帰宅途中のサラリーマンが多いこの時間帯。
私の姿は完全に彼らの中に紛れていた。
しかし、もしも今不審尋問で引っかかったらヤバイだろう。
血にまみれたシャツが丸めてスーツケースの中に収まっているのだから。
私とすれ違うサラリーマンや、せかせかとした足取りで私を追い越していくOL達。
まさか私がすぐそこの路地裏で人を殺してきたとは思ってもいないだろう。
物的証拠は残していないし、通り魔のように見せかけたし。
それにしても、今日の仕事はずいぶんと手間取ったな。
まったく往生際の悪い。第一私が自分を裏切った人間を許す訳ないだろう。
長く仕えていたが、どうやら理解できなかったようだ。
裏切りや搾取がゴロゴロしているこの業界。
今回私が直接手を下したのは、今まで特別に目をかけていた男。
私の自宅にも何度か招いたこともある。
その男が、裏切ってとある組織にこっちの情報を渡そうとしていた。
別にそれに関しては、未然に防げたし、
これから後釜を探すのが大変だが、ちょうどいいのがいる。
チョコレートロマンスとティラミスという男たちだが、彼らもずいぶん長いし、忠誠心もある。
完全に信じきるわけではないが、あの男の後には丁度いいだろう。
それでも私がイライラしている理由は、あの男が裏切った原因が……
「死んだじいちゃんが夢枕に立って、
敵対組織の女幹部に惚れたからそっちにつけと涙ながらに訴えてきた」
聞いた瞬間、私の耳とか、男の神経とか、じいちゃんの夢枕とか……色んな物を疑った。
まったく最近の若い者は……。
とにかく、こんな夜はさっさと家に帰るに限る。
うちでは可愛い可愛い悪魔が私を待っているんだ。
昨日は散々可愛がりすぎたから、さすがに今日はつらいだろう。
することをしなくても、抱きしめて寝るだけでもいい。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「あぁただいま。シンタローは?」
「もうお部屋でお休みになってらっしゃいます。」
「食事は?」
「全て召し上がりました。」
父の代から勤めている家政婦だが、私がいない間のシンタローの世話も彼女に任せている。
全ての事情を……私がシンタローに惚れた事も加えて───話したが、あっさり受け入れてくれた。
芯が太いというか強いというか……。
ちなみに、本当の事を話したのは流石に数名の信頼できる使用人だけだ。
それ以外の者には「私が無理矢理悪魔のコスプレをさせてる拾った青年。」という事になっている。
明らかにどうかしている内容だが話したら皆あっさり信じてくれた。
なんだか複雑だ。
まだ3人の弟達には話していない。
電話やメールで気軽に話せる内容でもないし、3人とも忙しくて中々ここにこないからだ。
それはともかく、寝ているのなら仕方ない、私も食事は済ませてきたし、
「旦那様お休みになりますか?」
「そうだな。先にシャワーを浴びてから……。」
「わかりました。ではパジャマを出しておきます。」
「あぁ。頼んだ。」
シャワーを軽く浴びて汗を流す。
邪魔にならない程度にオーデコロンを体につけ、身だしなみを整えて……、
いざ二人の愛の巣へ……v
ドアノブを握る手に異常に力が込められる。
いろいろな理由により冷え切ったカラダをシンちゃんの体で暖めてもらおう!
「───寒ッツ!」
部屋に入ると、妙に……というか恐ろしく寒い。
クーラーの人工的な寒さに慌ててパネルを見ると……20度!
こんなんじゃシンちゃん風引いちゃうよ。
私は設定温度を上げて、急いでベッドに向かった。
ベッドでは体をこちらに向けてスヤスヤと眠る悪魔の姿。ちょっと腕を握ってみる。
ほら、シンちゃんもだいぶ体が冷えているじゃないか。
その上(私の趣味で作って着せた)薄い布地のパジャマだし、
お腹の上に軽く一枚かけているだけだし……。
やれやれ。
私はシンちゃんを抱きしめるようにしてベッドに横になった。
───ぎゅっ。
ん?
妙な感触に目を開く。
腕の中でシンちゃんは……
私のパジャマの胸の辺りを握り締め、頬を摺り寄せるようにして体を押し付けてきた。
えーとえーとえーと。
誘ってますか?
───ってちがう!!
相当寒かったのだろう、ぴとっと体を密着させ、私にすがり付く様は犯罪レベルの可愛さだ。
足を絡め背中に回った腕に力を込め、シンタローの体を暖めるように抱きすくめた。
「───んぅ……」
ポツリとシンタローの唇から息が漏れる。
くぅう……なんて可愛いんださすが私のシンタロー!!
あぁ……カメラを取りに行きたいけど起き上がったら絶対シンちゃんも起きちゃう……。
せめて網膜に焼き付けてやろうと、シンタローの寝顔をしばらく堪能したのだった。
翌日。
「ぎゃあああぁぁああああ!!!
なんでてめーがココにいやがる!! じゃなくて何抱きついてやがんだテメーは!!」
「んー……もーちょっと寝かせてくれないか。できれば2・3時間。」
「仕事行け仕事!! 2・3時間ってなんだ! その前に事情を説明しろ!」
「事情って……昨日はシンちゃんのほうからも抱きついてきたんだし。」
「うそだぁああああ!!」
「本当だよ。 相当クーラー効いてたよ? 体ヒエヒエだったじゃないか。」
「な……っ!」
「ということでなるべくクーラーの設定には気をつけるんだよ?」
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私の姿は完全に彼らの中に紛れていた。
しかし、もしも今不審尋問で引っかかったらヤバイだろう。
血にまみれたシャツが丸めてスーツケースの中に収まっているのだから。
私とすれ違うサラリーマンや、せかせかとした足取りで私を追い越していくOL達。
まさか私がすぐそこの路地裏で人を殺してきたとは思ってもいないだろう。
物的証拠は残していないし、通り魔のように見せかけたし。
それにしても、今日の仕事はずいぶんと手間取ったな。
まったく往生際の悪い。第一私が自分を裏切った人間を許す訳ないだろう。
長く仕えていたが、どうやら理解できなかったようだ。
裏切りや搾取がゴロゴロしているこの業界。
今回私が直接手を下したのは、今まで特別に目をかけていた男。
私の自宅にも何度か招いたこともある。
その男が、裏切ってとある組織にこっちの情報を渡そうとしていた。
別にそれに関しては、未然に防げたし、
これから後釜を探すのが大変だが、ちょうどいいのがいる。
チョコレートロマンスとティラミスという男たちだが、彼らもずいぶん長いし、忠誠心もある。
完全に信じきるわけではないが、あの男の後には丁度いいだろう。
それでも私がイライラしている理由は、あの男が裏切った原因が……
「死んだじいちゃんが夢枕に立って、
敵対組織の女幹部に惚れたからそっちにつけと涙ながらに訴えてきた」
聞いた瞬間、私の耳とか、男の神経とか、じいちゃんの夢枕とか……色んな物を疑った。
まったく最近の若い者は……。
とにかく、こんな夜はさっさと家に帰るに限る。
うちでは可愛い可愛い悪魔が私を待っているんだ。
昨日は散々可愛がりすぎたから、さすがに今日はつらいだろう。
することをしなくても、抱きしめて寝るだけでもいい。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「あぁただいま。シンタローは?」
「もうお部屋でお休みになってらっしゃいます。」
「食事は?」
「全て召し上がりました。」
父の代から勤めている家政婦だが、私がいない間のシンタローの世話も彼女に任せている。
全ての事情を……私がシンタローに惚れた事も加えて───話したが、あっさり受け入れてくれた。
芯が太いというか強いというか……。
ちなみに、本当の事を話したのは流石に数名の信頼できる使用人だけだ。
それ以外の者には「私が無理矢理悪魔のコスプレをさせてる拾った青年。」という事になっている。
明らかにどうかしている内容だが話したら皆あっさり信じてくれた。
なんだか複雑だ。
まだ3人の弟達には話していない。
電話やメールで気軽に話せる内容でもないし、3人とも忙しくて中々ここにこないからだ。
それはともかく、寝ているのなら仕方ない、私も食事は済ませてきたし、
「旦那様お休みになりますか?」
「そうだな。先にシャワーを浴びてから……。」
「わかりました。ではパジャマを出しておきます。」
「あぁ。頼んだ。」
シャワーを軽く浴びて汗を流す。
邪魔にならない程度にオーデコロンを体につけ、身だしなみを整えて……、
いざ二人の愛の巣へ……v
ドアノブを握る手に異常に力が込められる。
いろいろな理由により冷え切ったカラダをシンちゃんの体で暖めてもらおう!
「───寒ッツ!」
部屋に入ると、妙に……というか恐ろしく寒い。
クーラーの人工的な寒さに慌ててパネルを見ると……20度!
こんなんじゃシンちゃん風引いちゃうよ。
私は設定温度を上げて、急いでベッドに向かった。
ベッドでは体をこちらに向けてスヤスヤと眠る悪魔の姿。ちょっと腕を握ってみる。
ほら、シンちゃんもだいぶ体が冷えているじゃないか。
その上(私の趣味で作って着せた)薄い布地のパジャマだし、
お腹の上に軽く一枚かけているだけだし……。
やれやれ。
私はシンちゃんを抱きしめるようにしてベッドに横になった。
───ぎゅっ。
ん?
妙な感触に目を開く。
腕の中でシンちゃんは……
私のパジャマの胸の辺りを握り締め、頬を摺り寄せるようにして体を押し付けてきた。
えーとえーとえーと。
誘ってますか?
───ってちがう!!
相当寒かったのだろう、ぴとっと体を密着させ、私にすがり付く様は犯罪レベルの可愛さだ。
足を絡め背中に回った腕に力を込め、シンタローの体を暖めるように抱きすくめた。
「───んぅ……」
ポツリとシンタローの唇から息が漏れる。
くぅう……なんて可愛いんださすが私のシンタロー!!
あぁ……カメラを取りに行きたいけど起き上がったら絶対シンちゃんも起きちゃう……。
せめて網膜に焼き付けてやろうと、シンタローの寝顔をしばらく堪能したのだった。
翌日。
「ぎゃあああぁぁああああ!!!
なんでてめーがココにいやがる!! じゃなくて何抱きついてやがんだテメーは!!」
「んー……もーちょっと寝かせてくれないか。できれば2・3時間。」
「仕事行け仕事!! 2・3時間ってなんだ! その前に事情を説明しろ!」
「事情って……昨日はシンちゃんのほうからも抱きついてきたんだし。」
「うそだぁああああ!!」
「本当だよ。 相当クーラー効いてたよ? 体ヒエヒエだったじゃないか。」
「な……っ!」
「ということでなるべくクーラーの設定には気をつけるんだよ?」
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