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kks
堅苦しい文字の羅列は眠気を誘う。
目で追っても、1行前の内容が頭の中へ入ったそばから抜けていく感覚だ。
それでも、結局書かれていることはどの紙も同じ。
遠征における報告書ばかりだから。
その殆どを、新総帥であるシンタローは自ら赴き、勝利を治めてきている。
部下の作成した書類に、形だけのサインをつけていく。
似通った文面であれど、そのサインを書くたびに自分が総帥であることを自覚していくのだ。
こんな些細なことなのに…と、思わず苦笑する。
座り心地の良い革張りの椅子に背をもたれ、天井を仰ぐ。
瞬きを数回したところで出たあくび。

「少し休んだらどうだ」

「っ!?…っんだよ、キンタローか。ビックリさせんなよ」

「気付かないお前が悪い」

「ケッ…」

面白くないと顔を顰め、何しに来たんだと悪態をついたシンタローに、キンタローは従兄弟の顔を見に来ただけだと不適に微笑む。

「…暇人」

「お陰様でな…」

嫌味の言い合いになれば、キンタローが一枚上手だ。
馬鹿々しいと、シンタローにもようやく笑みが零れた。
それを見てキンタローもより表情を柔らかくする。
キンタローは大きなソファへ腰を沈め、シンタローに目を向けると、既に書類との格闘に戻っている姿に眉を顰めた。

「少し休めと言っただろ」

「んなこと言ったってよ、しょうがねぇだろ。これが俺の仕事だ」

「…シンタロー、熱は正常か?」

「何が言いてぇんだ。ったく、喧嘩売ってんのかよ」

「ふっ、冗談だ。だが、余り根を詰めるのは良くないぞ」



図星……



父親の後を継いだと言っても、団そのものの体制が大きく変わった。
それを貫き安定させる為にも、シンタローは誰もが認める総帥になろうと必死になっていた。
それは決して悪いことではない。
寧ろ、昔から信望厚いシンタローをバックアップしようと、団内の士気は高まり、より良い方向へ動き出していることも事実だ。
しかし、背伸びをしていることもまた事実。
多少の虚勢を張らなければ、国を相手になど出来ないとは言え、シンタローのそれは少し違っている。
敵国に対してと言うよりも、自分に対する虚勢だとキンタローは見抜いていた。
自分に対しても厳くなるのは、シンタローらしいと言えばそれまでだが、煮詰まった状態が決していいはずが無い。

「キンタロー」

「何だ?」

「俺、無理してる様に見えるか?」

「……あぁ。お前だって自覚してるだろう」

「へっ、あのクソ親父の後とは言え、自分で引き継ぐと決めたことだからな」

「心配するな。お前は充分に総帥としてやっていける器だ」

「ったりめぇ~だ…と、言いてぇとこだけどよ、実際どうなんだろうな……」

大きな不安を抱え、計り知れない期待を掛けられる。
全てを承知の上で総帥の任に就いたが、消えない不安から生まれる焦りは理屈で言い表せるようなものじゃない。
暫しの沈黙に、キンタローはふと笑みを零し、シンタローもそれに目を向けた。

「これからのことなんて、誰にも判らない。だからやるしかないんだろう?」

「あぁ。言われるまでもねぇよ」

シンタローは座っていた椅子から離れ、キンタローの横へ腰掛けた。
座るなり大きく伸びをする。
やはり疲れの色が見えていた。
やっと書類から離れたことにキンタローは密かに安堵した。



────── シンタローの力になれることなら、いくらでも…



キンタローは、自然とそう思える自分が少しだけ不思議に思った。
24年という月日をシンタローの中で生きた。
外へ出た時、喜びよりも何よりも、ずっと表へ出れなかったことを恨んだ。
その矛先は他でもない、シンタローへと向けたのだ。
それが今では『キンタロー』として、『従兄弟』として、新総帥となったシンタローの右腕として傍にいるのだから、妙な話だ。
向き合うことで、接することでシンタローという男に惹かれた。



否……



もしかしたら中にいる時からなのかもしれない。
人を魅了する素質。
力だけでなく、強い心。
まっすぐな思い……
キンタローには全て聴こえていた。
感じていた。
24年間絶え間なく流れ込んでくるシンタローの精神が、まるで光の様に眩しかった。
それを手にしたくて、恨めしくて…
けれど、シンタローはキンタローの存在すら気付いていなかった。
焦がれる想いは誰よりも強く、誰よりもシンタローを知っていたのに、気付かれていないことが悔しかったのかもしれない。
そんな自分を振り返り、今を尊く思う。



ただ、少しだけ…
共に過ごした時間を懐かしく思った。



「────── っ!?」

ふと、キンタローの肩に頭を預けるシンタロー。
さらりと流れる黒髪が揺れた。

「何考えてたんだ?」

「いや…つまらんことさ」

「何だよ」



────── 口が裂けても言うまい。



「何でもない」

口許を吊り上げたのがまずかったか。
明らかに疑いの眼差し
口を尖らせ「嘘つけっ」と不貞腐れる顔はどこか幼い。
同じ顔の筈なのに…
そうしてキンタローは笑みを深くする。

「何ニヤけてんだよ、気色悪ぃな」

「心配するな、お前と同じ顔だ」

「あぁ?バカ言え。俺の方がイイ男だ」

ククッと肩を揺らすシンタローを見つめ、そのくすぐったい振動を静かに受け止める。
少し顔を横に向けると、二人の距離は僅か数センチ。
互いの吐息を感じる距離だ。
けれど、キンタローには遠く感じた。

「シンタロー…」

「あぁ?」

キンタローは、シンタローをそっと抱き寄せた。
変わらない視線の距離と互いの表情。

「片想いを思い出してたんだ…」

ポツリと呟いたキンタローに、へぇーと気のない返事が返される。
内心、いつの話だろうかと思考を巡らすシンタローだったが、それを聞くことはしない。
妙なプライドが邪魔をするから。
間を置いた中で、シンタローの思考がキンタローには手に取る様に判っていた。
この小さな満足感を胸に留め、答えを告げる。

「24年間ずっと…」

そうして返ってきたへぇーと言う返事には、関心の意が篭められていた。
随分気長なもんだなとでも言いた気な面持ちだ。



────── お前と共にする時間が何よりも愛しい…



皮肉なものだ。
24年暖め続けた気持ちは、通じるまでに1秒とかからなかった。












「早く言えよな」

「気付かないお前が悪い」


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