士官学校を卒業し、約半年が過ぎた。
「あぁ。まだ、わて、生きているんどすなぁ・・・」
激しい市街戦が終わり、あちらこちらと崩れた瓦礫が残る中を集合場所までノロノロと歩きながらアラシヤマはぼんやりとそう思った。
ガンマ団では、ゆくゆくは幹部になることを期待されている士官候補生にひととおりの戦闘経験を積ませておくという方針を採っており、士官学校終了後1年間は様々な現場に送り込まれる。
その段階で死んでしまったらそれまでであるが、幹部ともなると、広い知識やどんな状況に遭遇しても冷静に対応できる能力が求められるのである。
また、幅広く現場を体験することで、個人の適正を見極めるということも想定されていた。
アラシヤマは以前から特殊能力を高く評価されており、暗殺部門に配属されることが既に決定済みであったが、その彼とても例外ではなかった。
「むざむざ、死ぬ気もあらしまへんけど。だいたい、力の無い方が悪いんどす。こっちかて、生きるか死ぬかの瀬戸際なんやから、たくさん敵を殺しても仕方がないんどす」
常々そう思っていたはずであったが、撤収用の軍用ヘリに乗り、窓によって小さく切り取られた空の青さを見るともなしに見ていると、気分が沈んだ。
(シンタローは、どないしてますやろか・・・)
半年前に卒業して以来会っていない、ライバル(アラシヤマが勝手にそう決めているだけであったが)の顔がふと、浮かんだ。
(シンタローは甘うおますし、敵を殺したら泣いてそうどすなぁ・・・。たぶん、誰かたまたまそばにおる奴とか、甘い父親とか叔父貴に慰めてもろうとるんやろうけど)
アラシヤマは、誰か顔がわからない男に慰めてもらっているシンタローを想像すると、何故かたいへん胸がムカついたが、自分ではそれがシンタローの甘さに対する不快感だからだと思った。
また、自分とは違ってシンタローには家族がいるということに気がつくと、(認めたくはなかったが)少しシンタローが羨ましくなった。
(わ、わては、誰に慰められへんくてもこれまでやってきたし、今だって大丈夫どす。甘ちゃんなシンタローよりもずっとずっと強いはずどす!!・・・なんで、わてがこないにシンタローの事を考えなあかんのやろ)
そう思い、シンタローのことを頭から追い払おうとしても、シンタローの怒った顔や悔しそうな顔、ツンとした顔ばかりが浮かんでくる。
(そういや、わて、シンタローから笑いかけられたのって、初対面の時しかないどすなぁ…。他の奴には、ニコニコと笑顔を大安売り(←アラシヤマ比)しとりますのに)
そう思うと、アラシヤマはますますムカついた。
(シンタローがわてに向かって笑いかける所を見るまでは、わて、悔しゅうて絶対死ねまへんなぁ。あっ、そうや!もし、シンタローがわてに笑いかけてきても、無視してやりますえ!!)
そう思った後、ふと気がつくと、アラシヤマはさっきまでの沈んだ気持ちがどこかに行ってしまっているのに気づき、苦笑した。
(まぁ、万が一、わてが死ぬときは、家族の代わりにシンタローが傍におってもええですやろ。なんといっても、わてが認めた唯一のライバルどすしなv)
ヘリコプターは、そろそろガンマ団の敷地内に到着しようとしていた。
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