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バラ色の日々(1)


鬱蒼とした森に囲まれたレンガ造りの古い校舎。

東京から電車で2時間の距離にも関わらず、あたりには街もなければ人家もない。

夜ともなれば明かりもなく、真っ暗な森では梟の淋しげな鳴き声が響く。

聖サザンクロス学園は、そんな世間から隔絶された場所にひっそりと建立されていた。


* * * * * *

「だから、嫌だっつてんだろーがよ。だりぃよ」

「でもシンタローが1番適任だっちゃ」

「生徒会牛耳ってこのガッコを共学にしてくれよ!」
「外泊自由にしてくれ!」
「ばか、んなことできるわけねぇだろ!!」

高等部2年A組の教室は、周囲の森の鳥達すらも辟易するような騒ぎだった。

「おーい、お前ら真面目に話合えー」

担任のジャンも見兼ねて声をかけるが、騒ぎは収まらない。

その日のホームルームの議題は生徒会役員の立候補者を選出すること。

ただでさえ、全寮制男子校という灰色の学園生活だ。
その上さらに面倒ごとを引き受ける特異な生徒は皆無に等しかった。


「じゃあ、シンタローが会長に立候補ってことでいいっちゃかー?」

クラス委員のトットリがさっさと話をまとめる。

「異議なーし!!」

30数名の男子高校生の声が揃う。

「…ったく、やっかいごとは全部俺かよ…」

シンタローはぶつぶつ文句を言ったが、トットリは聞こえないふりをしている。
トットリはそのまま議題を続けた。

「でも、あとうちのクラスは書記を一人出せばいいだけだっちゃ。みんな僕のくじ運の良さに感謝するだっちゃよー」

トットリが黒板に『書記』の文字を書く。

教室からは「おおー」という歓声と拍手が起こった。



聖サザンクロス学園の生徒会選挙は少し変わった形態を取っている。

そもそも、1学年2クラスしかなく、総生徒数は中等部、高等部合わせても400人に満たない。

生徒会の選出ともなれば、立候補者も少なく、選挙が成り立たなくなってしまう。

そこで、あらかじめクラス代表がくじを引き、各クラスから選出する役員を決めることになっていた。

2学年はA、B両クラスから会長立候補者を出すことが必須。

会長職以外の役員は対立候補なしの不信任選挙で決まってしまうが、会長職だけは、クラス選出で選ばれても、選挙で選ばれなくては会長にはならない。
それでも、二分の一という高い確率に、シンタローが気が重くなった。


「で、誰か書記いないっちゃかー?推薦でもいいっちゃよー」


トットリが教卓からのんびりと声をかける。

「ミヤギやれよ、習字得意じゃん」

どうせなら親しい奴を道連れにした方がマシだ。

シンタローは隣の席のミヤギに声を掛けた。

「書記の仕事と習字は関係ないべ!それに寮長の仕事もあんのに無理だぁ!」

ミヤギはブンブンと顔を横に振った。

ミヤギは寮長の仕事も『面倒見がいいから』と無理矢理に押し付けられている。

その上、生徒会役員まで押し付けられては堪らないのだろう。

「シンタロー、ミヤギは勘弁してやれよ。寮長なんだしさ」

担任のジャンが助け舟を出した。

「誰かホントにいないか?推薦狙ってる奴チャンスだぞー」

「べつにいらねーよ」
「俺、留学するもん」
「俺もー」

ジャンの呼び掛けに、生徒達は口々に生意気な言葉を返す。

「ホント、お前らカワイクないよね…」

ジャンは教卓に手をついて溜息を吐いた。

「じゃあ、ジャンけんかアミダで決めるのはどうだっちゃ?」

議長であるトットリが打開案を出す。

「オレは参加しねぐていんだべな?」

ミヤギがすかさず念を押した。

「ミヤギ君はしかたないっちゃ」

「じゃあオレサッカー部部長だから!」
「陸上部部長だから!」
「放送局員だから!」

途端、教室中から選出不参加を求める声が相次いだ。

「テメーは幽霊部員じゃねーかよ!」
「っつか、陸上部活動してねーじゃん!」
「はーい!オレ保健委員だから免除してねー」

教室の騒ぎに、収拾の着かなくなったトットリはひとりオロオロしている。


みんな、大人げねーなぁ…。

早々に拒否することを諦めたシンタローは、呆れて騒ぎを見守っていた。


ガタンッ。


突然、教室の1番後ろ角の生徒が立ち上がった。

不意の物音にクラス中の視線が集中する。

「あほらし。こないな下らんことにギャアギャアと。カラスみたいに、まあよお喚きますわ」

立ち上がった生徒は、京訛りの強い言葉で冷ややかに言い放った。

右目を長い前髪で隠したその生徒は、二日前に転入してきた転校生だ。
無口なのか、まだクラスのほとんどの生徒が彼と口をきいていない。

そんな中の突然の発言に、皆、腹を立てる以前に驚いていた。


転校生はそのまま鞄を掴んで席を離れる。

「おい、こら。まだホームルーム中だぞ」

ジャンが慌てて声を掛けたが、

「頭が痛ぅてかないまへんよって、早退させてもらいますわ」

転校生は軽く頭を下げると、そのまま教室を出て行ってしまった。



「なんだ、アレ?」
「ってゆーか、あいつ誰?何て名前だっけ…」

教室の誰もが呆気に取られている。


「…センセー、いいの?アレ?」

シンタローは彼が出ていったドアを指差した。

「頭痛いらしいから、しょーがねーんじゃねぇ?」

この若い新米教師は学生気分が抜けないのか、基本的に管理が甘い。

「…とりあえず、一人いなくなったっちゃ♪」

トットリがにんまりと笑っている。

「彼の分はクラス委員の僕がやるしかないっちゃね!」

トットリの思惑にクラス全員が気が付いた。


かくして、形ばかりのアミダが行われ、書記立候補者が決定した。


「よーやく終わったっちゃ~…と……?」

トットリが黒板に名前を書こうとして手を止めた。

「先生、あいつ何て名前だっちゃ?」

「名前くらい覚えてやれよ…。アラシヤマだよ」

トットリはフーンと興味なさ気に返事をすると、黒板に『書記 アラシヤマ』と書いた。


「じゃ、シンタロー。立候補者同士ってことで、うまくアラシヤマに伝えてくれっちゃ」

トットリはポンとシンタローの肩を叩いた。

「なんでオレなんだよ」

文句を言ってみるものの、トットリはまあまあと言って取り合わない。

どうやらトットリはアラシヤマが好きじゃないようだ。

トットリは童顔で明るく、クラスのマスコット的存在だが、腹黒い一面もあり人の好き嫌いが激しい。

「いいでねっか、シンタロー。確かあいつ、おめの部屋の隣だったべ」

シンタローはミヤギに言われて初めてその事実を知った。

「まじ?」

「3日前に入寮してたべ。シンタローいねがったから、紹介できんかったけんども…気付かなんだか?」


…ちっとも気がつかなかった。

どうやら、あの気難しく、影の薄い転校生と関わりを持たされてしまいそうだ。


「ほんっっとに…、厄介事は全部オレかよ……」

机に突っ伏してしまったシンタローに、ミヤギは慈愛の目を向けた。



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