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いつ果てるか知れないデスクワークに、いい加減嫌気が差し、小休止を入れた。

椅子を半回転させると、眼前に広がる、吸い込まれそうな青と、その合間を縫う白が酷使した目に沁みる。

それらをぼんやりと眺めているうちに、いつの間にか現実世界から意識が離れていたらしい。



『シンちゃん、――しよう!』

『うわーいっ! 僕が勝ったー!』




「ありえねえっ!! 俺は認めねーぞっ!」

焦って叫んだ先に、訝しく眉を顰める碧眼があった。







兄と弟  ―シンタロー編―








「・・・何を認めないんだ?」

「・・・あー・・・俺、寝てた?」

薄靄が掛かっている脳でも、目の前の従兄弟兼補佐官の手にある毛布と、背もたれから勢いつけて起こした上半身の体勢から、先程まで眠っていたと推測する。

「ああ、寝ていた。――で、何を認めないんだ?」

補佐官は律儀に質問に応じてから、また同じ問いを投げた。それに総帥は、苦虫を噛む貌を作る。

答の内容が自尊心に強く根付いている為、出来ることならスルーを願う。

しかし、それが通じる相手ではないことは充分承知している。

(こういう生真面目なところ、子供だよな。空気を読めよ。)

幼子が何でも知りたがる、『どうして?』攻撃が、この28歳男にあるのだ。まあ、中身4歳児だから仕方のないことなのかもしれない。

正真正銘子供にも、実質子供にも、とにかく年下に甘い自覚はある。そんな己を呪いながら、シンタローは徐に利き腕側の肘を机についた。

「・・・これ、覚えてねえか?」

軽く手首を振る。この動作で示唆する事柄を自発的に気づいて欲しい。

言葉で回答するのは簡単だが、それが『認める』ことになりそうで、自然と口は重くなる。

じっとその腕を見つめ、眉根を寄せる従兄弟は記憶の引網漁中だろう。

暫くした後、ゆっくりとした返答があった。

「――いや、残念ながら。」

「そうか・・・。」



ふたりは24年間を共有している。なので、基本的にそれまでの記憶も同一なのだ。

ただ、このように特殊な生い立ちでなくとも、人間は記憶を全て引き出せるわけではない。

同じものを所有していても、それが個々別に忘却の彼方となっていることは、別段おかしくはない。逆にシンタローが忘れ去ってしまっているそれを、キンタローは覚えている場合もある。

ここが、肉体はひとつでも人格はふたつ備わっていたのだと実感する。



このことで落胆はしないが、それにより説明をしなくてはならない状態に気が滅入る。

盛大な溜息で踏ん切りをつけ、シンタローは貝の口を開けた。

「いくつだったかな・・・かなりガキの頃だと思うが、グンマと――。」

と、ここまで切り出したが、またしても閉ざす。

への字に曲げる総帥に構うことなく、

「グンマと?」

先を促す補佐官。やはり空気が読めない。

「~~~、あーもう、あのバカ!! バカなのは頭ン中だけにしろっ!」

忌々しげにガシガシと頭を掻き毟り、ここに不在の博士を扱き下ろす。半分冗談の親愛表現ではあるが、結構な言われようだ。

ちなみに半分は本気である。それは件の人の日常行動を慮れば、至極当然の感想だろう。

「何で、あんなバカ力なんだか――。」



「悪かったね。そんなにバカバカ言わなくてもいいじゃない。」

入り口から男にしては高い、ハスキーな女声に近い、第三者の受け答えが割って入る。

驚いて目を向ける先には、(団内に於いては)小柄な白衣の人物が膨れ面で扉にもたれていた。

「グンマ!? オマエ、いつの間に!?」

「これ。」

驚愕の問いには答えず、グンマは持参した紙の小箱を持ち上げ見せる。

「ケーキ貰ったから皆で食べようと思って来たのにさ。」

ぷくりと頬を膨らませる表情は、普段の幼さに拍車を掛けた。

「――にしても、一言声を掛けるくらい――。」

「掛けました! でもふたりとも何か話してて気づかないし、シンちゃんは僕をバカって言うし。」

じとっとねめつける視線に、シンタローは気まずそうに咳払いひとつ。

「バカをバカと言って、何が悪い。」

全く悪びれることなく却って開き直る。まさしく俺様体質である。それに、『バカ』とランク付けされた者は、ますます怒りを露わにし河豚の頬になった。

ずかずかと大股で部屋の主へと突進する。

だん、と手荷物を机に押し付け置く様に、傍らに佇む補佐官は、中身が崩れたのではないかと案じた。

「なっ、何だよ・・・。」

さすがに言い過ぎた感のある総帥は、反抗の態度を見せはしても、それは虚勢に過ぎない。憤慨する相手に対する負い目から、口とは裏腹に身体が引いている。

大きな双眸を吊り上げ、ありありと怒りの形相を表したグンマは、だかしかし、シンタローの顔を睨みつけたかと思うと、いきなり両手でその頬を挟みこみ、力任せに引き寄せた。

「いてっ!!」

「顔色が悪い。」

「は?」

てっきり罵声が飛んでくるものだと想定していたシンタローは、そしてキンタローも、見事に予想が外れ、間抜けな声と表情しか反応できなかった。

そんなふたりに構うことなくグンマは続ける。

「ちゃんと寝てるの? 昨夜は部屋に戻った?」

「――ンな、ヤワじゃねえよ。」

実は急ぎの処理があって、昨夜は執務室泊りだった。漸く明け方に、この部屋の応接ソファで数時間の仮眠を摂ったくらいだ。

詰問への返事が肯定していることに、この総帥は気づいていない。善意にはとことん無防備になることを自覚していないようだ。

間近にある碧眼が険しくなる。

「寝てないんだ。」

「完徹ってワケじゃねえ。少しは寝たぜ!」

「それは認めていることと同じだぞ。シンタロー。」

子供じみた言い訳にすかさず突っ込みが入る。鋭いんだか鈍いんだか、妙なところで天然な補佐官に舌打ちする。

詰問者は、その天然従兄弟が未だ携えている毛布を一瞥した。

「――察するに、昼寝したんだね? きちんと睡眠を摂らないから、身体がもてなくなっているんだよ!」

ぎゃんぎゃんと、母親の小言のような叱咤に、思わずシンタローも喧嘩腰になってしまった。

「るせえなっ! ほんのちょっとだよ! そんなに騒ぐほどじゃねえぞっ!」

「いや、結構――。」

またしても空気の読めない横槍の介入を、シンタローはギロリと目線で制する。

「どっちでもいいよ。疲れているのは間違いないんだから、もう今日は寝なよ。」

やや呆れ気味に申し渡されたそれが、プライド高いシンタローの勘に障った。

「うるせえっ!! 俺はそんなに暇じゃねえんだ! 寝ねえと言ったら寝ねえっ!!」

最早駄々っ子の域になった意固地さに、グンマは、ぺち、と掴んでいた頬を軽く叩いて手を離した。

そして、律動的な歩調で机を迂回し、子供な総帥に歩み寄る。

「グンマ・・・?」

静かに、明らかに怒っている。再び説教が始まるかと、不貞腐れた貌で迎え撃つシンタローは、この後、過去に味わった屈辱以上のものが待ち構えているなどと、露程も思っていなかった。

「何だよ。何言っても寝ねえからな!」

先制攻撃の威嚇。しかしながら相手は口頭での応戦ではなく、実力行使に出た。

「へ?」

一瞬、シンタローは、何が何だか状況が掴めなかった。

顔に金糸が掛かったと認識した直後、全身に浮遊感が襲った。

グンマは椅子に腰掛けているシンタローの背と膝裏に素早く腕を滑り込ませ、

「よっ、と。」

そのまま抱き上げたのである。

これには傍観するキンタローも言葉が出ない。グンマがシンタローを、所謂お姫様抱きしているのである。



ふたりは体格の違いが歴然としている。

192㎝のシンタローに、174㎝のグンマ。しかもシンタローは体術に長けているので、相応の体躯を持つ。

反して研究員のグンマは、貧弱とは言わないが、シンタローとは明確に身体の作りが違う。

そんな彼が軽々と、自分より体格の有利な者を担いでいるのだ。

これが反対ならば、何の驚きもないが――。



「――っ、ちょ、降ろせよ、グンマっ!!」

自身のおかれた状態に、手足をじたばたと暴れさせるシンタロー。焦りに顔中真っ赤に染めている。

それを、涼しい顔でグンマは却下した。

「だーめ。シンちゃん、言うこと聞かないもん。」

「聞くっ! 聞きます! だから、降ろせっ!!」

「そう言って、聞かないからね。シンちゃんは。

なので、今日はこのまま部屋に連れて行きます。」

その宣言は、俺様総帥を青褪めさせるに充分な威力を持つ。

「冗談じゃないぞっ!! 降ろしやがれっ、バカグンマ!」

傍からでも必死さが窺える暴れっぷりなのだが、それを、ものともしない博士。

「バカで結構ですぅ。シンちゃんよりはマシだよ。」

しれっと192㎝・83㎏を抱え、グンマは出口へと向かった。

途中、

「後の仕事、キンちゃんにお願いしていい?」

「あ、ああ・・・。」

「そ。よかった。よろしくね。」

いつもと変らない、少女めいた笑顔。

違うと言えば――腕の中に総帥がいることだ――。

「よろしくじゃないっ! おい、キンタロー!! オマエも見てないで止めろっ!」

唖然と見送る補佐官に助けを求める怒声が投げられるが、彼には届いていなかった。目の前で繰り広げられる光景に、度肝を抜かれてしまっている。

「はーなーせー!! この、バカ力―!!」

諦め悪い抵抗が尾を引いて去っていく。



「・・・! ああ!」

数分後、ひとり残された補佐官が、ぽんと手を打った。












自室に辿りついた頃には、もう抵抗する気力は残っていなかった。

総帥室から一族のプライベートゾーンは直通している。が、それでも全く誰にも出会わないということは稀である。

先ず秘書官の前を通らずにはいられない。



「・・・グンマ博士、これは・・・?」

「うん。シンちゃん、お疲れ気味だから部屋に連れて行くよ。」

「・・・そうですか・・・お大事に・・・。」




「そっ、総帥にグンマ博士――!」

「あー、お疲れ様―。」



あのときの秘書官たちや団員の、奇異な眼差しは本当に居た堪れなかった。穴があったら、いや掘ってでも入りたい衝動に駆られた。

飄々と歩むグンマと対照的に、シンタローは声も出せず、羞恥に火照った顔を俯かせるしかなかった。

それでも、父親に出会わなかっただけでも良しとしよう。

次男(ということで)に異常な愛情を注ぐ彼である。こんな姿を見られたら、どんな騒動になるか、想像もつかない。



ぐったりと気疲れしたシンタローを、

「だから言ったでしょ。人間、寝ないといけないんだよ?」

と見当違いの窘めに悪態をつくことさえ、もうどうでもよかった。

とすん、と丁寧に寝台に降ろされ、最後のお小言がある。

「はい、ちゃんと着替えて。今日はもう何もしないように。」

「へーい・・・。」

こうなりゃ自棄で、シンタローは素直に従った。

眠るまで見張ると主張する博士に、仕方なくベッドに潜り込む。枕元に鎮座する元従兄弟・現兄の腕が目に入った。

彼は、自身が持つ穏やかな気質をそのまま表出した、柔和な顔立ちをしている。女顔の部類に入るだろう。

しかし、白衣に隠された腕は、女性のように細いわけではなく立派に筋肉のついた男のそれだ。

けれども、自分自身と比べれば、やはり細い。

「・・・なのに、何であんな力があるんだろうな・・・。」

ぽつりと零してシンタローが、そっと触れた手を見やり、グンマは微笑した。

「さあ? 僕も、わかんないけどね。でも、こういうときは使えるでしょ?」

「バカヤロー。あんなのは二度と御免だ。ガキのとき以来の屈辱だったぞ。」

つい先刻の悪夢が蘇る。あれは人生最初の汚点だ。

照れ隠しの拗ねた口調と、引き合いに出された懐かしい思い出に笑みが深くなる。

「ああ、あれね。今度また、やってみる? もちろん、僕が勝つつもりだけどね――と?」

触れられていた掌が力なく落ちたかと思うと、寝台からは小さな寝息が立っていた。

微かに苦笑し、はみ出ている手を起こさないよう、蒲団に納める。

「・・・無理しすぎなんだよ。シンちゃんは何でも自分で溜め込んじゃうんだから。

少しは頼ってよね。それぐらいの価値はあると思うよ。」

ぽん、と弟が驚異した腕を叩いた。

「おやすみ、シンちゃん。良い夢を。」

流れる黒髪を掻き分け、露わにした額に口付ける。

心なしか、弟は微笑んでいるようだった。




兄と弟 ―キンタロー編―の、キンシン編









「ご飯は皆で食べたほうが美味しいんだよ。」

常々、そう主張するマジック・グンマ父子。

長年、互いに実親・実子という真実を知らずに過ごしてきたというのに、思考回路は良く似ている。さすが親子だ。

この天下無敵の親子は有言実行する。だからこそ、無敵なのだと言えよう。

一族がフルメンバーで揃うことは稀であるが、大概常駐している者は親子の主張を重んじて、食事時は集まる。半強制的に。

しかしながら、本日はひとり欠けていた。



「おや? シンちゃんは、まだ起きていないのかい?」

エプロンを翻し、朝日に反射するおたまを持つナイスミドル。

爽やかな一日の始まりに、何とも強烈な絵である。

「ああ、珍しいな。呼んでくる。」

欠席者は、あまり寝坊はしない。どちらかというと時間厳守のほうだ。

その彼が、他の者が揃っても姿を現さないとは、確かに珍しい。

「あ、いいよ。キンちゃん。私が行こう。」

立ち去ろうとする背中に、柔らかい制止の声が掛けられた。

だが、いそいそとエプロンを外す笑顔の裏に下心が存在することなど、お見通しだ。



シンちゃんの寝顔を見てー、お目覚めのキスとかー、着替えも手伝ったりしてねv きゃっv

・・・大方、そんなところだろう。



「・・・いい、伯父貴。俺が行く。」

寧ろ、行かないでくれ。彼が出向けば、もっと時間が掛かる+建物が一部崩壊する。

元総帥の反論を待たずして、キンタローは話題の人の私室へ歩を進めた。

背後で、

「キンちゃん、ひどい~。」

と、男の啜り泣きが追いすがる、清々しくて嫌な朝を体験したキンタローだった。












スライドドアの横に設置されている呼鈴を鳴らす。内部から微かに機械音がするので、故障ではない。

それを幾度か試したが、一向に変化はなかった。

(・・・仕方ないな。)

呼鈴と共にあるセキュリティシステムを解除すべく、暗証コードを打つ。

一族内において、互いのコードは知っている。特に現総帥である彼は度々コードを変えているが、その都度知らせてくれる。

これは、団トップの身故の慎重さが理由ではない。彼の父親への対策なのである。

が、何故か父親は毎回侵入を果たすらしい。全くもって、謎だ。

「シンタロー? 入るぞ。」

暗い室内に、さっと廊下の灯りが入る。

電灯のスイッチを入れ、足元を明らかにしてからキンタローは寝室を窺った。

「シンタロー?」

一般男子体型を凌駕する主の為に特別にあつらえた寝台には、しかし、その主は不在だった。

(既に起きたか――? いや、これは――。)

寝具に乱れた形跡がない。

「帰っていない――か?」

ぽつりと零したところで、キンタローは思い当たる事柄があった。



昨日もふたりして書類の山と格闘していたところ、

「げっ。これ、明日必要じゃねーか。」

黒い瞳が忌々しげに見つめる一束を、急遽優先しなくてはならなくなった。

総帥がそちらに専任し、他を自分が受け持ったが、終業時刻を過ぎても彼は机から離れなかった。

ひとりで充分だからと、手伝いの申し出を、やんわりと断られた。

結局彼を残し、退室したわけだが――。



(まだ、終わってないのか?)

足を総帥室に向かわせる。

そこは日中使用を主目的としている為、個人部屋のように完全な遮光は施されていない。

閉ざされたブラインドの隙間から漏れる陽光に薄暗い空間。

「シンタロー・・・。」

応接セットのソファに毛布の小山が出現している。

大柄を窮屈そうに蹲らせ、床まで流れ広がる漆黒の糸に埋もれた顔には、疲労の跡が見てとれた。

この部屋の主である彼の机の上に、きちんと積まれた紙の束。

「・・・意地っ張りなオマエらしいがな、頼りにされないというのも寂しいものだぞ。」

傍らに跪き、梳けばさらりと零れ落ちる、長く真っ直ぐな髪を掃って額同士をくっ付ける。

それは祈るような姿勢で、事実、祈りに似た心情だった。

「いいか。俺はオマエの補佐官なんだ。補佐官なんだぞ・・・。」

未だ眠りの淵に居る彼の人に届けと、密やかにキンタローは吐露した。

一日は始まったばかりだった。












もう日常茶飯事となったデスクワーク。元来活動的なシンタローにしては、よくもっているものだとキンタローは思う。

それだけ彼の中に占める『総帥』が大きいということなのか。

その根底にあるものは、(総帥としては)完璧だった父親へのコンプレックスだろう。

昨夜の無茶も、その父への対抗意識に一因があると推測する。――プライドが高いのも、考えものだ。

思わずついた溜息と共に、ふと主に目線を流すと、彼は欠伸を噛み殺していた。

「・・・充分に休めていないだろう? 少し寝たらどうだ?」

見られていたことに、慌てて平常の顔を作り憮然と反発する。

「何てことねえ。それに、そんな暇ねえよ。」

手元に積み上がった白山を指で叩く動作で、シンタローは自己の立場を強調した。

「――ざっと目を通した限り、緊急の案件はないようだ。

今日必要なものは、オマエが昨夜仕上げただろう?」

ちら、と向けられる青の先には、以前、ひとつの書類があった。今は秘書官を経て担当部署へ行き渡っているはずだ。

「最終判断を下す者の脳が正常に働いていないと、結果として遠回りだ。

全体損失を招きたくないのなら、一時のロスなど比較対象にもなるまい?」

理論武装と、何より今朝、この場所で自分の起床を促した人物が、彼なのである。

分の悪いシンタローは、鼻に皺を寄せた聞かん坊の表情を見せたが、実のところ憔悴している自覚があった。

ある意味、渡りに船を与えてくれた補佐官に従うことにする。

「・・・わかった。ちょっと休ませてもらうわ。」

読みかけの書類を置き、椅子を半回転させる。背もたれに体重を預けたところで、はた、と振り返った。

「言っとくがな、寝るんじゃねえぞ! 休むだけだからな!」

ここまで諭されて、それでも己の言い分を曲げない子供っぽい意地に、呆れると同時に可笑しい。

「わかったから、休め。」

口端に乗せた笑いを、どう受け取ったのか。ふんっと鼻を鳴らして、総帥は椅子の陰に隠れた。











暫くは自身が生み出すペンが走る音と紙を捲る音しかしなかった空間に、キンタローは微妙な変化を感じた。

「――シンタロー?」

遠慮がちに呼び掛けてみるが、返事がない。

「シンタロー?」

再度声を掛けながら近づいた。

かなり接近して気づく、微かな息。

「・・・眠ったのか。」

強情に寝ないと息巻いていたのに、身体は休息を求めていたことは、本人でなくとも明確だった。

空調で制御され、降り注ぐ陽は暖かいといっても、活動しない肉体は発熱力が低下する。

身体を冷やさないようにと、今朝彼が丸まっていた毛布を掛ける。

「大人しく、そうしていろ。」

たまには重圧から逃避することも、長い目で見渡せば必要なのに、この若き総帥はそれをしようとしない。

勤勉が美徳と、東の島国の価値観があるのか。

(・・・いや、違うな。――あの子供との約束を守っているんだ――。)

眩しい光に目を細めて振り仰ぐ。ガラスを隔てて広がる青は、彼を、自分を、本当の意味で解放した彼の地を想起させる。

何処へ旅立ったのか、手掛かりさえも残さなかった友へ、今も想いは向いているのだろう。

それだけ大切な宝の日々だったのだと、嘗ては彼の中に存在していた者だから、わかる。

「・・・あの少年には、何があっても勝てないのだろうな・・・。」

わかりきっている事実を、自嘲の笑いと共に口に出す。

「それでも・・・俺は、俺のやり方で、こいつを守るだけだ。」

静かな決意の後、ひとかぶりする金色が光の雫を弾いた。












総帥が休憩に入ってから小1時間経った頃。

「・・・う・・・。」

消え入るくらいの呻きに頭を上げれば、椅子の陰が僅かに動いた。それに伴い、ぱさりと布が床に落ちる。

「シンタロー? 起きたのか?」

またしても無い返事に、まだ起きてはいないのかと様子を窺うと、案の定、従兄弟は眠りを続けていた。

足元に広がった毛布を拾い上げ、再び掛けようとしたところ、

「ありえねえっ!! 俺は認めねーぞっ!」



目覚めの第一声にしては素っ頓狂な。

そうキンタローは目で訴えた。











グン+キン編

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夢を見た。

自分以外は誰もいない、何もない空間。空間と呼べるのかも定かでない。

ただ、自分自身が、そこに在ることだけは確かだ。

こんな非日常の状態に、夢の中でも、夢だと認識している。

そう自身が捉えている所為か、不思議と落ち着いている。

「シンタロー。」

何処からともなく声がした。己の他に存在を主張するそれに、慌てて回りに目を凝らす。

すると、いつの間にか背後に、自分と良く似た面差しの男が立っていた。

歳も、そう変わらないと思われる、その男の声は、一度だけ聞いたことがある。

そして、そのたった一度きりの奇跡の出会いは、忘れたくとも忘れられない。

「――父さん――。」

穏やかに微笑む父は、あの最期のときと同じ――。

「おまえは、おまえとして生きるんだ。」

「・・・俺として・・・?」

謎掛けのような言葉に、真意を量りかねていると、

「シンタロー。」

また同じく呼びかけられる別の声。けれども、今度は息を飲み込んだ。

振り向く先に、夢でも鮮やかに浮かび上がる赤と黒。この鮮烈な存在は、自己の知るうちで、たったひとりしかいない。

「――っ! 何故――、何故、おまえがその名で呼ぶ!?」

咆哮――まさしく、そうだった。『その者』から『その名』で呼ばれた途端、怒りが込み上げ口を突いた。

いや――怒り――なのだろうか。

それよりも、もっと強い何かが、身体中を渦巻く。それが出口を探して彷徨っているのに、俺はその術を知らない。

「今まで悪かったな。元々、これはおまえのものだったのに、俺が使ってしまっていた。」

やめろ。そんなことは聞きたくない。

「だけど、おまえに返す。――24年間、済まなかった。ありがとう。」

深々と頭を下げる『おまえ』。



やめてくれ。俺はそれを望んでいたわけじゃない。

『その名』が失われることが、どういう意味を持つことなのか、わかっているのか?

24年間掛けて築いたおまえの存在そのものの消滅を、おまえ自身が望んでいるわけではないだろう!?



――いくら心内で叫ぼうとも、それは音にならなければ無意味だ。

声帯が凍り付いているのか、喉から外に出すことが出来ない。

それでも、この叫びは相手に届いたのだろうか。困ったような、儚げな微笑を浮かべた後、『その者』と父は背を向け歩き出す。




待って――待ってくれ! 俺を独りにしないでくれ!!

大体、無責任じゃないか! 俺をこの世界に放り出し、おまえは去っていくだと!?

そんな勝手は許さない!!



捕らえるように精一杯腕を伸ばし、彷徨う全ての感情を吐き出し叫んだ。

「シンタロー!!」

――そこで、夢は醒めた。







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「シンタロー君! おはよう。」

右手を高く上げ、正面からベージュ色のリノリウムを軽やかに蹴って駆けてくる。

全面ガラス窓のこの廊下は、陽光が燦燦と降り注ぐ。

一族特有の金糸が歩を運ぶ度に、朝日を浴びてキラキラと光を弾いた。

「・・・グンマか。」

「『グンマか』は、ないでしょ! シンタロー君。

朝会ったら、まずは『おはよう』だよ!」

頭半分程低い金髪が眼下で、ぷくっと頬を膨らませ窘める。



この世に出でてから、俺は亡き父を崇拝していたドクターに預けられた。

両親をとっくに喪い、兄弟もいない、家族というものがない俺を、是非にと申し出る彼に反対する親族はいなかった。

24年間外界と遮断されていたといっても、全く何も知らないわけではない。

干渉をされない、できない位置にいても、『あの者』を通して状況は見知っていた。

生きる上で必要な最低知識、言語や生活慣習、親族関係、更には一族が支配する組織の基本的な部分はある。

けれども、それらは本当に『知識』だけで、実体験のない俺は、やはり何処か違っているらしい。

保護者であるドクターは、所謂『教育』を担い、こういう社会上の潤滑油というべき『教養』は、同じく彼に育てられた従兄弟のグンマが買って出た。

保護者が同者ということで接触する機会が多いこともあろうが、それよりも、どうもこの従兄弟は世話を焼きたいらしい。



一族で最年少は前総帥の次男だが、あの子は今は眠っている。

そうなると、次は俺を含む3人の従兄弟たち。

尤も、俺は最近加わったばかりだから、残りふたりのうち、このグンマの立場が弱かった。

ここで示す『立場』は、対外的な、つまり総帥の息子であるか否かという次元ではない。あくまで、当事者間での力関係だ。

要は性格的なもので、彼は甘える側だったということだ。・・・『あの男』は世話好きだからな。

実弟がいることは、いるのだが、そんな彼にとっては、俺は、弟が出来たようなものなのだろう。

生活上の細部に亘って、ひとつひとつ、それは楽しそうに構い、教授している。



「はい、『おはよう』」

人差し指を立て、言い聞かせるように再度同じ言葉を発する。まるで幼子扱いだ。

しかしながら、彼の持つ柔和な雰囲気が、憤慨を相殺させる。

それに、彼は決して誤ってはいない。

「・・・おはよう。」

素直に従うと、従兄弟はいつもの少女めいた笑顔になった。

上機嫌に俺の腕を引っ張り、

「今日もいい天気だね。ほんと、お天気で良かったよ。今日はシンちゃんが帰ってくるんだから。」

――ああ、なるほど。彼の機嫌の良さは、『あいつ』が帰ってくるからか。



グンマは俺と、もうひとりの従兄弟を、『シンタロー君』『シンちゃん』と呼び分けている。

あの島で区別する為に、一時『キンタロー』と命名されたが、俺は納得いかなかった。

自分こそが総帥の息子、シンタローであるのに、何故別名を与えられるのか。

そう主張すれば、誰も、当のシンタローも反論しなかった。

結局は、俺は総帥マジックの子供ではなかったけれども、『シンタロー』だけは譲れなかった。――俺は、『青の一族』であることを譲れなかった。



従兄弟のように周囲は、各々俺たちふたりの呼び名を工夫しているようだが、同名の自分たち互いに於いては、どう呼びあっていいのか悩み所だ。

『おい』とか『おまえ』とか。

『ニセ者』などと、敵意剥きだしの頃もあったが、今となってはあの感情も遠い。

そうなると自然と足は遠のき、元々好意があったわけでもなかった為、彼の動向に疎くなっていた。

ここ暫くは遠征で留守であることくらいは聞き及んでいたが、本日帰還だったとは。



「午後に帰ってくる予定だって。だから今日は、午前中に頑張るよ! そして、お迎えに行くんだからね!」

「・・・は?」

「『は?』じゃないよ! シンタロー君も行くんだよ!」

ビシッと有無を言わせない口調でグンマは目を見据える。

どうも、こういうときの彼は苦手だ。同じ碧眼でも、そのまっすぐな瞳は自己が持ち得ないもの。

「俺は・・・別に・・・。」

思わず逸らした俺に続けて、

「ダメ! シンタロー君、シンちゃんを避けているでしょう。

シンちゃんも総帥になってから凄く忙しいみたいだからさ、会えるときは会っておかないと。」

図星を指された。

「・・・シンちゃんも、避けているみたいだしさ・・・。」

先刻までの強い口調がナリを潜めて、ぼそりと呟かれる。

視線を外していた俺はそのままで聞いていたが、チクリと何かが刺さった気がした。



あいつが俺を避けている、そんなのは当然だろう。実際、こちらもそうなのだから。

俺たちの相反する存在に、互いが親しみを抱くわけがない。



それなのに、この痛みは何なのか。

俺は自身のことながら理解不能だった。












グンマの宣言通りに、午前中は詰め込み授業が行われた。

「高松、今日は午前中で終わらせてね。午後はシンちゃんのお迎えに行くの。」

教師でもあるドクターにそう指示すると、

「僕も今日は、ここでやろっと。」

と、得体の知れない設計図を持参して、返事を待たずに、さっさと備え付けのキーボードを叩きだした。

その姿に、

「仕方ありませんねえ。」

ドクターは苦笑混じりに従った。



彼はグンマに甘い。逆らった姿など、ついぞ見たことがない。

確かにグンマの『お願い』は、無理難題はない。だが、甘やかしすぎではないかと思う。

一度それを指摘すると、彼は何のことはない、と穏やかに微笑んだ。

「あの方は、私の宝です。本当なら恨まれても蔑まれても当然の私を、赦して下さいました。

そして、『24年間、ありがとう』とまで言って下さったのです。この私に。」

「・・・罪悪感から甘やかしているのか?」

「そんなことはありませんよ。悪いことは悪いと、きちんとお教えして育てました。

その証拠に、あの方は我侭を言われますか?」

「・・・いや。」

「グンマ様は、相手の負担にならないよう、見極めてお願いをされます。聡明な方ですよ。

・・・シンタロー様も、甘えて下さってよろしいのですよ? あなたも私の大事な宝です。

――尤も、私にそんなことを言える資格などありませんけどね・・・。」

「俺は・・・おまえに感謝している。『あいつ』ではなく、俺の為に泣いてくれた人だ。」

「・・・ありがとうございます。」

泣きそうな笑い顔だった。



監視付きの本日の授業は、午前を20分程残すところで終了した。

「今日は、かなり駆け足で進めましたので、お疲れになったでしょう。後はゆっくりと、お休み下さい。」

労いの言葉を掛けて高松が退室する。

「お疲れー、シンタロー君。お茶、淹れるね。」

腰に掛かる髪を揺らして食器を扱うグンマ。

「・・・邪魔じゃないか? その髪。」

後ろ姿を見、何とはなしに口を突いた。

「うーん、そうだねえ。

ずっと伸ばしてて慣れているから、あんまり感じないけど、シンちゃんみたいに結んだほうがいいかなー。」

振り向きもせず作業を続けながらの答えが返る。



今でこそ解き流し、赤い服を纏うあの男は、それまで滝のような長い漆黒の髪を括っていた。

強烈な南国の光の中に浮かび上がるモノトーンが脳裏に蘇る。



「それか、いっそのこと切っちゃうとかね。

シンタロー君も、邪魔だと思う?」

ふたり分のカップとティーコジーを被せたポットを乗せたトレイを持つグンマは、両手が塞がっている為に、目で俺の髪を指し示した。

自身も彼と変わらない長さである。

ひと房掴むと、また『あの男』と『あの島』での戦いがフラッシュバックした。

――囚われているのか?

影を断ち切るように大きくかぶりを振り、

「そうだな・・・。」

窓の外へと目線を向けた。



ここは研究棟の一部で、向い側に一般棟が臨める。そこには忙しなく行き来する多くの団員。

それらを散漫と眺めていると、

「お茶、入ったよ。」

柔らかい声に引き戻された。

目の前の紅い液体から白い湯気と芳香が昇っている。

「今日はオレンジ・ペコーにしてみました。どうぞ。」

にっこりと屈託のない微笑に押され、一口含む。

「・・・美味い。」

俺の簡素な反応に笑みを深めたグンマは、

「良かった。」

と、自身も口に運んだ。



晴れ渡った空と平穏な空気。

およそ武力集団に似つかわしくないが、天候は誰にも公平に与えられるし、戦下でなければ、こんなひとときを味わっても罰は当らないだろう。

俺は、ここに戻ってきてから、ずっと思い悩んでいたことを、同じ立場であろう従兄弟に問うてみたくなった。

恐らく、今朝の夢が切欠になったと思う。

「・・・グンマ。」

「何?」

「・・・俺とおまえは、生まれてすぐに取り替えられた。」

「うん。」

「本当は、おまえはマジック伯父貴の息子、『シンタロー』だ。

そう考えたことはないか?」

核心に触れる。

本来ならば、彼が『シンタロー』で、自分は『グンマ』のはずだ。 24年前の事件さえなければ、そう育っていたはず。

ところが、大きな青の双眸を更に見開いて一瞬動きを止めた後、従兄弟は声を立てて笑い飛ばした。

「ぼっ、僕が『シンタロー』? 考えてもみなかったなあ。」

「なっ・・・!」

「僕の名前は、『グンマ』以外に思いつきもしないもん。」

けらけらと陽気に笑うグンマに、思考回路が全く異なることを、改めて知った。

聞くだけ無駄だったか――と。

「『グンマ』という名前はねえ、お母様――本当は君のお母様だね。叔母様が付けてくれたんだよ。

確かに叔母様は、僕を自分の子供だと疑わずに名付けてくれたんだと思うよ。

だけど、間違いなく『僕の』名前だ。『僕に与えられた』名前だ。」

先刻までの、ふわふわと浮いた雰囲気は消えていた。笑顔こそ絶やさないが、語る瞳は強い光を帯びている。

「きっと、この名前には叔母様の想いが込められているだろうし、僕はこの名前で24年間生きてきた。

名付けてくれた人の想い、僕をこの名で呼んだ人たちの想い、そして僕自身の想い。

『グンマ』は僕の歴史でもあるんだよ。だから、他のものに変えられない。

名前は、その人と共に在るものだと、僕は思う。」

それから、また愉快げに笑い出した。

「それに、ころころ名前変えちゃったら、皆、混乱するよねえ。

昔の人って大変だっただろうな。」

いつもの従兄弟に戻っていたが、俺の頭の中に、あの強い瞳と言葉がしっかりと焼きついた。

『名前は、その人と共に在るもの』

俺は――『シンタロー』は、本当に俺と共に在るのだろうか。

俺は24年間、『あの男』の中にいた。だから、『シンタロー』という名を授けられたと言っても、過言ではない。

だが、その名を呼んでいた者たちにとって、『シンタロー』とは――。



ふう、と肺の中の空気を入れ替える気持ちで大きく息を吐き出し、再び窓外に目をやる。

と、先程は至って平和だった一室が、俄かに騒然と湧いている様子が覗えた。

「――っ!!」

何も考えなかった。ただ、思考より先に身体が動いた。

「シンタロー君? どうしたの?」

いきなり立ち上がった俺に、グンマが訝しい声音を投げる。

それに答えず、既に歩は扉へと向かっていた。

「ちょっ、どうしたのさ!?」

背後から甲高い声がついてくるが、構っている余裕はない。ひたすら目的地へ駆ける。

嫌な胸騒ぎがして堪らない。予感めいた焦燥感が俺を追い立てる。



俺は、何かを失おうとしているのかもしれない。

それは、手放したら二度と掴めない。そう本能が警鐘している。



棟を繋ぐ長い廊下の奥に、目的の人物を捉えた。

「ティラミス! チョコレートロマンス!」

「シンタロー様!? グンマ博士も・・・。何でしょうか?」

総帥付秘書官らしい落ち着いた応答。しかし、俺は出会い頭瞬間の動揺を見逃していなかった。

「何があった。」

「・・・何のことですか?」

眼前の表情は変わらない。まるで能面だ。

「とぼけるな! あいつに何かあったんだろう!? でなきゃ、総帥室があんなに慌しくなるか!!」

「えっ!? シンちゃんが、何か!?」

俺の詰問に、後方でおろおろと成り行きを見守っていたグンマも、驚愕の音を立てた。

「そっ、そんなに大声を出さないで下さい!! 団員に知られます!」

慌てて俺たちを制するチョコレートロマンス。その態度が、俺への充分な答えになっている。

「何か、あったんだな?」

「あ。」

己の落ち度に顔を顰める同僚を、隣のティラミスが軽く小突き、観念したような溜息を吐いた。

「・・・ここで騒ぐわけにはいきません。おふたりも御同行願います。」

場を仕切る彼に従い、俺たちはその場を後にした。



早足で移動しながら、秘書官の説明を聞く。

「総帥は既にお戻りになられています。今はメディカルセンターにいらっしゃいます。」

「メディカルって・・・シンちゃん、怪我したの!?」

「ええ。」

胸に衝撃が走った。知らずに彼らを睨んでいたらしい。――八つ当たりだとわかっていても。

「・・・そんなに怖い顔をなさらないで下さい。命に別状はありませんよ。」

苦笑し指摘するチョコレートロマンス。言葉に出されると恥ずかしさが込み上げる。

照れ隠しで、ぶっきら棒に言い放った。

「・・・元々、こういう顔だ。」

「はい。そういうことにしておきます。」

まだ笑い堪えている彼を無視して、ティラミスが話を続けた。

「チョコレートロマンスが言った通りに、大怪我ではありません。ですが、総帥が怪我をされたとあっては、団内が乱れます。

ですから、予定よりも早い、極秘の帰還となったわけです。

そのままセンターにお連れして、今頃はドクター高松の手当てを受けていらっしゃると思いますよ。戦場では応急処置にしかなりませんから。」

「そっか。高松が診てくれているなら安心だね。良かったね、シンタロー君。」

『良かったね』と振られても、素直に答えることができようか。

仄かに熱い顔を背けたままに返事もしなかった。彼らの位置からは、この顔は見えないだろう。

俺は、このときほど自身の長身に価値を見出したことはなかった。











メディカルセンターに着いてから、どの処置室に総帥はいるのかと局員に尋ね――る必要はなかった。

「バカヤロー!! 放せっ、クソ親父っっ!!」

「――あそこだな。」

漏れる、というには音量が超大な一室を目指す。

果たしてそこは、前総帥の伯父とドクター高松、そして現総帥の『あの男』という顔ぶれだった。

「シンちゃん、大丈夫なの? 怪我しているのに、そんなに暴れて。」

そいつは、接近する父親に蹴りを与えていた。

「大した傷ではないといっても、結構な深さはありますよ。

まだ塞ぎきっていないのですから、開いたら知りませんよ。」

手当ては済んだのだろう、白い包帯で腹部全体を覆われた姿が痛々しい。

医師とは思えない薄情な物言いの高松に、

「それは、このアーパー親父に言ってくれ!」

「シンちゃん、ひどいっ! パパはシンちゃんのことが心配で堪らないのにっ!」

「そう言いながら、怪我人に抱きつくんじゃねえっ!!」

げしっと再び蹴りが飛び出す。足は無傷のようなので、そこを武器にしているのだろう。

見た目程に衰弱はしていない。――密かに安堵する自分を自覚した。

医療施設にはおよそ似つかわしくない乱痴気騒ぎに、俺の背後で傍観している秘書官ふたりが、ぼそりと一言零す。

「・・・マジック様には知らせなかったよな。」

「俺はドクターだけに知らせたはずだ。しかも、他言無用と念押したんだが。」

招かざる客がいる。彼が如何様にして嗅ぎつけたのか。

それを問えば、返ってくる言葉はこの俺でも容易に予想できる。何しろ、溺愛する息子だ。

『シンちゃんのことなら、なーんでもわかるよv』

秘書官は口を閉ざした。



「お父様、シンちゃんは怪我しているんだから遠慮してよ。」

もうひとりの息子に、ぴしゃりと釘を刺された父親が、涙目を別の息子に向ける。

彼は、うんうん、と頷き良識的な発言に同意を表す。

「シンちゃ~~ん。」

滂沱の涙を双眸から垂らしながら、未練がましくも大人しくなった。

やっと何とか静かになった部屋で、ふと黒い瞳とかち合った。

「あ――。」

「でも、どうして怪我したの?」

俺に向かってなのか開きかけた口を、横から入った高い声に閉ざさるをえない。

彼は視線をも俺から外し、従兄弟に説明した。

「あー、それがさ・・・遠征先のテロリストが結構しぶとくてよ。

このまま長引けば、市民への被害が拡大しそうだったんで、一気に決めてやろうと思って、眼魔砲をあいつらの本拠地にぶっ放したんだよ。」

そのときを思い出しているのか、自身の右手を見つめた。

「・・・だけど――。」

その手を頭部に移動してガリガリと掻く。

「最小限にパワーを抑えるのが、まだ上手く出来なくって・・・少し目標誤った。」

「――それで、民間人の少年が巻き込まれそうになって、総帥が庇われたそうですね。

その際に負傷されたと報告を受けています。」

淡々と引き継ぐティラミスに、

「う・・・面目ねえ・・・。」

結局、原因は自分自身だということだ。

失態を素直に認めると、一層照れ隠しに掻く。



破壊だけが目的だった団は、新総帥の下、劇的な改革を為した。

そして、今までは破壊の為だけだった一族のこの強大な能力も、最終手段に、最小限にと意識されている。

まだ彼は、己の持つ破壊力を完璧にコントロール出来ていないということか。



恥じ入る姿をまじまじと眺めていると、視線を感じたのか、再度黒い双眸が向けられた。

「・・・何だよ。カッコ悪ぃとか思ってんだろ。」

子供じみた拗ね方をする。こいつはプライドが高いから、失敗すると不機嫌になることは知っている。

下手に応答しないほうが得策だと思い黙っていたが、続けられた言葉は、俺を充分に激怒させた。

「俺が無事で残念だったな。

『シンタロー』は当分やれそうにねえ――。」

次の瞬間、俺はそいつの横っ面に拳を叩き込んでいた。

「シンちゃんっ!!」

「シンタロー君!?」

「シンタロー様!?」

「総帥!!」

様々な叫びが交錯する中、俺の目は診察台に倒れた男しか映していない。

「てっ、めえっ! 何しやがるっ!!」

「怪我人だから手加減しておいた。」

「何、ふざけたことを言ってやがるっ!!」

上半身を起こしながら凄むこいつは、何もわかっていない。



『シンタロー』をやる、だと?

それは即ち、おまえ自身の消滅を意味するというのに。



襲い掛かる腕を取り、顎を掴み上げた。間近に覗く黒曜石に己が映っている。

「・・・いいか。『シンタロー』は、おまえだ。おまえが、『シンタロー』だ。

俺にやるなど、二度と言うな。」

驚きで顕著に拡大する瞳孔を一瞥して、捕らえていた手を放せば、そのままどさりと大柄な躯体が力なく崩れた。

誰も彼もが呆けた顔で、唖然とした空気が漂う。

「高松。」

「あっ、はい。」

呼ばれ、はっとこちらを向く彼に、俺はひとつの提案を出した。

「・・・以前、俺に『キンタロー』と名付けたな。――俺は今日から、『キンタロー』だ。いいな。」

「・・・はい。シン――いえ、キンタロー様。」

それだけで、心得た、と名付け親は静かに受け取る。



この名は、俺に与えられた、俺だけの名前だ――。



「それから、伯父貴。」

「何だい?」

返ってきた声音は極めて平常なもの。

場の急展開にも、すぐさま冷静になる伯父は、さすがに一団を率いてきた人物だと改めて確信した。

「俺はこいつの――シンタローの補佐をする。総帥が戦地でこんなヘマをやるようじゃ、団も落ち着けないだろう。」

「なっ!!」

「ああ、それはいいねえ。」

「ちょっと待て!! そんなの、総帥の俺を外して勝手に決めんなよ!!」

喚き異議を申し立てる彼に、父親の鋭い一言が下った。

「彼も――キンタローも、そろそろ団の要職に就いてもらう時期だろう。

おまえが総帥に就任してからの新体制も、まだまだ安定しているとは言い難い。

今は少しでも、地盤を強固にする必要があるんじゃないのかい?」

「・・・・・・。」

客観的に分析された現状は図星らしく、新総帥は決まり悪げに、ふいと目線を逸らした。

「キンタローは優秀な人材だ。彼の能力は現地でも大いに発揮できる。

今回のようなことがまたあったとしても、彼がいれば、シンちゃんを助けてくれるとパパは思うよ。

・・・それは、おまえも良くわかっているだろう? 実際に戦った、おまえなら。」

「・・・ああ。」

一拍後、逸らしたままで呟きの肯定があった。

「――決まりだな。

明日から俺は総帥室に入る。そのように準備しておいてくれ。」

壁際に突っ立ている秘書官たちに、そう命ずる。

「はっ、はい! わかりました!」

弾かれたように反応する彼らを横目に、俺はセンターを後にした。











自室への帰路、俺は歓喜を抑えるので精一杯だった。

やっとわかった。父の言葉も、あのときの感情も。

俺は、とっくに認めていた。『シンタロー』が誰であるのかを。

それを、本人に否定されたことが哀しかった。

俺たちは別々の人格ではあるけれども、24年間一緒に生きてきた。

それを、棄てないで欲しかったのだ。

「父さん・・・俺は、『キンタロー』として生きていくよ。」

亡き父は、これを望んでいたのだろう。

過去に囚われず、『シンタロー』に囚われず、『一族』に囚われず、『自分』として生きろ、と。

「今まではひとつだったが、これからは共に生きていこう――。」

今頃、混乱していることであろう、半身に告げる。

「――シンタロー。」




――『キンタロー』の第一歩が始まった。











後日談



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「キ…キンタローッ落ち着けッ」
 いつものことと言えばいつものことだが、ガンマ団本部に激しい爆発音が響いた。
 シンタローの正面には正にご乱心状態といったキンタローが二発目の眼魔砲を打とうと構えている。そして背後には先程放たれた一発目を喰らって若干焦げたハーレムがいた。
「おーおー、おっかねーなぁ」
「…何でアンタはそんなに暢気なんだよッ」
 タイミングの悪さで自分の右に出る者なんていないんじゃないか、とシンタローは思った。
 先程までハーレムに襲われていた時は救いとなる人物が誰も近くを通らず半泣き状態にあったというのに、いざその状況に収拾がつこうかという時になって、キンタローがリビングに現れたのだ。その時の二人の状態と言えば、着衣が乱れに乱れ、というか上半身など殆ど何も身に付けていないシンタローと、その上に余裕綽々で乗り上がったハーレムである。それを眼にしたキンタローが即座に眼魔砲を放ったというのは、過激だが感情の類として間違ってはいないだろう。
 とにかく誤解を解こうと思ったシンタローだが、頭に血が上ったキンタローには一切声が届かない。それでもこの事態を収拾つけなくてはと思って懸命に訴えかけるのだが、それも虚しくキンタローから二発目の眼魔砲が放たれた。
 二発目もハーレムを狙って放たれたのだろうけれども、シンタローの背後に標的となる叔父がいるため一緒に吹き飛ばされそうになる。それを大人しく喰らうようなシンタローではないのだが、何を思ったのかハーレムが見せつけるようにシンタローを助けた。
 眼魔砲を避けるためにシンタローを引き寄せ、横に転がる形で攻撃を回避する。
 シンタローはハーレムにしっかり抱き締められたまま絡み合う様に床へ転がる羽目になった。
「オッサン!!アンタ、何考えてンだよッ!!」
「面白ェじゃねーかよ。いっつもクールな顔してるヤツが感情剥き出しで向かってくンのって」
 とんでもない叔父である。何でそこまで博打の道を選ぶんだこのオッサンはと本気で嘆いたシンタローだ。普段ならば自分に刃向かってくるものは何でも気に入らずに薙ぎ倒すハーレムなのだが、今は新しいおもちゃを手に入れた子どものように楽しそうなのだ。
 脱力しかけたシンタローだが、直ぐにこの叔父から離れないとキンタローの眼魔砲を喰らうという嫌な運命を共にしてしまう。シンタローは自分の体に回されているハーレムの腕を振りきり素早く起き上がった。するとハーレムも直ぐに起き上がる。シンタローは直ぐにこの叔父から離れようとしたのだがそれを逞しい腕で阻まれた。強い力で体を引き寄せられ、ハーレムの胸にまたもや納まる。
「ッザケンナ!!煽ってどーすんだよッ!!」
「好きなヤツの奪い合いってこんなんかねぇ?」
 ニヤリと笑いながら楽しそうなハーレムと殺気が割増されたキンタローの間に挟まれたシンタローは即倒しそうになったが、こんなとんでもない戦場と化した場所で意識を失おうものなら一番に散るのは確実に自分となる。
「叔父貴ッシンタローを離せッ」
 怒り心頭のキンタローの手に光が集束するとまたもや眼魔砲が放たれた。
 ハーレムに踊らされるような形でキンタローの攻撃を避けながら、どんどん崩壊していくリビングの中で、シンタローは儚い気持ちを噛み締めた。
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「本当に全く、総帥ともあろう者が何やってるんですか」
 往診カバンの中に医療道具を山ほど詰め込んで、高松は傷だらけになって動けなくなったシンタローの前に現れた。そして開口一番の台詞は、そんな調子に嫌味混じりの口調であった。
 この辺りで何かの爆発があったのは一目瞭然で、瓦礫が一面に転がっていた。
 シンタローは無惨な姿に変わり果てた建造物の影で隠れるようにじっとしている。体中に負った傷で顔を蹙めていたのだが、高松の台詞に眉間の皺が一層深くなる。
「総帥だからだろ。名誉の負傷と言え」
 静かな声で反発するとシンタローは起き上がろうとしたのだが、一つ深い傷から血が滲み出て辺りを深紅に染め上げた。それでも尚動こうとするシンタローを高松は制止して傍に屈む。
「まぁ、そんな口をたたけるのなら、見た目よりは大丈夫ですね」
 この場で止血した方が良いと判断したのか高松は直ぐ応急処置を始める。本部に戻ったら即メディカルルームに放り込まれるのだろうなと思いながら、シンタローは大人しく処置を受けた。
 しばらく無言のままシンタローの傷を手当していた高松だが、一番深いと思われる傷の手当が終わると口を開いた。
「グンマ様とキンタロー様が悲しむまねは止めて下さい」
 高松の口調は先程と変わりないものだった。だが、シンタローの心にはその一言が重く響く。
「………仕方ねぇだろ」
「そうやってライン引きするのはよくないですね。最初から諦める思考は駄目ですよ。どうせあなたは無茶することを止めることは出来ないのでしょうから、何をやっても無傷で戻って来るくらい強くなって下さい、お二人のためにも。精進あるのみですよ、シンタロー総帥」
 高松の台詞にシンタローは目を丸くした。
「何をやってもって…んな無茶な…」
「そう思う心がいけないですよ。あなたにとっては無茶をして怪我することが美徳ですか?」
「んなこと思ってねーよ」
「だったら頑張って下さい。まずは自分の力量を見極めることが第一歩ですね」
 高松の遠慮ない物言いに、シンタローは苦い顔をした。
「相変わらず厳しいな、ドクターは」
「あなたの周りの方々が、あなたに甘すぎるんですよ」
 この指摘にはシンタローも苦笑いをするしかなかった。それは自分も判っているからだ。
「それが悪いこととは思いませんが、大切に思ってくれる者がいるのなら、その気持ちを無碍にしないためにもご自分を大切になさって下さい。ちょっと酷いですよ、この怪我は」
 このドクターには勝てないなと思ったシンタローは「解った」と一言頷いた。案外あっさりと素直に頷いたシンタローに高松は一つ笑みを零す。
「もうすぐキンタロー様がいらっしゃると思いますので、そうしたら代わりますね手当を」
「な…ちょっと待てドクター。キンタローが来る前にこの処置全て終わらせろ」
 キンタローの名前を出すとシンタローが突然慌て出す。その理由を高松は判っていた。
 シンタローは自分の傷をキンタローに見せたくないのだ───彼が傷ついた顔をするから。
「待っている者が受ける痛みを知ることも必要なことでしょう、あなたには」
 高松がそう言って突き放すとシンタローが懇願するような表情を浮かべたが、それには構わず背を向けて、遠くの方から走り寄ってくる黄金の忘れ形見に向かってゆっくりと歩き出した。

s
 僕は、シンちゃんってもの凄く鈍いよなぁって思うときが時々ある。
 どんな時かっていうと、主としてキンちゃんが絡んでいるときに思うんだけどね。
 今現在、僕とシンちゃんとキンちゃんは、キンちゃんの研究室にいるんだ。最初に僕がキンちゃんの所に来たんだよね。ちょっと貸してほしい本があったんだ。それでそのまま少し喋ってたら、シンちゃんが珍しく研究室に来たんだよ。キンちゃんに用事があったみたいで。
 でね。シンちゃんが来たときのキンちゃんの嬉しそうな顔といったら、ちょっと僕が赤面しそうなほどだったんだよ。キンちゃんってそんなに優しげな笑みを浮かべることもあるんだって思っちゃったしね。じゃぁこんな表情で迎えられたシンちゃんはどうなんだろうって、僕がドキドキしながらシンちゃんを見たら、シンちゃん普段と変わってないし。こんなにもキンちゃんはシンちゃんのことが好きだっていう態度が露骨に出てるのに、そこに無反応なの?
「あれ?グンマもいたんだ」
 何て僕に一言声をかけてくれて、そのままキンちゃんの傍によると仕事の話を始めちゃった。
 ねぇ、シンちゃん。反応として、もっと何かないのー?
 僕はもの凄く突っ込みを入れたくなったけど、真面目にお仕事の話をしているときに邪魔しちゃうのも悪いよねと思って、二人の話が終わるのを大人しく待つことにした。
 シンちゃんが持ってきた資料を二人で見ながら真剣な顔をしてお話ししてる。
 僕には会話の内容が何だかよく判らなかったけど、仕事中の二人は何かカッコイイなぁなんて思いながら従兄弟達の姿を眺めてた。やっぱりこの二人は自慢したくなっちゃうなぁって思う。だってシンちゃんとキンちゃんの二人が揃ったときの迫力って並大抵のものじゃないんだもん。
 二人のお話が終わるのをしばらく待って、それから三人で少し雑談をしてたんだけど、僕の意識は会話の内容よりもキンちゃんとシンちゃんの様子に傾いちゃう。だってシンちゃんが喋ってるときのキンちゃんの表情の軟らかさといったら───見た人全員が溶ろけそうなんだけど。
 でも残念ながらシンちゃんの様子は普通なんだよなぁ。何でぇ?気付いてないの?
「オイ…グンマ、オメェ聞いてんのか?」
「え?あ、何?ゴメン、聞いてなかった」
 シンちゃんに呼ばれて僕は慌てて返事をする。全然違うこと考えてて話を聞いてなかったよ。
「だから、今日の夕方ちょい前から俺とキンタローは外に出ンだけど。そのまま飯食いに行くかって話になったから、お前は夜外出てこれんのか?って聞いてんだけど…」
「僕も混ざって良いの?」
 おもむろにキンちゃんの方を見て僕はそんなこと言っちゃって、しまったと思ったらキンちゃんに首を傾げられた。不思議そうな顔をして僕のことを見つめてくる。
「お前が行きたがっていた店の話をしたらシンタローも行きたいということになったんだが…」
 僕が行きたがってるお店なんて沢山ありすぎて、どのお店を指しているのか直ぐに判らなかったけど、それよりも普通に僕がメンバーの中に入ってるのが嬉しくて二人に抱きつきそうになっちゃった。もう二人とも大好きだから上手くくっついてよぉー。僕、応援するよ?
 そんなことを思っていると、シンちゃんが「じゃ、夜に合流な」と言って研究室から出ていっちゃった。シンちゃんがドアを閉める前に「キンタロー、後でな」って言いながら浮かべた微笑を見た瞬間、僕は二人の間に飛ぶ花びらが見えて思わず感嘆を洩らしちゃったよ。
 キンちゃんが後ろで不思議そうな顔をして僕を見てるのが判ったけどいいんだもん。
 その位置からじゃ見えなかっただろうけど。これから上手くいくとイイネ、キンちゃん。
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