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お菓子をあげる!



「……あの」

恐る恐る、と言った風に口を開いたのは成人になるかならないかというぐらいの青年だった。
その前に立っていた男はちらりと視線を向けて何だと促す。
青と赤、違う色形だが同じGの文字を背負う制服に身を包む二人は、大きく捉えれば同じ組織の人間だ。
だが決定的な違いがある。それこそ天と地ほどの、だ。
そのはずの二人が、今は通路で向き合って立っていた。

「あ、あのう…総帥」

青年はもう一度問掛ける。
総帥と呼ばれた男はそれに、だから何だと今度は言葉にして返した。
青年はというと、目を右へ左へときょろきょろと動かしながら次の言葉を探している。
そのまましばらくあ、とかう、とか言葉を洩らしながら口を閉開させていたが、覚悟を決めたのか青年は一度呼吸を整えると、意見を述べるべく口を開いた。

「お、恐れ多いながら発言させていただきますが…こちらは、何でしょうか」

これ、と指したのは先程目の前の人物に手渡された物。
それは何かと言うと、シンプルだが綺麗にラッピングされたクッキーだ。
なぜそれが青年の手にあるかと言うと、これまでの経緯を数分前に遡る必要がある。

青年は頼まれた資料をある部署に届けるため、今では幾分慣れてきた通路をいつも通りに歩いていた。
そうしたら背後から急においと呼び止められ、青年が振り向けばその先に総帥がいたのだ。
はっ、として青年が挨拶をし頭を下げようとするが、それよりも先に手を出せと要求をされる。
その言葉のまま遠慮がちに手を差し出せば…渡されたのだ。これを。
そして今に至るわけだ。
だがなぜこれが自分に、しかもこのような方から手渡されたのだろうか。
分からない。
分からない、というか想像もつかない。
だから青年はこれは何かと聞いた。
いや、これがクッキーということは分かる。
そういうことではなく、それが自分の手の上に置かれている現状が分からないのだ。
しかし青年はそれを聞いたことを次の瞬間には後悔した。
赤い服の男が、この団の最高地位者が、その眉間にぐっと皺を寄せたからだ。
青年は自分の顔からさっと血が引いていくのが分かった。
もしかしたら自分は失礼な言い方をしてしまったのかもしれない!
それとも何かの地雷を踏んでしまったのか!
青年は頭の中でぐるぐるとその原因を考えようとした。
だがそれもすぐに真っ白になってしまい、代わりに冷や汗がだらだらと流れる。
対して男はというと、かちんこちんに固まってしまった青年の様子を目にして眉間の皺をといていた。
その代わりにぽかんと、どうしたんだこいつ?というような表情でもって青年を見ている。
しばらく固まった様子を(固まってはいるが冷や汗がだらだらと流れていてそのまま溶けてしまいそうだ)見ていたが、その理由に何か合点がいったようでああ、と声を洩らした。

「そうか、お前まだ一年目か」

男の発言を耳にした青年はハッとして、真っ白だった思考から一気に我に帰ってきた。
慌てて視線を目の前の赤い人物へと向ける。
先程の発言に「何が」とは含まれていなかったが、その主語が何かは青年にも伝わったようで急いで返答するべく口を開いた。

「あ、はい!今年入隊しました!」

「だからか、なるほどな」

青年の慌ただしい発言を聞いて男はうんうんと納得していた。
だが、今度は青年がぽかんとしている。
「何が」なるほどなのかが分からないからだ。
じっと赤い男の黒い目を伺うように見る。
おそらくこれは無意識に、その意味を知ろうとしているからの行動だろう。
でなければこの青年にとってこのような恐れ多いことはできやしない。
その視線に気付いた男は、実はなと話しを切り出してきた。

「俺はてっきりこのクッキーが何なのかって聞かれたんだと思ってよ。俺はクッキーのつもりで作ったのに、そうとは見えないぐらいの出来になっちまったのかなーって考えてたんだが…」

「そ、そんなことはありません!これほど素晴らしい焼き菓子はありませんよ!」

男がそこまで言ったところで、青年はとっさにそれを否定した。
これをないがしろにしてはいけない気がしたからだ。
だが実際に手元を見てみると、渡された当初は頭が混乱していて翌々見ることが出来なかったが、そこには実に美味しそうな色合いで焼けてたクッキーがある。
小麦色の生地にぽつぽつと浮き出ていたり沈んでいたりする黒い点。
これはチョコチップクッキーと言うもののようだ。
食べるのが楽しみだな、と青年がそこまで考えてふとあることに気付く。
先程眉間に皺が出来ていたのは、怒っていたのではなく考えていたからだということ。
いや、それよりも総帥はこれを「作った」と言っていたよな、ということに。
そこまで気付いて青年は、

「えぇーー!!?」

おもいっきり驚いた。

「あの、まさかこれって総帥のて、手作りなんですか!」

「そうだけど…何だ、嫌だったか?」

青年はそんなつもりで言ったわけではなかったが、先程の発言はそう思われてしまっても仕方がない言い方だったと今頃になって気付いた。
いや、むしろ不快に感じてしまってもおかしくない。
またもや青年の顔が着ている服のように青くなる。
否定しなくては!と思い、ぶんぶんと顔を横に振る。おもいっきりにだ。

「いえそんなわけありませんしむしろ嬉しい限りでありまして食べるのが楽しみだと思っているぐらいです!ただ少し驚いてしまってそのっ…!」

青年は途中から自分でも何を言っているか分からなくなるくらい勢いよく話しだした。
この組織のトップである彼が料理上手だということは噂で聞いたことぐらいはある。
しかしそれが青年が思っていたよりも遥かに上の腕であった(男の手料理なんて切って炒められれば充分だと思っていた)ことと、まさかそれが総帥直々に貰えるなんて思ってもいなかっただけに大層驚いてしまったのだ。
青年が言い終えると待っていたものは頭痛だった。
思っていたよりも大声でしかもほぼノンブレスで口走っていたことと、頭をぶんぶんと振りすぎたことで酸欠と伴って頭ががんがんと痛む。
だがそんなのを気にしている暇はない。
自分は目の前の相手を怒らせていないだろうか、と恐る恐る相手の表情を見る。
すると男は不快な感情を表すどころか、にっと笑っていた。

「そうか気に入ったか、なら有り難く食えよ。で、お前はあれだろ?何でこんなもんをもらったんだろう~とか思ったんだろ?」

「…あ、はい。そうです」

「お前は貰うの初めてだもんな。ほらよ、今日ってハロウィンだろ?だから菓子を配ってんだ」

「ああ、なるほどー…」

って、えぇー!!?
青年はもう一度驚いた。
だが今度は口に出さずに心の中で思うことに成功したようだ。

「も、もしかして毎年配っているんですか!ガンマ団全員に!」

しかし疑問に思ったことはついぽろっと口から出てしまった。
こうやって思ったことを考えずにすぐ出てしまうあたり、若さというものがまだまだ見られる。
が、男はそんな青年を無礼等とは思わず、まあなと返答をした。

「つっても、これをやりだしたのは3年前だけどな。それに全員ってのは俺もさすがに無理だから、会えた奴にだけ渡してんだ。量も量だから簡単なものしか作れなかったけど、これでも味に自信はあるんだぜ?」

そう言って笑ってみせた男を、青年はぼけっと見ているだけであった。
次はどうすればいいのか、どう返事をすればいいのかとか、混乱しすぎていよいよ分からなくなってきたのだ。
青年にとって今日は驚いくことが多すぎた。
自分が仕事の最中であったということを(と、言っても書類を運ぶだけだが)忘れてしまうぐらいに。
まさかここで、しかもこの組織の頂点に君臨する人物にハロウィンだからとわざわざ作ってくれたクッキーを貰えるなんて十分前の青年はみじんも考えていなかった。
だが実際こうして自分の手の中にそれはある。
しかも先程の男が言っていた内容には、これは皆が皆貰えるわけではないらしい。
そう思うと青年の中で何か込み上げてくるものがあった。
自分の顔が崩壊する前に、青年はぐっと口元を引き結んだ。
そんな青年を男は不思議そうに見ていたが、やがてああそうだと言ってもう一度にっと笑った。

「ハッピーハロウィン、仕事頑張れよ」

そう言うと男は満足したようにじゃあなと告げてその場から去っていった。





















「ほお、そんなことがあったんか」

昼時。施設内に設けられた食堂で(食堂といってもそんじょそこらとは比べ物にならないほどの広さと設備だ)自分が午前中に体験したことを居合た人物に話す。

「そうなんですよ先輩、まさかここでそんな行事をしてもらえるとは思っていませんでした」

互いに青い服を着た二人のうち、先輩と呼ばれた右眉に傷のある男は本来そのように軽々しく「先輩」と言えるような立場の人間ではなくむしろ幹部クラスの上司だ。
だが、その彼自身が軽い性格であり「それじゃあつまらんじゃろう」と言って自分の部下には自分のことを上司ではなく先輩と思え!という注文をしていたりするのはこの組織の中で結構有名だったりする。
そんなわけで、新人格である青年と伊達衆と呼ばれている大男は同じテーブル席にて本日の昼食を咀嚼しながら会話をしていた。

「まぁ、あいつが手料理を誰かに食わすんは珍しくないが、ハロウィンにああいうことをしだしたのはちーっと訳があるんじゃよ」

もごもごと食べ物を口に入れながら、かつそれをこぼすことなく男は話した。
起用な人だなと思いながら聞いていた青年は、その言葉に興味を示しどんな訳ですかと話しの続きを促した。

「ほら、ハロウィン言うたら有名な台詞があるじゃろ?鳥食うおおトリートメントっていう」

「……それってトリックオアトリートのことですか」

「おおそれじゃけ!」

青年の訂正にぽん、と大きく両手を打った男はうっかりしたけぇのうと声を出して笑った。
青年は自分の上司ながら、この人は大丈夫なのだろうかと少し心配になる。
だが、そう思うのもこれが初めてではないし、この人の凄さも見てきている青年はまぁ大丈夫なんだろうな、と思うことにしてとりあえず話しの続きを待つことにした。

「ありゃあ菓子をくれなきゃ悪戯しちゃるぞってやつじゃろ?じゃから毎年この時期はシンタローの周りに人が集まるんじゃけん」

「…………。」

青年はそこまで聞いてその先に何を言わんとしているのかが安易に分かってしまった。
つまりはあれだ。
お菓子を貰えなかったらあわよくば悪戯をしてやろうというべったべたなことを総帥、ことシンタローにしようとする輩がいるということだ。

「それってつまり…」

「まぁ、そういうことじゃのう。ほいじゃから毎年シンタローも迷惑しててな、そこでキンタローが入れ知恵をしたんじゃ!」

男は自分が持っていた箸をびしっと青年に向けて、まるで核心に迫るように言った。
青年も食べるのを一時中断してその続きを聞くべく耳へと神経を集中させた。
その様に男は満足してつまりじゃな、と口を開く。

「トリックオアトリートと言わせる前に先に菓子を配っといて、牽制してそんなことを言わせないようにすればいいとキンタローが言ってな、じゃからこの時期はこのむさ苦しいガンマ団でも甘い匂いがするんじゃよ」

つまりは先手必勝ということか。
青年はそこまで聞いて何だそれだけかと少々肩透かしを食らった。
てっきり毒でも仕込んでいるのかと思ったからだ。
いや、もしそれだったら大変困るのだが。

「本当はキンタローの奴、毒でも仕込んで始末すりゃええって最初に言ったらしいんじゃがな」

……そこで止まってくれた総帥に感謝しよう。
青年は心底そう思った。

「さ、ここまで話したんじゃし、わしにもそのクッキーを食わしてもらおうかのお」

青年がクッキーの作り主へ感謝していると聞こえてきたとんでもない台詞に、え?この人は今なんと?と数秒ほど反応出来ずにいた。
その言葉が脳内にやっと届いた頃には、青年は持っていたフォークを落としそうになった。
 ガシャン
いや、実際に落とした。

「な、何を言ってるんですか!駄目ですよあれは俺のなんですから!」

「なんじゃ、ちっとくらいええじゃないか。わしはまだ貰えとらんのじゃし」

なおもぶーぶーと文句を垂らす男に、あげませんからね!と青年は必死に防御する。
青年はこの場にクッキーを持ってこなくて良かったと思った。
きっと持ってきたら目の前の相手につまみ食いされていただろう。
大事に自分のデスクの引き出しにしまったそれに「お前は俺が守るからな!」と想いをはせながら、男に対しぎっと視線を送る。
と、いっても青年にとっては上司である相手なので、控え目程度にだが。

「ぬぅ、ぬしも中々にケチじゃのう…」

やれやれといったように吐き出した言葉に、やっと男が諦めてくれたかと青年はほっとした。
対して男は未だに名残惜しそうな顔をしていたが、やがてまぁ仕方がないかとため息を一つした。

「ハロウィン一つでそんなにムキにならんでもええじゃろうに…あれか、ぬしはそんなにクッキーが好きなんか?」

「いえ、そういうわけではありませんが…」

そうなのだ。
別段このイベントが好きというわけでも、クッキーが大の好物というわけでもない。
だがこれだけは別なのだ。青年自身もよくわからないが、あれを貰えたと自覚した時にはとにかく嬉しかった。
そんなわけで、総帥との別れ際は顔がにやけそうになるのを抑えるのが大変だったのだ。

「ああ、でも…」

ぽつり、と思い出したように先程の続きを言う。
テーブルの上に置いた手を組み、渡された時のことを思い浮かべる。
思い出すと自然と自分の頬が緩むのが青年にも分かった。
これまでのことを思い、考え、そしてそれは一つの結論につく。
ああそうだ。そういうわけではなかったのに、たぶんそうなんだ。

「今年から、好きになりました」

今までなんともなしに思っていたハロウィンやお菓子。
でも今日は特別。
今日からは特別なんだ!


 ・END・

----------------------------
流行に乗れない、それがここのクオリティ。(お前…)
遅ばせながら、ガンマ団のハロウィンなお話しです。
大体お察しはついたと思いますが、男はシンタローさんで先輩がコージ、そして青年は新人ガンマ団員(捏造)です。

キンタローの入れ知恵で始まったこのハロウィンですが、実はシンタローさんからお菓子を貰うのが難しかったりします。
シンタローさんも総帥ですからもちろん仕事があり、そんなに本部内をうろちょろなんて出来ません。
なので出現率が低すぎる。
だからこちらから向かおうにも、仕事でもないのに総帥室に行こうものなら仕事をしろー!と怒られて返されます。
あと数にも限りがあるから早いうちに偶然総帥と出会うか、仕事で総帥室に向かうかが貰える条件です。
と、言っても総帥室に直に入れるのも限られたクラス以上ですがねー。
総帥の手作り、そして直々による手渡しということで倍率はかなり高いと思うよ!
でも青の一族はしっかり貰えていそうだ。あと伊達衆も。
一族分は最初からちゃんと作ってあって、伊達衆は当日にタイミングが合わず貰えなくても欲しい!作って!お願いします!とかって言えばすんげー嫌な顔するけど仕方ねぇなぁってなんだかんだで作ってくる!
シンタローさんはそういう人だと思っています。
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