「シンタローはん、わてな…わて、愛された記憶があらしまへんのや。
親の事なんぞまったく覚えてへんし、師匠は厳しいお人やったさかい。
…せやけどわて、人間のずるいとこ知ってますさかい、分かってしもたんどす。」
そっと長い髪に触れてみても、何も反応はしてもくれない。
「せやから…せやからほんまは知っとるんどすえ。
シンタローはんが、なしてわてのこと好きやて言うてくれはらんのかも
なして嫌いやても言うてくれはらんのかも、理由分かるんどすわ。
せやけど──わてかてずるい人間やさかいに、身の守り方だけはよぉ知っとるんどす。」
肌を晒したまま背を向けて、そのまま汗も乾いてしまった。
「愛されないんやったら、わてから愛したらええんでっしゃろ?
幸せになれへんでもええさかい」
少し熱の奪われた体にそっと腕を回してみても、抵抗はされない。
「……シンタローはん? 眠ってしまはったん?
折角、わてが色々話しとるのに、しゃあないどすな。
ま、聞かれてへん方がええか…こないな話。」
小さく溜息を吐いて良く聞いてみれば、静かな寝息が聞こえた。
「しょうもない男の、こないしょうもない話なんて、毒にも薬にもならへんしな」
(05/04/05)
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