力の代償。
不安定な精神と器。
求めてしまうほどに大事なモノを見失うなら
ほんの一瞬の隙も見せないように。
Doppel
Act3 rain or shine
「―――――――――ガンマ砲ッ!!」
あたりに響く破壊音。
以前の彼よりも数段威力は上だ。
3ヶ月前のことなど、嘘のよう。
実際、誰にも気付かれなかった。
丁度その時期は己が実戦に出かけることなどはなかったし、訓練室を締め切りにすることなど容易だ。
就任してからは初めてといってよい前線。
総帥が自ら前線で体を張るなどと普通ならあまりないだろう。
しかし下手に団員に任すよりもこちらのほうが早くすむ。
新生ガンマ団。
以前と180度中身が違うわけではないが、それでもいきなりの変化に不満を持つ者も出てくるだろう。
そういう点で、今まではコージ達四人等に主に動いて貰っていた。
一番信頼できる仲間。
気兼ねなく問題点を話し合える。
無論実力もトップクラス。
なんだかんだ言ってマジックの直属の部下であったのだ。
その四人が遠征で出払って、予定よりも今回は手こずっているらしくなかなか戻ってこなかった。
一応そのことを考慮に入れ予定を組んでいるものの、どうしても時間的にあまり余裕はない。
いつもは誰かが本部に残留しているのだが、良くないことは重なるらしい。
依頼の日程が迫り、戻る見込みも一向にない。
割と名の知れた組織なので四人の誰かに行ってもらいたかったのだが無い物ねだりは仕様もなく。
こうして、自ら前線に立つことになった。
大体の仕事は片づけてきたし、ティラミスやチョコレートロマンスももう要領は分かっているだろう。
元々総帥付きの二人であるし仕事内容自体はあまり変わっていない。
「…………これじゃハーレムのこといえねーなぁ……」
ガンマ砲の衝撃で辺りを覆っていた煙がようやく落ち着き、その威力の程が目に映る。
ここに来るのは別に自分でなくとも良かった。
ガンマ団内で、あの四人以上の力の持ち主。
特選部隊。
その名の通り、ガンマ団内でも選りすぐりの実力者達。
なにしろ部隊にはあのアラシヤマの師匠までいたりする。
アラシヤマの実力は四人の中でもトップなのだから特選部隊の戦闘力は言うまでもない。
隊長を筆頭にして、半端なレベルではなかった。
普通ならこの部隊に出てもらうのだろう。
しかし、部隊メンバーはともかくその隊長が問題だった。
「………やっぱ気に入らないのか……」
新生ガンマ団に不満を持っている者。
名をあげるとしたら一番始めに出てくる男。
ハーレム。
なかなかに厄介な男である。
その力の程は自身がよく知っているが、強大すぎるのも考え物だ。
必要以上に破壊を起こす。
新生の主旨は何度も説明したのにどうしても聞いてもらえない。
特選部隊が出ると近隣への被害も大きくなってしまうのだ。
そうして現在、こうしてここに立っている。
慣れも出てきたので丁度良いだろう。
そう思っていたのだが実際自分の結果を見てしまうと、ハーレムに頼んでも代わりはないかも知れない。
「――――――でもハーレムはコントロールできるんだから、やっぱり違うよな」
力を使いこなせない、自分とはワケが違った。
でもそれも無理に引き留めてしまった自分が悪いのかと思うと、やりきれない。
一箇所に留まっているのは性に合わない。
そう言って世界中を回るはずだったハーレムにガンマ団の残留を頼んだ。
もう少しだけそれを待ってくれないかと。
きちんと基礎が出来上がるまでいてくれないかと言いだしたのは自分だった。
一年間。
新組織としての確立するまでの期間としては短い時間ではあったが、元々出ていこうとした人物を縛るのだからそれでも長いのかもしれない。
最初は良かった。
嫌そうに渋顔をして見せたがそれでもあっさりと承諾してくれたし、なんだかんだと後ろ盾もしてくれていた。
いつからだろうか。
妙に突っかかってくるようになったのは。
まだたったの3ヶ月。
それしかたっていないのに。
「―――――――難しいね」
小さく呟いて、空を仰ぐ。
同じ空。
厚い雲に覆われた、重たい空。
『総帥!降伏の連絡が入りました!』
耳に付けたイヤホンから、通信が入った。
その声に短く返事をしてハッチにと踵を返す。
目が熱い。
力はまた使いこなせなくて、けれど体の痛みはほとんどなかった。
全く痛まないわけはないが、耐えられないほどでもない。
そのかわりに。
「じゃあ俺は休憩室にいるから、何かあったらそっちに直接連絡入れてくれ」
『分かりました』
モニター室には戻らず、一人休憩室に向かいながら通信のスイッチをきる。
疲れたわけではない。
一発ガンマ砲を放ってきただけだ。
それでも一人になりたかった。
一人になる必要があった。
小さな休憩スペース。
もうしけ程度の小さなベッドにどさりと倒れ込む。
固い感触が跳ね返って、仰向けに両腕を顔で交差させた。
目を閉じればその熱がさらに感じられる。
じんわりとした痛みに、涙まで出そうで。
「………………………嫌いだ」
こんな身体。
要らない。
要らない要らないこんな躯。
口に広がる苦味。
こみ上げてくる吐き気を抑えている内に、到着の連絡が入った。
「ドクター、睡眠薬くれねーか?」
「またですか?最近多いですよ、効きづらくなってるんじゃありませんか」
帰還して一番始めに向かったのは医務室だった。
書類はもう書き上げたし、あとはチョコレートロマンス達に任して今日は終わりにしてしまった。
「だって深く眠りて―し。短いなら深いほうがいいだろ?」
シンタローの言葉にこの医務室の担当者、高松が呆れた顔をしつつも椅子から立ち上がり、薬剤の棚から一つ瓶を取りだしてきた。
デスクの上にのせ、引き出しから小さめの空き瓶に中身を移動させる。
カラカラという乾燥した音が、実は密かに気に入りだったりする。
無機質で、あまり響かない音はすんなりと耳に入って染み渡る。
少しぼんやりしていたのだろう。
目の前に出された、薬の詰まった小瓶に一瞬反応が遅れてしまった。
「………びっくりした」
「人にモノを頼んでるときにぼけっとしない!駄目ですよこんなコトぐらいで驚いちゃあ」
「ワリィ」
素直に謝り、瓶を受け取った。
それを確認すると高松は続けて口を開く。
「一言言っておきますけど、短い睡眠時間なら浅い方が良いんですよ。浅い眠りなら3、4時間で平気って人は割といます」
「へぇ……そうなんだ。気を付けるよ」
「そうして下さい。グンマ様も心配なさってましたよ、貴方が最近寝てないようだって」
「だからこうして貰いに来てるんじゃないか」
「…………疲れてるんならなくとも眠れると思うんですけど」
「何か最近妙に目が冴えてなー……、神経高ぶってるのかもね」
その言葉に高松はやはり難色を示した。
何か言いたそうな顔をしているが、シンタロー結局言うことを聞かないということは承知しているのだろう。
ひとつため息を付いてびしっとシンタローを指さした。
「2週間分ですからね。半月経つまで次は渡しませんよ、頼りすぎは良くありません」
「了解」
返事だけは素直なシンタローに、高松はそれ以上何も言うことはせず薬を棚にしまいながら辺りのものを簡単に整える。
白衣まで脱いだ高松に、シンタローは疑問を投げかける。
「あれ……珍しいな。もしかしてどっか出かけるのか?」
鞄まで取りだしてきた高松に、流石にそれぐらいは察しが付く。
しかしまだ正午を回ってまもない時間だ。
出不精にはいるだろう高松が出かけることは滅多にない。
その言葉に高松は少し驚いた顔を見せ、一瞬間をおいて口を開いた。
「ああ、今日は―――――――」
「シンちゃん久しぶりーっv」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!?」
高松の言葉は、突然現れた人物によって遮られた。
その人物に腰にしがみつかれたシンタローは躍起になって腕を外そうとしているがびくとも動かない。
「はーなーせーぇッ!!………くぅっ、何でこんなに丈夫なんだッ」
「嫌だよvまだまだ鍛え方が甘いねシンちゃん♪」
「……………元総帥が常人を遙かに逸脱してるんだと思いますけど」
「何か言ったかい高松?」
「いーえ」
鋭い眼光を向けられた高松は、素知らぬ顔でその言葉を流す。
音も立てずに医務室に入ってきた人物こそ元ガンマ団総帥、マジックであった。
何しにここに来たのかと思うくらい、息子に密着して離れずに二人の世界を作り上げている。
「っていうか何しにきたんだよ!?高松に用事あったんだろッ!」
「ああそうそう。すまなかったね高松、ここは他の人に任せるから行って良いよ。グンマ達も後から追いかけるそうだ」
「わかりました、では失礼しますね」
軽くマジックとシンタローの二人に会釈した高松は言葉短く医務室を去っていった。
マジックの言葉を聞いたシンタローは、先程の高松への問いをそのままマジックに問いかける。
「高松どこに出かけるか知ってるのか?それにグンマ達もって……」
「あれ、聞いてなかったかい?私も今まで行ってきてたんだけど」
いまだ腰に抱きつかれたままのシンタローは、首を回してマジックの服装を確認する。
いつもの服ではなく、渋めの色合いのかっちりとした服。
引退してからこのような服はあまり着ることもなかったのだが。
神経を落ち着かせてみれば、微かに花の芳香が鼻を擽った。
「今日はね、ルーザーの命日なんだよ」
「…………………そっか。どうりで叔父さんもいないわけだ」
ルーザー。
シンタローが目にしたことがあるのは3ヶ月前にあの島で。
その人のことは話しですらほとんど聞いたことはなかったけれど、特別なんだろうということはよくわかった。
「そうだね、あの子はルーザーのことをとても慕っていたから」
「じゃ、ハーレムもいねぇな…………」
「多分ね」
いやに気になる花の香り。
カサブランカだろうか、移り香の筈なのにその匂いに頭がくらりとする。
どんな顔で行ってきたのだろう。
真白いカサブランカ。
マジックにとても映えるだろうその花。
少し寂しげだと感じるのは己の気のせいだろうか?
けれど、実際シンタローにとっては関わりのない人物だったためか、何の感慨もわいてこない。
今気になるのは間近の男の存在。
不意打ちに思い切り心臓が跳ねた。
現在だって妙に早い鼓動がばれないか、嫌な汗が背中を伝う。
「…………いー加減に離せよ。仕事あるんだから」
「シンちゃんは今日はもうオフだってティラミスから聞いたよ?」
「の、つもりだったけどみんな出揃っていないじゃねーか。コージ達も遠征から戻ってきてないんじゃ俺が休むわけにもいかないだろうが」
「まぁそうだけど………そう言う台詞はね?」
「あっ!?」
「こういうモノに頼らなくなってから言いましょう」
シンタローが持っていた薬の小瓶。
マジックはソレを目聡く見つけて簡単に手から奪う。
しゃらしゃらと音をならしながら楽しそうに微笑んだ。
この男に言われると、何も言い返せないことが歯痒くて仕方ない。
「………悪かったな」
「責めてないよ、何しろやってることが違うんだから。一から始めるその大変さは私にはなかったからね……でも」
そこで言葉を切って、マジックは真っ直ぐにシンタローを見据えた。
その視線を感じながらも向き合うことは出来なくて。
わざとずらしたままの視線に、マジックの次の行動に反応が遅れた。
「…………ッ!!お、降ろせよっ!!」
「だーめだよ、こうでもしないと逃げそうだからね」
「手でも何でも掴んでりゃいいだろうがッ!子どもじゃねぇんだし………!!」
マジックの肩と抱き上げられたシンタローは顔を真っ赤にして、慌ててその背中を掴んだ。
大きく動こうとするとバランスを崩してしまうのだが、がっちり掴まれた両足は固定されたままだ。
本当にこれが五十台になろうとする男の力だろうか。
ひとつため息を付いて、シンタローは抵抗するのを諦める。
密着した体から香る花の移り香。
先程よりも強く鼻に付くその香りに、目眩を起こしそうになる。
「私にとって君はいつまでも子どもだよ」
―――――――どうして、こう言うことをストレートに言えるのだろう。
深い意味はないのかも知れない。
けれどシンタローにとっては重い言葉だった。
いくつも本心を隠し、騙しているクセにその中に外さない本心。
だから、ソレに溺れたくなってしまうのだ。
「眠れないなら私が眠らせてあげよう♪子守は得意だからね!」
「子守ってなぁ……」
悪態を付こうとして止めた。
言うだけ無駄だ。
甘えてしまおうか。
浸ってしまおうか。
だって今目の前にいるのは『自分』なのだから――――――――。
そう、マジックに体重を預けてしまおうとしたときだった。
「あれ……お取り込み中?」
やはり相容れられないモノなの?
体の奥深く、警鐘が鳴る。
引き出したばかりの力。
傍にいるのは青の一族秘石眼の男と、赤の秘石の番人。
瞳の奥が。
熱かった。
医務室のドアが開き、シンタローは入ってきた人物と視線がバッチリと合う。
寸分変わらぬ同じ顔。
違うものと言えば髪の長さだけ。
高松が留守なんだ、こいつが来るのは当たり前か。
そう思ったのは目が冷めてからだった。
「お疲れさま、じゃあ高松が戻るまで頼むよ」
「了解。でも邪魔じゃないんすか逆に」
「いや別に良いよ、これから移動するところだったし」
「あ、そーなんすか。シンタローはもう今日オフ?」
「うん。最近デスクワークばかりのところに珍しく遠征だったからね、少し休ませないと」
「そーいや顔色なんか悪いぞ?平気かよ……?」
マジックの言葉にジャンがシンタローの顔をのぞき込む。
長い髪が、その表情を隠しているためよく分からなかったが常より確かに蒼い。
「え?さっきまで疲れてはいるようだけど、普通だったのに」
ジャンのその言葉に、今度はマジックがシンタローの顔をのぞき込もうと両足を押さえていた腕の力を緩める。
重力に従い、シンタローの上半身は抱え上げられていた肩から落ちてくる。
軽く音を立て、床に足を置いたシンタローはそれでもマジックに寄りかかったままだ。
「おい、シンタローどうした!」
「シンタロー!?」
きつくマジックの服を掴んだまま、その顔を肩に埋めたまま上げようとしない。
荒くなる呼吸を無理に止めようとしているせいで咽せそうになっている。
不規則な息づかいにマジックは様子を確認しようとするが、シンタローは動かない。
マジックの肩により掛かったまま、微かに震えている。
「シンタロー!堪えるな!!息つまっぞ!!」
明らかにおかしいシンタローの様子。
咽せながら、何とか呼吸をしているようだがこのままでは上手く空気を吸えない。
急な変わり様に手の出しようが分からない。
「シンタロー!!」
糸の切れた人形のように、シンタローの体が傾いだ。
遠くなる二人の声。
何を言っているのか、自分の血流が激しすぎて聞こえない。
耳の奥でうるさいほどに鳴っている。
目の奥が酷く熱い。
噴き出る汗に、酸素が足りない。
体の熱が一気に上昇する。
声が出ない。
とっくに麻痺してしまったはずの、焼けた喉が痛みを訴え始める。
空気の流れにすら体中に電流が走り、意識は朦朧として。
一層強い花の香。
甘すぎるそれがいやにまとわりついて。
傍にすら居られないの?
反発しあう2つの力。
共に行けるのはどちらなの。
自分の名を呼ぶ二人の声が、ひどく心地よく。
最後に耳に届いたのは、窓を叩く水音だった。
--------------------------------------------------------------------------------
夢を見た。
遠い記憶。
俺のものではない、この体の記憶。
Doppel
Act4 共有するもの
眼前に広がる風景は戦場。
目の前で倒れているのは、まだ幼さの残る顔をした叔父で。
夢というにはリアルすぎるそれに、けれど全く覚えのない情景。
動こうとしてもいうことを聞かない体に、ようやくこれがこの体の記憶なのだと理解した。
コマ送りに場面が飛ぶ。
負け戦だろうか。
辺りは燦然とし、ガンマ団の団員は叔父以外見当たらなかった。
叔父に昔聞いたことを思い出す。
初陣と、殺してしまった親友のために抉ったその右目。
悲しんでくれたのは次兄だけだったと。
そう言っていたことが脳裏によみがえる。
届かない手を懸命に伸ばせば人の足音が耳に入った。
振り向けばそこにいたのはその次兄で。
一度見ただけのときと全く変わりのない男が俺に手を伸ばす。
「あなたは、サービスの兄さんの」
ルーザー。
弟に近付くな………。
そう言いながら、身動きのとれない俺に手をかける。
口に入れられた指の力はひどく強い。
憎悪に満ちた目。
青い瞳に映る俺のいや、ジャンの顔。
その瞳の中に違うものが見えて。
いや、兄弟に。
私の兄弟に金輪際近付くな。
善悪の区別がなかったというこの男は。
このときの感情をなんと言うのか知らなかったのだろうか。
熱い衝撃に意識が一気に浮上する。
ゆるゆると重い瞼をあければ薄い月明かりが目にしみた。
見慣れた部屋に鼻をくすぐった香水。
「あんたも好きだったのか」
頬を伝う濡れた感触。
俺もあんな瞳をしているのだろうか。
拭うこともせず、ふと視線を動かせば鏡が目に入った。
そこに映った青い瞳は先ほどの男の目にそっくりだった。
「泣いてるのか?」
ふと引っ掛かった感覚に、不意に手がぶれ試験管から薬品が零れた。
チリっと手を焼く痛みに眉を顰める。
「シンちゃん!大丈夫!?」
「ああ、少しかかっただけだ」
水で流しながら心配そうに覗き込むグンマに軽くほほ笑んで返すがその表情は晴れない。
すっと伸びた指が目元をなぞった。
「………どうした?」
「シンちゃん、泣きそうだから………、なにかあったの?」
心配そうな表情。
それを向けられるべきなのは。
「いや俺は何も・・」
俺じゃない。
これは、この傷みは。
きょとんとしたグンマに、大丈夫だとうなづいて空を、彼のいるだろう部屋の方向を仰いだ。
「泣いてるのか?シンタロー」
「………倒れたんだっけ俺……」
掠れた声。
けれど喉の痛みはなく、過剰反応を起こしていた体も通常状態にと戻っている。
寝汗は酷かったが気分は悪くなかった。
「うわ……とまんねぇ……」
意思に関係なく、零れ続けるそれ。
目が覚めたとき泣いているのに気付いたがどうも止まる様子はない。
目が熱いのと関係あるのかと思いつつ、起きあがってベッドから抜けだし鏡台の前にと立った。
この黒髪には不釣り合いな、蒼い瞳がそこには映る。
「………にあわねー……」
グンマのような明るい空色でも、マジックのように深い蒼でもない。
何処か陰りのある暗い青かと思えば、次の瞬間は透明な透き通る青にも見えて。
「一番近いの、ルーザーの目かな」
ルーザー。
特に思い入れのある人物でもないのに。
今は何故かこんなにも近しい思いを抱いてしまうのは。
「やっぱ同類だからかねぇ」
自嘲気味に口を歪めながらベッドにと戻る。
微かに体温が残っていた枕元に、少し前まで人がいたことを知る。
「……いてくれたのかな」
この部屋は彼のものだし。
目も、青いのは多分彼に反応したのだろう。
俺の傍にいてくれたことに少し胸の支えがとれた気がした。
ちょっとまずかったとは思うけれど。
目の前で倒れて、しかも不自然すぎる。
ただの過労だと思ってくれればいいのだが。
それにしたとしても、たびたび皆から受けていた忠告もあるのだしあまり喜ばしいことでもないが。
特に彼には、仕事に没頭していたことも事実だがなるべく会わないようにしていたから。
ただでさえ顔を合わせる機会は少なかった。
遠征前に、一言だけ言われた。
思えばここ1ヶ月でしたまともな会話はそれぐらいな気がする。
島から帰ってきてからも、数える程度しか顔は合わせていない。
今日のは本当に不意打ちで。
これぐらいですんだのはむしろ幸運かも知れない。
上半身を倒しながらまた鏡にと視線を向ける。
不安定な体はいつからか、その拒絶を瞳にと表すようになった。
気付いたのは力が元通りになってからだった。
「赤と青の秘石ってそんなに仲わりーのか?」
少しくらい優しくしろってんだ。
この体で、俺がその力を使おうとすると現れる。
「秘石な事は変わりないんだからよ……」
精神の動揺でも現れるそれは、本当にそれだけか怪しくて。
何処か引っかかりを感じている。
「まさか……………な」
ボロボロと零れる涙。
泣きたいときには出ないクセに、こう言うときばかり。
やっぱり嫌いだ。
こんな身体。
捨てられないんだけど。
「………………会いたい」
そう届いたら、馬鹿にされるだろうか。
「大人ってのは弱いな…………」
弱いクセにそれを隠そうとするから。
君のために強く在りたい。
そう思うことが弱いのだと、笑われるだろうか。
俺は俺だと、泣くのが何が悪いと。
「…………なぁ……」
まだその名前を口にするには、自分が情けなさ過ぎて。
ただ、涙が止まらなかった。
「心配されっかな」
ガンマ団本部の廊下を歩きながらシンタローは一人ごちる。
あのままあの部屋にいたらいつ部屋の主が戻ってくるかわからない。
静かに部屋を抜け出して、ガンマ団にと戻り総帥室で書類を捌いていた。
朝方まで仕事をこなし、夜が明け始めたところで仮眠でもするかと部屋を出た。
「シンタロー」
「お、珍しいな一人か?」
不意に背後から声をかけられて、振り向けばそこにはシンタローの姿があった。
いつもグンマと一緒なので一人の姿は割と違和感がある。
こんな朝早くから居る方が変なのかもしれないが、研究者な二人は時間帯に無頓着であった。
話しかけられたことも特になく、思えば帰ってきてから二人だけで対面するのはこれが初めてかも知れない。
「…………………………」
そして、話しのとっかかりが何もないことにシンタローはまた初めて気付いた。
島であったときは思いっきり敵対視されていたし。
それっきりまともに話したことなぞない。
なんだか気まずくなってしまったシンタローに気付いているのか、シンタローはあの表情があまり変わらない顔でシンタローにと近づいてきた。
「シンタロー」
「…なんだ?」
真剣な声音にシンタローも自然気を引き締める。
なにか大事でも起こったのだろうか。
「今暇か?」
「はい?」
予想と違ったシンタローの言葉に、シンタローは思わず間の抜けた声を出す。
しかしシンタローは特に気に止めた様子もなく、又同じ問いを口にした。
「暇か?」
「………仮眠しようかと思ってけど」
「そうか、良しつきあえ」
「はぁ!?ちょっ、待てって!!」
いきなり腕を引っ張って歩き出すシンタローにシンタローは慌てた声を出す。
しかしそんなシンタローの声にもシンタローは全くお構いなしで。
スタスタと歩を進めていく。
「仮眠取るって言っただろ!?」
「仮眠なら寝なくても良いだろう。俺も研究に集中すると3日くらい平気で寝ない」
「………あのなぁ……」
「いいから付き合え」
「…………どこにだよ」
どうも話しが噛み合わない。
おまけにどんな論理を持っているんだか知らないが、きちんと睡眠と言えば良かったのだろうか。
シンタローはそんなことを思いながら、仮眠を諦める事にして口を開いた。
「特訓」
「はい?」
またもや意外な答えに、間の抜けた声を出しながらシンタローは廊下を引っ張られていったのだった。
「組み手で良いよな?」
「ああ」
「じゃ、ガンマ砲などはなしって事で」
ヒュッ。
軽く床を蹴って間合いを詰める。
手始めに出した蹴りはブロックされ、間合いを取ろうとする前に鋭い突きが来た。
その突きを逆に掴み、こちらに引き寄せる形で間合いを詰め突きを繰り出す。
しかしそれは寸でのところで交わされ、振り上げられた足に崩された。
重い痛みに、掴んでいる腕の力が緩み外される。
遠く取られた距離に二人は体勢を元に戻す。
「研究ばっかの割にはやるじゃん」
「お前もデスクワークばかりだから鈍ってると思った」
「………そこ狙ってたわけ?」
「いやそう言うわけでは……」
「………まぁべつにいいけどっよッ!」
ガッ!!
鈍い音。
ガードはされてしまったが、ダメージはあるだろう。
しかしそんなことは微塵も見せず負けじと蹴りが入ってくる。
次々と出される攻撃をお互いに交わしながら、しかし着実に相手にダメージを与えていく。
15分ほども経ったであろうか。
お互いに短期決着型である。
あまり長い時間では、体力が持たないわけではないが集中力が途切れる。
使う技が技だからなのだが、今回はそれを使っていないとは言え組み手は瞬発力がいる。
伝う汗が床を叩く。
互いににらみ合いながらいつ仕掛けるか軽く床を踏みならして。
大分息の荒い二人は同時に床を蹴った。
「………参った」
長い黒髪を束ねていたゴムは切れてしまったが、シンタローの繰り出した蹴りは相手の首もとギリギリで止められており、まともに懐に入られてしまったシンタローは届きはしたものの致命傷にならなかった突きを広げて降参の声を上げた。
「やっぱりお前の方が上か…………」
「いや力的には互角だろ。ただ俺の方が圧倒的に実戦の数が多いってだけ」
「そういうものか」
「そうだよ、実戦と訓練じゃやっぱちがうからな」
シンタローは床に座り込みながら、ばらけた髪を高めの位置で一つに束ねる。
差し出されたドリンクを受け取りながら、シンタローの言葉に笑って見せた。
「しかし前にも負けたしな、やはり悔しい」
「んー……でもあれ途中までお前の方が優勢だったろ?しかも勝ったとはいえ俺だけの力じゃねーしなぁ……」
「秘石か?」
「秘石って言うかアスって言うか」
言いにくそうに口ごもるシンタローに対しシンタローはスパッと言葉を吐く。
そんなシンタローにシンタローは調子を崩しながら困ったように缶を煽った。
「それもお前自身の力といえば力だろう?」
「そうかねぇ……あのままいってたらお前殺してただろうし。それは俺の意志じゃないからやっぱ違うような」
「そう言えばそうだったな」
「……わすれんなよ、割と重大だろ?」
「今げんにこうしてここにいるしな、あまりこだわっていない」
「そ、か」
何とはなしに二人して黙ってしまう。
ストレートなシンタローの言葉は飾り気がないぶん、本当のことしかない。
気温が上がり始める時間帯。
暑さがじっとりと身体にまとわりつく。
「べとべとで気持ち悪、早く風呂はいらないとなー」
「でもこの時間ここのシャワー室って電源落としてないか、確か経費削減で」
「いや上のシャワーブースは24時間体制だよ、俺みたいのいるからそうしちゃった~」
「お前それ職権乱用じゃないか……?」
「総帥だし?」
からからと笑うシンタローに、シンタローはすっと腕を伸ばす。
額に張り付いている黒髪を梳いてやると少し驚いたようなシンタローの顔。
「………邪魔じゃないか?」
「髪か?」
「ああ」
「切ったほうがいい?」
にっこり笑ったシンタローに、シンタローはまた妙な引っかかりを感じた。
「いや、お前が邪魔じゃないなら別に……」
「ま、邪魔って思うことも結構あるけどさ」
「なら」
「ジャンと見分けつかなくってもいいわけ?」
それに長いの気に入ってるしな。
笑みを崩さないシンタロー。
その顔にシンタローは少し眉を顰めた。
「ああそう言えば……」
同じ顔だったな、と今更のように言うシンタローに、シンタローは思わず脱力した。
「……お前、俺よりあいつの方が合う回数多いんじゃねぇの?」
「そうだが印象はお前の方が強い」
印象が強いというか。
なんだか釈然としない物を感じながら、高くなってきた日に目を細めてシンタローは立ち上がった。
「シャワー浴びるわ……」
「ああ、俺も行く」
『シンタロー』
シャワーブースの戸を開けながら重なった声に思わず顔を見合わせる。
「………ややこしいよな実際」
「別に俺は構わないが……」
「どうせならお前、高松命名のキンタローでどうよ?」
「それはイヤだ」
キッパリと主張するシンタローに、シンタローは苦笑を禁じ得ない。
「ま、そうだよな」
そう言ってシャワー室へ入ろうとすると、シンタローがその肩を掴んだ。
どうした、問おうとした言葉はシンタローの真剣な表情に呑み込まれて。
「分かるぞ」
「え?」
「髪を切ったって、俺はお前が分かる」
「でも似合ってるし確かに切るのは勿体ないな」
微かに笑って、シンタローは先にシャワーブースへと入っていった。
ざーっと聞こえてくる水音に、残されたシンタローはずるずると壁伝いにしゃがみ込んだ。
シンタローの言葉に顔は真っ赤だろう。
「…………初めてかも」
この髪を、褒められたのは。
それに。
「あーもう、俺のこと嫌いだったクセに」
勿論その理由は自分がよく知っているが。
こうでも言わないと顔の火照りはとれそうにもなく。
また目の奥が熱くなる。
けれどこれは、いままでのようなものじゃなくて。
「………馬鹿じゃねーの」
男を褒めてどうするよ。
いま鏡を見たら真っ赤な目をしてるんだろうなと思っても、ぼやける視界をどうにかしようとは思わなかった。
--------------------------------------------------------------------------------
ややこしいわ。
やはりシンタローさん(黒)とシンタローさん(白)を同時に出すのは難しかったですか。
シンタローがシンタローでってどっちがどっちだよッ。
一応区別は付くかなーと……、思って、いるんですが……。
ルー兄再び登場。
シンタローさん(白)も予定通り出ました。
シンタローさんとシンタローさんって同じ体にいたわけだから双子見たく考えても良いかなーってずっと思ってたんですがどうですか駄目ですか。
そしてもってシンタローさんは目が青くなるらしいです。
ラストにちょこっとありましたが赤くもなるようです。(これは意味合い少し違うけれど)
さんざん勿体ぶってた捏造部分ですがいざ書いてみたら勿体ぶる必要…あったのか。
一通り出したい人物は出したかな……サービス叔父は名前しか出てないが。
ハーレムさん出番ですよー(多分)。
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焼け付く喉。
叫びを上げる躯。
それでも声が届くことはない。
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Act1 rejection
「う゛ぇっ………ぐ、うぁ……っ」
コポリと鈍い音を立てながら、逆流してくる胃の内容物。
もうどれくらい吐瀉物を睨んでいただろうか。
生理的な涙で蛇口から流れ出ている水と、自分が吐いている物の区別が付かなくなる。
もう空っぽと言わんばかりに胃は熱く、それでも止まらない嘔吐感に段々と痛みすらも鈍くなってきた。
出てくるのはもう黄色い胃液ばかり。
「………………苦、」
何とも言えない苦みが、口の中を支配している。
痺れた舌はその苦みすら感じ取りにくいようだが。
焼け付いて、痙攣を繰り返している喉にそっと手を当てて口を濯いだ。
ねばねばした感覚が何とも言えず気持ち悪い。
蛇口をひねったままに、壁に体重を預けてそのまま床に座り込んだ。
不愉快に冷たい壁が体温を容赦なく奪っていく。
どうしようもない虚脱感を抱えながらまだ燻っている嘔吐感を騙し騙し体を休める。
眠れない。
体は睡眠を欲しているだろうに、精神が言うことを聞かないのだ。
泥のように動こうとしない体に精神は冴え渡って。
長い夜に余計なことばかり考えてしまう。
深夜と言うにも随分と遅く、しかし夜明けにもまだ遠い。
外には風の音もなく、部屋に響いてる水音だけが耳に届く。
「―――――――――ッ!!」
また込み上げてきた嘔吐感に必死で立ち上がり洗面台にしがみついた。
気持ち悪い。
それだけが感じる唯一のことで、空っぽの胃から胃液だけを吐き出した。
もう胃液すらも出ないのだろうか。
嘔吐感と反比例して、何も出てこない喉から急に何かが迫り上がってきた。
ボタボタボタボタボタッ。
「――――――――――けふっ……!!」
夥しい血液に、洗面台はあっという間に真っ赤に染まり上がった。
きつい酸は、喉をとうとう焼き切ったらしい。
流れてくる血液に上手く酸素が吸えなくて酸欠状態に陥った。
点滅する視界。
霞む意識。
あの2人がまた、目の前をちらついた。
「……………………なんだよ」
「いんや」
「別に、だっちゃ」
ガンマ団内の一室。
団員達のトレーニングルームで久しぶりに訓練でもしようかとジャンが入っていくと、そこには先客が居た。
「あ、チン」
「チンだべ」
「違うっていっとーろにッ!!」
目があった途端その物言いで、流石に辟易する。
「………お前等忙しいじゃねーの?二人揃ってなんでこんなトコに」
「三人だべ」
「だっちゃ、そこにアラシヤマもおるだっちゃ」
二人揃って指を差し示したトコには確かにアラシヤマ。
部屋の隅に体育座りしたままなにやら重々しい雰囲気を一人醸しだしている。
「………いる意味あるのか?」
『さぁ?』
ふたり見事にハモってさらりと流す。
確かに関わりたくない気持ちはわかる、が。
「アラシヤマもいるなんて……引継とか、いいのかよ?」
ジャンの台詞に、ミヤギとトットリは二人顔を合わせてジャンに向き直った。
アラシヤマ、ミヤギトットリの三人はマジックの直属の部下だった。
島から帰ってきた今、マジックは引退宣言をし全てをシンタローに引き継がせることを告げている。
その準備にシンタローは最近やたらと忙しそうで、顔を合わせていない。
となると、当然ミヤギ達も忙しいと思っていたのだが。
「僕ら直属だったし」
「ああ、それがシンタローに代わるだけだべな?」
「むしろ下に付く部隊とか考えるのが大変そうで」
「ソレは俺等の仕事違うからな、逆に暇なんだべなー」
「完全に引き継ぎ終わるまで宙ぶらりんだっちゃ」
なー、と仲良く頷きあっている。
「暇だから体だけでも動かさんと鈍るだっちゃ」
「だべだべ。―――――チンは何のようだべ」
「……………ここに来る目的はお前等と同じように訓練だと思うが?」
名前の訂正は諦めて、がっくりと肩を落としながら理由を述べる。
「アラシヤマみたいのもおるっちゃ」
「………一緒にするなよ」
にこやかに厳しいことを言う童顔の青年にさらに脱力しながらジャンは来る時間間違ったかと思う。
しかし今更帰るもシャクであるし。
というか。
「お前等俺のこと嫌いだろ……?」
「――――――――…」
「――――――……?」
「いや考え込まれるのも微妙なんだが」
すっぱり言ってくれた方がまだいい。
ジャンの問いに、ミヤギトットリの二人は何故か考え込んで。
二人揃ってぽんっと手を打った。
「だって考えたこと無いんだべ?」
「だっちゃ。結構どうでもいがったから……」
ザク。
またなにげに酷いトットリ。
どうでもいいというか無関心が一番人として辛い物ではないかと思う。
執着されていないと言うことだし。
嫌いならまだマイナスとは言え関心を持たれているだけマシだ。
内心深く溜息を付きながら、ジャンは気を取り直して体を動かすことにした。
付き合っていても何の得にもならない。(言いだしたのは自分であるが)
まずは軽くほぐすかと、ストレッチをはじめてみれば妙に気になる2つの視線。
無視して続ければいいのだが、一回気になると気になり続けてしまう。
「何だよ」
「いんや」
「別に」
軽く睨んでみても素知らぬ顔。
不躾な視線を構わず送ってくる。
額に青筋が浮かぶのを誰が止められようか。
「あのなぁ!」
「うーん、見れば見るほど似てるべなって」
「全く同じだっちゃね」
誰に。なんて聞かなくともよく分かる。
「本当におめぇさんはシンタローに似てるなぁ」
ミヤギの台詞にトットリは頷いて。
その言葉にジャンは僅か眉を寄せる。
「あのなぁ、俺があいつに似てるんじゃ無くて、あいつが俺に似てるんだよ」
その台詞にきょとんとする二人。
そんな二人にジャンは続ける。
「あいつは俺に似せて作られたんだから、そっくりで当たり前なんだよ」
「お前等も聞いてただろうが……」
言いにくそうにするジャンに、ミヤギとトットリはしれっと口を開く。
「そりゃあ知っとるけどなぁ」
「あんま関係ないっちゃ」
「正直チンのことは多分嫌いではねぇけど………」
「僕らにはシンタローの方が長いつき合いだっちゃ」
『な』
「多分て何だよ…………」
揃う二人にジャンは深く溜息を付く。
シンタローと唯一違う、短い髪の毛に手を入れ乱暴に掻き回す。
「これからのつき合いだべ!あんま気にするでねぇよ!!」
「ミヤギくんの言うとおりだっちゃ!!」
「…………ありがとよ」
カラカラ笑う二人に、ジャンはそれだけをようやく口にする。
思えば自分もあまり意識したことがない二人だったが、こうしてみるとかなりすごいものを持っていると思う。
確かになし崩しとは言え、あの島で随分と生活していた二人なのだ。
最後にはあの島の生物たちとも馴染んでいたようだし。
なんだかどっと疲れたジャンには、もう体を動かそうと言う気はない。
また一つ、大きく溜息を付いて。
「――――――…戻るわ」
「なんだもう行くんか?」
「何しに来たかわからないっちゃね~」
それに何か言う気力もなくジャンは、片手を軽く上げてどこかくたびれた様子で去っていった。
ミヤギとトットリの二人は、休憩も十分取ったことだしまた訓練を開始しようかと意識を切り替えようとしたときだった。
「あん人も気にしてはるようですな」
『うっわぁ!!』
いつの間に後ろに来ていたのか、ぽそりと呟かれた声に二人は叫びの声を上げる。
「あ、アラシヤマ………」
「いたんだっちゃね……」
早い鼓動を刻む心臓を落ち着かせながら、二人はアラシヤマの視線を辿りそれがジャンの消えていったドアだと知る。
「そういや……ちょっと意外だっちゃ」
「んだ」
先程のアラシヤマの言葉がジャンを指していることに気付き、自分たちと話していたときのジャンを思いおこす。
シンタローに似ていると言ったときの彼。
それと分からぬようのつもりだったろうが、確かに眉を顰めたことぐらい二人にも分かった。
「まぁ似とるのは顔だけやんな?」
「そうどすな」
「っちゃ」
ミヤギの言葉に頷くアラシヤマとトットリ。
少し引っかかることはあったけれど。
「――――――ま、とりあえずシンタローの足引っ張らないように頑張るべか!」
「忙しいっちゃからね~」
島から帰ってきてから本当にろくにあっていない。
遠目で見掛けるぐらいで、言葉を交わすことも少なかった。
「組み手やるっちゃ?」
「そうだべな……けどどうせだから…アラシヤマ!」
「なんどす?」
「おめさん俺等に技放ってくれ。どうせ暇なんだべ?俺等は良い訓練になるし、アラシヤマは技の練習になるし。どうだべトットリ」
「頭良いっちゃなー!ミヤギくん!!」
「まぁ………別に構わないどす」
アラシヤマのその言葉に二人は苦笑をしながら中央にと走っていく。
ノリが悪いだかなんだかアラシヤマの耳に届くが二人は小声のつもりらしい。
「よし!アラシヤマ!!」
「来いっちゃ!!」
構えを取ってアラシヤマの技を迎え撃つ準備をした二人に、アラシヤマもゆっくりと近づいていく。
色々気に掛かることは有るのだけれど。
いまは、強くなろうとしている二人に手を貸すのも良い。
それは己自身と、彼の為なのだろうから。
「あん人が気にしてはるんどす………」
誰にも聞こえないほどの声で呟いて。
「はないきまっせ!」
炎を、その体から生み出した。
月が昇ってから幾時間。
もうすっかり人気のない訓練場に彼はいた。
普通なら電気も落ちて鍵も掛かっているその部屋だが別段気にすることはない。
マスターキーは持っているし電気がないのがどれほどの不都合だというのだろう。
長い黒髪を高く結わえ、部屋の中心にと足を進めてみれば床には無数の染み。
「………………?」
暗くてくてわかりにくいが、しゃがんで目を凝らしてみるとそれは焼けこげだった。
手をそっと這わせてみれば、指先が黒く染まる。
青白い月明かりと、その黒い炭が相まって決して白いという部類には入らないだろう手が白く見えた。
まるで自分の腕ではないようだ。
そう。
本当に他人の手を見ているかのようで。
そう思った途端、体が動かなくなる。
小指一つさえ、その先が動かない。
まるで血の通わないように。
ゼンマイの切れた人形のように。
意思の利かない躯。
動けと脳は、意識はありったけ命令を出しているのに、神経という神経が繋がらない。
どこで伝達は拒絶されているんだろう。
そんなことをぼんやりと頭の片隅で考えている。
ツゥッと、額から頬にかけて汗が一筋、流れ落ちた。
ポタリと汗が床に落ちた音を耳が拾う。
「―――――――――っはぁ」
音を認識したと同時に、体中が一気に弛緩する。
凍り付いて全く動かなかったそれは痙攣するかのように震え、力の抜けた足が膝を折る。
床にへたり込んだままに左手で胸元を押さえ込んだ。
うるさいほどに音を立てている心臓。
荒く肩で呼吸を繰り返す。
呼吸の仕方さえ、忘れていた。
「―――――――ちっくしょ、」
幾筋も流れ落ちていく汗を拭いながら散漫する意識を高める。
耳元に聞こえる早鐘の音。
時間がたつほどに規則正しく、緩やかになっていくその音に合わせつつ右手に力を集中させる。
高まっていく力。
ソレを一気に。
「眼魔砲ッ!!」
鈍い爆発音。
放出されたのは期待したとおりの物なんかではなく。
閃光ばかりが目に眩しい、威力などはよっぽど自分の拳の方が強いだろう。
「――――――まじかよ……」
それはほぼ予想していたことなのだけれど。
実際目の当たりにすればショックは大きい。
自分が誇れる、唯一の技。
なくしただなんて考えたくない。
「―――――――っ」
急激に痛みを訴えはじめた身体を押さえ込み、小さく身体を丸めて座り込んでいた体勢から横になる。
締め付けられるような心臓の苦しさに息さえも詰まる。
じっとりと体中から噴き出る汗は気持ち悪くまとわりつき、不快感を増させた。
荒い息を吐きながら、高い天井を見上げ、視線をそのまま窓の外にと移す。
見えるのはか細い、爪で引っ掻いたような青白い月。
意識が下降していくのを感じながら、けれどそれに抗うかのように拳を握る。
「―――――――上等……」
影のおまえならともかく
青の番人の本体にとって、
「影でも変わりないみたいだぜ………?」
島での言葉が思い出される。
『自分』というモノを意識した途端この有様はあんまりじゃないか?
「ほんと、今更」
自嘲気味に笑いながら、ゆっくりと目を閉じて遠のく意識をそのまま受け入れた。
赤と青。
相容れられないのなら呑み込まれていくのはどっちだろうね?
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一人じゃ味わうことの出来ない痛みを抱えて。
それでも愛することしか出来ずに、この手を伸ばした。
お願いだから。
今更離さないで。
Doppel
Act2 貴方を呼ぶ声は風に攫われて
島から帰ってきてはや3ヶ月。
島で過ごしたことは未だ色鮮やかだが、とても遠い。
自分ですらそう思う毎日なのだから、一番深く関わっていたあの男の心情はどうなのだろう?
会議に出るときぐらいは身だしなみをきちんとしろと言われていたのでしめていた第一ボタンを、ようやくのことで外す。
どうもここは堅苦しくて仕方がない。
島生活は性にあっていたようで、なおさらだ。
ばたばたしていた時期も過ぎ、ようやく慣れが見られるようになったころだった。
少しではあるが感じていた違和感。
忙しいせいかとも思いそこまで気には止めていなかったものの、最近は流石に目に留まってしまう。
自分が気付く位なのだからとっくに気付いているだろう人物が頭に思い浮かぶ。
けれどその人も忙しいのだろうか。
どうもコンタクトを取っているようには見られなかったので。
妙にピリピリしている男をすれ違いざまに、拉致をしてみた。
「……………コージッ!!いきなりなに考えてんだよっ!!」
ずるずると力任せに引きずられて新ガンマ団現総帥シンタローは屋上にと拉致られた。
ガタイはシンタロー以上で、毎日訓練実戦があるコージ。
今のところ毎日デスクワークが主なシンタローが不意を突かれて勝てるわけもない。
屋上に猫の子よろしく放り出されてうっかり受け身を取り損ねたシンタローは、鈍い音を立てた頭をさすりながらここに連れてきた張本人、コージを睨み付けた。
しかし当の本人は何処を吹く風とやらで、楽しそうに笑っている。
「良い風やのぅ~」
「人の話を聞けぇッ!!」
強い風がその黒い髪を攫って。
シンタローが出口にと向かおうとすれば裾を掴んで離さない手。
睨み付けても何の悪びれもない笑顔に。
シンタローは毒気を抜かれコージの隣にと座り込んだ。
そんなシンタローにコージはいっそう満足げな顔でふとなにやらシンタローに差し出した。
「……なんだよ?」
「一杯どうだ?」
「アホかーーーーッ!!一応職務中だ図にのんなッ!!!」
まるでシンタローを怒らせるのが楽しいようにコージは笑っている。
やり場のない怒り。
フェンスを背にして大きく溜息を付きながらシンタローはなにやらぶつぶつ言っている。
横目でちらりと見やりながらコージは内心ほっとする。
うん。この方が全然良い。
「ちゃんと寝とるのか?男前が台無しじゃ」
わしには負けるけどな、と豪快に笑いながらシンタローの目の下をそっと撫ぜた。
見掛けるたびに消えてはいない隈。
激務だろう言うことは容易く分かるがそれでも体調管理も仕事の内。
総帥が過労で倒れただなんて笑いごとにもなりやしない。
「どっかの誰かさんのせいで今日は確実に寝不足だろうな」
ちょっと耳に痛い。
が、手伝えるとも気軽にいうことも出来ずに。
「そやのぅチョコレートロマンスあたりに頼んどくか?」
「最終的には俺が目を通さなきゃいけないんだからかわんねーよ」
「じゃあ総帥はどうや。多分頼まずとも手伝ってくれそうじゃけんのぅ」
長い月日で上手になったのは嘘をつくこと。
垣間見えた彼の動揺には気付かない振りをした。
「やだよ。父さんに頼るのだけはごめんだね」
「後が怖いけぇの。どんな見返り要求されるか見物じゃ」
「………だから頼らないっての」
年を取るほど人間は、隠すことを覚えていくけれど。
それが上手くいかないほど、
なにがあったかなんて聞けるはずもなくて。
また、気付かない振りをした。
感じた違和感は。
「アラシヤマとか。ああいう地味で単調な作業はピッタリじゃないかのう」
「あいつは見た目に反して派手好きだし、逆に仕事進まないから嫌だ」
確かに。
シンタローがアラシヤマに個人的に仕事を頼むなんてしたら、感動のあまりおそらく仕事にならない。
ミヤギとトットリの二人はあまり向いていなさそうだし、多分逃げるのも上手い。
こう考えるとなんだか。
「部下に恵まれとらんのうシンタロー!!」
「テメェがその筆頭だぼけぇッ!!」
小気味いい音が屋上に響いた。
頭をさすっているコージに対し、シンタローは声もなく拳をふるわせていた。
「……石頭……ッ」
「貴重な脳細胞を破壊せんでくれや、お主も大概馬鹿力じゃけん」
「お前にだけは言われたくねーよッ……たっく、」
組んだ腕に埋めている顔を、風が浚った。
その風に誘われるように空を仰げば。
己の心情を表すかの様な厚い雲に覆われた灰色の空。
思えば、いつも見上げていたのはこの空だった。
なのに今期待したのはあの空。
見上げればそこは、
いつも眩しいブルーに吸い込まれそうで。
「また忘れそうだ……」
その呟きは風に攫われて。
「シンタロー?」
「あ、ワリィぼうっとしてた」
コージの呼ぶ声にシンタローは我に返った。
誤魔化すかのように立ち上がり、そしてまた空を仰いだ。
目に映る灰色。
視線を動かせば、コージの黒い瞳が目に映った。
「………あんまり気ぃはりすぎるのも考え物じゃの?」
「…………え?」
まるで子どもにするかのように頭をポンポンと軽く叩かれて、シンタローは思わず赤面してしまう。
妙に気恥ずかしい。
シンタローが見上げる人物というのも珍しく、狼狽えて視線を外そうとすると逆に足をかがめて身長をあわせてきた。
「あんまり頼りにならんけぇども、少しは分散させぇよ」
「…………頼りにはしてる」
シンタローの言葉に、コージはなおもその頭を撫ぜて。
視線を下げたシンタローは、けれどその手を払おうとはしなかった。
顔に血が上るのを自覚してはいるのだけれど。
自分のより一回りほど大きいその掌がなんだかとても心地よくて。
自然と肩の力が緩まるのを見て、コージは満足そうに目を細めた。
「……………チョコレートロマンスの声がする」
「ティラミスの声もしとるのぅ」
微かだが確かに二人の声がする。
その声にシンタローは慌ててコージからその身を離した。
「うわっ!やべぇあの二人怒らすと大変なんだよなぁ~」
「怖いか?」
「いや泣く。怒鳴られた方がマシ」
それは確かに。
その言葉にコージは納得しながら、出口にと身を翻すシンタローを見送る。
なんとなくわかった。
思ったよりも大丈夫そうだと思えるのは、彼の嘘?
「コージッ!」
「なんじゃ?」
出口のところで顔だけ出したシンタローが、コージの名前を呼ぶ。
口を開きかけては閉じ、逡巡しながら結局何も言わずに姿を消した。
と、思ったのだが。
「ありがとな!」
その声が耳に届くと共に、すさまじい勢いで階段を駆け下りていく音。
「素直なんだかそうでないんだかわからん奴じゃの」
「随分と仲良いなお前ら」
「そうかのう、まぁそうじゃろ。ところで特選部隊隊長さんがこんなところでサボっててもいいんか?」
「その言葉そっくり返すぜ」
急に降ってきた声にコージは驚くこともなく、向き直った。
鮮やかな、クセの強い金髪。
歪められた口元には煙草が銜えられている。
ハーレム。
青の一族、四兄弟の三男。
「気付いてたのか?」
「いや別に。ただなんとなく……」
「それを気付いてるっていわねーか?」
自分相手でも全く物怖じしないコージに、愉快そうに口元を上げる。
コージの隣にと近寄ってくると、同じようにフェンスに背中を預けた。
「わしのは漠然しすぎじゃ、それにシンタローが気付いてなかったのにわしがきづくってのも」
「あー……、あれね。あの甥っ子はいま駄目だね。不安定すぎるっての」
コージの言葉を途中で遮り、目を細めて煙が流れるのを追う。
ハーレムの言葉にコージは肯定しなかったが、否定もしなかった。
そんなコージにハーレムは淡々と続けた。
「なんつーかあのときと雰囲気似てるんだよなぁ……、前より年食った分だけ質が悪い」
「………幽閉騒ぎの?」
「ああ。あんときはまだ表に出してたからな」
弟を幽閉されてから笑わなくなった彼。
それはまだいい。
感情を表に出してもらえればこちらとしても対応の仕様がある。
けれどそれすら隠す術を覚えてしまった。
一体何を隠しているのか、もしかしたら隠していることなど無いのかも知れないけれど何処かぎこちない。
「………………………………………」
「なんだよ?」
顔に注がれる視線にハーレムはコージを見やった。
コージは何故か一人で納得しながら、満面の笑みを浮かべた。
「いや~、やっぱなんやかんやいっとってもあんたが一番人を気にかけとるなぁと思ったんじゃ。島では最悪だったけどな。でもそれも今考えると立場違うんじゃ、当たり前やのう!」
がははははははと豪快な笑い。
面と向かって言われたことなど無い台詞に、ハーレムは呆気にとられた。
「主のようなのがいるならシンタローも何とか安心じゃ、」
「…………俺はお前見たいのがいるのがある意味救いだと思うぜ……」
そこがシンタローも気を許せるところなのだろう。
先程の風景。
あんなに素直な彼はなかなか見られた物ではない。
「そーいやお前シンタローより年上だったな?」
「おう、四つ程じゃ」
「あーそうか、ソレもあるワケね」
一人納得しているハーレムに、コージは訝しげな視線を送る。
「あいつ絶対年上好きだからな、甘え下手だから甘やかしてくれる奴に弱い」
「そういや総帥も溺愛っぷりで見事に甘やかしてたのう……」
「つーかあいつを甘やかしてたのは兄貴だけだよ、ま、あとサービスもか。ちっせぇころはともかく……まぁそれでもどうかわからねえけど……手の抜きかたってやつを知らなかったなとにかく」
最後の方は小さくなって、やっと聞き取れるほどだった。
この男らしくない、歯切れの悪い口調に口に出すことを悩んだのだろう。
結局肝心なところは言っていない気がする。
そういえば。
先程の彼は。
「……………総帥は弟に付きっきりなのかのぅ」
「毎日顔見に行ってもなけりゃ今度こそ父親失格だろ。ま、元々身内には甘いしな」
身内だけともいう。
島での一件でようやくあの二人はスタートラインに戻った。
色々課題はあるけれど、最後の最後で通じる物はあっただろう。
そう、願っている。
「シンタローのこと、一番気にかけてるのはあん人じゃけん…………」
「………気付いてるだろ?あの二人の関係も第三者としては口出せねーからな。兄貴の執着は本当にすげぇからな……」
フィルターギリギリまで吸った煙草を地面に落とし靴先で火を踏み消した。
か細い煙は、上るかと思うとあっという間に風に蹴散らされて。
「兄貴のことだなんか考えてるだろ」
「まぁ……そうじゃろな」
「さーてと俺もそろそろ戻るかね、ちょっとここは風が強すぎる」
そう言って、コージの言葉も待たずさっさと歩き出すハーレムの背をコージも追った。
先程のハーレムの言葉。
そう言っている割には不機嫌そうな表情は元々の物なのだろうか。
流石につき合いが浅くてよく分からない。
最後にふと見上げた空は、今にも雨が降り出しそうだった。
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コージさんえっらい難しい……。
書きやすいかと思ったけどこの人の口調もなかなかまた難しいんですけど!!(泣)
うふふ……エセ方言……。
周りの人達その2ッ!
コージ&ハーレム。また珍しい取り合わせだなオイ。
次はシンタローさんとシンタローさんです。おそらく……。
今回少ないシンタロさん。
ポエ夢も少な目でしたね!!(ポエ夢言うな)
次はまたシンタローさんの心情を書いていきたいと。
真打ちですよ真打ちッ!
予定としては某小鳥の人もちらりと。(タイムリー)(これアップ時点で6月12日)
さ、来月までどれだけ話し進むかな。
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広告 ★家電製品の卸売り販売!一般利用開始★ 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog
これからだった。
全て分かることが出来た。
これからだったんだ。
Doppel
Act0 夢から醒めた夢
「なんだそうか……」
2人を見たとき全てが分かった。
はまらなかったピースが、カチリとはまる感覚。
抱かれたときの体の違和感。
「俺、あいつの体だもんなぁ」
18歳当時の体。
「………なんだそうなんだ」
もう一度繰り返すと、その事実がはっきりと頭の中に入ってくる。
そして目の前にリプレイする今の光景。
急勾配な坂を一気に駆け上ったような、そんな動悸と目眩が。
全てが終わって、俺を抱いたのは。
なんだかんだ言ってそんな素振りは今までなかったのに。
「………………うわ、わかりやすー……」
ずるずると壁づたいに体が下がっていく。
どこまでも落ちて行くような感覚。
急激に体温が冷えていく。
それとは反比例にこみ上げてくる吐き気。
胃のあたりがたまらなく熱い。
気配が消える。
それでも体は動かなくて、冷たい床に座り込んだままどれくらい時間はたっただろう。
聞き慣れた足音が聞こえる。
「シンタロー様!こちらにいらっしゃったのですか!?急いでください、ハーレム様が……具合でも悪いのですか!?」
座り込んでいたシンタローに、駆け寄ってきたチョコレートロマンスが矢継ぎ早にまくし立てる。
しかし、俯いたまま僅かにも動こうとしないシンタローに心配そうな声が混じった。
その声に、ようやく体と神経が繋がる。
「いいや、別に平気だよ。結構ここ、穴場だと思ってたんだけどな?」
伸びをしながらうっすら涙目で欠伸をする。
見つかっちゃったなーとにっかり笑うシンタローに、チョコレートロマンスは脱力したように手を差し出した。
「後でお忙しくなるのはシンタロー様ですよ…。早く戻ってください」
「はは、ワリィ」
その手を取って体を起こす。
目の前がチカチカと点滅する。
さっき見た風景。
黒と白が交互に。
「シンタロー様?……本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、……ただの立ちくらみだ。行くぞ」
心配そうな色を隠さない、チョコレートロマンスに又一つ微笑んで。
シンタローは歩き出した。
自分のあるべき場所へ。
気もち、悪い。
そう大丈夫。
分かっていたことじゃないか。
昔から。
もう慣れていたことで。
この顔の向こうに誰かがいることは。
それが彼も例外ではなかったと言うこと。
今まで他の人の視線には気づけたというのに。
結構な笑いぐさだね?
「みんな、この顔好きだなーー……」
………………本当に。
秘石も粋なことをしてくれる。
あの男がドコまで浸透していたかと言うことをわかりきっていたらしい。
広いベッドに服も変えずに倒れ込んだシンタローは、その長い髪の毛が真白いシーツに散らばっているのをぼんやりと眺める。
とっくに中天を過ぎた月がその漆黒を照らしていた。
唯一違う、体のパーツ。
「マジック」
貴方も。
「勘違い、させないでくれれば……」
見ていた。
昼間見た2人の姿。
それだけでもう全てが分かった。
視線。
空気が、違った。
「………………影、ね」
輝きを失った月。
偽りの太陽。
「ここにいる意味、無くなっちまったじゃねーか……」
その呟きは、誰にも届くことはなく闇に溶けていった。
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はい、とりあえず序章~。
次からもっとお話ちっくになりますよ。
まずはマジックとジャンの関係を知るところから。
…………………………ねぇ?(ねぇっていわれても)
広告 古文。有名出典20冊の読解法と入試問題解説 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog
改訂版ドッペルを読む前の注意点です。
前の注意点が自分で読んでて痛い子だと思いました…。(苦笑)
基本的に私が特定のCPしか駄目なタイプ(リバ不可)なので。
しかしパプワに関してはかーなーり雑食だということが分かり、新たに注意点が増えましたのでその上で改訂いたしました。
っつか本当に頭悪い子な文だよあれ…!!
まずDoppel大前提カップリングです。
ルーマジジャンサビ。
正しくはルー→マジジャンサビ。
ジャンとマジック総帥、サービスとジャンが出来ていたというのが前提のお話です。
ある方のマジジャンを読んだのきっかけで、ばーっと話が出来上がりました。
このCPがあったとしてこのCPに至ったらと…つらつら。
で、シンタローさんがメイン。
だってシンタローさんが好きですから!
この話のカップリングはマジシンマジです。
考えてたらマジシンマジだなぁこれは、と思いまして。
直接的表現はありませんので(裏なのに!)、特にこの辺は気にしないで大丈夫かと。
空白の四年間から、シンタローさんパプワ島組にはいるまではシンタローさんサイドでお話が進みます。
シンタローさんがガンマ団から離れてからは、ガンマ団残留組で進めています。(05/10/18現在)(03年から始めていますが1年半ほどサイト休止期間がありましたので…)
や、シンタローさんの方に大きい動きがないと、もう進められないもので(苦笑)。
でもシンタローさんのお話って言うことは変わりません。
基本的に痛い話です。
まー好きでいることは綺麗事じゃねぇ!という話しなので。多分。(大層なテーマに見えるがもっと言い方ないのか)(多分だし)
マジック総帥とジャンは出来てましたし、総帥とシンちゃんも出来てる設定で進んでいきますよ。
そしてこの話ではキンちゃんはシンタローの名で通しております。
ややこしいんですが、キンちゃんの名で私がシリアスかけないもんで。(全てはグリーンリバーライトのせい…!!)
そして本誌を追いながら書いておりますので、本誌の設定と沿わない部分も出てきます。
(高松がガンマ団に4年間ずっといた等)(だっていないっていうの知る前に書いてたもので…!)
その辺はご了承を。
ではでは長々とかきましたが、痛いの平気でCP雑多で細かいところ気にしない方。
どうぞDoppelを読んでやって下さいませ。
05/10/18改訂。
上を向いて歩こう
触れた頬が思いの外に温かかく、思わず手を引っ込めた。
「まるで、眠り姫だな」
そのまま、起きる気配の無い弟の手を握り、にやけているシンタローの後ろに陣取ると弟の顔を見やる。
栄養を送るために日に数回、点滴が付けられる。
今は漸くその点滴が外され、面会が許された僅かな時間だ。
青白い面が、やや暗く調整された照明がさらに顔色を悪く見える。
「起きるさ、早いうちにな」
柔らかく、艶やかな髪を撫ぜてやり整えると漸く立ち上がった。
それでも未練がましく、顔を見つめたまま動こうとしない。
「…行くぞ」
我ながらひどい台詞だと解っているが、退出を促す。
もう一度、頭を撫ぜゆっくりとこちらを振り向いた。
「行くか」
「ああ」
出来るだけ、日の光が入るようにと選ばれたこの部屋は、今は幾重ものカーテンによって夜の寒さが防がれている。
研究棟の最上階にあるため、いくら空調が整備されていても窓から冷気が忍び寄って来る。
「早く、屋敷に戻れるといいな」
気休めにしかならないとわかっていても、そういってしまう。
起きたときにこんな寒いところに居たら、また閉じ込められたと思ってしまうだろう。
ドアには厳重にロックがされており、例え内側からでも開くことが無い。コタローにつけられている計器によって目覚めたならば、すぐにスタッフが気付くだろうか、その間に何が起こるだろうか…
閉じ込められた部屋とは違い、壁は一般的なもの。
力を解放すればいともたやすく壊すことが出来るだろう。
そうなってしまったあとでは、コタローは父親の、もしかしたら兄の言葉さえも聞き入れないだろう。
「皆、待っているしな」
シンタローもそのことを危惧しているのだが、屋敷に連れていくことが出来ずにいる。
なにかあったときのために、医療チームが傍にいたほうが良いのは確かであり、現に点滴等を投与する為、ここから離すわけにはいかない。
せめて目が覚めたとき、誰かが傍に居れば良いのだが…
二人で廊下を歩いていると、前方からグンマがこちらに向かって走って来た。
「キンちゃ~ん、シンちゃ~ん。久し振りぃ~」
目を眠たそうに擦っていたが、二人の姿を見掛けて、手を振って駆け寄って来た。
目の下に隈が出来ていて、どれだけ研究に打ち込んでいるのが容易に想像出来た。
「これから行くのか?」
「最近忙しくって会えなかったからね」
「それでも近くにいれたじゃねーかよ」
この数週間、シンタロー達は遠征に行っており、今度は支部へ視察に行かなければならない。
いつでも傍にいたいという願いとは反対に、飛び回らなければならない。
「後悔してるの?」
唐突なグンマの質問だが、何を、とは聞かない。
ただ、相変わらずの思考回路に苦笑した。
「お前、飛び過ぎ」
さすがに今の質問はわかりやすかった。
突飛な質問や疑問も、突き詰めていけばどのような意味を持つのかが理解出来る。
そのことに最近気がつき、質問の意図を確認するようにしていた。
気がついたのは、多分三人になったから。誰かが仲立ちすることで漸く、不自然さに気がつくことが出来た。
「してねーよ」
「自分で選んだことだからな」
後を継ぐように言われ、頬を掻く。
「どーせ、二人とも解ってたんだろ」
簡単に自分の決めた道を翻すわけが無い。
どんなに険しい道であっても、この道を進むことを決めた。
いつか、この道を歩いたことを誇らしげに語れるように。
そんな思いを込めて、当然というように笑って見せれば、案の定、二人は顔を見合わせて笑った。
「そんなシンちゃんが好きだよ」
「当たり前のことを聞くな」
自信満々で、笑う笑顔の為に二人が何をしているかなど、きっと一生言わないだろう。
キンタローのように傍にいるならばともかく、グンマが何かをしても、きっとシンタローは気が付くことはない。
そのことについて、キンタローはいつか聞いたものだ。
それで良いのか、と。
キンタローが言うのもおかしな話だが、この一族はなにかに執着したとき、相手の都合など考えずに突っ走る傾向がある。
一見シンタローの影のように付き添い、冷静であるように見えるが、それはキンタロー自身がシンタローの傍にいることを望み、どんな研究よりもシンタローが大切だという感情の表れに過ぎない。
グンマにしてもその兆しが無かったわけではない。
彼の研究に、ガンボットに対する執念は並々ならぬものだ。
だというのに、これほど気にかけているシンタローに対しての行動がおとなしい気がしたのだ。
そして、グンマの答えにキンタローは敵わないことを知った。
――今のシンちゃんは、キンちゃんが必要だからね――
ただ、笑っているシンタローが見たいのだと、そのためになにかが必要だというのなら、躊躇い無くグンマは動くのだろう。
それは、キンタローが見たことが無い顔だった。
少なくとも、キンタローが知っているグンマはおっとりとした、優しい従兄弟だった。
それが、たった一点シンタローのことが絡むと変わってしまう。
「ったく。聞くんじゃねえよ」
穏やかな笑みを浮かべ、シンタローは自室へと向かおうとした。
「あ~、久し振りなんだからもっと話そうよ~」
「俺は疲れてるんだよ」
能天気な声の下にある顔。
きっと、一生その全貌を見せることが無いだろう。
それでも、キンタローだけが知っている。
「明日」
「え?」
振り向くことも無く、ぼそっと呟かれた単語。
それでも、コタローのいる部屋とは反対の方向に進もうと、シンタローの後を追おうとしたグンマの耳には届いていた。
「だから、明日なら話を聞いてやるよ」
「ホント!?やった~!」
押し切られるような形でした約束だが、シンタローも嫌であるわけではない。
そして、呆れたように笑うのだ。
彼が欲しいのは、これだと知っているのはキンタローだけ。
「3時のお茶会」のかな様のところで配布されていた素敵小説。
今度は20000HIT記念です!お持ち帰り可だそうでいつものごとく右クリックです。
20000HITおめでとうございます~v
いつもいつも素敵な小説が楽しみで、これからも楽しみです!
従兄ズがすごい可愛くてああもうシンちゃん愛されてんなぁ!羨ましい!!(待て)とか悶えながら読ませていただきました!
そしてさりげなくグンちゃんが最強な模様が愛しいです。(笑)
相変わらずのキンちゃんのシンちゃん理解っぷりとか!!
コタローが目を覚まして、2代目四兄弟が仲よさげな様子がとても見たくなりましたっ。
ここには本来、かなさんの後書きが書かれております。
こちらこそよろしくお願いいたしますですッ!!