それにしてもマジック……アンタ何を考えてる。
「戻ったぞー。」
ルーザーさんのセリフからして、マジックはもう台所の整理は終わって自室に戻ったというのは判った。
ということでマジックの部屋に入る。
「やぁお帰り。面白そうなものはあったかな?」
「まぁな。」
面白そうどころか計画実行不可って事が判っただけだったけどな。
「そうか。ところで早速海に行こうって思ってるんだけど、シンちゃんも行こうねv」
「行く? の疑問系じゃないあたりがアンタだよな。」
しかし、この広い海で泳いでみたい。っつーか気分転換してェ。
「俺の水着はどこだ? タオルも」
俺の言葉にマジックは顔いっぱいの笑顔を浮かべ、
「これだよv」と電気ねずみの絵が書いてあるビニールバックを取り出した。
ビーチパラソルとクーラーボックスをマジックが担いで俺がそのほかの荷物もち。
上に羽織っていた上着を脱ぎ、早速泳ぐぜ!
「ふふ……シンちゃんの海パン姿……一生懸命作ってよかった。」
うわなんか一気にテンション下がったよ。
「一生懸命作ったって……」
ちなみに俺のは普通のトランクス型の水着で、色は紺一色。
なんだか尻側につけられた『シンタロー』と書いてある白い布が気になるが。
「ん? あぁ。尻尾用の穴が開いている海パンなんてそうそうナイからね、作るしかなかったんだよ」
作ったのか。
「そうだ、泳ぐのなら向こうに岩場があるだろう?」
「アレか?」
俺が指を指した先には、魚の住処となりそうな岩場があった。
「うんうん。あの向こうって魚が結構いるからさ、向こう行ってみないかい?」
「一人で行きゃいいだろ。でもってアンタは泳がねーのか?」
マジックはハーフパンツデザインの水着で、夕焼けに染まった椰子の木がプリントされている。
上はTシャツだ。
「泳ぐよ? 泳ぐけどせっかく海来たんだから魚達と戯れるシンちゃん見たいし。」
「……ここはそんな観光地張りの経験ができる場所なのか?」
「はっはっは。まぁいいじゃないか。普段家に引きこもってるんだし。
こういう時くらいは大自然の恵みを受けて日の光を浴びるのが一番!」
「俺が普段引きこもってるのは誰のせいだと……」
「聞こえませーん。
さぁ早速れっつごぉ!」
「うだわぁああああぁああ~~!!?」
「はい。とうちゃーく」
「つ……疲れた……。」
無理矢理引っ張られてやってきました。
ココだとでっかい岩で日陰になっていて足元も暑くない。
「はい、シンちゃんシュノーケルと、水中眼鏡」
「おー……海に来たって気がするなー。」
海泳ぎセットを受け取り早速水中へ!
最近俺適応能力上がったよな。
「あ、待ったシンちゃん。」
「あん?」
水中眼鏡を装備し、早速飛び込もうとしたとたん、マジックに声をかけられた。
「サンオイル。塗らないとヒリヒリしちゃうよ?」
「別にそのくらい……」
早くもぐらせてくれ。
「だーめ。お風呂入ったときすっごく痛いんだからね。」
「ち……しゃーねーな……」
早く塗ろうと大量に手に取り出し腕や胴体に塗りつけていく。
「って……アンタ何やってるんだ?」
ちらりと後ろを見ると、マジックもサンオイルを取り出していた。
そのくらいなら自分に塗るのだろうと思えるが……目つきが妙だ。っつか変だ。
「ん? シンちゃんの背中に塗ってあげようと思って。」
「遠慮します。」
「だめだよ。塗りムラがあったら日焼けまでムラがでちゃうんだよ?
背中なんて一番塗りにくいところじゃないか。」
「そうかもしれねーけど……」
「はい、それが判ったら背中向けて!」
「へーい。」
くるりと再び背を向け、先ほどの続きを……。
ぬりぬり。
マジックの手が背中を行ったり来たり。
妙に念入りに塗ってるな……。
まぁマッサージされているみたいで気持ちいいといえば気持ちいいんだけど……。
「はい。塗れたよ。」
ぽんっと軽く肩を叩かる。
「あぁ。ありがとな。」
珍しく何もないで終わったな。
こいつがこうペタペタ触ってくる時はたいてい何かあるんだが……。
何もないか。
大体コイツだって弟達が来るかもしれないこんな場所で何かするわけないしな。
ふと、視線をめぐらす。
俺たちがいる場所は別荘からは少し離れていて、なにより茶色い岩が丁度俺達の姿を別荘からは見えなくして……
い……嫌な予感がする。
いや、予感というかもっと具体的に……
とにかく、本能的に危険を察知し、マジックから距離をとろうと一歩踏みだ……
さわ……
「ひっ!?」
いつの間にやら俺の体はマジックに拘束されていた。
俺よりも長身のマジックが後ろから覆いかぶさるように抱きしめている。
それだけならどかんかいっつ!と言って文字通り一蹴すればいいのだが、
マジックの右手が俺の水着の上(しかも前側)にあるから問題なのだ。
下手に握られでもしたら……(汗)
などと考えている間にも、マジックの手は大胆さを増してきて、水着の中にまで入ろうとしている。
「はぁっ……テメ……こんなところで何を……」
「え? 私はオイルを塗っているだけだよ。」
そんな事を言っている間にも、反対側の手は胸に回り、乳首をくりくりとひねるように刺激している。
「……ッツ!」
きつく抓られるが、オイルでぬめった手はつるんと滑って刺激だけを残して胸から離れる。
「ほら、シンちゃんも苦しくなってきたろう?」
確かにマジックの言うとおり、俺のブツは水着の中で窮屈そうに自己主張し始めていた。
「さ、シンちゃんも素直になって?ね?
それとも本当にイヤ?」
「イヤに決まってるだろうが!」
熱くなってくる体を無視して無理矢理そう叫ぶ。
どうせこういったところでこいつは無視して続きをするんだ。
それがいつものパターンだ。
が。
「ふーん? そう?じゃぁ今回は我慢しよう。」
「……え?」
予想外のマジックのセリフに一瞬からだの動きが止まる。
大してマジックはニヤニヤと。
「イヤなんだろう? だったらたまには私もシンちゃんの言うこと聞いてあげないとね」
「───……」
この男……。
口ではそういったが、マジックの目は完全に『たまにはシンちゃんのほうからおねだりして欲しいなぁv』と語っていた。
強制的におねだりさせてどーする……。
だが、水着の中の俺自身はじくじくと疼いている。
「さ、どうする?」
後ろからはがいじめにしたまま、俺の耳に唇を寄せ、そんな事を聞いてくる。
耳が苦手だって事知ってるくせにっ!
うわなんか腹立ってきた……。
ドンッ
「───!?」
マジックの体を懇親の力で突き飛ばす。
数歩後ろにたたらを踏んだが、ヤツが体勢を立て直す前に、自分の水着に手をかけ───
一気に降ろす!
「シンちゃ───」
体ごと後ろに向き、目を丸くしているマジックの胸倉(やつはTシャツを着ている)をつかみ、一気に引き寄せる。
っち……上背で負けてる分迫力が落ちるな。
「コレで……満足か?」
マジックは少しの間あっけに盗られていたが、
すぐにいつもの笑顔に戻ると、「十分v」とだけ言って唇を寄せてきた。
ちゅv
なんて軽いものを想像してはいけない。
いきなり舌を入れられ我が物顔で口の中に進入してくる。
いつもなら流されるままになっているだろうが、俺は珍しく応戦してみる事にした。
マジックの舌を自分の舌で押し返し、逆にマジックの口の中に押し入ってみる。
必死で舌を伸ばし、つぅっと唾液が口から溢れるのも構わずにマジックの唇を貪欲に求める。
爪先立ちで必死になって吸い付くさまにヤツは何を勘違いしたのか、急に俺を抱きしめなおして直に尻に触ってきた。
ぐにぐにと揉んだり、ちろりと時たま前の方にきたり、
気がついたら俺はマジックの唇から離れヤツの胸にしがみついていた。
「ん……はふ……」
も……イキタイ……
そう思っているのに、マジックは決定的な刺激を与えてくれず、俺は悶々とマジックの愛撫に耐えていたが……
そろそろ限界だ……
「マジック……」
そうとだけ呟いて、俺はマジックの体にはちきれそうになっている自分自身を押し付ける。
「あふっ」
マジックが穿いている水着独特の感触が俺自身を刺激し、同時にマジックのもトンデモナイ状況になっていると理解する。
その両方が俺の気分を高ぶらせ、気がついたら浅ましくマジックに腰を擦り付けていた。
シャリシャリと水着で擦られる音が耳に届く。
けれど求める刺激にはまだまだ足りなくて、時折「くぅ……ん」と鼻にかかったような声を出しながら
それ以外は声を出さず、動作だけでマジックをねだった。
「ね、シンちゃん。」
「うぅ……ん? んっく!」
後ろの入り口周りをつぅっとなでられカラダが跳ねる。
さっきから刺激を求めているソコは、自分でも判るほどひくひくと疼き、マジックのものを望んでいた。
あぁもう……早く入れろよ……。
「父さんって呼んでくれるかい?」
「……とう……さん……?」
言葉の意味なんて理解できなかった。
ただ、その単語がこの重いカラダを開放してくれる、呪文だと感じた。
そしてそれは効果覿面でして……。
ずっ
「ひっ!?」
マジックの長い指が中に這入ってくる。
オイルが塗られていたのか、痛みは全然なくて、
むしろ待ち望んだ刺激に快感を与えてくれる指を逃すまいとギュッと反射的に締め付けた。
「シンちゃんもっと呼んで……」
「ふぁっ…とうさん……とうさんっ…もっとぉ……」
「はいはいv」
中をかき回す指が増える。
ぐちゃぐちゃとオイルと空気が混ざる音がいやらしく響く。
でも、やっぱり指では足りなくて、
もっと後ろから突き上げて欲しい、前をもっと強く刺激して欲しいと、そんな期待をして嬌声を上げていた。
「じゃ、シンちゃん。そろそろ……大丈夫?」
待ち望んだ展開に尻尾がピクリと震える。
俺が無言で頷くとマジックの体が離れ、岩盤に手をつくよう指示される。
素直に岩にしがみつくようにして腰を突き出し、マジックを待つとすぐに腰に暖かい手が触れた。
「じゃ、おとーさんいっくよーv」
「ん……ッく……くぅうううううっっ!」
ずぶりと一気に深いところまで入り込み、マジックのセリフに突っ込む間もなくピストンが開始される。
「ふぁっ……んっく……っふ」
やばい……さっきから思ってたけど、今日なんか変だ。
『案外既に体のほうは開発されてたりしてなー』
ハーレムの馬鹿笑いが耳にこだまする。
そんなの……そんなの……とっくに理解してたんだよ。
マジックとの性交渉は、チープな言い回しだが、本当に麻薬のようで、
もう駄目だ駄目だと思っていても気がついたら流されてしまっている。
どんなに抵抗しても結局最後は同じ末路。
いっそ下手に抵抗しない方がいいのでは……と考えてみるのだが、
それでも抵抗するのは当然だろう。
大体マジックは男相手だというのに上手すぎるんだ!
非難しているつもりだが褒め言葉になっているし本人に言ったら絶対勘違いして喜ぶから言わないけど。
「なんだかシンちゃん今日は妙に素直だねぇ。」
マジックもいつもと違う俺に気づいたのか、そんな事を言ってくる。
「そ……んなことっ……ない……ひゃっ?」
……確かに、確かに今日は気分が高ぶっているかもしれない。
八方塞だと諦めがついたからか、それとも……
「ひょっとして海だから気分が高ぶっているのかもね。
───それとも私が上手くなった?」
「知るかっ! ぐっ……あぁっ!」
頼むから自分の期待通りの答えが返ってこないからといっていきなり前の方を握らないで欲しい。
「まぁいいけどね。とりあえず父さんって呼んでもらっただけでもよしとするよ」
「父さんって……なんで……」
「っ……いいねぇ。その呼び方。
とーさんドキドキしちゃうよ。」
そういうマジックの声も少し荒い。
俺はその声に不本意ながらさらにカラダを熱くしてしまった。
「じゃ、素直なシンちゃんにご褒美だよv
たっくさんうけとってねw」
「んぁっ!?」
マジックの手が俺の前に来て、荒々しく扱き出す。
振って湧いたような快感に、俺の意識は自然と自分の体に移り、
「んぁああぁああっ!?!」
おもいっきりマジックの手の中と岩と砂に白濁した体液を吐き出していた。
マジックの最後の質問の答えは、多分両方正解なんだろうけど、
俺はその質問には最後まで無視して、
マジックから(半ば無理矢理)与えられる快感にしばらく酔ったのだった。
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「戻ったぞー。」
ルーザーさんのセリフからして、マジックはもう台所の整理は終わって自室に戻ったというのは判った。
ということでマジックの部屋に入る。
「やぁお帰り。面白そうなものはあったかな?」
「まぁな。」
面白そうどころか計画実行不可って事が判っただけだったけどな。
「そうか。ところで早速海に行こうって思ってるんだけど、シンちゃんも行こうねv」
「行く? の疑問系じゃないあたりがアンタだよな。」
しかし、この広い海で泳いでみたい。っつーか気分転換してェ。
「俺の水着はどこだ? タオルも」
俺の言葉にマジックは顔いっぱいの笑顔を浮かべ、
「これだよv」と電気ねずみの絵が書いてあるビニールバックを取り出した。
ビーチパラソルとクーラーボックスをマジックが担いで俺がそのほかの荷物もち。
上に羽織っていた上着を脱ぎ、早速泳ぐぜ!
「ふふ……シンちゃんの海パン姿……一生懸命作ってよかった。」
うわなんか一気にテンション下がったよ。
「一生懸命作ったって……」
ちなみに俺のは普通のトランクス型の水着で、色は紺一色。
なんだか尻側につけられた『シンタロー』と書いてある白い布が気になるが。
「ん? あぁ。尻尾用の穴が開いている海パンなんてそうそうナイからね、作るしかなかったんだよ」
作ったのか。
「そうだ、泳ぐのなら向こうに岩場があるだろう?」
「アレか?」
俺が指を指した先には、魚の住処となりそうな岩場があった。
「うんうん。あの向こうって魚が結構いるからさ、向こう行ってみないかい?」
「一人で行きゃいいだろ。でもってアンタは泳がねーのか?」
マジックはハーフパンツデザインの水着で、夕焼けに染まった椰子の木がプリントされている。
上はTシャツだ。
「泳ぐよ? 泳ぐけどせっかく海来たんだから魚達と戯れるシンちゃん見たいし。」
「……ここはそんな観光地張りの経験ができる場所なのか?」
「はっはっは。まぁいいじゃないか。普段家に引きこもってるんだし。
こういう時くらいは大自然の恵みを受けて日の光を浴びるのが一番!」
「俺が普段引きこもってるのは誰のせいだと……」
「聞こえませーん。
さぁ早速れっつごぉ!」
「うだわぁああああぁああ~~!!?」
「はい。とうちゃーく」
「つ……疲れた……。」
無理矢理引っ張られてやってきました。
ココだとでっかい岩で日陰になっていて足元も暑くない。
「はい、シンちゃんシュノーケルと、水中眼鏡」
「おー……海に来たって気がするなー。」
海泳ぎセットを受け取り早速水中へ!
最近俺適応能力上がったよな。
「あ、待ったシンちゃん。」
「あん?」
水中眼鏡を装備し、早速飛び込もうとしたとたん、マジックに声をかけられた。
「サンオイル。塗らないとヒリヒリしちゃうよ?」
「別にそのくらい……」
早くもぐらせてくれ。
「だーめ。お風呂入ったときすっごく痛いんだからね。」
「ち……しゃーねーな……」
早く塗ろうと大量に手に取り出し腕や胴体に塗りつけていく。
「って……アンタ何やってるんだ?」
ちらりと後ろを見ると、マジックもサンオイルを取り出していた。
そのくらいなら自分に塗るのだろうと思えるが……目つきが妙だ。っつか変だ。
「ん? シンちゃんの背中に塗ってあげようと思って。」
「遠慮します。」
「だめだよ。塗りムラがあったら日焼けまでムラがでちゃうんだよ?
背中なんて一番塗りにくいところじゃないか。」
「そうかもしれねーけど……」
「はい、それが判ったら背中向けて!」
「へーい。」
くるりと再び背を向け、先ほどの続きを……。
ぬりぬり。
マジックの手が背中を行ったり来たり。
妙に念入りに塗ってるな……。
まぁマッサージされているみたいで気持ちいいといえば気持ちいいんだけど……。
「はい。塗れたよ。」
ぽんっと軽く肩を叩かる。
「あぁ。ありがとな。」
珍しく何もないで終わったな。
こいつがこうペタペタ触ってくる時はたいてい何かあるんだが……。
何もないか。
大体コイツだって弟達が来るかもしれないこんな場所で何かするわけないしな。
ふと、視線をめぐらす。
俺たちがいる場所は別荘からは少し離れていて、なにより茶色い岩が丁度俺達の姿を別荘からは見えなくして……
い……嫌な予感がする。
いや、予感というかもっと具体的に……
とにかく、本能的に危険を察知し、マジックから距離をとろうと一歩踏みだ……
さわ……
「ひっ!?」
いつの間にやら俺の体はマジックに拘束されていた。
俺よりも長身のマジックが後ろから覆いかぶさるように抱きしめている。
それだけならどかんかいっつ!と言って文字通り一蹴すればいいのだが、
マジックの右手が俺の水着の上(しかも前側)にあるから問題なのだ。
下手に握られでもしたら……(汗)
などと考えている間にも、マジックの手は大胆さを増してきて、水着の中にまで入ろうとしている。
「はぁっ……テメ……こんなところで何を……」
「え? 私はオイルを塗っているだけだよ。」
そんな事を言っている間にも、反対側の手は胸に回り、乳首をくりくりとひねるように刺激している。
「……ッツ!」
きつく抓られるが、オイルでぬめった手はつるんと滑って刺激だけを残して胸から離れる。
「ほら、シンちゃんも苦しくなってきたろう?」
確かにマジックの言うとおり、俺のブツは水着の中で窮屈そうに自己主張し始めていた。
「さ、シンちゃんも素直になって?ね?
それとも本当にイヤ?」
「イヤに決まってるだろうが!」
熱くなってくる体を無視して無理矢理そう叫ぶ。
どうせこういったところでこいつは無視して続きをするんだ。
それがいつものパターンだ。
が。
「ふーん? そう?じゃぁ今回は我慢しよう。」
「……え?」
予想外のマジックのセリフに一瞬からだの動きが止まる。
大してマジックはニヤニヤと。
「イヤなんだろう? だったらたまには私もシンちゃんの言うこと聞いてあげないとね」
「───……」
この男……。
口ではそういったが、マジックの目は完全に『たまにはシンちゃんのほうからおねだりして欲しいなぁv』と語っていた。
強制的におねだりさせてどーする……。
だが、水着の中の俺自身はじくじくと疼いている。
「さ、どうする?」
後ろからはがいじめにしたまま、俺の耳に唇を寄せ、そんな事を聞いてくる。
耳が苦手だって事知ってるくせにっ!
うわなんか腹立ってきた……。
ドンッ
「───!?」
マジックの体を懇親の力で突き飛ばす。
数歩後ろにたたらを踏んだが、ヤツが体勢を立て直す前に、自分の水着に手をかけ───
一気に降ろす!
「シンちゃ───」
体ごと後ろに向き、目を丸くしているマジックの胸倉(やつはTシャツを着ている)をつかみ、一気に引き寄せる。
っち……上背で負けてる分迫力が落ちるな。
「コレで……満足か?」
マジックは少しの間あっけに盗られていたが、
すぐにいつもの笑顔に戻ると、「十分v」とだけ言って唇を寄せてきた。
ちゅv
なんて軽いものを想像してはいけない。
いきなり舌を入れられ我が物顔で口の中に進入してくる。
いつもなら流されるままになっているだろうが、俺は珍しく応戦してみる事にした。
マジックの舌を自分の舌で押し返し、逆にマジックの口の中に押し入ってみる。
必死で舌を伸ばし、つぅっと唾液が口から溢れるのも構わずにマジックの唇を貪欲に求める。
爪先立ちで必死になって吸い付くさまにヤツは何を勘違いしたのか、急に俺を抱きしめなおして直に尻に触ってきた。
ぐにぐにと揉んだり、ちろりと時たま前の方にきたり、
気がついたら俺はマジックの唇から離れヤツの胸にしがみついていた。
「ん……はふ……」
も……イキタイ……
そう思っているのに、マジックは決定的な刺激を与えてくれず、俺は悶々とマジックの愛撫に耐えていたが……
そろそろ限界だ……
「マジック……」
そうとだけ呟いて、俺はマジックの体にはちきれそうになっている自分自身を押し付ける。
「あふっ」
マジックが穿いている水着独特の感触が俺自身を刺激し、同時にマジックのもトンデモナイ状況になっていると理解する。
その両方が俺の気分を高ぶらせ、気がついたら浅ましくマジックに腰を擦り付けていた。
シャリシャリと水着で擦られる音が耳に届く。
けれど求める刺激にはまだまだ足りなくて、時折「くぅ……ん」と鼻にかかったような声を出しながら
それ以外は声を出さず、動作だけでマジックをねだった。
「ね、シンちゃん。」
「うぅ……ん? んっく!」
後ろの入り口周りをつぅっとなでられカラダが跳ねる。
さっきから刺激を求めているソコは、自分でも判るほどひくひくと疼き、マジックのものを望んでいた。
あぁもう……早く入れろよ……。
「父さんって呼んでくれるかい?」
「……とう……さん……?」
言葉の意味なんて理解できなかった。
ただ、その単語がこの重いカラダを開放してくれる、呪文だと感じた。
そしてそれは効果覿面でして……。
ずっ
「ひっ!?」
マジックの長い指が中に這入ってくる。
オイルが塗られていたのか、痛みは全然なくて、
むしろ待ち望んだ刺激に快感を与えてくれる指を逃すまいとギュッと反射的に締め付けた。
「シンちゃんもっと呼んで……」
「ふぁっ…とうさん……とうさんっ…もっとぉ……」
「はいはいv」
中をかき回す指が増える。
ぐちゃぐちゃとオイルと空気が混ざる音がいやらしく響く。
でも、やっぱり指では足りなくて、
もっと後ろから突き上げて欲しい、前をもっと強く刺激して欲しいと、そんな期待をして嬌声を上げていた。
「じゃ、シンちゃん。そろそろ……大丈夫?」
待ち望んだ展開に尻尾がピクリと震える。
俺が無言で頷くとマジックの体が離れ、岩盤に手をつくよう指示される。
素直に岩にしがみつくようにして腰を突き出し、マジックを待つとすぐに腰に暖かい手が触れた。
「じゃ、おとーさんいっくよーv」
「ん……ッく……くぅうううううっっ!」
ずぶりと一気に深いところまで入り込み、マジックのセリフに突っ込む間もなくピストンが開始される。
「ふぁっ……んっく……っふ」
やばい……さっきから思ってたけど、今日なんか変だ。
『案外既に体のほうは開発されてたりしてなー』
ハーレムの馬鹿笑いが耳にこだまする。
そんなの……そんなの……とっくに理解してたんだよ。
マジックとの性交渉は、チープな言い回しだが、本当に麻薬のようで、
もう駄目だ駄目だと思っていても気がついたら流されてしまっている。
どんなに抵抗しても結局最後は同じ末路。
いっそ下手に抵抗しない方がいいのでは……と考えてみるのだが、
それでも抵抗するのは当然だろう。
大体マジックは男相手だというのに上手すぎるんだ!
非難しているつもりだが褒め言葉になっているし本人に言ったら絶対勘違いして喜ぶから言わないけど。
「なんだかシンちゃん今日は妙に素直だねぇ。」
マジックもいつもと違う俺に気づいたのか、そんな事を言ってくる。
「そ……んなことっ……ない……ひゃっ?」
……確かに、確かに今日は気分が高ぶっているかもしれない。
八方塞だと諦めがついたからか、それとも……
「ひょっとして海だから気分が高ぶっているのかもね。
───それとも私が上手くなった?」
「知るかっ! ぐっ……あぁっ!」
頼むから自分の期待通りの答えが返ってこないからといっていきなり前の方を握らないで欲しい。
「まぁいいけどね。とりあえず父さんって呼んでもらっただけでもよしとするよ」
「父さんって……なんで……」
「っ……いいねぇ。その呼び方。
とーさんドキドキしちゃうよ。」
そういうマジックの声も少し荒い。
俺はその声に不本意ながらさらにカラダを熱くしてしまった。
「じゃ、素直なシンちゃんにご褒美だよv
たっくさんうけとってねw」
「んぁっ!?」
マジックの手が俺の前に来て、荒々しく扱き出す。
振って湧いたような快感に、俺の意識は自然と自分の体に移り、
「んぁああぁああっ!?!」
おもいっきりマジックの手の中と岩と砂に白濁した体液を吐き出していた。
マジックの最後の質問の答えは、多分両方正解なんだろうけど、
俺はその質問には最後まで無視して、
マジックから(半ば無理矢理)与えられる快感にしばらく酔ったのだった。
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カンカンに照り付ける真夏日。
マジックの屋敷に封じ込められている俺には一切関係のない事だが。
しかし他の悪魔連中に比べて活動的な俺には流石にこのヒキコモリ生活はつらい。
そんな事を毎日毎日こぼしていたのが功をそうしたのか、あるいは気まぐれか、
人間界にきて、初めて外に出られる機会に恵まれた。
といっても封印がとかれるわけじゃない。
何でも、せっかく4兄弟の休みがあったのだから、プライベートビーチを久しぶりに活用しようということらしい。
「あそこなら他に誰もいないし、シンちゃんも堂々と外に出られるよ。」
嬉しそうにはしゃぐマジックを見て俺は思った。
『あんたが余計な事しなきゃ俺だって一人で外に出られたんだよ。』
だがそれを口には出さない。ココでコイツを不機嫌にさせるわけには行かないからだ。
実を言うと、マジックの弟達の事でちょっとたくらんでいる事がある。
つまり……
実の兄(とてつもない程の権力者)が悪魔を捕まえて愛人にしている。
どんな人間でも信じないだろう。
だが、もしも事実なら?
どんな人間でも止めると思う。
「頼むから正気に戻ってくれ」と。
そう、俺は「悪魔を愛人にするなんてなに考えているんですか! さっさと逃がしてあげなさい!」って
弟の誰かがマジックを説得すると思っていたんだ。
(コレじゃまるで俺が悪ガキに捕まったセミや他の虫みたいだが───ってこの例えもあながち間違ってねぇし。)
それが実際にはどうだ? 誰も説得しやしねぇ。
だがしかし、3人全員が同じ気持ちのわけはないだろう。
きっと誰か一人は俺を放した方がいいって思ってるハズだ。
あの時は4人いたから自分の意見が言いにくかったのだろう。
だったらその誰かをピンポイントでマークして、首輪を外させて俺をこの封印をといてもらう。
気分が開放的になるこの海水浴はまさにうってつけのイベントだ!
ちなみに屋敷の連中(使用人たち)はよっぽどマジックを恐れているのか敬っているのか誰もはずしちゃくれねぇ。
マジックたちがプライベートビーチで過ごしている間、当然敷地内の別荘に泊まるわけだが、
ソコに警備員やお手伝いさんはいないらしい。もちろんつれてもいかないらしい。
「普段自分で家事をやらないとね、腕がなまっちゃうから。」
掃除は定期的に人を雇っているし、いきなり行っても使える状態にしてあるとか。
それに、面と向かっては言わないが、マジックの料理の腕はなかなかのもので、
普段は屋敷に勤めている料理人が食事を作るが、休日や他時間がある日はマジックが食事を作る。
コレがそこんじょそこらの料理屋よりよっぽど美味いのだ。
ココで言う料理屋ってのは魔界の話な。
だから、コレはちょっと楽しみにしている。
「でも本当にあんたらだけで大丈夫なのか?」
「なにがだい?」
楽しそうに旅行の用意をするマジックに聞いてみた。
「まず家事の問題とか……。」
「こう見えても私は家事も得意だよ?
掃除だって私の部屋はいつもきれいなものじゃないか。
洗濯は……あまりやらないけれど洗濯機はいい物がおいてあるし、
それとも料理かい? 心配しなくても魚料理だってお手の物だよ。」
「まぁ……アンタがイギリス人のわりに料理が上手いってのは認める。」
「ありがとう」
「そうじゃなくて、あるだろ? こう警備上の問題とか。」
ビーチの周りに警備員くらいは連れて行くみたいだが……別荘には他に誰もいかないらしいし。
「それこそなんでだい?」
「………………………………」
そうか、そういえばそうだったな。
「そういえばアンタ強いんだったな。」
「何をいまさら。最初の日に君を捕まえられたのは運だけじゃないよ」
「そうだな……」
40過ぎのおっさんだと思ってなめたのが間違いだったんだ。
「で、俺はどうすればいい?」
「ん? 別にどうもしなくても。
私に身を任せてくれれば何にもしなくていいんだよv」
……「身を」の部分は入れなくてもいいだろ。
見上げれば蒼い空、白い雲、真っ赤な太陽、碧い海。
「……とうとう来ちまった。異人さんに連れられて。」
「君から見たら世界各国誰でも異人さんだろう。」
そのとーり。
ルーザーの運転で俺たちが来た砂浜は本当に人一人いなくて、ざざ……と波の音が響くだけだった。
ちなみにマジックはその間しっかりと俺の腕をつかんでいた。
別荘は想像よりもちんまりとしていた。
といっても、俺がマジックの屋敷から想像していた別荘図は、普通の家が2つくらい入る大きさだったが。
「小さいって思ったかい?」
「……まぁ、周りの別荘に比べりゃ遥かにでかいがな。」
「かもね。でもココには兄弟4人以外で来ない……来なかったからね、
だから下手に大きくないほうがいいんだよ。」
「なるほど。」
白を基調とした外観はゴミひとつない砂浜に見事にマッチしていて、立てた人物の趣味のよさが判る代物だ。
バルコニーには日光浴用の洒落た椅子が置いてあるのが見えた。
うんうん。ココでなら腹を割って話せそうだ。
まず俺が目をつけたのはサービス……さんだった。
この前俺が自己紹介をした時に、一番俺に興味を示していたのはこの人だ。
マジックが俺の紹介をし終えた後、即行でビジネスの話に移ったのだが、
その後もちらちらとこちらを見ていたのか、何度も視線が合った。
2週間前の自己紹介からはチャンスがなかったため、あまり話していなかったが、
今マジックは荷物と台所整理に追われていて俺の方の注意が薄くなっている。
チャンスは今しかないだろう。
「おーい。」
「ん~?」
冷蔵庫に持ってきた食材を詰めているマジック。声をかけると、視線はこちらを向いたが、手は動いている。
「ちょっとこの中色々見て回ってくる」
「あぁ。迷子にならないよう注意するんだよ。」
「へいへい。」
ちなみに、ずいぶんとマジックは余裕があるが、
羽が使えない以上、こんなプライベートビーチなんざで逃げてもすぐ捕まると考えているからだ。(そしてそれは正しい)
ここに来る途中、マジックに散々ちょっかいをかけられて道すらも覚えていないからな。
ココがイギリスのっつーかUKのどこなのかもわからねーし。
ということで、俺の着る物一式はマジックが整理してくれているし、あの広い台所じゃ整理するにもひと苦労だろうし。
思う存分3人を説得できるってもんだ。
俺は足取りも軽くサービスさんの部屋に向かった。
「あのー……サービスさんちょっといいですか?」
複雑な木彫り細工がしてあるドアをノックする。
するとすぐにドアが開いて、サービスさんが顔を見せた。
「どうぞ。丁度着る物の整理が終わったところだ。」
そう言ってサービスさんは俺を部屋に入れた。
「ところで、『さん』はいらないな。
なんだか他人行儀だ。」
サービスさんの部屋からつながっているバルコニーに出て、よく冷えたアイスティーをもらう。
俺が用件を言い出す前に、まずサービスさんが開口一番そういった。
「といわれても……」
なんだか敬称をつけなくてはいけない……というより呼び捨てにしづらいのだ。
「一応年上なんで……」
「兄さんも年上だろう。」
「自分を強姦した挙句に捕まえた男に敬称はつけたくありません。」
「確かに」
そう言ってにこりと面白そうに笑う。うーん……綺麗な人だなー……本当に。
「そうだな……じゃぁ……
おじさんなんてどうだい?」
「は!? おじさん!!?」
「あぁ。」
「なんでおじさんなんですか!!
年齢はともかく、そういう外見じゃないし!」
話の飛びように驚いて思わず声を荒げると、サービスさんはさっきと同じように微笑んで
「ありがとう。でもね、(大分)年上の男性に対する「おじさん」じゃなくて、
両親の兄弟に対する「叔父さん」だよ」
「は? 兄弟?」
「兄さんがいっていたんだよ。
『もしもシンタローのために戸籍を創るなら、私の息子でいいよねv』って」
「えええええぇええええと」
そりゃ年齢的には合っているが……。
人種が違うとか俺を養子にするメリットはあるのかとか、そんな必要性があるのかとかとか
どこから突っ込んでいいのか迷っていると、
「ほら、あの人妙に独占欲強そうだから。
感情は複雑だけど愛情を持った相手を何らかの形で束縛したいんだろうね。」
「はぁ……」
独占欲が強そうだというのは納得できるような気がする。
けどなんで親子。
俺の疑問を見抜いたのか、サービスさんは今度は意地の悪そうな笑顔を浮かべて言った。
「婚姻相手の方がよかったかい?」
「なっ……!!?」
婚姻? てことは結婚!? どっちが旦那だッ!!?
ってそうじゃなくて、第一夜の生活をみてりゃおのずと役割は……あれ?
混乱する俺を見て、目の前のお綺麗な男の人はさっきと変わらぬ笑顔のまま、さらりと。
「冗談だよ。」
「~~~~~~~~~っ!」
負けた……なんかしらんが負けた……ッ!
一人がっくり肩を落とす。
「でも実際そうなったらいいな。」
「へ?」
「シンタローが甥っ子になるのなら楽しそうだしね。」
たのし……。
「それはどういう意味ですか。」
「まぁまぁ。とにかく、君からさん付けされると妙にくすぐったいから、それ以外でお願いできないかな。
とりあえずおじさんでいいんじゃないかな。家族関係云々はさておいて、年齢的にはそれが一番合うだろう?」
「はぁ……」
サービス……おじさん……ねぇ。
「そういえばシンタローは何のようだったんだ?」
どうにも違和感があって頭の中で反芻していると、サービスさ…おじさんが紅茶を注ぎながら聞いてきた。
「あ、そうだった。」
首輪を外してもらうんだった……
けど、なんだかすっかりフレンドリーになってしまったこの状況では言い出しづらいぞ。
「えぇっと……ちょっと頼みたい事が「うおーいサービス! はいるぜぇええ!!」
頼みごとを口に出しかけた瞬間、デカイ声とともに部屋の扉が開いた。
この声は……。
「ハーレム。部屋に入るときはノックくらいしてくれないか?」
顔をわずかにしかめてサービスおじさんが注意するが、この男はそれくらいじゃ堪えない。
十数日の付き合いだが、なんとなくそのくらいはわかった。
「あーん? 別にいいじゃねーかそれくらい。
それとも、その悪魔のボーヤと人に見られちゃまずいことしてたのか?」
ほらちっとも堪えてない。
「まさか。」
サービスおじさんも慣れているのか、涼しい顔に戻り……
「してたんじゃなくてする所だったんだよ」
「おじさんっ!!?」
「そりゃ悪かったな。そんなことより……」
「ってアンタもさらりと流すな!」
うぅ……この兄弟ってこの兄弟って……。
「で、なんでこの悪魔この部屋にいたんだ?」
部屋の棚からグラスを取り出し、バルコニーの席に(勝手に)着くハーレム。
「それを言おうとしたらハーレムが来たんだよ。何だったんだい? シンタロー?」
「いや、ちょっとおじさんに頼みたい事が。
───この首輪を外してもらいたいんです。」
『───。』
俺のセリフに二人の動きが一瞬止まる。
「つまり、魔界に帰してほしいって事だね?」
「でもって兄貴のところから逃げ出したいって事だな。」
そのとーり。
「でもその事だったら2週間も前に話し合ったじゃないか。」
あれは2番目の兄、ルーザーに勝手に決められたような……
「っつーかお前らデキてんだろ?
お前が一人でいるトコ見た事ねーぞ。」
そりゃ一人のときはマジックの部屋にいるし、部屋の外にいるときはマジックがしっかり見張ってるし。
「デキてねぇデキてねぇ。
あいつが勝手に言いふらしてるだけだ。」
「兄さん片想いロード爆走中ってことかい?」
「むしろ暴走中です。」
「テメェサービスに話すときは敬語なんだな。」
「……なんでだろうな。」
自分でもわからねー……いや、なんとなくわかるけど。
「雰囲気的に敬語使いたくないんだろ。ハーレムには。」
うわおじさんそんなはっきりと。
「話を元に戻そう。
シンタローが魔界に帰りたいのはわかった。」
「ありがとうございます。」
「でも、私はシンタローを魔界に返したくない。」
「え。」
硬直する俺。
「あの……理由聞かせてもらえますか。」
失敗に終わるか!? と焦りまくりの声になっちまった。
俺の質問に、答えたのはハーレムだった。
「わりーけど、兄貴がこれほど他人に執着するのはめったにねーからな。
コレでオメーがどっか消えたらまず間違いなく暴れるぞ。あの男。」
「なにより君をダシにして兄さん からかえるし。
私も君とは離れがたいしね。」
「それは嬉しいんですけど……。
俺にも家族ってものが……」
グンマとキンタロー今頃冗談抜きで何してるんだろう。。
「だろう? 家族を思うのは誰でも一緒だよ。
だから私も兄さんの恋路を邪魔したくない。」
「俺は納得してないんですけど。」
「兄貴完全に茨の道だな。」
「ううう……」
ってかこの二人本気で……真剣に考えてくれているのだろうか。
「それに、シンタローもいつまで本気で嫌がってるんだい?」
「はい?」
いつまでって?
「つまり、いいかげん兄さんに落とされても良い頃なのにってことだよ」
「おと……」
落とされるわけないと思うのですが……。
さっきも言ったけど俺が監禁強姦した男に惚れるわけねぇ。
「いや、案外こいつ既に落とされてるけど気づいてないのかも知れねーぞ」
「あぁそれはありえるな。」
「ちょっとちょっとちょっと……」
なんか話が変な方向に進んでません?
「大体兄貴も本気で欲しいなら薬やら何やら色々あるだろーに」
「そうだな。この前裏の仕事でそんなの完成させたらしいし。」
「どんな薬……」
「案外既に体のほうは開発されてたりしてなー(大笑)」
あっはっはとデカイ声を上げて大笑いするハーレム。
その笑い声が異様にむかついて、持ってたカップがピシッとか音を立てた。
つまるところ、この二人は外してくれる気はないらしい。
「ハーレムの馬鹿話はともかくとして、
私はシンタローがこっちでも違和感なく暮らせるように努力してみるよ」
うっすらと微笑み、頼りになるけど俺の望みとは違う事を言ってくるサービスおじさん。
うぅ……計画失敗……。
俺はあきらめて、マジックの部屋に戻って行った。
「おやシンタロー。」
「ルー……ザー……さん。」
廊下でばったり会ったのは、マジック兄弟次男ルーザー。
うぅ……なんかこの人はマジックとは別の意味で近寄りがたい。
俺の悪魔としての本能がそう語っている! ゆえにさん付けだ。
そんな俺の心境などいざ知らず、ルーザーさんは気楽な口調で
「今までどこに行っていたんだい? 兄さんは自分の部屋にいたみたいだけど。」
「あ、えーとサービスおじさんのところに……」
「サービス……おじさん?」
キラーンとルーザーさんの目が光ったような気がした。
「なんで君がサービスの事をおじさん呼ばわりしているのかな?」
にににににっこり笑った笑顔が怖いですよルーザーさんっ!?
「あ、えーっとえーっと。おじさんが、俺みたいな甥っ子がいれば面白いって……というか純粋に年齢差で……」
「甥っ子? あぁ。そういえば兄さんが君と養子縁組を組みたいと言っていたな。」
「は? 養子縁組?」
そういえばサービスおじさんもそんな事を……。
「あぁ。将来君を公の場に連れて行ったとして、何かと詮索されても大丈夫なように。らしい。」
「何のメリットが?」
「だから、君を公の場に連れて行きたいんだろう。
ところが、兄さんの立場上、横に今まで見た事もないような青年がいたらまず間違いなくみんな何者だと思うはずだ。
適当に答えたとして、聞いたほうはそれが本当かあらゆる手段を使って調べるだろ?」
「そりゃ確かに。」
「そこで、養子縁組ということだ。」
「え? え? え?」
なんだか話がずいぶん飛躍してやいませんか?
「てか別に秘書とか会社の人間とかでも誤魔化せるんじゃぁ……」
「公の場でいつもべっとりくっついている二人組み(しかも雰囲気が明らかに何か違う)を見てみんな秘書とか思うかい?」
「まぁ……普通は別の関係があるんじゃないかって思いますね。」
そもそも別の関係だし。
「そこで、養子縁組だよ。」
「だから何故。」
「養子縁組というのは同性愛カップルが法的に一緒にいられる方法としてもっともポピュラーなんだよ。
つまり、『養子縁組した私の息子です』と言えば、
その周りの雰囲気もあってみんな『あぁ【そういうこと】か』と納得してくれるものなんだ。」
そ、そんなんでいいのか?
───って待てよ?
「そもそも俺こんな姿だから公の場になんざ出られないと思いますよ?」
「それも色々クリアするだろ。兄さんなら。」
どうやって───!!?
頭の中で疑問渦巻き、硬直している俺を置いて、ルーザーさんは廊下を歩いていった。
つまり、コレで弟方面での望みは絶たれたワケか。
オレはわずかに肩を落とし、マジックの部屋に戻っていった。
分岐
マジックの部屋に行ったところから見る。(18禁) 2へ
マジックと一緒に海に行ってひと暴れした後から見る 3へ
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マジックの屋敷に封じ込められている俺には一切関係のない事だが。
しかし他の悪魔連中に比べて活動的な俺には流石にこのヒキコモリ生活はつらい。
そんな事を毎日毎日こぼしていたのが功をそうしたのか、あるいは気まぐれか、
人間界にきて、初めて外に出られる機会に恵まれた。
といっても封印がとかれるわけじゃない。
何でも、せっかく4兄弟の休みがあったのだから、プライベートビーチを久しぶりに活用しようということらしい。
「あそこなら他に誰もいないし、シンちゃんも堂々と外に出られるよ。」
嬉しそうにはしゃぐマジックを見て俺は思った。
『あんたが余計な事しなきゃ俺だって一人で外に出られたんだよ。』
だがそれを口には出さない。ココでコイツを不機嫌にさせるわけには行かないからだ。
実を言うと、マジックの弟達の事でちょっとたくらんでいる事がある。
つまり……
実の兄(とてつもない程の権力者)が悪魔を捕まえて愛人にしている。
どんな人間でも信じないだろう。
だが、もしも事実なら?
どんな人間でも止めると思う。
「頼むから正気に戻ってくれ」と。
そう、俺は「悪魔を愛人にするなんてなに考えているんですか! さっさと逃がしてあげなさい!」って
弟の誰かがマジックを説得すると思っていたんだ。
(コレじゃまるで俺が悪ガキに捕まったセミや他の虫みたいだが───ってこの例えもあながち間違ってねぇし。)
それが実際にはどうだ? 誰も説得しやしねぇ。
だがしかし、3人全員が同じ気持ちのわけはないだろう。
きっと誰か一人は俺を放した方がいいって思ってるハズだ。
あの時は4人いたから自分の意見が言いにくかったのだろう。
だったらその誰かをピンポイントでマークして、首輪を外させて俺をこの封印をといてもらう。
気分が開放的になるこの海水浴はまさにうってつけのイベントだ!
ちなみに屋敷の連中(使用人たち)はよっぽどマジックを恐れているのか敬っているのか誰もはずしちゃくれねぇ。
マジックたちがプライベートビーチで過ごしている間、当然敷地内の別荘に泊まるわけだが、
ソコに警備員やお手伝いさんはいないらしい。もちろんつれてもいかないらしい。
「普段自分で家事をやらないとね、腕がなまっちゃうから。」
掃除は定期的に人を雇っているし、いきなり行っても使える状態にしてあるとか。
それに、面と向かっては言わないが、マジックの料理の腕はなかなかのもので、
普段は屋敷に勤めている料理人が食事を作るが、休日や他時間がある日はマジックが食事を作る。
コレがそこんじょそこらの料理屋よりよっぽど美味いのだ。
ココで言う料理屋ってのは魔界の話な。
だから、コレはちょっと楽しみにしている。
「でも本当にあんたらだけで大丈夫なのか?」
「なにがだい?」
楽しそうに旅行の用意をするマジックに聞いてみた。
「まず家事の問題とか……。」
「こう見えても私は家事も得意だよ?
掃除だって私の部屋はいつもきれいなものじゃないか。
洗濯は……あまりやらないけれど洗濯機はいい物がおいてあるし、
それとも料理かい? 心配しなくても魚料理だってお手の物だよ。」
「まぁ……アンタがイギリス人のわりに料理が上手いってのは認める。」
「ありがとう」
「そうじゃなくて、あるだろ? こう警備上の問題とか。」
ビーチの周りに警備員くらいは連れて行くみたいだが……別荘には他に誰もいかないらしいし。
「それこそなんでだい?」
「………………………………」
そうか、そういえばそうだったな。
「そういえばアンタ強いんだったな。」
「何をいまさら。最初の日に君を捕まえられたのは運だけじゃないよ」
「そうだな……」
40過ぎのおっさんだと思ってなめたのが間違いだったんだ。
「で、俺はどうすればいい?」
「ん? 別にどうもしなくても。
私に身を任せてくれれば何にもしなくていいんだよv」
……「身を」の部分は入れなくてもいいだろ。
見上げれば蒼い空、白い雲、真っ赤な太陽、碧い海。
「……とうとう来ちまった。異人さんに連れられて。」
「君から見たら世界各国誰でも異人さんだろう。」
そのとーり。
ルーザーの運転で俺たちが来た砂浜は本当に人一人いなくて、ざざ……と波の音が響くだけだった。
ちなみにマジックはその間しっかりと俺の腕をつかんでいた。
別荘は想像よりもちんまりとしていた。
といっても、俺がマジックの屋敷から想像していた別荘図は、普通の家が2つくらい入る大きさだったが。
「小さいって思ったかい?」
「……まぁ、周りの別荘に比べりゃ遥かにでかいがな。」
「かもね。でもココには兄弟4人以外で来ない……来なかったからね、
だから下手に大きくないほうがいいんだよ。」
「なるほど。」
白を基調とした外観はゴミひとつない砂浜に見事にマッチしていて、立てた人物の趣味のよさが判る代物だ。
バルコニーには日光浴用の洒落た椅子が置いてあるのが見えた。
うんうん。ココでなら腹を割って話せそうだ。
まず俺が目をつけたのはサービス……さんだった。
この前俺が自己紹介をした時に、一番俺に興味を示していたのはこの人だ。
マジックが俺の紹介をし終えた後、即行でビジネスの話に移ったのだが、
その後もちらちらとこちらを見ていたのか、何度も視線が合った。
2週間前の自己紹介からはチャンスがなかったため、あまり話していなかったが、
今マジックは荷物と台所整理に追われていて俺の方の注意が薄くなっている。
チャンスは今しかないだろう。
「おーい。」
「ん~?」
冷蔵庫に持ってきた食材を詰めているマジック。声をかけると、視線はこちらを向いたが、手は動いている。
「ちょっとこの中色々見て回ってくる」
「あぁ。迷子にならないよう注意するんだよ。」
「へいへい。」
ちなみに、ずいぶんとマジックは余裕があるが、
羽が使えない以上、こんなプライベートビーチなんざで逃げてもすぐ捕まると考えているからだ。(そしてそれは正しい)
ここに来る途中、マジックに散々ちょっかいをかけられて道すらも覚えていないからな。
ココがイギリスのっつーかUKのどこなのかもわからねーし。
ということで、俺の着る物一式はマジックが整理してくれているし、あの広い台所じゃ整理するにもひと苦労だろうし。
思う存分3人を説得できるってもんだ。
俺は足取りも軽くサービスさんの部屋に向かった。
「あのー……サービスさんちょっといいですか?」
複雑な木彫り細工がしてあるドアをノックする。
するとすぐにドアが開いて、サービスさんが顔を見せた。
「どうぞ。丁度着る物の整理が終わったところだ。」
そう言ってサービスさんは俺を部屋に入れた。
「ところで、『さん』はいらないな。
なんだか他人行儀だ。」
サービスさんの部屋からつながっているバルコニーに出て、よく冷えたアイスティーをもらう。
俺が用件を言い出す前に、まずサービスさんが開口一番そういった。
「といわれても……」
なんだか敬称をつけなくてはいけない……というより呼び捨てにしづらいのだ。
「一応年上なんで……」
「兄さんも年上だろう。」
「自分を強姦した挙句に捕まえた男に敬称はつけたくありません。」
「確かに」
そう言ってにこりと面白そうに笑う。うーん……綺麗な人だなー……本当に。
「そうだな……じゃぁ……
おじさんなんてどうだい?」
「は!? おじさん!!?」
「あぁ。」
「なんでおじさんなんですか!!
年齢はともかく、そういう外見じゃないし!」
話の飛びように驚いて思わず声を荒げると、サービスさんはさっきと同じように微笑んで
「ありがとう。でもね、(大分)年上の男性に対する「おじさん」じゃなくて、
両親の兄弟に対する「叔父さん」だよ」
「は? 兄弟?」
「兄さんがいっていたんだよ。
『もしもシンタローのために戸籍を創るなら、私の息子でいいよねv』って」
「えええええぇええええと」
そりゃ年齢的には合っているが……。
人種が違うとか俺を養子にするメリットはあるのかとか、そんな必要性があるのかとかとか
どこから突っ込んでいいのか迷っていると、
「ほら、あの人妙に独占欲強そうだから。
感情は複雑だけど愛情を持った相手を何らかの形で束縛したいんだろうね。」
「はぁ……」
独占欲が強そうだというのは納得できるような気がする。
けどなんで親子。
俺の疑問を見抜いたのか、サービスさんは今度は意地の悪そうな笑顔を浮かべて言った。
「婚姻相手の方がよかったかい?」
「なっ……!!?」
婚姻? てことは結婚!? どっちが旦那だッ!!?
ってそうじゃなくて、第一夜の生活をみてりゃおのずと役割は……あれ?
混乱する俺を見て、目の前のお綺麗な男の人はさっきと変わらぬ笑顔のまま、さらりと。
「冗談だよ。」
「~~~~~~~~~っ!」
負けた……なんかしらんが負けた……ッ!
一人がっくり肩を落とす。
「でも実際そうなったらいいな。」
「へ?」
「シンタローが甥っ子になるのなら楽しそうだしね。」
たのし……。
「それはどういう意味ですか。」
「まぁまぁ。とにかく、君からさん付けされると妙にくすぐったいから、それ以外でお願いできないかな。
とりあえずおじさんでいいんじゃないかな。家族関係云々はさておいて、年齢的にはそれが一番合うだろう?」
「はぁ……」
サービス……おじさん……ねぇ。
「そういえばシンタローは何のようだったんだ?」
どうにも違和感があって頭の中で反芻していると、サービスさ…おじさんが紅茶を注ぎながら聞いてきた。
「あ、そうだった。」
首輪を外してもらうんだった……
けど、なんだかすっかりフレンドリーになってしまったこの状況では言い出しづらいぞ。
「えぇっと……ちょっと頼みたい事が「うおーいサービス! はいるぜぇええ!!」
頼みごとを口に出しかけた瞬間、デカイ声とともに部屋の扉が開いた。
この声は……。
「ハーレム。部屋に入るときはノックくらいしてくれないか?」
顔をわずかにしかめてサービスおじさんが注意するが、この男はそれくらいじゃ堪えない。
十数日の付き合いだが、なんとなくそのくらいはわかった。
「あーん? 別にいいじゃねーかそれくらい。
それとも、その悪魔のボーヤと人に見られちゃまずいことしてたのか?」
ほらちっとも堪えてない。
「まさか。」
サービスおじさんも慣れているのか、涼しい顔に戻り……
「してたんじゃなくてする所だったんだよ」
「おじさんっ!!?」
「そりゃ悪かったな。そんなことより……」
「ってアンタもさらりと流すな!」
うぅ……この兄弟ってこの兄弟って……。
「で、なんでこの悪魔この部屋にいたんだ?」
部屋の棚からグラスを取り出し、バルコニーの席に(勝手に)着くハーレム。
「それを言おうとしたらハーレムが来たんだよ。何だったんだい? シンタロー?」
「いや、ちょっとおじさんに頼みたい事が。
───この首輪を外してもらいたいんです。」
『───。』
俺のセリフに二人の動きが一瞬止まる。
「つまり、魔界に帰してほしいって事だね?」
「でもって兄貴のところから逃げ出したいって事だな。」
そのとーり。
「でもその事だったら2週間も前に話し合ったじゃないか。」
あれは2番目の兄、ルーザーに勝手に決められたような……
「っつーかお前らデキてんだろ?
お前が一人でいるトコ見た事ねーぞ。」
そりゃ一人のときはマジックの部屋にいるし、部屋の外にいるときはマジックがしっかり見張ってるし。
「デキてねぇデキてねぇ。
あいつが勝手に言いふらしてるだけだ。」
「兄さん片想いロード爆走中ってことかい?」
「むしろ暴走中です。」
「テメェサービスに話すときは敬語なんだな。」
「……なんでだろうな。」
自分でもわからねー……いや、なんとなくわかるけど。
「雰囲気的に敬語使いたくないんだろ。ハーレムには。」
うわおじさんそんなはっきりと。
「話を元に戻そう。
シンタローが魔界に帰りたいのはわかった。」
「ありがとうございます。」
「でも、私はシンタローを魔界に返したくない。」
「え。」
硬直する俺。
「あの……理由聞かせてもらえますか。」
失敗に終わるか!? と焦りまくりの声になっちまった。
俺の質問に、答えたのはハーレムだった。
「わりーけど、兄貴がこれほど他人に執着するのはめったにねーからな。
コレでオメーがどっか消えたらまず間違いなく暴れるぞ。あの男。」
「なにより君をダシにして兄さん からかえるし。
私も君とは離れがたいしね。」
「それは嬉しいんですけど……。
俺にも家族ってものが……」
グンマとキンタロー今頃冗談抜きで何してるんだろう。。
「だろう? 家族を思うのは誰でも一緒だよ。
だから私も兄さんの恋路を邪魔したくない。」
「俺は納得してないんですけど。」
「兄貴完全に茨の道だな。」
「ううう……」
ってかこの二人本気で……真剣に考えてくれているのだろうか。
「それに、シンタローもいつまで本気で嫌がってるんだい?」
「はい?」
いつまでって?
「つまり、いいかげん兄さんに落とされても良い頃なのにってことだよ」
「おと……」
落とされるわけないと思うのですが……。
さっきも言ったけど俺が監禁強姦した男に惚れるわけねぇ。
「いや、案外こいつ既に落とされてるけど気づいてないのかも知れねーぞ」
「あぁそれはありえるな。」
「ちょっとちょっとちょっと……」
なんか話が変な方向に進んでません?
「大体兄貴も本気で欲しいなら薬やら何やら色々あるだろーに」
「そうだな。この前裏の仕事でそんなの完成させたらしいし。」
「どんな薬……」
「案外既に体のほうは開発されてたりしてなー(大笑)」
あっはっはとデカイ声を上げて大笑いするハーレム。
その笑い声が異様にむかついて、持ってたカップがピシッとか音を立てた。
つまるところ、この二人は外してくれる気はないらしい。
「ハーレムの馬鹿話はともかくとして、
私はシンタローがこっちでも違和感なく暮らせるように努力してみるよ」
うっすらと微笑み、頼りになるけど俺の望みとは違う事を言ってくるサービスおじさん。
うぅ……計画失敗……。
俺はあきらめて、マジックの部屋に戻って行った。
「おやシンタロー。」
「ルー……ザー……さん。」
廊下でばったり会ったのは、マジック兄弟次男ルーザー。
うぅ……なんかこの人はマジックとは別の意味で近寄りがたい。
俺の悪魔としての本能がそう語っている! ゆえにさん付けだ。
そんな俺の心境などいざ知らず、ルーザーさんは気楽な口調で
「今までどこに行っていたんだい? 兄さんは自分の部屋にいたみたいだけど。」
「あ、えーとサービスおじさんのところに……」
「サービス……おじさん?」
キラーンとルーザーさんの目が光ったような気がした。
「なんで君がサービスの事をおじさん呼ばわりしているのかな?」
にににににっこり笑った笑顔が怖いですよルーザーさんっ!?
「あ、えーっとえーっと。おじさんが、俺みたいな甥っ子がいれば面白いって……というか純粋に年齢差で……」
「甥っ子? あぁ。そういえば兄さんが君と養子縁組を組みたいと言っていたな。」
「は? 養子縁組?」
そういえばサービスおじさんもそんな事を……。
「あぁ。将来君を公の場に連れて行ったとして、何かと詮索されても大丈夫なように。らしい。」
「何のメリットが?」
「だから、君を公の場に連れて行きたいんだろう。
ところが、兄さんの立場上、横に今まで見た事もないような青年がいたらまず間違いなくみんな何者だと思うはずだ。
適当に答えたとして、聞いたほうはそれが本当かあらゆる手段を使って調べるだろ?」
「そりゃ確かに。」
「そこで、養子縁組ということだ。」
「え? え? え?」
なんだか話がずいぶん飛躍してやいませんか?
「てか別に秘書とか会社の人間とかでも誤魔化せるんじゃぁ……」
「公の場でいつもべっとりくっついている二人組み(しかも雰囲気が明らかに何か違う)を見てみんな秘書とか思うかい?」
「まぁ……普通は別の関係があるんじゃないかって思いますね。」
そもそも別の関係だし。
「そこで、養子縁組だよ。」
「だから何故。」
「養子縁組というのは同性愛カップルが法的に一緒にいられる方法としてもっともポピュラーなんだよ。
つまり、『養子縁組した私の息子です』と言えば、
その周りの雰囲気もあってみんな『あぁ【そういうこと】か』と納得してくれるものなんだ。」
そ、そんなんでいいのか?
───って待てよ?
「そもそも俺こんな姿だから公の場になんざ出られないと思いますよ?」
「それも色々クリアするだろ。兄さんなら。」
どうやって───!!?
頭の中で疑問渦巻き、硬直している俺を置いて、ルーザーさんは廊下を歩いていった。
つまり、コレで弟方面での望みは絶たれたワケか。
オレはわずかに肩を落とし、マジックの部屋に戻っていった。
分岐
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8月12日
「はぁ!? 弟が来る!!!?
なんだそりゃきーてねーぞ俺は!!!」
「今朝ちゃんと言ったじゃないか。」
「今朝って……いつだよ!」
「君が起きてすぐ。」
「覚えてるかぁああ!!」
今身につけている服がまだ作成途中で、待ち針も数本刺さったままだというのに、
俺はマジックにつかみかかった。
なんでも「弟たちに会わせるんだから、おめかししなきゃねー」と言う事だが……。
俺が着る服はけっこう特殊だ。
というか人間界の一般的な服屋には「羽を出すための穴が開いた服」なんてものは売っていない。
当然オーダーメイドになるわけだが、羽と角と尻尾が生えた客をどこにつれてけというのか。
マジックの趣味も合って、俺の服はほとんどがマジックの手製となっていた。残りは家政婦のばぁちゃんだ。
それにしても器用な男だなまったく。
「大体、アンタの弟どもが俺を受け入れてくれるわけねーだろ」
「受け入れて欲しいのかい?」
「だれがだ!!」
反射的に言い返すが、考えてみればマジックの言うとおりだ。
弟達の前でめちゃくちゃやって、そいつらに俺を帰すよう説得させればいいんだな。
「ね、別にいいだろう? それに、君と私とのラブラブッぷりに当てられれば、彼らにも良い刺激になると思うんだ。」
……ラブラブ……っておい。
マジックの家族構成は秘石から聞いていた。
両親と奥さんは他界。弟が3人いて……名前は忘れた。
下の二人が双子だっつったてな。
「じゃぁシンちゃん。明日弟達に会ってくれるね?」
「しかたねーな。言っておくが、アンタが弟達から白い目で見られても俺の所為じゃねーぞ。」
「大丈夫。あの子達ならきっと受け入れてくれると思うんだよね」
……ずいぶんと信頼してらっしゃる事で。
シンタローに大体の説明はする。
長男は私で、次男がルーザー。
ガンマコンツェルンの核、ガンマカンパニーの社長(私は会長)を勤めている。
次にハーレムとサービス。
この二人が双子……2卵生の双子で、ガンマコンツェルン内のどの組織に属しているわけではなく、
半ばゲリラ的にうろちょろして、(表裏に限らず)組織内の危 険分子を探っている。
「どちらにしろ、会ってみなくちゃなんとも言えないだろうね。
全員アクの強い性格してるからねぇ。」
「その最たる者が何を言う。」
失礼な。私はまともだよ。
「で、俺はなんて自己紹介すればいいんだよ」
「え。そりゃもちろん……」
「「あんたの好奇心で呼び出された挙句につかまって、尚且つしっかり食われた下級悪魔」とでも?」
「シンちゃんまだ怒ってる?」
「当たり前だ!!」
「体だって何度もあわせてるんだから、いい加減懐いてくれてもいいのに。」
「だぁれが懐くか!!」
「私はシンちゃんの事こんなに愛してるのになぁ……」
ほふぅとため息をつく私を無視し、シンタローは私が渡した写真に目を落とした。
4人の男が男が写っている。
一人は当然私。その右に立っているのがルーザー。
「見た感じ優男風だけど……本当にアンタの弟か?
全員似てないぞ」
「全員似ていない云々はさておき、
言っておくけどルーザーは私よりもきつい性格だからね。色々と」
どんなだ。
私の左に立っているのは双子の片割れ。
「この子がハーレム。シンちゃんとは良いケンカ友達になれそうだね。」
「ケンカ友達って……」
「で、ルーザーの隣にいるのが……
ってなんでシンちゃん見とれてるんだい!!?」
「い、いや、きれいな顔だと思って。」
「むーシンちゃん実は面食い?」
「いや、違うけどさ……」
じと目で見ると、シンタローは何故か視線を逸らしながら、
「ただどうせ捕まるなら……」
「捕まるなら!?」
「……ってアンタに比べりゃ誰でもましになるわぁあ!」
「失礼な。言っておくけどシンちゃんをコレほどまでに愛せるのは私くらいだよ!?」
「それが余計なんだよ!
ビジネスライクに行かせてくれ!!」
「まぁまぁ。とにかく弟達もそろそろ来る頃だと思うんだけど ……」
シンタローを軽くなだめ、時計を見る。10時10分前。
うぅ……いやに緊張してきた。
きっと頑固オヤジに「娘さんを僕にください」と言う男は、みんなこんな心境なんだろう。
昼10時の5分前。
応接室には久しぶりに4兄弟がそろっていた。
正方形のテーブル4辺にそれぞれが座っている。
私の正面はルーザー。右側にサービス、左にハーレムだ。
「こうして4兄弟がそろうのは久しぶりだな。」
「僕と兄さんは会社でしょっちゅう顔をあわせてますけれど、
最近兄さん会社来ない日が多いですからね。」
ぎく。
実を言うとそのとおり。
会長ともなると会社に行ったところで用事があるわけではないのだ。
今までは上の者が会社にいないと示しが着かないということで、毎日ではないにしろ、小まめに行っていたのだが。
「みんな噂してますよ。『会長に女が出来た』って。」
それを聞いてハーレムが口を開いた。からかうような口調だ。
「なんだ兄貴老いらくの恋か?」
「するなら相手を選んでくれば私たちは何も言わないよ。興味ないし」
サービスに関してはセリフの最後がポイントだな。
しかしソコまで考えられているなら話は早い。
「ま、それに関しては当たりと言えずとも遠からず。」
「は?」
「あん?」
「どういうことですか?」
「シンちゃん。おいで」
それぞれ疑問詞をぶつけてくる弟達はひとまず置いて、私はパンパンと手を叩き、シンタローを呼んだ。
「……入るぞ」
シンタローの声が聞こえた時点で、ルーザーが眉をピクリと動かした。
扉が開いてシンタローの姿が除いた時点で、弟達全員が固まった。
弟達の硬直は、シンタローが私の隣に立ち、私が宣言すると同時に融けた。
つまり、
「というわけで、私の今現在の恋人。悪魔のシンタローだよv」
『ちょっと待てぇええええ!』
ハーレムと、何故かシンタローが声を上げる。
「なんだか突っ込みどころがいっぱいだったぞ今のセリフっつーかこの30秒!」
「誰がてめーの恋人だ!誰が!! 勝手に決めるんじゃねぇ!」
うんうん。やはりこの二人はなかなか気が合いそうだ。
ハーレムの行動は予想通り、あとの二人は……
ちらりとルーザーを見ると、ルーザーはじっとシンタローを見ていたが、やがて私に視線を戻して、
弟達を代表するように口を開いた。
「とりあえず、質問をまとめます。」
「あぁできる限り答えよう」
ちらりとサービスを見ると、彼は、じっとシンタローの顔を、ものめずらしそうに見つめていた。
「まず一つ目。兄さんは先ほど彼を悪魔だと言いましたが── ─」
3人の視線を受け、居心地悪そうに私の横に座るシンタローを見ながらルーザーが聞いてくる。
「本当ですか?」
「本当だよ。」
返答は最低限必要なものだけ。
「にわかには信じられません。」
「まだ兄貴がコスプレさせてるっつー方がしっくりくるな」
「兄さんもうボケたとか?」
サービス。一言多い。
まぁ無理もない。
だったら、論より証拠。
「シンタロー。ルーザーのところに行ってくれるかい?」
「あん?」
「ルーザー。なんだったら実際に触ってみればいい。尻尾でも羽でも角でも。」
「まぁそこまで言うのでしたら……。」
不安をわずかににじませて、シンタローがルーザーのところに行く。
ルーザーは眉間にしわを寄せ、ポンポンとシンタローの羽を軽く叩いたり、角に触れていたりしたが、
やがて何を考えたのかシンタローのズボンに手をかけ……ってちょっと
ぐいッ
「ぎゃわぁ!!?」
「ルーザーッ!?」
えーと……何というか……。
ルーザーがシンタローのズボンの後ろ側を引っ張って中を覗いた。
硬直する私と双子ズとシンタロー。
ただ一人、ルーザーだけがいつもと変わらない口調で
「なるほど。本当にはえてるか。」
そのセリフでなんとなく言いたい事はわかったが、体が動いてくれない。
「る……ルーザー?」
かろうじてそうとだけ口にすると、ルーザーはシンタローの背中をぽんと叩いて戻るよう促すと、とりあえず説明をしてくれた。
「ただのコスプレなら直接肌から尻尾が生えてるわけありませんからね。」
「せめて背中の羽で調べて欲しかった……」
がっくりと肩を落とす───間もくれず
「じゃ、具体的に何がどうしてこうなったのか、説明してもらいましょうか。」
ルーザーの目が光った……ような気がした。
と言うことで説明。
骨董品店で偶然見つけた「悪魔呼び出しセット」におまけで「悪魔の力を封じる首輪」をつけてもらった事。
コレを聞いてサービスが「兄さん、よっぽど暇だったんですね」と哀れみの視線を投げかけてきた。
呼び出した悪魔が私の好みストライクゾーンで、あっという間に一目惚れした上に早速食べた事。
コレを聞いてハーレムが「ゲテモノ食い」と酷い事を言った。
翌日首輪をつけて、さらに数週間後家中に札を貼ってシンタローを閉じ込めたということ。
コレを聞いてルーザーは「つまり、商人のサービス精神に負けたんですね」とシンタローが結構気にしている事を言った。
「───で」
とりあえず、突っ込まれまくったが、一通りの説明はし終えた。
3人ともまだ半信半疑だったが、シンタローの背後でゆらゆら揺れている羽を見て、少なくともシンタローが人間外の何かだというのは理解してくれたらしい。
さて、ココからが一番大事なところだ。
「私はシンタローを愛しているし、これからもそばにいてもらいたいと思う。
3人ともそれで異論はないな? あってもどうしようもないけど。心ばっかりは本人でもどうしようもないからね。」
「まぁ……」
「兄貴がそれでいいって言うのなら……。」
「別にいいと思う。 どうでも」
「ちょっと待て。一番大事な事を忘れてるぞアンタら。」
最後の反論は……シンタローからだった。
「シンタロー? どうかしたのかい? 一番大事な事って?」
横に座っているシンタローに視線を投げる。
彼は憮然とした表情で。
「俺は、自分の意思とは別にココにいるって事だ」
『あ。』
「確かに、俺はコイツに『3つの願いをかなえる』って言ったぞ。
けどな、常識の範囲っつーモンがあるだろ?
第一マジックは俺の事を愛しているだのなんだのっつったけど、
力封じ込められてこの家に閉じ込められて……これじゃぁ飼われてるだけだろ?
それに、よくわからねーけどあんたら大企業の重役なんだろ。
そんなのが悪魔飼ってるなんて、笑い話……
どころか、大衆に知られたら頭がどうにかなったって思われるだけだし、
俺がここにいるメリットはこの男が俺に興味を持ってるって事以外に全くない上に、
デメリットやリスクの方が多いだろ?」
そのたった一つのメリットが大きいんじゃないか。
そう言おうと口を開いたら、先にルーザーの方が話してきた。
「なるほど。確かに君の言いたい事もわかる」
「だろ?」
「だからこそ兄さんにはがんばってもらわないと。」
「あん?」
上のセリフはハーレムだ。
「いいかい?
もし今君を放したら、兄さんに危害を加えかねないだろう? 」
「誰がわざわざ───」
信用されて無い事にイラついたのか、シンタローが反論しようとするが、ルーザーはそれをさえぎって続ける。
「それに、兄さんが上手く君を落としたら、君の力を使って色々出来そうじゃないか?」
「色々って……何させる気だ兄貴。」
何させる気だルーザー。
ハーレムの白い視線がルーザーに向くが、気にした様子もない。
「わかったかい?
つまり、君が兄さんに対して敵意を持っているのなら、そのまま捕まっている方が私たちには安全なんだよ。
逆に言えば、兄さんの努力が実れば、有益だって事だ。」
「みのらねーと思うけどな。」
うう……シンちゃんったらそんな冷たい声で。
「ま、兄貴の老後の趣味ってヤツだな。年寄りの趣味を潰す気はねーよ」
ハーレム、いちいちうるさい。大体私だってまだまだ若いよ。特にシンタロー相手なら20は若返られるんだ。
「それに冷静に考えてみれば兄さん昔っから黒髪長髪に弱かったし。」
サービスの言う通り。わかってるね我が弟。
「じゃ、この件はこれで終わりだ。
シンタロー。弟達の承認も得たし、明日っからまた熱々のお似合いカップルで行こうねv」
「熱々なのはアンタの頭だ……」
こんなはずじゃ……とつぶやくシンタローを無視して、私たちの話題はビジネスに移っていった。
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「はぁ!? 弟が来る!!!?
なんだそりゃきーてねーぞ俺は!!!」
「今朝ちゃんと言ったじゃないか。」
「今朝って……いつだよ!」
「君が起きてすぐ。」
「覚えてるかぁああ!!」
今身につけている服がまだ作成途中で、待ち針も数本刺さったままだというのに、
俺はマジックにつかみかかった。
なんでも「弟たちに会わせるんだから、おめかししなきゃねー」と言う事だが……。
俺が着る服はけっこう特殊だ。
というか人間界の一般的な服屋には「羽を出すための穴が開いた服」なんてものは売っていない。
当然オーダーメイドになるわけだが、羽と角と尻尾が生えた客をどこにつれてけというのか。
マジックの趣味も合って、俺の服はほとんどがマジックの手製となっていた。残りは家政婦のばぁちゃんだ。
それにしても器用な男だなまったく。
「大体、アンタの弟どもが俺を受け入れてくれるわけねーだろ」
「受け入れて欲しいのかい?」
「だれがだ!!」
反射的に言い返すが、考えてみればマジックの言うとおりだ。
弟達の前でめちゃくちゃやって、そいつらに俺を帰すよう説得させればいいんだな。
「ね、別にいいだろう? それに、君と私とのラブラブッぷりに当てられれば、彼らにも良い刺激になると思うんだ。」
……ラブラブ……っておい。
マジックの家族構成は秘石から聞いていた。
両親と奥さんは他界。弟が3人いて……名前は忘れた。
下の二人が双子だっつったてな。
「じゃぁシンちゃん。明日弟達に会ってくれるね?」
「しかたねーな。言っておくが、アンタが弟達から白い目で見られても俺の所為じゃねーぞ。」
「大丈夫。あの子達ならきっと受け入れてくれると思うんだよね」
……ずいぶんと信頼してらっしゃる事で。
シンタローに大体の説明はする。
長男は私で、次男がルーザー。
ガンマコンツェルンの核、ガンマカンパニーの社長(私は会長)を勤めている。
次にハーレムとサービス。
この二人が双子……2卵生の双子で、ガンマコンツェルン内のどの組織に属しているわけではなく、
半ばゲリラ的にうろちょろして、(表裏に限らず)組織内の危 険分子を探っている。
「どちらにしろ、会ってみなくちゃなんとも言えないだろうね。
全員アクの強い性格してるからねぇ。」
「その最たる者が何を言う。」
失礼な。私はまともだよ。
「で、俺はなんて自己紹介すればいいんだよ」
「え。そりゃもちろん……」
「「あんたの好奇心で呼び出された挙句につかまって、尚且つしっかり食われた下級悪魔」とでも?」
「シンちゃんまだ怒ってる?」
「当たり前だ!!」
「体だって何度もあわせてるんだから、いい加減懐いてくれてもいいのに。」
「だぁれが懐くか!!」
「私はシンちゃんの事こんなに愛してるのになぁ……」
ほふぅとため息をつく私を無視し、シンタローは私が渡した写真に目を落とした。
4人の男が男が写っている。
一人は当然私。その右に立っているのがルーザー。
「見た感じ優男風だけど……本当にアンタの弟か?
全員似てないぞ」
「全員似ていない云々はさておき、
言っておくけどルーザーは私よりもきつい性格だからね。色々と」
どんなだ。
私の左に立っているのは双子の片割れ。
「この子がハーレム。シンちゃんとは良いケンカ友達になれそうだね。」
「ケンカ友達って……」
「で、ルーザーの隣にいるのが……
ってなんでシンちゃん見とれてるんだい!!?」
「い、いや、きれいな顔だと思って。」
「むーシンちゃん実は面食い?」
「いや、違うけどさ……」
じと目で見ると、シンタローは何故か視線を逸らしながら、
「ただどうせ捕まるなら……」
「捕まるなら!?」
「……ってアンタに比べりゃ誰でもましになるわぁあ!」
「失礼な。言っておくけどシンちゃんをコレほどまでに愛せるのは私くらいだよ!?」
「それが余計なんだよ!
ビジネスライクに行かせてくれ!!」
「まぁまぁ。とにかく弟達もそろそろ来る頃だと思うんだけど ……」
シンタローを軽くなだめ、時計を見る。10時10分前。
うぅ……いやに緊張してきた。
きっと頑固オヤジに「娘さんを僕にください」と言う男は、みんなこんな心境なんだろう。
昼10時の5分前。
応接室には久しぶりに4兄弟がそろっていた。
正方形のテーブル4辺にそれぞれが座っている。
私の正面はルーザー。右側にサービス、左にハーレムだ。
「こうして4兄弟がそろうのは久しぶりだな。」
「僕と兄さんは会社でしょっちゅう顔をあわせてますけれど、
最近兄さん会社来ない日が多いですからね。」
ぎく。
実を言うとそのとおり。
会長ともなると会社に行ったところで用事があるわけではないのだ。
今までは上の者が会社にいないと示しが着かないということで、毎日ではないにしろ、小まめに行っていたのだが。
「みんな噂してますよ。『会長に女が出来た』って。」
それを聞いてハーレムが口を開いた。からかうような口調だ。
「なんだ兄貴老いらくの恋か?」
「するなら相手を選んでくれば私たちは何も言わないよ。興味ないし」
サービスに関してはセリフの最後がポイントだな。
しかしソコまで考えられているなら話は早い。
「ま、それに関しては当たりと言えずとも遠からず。」
「は?」
「あん?」
「どういうことですか?」
「シンちゃん。おいで」
それぞれ疑問詞をぶつけてくる弟達はひとまず置いて、私はパンパンと手を叩き、シンタローを呼んだ。
「……入るぞ」
シンタローの声が聞こえた時点で、ルーザーが眉をピクリと動かした。
扉が開いてシンタローの姿が除いた時点で、弟達全員が固まった。
弟達の硬直は、シンタローが私の隣に立ち、私が宣言すると同時に融けた。
つまり、
「というわけで、私の今現在の恋人。悪魔のシンタローだよv」
『ちょっと待てぇええええ!』
ハーレムと、何故かシンタローが声を上げる。
「なんだか突っ込みどころがいっぱいだったぞ今のセリフっつーかこの30秒!」
「誰がてめーの恋人だ!誰が!! 勝手に決めるんじゃねぇ!」
うんうん。やはりこの二人はなかなか気が合いそうだ。
ハーレムの行動は予想通り、あとの二人は……
ちらりとルーザーを見ると、ルーザーはじっとシンタローを見ていたが、やがて私に視線を戻して、
弟達を代表するように口を開いた。
「とりあえず、質問をまとめます。」
「あぁできる限り答えよう」
ちらりとサービスを見ると、彼は、じっとシンタローの顔を、ものめずらしそうに見つめていた。
「まず一つ目。兄さんは先ほど彼を悪魔だと言いましたが── ─」
3人の視線を受け、居心地悪そうに私の横に座るシンタローを見ながらルーザーが聞いてくる。
「本当ですか?」
「本当だよ。」
返答は最低限必要なものだけ。
「にわかには信じられません。」
「まだ兄貴がコスプレさせてるっつー方がしっくりくるな」
「兄さんもうボケたとか?」
サービス。一言多い。
まぁ無理もない。
だったら、論より証拠。
「シンタロー。ルーザーのところに行ってくれるかい?」
「あん?」
「ルーザー。なんだったら実際に触ってみればいい。尻尾でも羽でも角でも。」
「まぁそこまで言うのでしたら……。」
不安をわずかににじませて、シンタローがルーザーのところに行く。
ルーザーは眉間にしわを寄せ、ポンポンとシンタローの羽を軽く叩いたり、角に触れていたりしたが、
やがて何を考えたのかシンタローのズボンに手をかけ……ってちょっと
ぐいッ
「ぎゃわぁ!!?」
「ルーザーッ!?」
えーと……何というか……。
ルーザーがシンタローのズボンの後ろ側を引っ張って中を覗いた。
硬直する私と双子ズとシンタロー。
ただ一人、ルーザーだけがいつもと変わらない口調で
「なるほど。本当にはえてるか。」
そのセリフでなんとなく言いたい事はわかったが、体が動いてくれない。
「る……ルーザー?」
かろうじてそうとだけ口にすると、ルーザーはシンタローの背中をぽんと叩いて戻るよう促すと、とりあえず説明をしてくれた。
「ただのコスプレなら直接肌から尻尾が生えてるわけありませんからね。」
「せめて背中の羽で調べて欲しかった……」
がっくりと肩を落とす───間もくれず
「じゃ、具体的に何がどうしてこうなったのか、説明してもらいましょうか。」
ルーザーの目が光った……ような気がした。
と言うことで説明。
骨董品店で偶然見つけた「悪魔呼び出しセット」におまけで「悪魔の力を封じる首輪」をつけてもらった事。
コレを聞いてサービスが「兄さん、よっぽど暇だったんですね」と哀れみの視線を投げかけてきた。
呼び出した悪魔が私の好みストライクゾーンで、あっという間に一目惚れした上に早速食べた事。
コレを聞いてハーレムが「ゲテモノ食い」と酷い事を言った。
翌日首輪をつけて、さらに数週間後家中に札を貼ってシンタローを閉じ込めたということ。
コレを聞いてルーザーは「つまり、商人のサービス精神に負けたんですね」とシンタローが結構気にしている事を言った。
「───で」
とりあえず、突っ込まれまくったが、一通りの説明はし終えた。
3人ともまだ半信半疑だったが、シンタローの背後でゆらゆら揺れている羽を見て、少なくともシンタローが人間外の何かだというのは理解してくれたらしい。
さて、ココからが一番大事なところだ。
「私はシンタローを愛しているし、これからもそばにいてもらいたいと思う。
3人ともそれで異論はないな? あってもどうしようもないけど。心ばっかりは本人でもどうしようもないからね。」
「まぁ……」
「兄貴がそれでいいって言うのなら……。」
「別にいいと思う。 どうでも」
「ちょっと待て。一番大事な事を忘れてるぞアンタら。」
最後の反論は……シンタローからだった。
「シンタロー? どうかしたのかい? 一番大事な事って?」
横に座っているシンタローに視線を投げる。
彼は憮然とした表情で。
「俺は、自分の意思とは別にココにいるって事だ」
『あ。』
「確かに、俺はコイツに『3つの願いをかなえる』って言ったぞ。
けどな、常識の範囲っつーモンがあるだろ?
第一マジックは俺の事を愛しているだのなんだのっつったけど、
力封じ込められてこの家に閉じ込められて……これじゃぁ飼われてるだけだろ?
それに、よくわからねーけどあんたら大企業の重役なんだろ。
そんなのが悪魔飼ってるなんて、笑い話……
どころか、大衆に知られたら頭がどうにかなったって思われるだけだし、
俺がここにいるメリットはこの男が俺に興味を持ってるって事以外に全くない上に、
デメリットやリスクの方が多いだろ?」
そのたった一つのメリットが大きいんじゃないか。
そう言おうと口を開いたら、先にルーザーの方が話してきた。
「なるほど。確かに君の言いたい事もわかる」
「だろ?」
「だからこそ兄さんにはがんばってもらわないと。」
「あん?」
上のセリフはハーレムだ。
「いいかい?
もし今君を放したら、兄さんに危害を加えかねないだろう? 」
「誰がわざわざ───」
信用されて無い事にイラついたのか、シンタローが反論しようとするが、ルーザーはそれをさえぎって続ける。
「それに、兄さんが上手く君を落としたら、君の力を使って色々出来そうじゃないか?」
「色々って……何させる気だ兄貴。」
何させる気だルーザー。
ハーレムの白い視線がルーザーに向くが、気にした様子もない。
「わかったかい?
つまり、君が兄さんに対して敵意を持っているのなら、そのまま捕まっている方が私たちには安全なんだよ。
逆に言えば、兄さんの努力が実れば、有益だって事だ。」
「みのらねーと思うけどな。」
うう……シンちゃんったらそんな冷たい声で。
「ま、兄貴の老後の趣味ってヤツだな。年寄りの趣味を潰す気はねーよ」
ハーレム、いちいちうるさい。大体私だってまだまだ若いよ。特にシンタロー相手なら20は若返られるんだ。
「それに冷静に考えてみれば兄さん昔っから黒髪長髪に弱かったし。」
サービスの言う通り。わかってるね我が弟。
「じゃ、この件はこれで終わりだ。
シンタロー。弟達の承認も得たし、明日っからまた熱々のお似合いカップルで行こうねv」
「熱々なのはアンタの頭だ……」
こんなはずじゃ……とつぶやくシンタローを無視して、私たちの話題はビジネスに移っていった。
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帰宅途中のサラリーマンが多いこの時間帯。
私の姿は完全に彼らの中に紛れていた。
しかし、もしも今不審尋問で引っかかったらヤバイだろう。
血にまみれたシャツが丸めてスーツケースの中に収まっているのだから。
私とすれ違うサラリーマンや、せかせかとした足取りで私を追い越していくOL達。
まさか私がすぐそこの路地裏で人を殺してきたとは思ってもいないだろう。
物的証拠は残していないし、通り魔のように見せかけたし。
それにしても、今日の仕事はずいぶんと手間取ったな。
まったく往生際の悪い。第一私が自分を裏切った人間を許す訳ないだろう。
長く仕えていたが、どうやら理解できなかったようだ。
裏切りや搾取がゴロゴロしているこの業界。
今回私が直接手を下したのは、今まで特別に目をかけていた男。
私の自宅にも何度か招いたこともある。
その男が、裏切ってとある組織にこっちの情報を渡そうとしていた。
別にそれに関しては、未然に防げたし、
これから後釜を探すのが大変だが、ちょうどいいのがいる。
チョコレートロマンスとティラミスという男たちだが、彼らもずいぶん長いし、忠誠心もある。
完全に信じきるわけではないが、あの男の後には丁度いいだろう。
それでも私がイライラしている理由は、あの男が裏切った原因が……
「死んだじいちゃんが夢枕に立って、
敵対組織の女幹部に惚れたからそっちにつけと涙ながらに訴えてきた」
聞いた瞬間、私の耳とか、男の神経とか、じいちゃんの夢枕とか……色んな物を疑った。
まったく最近の若い者は……。
とにかく、こんな夜はさっさと家に帰るに限る。
うちでは可愛い可愛い悪魔が私を待っているんだ。
昨日は散々可愛がりすぎたから、さすがに今日はつらいだろう。
することをしなくても、抱きしめて寝るだけでもいい。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「あぁただいま。シンタローは?」
「もうお部屋でお休みになってらっしゃいます。」
「食事は?」
「全て召し上がりました。」
父の代から勤めている家政婦だが、私がいない間のシンタローの世話も彼女に任せている。
全ての事情を……私がシンタローに惚れた事も加えて───話したが、あっさり受け入れてくれた。
芯が太いというか強いというか……。
ちなみに、本当の事を話したのは流石に数名の信頼できる使用人だけだ。
それ以外の者には「私が無理矢理悪魔のコスプレをさせてる拾った青年。」という事になっている。
明らかにどうかしている内容だが話したら皆あっさり信じてくれた。
なんだか複雑だ。
まだ3人の弟達には話していない。
電話やメールで気軽に話せる内容でもないし、3人とも忙しくて中々ここにこないからだ。
それはともかく、寝ているのなら仕方ない、私も食事は済ませてきたし、
「旦那様お休みになりますか?」
「そうだな。先にシャワーを浴びてから……。」
「わかりました。ではパジャマを出しておきます。」
「あぁ。頼んだ。」
シャワーを軽く浴びて汗を流す。
邪魔にならない程度にオーデコロンを体につけ、身だしなみを整えて……、
いざ二人の愛の巣へ……v
ドアノブを握る手に異常に力が込められる。
いろいろな理由により冷え切ったカラダをシンちゃんの体で暖めてもらおう!
「───寒ッツ!」
部屋に入ると、妙に……というか恐ろしく寒い。
クーラーの人工的な寒さに慌ててパネルを見ると……20度!
こんなんじゃシンちゃん風引いちゃうよ。
私は設定温度を上げて、急いでベッドに向かった。
ベッドでは体をこちらに向けてスヤスヤと眠る悪魔の姿。ちょっと腕を握ってみる。
ほら、シンちゃんもだいぶ体が冷えているじゃないか。
その上(私の趣味で作って着せた)薄い布地のパジャマだし、
お腹の上に軽く一枚かけているだけだし……。
やれやれ。
私はシンちゃんを抱きしめるようにしてベッドに横になった。
───ぎゅっ。
ん?
妙な感触に目を開く。
腕の中でシンちゃんは……
私のパジャマの胸の辺りを握り締め、頬を摺り寄せるようにして体を押し付けてきた。
えーとえーとえーと。
誘ってますか?
───ってちがう!!
相当寒かったのだろう、ぴとっと体を密着させ、私にすがり付く様は犯罪レベルの可愛さだ。
足を絡め背中に回った腕に力を込め、シンタローの体を暖めるように抱きすくめた。
「───んぅ……」
ポツリとシンタローの唇から息が漏れる。
くぅう……なんて可愛いんださすが私のシンタロー!!
あぁ……カメラを取りに行きたいけど起き上がったら絶対シンちゃんも起きちゃう……。
せめて網膜に焼き付けてやろうと、シンタローの寝顔をしばらく堪能したのだった。
翌日。
「ぎゃあああぁぁああああ!!!
なんでてめーがココにいやがる!! じゃなくて何抱きついてやがんだテメーは!!」
「んー……もーちょっと寝かせてくれないか。できれば2・3時間。」
「仕事行け仕事!! 2・3時間ってなんだ! その前に事情を説明しろ!」
「事情って……昨日はシンちゃんのほうからも抱きついてきたんだし。」
「うそだぁああああ!!」
「本当だよ。 相当クーラー効いてたよ? 体ヒエヒエだったじゃないか。」
「な……っ!」
「ということでなるべくクーラーの設定には気をつけるんだよ?」
戻る
私の姿は完全に彼らの中に紛れていた。
しかし、もしも今不審尋問で引っかかったらヤバイだろう。
血にまみれたシャツが丸めてスーツケースの中に収まっているのだから。
私とすれ違うサラリーマンや、せかせかとした足取りで私を追い越していくOL達。
まさか私がすぐそこの路地裏で人を殺してきたとは思ってもいないだろう。
物的証拠は残していないし、通り魔のように見せかけたし。
それにしても、今日の仕事はずいぶんと手間取ったな。
まったく往生際の悪い。第一私が自分を裏切った人間を許す訳ないだろう。
長く仕えていたが、どうやら理解できなかったようだ。
裏切りや搾取がゴロゴロしているこの業界。
今回私が直接手を下したのは、今まで特別に目をかけていた男。
私の自宅にも何度か招いたこともある。
その男が、裏切ってとある組織にこっちの情報を渡そうとしていた。
別にそれに関しては、未然に防げたし、
これから後釜を探すのが大変だが、ちょうどいいのがいる。
チョコレートロマンスとティラミスという男たちだが、彼らもずいぶん長いし、忠誠心もある。
完全に信じきるわけではないが、あの男の後には丁度いいだろう。
それでも私がイライラしている理由は、あの男が裏切った原因が……
「死んだじいちゃんが夢枕に立って、
敵対組織の女幹部に惚れたからそっちにつけと涙ながらに訴えてきた」
聞いた瞬間、私の耳とか、男の神経とか、じいちゃんの夢枕とか……色んな物を疑った。
まったく最近の若い者は……。
とにかく、こんな夜はさっさと家に帰るに限る。
うちでは可愛い可愛い悪魔が私を待っているんだ。
昨日は散々可愛がりすぎたから、さすがに今日はつらいだろう。
することをしなくても、抱きしめて寝るだけでもいい。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「あぁただいま。シンタローは?」
「もうお部屋でお休みになってらっしゃいます。」
「食事は?」
「全て召し上がりました。」
父の代から勤めている家政婦だが、私がいない間のシンタローの世話も彼女に任せている。
全ての事情を……私がシンタローに惚れた事も加えて───話したが、あっさり受け入れてくれた。
芯が太いというか強いというか……。
ちなみに、本当の事を話したのは流石に数名の信頼できる使用人だけだ。
それ以外の者には「私が無理矢理悪魔のコスプレをさせてる拾った青年。」という事になっている。
明らかにどうかしている内容だが話したら皆あっさり信じてくれた。
なんだか複雑だ。
まだ3人の弟達には話していない。
電話やメールで気軽に話せる内容でもないし、3人とも忙しくて中々ここにこないからだ。
それはともかく、寝ているのなら仕方ない、私も食事は済ませてきたし、
「旦那様お休みになりますか?」
「そうだな。先にシャワーを浴びてから……。」
「わかりました。ではパジャマを出しておきます。」
「あぁ。頼んだ。」
シャワーを軽く浴びて汗を流す。
邪魔にならない程度にオーデコロンを体につけ、身だしなみを整えて……、
いざ二人の愛の巣へ……v
ドアノブを握る手に異常に力が込められる。
いろいろな理由により冷え切ったカラダをシンちゃんの体で暖めてもらおう!
「───寒ッツ!」
部屋に入ると、妙に……というか恐ろしく寒い。
クーラーの人工的な寒さに慌ててパネルを見ると……20度!
こんなんじゃシンちゃん風引いちゃうよ。
私は設定温度を上げて、急いでベッドに向かった。
ベッドでは体をこちらに向けてスヤスヤと眠る悪魔の姿。ちょっと腕を握ってみる。
ほら、シンちゃんもだいぶ体が冷えているじゃないか。
その上(私の趣味で作って着せた)薄い布地のパジャマだし、
お腹の上に軽く一枚かけているだけだし……。
やれやれ。
私はシンちゃんを抱きしめるようにしてベッドに横になった。
───ぎゅっ。
ん?
妙な感触に目を開く。
腕の中でシンちゃんは……
私のパジャマの胸の辺りを握り締め、頬を摺り寄せるようにして体を押し付けてきた。
えーとえーとえーと。
誘ってますか?
───ってちがう!!
相当寒かったのだろう、ぴとっと体を密着させ、私にすがり付く様は犯罪レベルの可愛さだ。
足を絡め背中に回った腕に力を込め、シンタローの体を暖めるように抱きすくめた。
「───んぅ……」
ポツリとシンタローの唇から息が漏れる。
くぅう……なんて可愛いんださすが私のシンタロー!!
あぁ……カメラを取りに行きたいけど起き上がったら絶対シンちゃんも起きちゃう……。
せめて網膜に焼き付けてやろうと、シンタローの寝顔をしばらく堪能したのだった。
翌日。
「ぎゃあああぁぁああああ!!!
なんでてめーがココにいやがる!! じゃなくて何抱きついてやがんだテメーは!!」
「んー……もーちょっと寝かせてくれないか。できれば2・3時間。」
「仕事行け仕事!! 2・3時間ってなんだ! その前に事情を説明しろ!」
「事情って……昨日はシンちゃんのほうからも抱きついてきたんだし。」
「うそだぁああああ!!」
「本当だよ。 相当クーラー効いてたよ? 体ヒエヒエだったじゃないか。」
「な……っ!」
「ということでなるべくクーラーの設定には気をつけるんだよ?」
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真黒な闇を抜けると、そこは純白の世界だった。
「ごほっごほっ!!
なんだこりゃぁああ!!!??
───げふっ!!」
煙い! 何だこの煙!!!
目に来る喉にも来る!
俺は慌てて辺りを見回した。
と、赤いランプが視界に入る。
俺は迷わずそっちへダッシュ!
案の定扉発見!!
ドアノブに手をかけ───
がちぃっ
「なんでカギがぁああああ!!!???」
ぷちパニックに陥って思わず叫ぶ。
目が……目が痛い!
こうなったら壁ごと一気に……
精神を集中させ、壁が吹っ飛ぶシーンを思い描く。
───せーの
ガチャっ
「………………………………」
「………………………………」
って固まってる場合じゃねェ!!
召還者が開いたドアをくぐり(その時羽をぶつけたが)、
背後で扉が閉められる音を聞きながら空気をいっぱいに吸う。
「っはーぁ……死ぬかと思った。」
「悪かったねェ。まさかあんなに煙が出るなんて思わなかったんだ。」
……そうだ。コイツ……召還者だっけ。
色々言いたい事はある。言わなきゃいけない事もある。だがとりあえず。
俺はぐわしっとむなぐらをつかんで顔を引き寄せた。
畜生背で負けてる。
「てめぇ俺を薫製にする気か。」
「うーん、悪魔の薫製か。人魚の干物なら聞いた事あるけど。」
「本にしっかり 『物によって大量の煙が出るので、風通しのよい広い場所で行ってください。
場合によっては命にかかわります』って書いてあったろ!!」
「読んでない。むしろ読めない。」
「えぇい悪魔を呼ぶときは責任を持って最後までやり遂げろ!!」
「まぁまぁ。とりあえずこんなところで立ち話もなんだし、私の部屋に来ないかい?」
「……そうさせてもらう」
何だこの妙にマイペースな男は。
大体どんな経緯があって俺を呼んだんだかしらねーけど
本物が出たんならもうちょっと慌てるとか驚くとか……
赤じゅうたんの敷き詰められた廊下を歩きながら、俺は召還者の案内でだだっ広い屋敷の中を歩いていった。
「はい。どうぞ」
「どーも」
ひとつのドアの前で立ち止まる。
召還者にドアを開けてもらい、俺はさっさと中に入っていく。
広いな……。いや、廊下や隣室のドアの間隔からしてこのくらいとは予想してたが。
「適当なところに座っていいよ」
「んじゃお言葉に甘えて」
きれいにシーツがかけられたベッドの上に乱暴に腰を下ろす。
しっかし真赤なシーツとは……いや、この男には妙に似合うぞ。
「で、いまさら聞くまでもねーけど、俺を呼んだのはあんただな。」
「あぁ。」
「でもって一応説明させてもらうぜ。
俺はあんたの願いを3つ叶えてやる。
その代わり、あんたが死んだ暁には、あんたの魂は俺のもの。
単純だろ?」
指で3を作り目の前ににょっと持ってくる。
召還者はそれを見ながら当然の質問をしてきた。
「私の魂? 一体何に使うんだい?」
うんうん。よくある質問だ。
が、これに答えると、まず契約をしてもらえないので適当にごまかす。
「あんた自分がデパートで買い物したとき店員に『私が支払ったそのお金で何を買いますか?』とか聞くか?」
「……イヤあんまし……」
「それと同じコトだ。聞いたとしてもどうしようもないし、何よりそんな立ち入ったことまで聞くのは失礼だろ?」
「そういうものかな」
そういうものにしておいてくれ。
「で、どうする?」
にやりと挑発するように笑うと、対して召還者はにっこりと邪気の無い笑みを浮かべた後、俺の横に座り
「ちなみに君名前は?」
「……何でだ?」
「君らの中ではどうか知らないが、私たちの間だと、個人を示す指標が無いというのは生活しづらいものなんだよ。
なにより、折角3つ願いを叶えてくれると言うのに、『君』や『あんた』じゃ他人行儀だろう?」
「……そういうものか……?」
って言うか契約で縛られる相手同士仲良くなってもなぁ。
ま、別に教えたところで問題ないし。
「オレはシンタロー。好きなように呼べばいい。
アンタは?」
知っているとはいえ、ここは聞いておくのが礼儀だろう。なんとなく。
「マジック。」
「じゃぁ……マジックさんよ。3つの願い、一つ目は何だ?」
続く
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3つの願いは何だ?
そう聞くとマジックは口に手を当てて考える動作をした。
何年かこーゆー仕事をしているが、大体このあと2パターンある。
すぐに願いを言ってくる者
しばらく考えさせてほしいと言う者
前者の場合、何かに追われていてそれから逃げ出す(あるいは解決する)方法として俺たちを呼ぶ。
後者の場合、ノリと勢いとネタで呼び出そうとして、何故か成功してしまったパターン。
まぁこの男もこうやって考える所を見ると……
───ゾク
……なんか……なんか視線が……妙だぞコイツ。
い、いや、呼ばれた人間にじろじろ見られるくらい慣れている。
全身黒尽くめで、髪も長髪の上に黒髪。
耳がとがっていたり、ヤギに似ている角が生えていたり、
そして羽が生えていたり……物珍しいのはわかるが……。
が、なんだか……変だ。
その視線にただならぬものを感じ、俺は振り切るように注意事項を口にした。
「先に行っておくけど、永遠の命とか、叶えてくれる願いの数を増やせとかそういうのは無理だからな。
常識的に考えてくれ。」
大丈夫だよな。たぶん。相手はただの人間だ。
俺に対して何か出来る訳が無い。
でも何だこの妙な不安は……。
背筋がぞくぞくするような不吉な予感は。
「そ、それと、あまりにもデカイ願いも無理だな。
といっても別に俺の力が弱いわけじゃねーぞ。
たとえば……「世界を平和にしてくれ」とかだな。」
さらに普段は自分の限界を示すようで召還者が言わない限りは説明しない事まで言っていた。
その間も召還者は生返事で俺のほうを見つめている。
「───まだちゃんと固まってないってんなら、オレは一度消えるぞ。
決まったら名前でも呼んでくれりゃすぐ現れる。」
ついに痺れを切らして俺はそういった。
別にすぐここで願いを言えとは決まっていない。
そのほうが時間の短縮になるだけだ。
「あ、いや。それには及ばないよ。
たった今思いついたから。」
だったらはよ言わんかい。
───とは言わない。
「そうか。で、なんだ?」
ほっとしたのを悟られないよう、なるべく冷静を装って会話を続ける。
さて、表でも裏でも、まず不自由しない男が何を願うのか。
がっし。
ん?
両肩に召還者の手が置かれる。
予想外の行動に思考が着いていかなかった。
「じゃ、とりあえず君をもらおうかな」
「あん?
───うわっ!?」
何だ?と思っているとぐいっと後ろに押される。
俺は反射的に両肘を後ろにつき、背中から倒れるのを防いだ。
仰向けになったとき、胴体の重さが直接羽に来るから、落下感との恐怖とは別に反射的にこうなるのだ。
つまり、俺の両腕はある意味ふさがったも同然で、
頬を包む温かい両手や、唇に触れる柔らかいそれを防ぐ手段は……。
ぅちぅうううううううう~~~~~っっ!!
「───~~~~ッッッッツ!!!」
って悠著に説明している場合じゃねェ!!
さ……酸素が…………ッ!
さーんーそーがぁあああ!!
「───ッぷはぁッッツ!!」
「ふぅv」
ぜぇぜぇと肩で息をする俺とは対照的に、召還者……マジックは満ち足りた笑顔で次の行動に移した。
顔をそのまま俺の首筋に……っておい。
「ちょっと待てぇええええええ!」
「クーリングオフ・キャンセルは受け付けないよv」
それは注文者の権利だぁああ!
いやそうではなく、
「ひっ……やめろっっ!
そもそもまだ了承してねぇええええ!!!
───くぅんっ」
「君のこの反応がすでに返事だよ。
ということで早速───」
「ぃぎゃぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
暗転
「う……くぅ…………」
俺はカーテンの隙間から漏れる日の光で目を覚ました。
……日の光?
あれ……?
なんで日光なんかが……。
キンタロー達はもう起きたのか?
今日の朝食は誰の当番だったっけ……。
がしがしと頭をかいてやけにだるい上半身を起こした。
……ついでに下半身も妙に痛い。
なんか変な病気にでも……。
部屋を見渡し日光の原因を探……
「どこだここは」
キングサイズのベッドに真っ赤なシーツ。
どでかい部屋にはこれまたどでかい家具が所狭しと……いや、余裕たっぷりで並んでいる。
「───くしっ!」
なんだか妙に肌寒い。
俺は両腕を暖めるように抱えて……
「あん?」
そこで自分が何にも着ていないという事に気づいた。
「なんでだぁあああ!!!??」
バサっとかぶっていたシーツを剥がす。
感触からして想像ついていたが、下も何にも……下着すら身に着けていなかった。
代わりに……代わりといっていいものか、ところどころ発疹のような赤い点々が……。
「─────ッッッツ!?」
思い出した……。思い出した!!!
俺は昨日……っいや、今日未明まで…………。
あんな事やこんな事を……!!
「のぁあああぁぁぁぁああぁあああああっっ!!!?」
思わず頭を抱えて絶叫!
嫌だ……誰か嘘だと言ってくれ!!
中級悪魔ではキンタローと1・2を争ってるこの俺様が!!
あんな……あんな人間なんかに……!!
「さっきすごい悲鳴が聞こえたけど……どうしたんだい?」
ガチャリと部屋のドアが開く音がして、声と同時にふわりとホットミルクの匂いが漂う。
それとこの香りはハムエッグと見た。
が、その芳しい朝食も、感情が荒立っている俺には何の意味も成さない。
「てんめぇええええ……」
髪をひとふさ口に銜え(叫んだ時に入ってきたのだ)、ギギィイイっと軋むような効果音を立てて、殊更ゆっくりとドアを見る。
「やぁおはようv」
にっこりと笑ったその笑顔が憎い。
俺は迷わずためらわず躊躇せず、右手を突き出し神経を集中させ
───手のひらに光球が生まれる
…………はずだった。
「ら?」
怒りやその他色々な感情が集中力を掻き乱したのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
今まで怒りに任せて力を使うのはしょっちゅうだったからだ。
が、イメージがわいても具現化できない。
いったい何がおきたのかと、いや、なぜ何にもおきないのだと混乱していると
すぐ前から声がした。
「どうかしたのかな?」
あ、忘れてた。
「てめぇ……一体何しやがった。」
理由はわからないが、原因はコイツなような気がする。
目の前にある顔をにらみつけ、それ以上近づいてこないよう牽制する。
マジックは軽く肩をすくめて身を引き、手に持っていた食事を机の上におくと、黙って親指で自分の首を指差した。
───首?
そういえばさっきから妙な違和感が。
なんか、変なのが当たっている感触───。
「……なんだこりゃ?」
手触りは皮で、時折触れる冷たいのは金属だろう、それが首の周りを一周。
い、いや、その時点でなにが触れているのかはわかる。
わかるが、わかりたくない。
「ほら、見てごらん?」
ご丁寧にマジックは俺の前に鏡を持ってきた。
上半身が写るくらいの大きさで、形は楕円形、ふちを複雑な飾りの金細工が飾っている。
その中心には俺。
下半身はシーツで隠れているが、むき出しの上半身は見事に赤いアトだらけだ。
そして首には真っ赤な首輪。
まさか……これが?
視線だけでマジックに問うと、マジックは大きくうなずいて説明した。
昨日、ちょっとした気まぐれで骨董品店に行った事。
店では【悪魔召還セット】なるものが売られていたという事。
それを買うとき、店主から【おまけ】で、魔封じの首輪を【無料】で貰い受けたということ。
【悪魔召還セット】を使い俺を召還し、俺にヒトメボレとやらをしたという事。
で、昨日の行動か。
さらに、俺が寝ている……というか失神している間に、この【おまけ】でもらった魔封じの首輪をつけた。
……ショックだ。
これをショックといわずして何というのだ。
悪魔として生を受けてから24年間。人間というのは俺達にとって食い物でしかない。
だというのに、だというのに!
その人間の、しかも商人(あきんど)精神に負けたばかりか逆に食われるとは!!
「負けた…………商人精神に負けた……………………」
「独り言思わず口に出してるみたいだけど、
なんか違うところに敗北感味わってないかい?
それに君24才? 若いねぇ。
私はてっきり何千歳かと思ってたよ。」
確かに悪魔はある程度なら不老だ。(病気とか怪我とかあるので不死ではない)
が、何千歳も生きてたらこんな肉体労働やってねーよ。
いや、それはさておいてだな。
「……どうやったらこれ外せるんだよ。」
「装着者以外が外そうとすれば簡単に外れるよ? 普通の首輪みたいに。」
「だったら外しやがれ」
「だーめ。言っただろう?
私の願いは【君がほしい】だと。
君のこの髪も眼も手も足も……
まだ手に入っていないみたいだけど、いずれは心も私のものにしてもらうよ」
「ふざけるな!
そんなの叶えられるわけねーだろ!!!」
「でも現に今、心以外は私の思いのままだよね。
昨晩よくわかったろう?」
「………………」
「私はね、シンタロー。
欲しいと思ったものは必ず手に入れてきた。
今度もきっと手に入れて見せるよ。」
「必ず手に入れてきた?
けど、奥さんに関しちゃ手に入れてすぐ失くしたみてーだけどな。」
「……………………」
お、ビンゴ!
秘石の話からこの男が奥さんの事は愛してたってのは予想ついてたさ。
うし、一気に畳み掛けるぞ。
「どうだ? 俺なんかじゃなくてだな」
一つ目の願いは、まぁ、一晩俺を好きにさせた事で解決でいいだろ。
「次の願いで、【奥さんを生き返らせて欲しい】ってのは。」
これを叶えるとしたら、まずその奥さんとやらが極楽と地獄、どっちに言ったか調べて、
さらに地獄で苦行を受けているなら攫ってきて、秘石に頼み込んで体を創ってもらって…………。
極楽の場合、もう転生している可能性があるから……
そしたらそれが誰なのか調べて、前世の記憶をよみがえらせて……体も色々変えれば……。
ま、なんとかなるな。手続きが面倒だができないことはないだろ。
が、俺のすばらしい意見に、マジックはゆっくりと首を振り、
「駄目だよシンタロー。
もちろん彼女に会えるなら会いたいさ。私も彼女の事は本気で愛していたからね。
でもね、どんなに愛や、何か他の理由があっても、人が人を生き返らせるなんてマネをしてはいけないんだよ。
たとえそれが、君達悪魔みたいな人間以上の力を持つ存在の手によってでもね。」
「人殺しが言うセリフじゃねーぞ。」
ちょっとまともっぽい事言ってごまかされてたまるか。
俺が半眼でそう突っ込むと、マジックは苦笑いをして、
「それに、もうひとつの理由なんだけど……
彼女が死んだのはもう二十年以上も前だ。
その頃から彼女の姿は変わっていない。
でも私はどうだい?
人よりは外見的にも若いつもりだけど、彼女に比べたら……。
愛する人に、そんな姿を見せたくないんだよ。
くだらない男のプライドだ。」
最後のほうは自嘲気味に笑って見せる。
け、けど負けねーぞ。
「だったら最後の願いであんたを若返らせてやるよ。
それで問題ねェだろ?」
「そして私は、いつまた彼女を失うか、
あるいは私が体験したつらい思いを彼女にいつさせるか、おびえて暮らすわけだね。」
「……………………」
「それに───」
「それに?」
「なんだかんだ言って私から離れようとしても無理だよ。
絶対にその首輪は取らない。
首輪が無くても、君が私から離れていかないという保証が無い限りはね。」
「無茶いうなぁああ!」
「ま、がんばって努力してくれ」
言いたい事だけ言い放つと、マジックはまだ湯気の立っている朝食を残して部屋から出て行った。
ホットミルクにハムエッグに白ご飯。
ブロッコリーとトマト、卵の食事3原色が鮮やかだ。
ぐぅぅうう
「あぅうううう……」
畜生考えてみりゃ昨日の晩も食ってねぇ。
結局俺は、ハングリーストライキもあきらめて、腹が減っては戦が出来ぬの格言に従って、
香ばしい香りのするハムエッグに取り掛かった。
悔しい事に味は絶品だった。
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次へ
えぇえ!!? 夜何があったの!!?
知っているけど知りたいわ!!
という18以上のお嬢様はこちらへ。
「ごちそーさん」
あっさりと食べ終わり、誰もいないのに、ついついご馳走様といってしまうのはグンマのせいだ。
あいつこーゆー礼儀だけは正しいからな。
「さて、」
腹ごしらえもすんだことだし、立ち上がって周りを見回す。
まずはドアだ。
ガチ……
とーぜん鍵は閉まってると。
その辺の椅子でもぶつければ壊せるかもしれねーけど、
そうなったらまず使用人とか飛んできそうな気がする。
いや、そもそもマジックは大企業や組織のトップだったりしたろ?
中に鉄芯でも仕込まれてるんじゃないか?
だったら窓か?
強化ガラスで割れそうにはなくとも……鍵は……
窓の外をのぞくと───
そういえばここ2階だったな。
しかも外壁はつるつるしていて足をかける場所もない。
降りるのは無理───か。
決死の覚悟でジャンプして骨折ったら逃げる所じゃねーからな。
ん?
羽があるのに飛ばないのかって?
言っておくが物理的に考えて、俺くらいの重さのが飛ぶのには10m近くの羽が必要になるんだぞ。
いくら悪魔とはいえ、そんな羽出してたら邪魔だろ。
俺みたいな見習い悪魔は飛ぶときは羽じゃなくて魔力を使って飛ぶんだ。
そん時に気休めというか方向転換というか、そーゆー所でパタパタ動かすんだが……。
見習い悪魔じゃなくて、上級悪魔になるともっと立派な羽が生えて、それだけでも飛べるようになる上、
魔力で出し入れが自由自在!
これのためにみんな必死で修行しているといっても過言ではない!
考えても見てくれ。
羽が生えているということは、
服を着たり脱いだりが大変。
仰向けで寝ると痛い。
中途半端に(ポイント)狭い道で人とすれ違うとぶつかる。
というわけで邪魔なのだ。
つまるところ、見習い悪魔にとっちゃ羽って言うのは、
孔雀の羽や、コックさんの帽子みたいなもんだと思ってくれ。
見習いでも修行すれば段々おっきくなって行くからな。
しまえないけど。
それはさておき、どうしたものか。
仮にここから逃げ出せたとしても、
魔力もなくて変身すら出来ない状況じゃ、人間に見られたら変なコスプレした男だし。
そもそも魔界への入り口開けないし。
……せめて本当に外れないのか試してみよう。
普通に外そうとすると……金属が皮とくっついているかのようにびくともしない。
となると…………
マジックの机からカッターを取り出し、鏡を見てキコキコと削ろうとするが……
危険な上にぜんぜん削れてる様子がねぇ。
ちくしょー……一体どんな仕組みになってやがる。
「何やっているんだッッ!!」
「うぎゃぁあ!!?」
背後で聞こえた怒声に思わずカッターを落とす。
「あ……あぶねーな!!
今なんかチクってしたぞ!!」
鼻息荒くマジックに突っかかると、マジックは戸惑った表情で、
「え……あ……すまない。
ドア開けたらいきなり君が自分の首にカッターを突きつけてたからね。
何かへんなマネでもするのかと思って……つい」
「声かけられたほうが危なかったぞ」
ゴホンと咳払いして誤魔化そうとするマジックに、俺は突き放す口調で言う。
「大体なんで俺が自殺しなくちゃいけねーんだよ。
てめーなんざの所為で死んでたまるかっ!」
「そうだね。そうじゃないと私が困る」
「あん?」
何をわけのわからない事……うわっ
勢いで言ったセリフに、何故かマジックはふっと笑い、俺を抱きしめてきた。
「ってドサクサ紛れに何やってんだ!」
暴れて体をはがそうとするが、マジックの体はびくともしない。
俺も相当だが……なんだこいつの馬鹿力は!
が、おれの心の中など露知らず、マジックはポツリポツリと言葉をつむぐ。
「私の家内は私の所為で死んだからね。」
───あぁ。今朝話題に上った女か。
「彼女を失ったとき、本当に苦しくて、彼女を殺した男がどうしても許せなかった。
自分がしてきた事を棚に上げてね。
でもその男は事故で死んでしまったし、
私の怒りの矛先は男の所属する組織にむけられたよ。
警察を利用するのが一番なんだろうけど、
どうしても私は自分でカタをつけたかったんだ。」
「……………………」
何も言えずに俺は黙っていた。昨日散々な目に合わされたというのに、変な話だ。
「彼女の敵を討ったあと、どうして私はこんな立場なんだろうってはじめて思った。
それまでは疑問も何にも感じなかったのにね。
───本当に残念だよ。
君が彼女を失った直後に現れてくれれば、
私は君が提案したとおり、彼女を生き返らせてもらったかもしれない。
いや、その前に、私が彼女と会う前に現れてくれれば、
あんな悲劇も起こらなかっただろうにね。」
マジックの指が首輪に触れる。
さっきチクっとした所はもう痛くはなかった。
「ごめんねシンちゃん。
こんなところに閉じ込めてしまって。
でも私は欲張りだから、欲しくなったらなんでも手に入れなくちゃ気がすまないんだ。」
俺の上半身は裸だから、マジックの服の感触がじかに伝わる。
ごわごわしているけれど、暖かい。
睡眠が足りなかったのか、腹いっぱいだからか、瞼がまた重くなってくる。
うとうとしかけた俺を、チャリという音が現実に戻した。
……チャリ?
嫌な予感がして音がしたほうを見る。
そこにあったのは……、
「あ、気づいちゃった?」
首輪につなげられた鎖だった。
「じゃ、とりあえずもう片方の端はベッドに固定しておこうか。」
さっき首輪に触ってると思ったらそれかぁあぁ!
「てめぇ珍しく殊勝な態度してると思いきゃそれかい!!」
「だってシンちゃんこうでもしなきゃ逃げるだろう?」
「たりめーだ!
あとさっきから気づいてたけど【シンちゃん】ってなんだ!!」
「君の事」
「そーゆー事を言ってるんじゃねぇえ!
軽々しく呼ぶな!」
「だってこれから仲良くなっていくんだからフレンドリーな方がいいじゃないか」
「どこに自分を監禁した人間にフレンドリーになる悪魔がいるんだよ!」
「君が栄えある第一号になってくれ。」
「なるかぁあああああああああああ!!!」
「じゃ、鎖はあきらめるから「シンちゃん」位は許してくれないかい?」
「……どんな交渉だよ」
こうして、俺の監禁生活は始まった。
呼び方の件は結局、昨日の夜同様、見事に押し切られたのだけど、
…………………鎖よりはいいか。
とりあえずは、おわり?
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