、
仕立て屋を呼んで、この悪魔を見せるわけにもいかない。
結局、器用で事情を一番良く知っている当事者、
つまりマジックがシンタローの衣服を作っているのだ。
部屋は今改装中の大広間。
今は機械や職人たちが自らの腕と誇りにかけて作業しているが、
今月の末には自らの権力と美貌を誇りにかけた男女が部屋を彩るだろう。
マジックがシンタローという名前の青年と養子縁組したというのは裏や表でも話題となっていた。
というのも、マジックは超強大企業ガンマコンツェルンと犯罪組織ガンマ団のトップ。
しかし、彼のみならず、彼ら兄弟には子供がいない、結婚や再婚をする気もない。
では、いったい誰が継ぐのかと皆注目していたのだ。
そこに振って沸いた養子縁組である。
シンタローとは何者か?
今までマジックの周りにそんな名前の者はいなかった。
マジックとの関係は?
彼は会長になってからも、まめに会社に通い責務を果たしていた。
すくなくとも、他企業、他組織が雇ったスパイの報告によれば、
仕事中マジックと深く関係を持つようなものなどいやしなかった。
器量はいかほどのものか?
そう。もしもシンタローがマジックの跡を継ぐとしたら、
人を支配する度量はあるのか、社員をまとめる実力はあるのか。
焦燥、疑問、恐怖、好奇心。さまざまな感情がロンドンを駆け巡る。
そろそろ頃合かと見計らったマジックは、表の顔でパーティーを開催することにした。
『10月31日、ハロウィンパーティー。参加者は全員仮装する事』
「仮装パーティーねぇ…」
関係者に贈られた招待状を見て、シンタローが半ば呆れたように口を開く。
「よく考えたでしょ」
メジャーをシンタローに巻きつつ、得意げに微笑むマジック。
どさくさにまぎれて腰に触れているが、シンタローは軽くため息をつくにとどめた。
「これなら『私の息子』に角や羽、尻尾が生えいても不思議はないでしょう?」
「まぁ・・・まさか「本物の悪魔がいる!」なんて誰も考えねーだろうし。
多少動かしたところでも「なんてリアルなんだ」とか思われる程度だろうな」
「さすがに触られたら体温とかでわかっちゃうと思うけど、
ま、触る人なんていない────というか近づけさせないから安心してねw」
「で、どんな衣装にするんだ?」
「んー。基本的に黒一色かな。
とりあえず露出度はそんなに高くしないよ。」
「へぇ?」
「シンちゃんの素肌はできるだけ見られたくないんだよ。」
「……あんたはどんなの着るんだ?」
ここで絡むとまたくだらない言い争いになると今までの経験で学習したシンタロー。
深くは突っ込まず、話をそらしてみた。
「ん~~???秘密?」
「語尾を上げるな。可愛くもねぇぞ」
「失礼な。」
むぅと口を尖らせ軽く反論。
「どうでも良いけど年考えてそれなりの格好しろよな。」
「ますます失礼な。
サービスに比べたらマシな方だよ。」
「・・・おじさん?
何の格好するって?」
「魔女」
────魔女?
言われてシンタローは考える。
三角帽子をかぶってスカートを翻してほうきで飛び回るサービスの姿を。
「似合うからよし!」
「ずるぃいいいい~~~!!
大体前々から気になってはいたけれど、シンちゃんヤケにサービスと親しくないかいッ!!?
そりゃ確かにサービスは美人だけれども!
ちゃんと男なんだからね!!」
「自分に言え自分に!」
至極正論を吐くシンタロー。
なおもブツブツ言うマジックを見下ろし──足の長さを測っているのだ──ポツリとつぶやく。
「とりあえず、あんたの格好も一応楽しみにしておいてやる。
せいぜい笑わせてもらうからな。」
悪態にしか聞こえないセリフ。
マジックはシンタローのコミュニケーションの一環だと微笑ましく思った。
が、シンタローの股下を測っていた彼には気付かなかった。
シンタローの頬がわずかに染まっていたと言うことに。
「俺は…何にもしなくていいのか?」
「何かしてくれるのかい?」
「…………」
バタバタと慌しい屋敷の中の一室。
自分ひとりがジッとしているのも居たたまれなくなり、
何か手伝えることはないのかと尋ねたのだが、
返ってきた答にシンタローは沈黙するしかなかった。
今この屋敷に出入りしているのは、マジックが信用していた家 政婦や執事だけではなく、
それに加えて、パーティー会場の飾り付けを依頼された職人た ち。
もちろんその個人個人に対して念入りな調査はしているが、
それはあくまで身の回りの調査。
間違っても『羽と角と尻尾を生やした奴を怪しむか』という調査ではない。
第一怪しむに決まっているのだから。
つまるところ。 シンタローは職人たちがいる間はマジックの部屋から出られない。
かといって暇なわけでもない。
マジックが延々とかまってくるからだ。
それでも、外でばたばたと騒がしい音がしている中、
自分(とマジック)だけが部屋でごろごろしているのは
活動的なシンタローには耐えられないのだろう。
「出来ることはないだろうけどな。
でも、ほら。招待された客の顔や名前を覚えろとか…」
「無理だと思うよ?
人数が2桁簡単に越したし、
何より中途半端な知識はかえって邪魔になる。」
「あん?」
自分が今どんな立場にいるのか分かっているのだろうが、
危機感の薄いシンタローにマジックは少々丁寧に、ゆっくりと 説明しだした。
マジックが頂点に立つ表の組織、裏の組織のこと。
シンタローが将来そのトップに立つのではないかと噂されてい ること。
今回のパーティーも皆シンタローの器量を測りに来ているようなものなのだ。
「だから、もしも君が私の後を継ぐのだと思われたら、
みんなつぶしに来るか、あるいは取り入ろうとするだろう?」
「取り入るのはともかく、つぶしに来られても問題ねーと思うぜ?
俺は…あんたには負けたけど、それなりの武術は使えるし
、 何よりここに侵入できる奴がいるとも思えねーけど」
「念には念を入れるのが私だよ。
それに、殺すにしてもみんな情報を集めようとするだろう?
ひょっとしたら誰かが君が普段でも角と羽を生やしているなーんてことに気づくかもしれないよ。」
「あのなぁ…」
「もちろんそれが、」
シンタローの台詞をさえぎって無理矢理続ける。
「いきなり悪魔にまで発展するとは思えないけど、みんな変だ と思うじゃない?
ひょっとしたら私も君もコスプレ(しかも悪魔系)が好きな んだって思われたら…
あんまり良い気しないだろう?
それに身の回りを探られるのだって気分悪いし。」
「うーん…」
考えこんだのを見計らい、マジックは畳み込むようにいった。
「だから、君は何も知らないほうが良い。
『君は私の後を継がない』
参加者にそう思わせておくんだ。いいね?」
「つまり馬鹿な不利でもしとけって事か?」
「そこまでは言っていないけれど…」
「けど?」
「むしろシンちゃんには私だけ見ていてほしいなぁって。」
「言ってろ。」 マジックの結論はたいていこのあたりに集約できる。
いつものオチに、シンタローはあきれながらも少しだけほっと していた。
───こいつが真面目なこと言ってるとなんだか気持ち悪いか らな。
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