その日のアラシヤマは総帥室へ向うべく計算し仕事を片付け報告書も仕上げた。
まだ理由なく会うには自分には総帥室の扉は重い。
とはいえそういう機会を得てはその話を持ち出して刷り込みを行う努力はした。
普通に任務をこなすようになってからは仕事上での対峙が多く物足りないと感じる日々。
驚く程自分が相手を欲していると痛切なまでに実感したのは実は最近であった。
ドアの中からの了解で総帥室の扉が開く。
満を持して総帥として座るシンタローの前に立てば眉間に皺が寄ったかと思うと溜め息一つの応対。
仕事も終わろうとしてる頃の厄介物登場に非常にわかりやすい空気を惜し気も無く醸し出す。
(そしてその時間はこちらが狙ったものであったのだが)
「先週までの任務の報告書どす」
今更ひるまず歩み寄って報告書を差し出した。
「ん、そこ置いとけ」
相手はもう目線を手元の資料に戻してこれも素っ気無く応える。
アラシヤマはああやっぱりと思わず苦笑した。
それを感じとったシンタローが怪訝な表情で顔を上げる。
「用が済んだら帰れよ」
それが予想と違わぬ言葉だった為に返って気力を得てやはり切り出してみた。
「今日ねわて誕生日でしてん。知ってはるやろ」
「…あんだけカウントダウン並に連呼されりゃあな」
ああこれは諦めの表情だったかと更に気を良くする。
この人はこうなのだとわかってた自分が嬉しい。
「なんも用意もしてねーしなんもやらねーぞ」
そう言うと椅子を回してアラシヤマに背を向けた。
「わかってますて」
何かが欲しいというよりはね。
自分とシンタローを隔てる大きい総帥のデスクにそっと近付き回りこんで
これも大きめのソファーに座るシンタローの横に立った。
シンタローの視界には依然アラシヤマはいないがその位置のままで手を伸ばす。
シンタローの横顔を隠しがちな髪を指先で持ち上げて表情を伺う。
そのカオはいつも見るカオのようだった。
「何か特別に下さいってことはあらへんのどすえ」
「やらねえって言ってんだろ」
「ただちょっと」
「何」
「ちょっと許してくれはったら」
ここまでは許してくれはったみたいやし。
体勢をシンタローの正面に移動させると同時に髪に触れてる手を頬にすべらせて
再度表情を伺うとやはり目線は合わせてくれなかったが小さく吐く息が音で聞こえて
現在の二人の距離の近さを思い知った。
この距離が許されるなら。
こっから先はと云ったら実はかなりキス狙いですが貴方は許してくれるでしょうか。
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