8月12日
「はぁ!? 弟が来る!!!?
なんだそりゃきーてねーぞ俺は!!!」
「今朝ちゃんと言ったじゃないか。」
「今朝って……いつだよ!」
「君が起きてすぐ。」
「覚えてるかぁああ!!」
今身につけている服がまだ作成途中で、待ち針も数本刺さったままだというのに、
俺はマジックにつかみかかった。
なんでも「弟たちに会わせるんだから、おめかししなきゃねー」と言う事だが……。
俺が着る服はけっこう特殊だ。
というか人間界の一般的な服屋には「羽を出すための穴が開いた服」なんてものは売っていない。
当然オーダーメイドになるわけだが、羽と角と尻尾が生えた客をどこにつれてけというのか。
マジックの趣味も合って、俺の服はほとんどがマジックの手製となっていた。残りは家政婦のばぁちゃんだ。
それにしても器用な男だなまったく。
「大体、アンタの弟どもが俺を受け入れてくれるわけねーだろ」
「受け入れて欲しいのかい?」
「だれがだ!!」
反射的に言い返すが、考えてみればマジックの言うとおりだ。
弟達の前でめちゃくちゃやって、そいつらに俺を帰すよう説得させればいいんだな。
「ね、別にいいだろう? それに、君と私とのラブラブッぷりに当てられれば、彼らにも良い刺激になると思うんだ。」
……ラブラブ……っておい。
マジックの家族構成は秘石から聞いていた。
両親と奥さんは他界。弟が3人いて……名前は忘れた。
下の二人が双子だっつったてな。
「じゃぁシンちゃん。明日弟達に会ってくれるね?」
「しかたねーな。言っておくが、アンタが弟達から白い目で見られても俺の所為じゃねーぞ。」
「大丈夫。あの子達ならきっと受け入れてくれると思うんだよね」
……ずいぶんと信頼してらっしゃる事で。
シンタローに大体の説明はする。
長男は私で、次男がルーザー。
ガンマコンツェルンの核、ガンマカンパニーの社長(私は会長)を勤めている。
次にハーレムとサービス。
この二人が双子……2卵生の双子で、ガンマコンツェルン内のどの組織に属しているわけではなく、
半ばゲリラ的にうろちょろして、(表裏に限らず)組織内の危 険分子を探っている。
「どちらにしろ、会ってみなくちゃなんとも言えないだろうね。
全員アクの強い性格してるからねぇ。」
「その最たる者が何を言う。」
失礼な。私はまともだよ。
「で、俺はなんて自己紹介すればいいんだよ」
「え。そりゃもちろん……」
「「あんたの好奇心で呼び出された挙句につかまって、尚且つしっかり食われた下級悪魔」とでも?」
「シンちゃんまだ怒ってる?」
「当たり前だ!!」
「体だって何度もあわせてるんだから、いい加減懐いてくれてもいいのに。」
「だぁれが懐くか!!」
「私はシンちゃんの事こんなに愛してるのになぁ……」
ほふぅとため息をつく私を無視し、シンタローは私が渡した写真に目を落とした。
4人の男が男が写っている。
一人は当然私。その右に立っているのがルーザー。
「見た感じ優男風だけど……本当にアンタの弟か?
全員似てないぞ」
「全員似ていない云々はさておき、
言っておくけどルーザーは私よりもきつい性格だからね。色々と」
どんなだ。
私の左に立っているのは双子の片割れ。
「この子がハーレム。シンちゃんとは良いケンカ友達になれそうだね。」
「ケンカ友達って……」
「で、ルーザーの隣にいるのが……
ってなんでシンちゃん見とれてるんだい!!?」
「い、いや、きれいな顔だと思って。」
「むーシンちゃん実は面食い?」
「いや、違うけどさ……」
じと目で見ると、シンタローは何故か視線を逸らしながら、
「ただどうせ捕まるなら……」
「捕まるなら!?」
「……ってアンタに比べりゃ誰でもましになるわぁあ!」
「失礼な。言っておくけどシンちゃんをコレほどまでに愛せるのは私くらいだよ!?」
「それが余計なんだよ!
ビジネスライクに行かせてくれ!!」
「まぁまぁ。とにかく弟達もそろそろ来る頃だと思うんだけど ……」
シンタローを軽くなだめ、時計を見る。10時10分前。
うぅ……いやに緊張してきた。
きっと頑固オヤジに「娘さんを僕にください」と言う男は、みんなこんな心境なんだろう。
昼10時の5分前。
応接室には久しぶりに4兄弟がそろっていた。
正方形のテーブル4辺にそれぞれが座っている。
私の正面はルーザー。右側にサービス、左にハーレムだ。
「こうして4兄弟がそろうのは久しぶりだな。」
「僕と兄さんは会社でしょっちゅう顔をあわせてますけれど、
最近兄さん会社来ない日が多いですからね。」
ぎく。
実を言うとそのとおり。
会長ともなると会社に行ったところで用事があるわけではないのだ。
今までは上の者が会社にいないと示しが着かないということで、毎日ではないにしろ、小まめに行っていたのだが。
「みんな噂してますよ。『会長に女が出来た』って。」
それを聞いてハーレムが口を開いた。からかうような口調だ。
「なんだ兄貴老いらくの恋か?」
「するなら相手を選んでくれば私たちは何も言わないよ。興味ないし」
サービスに関してはセリフの最後がポイントだな。
しかしソコまで考えられているなら話は早い。
「ま、それに関しては当たりと言えずとも遠からず。」
「は?」
「あん?」
「どういうことですか?」
「シンちゃん。おいで」
それぞれ疑問詞をぶつけてくる弟達はひとまず置いて、私はパンパンと手を叩き、シンタローを呼んだ。
「……入るぞ」
シンタローの声が聞こえた時点で、ルーザーが眉をピクリと動かした。
扉が開いてシンタローの姿が除いた時点で、弟達全員が固まった。
弟達の硬直は、シンタローが私の隣に立ち、私が宣言すると同時に融けた。
つまり、
「というわけで、私の今現在の恋人。悪魔のシンタローだよv」
『ちょっと待てぇええええ!』
ハーレムと、何故かシンタローが声を上げる。
「なんだか突っ込みどころがいっぱいだったぞ今のセリフっつーかこの30秒!」
「誰がてめーの恋人だ!誰が!! 勝手に決めるんじゃねぇ!」
うんうん。やはりこの二人はなかなか気が合いそうだ。
ハーレムの行動は予想通り、あとの二人は……
ちらりとルーザーを見ると、ルーザーはじっとシンタローを見ていたが、やがて私に視線を戻して、
弟達を代表するように口を開いた。
「とりあえず、質問をまとめます。」
「あぁできる限り答えよう」
ちらりとサービスを見ると、彼は、じっとシンタローの顔を、ものめずらしそうに見つめていた。
「まず一つ目。兄さんは先ほど彼を悪魔だと言いましたが── ─」
3人の視線を受け、居心地悪そうに私の横に座るシンタローを見ながらルーザーが聞いてくる。
「本当ですか?」
「本当だよ。」
返答は最低限必要なものだけ。
「にわかには信じられません。」
「まだ兄貴がコスプレさせてるっつー方がしっくりくるな」
「兄さんもうボケたとか?」
サービス。一言多い。
まぁ無理もない。
だったら、論より証拠。
「シンタロー。ルーザーのところに行ってくれるかい?」
「あん?」
「ルーザー。なんだったら実際に触ってみればいい。尻尾でも羽でも角でも。」
「まぁそこまで言うのでしたら……。」
不安をわずかににじませて、シンタローがルーザーのところに行く。
ルーザーは眉間にしわを寄せ、ポンポンとシンタローの羽を軽く叩いたり、角に触れていたりしたが、
やがて何を考えたのかシンタローのズボンに手をかけ……ってちょっと
ぐいッ
「ぎゃわぁ!!?」
「ルーザーッ!?」
えーと……何というか……。
ルーザーがシンタローのズボンの後ろ側を引っ張って中を覗いた。
硬直する私と双子ズとシンタロー。
ただ一人、ルーザーだけがいつもと変わらない口調で
「なるほど。本当にはえてるか。」
そのセリフでなんとなく言いたい事はわかったが、体が動いてくれない。
「る……ルーザー?」
かろうじてそうとだけ口にすると、ルーザーはシンタローの背中をぽんと叩いて戻るよう促すと、とりあえず説明をしてくれた。
「ただのコスプレなら直接肌から尻尾が生えてるわけありませんからね。」
「せめて背中の羽で調べて欲しかった……」
がっくりと肩を落とす───間もくれず
「じゃ、具体的に何がどうしてこうなったのか、説明してもらいましょうか。」
ルーザーの目が光った……ような気がした。
と言うことで説明。
骨董品店で偶然見つけた「悪魔呼び出しセット」におまけで「悪魔の力を封じる首輪」をつけてもらった事。
コレを聞いてサービスが「兄さん、よっぽど暇だったんですね」と哀れみの視線を投げかけてきた。
呼び出した悪魔が私の好みストライクゾーンで、あっという間に一目惚れした上に早速食べた事。
コレを聞いてハーレムが「ゲテモノ食い」と酷い事を言った。
翌日首輪をつけて、さらに数週間後家中に札を貼ってシンタローを閉じ込めたということ。
コレを聞いてルーザーは「つまり、商人のサービス精神に負けたんですね」とシンタローが結構気にしている事を言った。
「───で」
とりあえず、突っ込まれまくったが、一通りの説明はし終えた。
3人ともまだ半信半疑だったが、シンタローの背後でゆらゆら揺れている羽を見て、少なくともシンタローが人間外の何かだというのは理解してくれたらしい。
さて、ココからが一番大事なところだ。
「私はシンタローを愛しているし、これからもそばにいてもらいたいと思う。
3人ともそれで異論はないな? あってもどうしようもないけど。心ばっかりは本人でもどうしようもないからね。」
「まぁ……」
「兄貴がそれでいいって言うのなら……。」
「別にいいと思う。 どうでも」
「ちょっと待て。一番大事な事を忘れてるぞアンタら。」
最後の反論は……シンタローからだった。
「シンタロー? どうかしたのかい? 一番大事な事って?」
横に座っているシンタローに視線を投げる。
彼は憮然とした表情で。
「俺は、自分の意思とは別にココにいるって事だ」
『あ。』
「確かに、俺はコイツに『3つの願いをかなえる』って言ったぞ。
けどな、常識の範囲っつーモンがあるだろ?
第一マジックは俺の事を愛しているだのなんだのっつったけど、
力封じ込められてこの家に閉じ込められて……これじゃぁ飼われてるだけだろ?
それに、よくわからねーけどあんたら大企業の重役なんだろ。
そんなのが悪魔飼ってるなんて、笑い話……
どころか、大衆に知られたら頭がどうにかなったって思われるだけだし、
俺がここにいるメリットはこの男が俺に興味を持ってるって事以外に全くない上に、
デメリットやリスクの方が多いだろ?」
そのたった一つのメリットが大きいんじゃないか。
そう言おうと口を開いたら、先にルーザーの方が話してきた。
「なるほど。確かに君の言いたい事もわかる」
「だろ?」
「だからこそ兄さんにはがんばってもらわないと。」
「あん?」
上のセリフはハーレムだ。
「いいかい?
もし今君を放したら、兄さんに危害を加えかねないだろう? 」
「誰がわざわざ───」
信用されて無い事にイラついたのか、シンタローが反論しようとするが、ルーザーはそれをさえぎって続ける。
「それに、兄さんが上手く君を落としたら、君の力を使って色々出来そうじゃないか?」
「色々って……何させる気だ兄貴。」
何させる気だルーザー。
ハーレムの白い視線がルーザーに向くが、気にした様子もない。
「わかったかい?
つまり、君が兄さんに対して敵意を持っているのなら、そのまま捕まっている方が私たちには安全なんだよ。
逆に言えば、兄さんの努力が実れば、有益だって事だ。」
「みのらねーと思うけどな。」
うう……シンちゃんったらそんな冷たい声で。
「ま、兄貴の老後の趣味ってヤツだな。年寄りの趣味を潰す気はねーよ」
ハーレム、いちいちうるさい。大体私だってまだまだ若いよ。特にシンタロー相手なら20は若返られるんだ。
「それに冷静に考えてみれば兄さん昔っから黒髪長髪に弱かったし。」
サービスの言う通り。わかってるね我が弟。
「じゃ、この件はこれで終わりだ。
シンタロー。弟達の承認も得たし、明日っからまた熱々のお似合いカップルで行こうねv」
「熱々なのはアンタの頭だ……」
こんなはずじゃ……とつぶやくシンタローを無視して、私たちの話題はビジネスに移っていった。
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「はぁ!? 弟が来る!!!?
なんだそりゃきーてねーぞ俺は!!!」
「今朝ちゃんと言ったじゃないか。」
「今朝って……いつだよ!」
「君が起きてすぐ。」
「覚えてるかぁああ!!」
今身につけている服がまだ作成途中で、待ち針も数本刺さったままだというのに、
俺はマジックにつかみかかった。
なんでも「弟たちに会わせるんだから、おめかししなきゃねー」と言う事だが……。
俺が着る服はけっこう特殊だ。
というか人間界の一般的な服屋には「羽を出すための穴が開いた服」なんてものは売っていない。
当然オーダーメイドになるわけだが、羽と角と尻尾が生えた客をどこにつれてけというのか。
マジックの趣味も合って、俺の服はほとんどがマジックの手製となっていた。残りは家政婦のばぁちゃんだ。
それにしても器用な男だなまったく。
「大体、アンタの弟どもが俺を受け入れてくれるわけねーだろ」
「受け入れて欲しいのかい?」
「だれがだ!!」
反射的に言い返すが、考えてみればマジックの言うとおりだ。
弟達の前でめちゃくちゃやって、そいつらに俺を帰すよう説得させればいいんだな。
「ね、別にいいだろう? それに、君と私とのラブラブッぷりに当てられれば、彼らにも良い刺激になると思うんだ。」
……ラブラブ……っておい。
マジックの家族構成は秘石から聞いていた。
両親と奥さんは他界。弟が3人いて……名前は忘れた。
下の二人が双子だっつったてな。
「じゃぁシンちゃん。明日弟達に会ってくれるね?」
「しかたねーな。言っておくが、アンタが弟達から白い目で見られても俺の所為じゃねーぞ。」
「大丈夫。あの子達ならきっと受け入れてくれると思うんだよね」
……ずいぶんと信頼してらっしゃる事で。
シンタローに大体の説明はする。
長男は私で、次男がルーザー。
ガンマコンツェルンの核、ガンマカンパニーの社長(私は会長)を勤めている。
次にハーレムとサービス。
この二人が双子……2卵生の双子で、ガンマコンツェルン内のどの組織に属しているわけではなく、
半ばゲリラ的にうろちょろして、(表裏に限らず)組織内の危 険分子を探っている。
「どちらにしろ、会ってみなくちゃなんとも言えないだろうね。
全員アクの強い性格してるからねぇ。」
「その最たる者が何を言う。」
失礼な。私はまともだよ。
「で、俺はなんて自己紹介すればいいんだよ」
「え。そりゃもちろん……」
「「あんたの好奇心で呼び出された挙句につかまって、尚且つしっかり食われた下級悪魔」とでも?」
「シンちゃんまだ怒ってる?」
「当たり前だ!!」
「体だって何度もあわせてるんだから、いい加減懐いてくれてもいいのに。」
「だぁれが懐くか!!」
「私はシンちゃんの事こんなに愛してるのになぁ……」
ほふぅとため息をつく私を無視し、シンタローは私が渡した写真に目を落とした。
4人の男が男が写っている。
一人は当然私。その右に立っているのがルーザー。
「見た感じ優男風だけど……本当にアンタの弟か?
全員似てないぞ」
「全員似ていない云々はさておき、
言っておくけどルーザーは私よりもきつい性格だからね。色々と」
どんなだ。
私の左に立っているのは双子の片割れ。
「この子がハーレム。シンちゃんとは良いケンカ友達になれそうだね。」
「ケンカ友達って……」
「で、ルーザーの隣にいるのが……
ってなんでシンちゃん見とれてるんだい!!?」
「い、いや、きれいな顔だと思って。」
「むーシンちゃん実は面食い?」
「いや、違うけどさ……」
じと目で見ると、シンタローは何故か視線を逸らしながら、
「ただどうせ捕まるなら……」
「捕まるなら!?」
「……ってアンタに比べりゃ誰でもましになるわぁあ!」
「失礼な。言っておくけどシンちゃんをコレほどまでに愛せるのは私くらいだよ!?」
「それが余計なんだよ!
ビジネスライクに行かせてくれ!!」
「まぁまぁ。とにかく弟達もそろそろ来る頃だと思うんだけど ……」
シンタローを軽くなだめ、時計を見る。10時10分前。
うぅ……いやに緊張してきた。
きっと頑固オヤジに「娘さんを僕にください」と言う男は、みんなこんな心境なんだろう。
昼10時の5分前。
応接室には久しぶりに4兄弟がそろっていた。
正方形のテーブル4辺にそれぞれが座っている。
私の正面はルーザー。右側にサービス、左にハーレムだ。
「こうして4兄弟がそろうのは久しぶりだな。」
「僕と兄さんは会社でしょっちゅう顔をあわせてますけれど、
最近兄さん会社来ない日が多いですからね。」
ぎく。
実を言うとそのとおり。
会長ともなると会社に行ったところで用事があるわけではないのだ。
今までは上の者が会社にいないと示しが着かないということで、毎日ではないにしろ、小まめに行っていたのだが。
「みんな噂してますよ。『会長に女が出来た』って。」
それを聞いてハーレムが口を開いた。からかうような口調だ。
「なんだ兄貴老いらくの恋か?」
「するなら相手を選んでくれば私たちは何も言わないよ。興味ないし」
サービスに関してはセリフの最後がポイントだな。
しかしソコまで考えられているなら話は早い。
「ま、それに関しては当たりと言えずとも遠からず。」
「は?」
「あん?」
「どういうことですか?」
「シンちゃん。おいで」
それぞれ疑問詞をぶつけてくる弟達はひとまず置いて、私はパンパンと手を叩き、シンタローを呼んだ。
「……入るぞ」
シンタローの声が聞こえた時点で、ルーザーが眉をピクリと動かした。
扉が開いてシンタローの姿が除いた時点で、弟達全員が固まった。
弟達の硬直は、シンタローが私の隣に立ち、私が宣言すると同時に融けた。
つまり、
「というわけで、私の今現在の恋人。悪魔のシンタローだよv」
『ちょっと待てぇええええ!』
ハーレムと、何故かシンタローが声を上げる。
「なんだか突っ込みどころがいっぱいだったぞ今のセリフっつーかこの30秒!」
「誰がてめーの恋人だ!誰が!! 勝手に決めるんじゃねぇ!」
うんうん。やはりこの二人はなかなか気が合いそうだ。
ハーレムの行動は予想通り、あとの二人は……
ちらりとルーザーを見ると、ルーザーはじっとシンタローを見ていたが、やがて私に視線を戻して、
弟達を代表するように口を開いた。
「とりあえず、質問をまとめます。」
「あぁできる限り答えよう」
ちらりとサービスを見ると、彼は、じっとシンタローの顔を、ものめずらしそうに見つめていた。
「まず一つ目。兄さんは先ほど彼を悪魔だと言いましたが── ─」
3人の視線を受け、居心地悪そうに私の横に座るシンタローを見ながらルーザーが聞いてくる。
「本当ですか?」
「本当だよ。」
返答は最低限必要なものだけ。
「にわかには信じられません。」
「まだ兄貴がコスプレさせてるっつー方がしっくりくるな」
「兄さんもうボケたとか?」
サービス。一言多い。
まぁ無理もない。
だったら、論より証拠。
「シンタロー。ルーザーのところに行ってくれるかい?」
「あん?」
「ルーザー。なんだったら実際に触ってみればいい。尻尾でも羽でも角でも。」
「まぁそこまで言うのでしたら……。」
不安をわずかににじませて、シンタローがルーザーのところに行く。
ルーザーは眉間にしわを寄せ、ポンポンとシンタローの羽を軽く叩いたり、角に触れていたりしたが、
やがて何を考えたのかシンタローのズボンに手をかけ……ってちょっと
ぐいッ
「ぎゃわぁ!!?」
「ルーザーッ!?」
えーと……何というか……。
ルーザーがシンタローのズボンの後ろ側を引っ張って中を覗いた。
硬直する私と双子ズとシンタロー。
ただ一人、ルーザーだけがいつもと変わらない口調で
「なるほど。本当にはえてるか。」
そのセリフでなんとなく言いたい事はわかったが、体が動いてくれない。
「る……ルーザー?」
かろうじてそうとだけ口にすると、ルーザーはシンタローの背中をぽんと叩いて戻るよう促すと、とりあえず説明をしてくれた。
「ただのコスプレなら直接肌から尻尾が生えてるわけありませんからね。」
「せめて背中の羽で調べて欲しかった……」
がっくりと肩を落とす───間もくれず
「じゃ、具体的に何がどうしてこうなったのか、説明してもらいましょうか。」
ルーザーの目が光った……ような気がした。
と言うことで説明。
骨董品店で偶然見つけた「悪魔呼び出しセット」におまけで「悪魔の力を封じる首輪」をつけてもらった事。
コレを聞いてサービスが「兄さん、よっぽど暇だったんですね」と哀れみの視線を投げかけてきた。
呼び出した悪魔が私の好みストライクゾーンで、あっという間に一目惚れした上に早速食べた事。
コレを聞いてハーレムが「ゲテモノ食い」と酷い事を言った。
翌日首輪をつけて、さらに数週間後家中に札を貼ってシンタローを閉じ込めたということ。
コレを聞いてルーザーは「つまり、商人のサービス精神に負けたんですね」とシンタローが結構気にしている事を言った。
「───で」
とりあえず、突っ込まれまくったが、一通りの説明はし終えた。
3人ともまだ半信半疑だったが、シンタローの背後でゆらゆら揺れている羽を見て、少なくともシンタローが人間外の何かだというのは理解してくれたらしい。
さて、ココからが一番大事なところだ。
「私はシンタローを愛しているし、これからもそばにいてもらいたいと思う。
3人ともそれで異論はないな? あってもどうしようもないけど。心ばっかりは本人でもどうしようもないからね。」
「まぁ……」
「兄貴がそれでいいって言うのなら……。」
「別にいいと思う。 どうでも」
「ちょっと待て。一番大事な事を忘れてるぞアンタら。」
最後の反論は……シンタローからだった。
「シンタロー? どうかしたのかい? 一番大事な事って?」
横に座っているシンタローに視線を投げる。
彼は憮然とした表情で。
「俺は、自分の意思とは別にココにいるって事だ」
『あ。』
「確かに、俺はコイツに『3つの願いをかなえる』って言ったぞ。
けどな、常識の範囲っつーモンがあるだろ?
第一マジックは俺の事を愛しているだのなんだのっつったけど、
力封じ込められてこの家に閉じ込められて……これじゃぁ飼われてるだけだろ?
それに、よくわからねーけどあんたら大企業の重役なんだろ。
そんなのが悪魔飼ってるなんて、笑い話……
どころか、大衆に知られたら頭がどうにかなったって思われるだけだし、
俺がここにいるメリットはこの男が俺に興味を持ってるって事以外に全くない上に、
デメリットやリスクの方が多いだろ?」
そのたった一つのメリットが大きいんじゃないか。
そう言おうと口を開いたら、先にルーザーの方が話してきた。
「なるほど。確かに君の言いたい事もわかる」
「だろ?」
「だからこそ兄さんにはがんばってもらわないと。」
「あん?」
上のセリフはハーレムだ。
「いいかい?
もし今君を放したら、兄さんに危害を加えかねないだろう? 」
「誰がわざわざ───」
信用されて無い事にイラついたのか、シンタローが反論しようとするが、ルーザーはそれをさえぎって続ける。
「それに、兄さんが上手く君を落としたら、君の力を使って色々出来そうじゃないか?」
「色々って……何させる気だ兄貴。」
何させる気だルーザー。
ハーレムの白い視線がルーザーに向くが、気にした様子もない。
「わかったかい?
つまり、君が兄さんに対して敵意を持っているのなら、そのまま捕まっている方が私たちには安全なんだよ。
逆に言えば、兄さんの努力が実れば、有益だって事だ。」
「みのらねーと思うけどな。」
うう……シンちゃんったらそんな冷たい声で。
「ま、兄貴の老後の趣味ってヤツだな。年寄りの趣味を潰す気はねーよ」
ハーレム、いちいちうるさい。大体私だってまだまだ若いよ。特にシンタロー相手なら20は若返られるんだ。
「それに冷静に考えてみれば兄さん昔っから黒髪長髪に弱かったし。」
サービスの言う通り。わかってるね我が弟。
「じゃ、この件はこれで終わりだ。
シンタロー。弟達の承認も得たし、明日っからまた熱々のお似合いカップルで行こうねv」
「熱々なのはアンタの頭だ……」
こんなはずじゃ……とつぶやくシンタローを無視して、私たちの話題はビジネスに移っていった。
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