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「……わては、何してるんでっしゃろ」
ぽつりと、アラシヤマが呟いた。そんな事俺が聞きたいと口にするか暫く悩み、黙り込んだ。
左手首の火傷がヒリヒリと痛む。本来なら即座に冷やさなければならなかったのだが、そんな暇は与えられなかった。痕が残らなければいいのだが。
「シンタローはんの事好きなんどすけど、愛しとるんどすけど」
俺の顔を見下ろしてはいるのに、俺の瞳を見つめてはいるのに、俺を見ていない。
正気を失っているのかもしれない。それがいつからかなのかは分からないが。
「どないして、傷付ける事しかでけへんのでっしゃろ…」
俺が傷付いている?何を見てそんな事を言うんだ?
それよりも俺は、こいつが傷付いた様な──なんだか寂しそうな、今にも泣き出しそうな子供の様な──そんな表情をしているのが引っ掛かるんだよ。
傷付いてるのは、お前の方なんだろ?…お前が望む通りになったんだろ、それで何で傷付くんだよ。
「──俺は、傷付いてなんかいねェ」
小さく呟くと、アラシヤマは泣きそうな顔を更に歪める。
「シンタローはん、酷く傷付いた顔してはる」
俺は今、感情を押し殺して無表情を装ってるつもりなんだがな。どこを見てそう思うのか、いつもの事だがこいつの思考は分からない。
「怒ってて、泣きそうで、怯えてて、悲しそうな顔してはる」
お前は本当に俺の事を見てるのか?そう問うこともせずに、俺の姿を映しこむアラシヤマの瞳を見つめた。
「嫌いにならんで。嫌わんでおくれやす。わてにはあんさんしかおらんのどす。独りにせんといて。怖いんどす、独りは嫌なんどす。今わてシンタローはんを失のォたら壊れてまう。」
俺に言ってるのか独り言なのか、この距離で辛うじて聞き取れる声でぼそぼそとアラシヤマは言う。
「独りきりはもう耐えられへん。怖いんどす。なァシンタローはん、嫌わんといておくれやす…」
縋るように。
「ホンマは傷付けたくなんかないんどす。シンタローはんには笑うていて欲しいんどす」
釈明するように。
「見捨てんといて。嫌わんで。堪忍どす、すんまへん、謝りますから…ッ」
懺悔するように。
「…だから、傷付いてなんかねーつってんだろ…」
傷付いたのは心じゃない。ただ、身体に傷を負っただけだ。
俺に覆い被さっていた身体を、馬乗りの状態で上体だけ起こしたアラシヤマは、やっと俺から視線をはずして
「シンタローはんに嫌われとォないんどす…捨てんといておくれやす…見捨てんといて…」
空を見つめ、語尾が少しずつ小さくなっていきながらも、口の中で未だ何か言っているが俺にはもう聞こえなかった。

俺が止めないと、アラシヤマはいつまでもこのままだ。
「…早く帰れよ。パプワ達が帰ってくるだろ」
俺の声がやっと耳に入って、怯えた目で俺を見た。後悔する位なら、何もしなきゃいいんだよ。
「シンタローはんの身体が心配で帰れまへん」
「お前と一緒に居るところなんか見られたくねーんだよ」
俺の言葉にはっとして、また表情を歪める。ホラ、傷付いた顔をしてるのはお前の方じゃねーか。
「……そうどすか」
アラシヤマが、俺の身体を優しく抱き締めて肩に顔を埋めた。抵抗する気も起きず、黒髪を無言で睨みつける。
パプワとチャッピーはリキッドを連れて遊びに行った。夕飯の食材をついでに調達してくるとは言っていたが、いつ帰ってくるか分からないこの状況で、こいつを甘やかす気は起きない。手首の火傷の痛みに多少眉を顰めながら、眼魔砲の構えを取った。
「早くどっか去れつってんの、わかんねーの?」
意識を集中させて、光の粒子が形を成していく。そこでやっとアラシヤマは身体を離して立ち上がった。
「せやったら、トージくんとこに帰りますわ…」
のろのろと下げていたズボンを上げて、腰布を巻き付ける。それを見ながら掌の光を四散させた。

「すんまへん……愛してます…」
口にするだけなら簡単な言葉を告げて、扉をくぐるアラシヤマを見届けて、散らばっていたタンクトップで汗を拭う。新しいものに着替えればいい。どうせ洗濯はリキッドの仕事だ。右手首にしているリストバンドを、左手首に付け替える。押さえ付けられた火傷が痛むが、見つかって理由を問われるよりマシだ。


これで、六度目。
何度も同じ事を繰り返しては泣いているアラシヤマを、捨てることが出来ないでいる俺も同罪なんだろうか。
…俺はただ、下手に火傷を増やしたくないだけだ。
青の一族を騙す為の影として作られた俺が、その役目を終えてもそこに存在し続けている現実が息苦しくて、俺を求めるこいつに依存しているのかもしれないと思いこそしても、それを認める気はない。俺に執着している…自分の作り上げた自分にとって都合のいい「シンタロー」像に執着しているこいつには、本物の俺の言葉はもう届かない。俺の気持ちなんてあってもなくても変わらないんだろう。
俺が傷付くことを知らなかった昔と、俺が傷付いたと決め付ける今と、どちらもうっとおしいことに変わりはない。
抱き締められても口付けられても何も感じねェ。ただ、どこか空しいだけで。それが傷付いてるって言うのか?

いつまで続くか分からないこの関係を、俺は終わることを望んでいるのだろうか。続くことを望んでいるのだろうか?
友達だとか親友だとかはとっくに崩壊している。
ただ依存して執着して、こんなのは恋でも愛でもなんでもねェ。

窓からの風に、あいつと同じ色の髪がさらりと揺れた。
「俺はお前の事、最初ッから嫌いなんだよ…これ以上、嫌いはしねェ」
聞こえる筈のない言葉を投げかけて、俺の頬をいつの間にか流れ始めていた滴を手の甲で拭った。
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