「なぁ、夢って抑圧されてる願望を出して、欲求不満を解消する作用があるんだってよ」
「マジで?オレ、こないだモー娘。全員が妹になる夢見たけど、別にモー娘。興味ねーよ?曲とか1曲も知らねーし」
「モー娘。は問題じゃなくて、妹がたくさん欲しいって意味なんじゃねーの?」
「えー?まじで?それはそれで何かショックだー…」
扉の向こうを、生徒たちがくだらない話をしながら通り過ぎて行く。
話し声が聞こえなくなったところで、アラシヤマは押さえつけていたシンタローの口から手を離した。
「危なかったどすなぁ、シンタローはん。下手に騒いでこないなトコ見られたら事ですもんなぁ」
アラシヤマの自室のベッドの上。
シンタローは一糸纏わぬ姿で横たえられている。
アラシヤマがシンタローの顔を覗き込むと、シンタローは面白くなさそうに顔を背けた。
横を向いてしまったシンタローの顔をとらえて、無理やりにキスする。
深く舌を絡めると、シンタローはわずかに反応を返した。
「…シンタローはん…。好きや…」
ちゅっと音を立てて唇と離す。
シンタローは憮然とした表情のまま、アラシヤマを真っ直ぐにとらえた。
「それで?これからどーする気だヨ?」
「…え?どーする気って…」
どーする気も何も。
その体に触れたくて。
とにかく好きだと言いたくて。
「…えっと…、あの…」
自分の衝動にすべてを任せてしまっていた。
改めてどうする?なんて言われても困る。
「…えっと、シンタローはんに触れたりとか…」
「もう触ってんじゃん」
「キスしたりとか…」
「さっきから何度もしてんじゃん」
じゃあ、今問われているのはこれから先のこと?
「オメーはオレを抱きてぇの?それともオレに抱かれてぇの?」
そんな風に、まっすぐに聞かれても困る。
太陽のように日の下を歩く、尊くて愛しくてたまらない人。
「わては…そんなんはどうでもええんや」
アラシヤマはシンタローの頬に顔を摺り寄せた。
「あんさんに触れられるなら、近くであんさんを感じられるならどっちでもええんや」
シンタローの首筋を舐め上げる。しなやかな筋肉がぴクリと動いた。
愛してる。
手が届かないと思っていた愛しい人がこの腕にいる。
それだけで、溶けてしまいように気持ちいい。
「…でもっ…、ホントはどっちがイイんだョ?」
シンタローはアラシヤマの肩を押した。
自分の要望を聞いてくれようとするだけで、もう天にも昇る気持ちだというのに。
シンタローが可愛くて嬉しくて、顔が緩むのを抑えられない。
「…そうやなぁ…」
わては、本当は………。
ガタンッと突然目の前が揺れた。
「ああ、悪い。ぶつかった?」
顔を上げると、生徒二人が机に腰掛けてアラシヤマを見ていた。
「もう授業終わったぜー。お前、ぶっ通しで寝てんだもん。センセも呆れてたぜ」
あたりを見回すと、数人の生徒がバラバラと教室を出て始めている。
………なんや、夢か…。
授業が終わったのも気がつかないまま、夢を見るほど眠り込んでしまったなんて。
しかもあんな内容の。
アラシヤマは思わず顔を抑えた。
「それで、モー娘。はどうしたんだよ?」
「それがよ、妹は妹なんだけど、一緒には住んでないって設定らしくてよー」
「どういう願望なんだよ、ソレ」
アラシヤマにぶつかった生徒は雑談に戻っている。
おそらく、夢の中にこの二人の内容が入り込んでいたのだろう。
アラシヤマは鞄をつかむと、逃げるように教室を出た。
顔の熱はまだ退かない。
夢が願望を表すのだとしたら。
自分はどう答えようとしていたのだろう?
彼を抱きたい?
彼に抱かれたい?
……そんなん、わかるわけないやろ……!!
恥ずかしさを秘めた苛立ちを抱えたまま、早足で玄関に向かう。
そこにいたのは、今一番会いたくない人物。
「あ、アラシヤマ、帰んの?オメー今日、すげぇ寝てたなー」
シンタローは靴を履き替えながら笑った。
これから部活なのか、紺色のジャージ姿だ。
「数学は寝ててもヘーキだけど、古典だけは気をつけろヨ。教科書1冊丸写しの刑だぜ」
そう言い残して、シンタローは校舎の外へ走り出して行った。
シンタローが去っていった後の玄関に立ち尽くす。
さっきの夢が何かを表しているというのなら。
ただ一つ明確なのは、この、もう隠せない恋心だろうと思った。
END
2007/02/02
すみません…ネタ覚えているうちに書いておきたかったんです…。
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