全てが欲しい。身体も心もなにもかも。
爪先も瞳も唾液も腰も唇も肩も指も喉も血液も背も首筋も
胸板も骨も心臓も脳も髪の一筋も誰にも触れさせたくない。
愛も憎しみも怒りも悲しみも全部自分に向けて欲しい。
自分を全部捧げる代わりに、全部が欲しい。
そのためにはどうしたらいい?どこか薄暗い牢獄に閉じ込めて愛し続ければいい?
……そんな立場に甘んじる人でないことは知っている。
けれど、抵抗するならばその腕を落としてしまえばいいだけ。
逃げ出すならばその足をもいでしまえばいい。
──あまりにも醜い独占欲。
闇のようなそれに、ずぶずぶと沈むように冒されていく。
「……アラシヤマ?」
かけられた凛とした声に、意識が急速に現実に引き戻された。
闇から、引き上げられる。
ハッとして上げた顔を怪訝そうに覗き込まれて、鼓動が高鳴る。
「なにぼーっとしてんだよ」
愛しく甘い声に精神が安定していく。
…静かに、欲望が鎌首を擡げた。
彼を獲物を捉えた左目で見つめて、微笑んでみせる。
「何でもあらしまへんえ」
頭の中でその工程を描くだけで満足できるうちは、何もしはしない。
狩りにはまず、その距離を悟られないように縮めることから始めて、
闇の中から様子を窺いつつチャンスを待たなければ。
ようやく肩をならべてくれるようになったあなたを逃したくはない。
絶対に逃がしたりはしない。
アラシヤマを闇に落とすのはシンタローだ。
けれど闇から救い出すのもまた、シンタローしかいない。
(04/10/25)
PR