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ms
「おとーさまッ」
その日マジックが一番最初に耳にした声は、愛しの息子の一人のものだった。
元総帥の、ガンマ団本部内にある私室のドアがノックされ、開くと同時に覗き込むように中を窺う息子に続き、甥も後ろから、あまり笑うことのない彼なりに精一杯の笑顔を見せ肩を並べた。
「お誕生日おめでとう、おとーさま」
「おめでとう、マジック叔父貴」
そう言って、差し出される花束とプレゼントの包みを、部下の前では見せないような満面の笑顔で受け取り、謝礼を口にしようと開いた口唇が言葉を発する前に、慌てた様子の部下の言葉にそれが遮られる。
「失礼ですがマジック様、お時間の方が迫っていますのでお急ぎく下さい」
廊下からかけられた声に慌てて時計を振り返れば、デジタルの数字は最早一時の余裕もない事実を示して
「──有難う、グンちゃん、キンちゃん。」
それだけを告げ、一人ずつ抱擁し頬に口付け、プレゼントを抱えたまま飛空艦の発着場へと足を向けた。


◆12130005

(シンタロー、来てくれなかったな…)
殆ど揺れることの無い空の道のりの道中に、マジックの心に浮かぶことはそればかり。
三人いる息子のうち、一人は数年間眠り続けていて、そして一人は先程祝いの言葉をくれた。
ただ一人いる甥ですら、息子と一緒に祝ってくれた。二人とも決して暇ではないはずなのに。
…けれど問題は、最後の一人。
今日が何の日かまでは口にしなかったが、今日は一日戻らないことは伝えたけれど──
総帥という立場がどれだけ忙しいものかも知っているし、シンタローがどれだけ意地っ張りなのかも分かっている。それ以前に誕生日を覚えていないかもしれない。
(それでも、一言くらい声をかけて欲しいものなんだけど)
息子が幼い頃を思い返せば、誕生日になれば似顔絵やらお手製肩叩き券やら可愛らしいプレゼントを手にして、”おめでとう、パパ”なんて照れながら口付けてくれたものだというのに。
手にしたお出かけ用シンちゃん人形に視線を落とし、総帥として走り回る息子の姿を重ねた。
人形はこちらを見て微笑んでいるが、そういえばここ暫く本物の笑顔を見ていない。
今までマジックやその前の代、それよりも前からずっと続いてきたガンマ団の体制を大きく変えようとしている息子の姿は、とても重いものをその背に背負う、男のものに変わっていく。
それでも、何があっても、いくつ年を重ねても親子であることは変わりないのに、距離が少しずつ広がっていく。
…それが寂しくて、溜息を小さく吐いた。
けれど、いつまでもそう沈んでいる場合ではない。今日一日、過酷なスケジュールが待ち構えているのだから。
そう思うとマジックは、総帥だった頃のような、厳格な面持ちで顔を上げた。


沢山のファンの笑顔と祝福とプレゼントに埋もれる形で、マジックファンクラブの公式バースデーイベントは無事に幕を閉じ、夜も更けた頃にタッチパネルを操作しプライベートルームのロックを解除するその手は疲労に小さく震えていた。
それでも一人になるまでは疲れを表に出さず、部屋に踏み出し──
「……よぉ。」
──踏み出したところで、足を止める。
応接間の大きな赤いソファに腰掛ける、同じく赤い軍服を身に着けた黒髪の青年が、ひらりと片手を上げた。
「…どこ行ってたんだよ?」
「いや、あの、シンちゃん……パパ今日は一日忙しいって言ってたよね?」
問いに問いで返すと、青年は不機嫌そうな表情で睨みつけ返す。
そして無言で立ち上がり、足を止めたままのマジックに歩み寄って枕ほどの大きさの何かを押し付けた。
「……これは?」
「プレゼントだよ。わざわざ聞くなッ」
更に不機嫌そうにそっぽを向いて、そのまま言い難そうに口を動かし、小さくぽつりと言葉を続ける。
「…誕生日だろ、今日。……おめでと」
衝動的に包みごとその身を抱き締められ、青年が押し付けられた身体に添えるように掌を翳すと、やっとその抱擁が終わる。
「有難う、シンちゃん。…開けてもいいかな?」
「…勝手にしろよ。もう親父のだし。」
その黒い包みを開くと、中には白いエプロンが一着丁寧に畳まれて姿を現す。
「……それでたまには、カレー作ってくれよ。今度俺が暇なときにでも食いに来るから」
嬉しそうに、逞しく衰えを知らない体にそれを当ててみたりしているマジックは、目線を逸らし頭を掻いて、ほんのりと頬を染めて現総帥が言ったそれに、笑顔で頷いてそのままエプロンを着け始める。
「じゃ、今から作ろうか。シンちゃんの大好きなお肉たっぷりでのカレー。」
「いや、別に今じゃなくても…誕生日にンなもん作ってくれなくてもいいって」
「大丈夫。……ほら」
言って、指差した壁掛け時計の数字を見て、シンタローも薄く笑顔を浮かべた。
「0時5分、か」
「誕生日はちゃんとお祝いしてもらったし、今度はパパが返す番だよ」
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