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sdf
【冬の醍醐味】

************************************************

 遥か上空。
 水蒸気は冷えて固まり 結晶となる。

シャッ

勢い良くカーテンを開ける。  
 目に飛び込んできたのは一面真っ白な世界。

「お―ッ、降った、降った!!キンタロー起きろっ」
「何だ、何が降った」

むくりとダルそうに起き上がる。  
窓に近寄り、そして固まる。

「コレは・・ユキか?」
「そう、雪!見たことはあんだろ?」

な、と無邪気に笑う。  
・・確かに、見たことは有る。何度も。
シンタローのなかで、彼の視点で見ていた白―

「な、外いこーぜ!」
「・・・コート取ってくる。」


「ぅあ―冷てぇ・・初雪~♪」

雪だまをつくりながらはしゃぐ。
ふとキンタローをみる。

「・・・・・」

ず、と手に乗せる。  
手袋をしていない手に触れた雪は、じわりと解け・・やがて水へと姿を変えた。

「・・・冷たい・・・」

もう一度すくおうとした時―・・・・

ずんっ

「!!」

背中に感じる重み。

「なんだ?」

上を見ると、乗っかっていたシンタローと目が合う。

「雪だるま作ったぜ」

ほら、と後ろを指す。  
 そこには確かに雪だるま。
すのーまん。直訳すると雪男。(関係なし)
しかも結構でかかったりする。

「・・早いな・・いつの間に」
「キンタローが一人で遊んでっからだろ―」
ぷい、と横を向く。
 幼い仕草に笑みがこぼれる。

・・・・この隙に・・。

ずしゃ。

「!?」
雪に何かが乗っかったような音に振り返る。

「ぶはっ!」

思わず吹き出す。
・・・そこにあったのは、なんとも形容しがたいモノ。

「んっだよソレ!!ダンゴ!?」

あはは、と腹を抱えて大笑い。
シンタローの目にはいって来たのは、ダンゴ。のような形のもの。 

キンタローがシンタローの目を盗み、もう一つの雪だま(しかも結構でかい)をのっけたのだ。
三つになった物体は、倒れそうになりながらも何とか必死に耐えていた・・。

べっしゃ。

「ンぶッ!!」

雪だまがシンちゃんにクリーンヒット。

「笑うな。」

いつまでも笑っていたシンタローにいい加減腹がたってきたキンタローのささやかな仕返し。

「っのぉ・・・やったなコラァっ」

ぶん、と手近な雪だまを投げる。  
が、しかしヒョイとかわされる。

「ふん、コントロールが甘いな」

フ、とわらう。



「むぅうう~~っ!」
「で、どーだった?」
「何がだ」
「雪の感想。」

ぬくぬくと冷え切った身体を温めつつ。

「・・・冷たくて、白くて、すぐ解けて、ダンゴ。」
「ダンゴはねーだろぉがよ・・」

プッ、とまた笑いながら言う。



「はぁ―あ・・・寒ぅっ」

ぶるぶると震える体を押えつつ。

「ぁーん?冬は寒いもんて決まってるだろうが。」
「そーだぜボーヤ」
「大体この程度で寒いなどと・・・」

口々に言う同僚&上司。  
たった一言でこんな否定される自分て・・・とリキッドは今更ながらに落ち込んだ・・。

「・・・・よっしゃ、シンタローんとこ行くか。」
「えっ、何でッスか?」

いきなり、ポン、と手をつき提案したハーレムに質問。

「てめぇもシンタローも料理うめェだろ」

・・・・それは、つまり。
 さきほどむりやり買って来させられたこの鍋の材料を使えと・・・・。

「わ―ぉ、鍋パーティかvv」
「・・・・・・・ふん。」



ぴんぽーん

「はーい、はいはい」

かちゃ、とドアを開ける。

「よぉ。来てやったぜv」

バタンとドアを閉める。  

フー、とため息。

「おいコラ、何間髪いれずに閉めてやがる!!」

バキィ、と不吉な音が響き後ろを見てみれば・・。 
そこにいたのは、やはり見間違いではなかった獅子舞と愉快な中間達(笑)

「何だ、騒がしい。」
「お、キンタロー様」
「・・・・・・・;」
「二人暮しなのかっ?」

ひょい、と姿を見せたキンタローに反応する、ハーレムにロッド、マーカー、そしてリッキー。
 ずい、とロッドがシンタローに詰め寄る。

「何?何でさ二人暮し?二人っきり?何でもしほーだい?
 だったらオレも入れて くれたグフゥっ!!」

ロッドの言葉は途中で切れた。  
・・・・本人が倒されたのだから仕方が無い。

「・・さ、さんきゅ、マーカー・・・」
「・・・・煩いから黙らせただけだ」


とんとんとん

「くっそ、何でオレが」

ブツクサ言いながら具を切る。

「すんません・・言い出したら止まんないんスよ・・」
「わ―ってるけどよぉ・・」

「いてっ」
「ど、どしたんスか!?」

いきなり響いたシンタローの声に振り返る。 
そこには小さな赤の雫。

「いってー、油断した・・」

ぴるぴるとてをふる。赤がとんだ。

「ちょちょちょ・・・」
「シンタロー」
「あ、キンタロー。どした?」

ちう ――と、血に濡れた指をすくい、口付ける。

「・・・止まったか。」
「ん―、さんきゅ」

に、と笑う。  リキッドは固まったまま。

「お前も手伝う?」
「・・・・ああ。」

そんな二人の様子に。
ぅわあ・・新婚夫婦だあ・・・、とリキッドは逃避に陥っていた・・・。


「おらっ」

でん、と鍋を置く。

「おー上手そうじゃねェか」
「当たり前。オレが作ったんだから。」

いつのまにやら持ち込んでいたボトルを空けていたハーレムにキッパリと言う。

「まぁオレも手伝ったがな」
「はいはい、ありがと―な。はいこれよろしく」

ぽん、と皿を一つ。

「・・・・なんだ」
「ツマミ。照り焼き。鳥の。ハーレム叔父様のご希望で―ぇす。」

ははん、と笑う。

「・・・・・ふう。」

キンタローはためいきをついた。

「はァ――・・あったまる・・・」

はぅ、と食べながら呟くリキッド。

「おっ、それ上手そ―」
「あ、てめロッド!!・・て、マーカーまでッ!!」

両はじからチャイニーズ&イタリアンに具を奪われ叫ぶ。

「・・・あつ。」
「―んだよマーカー。熱いうちに食わねぇと意味ねえだろ」
「・・・・・では貴様が燃えろ。」

ボゥッ

「ぅあっぢゃ―ッ!!!」

バタバタと走り回る。  すると、近場でツマミを食べていたハーレムが叫ぶ。

「るっせーぞ、ロッド!!落ち着いて酒も飲めやしねえ」

ピンポォン

「んっだ、また誰か来やが・・・・」

途中で言葉が切れる。

「おにーちゃん、遊びに来たよー」

明るく高い子供の声。

「こたろぉーっ!!」

ぴょーい、と燃え尽きる寸前のロッドを踏みつけドアに急ぐ。

「お前もきたのか、コタロー」
「寒かっただろ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。暇だしね、パプワくんと来ようと思って。」
「ぱぷわ?」

下を見る。

「久しぶりだな、シンタロー!」
「・・・ぁあ、だな・・。ま、上がれよ。」
「うむ。」
「・・・・・・・」

歩いていく二人を見て、黙っているコタローに気づく。

「・・どうした」
「ん・・やっぱり仲良いね。二人とも」
「パプワとシンタローか・・・。」
「うん。」

・・・・嫉妬でもしているのだろうか・・・・?

「・・くやしいのか?」
「まさか!僕、パプワくんもおにーちゃんも大好きだもん。
 さっ、早くいこ!! おじさん連中に食べられちゃうよ」  

ぐ、とキンタローの服を引っ張る。
 ふ、と笑いキンタローは歩き出した。

「おらぁ、おせぇぞてめーら!!」
「食い終わっちまうぜーぇ」  

ひらひらと酒ビンを振り回して叫ぶハーレム。+もう復活したロッド(早!!)

「また空けやがった・・この親父」
「全く・・・・。」



「じゃあね、おにーちゃん」
「また来るぞー!」
「ああ、風邪ひかないように気をつけてな。二人とも。」

ぅう、と鼻血を吹かないように耐えつつ見送る。

「ごっそーさん、また来るかんな。覚悟してろよー」
「生言ってんじゃねぇ獅子舞!!」
「・・・・・」

ケッ、とコタローへの笑顔はどこへやら、不機嫌そうな顔で言う。

「あ、リキッド置いてけ」
「ぁん?んだよ、何で・・・て、まぁいいか」

おらよ、と首根っこをつかんで猫のように渡す。

「え、え、何スかぁ?」

理由がわからず、去っていく獅子舞を見つめる。

「片付け、手伝え!!」
「お前が一番適任でな。」

かちゃ、と皿を重ねる。  
そして、一言。

「か―っ!あンの獅子舞親父どもめ・・・」

食い散らかしやがって・・・、と文句をいう。

「酒ビンもかなりッスね・・・」
「・・・・・・・・オレの酒まで・・・・。」

ぼそりと呟くキンタロー。
 どうやら結構ショックだったらしい・・・・。

「はー。リッキー、キンタローお疲れ。」

とん、と残った(助かった)酒をついだグラスを置く。

「あ、どうも。」
「オレの(強調)酒だ・・・」
「はーいはいはい」

こく、と飲む。

「・・・大丈夫か?」
「?」
「指だ。」

ひょい、とシンタローの手をとる。
ぁあ、とシンタロー。

「平気。あ、でも傷ひらいたか?」
「・・・・」
「だっから舐めんなって。痛いの。」
「・・・・・ぅわ―、うわ、うわーぁ」

再びのショッキング映像に思わず横を向く。
やっぱりフツーじゃねぇ・・・・
そう思ったリキッドだが、周りのモノがほとんどフツーじゃないため・・
 思いを分かち合うことはできなかった―・・・。



END.... ..

************************************************

へんだ・・・。
湯河様のお話、本当に尊敬(ギャグなど色々)しておりますので、
尚お話を送る のをためらっていたんですが、ついに送ってしまいましたv
・・・・これからもなにか送ってもよろしいでしょうか・・・・?

************************************************

きゃぁぁああ! らぶらぶぅぅ!
そして賑やかですねぇ2人の愛の巣。
キンちゃんの小ボケ(ダンゴ)や
いじめられまくるリッキーや
ちょっとマーカーを辛かっただけなのにあっさり燃やされるロッドとか。
仲のいいパプシンとか(略すな)
終始萌えっぱなしでした。

これからも何か送っても~~何て尋ねられたら私は図々しいので
喜んで受け取っちゃいますよ!

本当にありがとうございました~~!

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PR
s

それはあまりに雄大で。
明かりにも輝いていて。

同じほどの腕を備えた身でも。
煌めく色素を携えていても。

決して手は届かないのだと思い知らせるのです。



…………伸ばす腕を、知って下さい。



忘れ果てた回帰


 いつものように台所に立つすらりとした背の男。刻まれる包丁の音はリズムを取っているようで乱れがなかった。
 それを横目でちらりと見つめ、こっそりと動く影。
 先ほど男が何かを作っていたよう気に手を伸ばし、中にあるものをひとつまみ取り出した。
 しおしおとした少し濃い桃色に小首を傾げ、口にぽいと入れるのと男の声が響いたのは同時だった。
 「あ、こらチャッピー、食べるな!」
 「きゃうんっ」
 いつもの叱られたのとは違うチャッピーの鳴き声にびっくりしたようにパプワが声をかけた。
 「どうした、チャッピー」
 「きゃうん、きゃうん」
 「あーあ………だからダメって言っておいただろ?」
 先ほど作り終えた容器の蓋をもう一度閉め、清潔な布巾を水で絞ってシンタローがチャッピーの前にしゃがみ込んだ。涙目で見上げる犬はどうにかして欲しいと目だけで訴えている。
 「ほら、舌出して。まだ飲み込んでねーな?」
 出された舌の上でどうする事も出来ずにたたずんでいるものをつまみ上げ、軽く拭ってやる。それだけでもかなり変わるだろう。近くに置いておいたコップに水を満たし、チャッピーに渡してうがいを促した。
 ガラゴロとうがいの音が響く中、パプワが不思議そうにシンタローの手の中にある容器を見つめる。
 それがなんなのか、自分も知らない。先ほどシンタローが何か作っていて、でもご飯ではないようだったから、デザートなのかもしれない。
 デザートのつまみ食いなら自分もしたいけれど、チャッピーの様子からいって違うらしい。
 「それは一体なにが入っているんだ?」
 「ん? ああ、これは桜の花びらだよ。それを塩漬けしてんの」
 楽しそうに答えたシンタローの笑顔につられて笑いかけながら、その物体の用途がしれずに眉をしかめる。
 …………そんなものを食べたのだから、さぞチャッピーも驚いただろうと思いながら。
 「………………?」
 疑問を視線に溶かして投げかけたパプワに気付き、シンタローがしゃがみ込んでその視線を同じくした。さらりを長い髪が頬を滑る様がすぐ間近に見える。こうしてきちんと目を合わせ、言葉をまっすぐ向ける瞬間が、パプワは好きだった。
 「コレはお湯に薄めて香りを楽しむものなんだよ。だからこのままじゃ食べれないし、うまくもない。………解ったか、チャッピー」
 こっそり後ろで丸まって聞いているチャッピーに苦笑しながら声をかける。伸ばされた腕が優しくその毛皮を撫でているのを見てパプワはぎゅっとチャッピーを抱きしめた。………そうするとその大きな手のひらが自分の頭も撫でてくれる事を知っているから。
 柔らかな仕草で晒される慈愛の御手。
 心温まる絆の再現。
 ………決して、それは他者を介入させない。
 否、それらは全てが優しく、しかも決して内へ入り収縮する類いではなく、広がり数多のものを包む様相を示しているのだ。そう思う事こそが劣等感なのかもしれないと小さく息を吐く影が、一つ。
 自嘲気味な笑みを残し、吐いた息を飲み込むように唇を閉ざすとパッと笑顔を咲かせた。
 「シンタローさん、俺昼飯の材料集めてきますね。パプワ、なにがいい?」
 楽しげに弾んだリキッドの声にきょとんと小首を傾げ、パプワがジッとシンタローを見上げる。
 どこか幼いその仕草を愛でる瞳は優しい。
 「なんでもいいぞ」
 「………それが一番困る回答だってーの」
 呆れたため息の中、シンタローはきちんとその言葉の含む意味を汲み取っている。だから零す笑みは柔らかく、照れたようにパプワの頭を少し力を込めて撫でた。
 微笑みを、零さずにはいられない風景。まるで絵画の中にしかないような美しき絆。決して現実にはあり得ないと思わせるほどの崇高さに、何故か痛む胸を持て余す。
 ほんの少し遠いところに立っているだけで、遥か彼方にたたずむような虚無感を感じるのはきっと、浅ましさなのだろうと思いながら……………

 てくてくとジャングルの中を歩きながら辺りを見回す背中を見遣る。
 彼が前を歩き、自分は後ろ。荷物持ちは強制ではなく志願したのだが、そうでもしないと一緒に材料集めなど同行させてもらえないような気も、する。
 思わず吐きそうになる息は重く、そんなものを晒したなら機嫌を悪化させるだろう目の前の人物を思えば落とす事も出来ない。
 「お、これこの島にもあるのか。パプワたち好きだから多めに持ってくぞ」
 「え? ………あ、これ……でも前に食いませんでしたよ?」
 差し出された果物を見て訝しげに首を傾げた。
 甘酸っぱくて果肉が少し堅い柑橘系の果物。そのまま出しても食べないだろうと思ってジャムにしたが、あまり好評ではなかった。そう思って疑問を口に出すと逆にシンタローは小首を傾げた。
 「そうか? 前ん時は砂糖漬けにしたの保存用に多めに作ったけど、全部たいらげやがったぞ、あの大食らいたちは」
 どこか楽しげな声で話す言葉は、軽い。ふと過る過去の姿。………考えてみると、まともに顔をあわせたのは前のパプワ島での戦闘の時だった。
 さぞ印象が悪いだろう事は自分への対応の冷たさで十分知れる。確かに一番はじめに彼の仲間に重傷を負わせたのは自分なのだから、なにも言い訳はないけれど。
 多分、自分が知っている彼の顔は少ない。なにせ晒されるすべてがパプワたちの為なのだから。
 自分の為にむけられた笑みは記憶にない。当然と言えば当然なのだろうけれど。
 「本当にシンタローさんはパプワたちの事よく知ってますね」
 苦笑を交えて僅かな羨望とともに呟いたのは、無意識。
 …………どちらへの羨望かさえ、あやふやだった。
 けれど呟いた途端に後悔する。どうせ回答は解っているのだ。自信の溢れ得たあの笑みで、当たり前だと言われるに決まっている。
 決して自分が入り込めない世界の、清艶なる絆の存在。伸ばす腕すら携えず、ただ傍観する事以外、為す術もない。
 いっそ潔く諦めて、加えて欲しいのだと声を大にして叫べばまだ救いもある。けれどそれすら出来ないのは多分に望みが違うからだと、解っている。
 溜め息を飲み込んで、与えられるだろう言葉に傷つかない為の準備をする。そうして見遣った視線の先には、けれど想像とはまるで違うものがたたずんでいた。
 振り返った影。揺るぎない雄々しい背中。風に揺れた長い黒髪が頬を撫で、静かに包む。
 そのひとつひとつが網膜に焼き付くように静かに流れた。
 瞬く瞳。どこか、憂いさえ乗せて。………自分の予想した回答が紡がれる事はないと、はっきりと示された。
 姿は変わらず、決して脆弱には見えないのに。………頑強であり揺るぎないと思わせるのに。
 それでもこんなにも儚く思わせるものは一体なんだと言うのだろうか…………?
 「なにも俺は知らねぇよ」
 静かに告げられた音。震えすら帯びず、力みすらない。ただ淡々と事実を語るように穏やかだ。
 そのくせ潔く頭(こうべ)すら下げかねない寂しそうな瞳に息が詰まる。………誰よりも何よりも互いを理解していると見えるのに。けれど決して解ってはいないのだと悲しげな音が囁いた。
 困惑して、干上がる喉をむち打ち声を上げる。掠れるような叫びに聞こえる見苦しさに舌打ちしたくなりながら。
 「だって…………!」
 あんなにも解りあえているではないか。望むものを互いに与えあって、それでも解らない事があるのなら、どうやって理解が通うと言うのか。
 自分は彼よりも長くパプワの傍にいた。それでも解らない事だらけで、途方に暮れる事の方が多い。
 全てに柔軟に対応し、慈しみ抱きしめ必要な時に必要なだけの腕と言葉と、信頼を捧げる。
 そんな理想的な事、他では決して見られない。……見られるわけがない。
 もどかしく言葉に出来ないそれらを喉奥に蟠らせて唸るように唇を噛む。どれほど、それこそ血反吐を吐く思いで訴えても、決して受理されないと肌で感じた。
 ゆっくりと瞼を落とし、それらの感情すべてを見極め受け流した瞳は常と変わらぬ威厳を甦らせて前方を見遣った。
 ………静かに細く吐き出された吐息を受け止めたのは、ただ前方に広がる柔らかな緑たちだけだったけれど…………

 空には星が煌めいている。シンタローはそれを見上げた。もう眠っているだろうパプワたちの寝息すら聞こえてきそうな静寂はそう体験出来るものではなかった。
 見上げた空の様相の見事さに感嘆を覚え、同時にその不可解さに面白みが込み上げる。海底の奥底に沈んだ島にありながらここには太陽があり星がある。前に島と変わらない静けさと美しさ。
 息を吸うごとに浄められるような不可思議な感覚。身の裡の奥底で凝り固まったものを柔らかく溶かしてくれる。
 ゆっくりと落とした瞼の底、過去に映されたのはかつての島だった。
 けれど今は、ガンマ団の面々も浮かぶ。かつては切り捨て自由になる事ばかり考えていたのに、今はあの場もまた、自分の帰る場所と変わった。
 「……………………」
 息を落とし、微睡むように頤を下げた。呼気は静まり眠りを誘うように風が作り上げた木々の歌声が身を包んだ。
 けれど眠りは訪れない。不意に感じ取った気配にそれらは妨げられた。
 殺された足音。滲ませる事のないように気づかわれた気配。木々の密集した場では見事という他ないほどその気配は無音を身にまとって近付いて来た。その静寂さが逆に奇妙に虚空に残されてはいたけれど。
 小さく息を吐き、眼前の人を見遣る。起き上がってどこかに消えたから散歩程度かと思えばなかなか帰ってこなかった。………このままではパプワたちも起きてしまうのではないかと危惧して探してみればこんな間近な場所で眠りこけている。………本当に、よくわからない人だ。
 誰よりも何よりもかつての島を愛し、そこに住う命をかけがえのないものと尊んでいるくせに。
 誰よりも何よりも漂流した命を思い、手放せないと思い寄せているくせに。
 この二人はそれでも決して同じ道を進もうとはしない。離別を、いっそ潔いまでに受け入れ、そうして進む強さ。
 見ていてどれほど歯がゆいものかなんて、当の本人たちは知りもしないのだろうけれど。
 それほど人は強くはないのだ。自分を理解してくれるものを、手放す事などできない。……それなのにただ相手が喜ぶからと、別離すら受け入れ笑う根拠が、リキッドには理解できない。
 「……もし………」
 小さく息を飲み呟いた、声。
 聞き届けられる事のない事を願い晒された音は、けれど続きはしなかった。言いたくなかったと自身で解っていた。
 彼が自分の代わりにこの島に残ったならどれほどの幸があっただろうか。彼は強く、自分に出来ない事だって何でも出来る。正直、ここまで完璧な人間を自分は知らない。苦手とする分野すらない彼が信じられない。
 それでも、あるいはだからこそ、か。彼はこの島を探すのではなく舞い戻り組織を改革した。
 ………自分の生きる意味を知っている事は、幸福なのだろうか?
 そう問いかけたくなる。
 ただ我が儘に己の為にだけ生きればいいと、自分は思うのに。二人はそれでは笑えないのだと、笑う。
 夜気が忍び寄り、風が少し強く肌をなぶった。南国の島のようであり、けれど海底に沈んだこの島は時折吹く風がひどく冷たい。
 それに思考を舞い戻らされたリキッドは膝を折りシンタローの前にしゃがんだ。やはり起こして帰った方がいいだろうかと一瞬悩み、腕を伸ばす。
 風が、吹きかける。漆黒の髪を揺らし、青い月影に晒された肌を影に染める。
 眩く輝く己の髪とは対極にあるそれを眺める。思いのほか長い睫毛が色濃く影を落とし、風に揺れる様すら見て取れる距離。………決して、自分には許されないだろうと諦めていたのに。
 伸ばす腕が触れる事が出来る。ほんの少し近付けば重なる肌。
 呼気すら埋(うず)めて、無意識に風に押されるように身体が揺れる。
 …………あと、ほんのすこし。
 落とされた瞼の先には鮮やかな彼の姿。自分ではない誰かが傍に居て初めて晒される彼の本質。
 痛みを飲み込むように寄せられた眉。悔恨すら覚悟して近付けられた唇は、緩やかな呼気に触れて弾かれるように身を離した。
 触れる事すら、罪な気が、した。
 口吻けるだけでなく、その身にまとう空気すら穢す事が出来ない。
 彼の事も、彼の思う子供の事も理解できない自分に、触れるような資格すら、ない。
 噛み締めた唇で苦みを飲み下し、ゆっくりとリキッドは立ち上がる。
 せめて夜風に凍えないように毛布くらい持ってこようと歩む背は、それ故に気付かない。
 ゆっくりと開かれ微睡む仕草のままに見遣った視線に。
 「………度胸ねぇな……」
 噛み締めるような声音に己で小さく笑う。

 触れて来たならどうするかすら考えていない身で、その言もないだろうと再び瞼を落とした。
 もう少し、またあの男が来たなら目を覚まし帰ろう。
 きっと子供が自分がいないと不機嫌に顔を顰めて布団にうずくまっているだろうから……………


************************************************


 いや~、ある意味PAPUWAは初めてですか。前に一回PAPUWAがはじまる前の話書いたけど。
 今回はリキッド→シンタローですかね。
 でもどっちかと言うと憧れが強い感じで。
 なんだかへたれっぷりがアラシヤマと同列になった気がしました。
 …………どっちに謝ればいいでしょうか(笑)

 もちろんPAPUWAがあるのですからパプワも書きますよ。
 私は南国の方が好きな人間ですから!
 でもこの話、実は連載になっても不思議ではない長さを無理矢理短くしてまとめたのでちょっと心残り。
 なにかきっかけでもあれば改めてまたちゃんと書きたいものです。

 この小説はお持ち帰りフリーですv
 ……私のサイトではたしてコレを見る人、いるのでしょうかね………(基本パプ&シンなのに)

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さーて私的一番の萌えポイントは!
パプワと目線を合わせて説明するシンタローさん。

も、もちろん!
キスしそうになったリキッド君にも『あぁ惜しい!!』という賛辞を……
そっちはおいといて。

私はなんかこう大人が小さい子に合わせて行動するってのが大好きなんですよ。
他にも頭なでなでとかぎぅっとか!
「しょうがないなぁ」とかため息をつきながらにっこり後始末する様とか!
流石 月兎様……萌えポイントをよく理解してらっしゃる……。





ss


キラキラキラキラ、輝くもの。

固くて透明で。

………でもとっても脆いもの。

キレイでキレイで大好きで。

そっと伸ばした指先に。

壊れないでと祈りを込めました。



硝子のことば


 あっけらかんとした青空を見上げながらふと苦笑がもれる。
 特になにがどうしたというわけでもないけれどもれたそれに目敏く気づいた子供が問いかけてきた。
 ………それはとても日常的な姿。
 「なんだ、シンタロー。空になにかあるのか?」
 ついとパプワの見上げた先に広がるのは真っ青な空と入道雲。いつも見ていて、けれど飽きることのない美しい色。
 別にそのほか変わったものなど見当たらないと不思議そうに問いかければ、またシンタローの視線は空へと奪われる。………どこか郷愁さえ浮かべながら。
 「なんもねぇんだけどな。それが………」
 いいかけて、言葉を濁す。
 …………それに気づき、眉を顰めた。このあと晒されるものをパプワはよく知っているから。
 「綺麗なもんだって思っただけだ。気にすんなよ」
 曖昧な言葉に躱すような優しい笑顔。諭すように見せ掛けて、それは怯えて逃げる悪い癖。
 言葉に怯えた莫迦な大人は、それ故になにも知らない自分に与えることを恐れている。痛めつけるのではないかと……………
 それを知らないわけではない。いい加減、子供の洞察力を舐めていると思うのだ。言葉を知らなくても、自分達は知ってしまう。その些細な変化を知って、それでも教えてくれないからきっと晒し方を覚えられずに大人に成長してしまうだけ。
 そんな間抜けなまね、自分はしたくはない。
 手を伸ばす時を間違えたくはないのだ。子供だからと見くびられたくもない。掬いとることができると、信じさせて欲しい。
 「シンタロー」
 その名を呟いて、いまだ丸みの抜けない幼い腕が精悍なその腕をとる。
 不可解そうな瞳が注がれる。きっと、シンタローの中で先程の会話はもうすでに終了し、いまの自分の行動はまた新たなものと認識されているのだ。だから必死でなにを訴えるのかを見つめている。取りこぼさないようにと、それこそ真剣な姿で。穏やかな顔を晒しながら、その実どこまでも相手の機微を見極めようと足掻いている。
 ………どちらが幼いかなんて、自分は解らない。
 当たり前に腕をのばせることが勇気なのか、相手を知ろうと心砕くが故に傷つけることを恐れることが優しさなのか。
 その境界も意味もあまりに微妙で移り変わりやすいから。
 せめていま感じるものだけを晒す。拙さ以上の甘えを込めて、幼さを利用して。
 どこかシンタローの甘さや不器用さに付け込んでいると思いながら、けれど決してそれだけではないことを祈って。
 「空はキレイだ。雲も。パプワ島はいつだって優しいから、なんだってキレイだ」
 一見醜いものさえ、それは誰かを活かすためにある。だから、その生き様は美しく尊い。
 全てを包む優しい島は、だからこそ外界の者にはなにもかもが目を奪うほどに煌めいている。
 それはこの島以外を知らない自分には解らない感傷。美しくない場所なんて知りはしないから。それでも、解らないけれど知りたくないわけではない。
 「お前も、キレイだろ?」
 精一杯この島で生きている。それはそれだけで尊いもの。
 それでもまだそれを受け入れることのできない彼が、なににこだわっているかなんてわからない。
 自分は知りたいのだと示すようにその腕を引き、不遜なままにその膝に足を乗せる。自分は立って、彼は座っているこの状態でさえ、視線を絡めることが出来ないのだからこの小さな身体は時にひどく不便だ。
 真直ぐに瞳を覗けば苦笑の気配。
 躱すつもりかと眉を顰めてみれば、とったはずの腕が離れ………包まれる。
 きょとんとそれを見つめてみれば深く息を吸い込む音がきこえた。
 ………話してくれるのだとわかって、それならば顔を晒したくないというなけなしのプライドくらいは許そうかとその腕を甘受した。
 「なあパプワ………言葉ってのは硝子みたいだな」
 不意に囁いた言葉に不可解そうにパプワはシンタローを見上げる。もっとも、肩に頬を押し付けるいまの体勢ではその顔を覗くことは不可能だったけれど。
 呼気が背中に触れる。今更ながらに自分達の体格差が悔しく感じた。
 シンタローは自分を包んでくれるのに、自分の腕では彼を包めない。こんなにも必死で震えることを拒んでいる背中を見つめるだけなんて、ある意味拷問だ。
 せめてものぬくもりをと間近な腕を包み、ゆっくりと瞼を落とす。
 彼の言葉を聞き落とさないように、忘れないように。掬いとれることを願いながら…………
 「綺麗で…見るだけでも目を奪われるけど、それがもし過って壊れた時は直せないし………その破片が人を傷つける」
 深い声音は感情が灯らない。多分、意図的にそうしている。
 ……それはつまり、灯らせたならば嘆きに変わるということか。あるいはもっと他の、シンタローがパプワには晒したくないと思っている感情か。
 己の中の負を晒すことを恐れて、それを子供に欠片でも植え付けることに怯えて。
 ………まるで、天使を前にした信者だ。清いものは清いまま存在させたいのだと祈るっている。
 それを相手が望む望まざる関係なく、ただ穢れなさに焦がれて聖域のように近付かせない。
 救いすら、求めてはくれずに………………
 だから声はどこか絵空事のように響く。
 「強そうに見えて、結構脆いもんだからな………」
 それは硝子のことをいっているのか、言葉のことをいっているのか判断出来ないほど深い囁き。
 ………後悔と、いうべきなのか。悔恨というにはあまりに悲しく切ない。未練といった方がそれはより近かったかもしれない。
 過去にどんなことがあったかなんて知らない。教えてくれないのだから解るわけがない。
 けれど、その全てが美しく優しいものだなんて思う気もない。哀しみも嘆きも知らない魂が、こんなにも優しくなれるわけがない。
 知らない感情を知らないままでいることが正しいなんて思わない。それがどれほど痛みを刻むものでも、彼が知っているのならば……自分もまた知りたいと思うことは愚かか。
 哀れみでも同情でもなく、共有ともまた、違う。
 苦しいのだと息を吐く場所を求めている大切な人の為に、それを手に入れたいと思うことは傲慢だろうか。
 拙い指先で抱き締めた腕を引き寄せる。縋るようだとどこか思いながら。
 「シンタロー、僕はこの島が大切だし大好きだ」
 言葉が硝子のようだと、彼はいう。
 ………壊れたなら直せず、時に人を傷つけると。
 それは多分正しく、彼自身がずっと感じてきたことなのだろうとも、思う。
 けれどそれだけが全てではないことを彼は知っている。ただ少しだけいま、怯えているだけ。
 「お前のことも好きだぞ。それだけちゃんとわかって、言葉にできればいいんだろ?」
 壊れた言葉を直せないなら、また作ればいい。傷つけたのならば癒せばいい。
 ……………それはきっと単純で、もっとも難しい方法。
 大人になると色々なことがあって、言葉がとても難しいものになる。思うがままに呟くことが出来なくて、時に謝罪すら繕えない無意味なプライドが築かれる。
 それでもせめて、大切なその言葉だけは忘れなければいいと、子供は優しく囁く。たった一言、それだけを忘れず呟くことができるなら、壊れたものも作りなおせる。
 「だからお前もたまには言ってみろ。ちゃんと、待ってやるから」
 言葉にすることがこれほど怖い言葉もない。それをシンタローを知ってからパプワは知った。
 それは呪縛であり、枷にもなる。自由を謳う呟きが、いつの間にか相手を縛るために用いられることさえある。
 だからいますぐとは言わない。
 ………いつか、言ってくれればいい。
 過去にどんなことがあって、言葉に恐れているかなんて興味もない。怯えているなら自分が癒すだけ。その権利を、自分に与えてくれればそれでいい。
 いまだ抱き締めることも出来ない拙い小さな腕で、それでも精一杯の言葉で抱き締める。
 抱き締めてくれる腕は微かに震えていて、多分………彼の中で必死でそれを囁こうと思っているのだろうことが窺えた。
 無理はしなくていいのだと小さく囁けば、息を飲む気配。
 …………そうして、微かに呟かれた言葉は耳に触れたなら消え入るほどに小さくて、聞き間違いかと疑えたけれど。
 縋るような腕が強まって、言葉に怯えた大人の恐れと憧憬が流れ込む。
 囁くことを恐れたくはないのだと訴えるその腕を抱き締めて、子供はゆったりと微笑んだ。



 …………言葉は硝子。
 綺麗に煌めき優しく瞬く。
 日の光を浴びたならそれは淡く輝き人を心喜ばせる。

 どうかいまこの硝子を壊さずに。
 ……祈りとともに抱き締めた、硝子の言の葉。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


見ての通り残暑見舞い限定小説はみんな同じ冒頭から始まります。
そして全部「硝子」がコンセプト。
…………しかしまあ……涼しさの欠片もないわね……硝子なのに。

子供は大人以上に色々なことを知っていると思います。
常識とか知識とか、そういうものじゃなくてもっと根源的なもので。
話していると泣きたくなることもしばしばです。
なのでどうしてもパプワを書くとそれが強く出てしまいます。
………ああ、こういう感じだったのかな~とか思いながら。
さすがに私の書くパプワとシンタローほど顕著ではないですけど(笑)
でも子供達に沢山のことを教わったので、それを形にしたいとは思います。
忘れたくないのと、ちゃんと子供は知っているんだってことを知ってもらうために。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

原作でシンタローさんが素直に素直になれるのってパプワ君の前だけな様な気がします。
あるいは全く逆の意味でタンノ君・イトウ君の前。
パプワ君が子供だからか、それとも運命の人だからか。

前も書いたような気がしますが、刹那様の小説は登場人物の心情の表現が見事なんですよ!(力説!)
私の場合ギャグしか書けない物だから勢いが必要で
そうすると登場人物の心情を細かく掘り下げて掘り下げて書くなんてコトできないんです。
しかもそれが染みついている物ですから、今から方向修正なんてとてもとても★
キャラクターの心情がしっかり書けるって意外にも難しいこと何ですよねぇ……
私なんかその難しいことが出来ないからキャラクターが壊れてしまうんですよ。(汗)

sma

夢の中で


『……親父……実は聞いて欲しいことがある…………』
『どうしたんだいシンちゃん? 改まっちゃって』
『……紹介したい人がいるんだ。』
『…………』
なにぃ!? イカンぞシンちゃん! まだ成人式もやってないというのに恋人なんてッ!!
イヤしかし、ここはシンちゃんの幸せを考えて本当に好きな人とつきあわせるのも父親の勤め。
だがッ今まで大事に大ー事に育ててきた息子を、どこの馬の骨ともわからんヤツにやるのも…………
『………………親父?』
『はっ…イヤちょっといきなりだったからねぇ、で、シンちゃんのハートを射止めた人は誰だい?』
『ガンマ団の……』
職場恋愛か。成る程確かにガンマ団のコンピュータプログラマーあたりには器量◎の娘さんがそろってるし、
他の部署にも結構…………
『しばらく同じ場所で一緒にいて何となくコレが恋愛感情だって分かってきたんだ……』
…………? 同じ場所? シンちゃんがいるのは戦闘員の…… 女性なんていたっけな…………
『最初のうちは……ナンバー1とナンバー2でライバルと言うより敵だったんだが…………』
『ちょっと待つんだシンちゃん……ちょぉっと待ってくれないかぃ』
『へ?』
『その女性の名前は?』
『女性? ガンマ団の戦闘員に女なんて滅多にいねーだろ』
『さっき同じ場所でって……』
『ああ、だから……その……相手って…………アラシヤマだよ、アラシヤマ』
『なっ』
『長い間ずっと敵だと思って戦ってるうちに……いつの間にか…………その……』
『いやぁ、総帥すんまへんなぁ、息子さんは頂いていきますわ』

「シンちゃぁあああああぁぁぁんッッ一体アラシヤマなんかのどこが気に入ったんだぁぁぁあああああぁッッッ!!!!
 あんなネクラ パパは絶対絶対絶対絶対ずぇええったい認めんぞおぉおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!!
 それともパパの方に問題があったのかああぁぁァッ!! 悪
 かったぁっパパが悪かったから戻ってこぉぉぉおおおおおおいいっ!!!」
「うっせぇっっ!! 草木も眠る丑三つ時にオレの部屋まで届くでけぇ寝言言ってんじゃねぇっ!!」
 私の部屋のドアを力一杯開き、駆け込んできたのは、先程までアラシヤマと手を組んでた我が息子。
 ウサギさんパジャマがとってもプリティ。
「はっシンちゃんっ
 よかったぁッ!あんな男なんかより やっぱりパパの方を選んでくれたんだねッ!!」
歓喜ここに極まり。両手を大きく広げてシンちゃんに抱きつこうとすると……
みりっ
「訳のわからんコト絶叫すな。」
「シンちゃん……寝起きの顔面キックは寝耳に水より辛いよ。」
「てめぇがおかしなコト言ってるからだろーが。」
「おや……ということは……さっきのは夢か……恐ろしい夢だった…………」
「…………どーゆー夢かは詳しく聞かんがな。」
大きく安堵のため息をつき、改めてシンちゃんの方を見る。
親のひいき目もあるのだろうが、それを抜かしてもかっこよく育ったと思う。
他の戦闘員と比べてもまさに月と鼈!(欲目ひいき目ありまくり)
にしてもほんっとうに辛すぎる夢だった。アレが現実になると思うだけで胃が痛くなりそうだ。
だいっじな息子をあんな変態にやってたまるかっ
はっ…………イヤ、シンちゃんの方から惚れることはないだろうが、もしも相手の方から言い寄ってきたらどうなる!?
優しいシンちゃんのことだから抵抗も出来ずに…………(本人真剣なので、笑ってはいけません)
いかんっ! それだけはいかんぞっ!!
「……シンちゃん……」
シンちゃんの肩にぽんっと手を置き、様子をうかがう。
「あんだよ」
帰ってきたのは不機嫌な返事。よし!油断しているなっ
そのまま腕に体重をかけベッドの上に押し倒すっ
「なんっ……?」
「シンちゃん…………他の男に汚されるくらいならいっそパパがッ!!」
………………………………………………ぷち
「えー加減にせんかぁ――――ッ!! くぉの脳天ピンク親父ッ!!!」

そして今日もまた、ガンマ団本部に爆発が起きる。
息子を気遣うのは父親の役目だっ(反省無し)


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□

というわけで、マジックパパの親バカ話でした。
同時に“寝起きの人間は不機嫌か、のーみそぷーさんかどちらかである”
と言う格言を小説の形で表現してみました。(ウソウソ)
じっつは書いててたのしぃですこのカップリング…と言うよりも親バカ話が。

――――シンちゃんのお相手はアラシヤマv――――
別に誰でも良かったです(ひでぇ)
ただ、この話では後半のマジックパパの暴走が書きたかったので、
アラシヤマさんがでてきたのは……単にナンバー1,2だからです。
アラシヤマさん好きなんですけどねぇ。

――――それともパパの方に問題があったのかああぁぁァッ!!――――
ありまくり(笑)

◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


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帰ってきた。


この島に。



さぁ始めようじゃないか。

















Doppel
act13 cross road


















「シンタロー」



全てを放り出すかのようにガンマ団から出てきてしまってから、シンタローはひとり部屋にと籠もっていた。
無論指示を出してこなかったわけじゃない。
けれどあれではまるで子どものようだと。
今更ながらに後悔の念が押し寄せる。


どうにも従兄に合わせる顔もなく。
すでに島を目の前にして悶々としていたところ、部屋が開かれた。



淡々とした落ち着いた声音。
ノックも無しに、入ってこれる人物などほとんどいない。
ベッドに突っ伏したまま来訪者を迎える。
部屋に閉じこもってから、己の心情を考えてだろう。
顔をまったく出していなかった彼は、島に着く寸前にしてようやく自分の元にとやってきた。



動かない様子の自分を気にせず、彼はすとんと横に腰掛けた。
ふわりと、微かに薬品の香りがシンタローの鼻を擽った。




「もうすぐ着くぞ」
「…………知ってる」
「出てきた勢いはどこへいった?俺は構わないが、こんなところまで付き合わされた団員のことも考えてやれよ」
「…………………………」



軽い溜息と共に、横たわる気配。
もぞもぞと身動きしていたかと思うと、体の下に引いていた毛布が引っ張られてシンタローは反転する。



「オイ…………」
「寝る、疲れた」




言ったが早いが、寝息が聞こえてきて。
シンタローに抱き込まれた状態のシンタローはため息をひとつついて、自然入っていた体の力を抜いた。
別に島に着くまで何かやらなければいけないというわけでもなし。
そしてシンタローがこんな様子を見せるのはめったにないから。
抱き枕となることを受け入れる。
一緒にいることで彼の傷が少しでも癒せるのなら。

明らかに寝入った振りのシンタローのまわされた腕に、シンタローもそっと手を添えた。
冷たい手。
これで彼に何かを与えられるとは思わない。
それでも、傍にいることぐらいは出来るから。





「……眠ればいい」
ゆっくりと。






もう目の前なのだから。
止まっていた時間の大きな流れは。







「シンタロー…」
「…………………」

かすかな声で呟かれた名に、沈黙で返す。
もう、自分がいうことは何も見つからないから。




ありがとう。






耳元で囁かれた感謝の言葉に。
つきんと痛んだ心の奥。
それが痛みとはそのときは分からなかったが。
素直にそれは受け入れることは出来ずに、添えた手に僅かに力を込めて強く目を瞑ったのだった。


































誰も。
こんなこと望んでいなかったのに。




































彼は、友の傍にいたかった。
彼は、弟と話したかった。
彼は、息子を手放したくなかった。

大切な人を。
守りたかった。




それだけなのに。
どうしてこう、なってしまうんだろうか。













「──────何も…、出来なかった……」



落ちていく男を。
呆然と見送ったシンタローは、強く透明な壁に指を押し付けて。
今にも崩れそうな体を保っていた。
どうして。
どうしてまた、あの男が。




「厭だ、俺は厭だ────…」





満足そうな笑み。
それが脳裏について離れない。





「彼と一緒にいたくて、けど彼とも離れられないのに」





そんな二律背反をいつも抱えていた。
それを選ぶ岐路に立つとき、揺れるのは自分が勝手なだけだ。
彼が選ぶ道に、どうして意見を言うことが出来るだろう。


けれど。





あんな形を望んでいたわけではないのに──────…。











「戻って、こい……」

小さな小さな呟きは。
飛行艦のエンジン音と喧騒に。
飲み込まれ誰にも聞こえることはなかった。









































それで、いい。

今度こそ、君が幸せになるのだから。




一瞬のことだった。
足場が崩れて。
自分も怪我を負っていて。

守れなくて。



必死で伸ばされた腕。
彼はそのとき、迷っていた。



だから後押しをした。







「親父ぃ─────ッ!!」







俺を選ぶな。
俺は平気だから。
あんたは、今度こそ弟を選ばなければいけない。


間違ってはいけない。




強い視線に、彼はそれを受け入れた。




自分の弟を。
彼の次男をその腕にと抱きしめた。







それでいいんだ。







俺は。
どうせ死なないし。
貴方と一緒にいたいけど。
隣にいることは辛いから。


丁度いいのかもしれない。







ああでも貴方は。
何でそんな表情をしてくれるのだろう。




また、期待してしまう。












どこまでも高い青い空を見上げながら。
シンタローはこれからどうするかと何処か他人事のように考えるのだった。



















今目の前で起きたことが現実味を帯びていなかった。
それでも何とか我を忘れずにいられたのは腕の中の息子の存在。
小刻みに震えているのは自分への恐怖からか。
それとも目まぐるしく展開していった置かれている状況にか。
その両方かもしれない。
けれど、そんな状態でもぎゅうっとしがみ付かれた腕に、守ってあげたいと思う。


自分の腕の中にすっぽりとおさまってしまうまだまだ幼い息子。
この子を選択できたのは、もう一人の息子のおかげ。

その瞬間はスローモーションだった。


反射的に手を伸ばすもののどちらを手にとればよいのか正直分からなかった。
そのとき、そんな私の思考を読み取ったかのように彼は叫んだ。

たった三文字の言葉と目で強く叫んでいた。


俺を選ぶなと。
弟を選べと。



ほとんど自分の感情は入っていなかったと思う。
それはほぼ条件反射のように体が動いていたから。


後悔をしなかったといえば嘘だ。



無論、兄ではなく弟を選んだことではなく。
落ちていく兄を呆然と見送ってしまったこと。


あの、満足そうな笑みを見てしまったこと。





また、いなくなってしまうのかと。
恐怖感が体を包む。
それでも理性を保っていられたのは守るべきものがあったから。
今この瞬間は息子には私しかいなかったから。
そして私にもこの子しかいなかったから。

縋るようにそっとその体に腕を回せば。
彼も私により強くしがみ付いてくる。



その力の強さに、私が救われていた。






















カタカタと小気味いい音が艦の管理ルームで響いている。


大きな揺れを感じたと思ったら、たちまち部屋は警告音が支配した。
焦る団員達に落ち着きを取り戻させたのはシンタローだった。
少し危うい足取りで部屋で入ってきた彼は、けれど意志の強い瞳でモニターを見据える。
現在の状況を素早く理解すると、すぐに指示を団員達に出した。
破損の激しい箇所のエネルギーを止め、補助の方にと回す。
幸いメインエンジンには傷がつかなかった。
ガンマ団本部に着くまではなんとか保つことが出来る。
新しくシールドを張り直すプログラムを打ち込みながらシンタローはあることに気づいた。

相手から受けた攻撃。
そのエネルギーの波形に覚えがあった。


「シンタロー様!補修プログラム発動しました!!」
「次はシールドの強化だ。今俺が立て直しているプログラムに直接繋いで組みたててくれ」
「了解しました!!」
「こちらも破損箇所のエネルギー供給停止完了です!」
「破損箇所のチェックをしてきてくれ。保つとは思うが確認をしておきたい」
「はい!」

団員からの報告にすぐに返しつつも、シンタローは動かす手を止めない。
新しくプログラムを打ち込みながら、相手のエネルギー波の解析も続ける。
どこか。
どこかで見た覚えがあるこのデータは。

記憶を一つ一つ遡って思い起こそうとする。



「─────……あ、」
「シンタロー様何か問題が!?」
「今やっている作業が終わったら三年前からのαデータを全てこのデータと照らし合わせてくれ」
「分かりました!」

おそらく、自分の予想はあたっている。
記憶力には自信があった。
これは、シンタローが倒れてしまったときのあの。






「心戦組……」

シンタローは、ひとり呟いて。
その組織の名を脳裏に焼き付けたのだった。































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気づいていなかった





気づこうともしていなかった






一番の道化は、他でもない俺で。


















Doppel
Act14 また一つの物語


















「シンタロー不在を他国に知らせるな。すべての指揮は、私が執る」





圧倒的なその存在で、男は再度ガンマ団を統治する。



ほんの少し前まで、彼こそがその頂点に立っていたのだ。
誰もが、認める彼の力。



それは、全く衰えを見せず。
また新たな、力を見せつけていた。








「どうしましたハーレム、呆けた顔をして」
「相変わらずだな高松。久しぶりの再会なんだぞ、少しぐらいこの俺様に会えた喜びをだなぁ……」
「なんで貴方にそんなことしなければならないんですかやかましいのが出戻ってきたと思わず出てしまうこの溜息の慰謝料を貰いたいぐらいですよ」
「……てめぇ」


3年ぶりの再会。
しかし悪友は顔を見せても全くその表情を変えることはなく、その毒舌は滑らかに口から出る。
ひくっと顔が引きつるが、手でも出せば後で払うツケは大きい。
長いつき合いでそれを身に知らされている立場としては、迂闊に殴ることは出来なかった。



「面倒事まで連れてきて…、おかげでこっちは大忙しですよ」
「俺だけの問題じゃねぇっての。一応ガンマ団と敵対?してる奴らなんだから」
「その敵対者と和気藹々と島で暮らしていたのはどこのどいつですか。今更その口で敵対なんて聞きたくありませんね」



そしてまた、ハーレムのこめかみに青筋がくっきりと浮かぶのも仕様のないことだ。



そんなブチ切れ寸前怒りオーラ大放出のハーレムを前にしても、高松は気にした様子はない。
すらすらと言葉遣いだけは丁寧な言葉を並べ立てていく。
そんな高松に、ハーレムは少々気を削がれたように彼の言葉を耳にした。




「それでハーレム、貴方がぼけっとしていた様子ですが」
「一々ひと言多いんだよてめぇは」
「総帥に何かあるんですか?」




ハーレムの視線の先には団員に指示を出すマジックの姿。
あの赤い総帥服に、黒のロングコートを羽織った後ろ姿は彼の息子と被る。


じっと兄を見つめていたのがばれていたことに、少しばかり気恥ずかしさを覚えるがそんなことは高松にとってはどうでもいいことのようで。
ハーレムに視線を送るでもなく、同じようにマジックに視線を向ける高松になにか違和感を感じながら、それでもハーレムは口を開いた。





「マジックは……、頂点に立てる男なんだなって思っただけだ」
「おや、貴方にしてはえらく殊勝なことをおっしゃいますね」
「うっせぇな。てめぇが聞いたんだろうが!……それに、」



いつになく真剣な表情をするハーレムを横目で確認しながら、高松は風で浚われそうになる髪を押さえた。
ここは風が強い。
こうして近距離で会話を交わすのすら、声が飛ばされそうになるのに。




マジックの声は、決して語気の強いものではないのにここまで聞こえる。
善く通る声。
年齢を全く感じさせない、整った堂々たる風貌。




彼の存在は、特別だと。
思う。








「俺は、けっしてあいつに勝てねぇって昔から知ってるよ」
「………闘ってみようとも?」
「はッ!向こうが俺と闘う気はさらさらねぇんだよ。強い奴は好きだが、あいつはそういうところが昔っから好かねぇ」



乱暴ではあるが、落ち着いたハーレムの声は彼の本音だ。
いつでも己の好きなようにやる彼は、自分の中の真実だけは見失わない。



それは高松がハーレムを好ましく思う大きな点だった。






「あの方とは、やってみなければ分からないと言うことが当てはまりませんね。確かに」
「………てめぇそれは俺が弱いって言ってるのか、言外に」
「だってあの方は今まで本気を出したことなどないでしょう。それこそ、我を忘れるような力の解放なんて」



その言葉に、ハーレムは思わず高松を凝視する。
口の端に銜えた煙草を落としそうになりながら、高松の次の言葉を待った。
高松はやはり己のペースを崩さずに。

静かに、言葉を連ねていく。





「貴方達の力のメカニズムは非常に興味深い。よくよく研究してみたいのは今でも変わりませんよ」
「………………………」
「そんな凶悪そうな表情をしなくとも。貴方以外を研究対象にはしませんよ」
「オイコラテメェふざけるな」
「本気ですが?」
「尚悪い!!」


真剣に聞こうと思った自分が浅はかだったのかと言えば今更分かったんですかと間違いなく返ってくるのが分かるほど付き合いが長いのが嫌になってくる。
イライラをどうにかして煙草に集中させて、怒りをやり過ごそうとすれば隣からは馬鹿にしたような笑い。


ああいらいらする。
一体、何が言いたいのか。




こんなやつばっかりだ。
本音をはぐらかして。
誤魔化して。
そして笑顔で塗りつぶす。




本当のことを言うのを。
どうしてこんなにも怖がるのだろう。








「私もこれは人から聞いてよくよく観察させて貰ってきたんですけどね」
「…………なにを」
「あの方の力は完璧すぎる。それこそ人が持つには、強すぎるほど」


また唐突に話題を変える高松に、ハーレムは眉を寄せるだけでついていく。
ここでまたそこに突っ込めば話は進まない。
何よりも、こんな話し方をする奴がここには多すぎて。

慣れたくもないのに、慣れてしまった。




「人でなければ、いっそ楽だったのに」
「お前それは誰のことを言っている」
「シンタローさんですよ。別に、化け物とも思ってはいませんけど。シンタローさんは人よりも人らしい、人だ」

ハーレムこそ何を言っている、とばかりに返されて。
少しばかりたじろげば、小さく溜息をつかれる。


「それでいえば、よっぽどシンタロー様の方が人らしくないでしょうね。私の自業自得ですが、そんなところまであの人に似なくともと思いますよ」
「………本当に、自業自得だな」
「私の世界はあの人でしたからねぇ。そんなものでしょ、大事なことの優先なんて」


あまりにもさらっと言うから聞き逃しそうになった。
全ての発端を作った割には、本当に気負うものがない。


お前こそあの兄に似ていると言いたくなりながらも、ハーレムは黙って高松の話を聞く。







「あの方だけ、両目を秘石眼で生まれてきた。そしてそれを完璧にコントロールする術を持って。けどね、普通考えれば貴方の方が正しい形でしょう?」
「どういうことだ?」
「コントロールできないから、その強大すぎる力を使うことはない。ガンマ砲も十分常人外れた力ですが、相当の訓練を必要とする」


引っかかる言葉はあったが、本題に戻ったのを今更蒸し返したくはない。
素直に言葉の意味にだけ疑問の意を返せば、高松も静かに答える。






「少し睨んだだけで人を簡単に殺せる力なんて、ジャンやシンタローさんですら持っていないんですよ」






元々の一族を生み出した秘石達が。
直に作り出した石の番人。
その彼らですら、そんな力は持っていない。





「あの方は、人なのに人ならざる力を持った方だ」
「…………………」
「いくら貴方が馬鹿でアホで間抜けで脳味噌まで筋肉で獣並の知性しか持っていないとしても、それでも同じ力のルーツを持った血の繋がった弟です。闘うなんてこと、思うはずもない」
「その無駄に長い枕詞を後の言葉でうち消せると思うなよ」
「おや枕詞なんて言葉知っていたんですね、いつのまにそんな知識を」


ぱちぱちと本気で拍手しているから質が悪い。
その左唇下の黒子をマーカーで塗りつぶしてやろうかこの野郎。



「と、まぁ冗談はこの辺にしておきまして」
「いや、本気だったろテメェ」
「私はそろそろシンタロー様のサポートに戻りますので。貴方もあの方のサポートをしっかりやって下さいね」


今度こそ。
ぽろりと煙草が口から落ちた。


弟やあの赤い石の元番人には、同期のよしみで。
あの兄には、盲目的な敬愛を持って。
その落とし子には、同じく偏愛をもってして。


接しているこの男から。
こんな言葉を、聞くなんて。






「なに呆けているんです、ハーレム?煙草は片づけて置いてくださいね、シンタロー様あまり好きじゃないんですから。ここを通りがかった際シンタロー様に拾わせる気ですか」
「お前そんなに兄貴のこと…、気にしてたか?」




見つからない。
いや、そりゃあるんだけど。
それでも。
この男の特別範囲内には、あの男は入らないと思う。
だから気になった。


そもそもそれが、この会話の始まりだったのだが。









「私は、マジック総帥のこと好きですよ」
「………………」
「ルーザー様が唯一尊敬していた、方ですから」









ああ、元でしたねとか。
そんなことを残して高松は去っていった。
残されたハーレムはと言えば、ぼんやりとマジックがいた方向を見ている。
すでに彼も姿を消していた。


無意識に新たな煙草を銜えながら、ハーレムは空を仰いだ。
どんよりとした厚い雲に覆われた空は、誰の心を映しているのだろうか。









「………俺が知っている以上に、もしかして」


あの兄たちは。
背負うものが大きかったのか。



善悪を知らずに生まれてきた兄。
邪魔なものを邪魔といってどうして駄目なのか。


彼にとって、人を殺す理由などそんなもので。




そんな兄は、身内だけは好きだったから。
優しく穏やかな兄であると信じていた弟。
そんな弟を兄も心底可愛がってたから、この家業の深いところにはあまり近づかせなかった。


俺はと言えばまぁ要領はすこぶる悪いわけで。
嫌われていたとは思っていない。
むしろ、サービスと同じように可愛がって貰っていただろう。


ただ、兄の全ても見てしまっていたわけで。
その愛情を、鵜呑みには出来なかった。




嫌いではなかった。
ただ好きかと問われて、イエスと即答は出来ない。







そして俺は。
逃げたのだ。
面倒なものから。
自分だけの特別なものをつくって。
それで好き勝手やっていて。



なにもかも。
どうにかしようなんて思わなかった。



気にくわなかったけど。
どうにかしてやる義理もないと。




全てを。
兄に押し付けて逃げたのだ。










ここにいる奴らはどっかしらなにか欠けていて。
それは、俺達も例外じゃなくて。









つまりが、あの兄だって。
誰にも見せなかっただけで。










誰にも気づかせなかっただけで。













「…………殴る、権利なんて」



なんでこんなにも馬鹿が多いのかと思ってた。
全てが終わって始まって。
けど馬鹿は馬鹿のままで。






「筆頭、俺かよ………」







あのとき必死になったシンタローを見ていられなくて。
離れることで自分を保とうとした。



所詮、自分のためだった。








島に来たコタローを見て。
あの少年と楽しそうに暮らすコタローを見て。

このままで良いんじゃないかって思った。


あのシンタローが指揮を執る現在のガンマ団。
確かに変わった。
寝る時間さえほとんどなくし。
どんなに辛くとも真っ直ぐに前へ進む男が、全身全霊で作り上げている。



けれど、それでも僅か4年で全ては変わらない。





あの戦場へと送り込むよりは。
この島で、もう暫く。









父親であるマジックが。
今度こそ父であろうと、決意していた兄が。
目も、心も。
閉ざしたままの幼子が、目覚めるのはいつかと。





待っていた姿を、他でもない自分が一番近くで見ていたのに。









目覚めた途端姿を消した息子を。
どんな思いで探していたかなんて。










全く、考えてやしなかったのだ。
















「………俺、」


あの兄が、何を考えているかなんて。
真面目に考えた事なんて。





この年数生きてきて。
ありやしなかったのだ。







甥や部下や……、弟を。
守っている気になって。









自分を守る存在が。
当たり前すぎて、そうとは感じさせなかった存在を。


気にしたことなんて、なかった。






















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ああ、彼は矢張り。




彼の息子なのだと。









Doppel
Act15 close your eyes











何事にも屈しない、その姿勢。
堂々たる容貌は記憶にあるときよりも、凛として見えて。




『父親』である彼しかこの4年間は見ていなかった。







だから誰もが見逃してしまっていたのだろうか。
忘れてしまっていたのだろうか。






彼とて。
彼のように無茶を十分にする、質だと。















「おいッ!?」

その背中はぐらりと揺れた。
部屋に帰る瞬間の、ほんの一幕。
ただ単に前屈みにドアを潜っただけなのかも知れない。
その姿はドアの向こうにすぐに消えてしまって、それ以上のことは分からなかった。


しかし気になった。



あまりにも彼の姿が。
なんだかひどく、危うげな感じがして。




思わず、その背を追いかけてしまった。
身内だけが主に知っている暗証パスを打ち込み、そのドアを開ける。
一瞬、その姿が見つからなくて狼狽えたが、すぐに視界にその姿を捉えた。



自分の勘が、寸分外れていなかったことを知る。






「おいッ!大丈夫なのかよ!?」
「許可なく総帥室入っちゃ駄目なんだけどなぁ。ああでも君はパス知ってるもんねぇ仕方ないか……」
「茶化すな!!」
「格好悪いところ見られちゃったなー…、」

シンちゃんには、内緒ね?




この期に及んでそんなことを抜かす馬鹿を、一発ぐらい殴ってやろうかと(いや実際には到底出来ないんだけど)肩に手を掛けてその顔を無理矢理こちらに向かせた。
何の抵抗もなく、簡単に俺の動作に従うその様子に眉を顰めて。
そして顔色を見て思わず息をのんだ。





「おいッ………!?」
「あー…、大丈夫だから。ホント、タイミング悪いなぁ……」
「そんなこと言えるような体調か!あんた、休んでるのか!?」





部屋に入った瞬間、目線の高さに彼はいなかった。
床に、うずくまるような形で膝をついて。
穏やかな口調ではあるが、その声にいつものような力強さはない。
荒い呼吸を耐えるような区切りの悪さに、肩を掴んだ手の力が知らず強まった。

額にびっしょりと汗しながら、きつく目を閉じて。
けれど口元には笑みを浮かべている。




「平気だって。そんなに私のこと心配かい?」
「阿呆抜かせッ!こういう時茶化すのは本当に最悪だぞ」
「あははー…、あんまり耳元で叫ばないで」

背中を抱えるようにすれば、意外にも体重を預けてくる。
からかうような口調だが、本当に具合が悪いのだろう。
宙を仰ぐようにして、目を右手で押さえる。
その動作の一つ一つが緩慢だ。



「っと、悪ィ……」
「いや気にしないでいいよ。こんな大事な時に、こんな無様な姿見せる私が悪いんだから」




慌てて口元を押さえて謝罪の言葉を口にすれば、ひらひらと空いた左手を振って気にするなの意思表示。
コート越しでは分からないが、この分では熱も出ているのではないだろうか。
発熱の際の、独特の匂いがする。




「ごめんね。もう大丈夫だから、君も戻っていいよ」
「………は!?まだふらふらのクセして何抜かす!待ってろ高松呼んでくるから!」
「呼ばなくていいって」



腕から重みが消えた。
そう、思った時にはすでに彼は立ち上がっていて。
にっこりと笑いながら手を上げる様子は、感謝の意。
けれどそれは。


なんて柔らかな拒絶なのだろうか。






「そんなんで立っていても、ミスを呼ぶだけだ」
「体調管理も仕事の内ってね。よーく知ってるよ?」
「じゃあなんで!」
「だって高松は今シンちゃんのために動いてもらってるしねぇ…、怪しげな薬も飲みたくないし」


その態度がえらく腹に立って。
真剣ににらみつければ、困ったように眉を下げた。
そしてふざけてるとしか思えない理由を口にして。




この人は。
昔からこうだっただろうか。







「そんな理由で納得できるか!」
「だよねぇ……。ね、わかんないかな」


苛々して叫べば、ため息と共にはき出される言葉。
疲れたように目を押さえる動作。


そういえば。
さっきからこの人は。





「…………まさか、」
「流石元番人。けどちょっと気づくの遅いね、観察眼鈍ったかな?」
「ッ!だからどうして貴方はそう……!!」


壁に少し体重を預けて。
それでも笑うこの人は。


なんて。
あいつと似ているんだろうか。






顔だけ似ていても。
体が同じでも。
本質は、まるで違うあいつと俺。







今、初めて分かった気がする。
あいつを育てたのは。
間違いなく、この人だと言うことを。









「秘石がないからね、コントロールするのが難しいのは仕方ないしねぇ…。使うのも久々だし……。ちょっと疲れただけだよ」
「いつからですか……、そんな状態なのは」
「君が知る必要はないよ、失態を見せたからこれぐらいは仕方ないけどね。シンちゃんが戻ってくるまでだし」



深く息を吸って呼吸を整える。
しかし、張りつめた空気までは変わらなかった。






「高松呼んでも仕方ないだろう?いい研究対象ぐらいには見るかもしれないけど」
「………………………」
「まぁ君が心配するって言うなら、シンちゃんや高松のサポートに入って次元スキャナ完成を早めてくれるのが一番かな?シンちゃん、君が入ると気にするだろうからそこら辺はうまくやってね」





ああ矢張り。
暗に、これ以上は踏み込むなと言っている。
特別と見せかけて、この人の線引きは相当だ。


とっくに。
俺は、特別から外れているけれど。






その割り切りはいっそ見事で。
そうでもなければ、人殺し集団のトップなどつとまらないのだろう。











「………分かりました。けどその代わり貴方も今日はもう、」
「君はいつから私とそんな駆け引きが出来るようになったんだい?」
「シンタローが心配する……!」



瞬間、彼の周りの空気が膨らんだ。
触れれば音を立てそうな、その緊張感に思わず息をのむ。





「あの子がいるときに私で有ればそれでいい」





静かに。
耐えるような、その姿。



「……頼むから、」
「…………っ」
「コントロールできる内に、この部屋を出ていってくれ」







纏う空気は痛いほど張りつめているのに。
その口調は崩れることなく平坦で。

ただ、言葉通りいつ溢れ出してもおかしくない力の流れを感じる。






僅かに頭を下げ、背を向けた。
自分に出来ることなどない。



秘石の番人といえど。
いや、だからだろうか。
秘石の力の前に、何かをなすことなど出来ないのだ。







シュンッと小気味いい音を立てて開くドアの外へ一歩踏み出した。
その背に、声がかかる。








「……ありがとう、ジャン」








振り返ったが、目の前にはすでに閉じられたドア。

……本当に、存外に。
質が悪い男だ。
突き放すなら突き放したまま。
手を伸ばすならはっきりと伸ばせばいいのに。




演じているのか。
真実なのか。





演じているならば気づけばいい。
その上で彼にどう接するかは自分の判断自己責任。
けれどそれが彼の本当ならば。



それは。










なんて。
哀しい人なのだろう。
















「………あんたの位置も、辛いんだな」


自分の位置は。
どうしようもない孤独感でいっぱいで。
けれど対に奴がいた。
たとえ相容れられなくとも。
同じ立場の者がいることは、精神的に楽で。



今では。
他でもない、彼がいる。





奴の影。
俺の、似て非なる者。










「とりあえず高松のとこ、いくかぁ……」
サービスは、甥っ子につきっきりだし。



頭を振ることで意識の切り替えを図る。
今一度、目の前のドアを見やって。
友人の元へと、足を向けるのだった。














「本当、タイミング悪かったな……」


ジャンがいなくなった総帥室。
そこでマジックは、壁づたいにして座り込んでいた。
思っていたよりも大分きつい。




「まだハーレムとかなら、良かったんだけど」


部屋に倒れるように入り込んだ。
それを気づかれたのもそうだけれど。




「彼の前で頑張るのもねぇ…」




正直面倒だし。
彼なら、口止めするのも簡単だ。









「……きついとは、思ってたけど」


少々、甘く見ていたようだ。
オーバーヒートを起こしている体を煩わしく思いながら自嘲する。
全てを厳しすぎるくらいに想定して。
その上で行動していくのを得意としていたのに。






「やっぱり殺さずってのは難しいな……」

ほぅっと息を吐いて、熱のこもる体をやりすごす。
彼にはああ言ったが一旦座り込んだのはまずかったかもしれない。
しばらく立ち上がれそうにもない、情けない体に溜息を付いた。


ひと思いに全てを消し去るのは簡単だ。
それを加減するのが難しい。
けれどもう自分のものではない、ガンマ団。
他でもない自分が、間違えるわけにはいかない。












「これがあの子の痛みか」








4年間安穏と暮らしていたわけではない。
けれど彼に比べれば平穏な日々だったのだろう。
久しぶりに体感する、戦場の空気に最初は違和感を感じてしまっていた。
それも数日で以前と変わりない物になったけれど。


ゆるゆると目を開けて。
ぼやける視界に映る総帥服。
少しくすんだ赤が、過ぎた年月を教える。




ガンマ団内にいるときはこの総帥服を着て。
戦場に出るときは一般的な軍服。
シンタロー不在を他国に知らせるわけには行かないが、総帥代行は身内には知らせている。
その位置を示すにはこの服を着るのが一番手っ取り早い。







「なんか、大きくなっちゃったよね……」

畏怖の面で見る秘書。
一目置いてくれる、直属の部下。




けれど確実に。
以前の自分と違うことを、些細な点が教えてくる。
この総帥服一つとってもそうだ。
服が余っている。
あまり感じたくはない、けれどやはり体力が衰えている。








「………早く、帰っておいで」


ここはもう。
私の場所じゃないんだから。













「お前の痛みなら、いくらでも耐えられるから」



私が私でなくなる前に。
この力が、暴走を始める前に。













「────…どこにいる?シンタロー」

私が父であれる、人であれる愛し子。














お前が帰ってくる場所はここだよ。
そう、内心呟きながら。




僅かな休息を欲して。
意識を落とすのだった。




















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この後5分で総帥は起きるんですよ。


と、いうことでマジック編。
ようやく今まで全く書かなかったマジックさんの心境をちらほらと。
肝心なところはやっぱりぼやかしていますが(苦笑)。
いやだってそれ書いたらこの話終わるしさ…。
少々弱い感じになりすぎたかなーと思いつつ。

色々後で全部書いていけたらなと。(ええ色々と…)
とりあえず、マジック総帥の秘石眼について。
両目秘石眼で完璧コントロール出来る方、というところがもうたまらなく好きなんですが。
やーなんか特別って感じで!
今回は南国時代、秘石がないせいかコントロールが悪いと言っているシーンを元に捏造。
秘石なくなっちゃったしブランク有るし本当に加減しなきゃいけないし…、ってな感じで。
総帥の精神安定剤もいないしね(切笑)
またちょっとずつ設定を散りばめつつ。(まとめへの設定もいれつつ)

総帥大好きだ……。




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