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smk

マジック×シンタロー風味のキンタロー+シンタロー バレンタインデー小説

************************************************

バレンタインデー1週間前。

「はぁ? チョコレートだぁ!?
 オヤジに? 俺が!!?」
「ああ。」

素っ頓狂な声を上げたのは、我らがガンマ団現総帥シンタロー。
執務室の机にて対しているのは片腕兼秘書役のキンタロー。
『バレンタインデーに愛を込めて……』とロゴの入った冊子をシンタローに渡し、言ったところだった。

「何か言われる前にマジック伯父貴に何か送れ」と。

「何でそんなコトしなきゃいけねーんだよ。
 別に俺とオヤジにはカンケーねーだろ?」
「1無量大数歩譲って、お前と伯父貴には関係ないとしても、
 お前達2人と仕事量には関係がある。」
「あ?」
眉をひそめるシンタローを無視して手帳を取り出し、なにやらスケジュールをチェックするキンタロー。
「今のところ若干の遅れがあるんだ。
 遅れと言ってもちょっと……2日ほど頑張れば何とか取り戻せる。」
「はぁ……」
「しかし、バレンタインデー前後にマジック伯父貴が騒ぎ出すとどうなる?」
「えーと?」
「お前逃げるだろ。」
「逃げ……ッ?」
「もしくは暴れるか。」
「ほほぉう」
「そうなると完璧に取り戻せなくなる。」
「ほぉ」
「ということで、ここはプレゼントを選ぶ時間の分だけ無駄にしても、お前達を暴れさせるわけには行かない。」
毅然とした態度で言ってくるが、いかんせん内容が情け無い。

「何か適当にプレゼントすれば向こうは納得するさ。
 そんなに気を背負う物じゃないだろう」
「あのなぁ……」
「決まったら呼んでくれ。
 それとも――――



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
――――くっそぉ……
内心歯がみしながらシンタローは呻いた。
口が自由に使えるのなら歯ぎしりの1つもしていただろう。
が、それが出来ない理由があって……
――――あのクソ親父……自分の思い通りにならねーとすぐこれだ……!
口に巻かれたリボンを噛みちぎる勢いでシンタローは体中に力を入れた。
それが無駄だと分かっていたけれど。

「シンちゃん。
 今年のプレゼントは最高だねぇ……」
目の前の扉が開き、父親が入ってくる。
シンタロー達が今いる場所はマジックの自室。
シンタローグッズで囲まれた中、リボンでぐるぐる巻きにされた本物が一人。

ギロリとマジックを睨め付けるが、彼は意に介さない様子で受け流す。
ベッドの上に放られ、身動きできない体を楽しそうに眺めつつ、ゆっくりと近づいてくる。
牽制のつもりなのか、う~~と唸るシンタローにむかって微笑みさえ浮かべ。

「そんな目で睨まないでくれるかな。
 パパ傷ついちゃうよ」
――――そんなタマか!
シンタローの視線がますます険しくなるのに肩をすくめ、
マジックはもう幅広のリボンを取り出した。
それで迷うことなくシンタローの目を覆い隠す。
「最近のリボンは、こんな太いのも市販で売られてるんだねぇ……」
楽しそうに呟きながら、マジックは息子の体から更に自由を奪っていった……

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「――――何て展開になるかも知れないぞ」
キンタローが言うのを、シンタローは机に頭を突っ伏して聞いて……いなかった。
「どうした?」
不思議そうに尋ねてくる双子(もどき)。
「どうしたもこうしたもあるかぁあ!!」
がばぁ!!と身を上げる。
その勢いで、机の上にあった書類が何枚か落ちたが、それを気にしている場合ではない。
「何でそーゆー話になるんだよ!!」
激高するシンタローに、キンタローは涼しい顔で、
「『バレンタインデー→プレゼント→リボン→縛りプレイ』だろ?
 それとも何か――――」
ここで一呼吸置いてから、キンタローはじっとシンタローの目を真っ正面から見据え……
「お前はマジック伯父貴が何にもしないと思っているのか?」
「――――う!」
マジック信用なし。

「プレゼントはこのカタログから選べば問題ない。
 1時間もあれば決まるな?
 適当に選んでくれれば後でこっちから注文しておこう」
シンタローが言葉に詰まったのを好機と見て取ったのか、どんどんと話を進めていくキンタロー。
「決めるのは良いんだが……」
「何もお前は「バレンタインデー用」のつもりじゃなくても良いんだ。
 日本式バレンタインデーだと思うから悪いんだ。
 『ちょっとお世話になっている人にお礼のつもりで……』でも問題はない。
 後は向こうが勝手に解釈してくれる」
「それが腹立つんだろうが……」

こっちが『いつもお世話になっているあなたへ』のつもりでも、
向こうが『俺……父さんのことが…………』などと解釈されたら泣くに泣けない。

が、勘違いと縛りプレイ。どちらかがまともかと言ったら……
扉から出ていくキンタローを見届けた後、シンタローはカタログをめくりだした。



「プレゼントってもなぁ……」
パラパラとカタログをめくり、めぼしい物を探す。
キンタローの言うとおり、本当に『適当』で良いのなら、パッと目に入った物でも良いのだ。
それでもそれをしない辺り、自分の気持ちと良心が現れる。

お菓子の詰め合わせ、花束、おそろいのカップやグラス。
色々あるが、どれも「コレ!」という要素に欠けている。
「う゛ーう゛ーう゛ー……」
カタログを受け取ってからとっくに1時間は過ぎている。

2時間後。
とっくに諦めたシンタローは、書類に目を通していた。

バレンタインデー前日。
再び総帥室にキンタローがやってきた。
「そういえばあのカタログどうしたんだ?」
「ああ。結局こうした。」
そう言ってシンタローは、真っ赤な包みを取り出した。

「……なんだコレは」
「チョコ。」
「……結局自分で作ったのか?」
「あぁ。グンマに材料買いに行ってもらってな。」

どうやら『何を送ろうかカタログ見て迷ってるなら、自分で作った方が手っ取り早い』と結論を出したようだ。
「明日暇見つけて渡しに行くさ。」
「そうか。」
言うシンタローの顔は、何処かすっきりしていた。
心の重荷が1つ消えたからだろう。


次の日。
つまりはバレンタインデー当日。


「じゃ、渡しに行ってくる」
ちゃっと手を挙げ、総帥室のドアノブに手をかける。
「頑張れ。」
処理された書類を確認しながら横目でキンタローは送り出した。



2/15日
時間には意外に厳しいガンマ団総帥が朝寝坊したのは、
既に全員の予想通りだった。
「……世話になってる礼だって言ったのに…………」
「あの男に通じる訳ないだろう」
「テメェ……言い出しっぺ」
「おかげで例年より遅れが少ない。良いことだ。」
「ほぉおおおぅう」
ギロリと睨み付けてみるが、キンタローはどこ吹く風で今日の予定を読み上げ始めた。






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変わらぬ声


夜中に寝ぼける癖はいつからか。
横にある温もりに、満足そうに笑うのはなぜか。
本人も知らない、切ない癖。


音をたてない様にと気をつけてベットから降り立つ。
時刻は午前3時。一般的には真夜中とされている時間に、一緒に寝ている彼を起こすつもりはない。
スースーと寝息を立てているのを確認し、そのままバスルームへと向かう。
ドアも注意して閉め、明かりをつける。暗いところからいきなり照明をつけたため、眼が眩む。
どんなに眩しくともとも月明かりなどでは絶対に目を覚まさないくせに、人工的な明かりが灯ると起きてしまう、なんとも奇特な彼の為にキンタローは細心の注意を払っている。
コックを捻ってシャワーを浴びる。そのときも思いっきり浴びたいのを我慢し、水の音が外に漏れないよう、気を付ける。
最近の激務続きで幾分細くなった彼が十分な睡眠をとっているはずもなく、出来ることならこのまま朝まで寝かせておきたかった。
とはいえキンタローのほうも学会が近く、今まさに追い込みであり、これから研究室のほうへ行かなければならない。
そうでなければ、このまま朝まで暖かさを共有していた。疲れている彼を癒すためにも。
服はサイズが同じなため、少しばかり拝借する。それは寝る前にここへと運んでおいたものだった。
照明を消し、ドアを開けるとベットのほうに向かう。ここから出て行く前に、もう一度彼の顔を見るために。
覗き込んで顔を見ようとすると、うっすらと目が開いた。
起こしてしまったことに対して、謝ろうとする前に、彼が口を開いた。
聴きたくない言葉を、発するために。
「ん…パプワ…まだ、寝てろ…」
そしてぐいっと体を引き寄せると、また寝息を立てる。
満足そうに、笑いながら。
帰ってきてからどれくらい経つのだろう。
一緒に、こうして同じベットで寝るようになったのは何回目だろう。
それでも、時々こうして隣にいる男のことを間違える。
幸せそうに、嬉しそうに笑って。
本人も自覚していない、彼の癖。
ささやかな、悲しく、切ない癖。
それでも、キンタローはその癖が嫌いではなかった。
これから先、こうして一緒にいるのは自分だから。
いつか、自分の名前を読んでくれると信じているから。
そして、この癖を知っているのは――自分だけだから。
しわくちゃになってしまうであろう服に少し申し訳なく思いながらも、キンタローもシンタローの体に手を回し、眠りについた。


朝日によって目を覚ますと、自分が抱きしめているものにそっと目をやる。
そして、自分はまたやってしまったのだと気が付く。
日を受けてきらきらと光る髪をそっと梳く。
相手の服が自分のものであることを確認し、苦笑した。
キンタローが夜中に研究室に行くことは時々あり、この部屋から向かっていくこともあった。
ごそごそという音に目を覚まし、出かけていく彼に声を掛けたこともある。
こうして、寝ぼけて阻止することも。
そんなとき、彼はどんなに忙しくともこの手を解いたことはなかった。
そのまま一緒に傍にいてくれる。腕を回し、その暖かさを与えてくれる。
こうして、我侭に付き合ってくれる。
「ありがと、な」
耳元で囁くと回されている腕を起こさないように気を付けながら解き、起き上がる。
いつもはコーヒーとトーストで済ましてしまう彼に、美味しい朝食を作る為に。
その言葉を聴いて、満足そうに笑っているキンタローに気が付くこともなく。



悲しい癖も、こうして暖かく変わっていく


だから、この癖を変えないで


たとえ、求めているものが違っていても


結局は選んでくれるのでしょう?














「3時のお茶会」のかな様のところで配布されていた素敵小説ッ!
5000HIT記念だそうで、FDとなっているところ速攻で強奪ダウンロードしてきました。

5000HITおめでとうございます!
その上こんな素敵な小説をフリーで配布してくださるとは……本当にありがたいことです。
パプワくんとキンちゃんとシンちゃん!(パプワくんいないけど)
ものすごくツボな……、読んでいて思わず涙ぐんだんですが。
すごく切ないのに、それでもほっとできるような。
私のボキャブラでは語れないっての。読めばわかると思いますです。
無意識の確信犯(んだそりゃ)なシンタローさんに愛です。
ああもうキンタローさんてばッ!

本当に素敵な物をありがとうございました。
これからも頑張って下さいませ~。



s






「じゃあ、お父さんお仕事がんばってねっ!」
「うん……行ってくるね…………お父さん頑張ってくるよッ………!!」
「兄さんいい加減にしてくれ」



ごすッ。



マジックの後頭部に容赦のない蹴りが入る。
腕に抱き込まれているシンタローには無論分からない。
先程から上記のようなやり取りを何回繰り返しているのだろうか。
だばだばと血涙を流しながら息子を抱き締める兄にいい加減にしびれを切らしたサービスが、その首根っこを掴んでシンタローから距離を取らせる。
「いい加減執務時間は始まってる。チョコレートロマンスが困ってるだろう」
戸口には総帥付きの秘書の一人、チョコレートロマンスが時間を気にしながらマジックを待っていた。
手には書類の束。
「シンタローのためにも行け」
ここでマジックがぐずぐずしている間にも仕事はたまり、後で苦労するのはシンタローで。
結局会う時間は少なくなってしまう。


「じゃあグンマキンタロー、後は頼んだぞ」
「うん、叔父様も頑張ってね」
「じゃあシンタロー、俺達も行くか」




シンタローが外見中身共に五歳児になってから早10日。
繰り返される朝の風景に、サービスの口から溜息が漏れるのもいつものことだった。


















君がいるから僕がいる。


















「データをなくしてしまいました」
その高松の言葉にガンマ砲が数発たたき込まれた。
それでも威力が弱かったのは五歳児シンタローを皆が可愛がっているからだろう。


「生きてるか高松……?」


唯一高松に安否の声をかけるジャンは、ここで高松がくたばってしまったらなんのことはない、己にその役目が回ってくると分かっているからだ。
グンマは工学系だしキンタローもバイオ系にはまだ特に手を付けていない。
よって生体科学者を目指しているジャンは丁度良いわけだ。



「………作れないとは言ってませんよ、ただ時間がかかるだけです」
幸いサンプルが残ってますし。
「俺も手伝おうか」
焦げている高松がよれよれになりながらも声を出す。
その言葉にジャンがほっとした顔で手伝いを名乗り上げれば、他からストップが掛かった。
「ジャンにはシンタローの代わりやって貰わないと」
「そうそう、同じ顔なんだしね」
「俺が総帥の仕事できるわけないだろ!?」
しれっとした顔でとんでもないことを言うサービスとマジックにジャンは抗議の声を上げる。
が。
「何も総帥の仕事をやれとは言っていないよ。流石に無理だろうしね」
「その辺は兄さんに任すとして、外交はジャンがやらないと。兄さんでも顔は十分利くんだけどシンタローの不在を知られたくないからね」
「それって結局総帥の仕事……」
「ああ、別に遠征でもいいね。顔も同じだし能力も変わらない。うってつけじゃないか?」
弱々しくジャンがなお抗議しようとすればあっさりと切って捨てられた。
「チョコレートロマンスやティラミスには流石に知らせるけど、あまり広めたくないからね……、その辺はやって貰わないと」
私だって本当はシンちゃんと過ごしてたいんだけど。
流石にガンマ団が機能しなくなるのはまずいと思うらしい。
不満そうな顔のマジックに、仕方なくジャンも言うことを聞くことにする。
「じゃあ僕は兄さんとジャンのサポートに回るから……」
「シンちゃんは僕たちが見てるね!!ね、キンちゃん!!」
「ああ」
嬉しそうなグンマに、キンタローも頷いた。
確かにこの二人に任せておくのが一番だろう。
それぞれの役割を決め、秘書二人を呼びだしてこの話はおしまいになった。








そして日にちは過ぎ朝のような状態を繰り返す。
サービスの役目はすっかりマジックの見張りとなってしまった。
意外にもジャンは割合平和に日々を過ごしている。
近しい者には事の次第を教えてあるし、それ以外の者には特にばれるようなことはなかった。
高松の薬が出来上がるにはもう少し掛かるらしいが目途はたったようで。
従兄同士は今日も楽しく過ごしていた。





















「シンちゃんプリン食べるー?」
「食べる!」
「それじゃお茶を入れるか」
三人がいるのはグンマの研究室内。
個人用の研究室内は休憩スペースもきちんと取ってある。
決して急ぐ研究もしていなく、シンタローが二人の邪魔をするということはなかったので時間をとることは簡単だった。
研究片手にシンタローを構うのが二人の日課。
キンタローがお茶を入れてくれば、グンマは嬉しそうにシンタローにプリンを食べさせていた。

「はいっ、シンちゃんあーんv」
「あーん」

これほどまでに甲斐甲斐しく誰かの世話をするグンマというのはキンタローは初めてみる。(他の誰もにとってもそうであるが)
掬ったプリンを口に運んでやり、少し汚れた口元をすかさず拭いてあげている様はまるで母親のようだ。
思えばグンマは保護する対象とされるばかりで、このような経験は初めてなのだろう。
幼い頃周りはすでに大人ばかりであったし、同い年のシンタローと言えばグンマをひっぱっていく立場。
シンタローの弟は幼いままに幽閉されたと聞いたし。
守る対象がいることはやはり違うらしい。


煎れてきたお茶をテーブルに置くとグンマは人なつっこいその笑みでキンタローを振り向いた。
「ありがとうキンちゃん!早く一緒にプリン食べよ」
「ああ」
そしてにこやかに笑みを返すキンタロー。
そんな二人に嬉しそうなシンタロー。
微笑ましい、理想の家族がここにあった。





















「………兄さんこの部屋の監視カメラを外されたくなかったらいい加減仕事を再開してくれ」
「ううう……シンちゃーん………グンちゃんってばずるい~それは私の役目だったのにッ」
「グズグズ言ってるとモニター消すよ?」
先程の三人の様子を逐一撮している監視カメラ。
送られている映像に付きっきりの現総帥代理なマジックをサービスは内線片手に見張っている。
手だけは動かし始めたのでカメラ没収は止めにするがいちいち愚痴を聞いてるのは胃に悪い。
と言うよりストレスが溜まる。
息子が可愛くて仕方ないのは知っているがそこはそれ。
マジックの仕事が片づかなければ自分だって構いにいけやしない。
「僕もシンタローに会いに行きたいな…」
「サービス駄目だぞ!私だって我慢してるんだッ!!」
「だから早く仕事終わらせればその分我慢しなくても良いだろう。兄さんが終わらなきゃ僕だって行けないのは重々承知なんだから」
ポツリと零せばほんっきに泣きそうな兄の態度にサービスでなくたって情けなくなる。
前に抜け出そうと試みたがその後チョコレートロマンスとティラミスの二人に散々泣きつかれて結局時間は潰れたことは記憶に新しい。
「こういう役割はハーレムの筈なんだけど」
とりあえず仕事は有能ぶりを発する兄を見張りながら、サービスは溜息を深く付いたのだった。

























「シンちゃん寝ちゃったねぇ」
「小さいからな、体力がないんだろう」
気付けば寝息を立てていたシンタローを、キンタローがそっと抱き上げる。
近くのソファにと寝かせれば、グンマが毛布を出してきた。
首元まできちんとかけてやりながらその頬を指で軽くつついた。
「知らなかったな」
「……何をだ?」
「シンちゃんも、僕と同じだったんだってこと」
額にかかる少し長めの黒髪を払ってやりながらグンマは続ける。
「このころは、も、かな?何をするにもシンちゃんが僕を引っ張ってくれてね。同じ年な筈なのに僕にはすごく大きく見えてさ、シンちゃんに無理な事ってないんだろうなって思ってた」
自慢だったしねー、そう言うグンマが、口調の割には憂いを帯びて見えるいるのは気のせいではないだろう。
愛おしそうに、けれど何処か切なそうにその指でつうっと頬を撫ぜる。



「シンちゃんのこと好きだったけど、すごく羨ましい部分もあったんだよ。僕のお父さんは死んだって聞いてたし」
その死んでいたはずの父親はキンタローの父親で。
シンタローの父親こそがグンマの父親だった。
勿論グンマにもマジックは優しかったし、父親同然に愛してくれる人が傍にはいた。
それでも。


「何をするにもシンちゃんは僕より上だったし……。シンちゃんは一族の異端だって言われてたけど、僕は力が使えなかった。勿論研究の方が好きだったのも事実だけど、やっぱりね」
ぽつぽつと語るグンマの話は全てキンタローには初めてのことだ。
時々『見える』ことはあったが内心の様子など知るべくもなく。
その明るい笑顔に曇りを見いだしたことはキンタローは一度もなかった。
「弱いだなんて思ったことなかった、僕の前で泣いた事なんてなかったから」





「我慢してたことを、僕は分かってあげられなかった」





「……………グンマ、」
「シンちゃん、どうだった?キンちゃんにはどう見えてた?」
泣きそうに顔を歪ませたが、涙は流さなかった。
あのときの、シンタローのように。
グンマの言葉にキンタローは何と言おうかしばし悩んだ。
自分にあるその記憶は憎んでいた記憶が強く、他の記憶がすぐに思い出されない。
自分は外に出られないのに、自由にその体を使っている彼が。
愛されて、明るい笑顔を向けてもらえる彼を。
自分は。










彼がいるせいで自分は孤独でけれど彼がいるから孤独ではなかった。










「夢みたいだった」
「……………夢?」
「ああ」
シンタローの寝顔をのぞき込みながらキンタローは思い出す。
彼がこうやって眠ると会えた。
会おうと思って会っていたわけではない。
ふっとその存在と向き合って。
そしていつの間にか姿を消す。
掴めそうで掴めない、あやふやなその存在。
「実際俺もよくは分からない。ただ同じように成長しているのだけは分かったかな………」
思い出そうとすれば余計に靄が掛かったように薄れる記憶。
いつも泣きそうだった男が、切なそうに笑っていたのはいつの頃だったか。



「ん、…………」



寝ているシンタローが寝返りを打つ。
零れた声に起こしてしまったかと二人はどきりとしたが、起きる様子はない。
収まりが悪いのか少し体をもぞもぞとさせ、眉間に小さくしわを寄せている。


「「あ」」


すうっと消えた額のしわ。
落ち着いた寝息に二人は安堵と嬉しさを覚える。
小さな手に握られた二本の指。
きゅっと強く握られた手からおくられてくる体温は少し高めで。





「小さいね」
「ああ」





守りたいと、そう思う。

























「…………………兄さんいなくて良かったな」
その様子を観察している者が一人。
総帥室でモニターを眺めているサービスだ。
微笑ましい風景は、マジックがこの場にいたらぶちこわされていたことだろう。
マジックは外交のために席を外していた。
ジャンが遠征の方の様子を見に出かけていたためだが、本気に良かったとサービスは思う。
暴走するマジックを止めるのはシンタローの役目だ。
ガンマ砲の2、3発でも放っておしまいとなるのが常なのだが今はそれが通用しない。
何しろ父親にべったりだった時期。
奇異な視線を向けられる中父親だけが信じられるものだったから。
子どもだからこそ好意的でない雰囲気を敏感に感じ取れる。
シンタローにとってマジックは本当に唯一縋れる者だったのだろう。
「……………ん?まて」
そこでふとサービスは気付いた。
シンタローが子どもになってしまったその日。
これまで誰もが知らなかった、いやキンタローだけは知っていただろうがシンタローの抱えていた秘密。
「知ってたんだよなシンタローは、キンタローが自分の内にいることを」
マジックのいる間は仕事の邪魔になると消音にしておいたモニターだが、一人になってからはしっかりと音も聞いていた。
無論二人の会話も全て承知している。
キンタローの言葉から察するに。

「……自分の中にいる同い年の少年。しかも金髪に青い目……」
マジックに似ているのがどちらかと言われれば、答えは一目瞭然だろう。

「―――――――知っていた?」

あんなころから?



「もう今更だが………」



他に気付いている人はいるのかいないのか。
本当に今更なのだが。
なんだか酷くサービスはやるせない気になったのだった。




































「シンちゃんは僕が守るって決めたの―――――!お父さまは総帥やってていいから!!」
「ひどいグンちゃん昼間ずっとシンちゃんに付きっきりなんだから夜ぐらい一緒に寝かせてくれたっていいじゃないかッ!!」





ぎゅうっとシンタローを腕の中に抱き締めたグンマは、あのマジックと対等に争いを続けていた。
無論幼いシンタローの手前ガンマ砲を使うわけにもいかないので本気でないと言えばないが、このグンマはキンタローのサポートがあったとは言え初めて見事なガンマ砲を撃った。
力がないわけではなく、ただ無意識に抑えてしまっていたのだろう。
彼の子どものころも色々とあったのだから。
それはマジックの本当の息子という事実の前に解けたのだろうか。
けれどあれ以来彼は特にその力を伸ばそうという気はないようだった。
確かにグンマには白衣を着て工具をいじっている方がよっぽど似合う。
楽しそうであるし。
けれど二人で本気になったらガンマ団崩壊も嘘ではない。
そんな意味ではある意味平和に言い争い。
両者とも一歩も譲らない。



「…………グンマは絶対誰かの保護が必要な人間だと思ってたんだけどね」
「あいつはあれで芯が強いし意外に頑固だ。周りが勝手に勘違いしてるんだろう」
ポソリと零したサービスの言葉を、キンタローが返した。


「グンマには俺も色々と……支えて貰っている」


相変わらず淡々と喋るキンタローにサービスは尊敬していた兄の面影を見いだした。
そう。
事の始まりは自分らの復讐。
冷たいとしかとれなかった長兄への的外れな恨み。
愛して止まない自分の息子が、弟の息子だと知ったときのその驚きを。
若かったなぁと。
サービスはそうひとつ思うことでこのことは流すことにした。
過去に捕らわれるのはもうまっぴらだ。
どれだけ何を思おうが変わることはない事実なのだし。





「兄さんの息子だしね」
「ああ」






「杞憂だったなぁ」
「何がだ?」
「うん、いやつまらない話し」
血のつながりがどうだとか。
もう本当にそんなことは関係ないだろう。
これだけ本気に愛して貰っているのを感じ取れない人間はいない。




「シンちゃんは僕と一緒に寝るの!!」
「駄目だよ!!シンちゃんは夜中よく寝ぼけてお気に入りのぬいぐるみと間違ってちゅうしてきてくれるんだからいくらグンちゃんでもその役は譲れない!」
「あ、ずるいそんなの初耳だよ!!」









………………例えそれが激しく通常の愛情を逸脱していたとしても。







『シンちゃんはどっちと寝たい!?』
「みんなで一緒に寝よう?」
『そうだねv』












本人がとても幸せそうなのだから。
















「なぁキンタロー」
「ん?」
「お前シンタローのこと好きか」
じっとキンタローを見つめるアイスブルー。
キンタローはその言葉に一瞬きょとんとして。













「ああ」
迷いのない笑顔で彼は言いきった。






























「で、ジャン私はコレをどうするべきでしょうか」
「そだなぁ廃棄処分?」
「勿体ないですよね――――、かなり良い出来なんですけど」
「でも多分見ない振りされる気がするぞ俺は」
「私もです」
「なーんか水差すって言うかさぁ」
「悪者ですよねまるで」


はぁ―――――――。


廊下の隅っこ壁際で。
ヤンキー座りで秘密会議をしている大人二人。
でかい溜息が漏れるのも無理はない。




「シンタロー元に戻るのいつだろうな」




完成された薬を目の前に、二人はやはり溜息を付いたのだった。




 
 


後日談。




「なぁシンタロー……」
「おめいつまでここにいるつもりだべ」
幹部用の寮部屋。
総帥がいるのはおかしくないのがここまで入り浸るのはおかしい。


「……………………」


目立つ赤いブレザーではなく、一般団員と同じ制服。
紛れていれば自分たちはともかく、兵士達にはあまりばれない。
最近姿を見せてなかったと思いきやいきなり居座り始めたシンタローにミヤギ達は疑問顔。
私宅にシンタローはもう何日も帰っていない。


「シンタロー、グンマ博士が心配してたけぇ戻ったらどうだ?」


ぴくりと肩を動かすシンタロー。
しかし動く様子は欠片もない。


やれやれといったようにミヤギトットリコージの3人は肩をすくめた。
こんなになったシンタローが動くとも思えない。





「……………いたら迷惑か?」





「いや別に迷惑ではないっちゃよ?」
「ただなぁ、おめさんの家族がえらく騒いで仕方ないんだべ」
「わしらはかまわんが他の奴らがのぅ」



ようやく返ってきた声にコージ達は順に答えを返す。



「シンタローはん!わてはいくらでもいてくだはってかまいま「おめは黙ってろ」
「ややこしくなるっちゃ」



しゅぴっと出した生き字引の筆で古毛四と書かれるアラシヤマ。
トットリがコージの方に追いやってコージはそれを部屋の奥にと片づけた。




             んだ。
「「「…………何があった」」」っちゃ。
             だべ。




重なった3人の声にシンタローは。







「聞くな」






「「「はい」」」







総帥が通常業務に戻るまでもうしばし。








「どういう顔して今更会えってんだよッ」
総帥談。














2



「うぁーん、チンさんなんかに負けちゃったわいや~!!」
「こんのクソがきゃあ!負けてもその言い草かッ!!」


第三試合はトットリVSジャン。
なかなかに良い試合はしていたと思うが、やはり実戦の差が大きかった。
一つ大がかりな技が出たかと思うと、トットリが地に倒れ伏していた。
完全に気を失っているその状態に勝利者はジャンとなる。

大きく勝利者の名をティラミスが挙げた途端、目を覚ましたのは流石だろうか。
しかし、本人的にはあのジャンに負けたことが本当に悔しいらしく、参加者席に戻っても顔を膨らませている。


「トットリ~、しょうがないべ?」
「そうそう。 無駄に 長く生きてるんだからそりゃもう ずる賢い手を使う のは天下一品だぜぇ? 不意打ち食らった 俺が言うんだから間違いない!」


「――――…本当にお前俺嫌いだよな………!!」
「好きだなんて言ったこと一回もねぇ」



肩を叩くミヤギに、シンタローもトットリを慰めている。
というかジャンを苛めている。
勝ったはずなのになんだかとんでもない仕打ちを受けていやしないだろうか。
けどこれで負けていたとしても激しく罵られるに違いない。

結局どっちに転んでも自分に良いことなぞないジャンは、だくだくと血の涙を流しながら肩を落としている。


「キンタローどうした?救急箱なんか持って」
「いや…二人とも大きな怪我はないがかすり傷が多いから…手当はして置いた方がいいだろう?ジャン、ほら右腕のところ血が出てる」


姿を消していたキンタローが、緑十字の付いた木の箱を持って帰ってくる。
それに首を傾げれば彼は中身を出しながら説明をしてくれた。
トットリの隣にいるミヤギにも、消毒液やらカットバンやらを手渡すキンタローはジャンの腕を軽く引いた。
自分の隣りに座るよう促せば、ジャンの顔がへにゃりと歪んだ物になる。


「キンタロォっ!!お前だけだ俺のことを労ってくれるのは………ッ!!」


バッと両腕を広げて、消毒液片手にジャンを真っ直ぐ見据えているキンタローをジャンは感激の勢いに任せて抱き締めようとした。

が、それはかなわない。


ものすごい速さでキンタローの横から足(スニーカーだったはずがいつの間にか軍用ブーツに変わっているのがさらに辛い)が伸びてきて顔面にジャストヒット。
めきょ、と完璧に足がのめり込んだのをまって後ろから首根っこを捕まれたジャンは勢いよくキンタローから引き剥がされる。(いや、まだ手も触れてすらいなかったが)


ふらりと意識が遠のきそうになったが、そこは元赤の番人。
こんな大勢の前で、(しかも試合でもないのに)気を失うなんてプライドが許さない。(まだある、あるんだ!)
ぐらりと揺れる視界をなんとか正常に保って、衝撃の元へと口を開いた。



「てめなにしやがるシンタローッ!」
「テメェこそ何馴れ馴れしく触ろうとしてんだ、あぁ!?」

こっちだって本気(とかいてマジと読む)で怒るぞと凄んでみせれば数倍増しの睨みでもって返される。

やばいやぶ蛇だった。
と思ってももう遅い。
キンタローをしっかりと抱えるようにしていたシンタローは、彼をさりげなく自分の後方にと押しやるとずずいっと前に出てくる。
それに合わせてジャンも後ろにと身体を仰け反ろうとするが、いかんせん首根っこを捕まれた状態では不可能だ。
というか、掴んでいる人物も確認したいのだがひしひしと感じる殺気に振り向きたくない。


「お前なんぞに触られたらキンタローが減る!」
「減るって、減るわきゃないだろッ!!」
「いいや減るッ!なんか絶対悪影響が出る!!」
「アホかぁぁぁぁぁッ!!」

ぜぇぜぇと、声を張り上げながら(もしかしたら試合中よりも疲れるかも知れない)シンタローの容赦のない言い分にジャンは項垂れる。

神様(つうか秘石さま?)、そんなに俺悪いことしましたか?

いや確かにシンタローに恨まれる節は色々と思い当たって思い当たりすぎていやなんですけども。


「シンタロー、何か問題でもあったのか?」
「ああ大有りだ。大有りだからお前はこの紙に書いてあることを口に出して読め」

かさりといつの間に用意していたのか小さな紙切れを、キンタローに手渡すシンタローの目線は鋭い。
確かに色んな事をしたけれど。
どうしてここまで俺だけが恨まれなきゃいけないんだろうか。
隅々にまで棘があるシンタローの言葉の暴力はいい加減辛い。



「小鳥の首キュッキュッ」
「ゲフォッ!!」


背後で激しく嫌な音がした。
背中にかかる生暖かく錆くさいものから意識を逸らしたい物の、そんなことをさせてくれるほど青の一族は優しくはなかった。


「シンタローてめぇ何考えてやがる!?」
「あ……、これ対ハーレム用のやつだったわーるい」
「んな爽やかな笑顔で誤魔化される思ってんのかぁッ!!」


間に挟んで怒鳴り合わないでください。


そんな願いが届くはずもなく、いつ終わるのかと思いながらジャンは細く息を吐くのだった。




「シンタロー、コージを応援しなくて良いのか?」
「あ、やべ試合始まった?」
「いまチョコレートロマンスが開始の合図をしたところだ」

キンタローの言葉に、シンタローはぱっと意識を切り替える。
ああ流石だなと思いもするが、結局はただの気分の問題か。
天然俺様め……!!と、もう口に出すことすらしたくない。
ハーレムもコージの対戦相手はGなことから興味を無くしたようだ。
ぱっと手を離されてぼとっと地に落ちる。

キンタローが遠くでなにやら心配してくれるような声が聞こえるけれどもいいんです。
シンタローもハーレムも俺をあんたに近づけたくない理由は、よく分かるから。


次の試合が始まるまで寝ていよう。
そっと掛けられた毛布と、横に置かれた救急箱に涙が滲みつつ。
今度こそジャンは意識を遠ざけたのだった。






「シンタロー、本当に良いのか?」
「いーんだよ別にあいつはあれで」

まだ気にかけたように後ろを振り返ろうとするキンタローの腕を無理矢理引いて、椅子にと落ち着く。
キンタローはそんなシンタローに肩をすくめながらも隣りに腰を下ろした。

「あーもう、チンさんにはまだまだ敵わないっちゃ」
「あれでやっぱり強ぇんだべな~」
「やっぱり基本がすげぇしっかりしてるんだよな、むかつくことに。年の功には勝てねぇ」
「やっぱあれだべか?技と体捌きはどっちが得意なんだべか」
「ん~、体捌きは僕も自信あったんだったちゃ。けどやっぱりあの衝撃波と組み合わせられるとかなり…」
「あれはすごかったなー…、途中で俺も目追い付かなかった」
「ギリギリ動きは追えたんだけど、反応しきれなかったっちゃ~…」


「……………………」


いきなり真面目に先程の試合に話し合い出す男達に、キンタローはしばし考え込む。
口元に手を当ててそのまま三人の話を聞いているが、不意に手を叩く。


「本人の目の前では素直に言いたくないのか」
「アイツの実力だけは認めるが、それ以外は認めてない」



きぱっと答えるシンタローに、キンタローは珍しく苦笑を零した。
そんなキンタローを軽く小突きつつ、シンタローはコージの試合を集中して見始める。


コージとG。
二人は割と正当派な戦いをするが、それでも気になることがひとつあった。




「なぁ……コージの必殺技って、何」
「「さぁ」」


シンタローの呟きは、即座にハモって答えられた。
そこまで来るといっそ清々しい。
多分、そうだ。
そうなんだ。



「ねぇよな」
「「うん」」




誰もが思っていて口にしなかったこと(いや前に本人が言ったような)をあっさり口にしたシンタローに、ミヤギとトットリもあっさりと同意する。
その会話を聞いている実は割と常識人なロッドがそれで良いのかお前等と内心でツッコミを入れているが、口に出すことはしない。(だって新総帥天然俺様だし)

なまづめハーガス君がいるわけもなく、キヌガサ君を担いでリングにあがるわけもいかず。(って言うか持ち帰ったっけキヌガサ君)



「でもこの間、確か相当良い日本刀を強化してくれって……」
「あ、そういや持ってるな」
「勿体ないかと思ったんだが、ここには特殊破も多いし……、元の切れ味は変えないよう強化コーティングを施してある」


確かに、リング上にいるコージはその手に日本刀を握っていた。
肉弾戦をやっている今、Gに間合いを計られてなかなかそれを取りだすことはしていない。

次々に繰り出されていくその拳を避ける。
力の込められたそれはとても重そうだった。
実際一つ、地響きが鳴るたびにリングの形が変わっていく。


「――――…これ、次の試合出来るのかぁ?」
「一応修復作業員は待機させているが…、それじゃ間に合いそうもないな」


ドゴッ、と鈍い音と共にリングまわりにリングの破片が増えていく。
見る見るうちに数を増すそれを、キンタローが眉を顰めて見つめている。



「キンタロー、発注」
「ラジャ」

言うが早いがキンタローは席を立ち、後ろの方で携帯片手に話し始める。
それを確認してシンタローは改めてコージの試合を見やった。


スピードこそジャン達よりは遅いが、やはりパワーが桁違いだ。
まともに受けたらかなりのダメージだろう。

今のところ優勢なのはG。
コージは避けるのがやっと、というところだろうか。


「コージ根性見せろ――――ッ!!」
「G!若輩者に負けるんじゃないぞ!!」


シンタローのコージへの声援に、マーカーからもGへ声が飛んだ。
ふっとそちらに顔を向けると同じように彼もこちらを向いており、目があった瞬間にやりと笑ってやる。



「とてつもなく今更かも知れないが」
「どしたべキンタローさん」
「何か問題あったっちゃ?」
「シンタローは主催である総帥なくせに、特定な人物だけを応援して良いのか?」

キンタローのそんな疑問は。
本人によって解決される。


「総帥の前に一人の人間だし?」


その言葉にキンタローは、小さく息を吐くことで終わらせる。
まぁたしかにその通りではあるし。
コージとGの試合に到っては、今までで一番まともな声援だろう。(と言うか今までは対戦相手側に私怨がありまくりだった)


「コージはどうだ?」
「ってお前もコージ気にしてるじゃん」
「いや、俺が改良した日本刀がどう使ってるか気になって」
「それもなんか酷くないか?」
「俺はGにも世話になっている。この試合はどちらかだけは応援しにくい」

ああなるほどと。
シンタローは数回小さく頷く。
最初にキンタローが接したのは特選部隊のやつらだ。
何も知らないキンタローへ、多少の事柄を教えたのは彼らであって。
それが残っているキンタローは、まぁ彼らに懐いているんだろう。
なんだかんだでハーレムもキンタローのことは気にかけているようだから。


「しっかしなかなかコージに間合いを詰めさせないな」
「そうだな……、これで終わりにはならないだろうが」


ドッゴォォォォッツ!!

ひときわ大きな音がしたかと思うと、参加者席の目の前にこれまたひときわ大きなリングの破片。
ぱらぱらと余韻なのか、細かな石の破片が最前列で見物していたシンタローとキンタローにふりかかる。
目の前に大きく立ちふさがった石の固まりに、シンタローは無言で右手を構えた。


「「眼魔砲」」


チュドドォォォォォン。


威力を控えめにした物の、それが二つ重なってはあまり意味がない。
思ったよりも飛び散った破片に、ぎぇだかぐぇだかひきつった声がしたが聞こえなかったことにしよう。
どうせ不死身なヤローの物だし。


「正直どっちが勝ってもよくなってきたんだけど俺」
「そう言うこというな主催者」


思ってもないくせに、と続ければ意味深な笑いが帰ってくる。
確かにある意味膠着状態なのは認めるけれど。
コージは必殺技を持っていない分、人との手合わせをよくしている。
素早さに関しては1、2を争うトットリや、間合いを取ることには長けたミヤギ。
そんな彼らと(もう一人いたような)修練を積んでいるコージは、少しだけ遅いGの攻撃をずっと避けている。
しかし、そこから攻撃に転ずるまではGは許してくれないのだ。


いい加減、二人の緊張感もピークに達しているだろう。



「頃合い見計らって……、出るな」
「確かGの必殺技は………」


「「―――――――――――……」」



「「リング発注して置いてよかった」」




二人揃って脳裏に浮かんだGの必殺技に。
改めて自分たちの行動を褒めるのだった。











トォンと、遠く間合いを取る。
リングの端と端。
そこにお互い位置して相手の様子を伺っている。
すでにリングは何度も叩きつぶされ、平坦な部分の方が少ないくらいだ。

チョコレートロマンスが、よろめきながらなんとか試合の様子を見定めていた。




「なかなか……、やるな」
「これでも鍛えてますんで」

へろっと笑って返すコージに、Gはすっと構えを取る。
相手の力量を見くびるわけではないが、それでもコージは思っていたよりも良い動きをしていた。
しかし、それ以上はなかなか踏み込めなかった。
このままではお互い膠着状態。
試合を長引かせても、体力を無駄に使うだけだ。

あまり使いたくはなかったが、とは思うがこれは真剣勝負。
本気で行かなければ相手にも失礼だ。


そう判断したGは、思い切りリングを蹴りつけ高く飛び上がる。

コージの間合いよりも、自分の技の方が広い範囲。
たぁんっと軽い音をさせたかと思うと、その手をリングにと思い切り叩きつける。






「地爆破ッ!!!」


手を突きつけた先を中心に、地面から振動が怒り爆発が起きる。
一撃必殺の技。
範囲をコントロールするのが面倒な技だが、破壊力はそれと引き替えにしても十分だった。
コージの身体能力なら再起不能ということはないだろう。

そうGは考えていたから、少しばかり気のゆるみが出てしまっていたのだ。


真剣勝負といえど、これは命を賭した勝負ではない。(それはごく一部を除いて、だが)
常識人であるがゆえに招いてしまった油断だった。


もうもうとたちこめる砂煙と、爆破の煙。
それに紛れて。
まさかコージが空から飛んでこようなどとは。



「――――――――…大文字、」
「なッ――――…!?」



「斬りィッ!!!!!!」





キラリと煌めく日本刀が、大きく振りかざされるのが目に入った。



















「チョコレートロマンス無事かぁぁぁぁぁッ!!?」
「死ぬかと思ッ………!!!」

参加者席はリングと近い。
けれど参加者席にいるのは皆自分の身は自分で守れる。
そして、一般団員席までは届かない範囲の技。

けれど。

リング上で司会を務めなければいけない総帥秘書はどうなのだろうか。


Gが必殺技を繰り出すだろうと言う予想は付いていたが、司会者のことがすっかり頭か抜け落ちていたシンタローは、技の発動と共にそれを思い出した。
大きな爆発音に耳を押さえながらその安否を問えば、弱々しくぐしゃぐしゃの声が返ってきた。


「よし死んでねぇッ!!」
「――――…シンタロー…」

お前それはないだろうと、呆れた声がかけられた。
確かにチョコレートロマンスだって、ガンマ団の一員で人並み以上の能力を持っているが決して戦闘要員ではない。
それなのに誰よりも間近で試合を見届けなければいけないという、実はさりげなく一番危険な仕事をしているのだ。


「大丈夫大丈夫特別ボーナス弾むし」
「何かあったら使えないだろう…」


もうもうと爆発の凄さを見せる煙を見つめながらキンタローは深く溜息を付いた。
本当に危険になれば助けを出すのだろうと分かっているので、別に良いのだが。(いやよくないです)
それでもあまりと言ってしまえばあまりな発言に、キンタローの眉間には深くシワが刻まれる。


「美人が台無しだぞ」
「………その基準が分からない。それに俺はお前の顔の方が好きだ」
「おー、そうかじゃあ俺自分の顔大事にするからお前も大事にしろ」




「――――…誰かつっこめよ」
「試合前に無駄に命張りたくありません」

疲れたようなハーレムの声音に、マーカーが淡々と答える。
確かにその通りであるが。
誰か奴らに常識という物を教えてやってくれ、という願いを叶えるよりも素手でドラゴンを倒す方が万倍も楽だ。
ふ、と遠い目をしながらハーレムは試合の行方を冷静に(ある意味現実逃避)見ていた。


「どうだろうなぁ……」
「影が一つ、飛びましたからねぇ」


果たして。
どちらが勝ったのか、薄くなる煙を待って宣言されるだろう名前を、待った。









「―――――――…この勝負、引き分け!!」




「誰シードにしようか」



チョコレートロマンスの必死な仕事遂行に。
総帥はそんな言葉を呟いたのだった。























お待たせいたしました!KOFの第三話です~。
この話のコンセプトは天然俺様ゴーイングマイ上へシンタローさんです。
彼が楽しければそれで良い深く考えてはいけない話しです。
今回はなんかジャン苛めに走ってしまいましたねぇ……、御免ジャン。
嫌いじゃないはずだ。
正直どんな試合をするのかよく分からないので逃げまくっていますが、本題はシンちゃんが楽しいか否かなので!どうぞご了承を!!
ハーレムとの絡みをあんまりかけなかったのが今回心残りですか。
つかアラシヤマ氏はどこですか。




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「ではこれから、ガンマ団幹部限定異種格闘技戦大会を行います!」





総帥の一声で決まったこの大会は、高松のアナウンスで幕を開けた。









The King Of Fighters










「体鈍ってるよー……」
「デスクワークばかりでは無理もあるまい」
一通りのトレーニングを終えたシンタローは床にへたり込む。
涼しい顔をしたキンタローを少し恨みがましく見上げた。
「何か動かしにくいんだよ、ジャンの体だからかな」
「多分な。それにそれは18才当時の体だろう。出来上がっていたこの体とは違う、まだ成長する余地がある」
「…………嬉しくねぇ」
大きく息を吐くシンタローは、疲れたようで、何処か物足りないようだ。
「動かしにくいだけで、まだ暴れたいんだな?」
「言い方物騒だけど、そんな感じ。ガンマ砲とかの練習もしたいけどここ禁止されてるしー」
「お前等親子の破壊活動が著しいからな、ここまで定期的に補修するのは大変だ」
「……………手加減無しの、本気勝負したいよなぁ」
「逃げるな」
右から左へ言葉を流したシンタローにキンタローは小さく溜息を付く。
今更言ってどうにかなることならとっくに誰かが何とかしてるだろう。
「真剣勝負、やりたくない?」
「………楽しそうではあるが」
「じゃ決まりッ!!」
そんなキンタローの内心を知ってか知らずか、シンタローはなにやら考え込んでいたかと思うと不意に問いをぶつけた。
キンタローも実戦にはいかないので全力を出すことがまずない。
真剣勝負をやってみたい気は、多々ある。



「………………何が、決まりなんだろう」



少し不吉な予感を抱きつつも。
あっという間に小さくなって背中を、キンタローは止めることが出来なかった。















「…………よくやったもんだよ」
「だって、たまにはこういうのもいいじゃん。仲間とはやりあう機会なんてないし、面白いと思うぜ?」
一週間後に完璧に立てられたプランを見せられてキンタローは思わず絶句してしまったほどだ。
忙しいくせにいつこんな時間を見つけていたのだろう。
あれよあれよといううちに日にちは過ぎていき、こうして今日を迎えている。
特設会場も立派な物だ。
多分終わる頃には見るも無惨な物となっていることであろう。
「でもシンちゃん、何で幹部限定なの?」
「同じ団員でもやっぱり力の差は歴然だからな、今回は幹部達だけで技の競い合い。見てるだけでもかなり勉強になるだろ?これが上手くいったらちゃんと今度は一般団員での大会やろうとおもってるし」
「ただ単に自分が思う存分暴れたいだけだろう」
「そうだ悪いか!」
手加減するの嫌だからなとキッパリ言い放つシンタローは短パンにランニングシャツ。スニーカーととにかく軽装で動きやすい格好をしていた。
髪の毛はポニーテールですでにまとめてある。
「手加減しないからな、覚悟しとけよ?」
「それはこっちの台詞だ」
キンタローはTシャツに下はジャージ着用。足下も割とごついタイプの靴で固めてある。
「二人とも頑張ってねーv」
グンマは勿論不参加である。
幹部であって、実力も秘めたものを持っているがそこはそれ。
本人はいたってそちらに興味はない。
「これからくじ引きだね、誰とあたるかどきどきだねぇ」
アナウンス役の高松が、ちょうど出場者をステージに集める放送を流した。
どうやら準備が出来たらしい。
「じゃあグンマ、いってくる」
「きちんと高松かマジックの傍にいろよ?色々飛んできてあぶねーからな」
「うん!」
ぶんぶんと元気良く手を振るグンマに軽く返しながら、二人はステージへと向かっていった。








『…………じゃ、皆さん引き終えましたので対戦者、発表です!』
高松のアナウンスに会場が盛り上がる。
中央ステージに集められた幹部達も真剣な表情で放送に耳を傾ける。
『とりあえず出場幹部の名前確認からいきますよ、シンタロー総帥、キンタロー様、他シンタロー様直属幹部と特選部隊の一行+αの計12名です』


「…………手抜きな確認だべな」
「っちゃ」
「時間省けて丁度良いわい」
「相手も気になるどすえ」
「後で高松絞める」
「うーん、最近真面目にやってなかったからなぁ勝てるかな?」
「………………」
「相手に不足がなければいいが」
「……+αって何だよ畜生高松」

「……………なんで俺ここにいるんスか?」

だくだく涙を流しながらロープでぐるぐる巻きにされているのは、今はパプワ島で番人をしているはずのリキッドだった。
「人数合わせ」
「ひとりシードにすればいいじゃないですかッ!俺島の番人なんスよ!?」
「パプワのほうが強ーもん」
ぐさ。
シンタローの言葉はリキッドにクリティカルヒットする。
棘があるのは絶対に気のせいではない。
「でもでも、やっぱりひとりにさせときたくないしっ……!!」
ドグァッ!!
シンタローの足下のステージが、ひび割れる。
「番人だってならぐだぐだ言わず優勝しろよ?」
第一チャッピーやイトウやタンノ達だっているからひとりなんて事ないし。
そういってにっこりと笑ったその顔が、激しく笑っていない。
「ここに赤の番人もいるしーぃ」
「そうだな、力を図るには丁度良いな」
「………………………」
理不尽な怒りが向けられているのは致し方ないことなのだろうか。
シンタローに話しを振られたジャンも、リキッドの弁護どころかやる気満々だ。
「あたったら手加減無しでいくからよろしくな」
「……………………はい」
爽やかな笑顔で言いきったジャンに、素直に返事することしかリキッドは出来なかった。




『はいはいはい私語は慎んでくださいねー、一回しか言わないから耳かっぽじってよーく聞きなさい』
ガサガサと紙を開く音がマイクから伝わってくる。
高松の言葉に会場からざわめきが消えた。
『………コレは、いきなり一回戦から好カードですねぇ。皆さんきちんと気合い入れて見学しなさい自分の身は自分で守らないと怪我しても補償金なんて出ませんからねー』
曲がりなりにもガンマ団の一員。
飛び火くらいは自分で避けて貰わないと困る。
全員緊張を高めて、続けられる高松の言葉に耳を澄ませた。



『一回戦からどうなるんでしょう恐ろしい組み合わせシンタロー総帥VSハーレム。師弟対決アラシヤマVSマーカーに割と正当派ごついコンビのコージVSG。面白い対決が期待できそうなトットリVSジャン、ヤンキー同士ですか地毛ですかその金髪はミヤギVSリキッドそして変な接近したら許しませんよこの変態イタリアンロッドVSキンタロー様です!!』



おーーーーーー!!
会場が一気に期待と興奮でわき上がる。
それをよそに、出場者達は各々色んな思いを抱いていた。

「……………変態って」
「そうなのか?」
「違いますって!もう!!」
「ワシのは地毛だべドクター!こげな枝毛ばっかりでキシキシした汚い金髪ヤンキー野郎と一緒にしてくれるな!」
「テメェ好き勝手言い過ぎだぞこらぁッ!覚悟しやがれ!!」
「わー、いきなりチンさんとだっちゃ」
「ジャンだ!!」
「よろしく頼みますわ」
「………ああ」
「さて、どこまで強くなったのか良いテストだな」
「余裕かましてますと大火傷しまっせ」


わやわやとなんだかんだで楽しそうな10人。
しかし、すでに完全に空気の違う二人が、いる。



「…………まさか初戦からお前が相手とはな。俺を退屈させんなよ」
「おっさんいくつだよ?年考えて俺にモノ喋れよな」
「いっかいその生意気なツラおもいっっっっっきりひっぱたいてやりたかったんだ」
「俺も完膚無きまでに叩きのめしてみたかったんだよね」


「やるか?」
「今からやるんだってば耄碌しすぎてるんじゃないの?」
「…………ぜってー殺すッ」



『はーいそこの単細胞挑発にまんまと乗ってるんじゃありませんこれから諸注意ですよ。あんたが一番きいとなきゃいけないんだから進行妨げないでくださいよ』



「シンタローほら、これから嫌でも手加減無しでやるんだから」
「分かってるよ」
「隊長始まれば思う存分出来るんですから」
「だってあいつ生意気すぎだろ!!」
キンタローとマーカーの手によってシンタローとハーレムは距離を取らされた。
それを確認した高松は放送を続ける。



『トーナメント方式の勝ち抜け戦です。基本的に武器の持ち込みは可。事前にリングなどへの細工は不可です。まぁ始まったら何でもあり、ですが死なない程度にボコッて下さい。死んでも何にも出ませんからねせいぜい2階級特進です。対戦相手が負けを認めるか、続行不可能と判断されれば勝ちです』
高松の放送の間に対戦相手が書かれた表が張り出される。
先程発表された対戦相手と共に、2回戦、3回戦の相手が確認できるようになっていた。

「あ、俺お前とはラストまであたんねーや」
「そうだな、決勝までお前との対戦はおあづけか」
「闘いの配分きちんと決めないとあとでつらいぜ?」
「お前こそ感情で突っ走るなよ」
シンタローとキンタローは互いに端に名前が記されており、勝ち進んでいかなければあたらない。
「っててめーらすでに勝った気でいるんじゃねーよ」
「そうそう、こちとら実戦経験豊富だぜ?」
二人の会話を聞き捨てならないとばかりに割り込んできたのは互いの一回戦の相手。
確かに、気分の良いものではない。
その言葉に二人を睨み付けるシンタローとキンタロー。
又互いに火花を散らせようとしたときに、高松のアナウンスが入った。


『はーいそこー!!もう始まりますからもう少し我慢なさい。それでは一回戦第一試合はロッドVSキンタロー様!!この二人以外は全員下がってください』




ばらばらと出場者達は専用テントにと足を運び、リングの上にはキンタローとロッドの二人だけが残され、審判役のチョコレートロマンスが間にと立った。
『用意は良いですね?』
「あ、技って何でも有りなんだよな?」
『はいそうですよー、武器の他もちろん持ち技なんでも好きなの使ってもいいです。ただキンタロー様ハーレムに限り秘石眼は無しです』
『私以外完璧にコントロールできないからねぇ。 暴走したら身内以外命の保証はないね』
放送に続けてはいった声に二人は揃って本部テント(来賓とか放送席とか運動会で良くある中央のテントの意)に顔を向けた。
そこにはいつの間にか姿を現したマジック元総帥。
その隣には彼の長男グンマの姿もある。
『キンちゃん頑張ってねーv』
『あー、必要以上の接近したら秘石眼解除ですからそのつもりで』


「………すでにものすごい贔屓入ってねーか?」
「審判はチョコレートロマンスだし心配ない」
ロッドがいつもの調子をすでに崩されがっくり来ていてもキンタローに動じるようすはない。
足下を確認するように足を滑らせている様に、ロッドも表情を常よりも引き締める。


「格好良いところ見せて、ボーナス上げてもらわないとなッ!」
「俺も無様な姿をさらすつもりはない」



『では、第一試合、スタートです!』



チョコレートロマンスの声を合図に、二人はリングを蹴った。























「羅刹風ッ!!」



軽く間合いを詰めていきなりのロッドの必殺技。
これは流石のキンタローも予想していなかったことだろう。
避けきることは敵わずに風の刃がキンタローへと向かう。



「―――――――チッ!」



右腕を犠牲にガードするキンタロー。
十分に力を練った物ではないため見た目よりは軽いが、それでもやはり特選部隊の一員。
威力の程は十分だ。


「せっかくの美人に傷つけちゃったねぇ」
「――――こんなものすぐ治る」
「治らなかったら責任とって上げようか?」
「いらん世話だな!」


強い風圧により右腕には無数の切り傷。
リングを血が滴り落ちる。
しかしそれよりも目を引いたのは左頬に走った大きな一筋だった。




『………………後であのイタリアンには特別に実験してあげなきゃいけないようですねぇ』
『高松、キンちゃんのあの傷治るかなぁっ!すごく痛そう……』
『治してみせますよ医者という名にかけてッ!!』
『私情をアナウンスで流すなッ!!』

ブツッと鈍い音がしてアナウンスが止まる。
本部テントに視線を見やればそこには何時のまに移動したのかシンタローの姿。
グンマを軽くこづきながら注意をしていた。

「これは真剣勝負なんだからそんなこと言ったらロッドだけじゃなくてあいつにも失礼だぞ」
「だって……」
「あの傷を負ったのはあくまでキンタローのミス。第一あの距離からロッドの必殺技受けてあれだけで終わらしたんだから逆にすげーんだよ」
「う……ごめんなさい」
「はい、よろしい。今度から気を付けろよ?」
シンタローのもっともな説明にグンマはしゅんと項垂れる。
そんなグンマの頭を軽く混ぜっ返してやりながらシンタローは続けて高松に向けて口を開いた。
「ドクターもな。いくら何でもアレはマズイだろうが」
「分かってますよ、でも許せません」
「だからさ?ここはぐっど我慢して後でン倍にもしてこっそりやっちまえって、そうじゃないとキンタローが気分悪くするぞ」
「止めはしませんね?」
「別に良いよ」
「……………あんまり良くないと思うけど、まぁいいか」


「最強な方々や……」
高松や審判の補佐として今回は欠場。
本部にいるどん太は、会話を聞きつつロッドにこっそり合掌したとかしないとか。


プツッ。
そしてまた無機質な軽い音とともに放送が復活する。
『ってことで悪かったなロッド、キンタロー。さっきの放送はぜんっぜん気にしなくて良いから集中して続行してくれ』






「ぜんぜんって強調されてるのが逆に気になるです総帥さん……」
「よそ見してる暇はないぞ」

騒がしい本部席にどうしても気を取られてしまうロッドは肩を落とす。
しかしキンタローの方はやはり動じていない。
お返しとばかりに一気に間合いを詰める。


「はっ!!」
「おっと!」


懐に潜り込んだキンタローはそのまま勢いに乗せた拳を繰り出した。
しかしロッドの反応は一瞬早くそれを寸でで避ける。
少し上体を逸らし、僅かにバランスを崩したその隙をキンタローが見逃すはずもなく、続けざま回し蹴りをロッドへお見舞いする。


「―――――つっ」
首筋へと入った蹴りは体に響いた。
一瞬目の前が暗くなり、足下に妙な浮遊感。
嫌な目眩に体は踊ったが、タンッと耳に届いた軽い音。
上空からの威圧感に咄嗟に横に体を動かし、その手から風を生み出した。



ザクッ!!
肉を切り裂く音。
小さい、けれど鋭い見えない刃は確実に体にと突き刺さった。

「クッ………!!」


蹴りを決めたキンタローは次には高く上空へと飛んでいた。
上から眼魔砲を叩き込めば広範囲に及び避けきれはしない。
ロッドの羅刹風で相殺される恐れはあったが、それも考慮に入れて十分に掌に意識を集中させていた。
その折りだった。

上空に逃げ場はない。
相手へのダメージを大きくできる攻撃だが、その分自分も危険にさらされる。
そのことを頭では分かっていたつもりだったが実際目の当たりにするとそれは予想以上の物だった。
技は大きければいいという物ではない。
そのときそのときに的確に出せるかどうか。
それは実戦をほとんど積んでいないキンタローには大きな課題だった。


鎌鼬は肩を突き進み、その鋭い痛みは力を簡単に分散させてしまう。
無様に床に倒れ伏すことすらなかったが、片膝を付いて痛みに顔を歪めた。




「うっわいまのほんとキたわ……」
互いに大きく距離を取り体勢を立て直す。
首を大袈裟に振っているロッドはまだまだ余裕のある様だ。
反対にキンタローは荒い息で呼吸を繰り返し、肩を揺らしている。
肩からの出血は白いシャツをあっという間に赤く染める。


「ま、やっぱり力はあるんだろうけど使い方がまだまだだね」
「確かに……俺は実戦が足りない」
「わかってるじゃん?」
戦い慣れしたロッドの言葉はもっともな物で、キンタローはそれを肯定した。
それにロッドは僅かに眉を動かしたが今のキンタローに気付く余裕はない。
「お前にはあって俺には経験がほとんどない。だがな、逆に俺にあってお前にない物だってあるんだ」
「―――へぇ?」
そこで言葉を切って、キンタローは人差し指でトントンと己の頭を差した。
それに、ひくりとロッドの口はしが動く。


「―――――――知識だ」


「………それは俺を馬鹿っていってるんですかねぇ?」
ピクピクと揺れるこめかみにキンタローは気づいているのかいないのか。
ようやく整った呼吸と、変わらない表情で更に続ける。
「それもだが後はデータだな。俺にはお前のデータが全部はいっているがお前はどうだ?」
「データって……そんなの」
「お前の戦闘パターンは少し調べればわかるからな。逆に俺のはまったくないはずだ」
というよりそれもだがって。
さりげに毒を吐くキンタローは、あまりにもしれっというので悪気があるかどうか分からない。
きゅっと軽く拳を握ったロッドはその言葉の続きを黙って待つ。
「今ので、データは何とか揃った」
「ただではやられてないワケね」
「俺を誰だと思ってる」


「どんなに嫌でもお前の隊長の血を引いてるんだぞ」


歪めたその口元がまさしく己の隊長そっくりで。
ロッドは背中に冷や汗が伝わるのを感じた。








「どんなに嫌でもって良い度胸じゃねぇかキンタロー」
こちらは明らかに額に青筋立っているハーレム。
ハーレムの半径三メートルからはざざっと人がいなくなった。
唯一止められそうなシンタローは未だ本部テントのまま。
おどろおどろしい空気が選手待機テントに広がる。

「ぶちあったったらぜってぇ絞める」
「じゃあ隊長さんはもうロッドの負けと思ってるんかいの?」

怒り心頭なハーレムの言葉に返したのはコージ。
どこまでもおおらかな彼は小さいことは気にしない。
小さくない小さくないと周りは首を横に振るがそこはそれ。
気になったことはあっさりと聞く。
「………さてな。最初のキンタローの戦い方ならロッドの圧勝だったろうがなんか感付きやがったみたいだし」
「五分ってところかの」
「冷静ならロッドのがまだ優勢になるがあいつ、俺の身内だってのを上手く利用しやがった」
「普段の行い悪いと部下も大変じゃのう」
「―――――――……」
あっはっはっはと豪快に笑うコージにハーレムは思わず手が出かけたがぐっと耐えた。
ここで無駄な力は使えない。
シンタローとの試合に全開能力を出そうとしているハーレムは更に周りの空気を重くしながらも、噴火することだけは耐えたのだった。








「隊長に似てるからぐらいで俺が動揺するとてもッ!?」
「十分してると思うがな」
少し呂律の怪しいロッドにキンタローは肩の止血をしながらさらっと返す。
体が寒い。
少々血を流しすぎたのだろうか、冷えてきた体にきっとロッドに睨みを付けた。
その視線を真っ向から受けるロッド。
長引くことはキンタローにとって不利。
ここで決着を付けなければ負けるのは自分だ。


掌に溜始めた気を感じ取って、ロッドが先に仕掛けてきた。
無数の刃がキンタローにと向かってくる。
それを今度は難なく避け、後ろにと大きく飛んだ。
ガンマ砲を打てる準備が整うまであくまで距離を取ろうとするキンタローに、今度はロッドが間合いを詰めて接近戦にと持ち込む。
次々に繰り出されてくる拳。
キンタローは距離を取りたいところだが、意識を掌に集中されているため詰められてしまうのは必須だった。
しかしその突きや蹴りは見切ったようによけてあたることはない。


「実戦はほとんどないに等しいが……それでも訓練は欠かさないからなッ」
「訓練だけでは限りがあるぜぇ?」
「それでも、お前よりはシンタローのほうがスピード早いんでな!」


そのキンタローの言葉にロッドの表情が変わる。
怒りの浮かぶ真剣な表情。
他人と比べられる、それも侮辱的な言葉だった。
確かにシンタローの戦闘センスは高いものだったが、闘いの仕方という物が違うのだ。
簡単に比較して欲しくない。
バッとキンタローから離れたロッドは大きく構えを取った。
羅刹風。
初っぱなに出した物とは違う十分に力を込めたそれ。
キンタローも同じく構えを取っていた。



「羅刹風!!」
「眼魔砲!!」




巨大な力がぶつかり合った。





『チョコレートロマンスッ!無事か!!?』
『は、はい大事ないですッ……!』
爆風でリングの視界は利かない状態となってしまっていた。
低い轟音にシンタローは慌てて審判のチョコレートロマンスにと呼び掛ける。
どうやら咄嗟にリング下に降りて回避したらしい。
姿を確認したシンタローは安心したように息を吐き、高松にマイクを譲った。
『で、どうなんです?二人は?』
『今、人影はうっすら見えますが……両方とも立ってはいるよう』
チョコレートロマンスが言いきらないうちだった。
また閃光が、会場に煌めいた。


そして続く爆音。
晴れた煙の中に立っていたのは。




「―――――――流石に手強かったな」
あちこちに血を滲ませた、キンタローであった。





『勝者、キンタロー様!!』
チョコレートロマンスの宣言と共に、会場からは大きな声がわき上がった。







「あーららこりゃ完全に伸びてるな………」
運ばれてきたロッドを見ながらハーレムは溜息を付く。
見事に眼魔砲の直撃を受けたらしい。
あちこち焦げている部下を見ながら懐から手帖を取りだした。
「……………マイナスの棒が……」
「一回戦負けだからな、あんなものだろう」
そっと後ろからその様子を覗くリキッドには多量の冷や汗。
傷ついている部下に容赦のない仕打ちにけれどマーカーは平然とした表情だ。
「よかった……俺今査定要らないからっ!」
「馬鹿だなリキッド」
「はい?」
「逆に言えばロッドは給料やらボーナスを引かれるぐらいですんでいるがお前の場合それがない。負けたらその代償となるモノを支払うんだぞ?」
「それってつまり」
「ボコられるな」


「ところであのときはどうなってたんだ?」
真っ白になったリキッドをさておき、戻ってきたキンタローに同じく戻ってきたシンタローが声をかける。
結局一番良いところは煙で見えなかった。
他の皆も気になっているところだろう。
「ああ……そんな複雑なことなんてやってない」
シンタローの後ろから顔を覗かせたグンマが、心配そうにキンタローに近寄ってきたのを安心させるように頭を撫でてやり近くの椅子にと腰を掛けた。
その両横にシンタロー、グンマが座り救急箱を開いている。
「常ならロッドも簡単に分かっただろうがな。少し頭に血を上らせて貰って仕掛けた」
「たしか羅刹風と眼魔砲がぶつかり合って、それからすぐ」
「俺が眼魔砲を飛ばしたんだ」
「え?そんな時間……」
「なるほどな」
キンタローの言葉に思案顔なグンマとようやく納得したようなシンタロー。
切り傷を消毒液で洗ってやりながらその傷を一つ一つ確かめていく。
綺麗な切り傷は塞がるのが早い。
流した血も多いが、そのおかげでくっついている傷に丁寧にガーゼを貼っていく。
「どういうことシンちゃん?そんなすぐに眼魔砲って打てるっけ?」
グンマの疑問はもっともなもので、どんなに集中しようとも僅かなタイムラグは生じる。
ロッドも同じことで羅刹風を放ったばかりの彼は、そのせいで眼魔砲を防ぐことが出来なかったのだろう。
「だからあれは、元々溜めてあった眼魔砲なんだよ」
「その通りだ」
「両手で構えたからロッドも気付きにくかったんだろうな。全部放出させたフリで、片手に残して置いたんだろ」
溜める時間が長かったのはそのせい。
シンタローの言葉にキンタローは黙って頷いた。
わざわざロッドを怒らせるような言葉を吐いたのは騙されて貰うためだった。
怒りはまわりをを見えなくする。
「さっすがキンちゃん!すごかったよv」
「ンナ単純な手に引っかかるとはこいつもまだまだだな」
「隊長が単細胞だから仕方ないんじゃねぇの?」

グオッ!!
キンタローシンタロー二人の言葉を黙って聞いていたハーレムは、簡単な種明かしに肩をすくめた。
そんなハーレムにシンタローの台詞。
近くにいたリキッドが鈍い声を上げて倒れ伏す。
「………何で俺……」
「うっせぇ!シンタロー今に見てろよそんな減らず口がたたけるのは今のうちだ!」
「あーやだやだ年とるとひがみっぽくていけねぇな」


「シンちゃん駄目だよ今から試合なんでしょ?」
「ああ?別に良いよ」
「駄目だってば。僕、怪我して欲しくないもん!」
テント内部の気温が二、三度上昇しただろうか。
他メンバーがざっといなくなるのを我知らず、グンマは心配の声をシンタローにかける。
キンタローの腕をぎゅっと握ったその様はまるで自分が傷を負ったように痛ましい。
「………悪かったなグンマ。心配かけて」
「ううん、痛いのはキンちゃんだから…その傷、治ると良いんだけど」
不安げに揺れるグンマの視線にはキンタローの左頬に走った大きな切り傷。
塞がりかけてはいるが、赤い筋がやたらと生々しかった。
「まだ血がこびりついているな」
「ああ、仕方あるいまい」
立ち上がって血まみれのシャツを脱いだキンタローは、シンタローの手渡す着替えに腕を通す。
その際ピリッと走った鈍い痛みに思わず眉を顰めた。
「じゃ、治るようにおまじないしてやるかな」


『――――――――――――――ッ!!』



眉を顰めたキンタローに、シンタローはそっと傷に手を這わす。
そのまま傷を緩やかに撫ぞって、顔を寄せた。

クチュ。

微かに響く濡れた音。
小さく漏れたその音は、しかし誰の耳にも確かに届いた。
ぺろりと、紅い舌が白い頬を舐める。
まわりに付いていた乾いた血液はそれに解けて、舌に乗り切れなかった分が一つ。
つ、と頬に弧を描いた。



『そっこぉ!!不純同姓交友は禁止です――――――――――――ッ!!』
ゴス。
「高松うるさい」
「アナウンスで喋るなとシンちゃんに言われたばかりだろう」
テントにいた人々の代表高松の言葉はあっさりと切って捨てられた。
頭には大きなコブと共に白い煙が上っている。
容赦のない青の四兄弟長男と末っ子の拳が降ったのだ。
「………も、元総帥冷静なんですね?」
意外すぎるほどに。
後の言葉は何とか呑み込んだどん太が恐る恐る言葉を掛ける。
息子を異常な程までに溺愛している彼の反応は本当に天変地異が起こるんじゃないかと思うほどのもので。
高松の反応の方が普通に見えるどん太は、やはりガンマ団の一員だった。

「え?だってあれ普通でしょ」
「よくやってるよね」
「私も昔はよくやって貰ったなぁ。最近は傷負わないから全然だけど」


貴方の教育の賜ですか。
青の一族って青の一族って。
脱力に支配されるどん太に、この場に救いの手を差し伸べるものはいなかった。






「うぇー、鉄の味がするー不味い――」
「鉄分含んでいるからな。ちょっとくすぐったかったぞ」
「いいじゃん。番人から守護者へ癒しの贈り物」
「まてやテメェ等」
平然とした二人。そして一人。
そこに突っ込む青の一族ヤンキー三男。
この一族にもまともな思考回路な持ち主はいたらしい。
「なんだいまのはッ!!」
「見て分かるだろ?傷に気送りこんでやったの」
「――――――そんなこと出来たのか」
「さあ?でも効きそうな気ぃするし」
「しないわボケが!!」
もっともらしいシンタローの言葉に納得し掛かったハーレムだったが、そんな思いはすぐに払底させられた。
何で、何でこいつ等はこう……!!
当人達はいたってしれっとしてるし、グンマに置いても動じた様子などない。
気にしてしまう自分が変なのか。
なんともいえない疎外感を覚えつつそれでもハーレムは頑張った。
「お前等少しはおかしいと思わないのか!」
「別に?」
「ああ」
「当たり前だよねぇ?」
「違う!ぅぅぅ!」
頑張れハーレム!
いつになくその場の人間の心が一つになっていた。
「何?ハーレムもして貰いてぇの?」
「んなわけあるか!!」
「しゃーないな」
「人の話を……………ッ!!」
ふっと動いたかと思うとシンタローはすぐさまハーレムの隣にと移動していた。

ちゅ。
右頬に走った柔らかな感覚と、湿った音。
それが頭に届く頃は、ハーレムの顔は真っ赤になっていた。
「て、てめぇ!!」
「何照れてるんだよ。挨拶じゃんか」
「挨拶って言ってもな!」
ハーレムの方がシンタローより僅かに高い。
その僅かな高さのせいで、ちょっと背伸びをして口付けたシンタローはハーレムの反応に思案顔だ。
首を傾げてきょとんとしてるその様は、絶対に自分がおかしいだなんて思っちゃいない。
「……………もう、いい」
どうでも。
「変な奴だな、人が折角祝福してやったってのに」
「祝福って」
「負けるハーレムに慰めの挨拶」
「ぜったい叩きのめす!!」


「ほんと仲いんだからシンちゃんと叔父さん」
「そうだな、喧嘩するほど仲が良いというしな」
絶対違うと思います。
この天然ボケコンビにつっこめるものなどいるわけもなく。
ツッコミだと思っていたシンタローですらやはり一族の一員だった。
何処か遠くを見つめながら、アナウンスが流れるのを待っていた。




『それでは、第2試合開始です!!』
リングの整備が終わり、次の選手の名前が会場に響いた。




『では両者リングへ上がってください!』



そんなティラミスの声と共に、二人の男が対峙する。
絡み合う視線。
片や拳を軽く握り構えを取り、片や背中につるした己の獲物に手をかける。




「………おい」
「んだべ」
「なめとんのかてめぇはッ!!」


一回戦第2試合、リキッドVSミヤギ。
ミヤギが手にした生き字引の筆に対してリキッドは、思わず声を荒げる。



「あいつ知らなかったっけ?ミヤギの筆のこと」
「使ってたっちゃよ」
「あ、俺体借りてたわ」
「なるほどのぅ」
「………それで済ますのかお前等」
それじゃ仕方ないなぁと笑い声を上げる四人に、流石にハーレムは元部下にほんの少しばかり同情をした。
と、いうよりも。
「あの馬鹿でかい筆が何なんだよ?」
「……ハーレムはいたよな?」
「使ったすぐ後に来てたっちゃ」
「多分、よく分からなかったんじゃろ」






「……馬鹿にされてんじゃねぇかてめぇ」
「知らないなら仕方ねぇべ」
「そんな筆でなにが出来るっ!!」
確かに構えを取る様は決まっている。
だがしかし。
肝心なものがただの筆では、馬鹿にされている気は否めない。
「大体な、同僚の弟子の同僚に負けるはずねぇだろ。一応これでも俺は特選部隊張ってたんだ…なのに相手の獲物が筆とは……」
明らかに馬鹿にした様子のリキッド。
大仰な溜息に、ミヤギのこめかみがぴくりと動く。
「アホなヤンキーにんなこと言われたくないべッ」
「方言ばりばりヤローが何を言う!」
「東北弁をバカにすんでねぇ!立派な文化の一つなんだべ無駄にでかいリーゼントしてるだけのヤンキーごときにこの高尚な諸地域の文化を分かった風に言われたくないべ!!」
「何がこうしょうだ何が!!」
「おめ絶対漢字で言えてねぇべ!!」



『………あ、あの試合開始してください』




ティラミスの控えめな申し出に、ようやく火蓋は切って落とされた。







「その筆見ると、戦意失うんだけど」
「俺の誇れる武器はこれなんだべッ」
「…………ただでさえ同僚の弟子の同僚相手だし、丁度良いか」
あからさまな物言いに、ミヤギの額に青筋が浮き出た。
だれきった姿勢。
いつでもきやがれと言うようなリキッドに、ミヤギは反撃を開始した。
「確かに俺はおめの同僚の弟子の同僚だけどな、総帥の同僚でもあるんだべ!」
「う、」
「それに総帥直々の部下でもあったんだべな俺は」
「それがどうした俺は特選部隊の一員だ!」
「マジック様とハーレム様のどちらが強いと思ってるんだべおめはッ!!」


うわ究極の選択。


この場合問いを発したミヤギは、特に問題はない。
この問いを発した時点で、彼自身はマジックのほうが強いと思っているととれる。(だってマジックの部下だったしリキッドに格下と見られているミヤギが同等もしくは上と思わせるにはどの人物の下に付いているかが問題になるわけだ)。
が、そちらの方を深くとる人間はこの場合あまりいない。
どちらかと言わなくとも問いを向けられた人物、リキッドにと注目が行くのは必然だ。




「どっちを強いとおもっとるかの」
「さーな……とりあえず本気ではマジックのが強いと思ってるんだけど下手に自分はハーレムより弱くて後の報復に耐えられないことを分かっているからそうとも言えずしかもハーレムって言ったらマジックも黙っちゃいないだろな」
「………辛口だな」
「だってあいつミヤギのこと馬鹿にしてるじゃん。相手の力量を見下して嘗めてかかる奴は、弱い」
シンタローの言葉にすぐ後ろのトットリが真剣に頷いている。
大切な親友を悪く言われるのははっきり言って腹正しい。
そして少しばかりハーレムをこき下ろしているシンタローに、いつもの怒の空気は生まれなかった。
ハーレム自身、自分より兄の方が強いことは認めているのだろう。
ただそれを部下に言われるのは別な話なだけで。
しかもシンタローの言っていることは正論だった。
「島に行って呆けたかあいつ」
「とりあえず終わったらいっぺん絞めなきゃいけませんね」
勝っても負けてもどちらを選んでもリキッドを待っているものは変わらない。



「ま、気持ちは分かるんだけどね」
「ん?」
「なんでもないなんでもない」
ポツリと零した本心。
キンタローが聞き止めてしまったがさらりと笑顔で流した。
自分も当初あの筆を見たときは、こいつ本気でやる気なのかと思ったものだ。
でもシンタローがリキッドの弁護に回ることなど考えるはずもなく。
筆の威力にどう反応するのか、うきうきと行方を見守っている。





「そっ!そそそそそそ、そんなの決まってるだろッ!?」
「どっちだべ」
「だ、だからあれだよ!」
「あれって」
『いいからいい加減普通に試合しなさいあんた達』
狼狽えるリキッドにようやく救いの声。
高松が呆れた声で試合を促す。
その言葉に、リキッドはようやく我を取り戻した。

「そうだっ!いつまでもこんなくだんねぇ茶番やってられるか、行くぜ!!」
「逃げたべな………」
そういいつつも、確かにこのまま口喧嘩では拉致が開かない。
リキッドがやる気になったのを見て、ミヤギが構え直した次には。

すぐ傍にまで迫ってきていた。

「うらッ!!」
「くっ!!」
鋭い拳が、ミヤギに向かって繰り出される。
それを筆でもって交わしてはいるが、押され気味なのは確実にミヤギだった。



「ミヤギくん!」
「………ほう、なかなかやるな」
「ほらヤンキーって喧嘩慣れしてるし?」
「あ、なるほどー!」
「……少しは素直に褒めてやれやシンタロー」
心配そうなトットリの声。
感心の声を上げるキンタローにシンタローは軽口を叩く。
それに納得するグンマにコージは苦笑しながらシンタローの肩を叩いた。
シンタローがリキッドに好意を持っていないのは明かで。
それはやはりリキッドの今いるポジションのせいなのだろうが、それに対して誰も突っ込むことは出来ない。
「俺ヤンキー嫌いだもん」
「お前も十分不良じゃねぇか」
「テメェと一緒にすんな獅子舞」
「シンタローはただ少し短気なだけだろう。こいつは根は真面目なイイコちゃんだよ、特にマジックの前ではな」
「……そう見えるのか?」
「お前はマジックに嫌われるのを一番怖がってるだろ。余計な心配もかけさせたくないのとあいまって優等生してるんだよ、わりと」
「あーそうなのか。お前に言われると否定できねーからなぁ」
「だろ」

「………そんなあっさりとした口調でかなり深いこと話すなよ」
「いや、それよりも話しがずれてるの気にしないかの、普通」
キンタローとシンタロー両名の会話に突っ込むジャンにツッコミを入れるコージ。
そんなコージの隣ではトットリが一人、心配そうにリングに目を向けていた。
「そうだよシンちゃんキンちゃん惚気てる場合じゃないよ、ミヤギくんのこと応援しなくちゃ!」
「………リキッドどうでもいいのかお前は」
「だって僕リキッドくんと話したことほとんどないもん。何か怖いし」
どこまでも自分の感情には正直な青の一族。
グンマもその例に漏れていない。


「多分そろそろ反撃の時間だろ」
「そうじゃな」
そんなシンタローの言葉に合わせたかのように、リングではミヤギの筆が空中を踊った。








「必殺!生き字引の筆―――――!!」
「な、何だッ!?」
リキッドが仕掛けてくる拳を避けたミヤギは、その伸びた腕に筆を走らせる。
『鋼』。
達筆な文字で書かれたそれに、リキッドは眉を顰めた。
―――――と、途端に腕が重くなる。

「って!!」
ズシンと腕からリングに落ちるリキッド。
腕が、リングにとのめり込む。
タンッと軽くリングに降りたったミヤギは勝ち誇ったように口を開いた。
「どうだ!オラの筆の威力思い知ったべかっ!!」
「てめ俺の腕になにしやがった!!」
「この筆はなぁ、漢字で書いた文字の通りに変えることの出来る筆なんだべ。しかも特訓によって一部だけを変えることも可能になったんだべな!!」




「お、レベルアップじゃん」
「ミヤギくんすごいっちゃ~」
選手テントから感嘆の声があがる。





いきなり腕を鋼に変えられたリキッドは、その重さに上手く動かすことは出来ない。
それでも、何か体勢を立て直す。
「…………なるほど」
「その腕じゃ自由に動かせねぇべ」
「元特選部隊を、甘く見るなよッ!!」

そういってリキッドは、地を蹴った。
鋼になった腕を武器としてミヤギに殴りかかる。
その腕はスピードこそないものの威力は十分な物で。
先程のように筆で交わすことは出来ず、けれど避けることは何とか出来た。


「ウラウラウラウラウラウラウラウラぁッ!!」


リキッドの猛攻撃。
してやられたことが悔しいのだろう。
一発事にスピードは増していく。
そして。


ガッ!
少しばかり鈍い音と共に、生き字引の筆が空を舞った。



「これ、誰でも使えるんだよな?」
「………………」
無言は肯定の証。
悔しそうなミヤギの視線に、リキッドはにやりと笑う。


「形勢逆転、だな」






「マズイ!」
「あの武器の弱点は敵の手に回ってしまうとどうしようもないってとこだな!」
「でもリキッドくんって馬鹿だよね!?」
「おう九九は二の段からまともにいえねぇぞ」
「太陽は西から昇ると自信満々に言っていたな」
「鎌倉幕府はいいくにつくろうで2960年に出来たって聞いたっちゃ」
「確かあの筆は漢字じゃないと効力を示さないと……」
「いいや」
シンタローが苦々しげに口を開く。


「ヤンキーは漢字が書けるッ!!」



夜露死苦―――――――――――。
そんな言葉が、皆の頭に横切った。






「覚悟しなっ!!」


「ミヤギくん!」
「ミヤギッ!!」



ミヤギの体に、黒い文字が刻まれる。
―――――――――――が。




「何で何もかわねぇんだッ!?」
「―――――……漢字が、間違っとるべ」
「ナニィ!?」



馬鹿は何処までいっても、馬鹿だった。
『植物』とでも書きたかったのだろうか。
ありそうでないその漢字に、寒い風が二人の間を流れた。



「返して貰うべっ!!」
「あっ!」
しばし呆けに取られたりキッドの隙をついて、ミヤギが筆を取り返す。
ぴしっと筆を突きつけられたリキッドは、しかしすぐに我を取り戻した。


「へっ!ようはかかれなきゃ良いんだろうが。俺にはれっきとした必殺技が―――――」
「別におめにかかんでも使い道は色々ある。今度はこう使うんだべッ!!」
言ったが早いがミヤギはリングにと筆を滑らせた。
大きく書かれたその文字は。



把婦輪。



「コレで絶対おめは必殺技がだせんべ!!」
「………これって何で出せなくなるんだよ!ぐだぐだいってんじゃねぇよいくぜッ」
そういってリングを蹴ったリキッドは、次に聞こえた声にピタリと動きを止めた。


『痛いぞリキッド。僕に攻撃するなんて良い度胸だな』
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


胸を張ったミヤギが、その口端を上げた。
「このリング、パプワくんに変えさせて貰ったべ!おめが必殺技なんかだそうとしたら、わかるべな?」
「べっ、別に俺パプワなんか怖くねーもん!帰った後多少怒られようが」


みし。


嫌な音が、選手テントの方から聞こえる。
恐る恐るリキッドがそちらの方に視線を向ければ。
「―――――――そのリングを少しでも欠けさせて見ろ。容赦しねぇぞ」

笑ってない笑顔の人が、椅子をひとつ破損させていた。



「………………、俺が動けなかったら、お前だって動けねーだろがッ!」
顔色を真っ青にさせたリキッドは苦し紛れに反論する。
しかしミヤギはなにやらリングに両手を優しく付けながら、何か話しかけている。
「御免なパプワくん。少し痛いかもしれんけど我慢してもらえるべか?なるべくリングに足付けないようにするべ」
『大丈夫だ。僕はそんなに柔じゃない』
「ちょっとパプワお前それなに!?」
『だってお前は家政夫だがミヤギはシンタローの友達だからな。友達の友達はトモダチだ』
いまだにまともに飯も作れんやつが、文句言うな。
そうキッパリと言われたリキッドは、青を通り越して白い。
立ち尽くしたリキッドにミヤギが、高く飛んで筆を走らせた。




植物―――――――――。




必殺技、エレクトリカルパレードを出す前に植物に変えられたリキッドは。
動くことは敵わず試合続行不可能とされ、第2試合はミヤギの勝利に終わった。




「ありがとなパプワくん」
「―――――……パプワ」
ミヤギはきょうりょくして貰ったパプワにお礼を言い、少し離れたところではシンタローが先程のパプワの言葉に嬉しそうに笑っていた。





「さてこいつはどんな実をならすのかな~」
そして植物となったリキッドは、ハーレム隊長の手によって鉢に植えられて水を与えられていたりした。

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