アラシヤマとシンタローが他国の元首との密談に行った際の帰り道、隣国の政情が悪化し、来る際に用いた空路が使えなくなった。しかし、シンタローがガンマ団に戻らない訳にはいかないので、急遽、海からのルートで帰ることにしたが、それにはどうしても密林を少しの距離だが越えなくてはならなかった。密林はこの国に所属しており、現在この地域での戦闘は行われてはいなかった。
元首は総力を挙げた警護で海まで送り届けるとシンタロー達に言ったが、なるべく目立つ行動は避けたかったのでそれは断った。また、この国の地形を偵察するという点でも自分達のみでの行動の方が都合がよかった。ガンマ団の密使は2人を含めて6人であったが、いずれも戦闘のプロであり、密林越えなど朝飯前であった。
3組に別れ、それぞれ別のルートで海辺の港町まで出る事にし、明日のお昼に港に集合するという約束で解散した。
アラシヤマとシンタローの2人は必要最低限の装備で、針葉樹林帯の中を歩いていた。
「シンタローはん、戦闘の無い密林越えなんて久々どすな」
「あぁ。それにしても、やっぱ、ジャングルとは感じが違うな。陰気な感じだし」
「そうどすか?まぁ、杉とか松ばっかりですしな。これは、夜はものすごく寒うおすな」
時刻が夕方になり、辺りが暗くなってきたので2人は夜営することにした。
味も素っ気もない携帯食を食べ終わり、この辺りは非戦闘地域ではあるが一応用心のために焚き火の火を消すと、周囲は真暗になった。
しばらく無言でいた2人であるが、アラシヤマが、ふと、何かに気づいたようであり立ち上がった気配がした。
「何だよ?」
シンタローも、思わず立ち上がると、アラシヤマは、
「シンタローはん、ホラ、あの西の方角がちょっと赤うなってますやろ」
と、言った。
シンタローがそっちの方角を見てみると、確かに針の先ほどの大きさで、赤い火の手が上がっているのが見えた。
「この国からでも見えるやなんて。また、新たに戦いが始まったみたいどすな」
アラシヤマの静かな声がした。
シンタローは、何も答えず元の位置に座った。
闇が動く気配がし、アラシヤマも元の位置に戻ったようであった。
また、しばらくの間沈黙が続いたが、アラシヤマが突然ポツリといった。
「シンタローはん。あんさんは、“炎”という言葉から何を連想します?」
彼は、その言葉からいくつか思うものがあったが、一番アラシヤマが期待していなさそうな答えをあえて言った。
「人間」
案の定、アラシヤマは驚いたようであった。
「えっ!?人間なんどすかぁ??」
表情は全然見えなかったが、シンタローにも驚いている気配は伝わってきた。
「そう。もし、炎が無かったら煮炊きしたり暖をとったりすることはできねぇダロ?それに、パプワ島の生物は別として、火を扱えるのは人間だけだし」
シンタローの目はやっと闇に慣れてきたが、アラシヤマの表情はよく分からなかった。
「―――やっぱり、シンタローはんは、優しおすなぁ」
シンタローは、何となく今、アラシヤマが泣き笑いのような表情を浮かべているのではないかと一瞬だけ思ったが、結局それは分からず終いで、シンタローはその場の雰囲気を断ち切ろうと、
「もう、寝る」
とだけ言った。
アラシヤマは、
「どしたら、わてが添い寝をー!!」
と言い、それはすっかりいつもの調子であったので、シンタローは思わず、
「眼魔砲」
と、アラシヤマに向けて少々手加減して眼魔砲を撃った。
シンタローは本当に眠くなったので、アラシヤマが眼魔砲のダメージから立ち直るのを待たずに眠ってしまったが、夢現の状態のときに、すぐ近くで気配がし、
「シンタローはん、ありがとうございます」
と言われたような気がした。
補足説明ですが、アラとシンちゃんは高台にいます。
シンちゃんが言いたかったことが、うまく表現できずにすみません・・・。
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