「本当に全く、総帥ともあろう者が何やってるんですか」
往診カバンの中に医療道具を山ほど詰め込んで、高松は傷だらけになって動けなくなったシンタローの前に現れた。そして開口一番の台詞は、そんな調子に嫌味混じりの口調であった。
この辺りで何かの爆発があったのは一目瞭然で、瓦礫が一面に転がっていた。
シンタローは無惨な姿に変わり果てた建造物の影で隠れるようにじっとしている。体中に負った傷で顔を蹙めていたのだが、高松の台詞に眉間の皺が一層深くなる。
「総帥だからだろ。名誉の負傷と言え」
静かな声で反発するとシンタローは起き上がろうとしたのだが、一つ深い傷から血が滲み出て辺りを深紅に染め上げた。それでも尚動こうとするシンタローを高松は制止して傍に屈む。
「まぁ、そんな口をたたけるのなら、見た目よりは大丈夫ですね」
この場で止血した方が良いと判断したのか高松は直ぐ応急処置を始める。本部に戻ったら即メディカルルームに放り込まれるのだろうなと思いながら、シンタローは大人しく処置を受けた。
しばらく無言のままシンタローの傷を手当していた高松だが、一番深いと思われる傷の手当が終わると口を開いた。
「グンマ様とキンタロー様が悲しむまねは止めて下さい」
高松の口調は先程と変わりないものだった。だが、シンタローの心にはその一言が重く響く。
「………仕方ねぇだろ」
「そうやってライン引きするのはよくないですね。最初から諦める思考は駄目ですよ。どうせあなたは無茶することを止めることは出来ないのでしょうから、何をやっても無傷で戻って来るくらい強くなって下さい、お二人のためにも。精進あるのみですよ、シンタロー総帥」
高松の台詞にシンタローは目を丸くした。
「何をやってもって…んな無茶な…」
「そう思う心がいけないですよ。あなたにとっては無茶をして怪我することが美徳ですか?」
「んなこと思ってねーよ」
「だったら頑張って下さい。まずは自分の力量を見極めることが第一歩ですね」
高松の遠慮ない物言いに、シンタローは苦い顔をした。
「相変わらず厳しいな、ドクターは」
「あなたの周りの方々が、あなたに甘すぎるんですよ」
この指摘にはシンタローも苦笑いをするしかなかった。それは自分も判っているからだ。
「それが悪いこととは思いませんが、大切に思ってくれる者がいるのなら、その気持ちを無碍にしないためにもご自分を大切になさって下さい。ちょっと酷いですよ、この怪我は」
このドクターには勝てないなと思ったシンタローは「解った」と一言頷いた。案外あっさりと素直に頷いたシンタローに高松は一つ笑みを零す。
「もうすぐキンタロー様がいらっしゃると思いますので、そうしたら代わりますね手当を」
「な…ちょっと待てドクター。キンタローが来る前にこの処置全て終わらせろ」
キンタローの名前を出すとシンタローが突然慌て出す。その理由を高松は判っていた。
シンタローは自分の傷をキンタローに見せたくないのだ───彼が傷ついた顔をするから。
「待っている者が受ける痛みを知ることも必要なことでしょう、あなたには」
高松がそう言って突き放すとシンタローが懇願するような表情を浮かべたが、それには構わず背を向けて、遠くの方から走り寄ってくる黄金の忘れ形見に向かってゆっくりと歩き出した。
往診カバンの中に医療道具を山ほど詰め込んで、高松は傷だらけになって動けなくなったシンタローの前に現れた。そして開口一番の台詞は、そんな調子に嫌味混じりの口調であった。
この辺りで何かの爆発があったのは一目瞭然で、瓦礫が一面に転がっていた。
シンタローは無惨な姿に変わり果てた建造物の影で隠れるようにじっとしている。体中に負った傷で顔を蹙めていたのだが、高松の台詞に眉間の皺が一層深くなる。
「総帥だからだろ。名誉の負傷と言え」
静かな声で反発するとシンタローは起き上がろうとしたのだが、一つ深い傷から血が滲み出て辺りを深紅に染め上げた。それでも尚動こうとするシンタローを高松は制止して傍に屈む。
「まぁ、そんな口をたたけるのなら、見た目よりは大丈夫ですね」
この場で止血した方が良いと判断したのか高松は直ぐ応急処置を始める。本部に戻ったら即メディカルルームに放り込まれるのだろうなと思いながら、シンタローは大人しく処置を受けた。
しばらく無言のままシンタローの傷を手当していた高松だが、一番深いと思われる傷の手当が終わると口を開いた。
「グンマ様とキンタロー様が悲しむまねは止めて下さい」
高松の口調は先程と変わりないものだった。だが、シンタローの心にはその一言が重く響く。
「………仕方ねぇだろ」
「そうやってライン引きするのはよくないですね。最初から諦める思考は駄目ですよ。どうせあなたは無茶することを止めることは出来ないのでしょうから、何をやっても無傷で戻って来るくらい強くなって下さい、お二人のためにも。精進あるのみですよ、シンタロー総帥」
高松の台詞にシンタローは目を丸くした。
「何をやってもって…んな無茶な…」
「そう思う心がいけないですよ。あなたにとっては無茶をして怪我することが美徳ですか?」
「んなこと思ってねーよ」
「だったら頑張って下さい。まずは自分の力量を見極めることが第一歩ですね」
高松の遠慮ない物言いに、シンタローは苦い顔をした。
「相変わらず厳しいな、ドクターは」
「あなたの周りの方々が、あなたに甘すぎるんですよ」
この指摘にはシンタローも苦笑いをするしかなかった。それは自分も判っているからだ。
「それが悪いこととは思いませんが、大切に思ってくれる者がいるのなら、その気持ちを無碍にしないためにもご自分を大切になさって下さい。ちょっと酷いですよ、この怪我は」
このドクターには勝てないなと思ったシンタローは「解った」と一言頷いた。案外あっさりと素直に頷いたシンタローに高松は一つ笑みを零す。
「もうすぐキンタロー様がいらっしゃると思いますので、そうしたら代わりますね手当を」
「な…ちょっと待てドクター。キンタローが来る前にこの処置全て終わらせろ」
キンタローの名前を出すとシンタローが突然慌て出す。その理由を高松は判っていた。
シンタローは自分の傷をキンタローに見せたくないのだ───彼が傷ついた顔をするから。
「待っている者が受ける痛みを知ることも必要なことでしょう、あなたには」
高松がそう言って突き放すとシンタローが懇願するような表情を浮かべたが、それには構わず背を向けて、遠くの方から走り寄ってくる黄金の忘れ形見に向かってゆっくりと歩き出した。
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