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力の代償。






不安定な精神と器。






求めてしまうほどに大事なモノを見失うなら






ほんの一瞬の隙も見せないように。









Doppel
Act3 rain or shine









「―――――――――ガンマ砲ッ!!」






あたりに響く破壊音。
以前の彼よりも数段威力は上だ。






3ヶ月前のことなど、嘘のよう。






実際、誰にも気付かれなかった。
丁度その時期は己が実戦に出かけることなどはなかったし、訓練室を締め切りにすることなど容易だ。



就任してからは初めてといってよい前線。
総帥が自ら前線で体を張るなどと普通ならあまりないだろう。
しかし下手に団員に任すよりもこちらのほうが早くすむ。
新生ガンマ団。
以前と180度中身が違うわけではないが、それでもいきなりの変化に不満を持つ者も出てくるだろう。
そういう点で、今まではコージ達四人等に主に動いて貰っていた。
一番信頼できる仲間。
気兼ねなく問題点を話し合える。
無論実力もトップクラス。
なんだかんだ言ってマジックの直属の部下であったのだ。






その四人が遠征で出払って、予定よりも今回は手こずっているらしくなかなか戻ってこなかった。
一応そのことを考慮に入れ予定を組んでいるものの、どうしても時間的にあまり余裕はない。
いつもは誰かが本部に残留しているのだが、良くないことは重なるらしい。
依頼の日程が迫り、戻る見込みも一向にない。
割と名の知れた組織なので四人の誰かに行ってもらいたかったのだが無い物ねだりは仕様もなく。



こうして、自ら前線に立つことになった。



大体の仕事は片づけてきたし、ティラミスやチョコレートロマンスももう要領は分かっているだろう。
元々総帥付きの二人であるし仕事内容自体はあまり変わっていない。









「…………これじゃハーレムのこといえねーなぁ……」


ガンマ砲の衝撃で辺りを覆っていた煙がようやく落ち着き、その威力の程が目に映る。
ここに来るのは別に自分でなくとも良かった。
ガンマ団内で、あの四人以上の力の持ち主。


特選部隊。


その名の通り、ガンマ団内でも選りすぐりの実力者達。
なにしろ部隊にはあのアラシヤマの師匠までいたりする。
アラシヤマの実力は四人の中でもトップなのだから特選部隊の戦闘力は言うまでもない。
隊長を筆頭にして、半端なレベルではなかった。



普通ならこの部隊に出てもらうのだろう。
しかし、部隊メンバーはともかくその隊長が問題だった。



「………やっぱ気に入らないのか……」



新生ガンマ団に不満を持っている者。
名をあげるとしたら一番始めに出てくる男。





ハーレム。
なかなかに厄介な男である。





その力の程は自身がよく知っているが、強大すぎるのも考え物だ。
必要以上に破壊を起こす。
新生の主旨は何度も説明したのにどうしても聞いてもらえない。
特選部隊が出ると近隣への被害も大きくなってしまうのだ。


そうして現在、こうしてここに立っている。


慣れも出てきたので丁度良いだろう。
そう思っていたのだが実際自分の結果を見てしまうと、ハーレムに頼んでも代わりはないかも知れない。






「――――――でもハーレムはコントロールできるんだから、やっぱり違うよな」






力を使いこなせない、自分とはワケが違った。
でもそれも無理に引き留めてしまった自分が悪いのかと思うと、やりきれない。



一箇所に留まっているのは性に合わない。
そう言って世界中を回るはずだったハーレムにガンマ団の残留を頼んだ。
もう少しだけそれを待ってくれないかと。
きちんと基礎が出来上がるまでいてくれないかと言いだしたのは自分だった。
一年間。
新組織としての確立するまでの期間としては短い時間ではあったが、元々出ていこうとした人物を縛るのだからそれでも長いのかもしれない。



最初は良かった。
嫌そうに渋顔をして見せたがそれでもあっさりと承諾してくれたし、なんだかんだと後ろ盾もしてくれていた。
いつからだろうか。
妙に突っかかってくるようになったのは。
まだたったの3ヶ月。
それしかたっていないのに。









「―――――――難しいね」



小さく呟いて、空を仰ぐ。
同じ空。
厚い雲に覆われた、重たい空。



『総帥!降伏の連絡が入りました!』
耳に付けたイヤホンから、通信が入った。
その声に短く返事をしてハッチにと踵を返す。



目が熱い。
力はまた使いこなせなくて、けれど体の痛みはほとんどなかった。
全く痛まないわけはないが、耐えられないほどでもない。
そのかわりに。






「じゃあ俺は休憩室にいるから、何かあったらそっちに直接連絡入れてくれ」
『分かりました』
モニター室には戻らず、一人休憩室に向かいながら通信のスイッチをきる。
疲れたわけではない。
一発ガンマ砲を放ってきただけだ。
それでも一人になりたかった。
一人になる必要があった。






小さな休憩スペース。
もうしけ程度の小さなベッドにどさりと倒れ込む。
固い感触が跳ね返って、仰向けに両腕を顔で交差させた。
目を閉じればその熱がさらに感じられる。
じんわりとした痛みに、涙まで出そうで。



「………………………嫌いだ」
こんな身体。















要らない。
要らない要らないこんな躯。

















口に広がる苦味。
こみ上げてくる吐き気を抑えている内に、到着の連絡が入った。
































「ドクター、睡眠薬くれねーか?」
「またですか?最近多いですよ、効きづらくなってるんじゃありませんか」
帰還して一番始めに向かったのは医務室だった。
書類はもう書き上げたし、あとはチョコレートロマンス達に任して今日は終わりにしてしまった。
「だって深く眠りて―し。短いなら深いほうがいいだろ?」



シンタローの言葉にこの医務室の担当者、高松が呆れた顔をしつつも椅子から立ち上がり、薬剤の棚から一つ瓶を取りだしてきた。
デスクの上にのせ、引き出しから小さめの空き瓶に中身を移動させる。
カラカラという乾燥した音が、実は密かに気に入りだったりする。
無機質で、あまり響かない音はすんなりと耳に入って染み渡る。
少しぼんやりしていたのだろう。
目の前に出された、薬の詰まった小瓶に一瞬反応が遅れてしまった。



「………びっくりした」
「人にモノを頼んでるときにぼけっとしない!駄目ですよこんなコトぐらいで驚いちゃあ」
「ワリィ」
素直に謝り、瓶を受け取った。
それを確認すると高松は続けて口を開く。
「一言言っておきますけど、短い睡眠時間なら浅い方が良いんですよ。浅い眠りなら3、4時間で平気って人は割といます」
「へぇ……そうなんだ。気を付けるよ」
「そうして下さい。グンマ様も心配なさってましたよ、貴方が最近寝てないようだって」
「だからこうして貰いに来てるんじゃないか」
「…………疲れてるんならなくとも眠れると思うんですけど」
「何か最近妙に目が冴えてなー……、神経高ぶってるのかもね」


その言葉に高松はやはり難色を示した。
何か言いたそうな顔をしているが、シンタロー結局言うことを聞かないということは承知しているのだろう。
ひとつため息を付いてびしっとシンタローを指さした。


「2週間分ですからね。半月経つまで次は渡しませんよ、頼りすぎは良くありません」
「了解」


返事だけは素直なシンタローに、高松はそれ以上何も言うことはせず薬を棚にしまいながら辺りのものを簡単に整える。
白衣まで脱いだ高松に、シンタローは疑問を投げかける。


「あれ……珍しいな。もしかしてどっか出かけるのか?」
鞄まで取りだしてきた高松に、流石にそれぐらいは察しが付く。
しかしまだ正午を回ってまもない時間だ。
出不精にはいるだろう高松が出かけることは滅多にない。
その言葉に高松は少し驚いた顔を見せ、一瞬間をおいて口を開いた。



「ああ、今日は―――――――」


「シンちゃん久しぶりーっv」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!?」


高松の言葉は、突然現れた人物によって遮られた。
その人物に腰にしがみつかれたシンタローは躍起になって腕を外そうとしているがびくとも動かない。


「はーなーせーぇッ!!………くぅっ、何でこんなに丈夫なんだッ」
「嫌だよvまだまだ鍛え方が甘いねシンちゃん♪」
「……………元総帥が常人を遙かに逸脱してるんだと思いますけど」
「何か言ったかい高松?」
「いーえ」


鋭い眼光を向けられた高松は、素知らぬ顔でその言葉を流す。
音も立てずに医務室に入ってきた人物こそ元ガンマ団総帥、マジックであった。
何しにここに来たのかと思うくらい、息子に密着して離れずに二人の世界を作り上げている。


「っていうか何しにきたんだよ!?高松に用事あったんだろッ!」
「ああそうそう。すまなかったね高松、ここは他の人に任せるから行って良いよ。グンマ達も後から追いかけるそうだ」
「わかりました、では失礼しますね」


軽くマジックとシンタローの二人に会釈した高松は言葉短く医務室を去っていった。
マジックの言葉を聞いたシンタローは、先程の高松への問いをそのままマジックに問いかける。


「高松どこに出かけるか知ってるのか?それにグンマ達もって……」
「あれ、聞いてなかったかい?私も今まで行ってきてたんだけど」


いまだ腰に抱きつかれたままのシンタローは、首を回してマジックの服装を確認する。
いつもの服ではなく、渋めの色合いのかっちりとした服。
引退してからこのような服はあまり着ることもなかったのだが。
神経を落ち着かせてみれば、微かに花の芳香が鼻を擽った。






「今日はね、ルーザーの命日なんだよ」






「…………………そっか。どうりで叔父さんもいないわけだ」
ルーザー。
シンタローが目にしたことがあるのは3ヶ月前にあの島で。
その人のことは話しですらほとんど聞いたことはなかったけれど、特別なんだろうということはよくわかった。
「そうだね、あの子はルーザーのことをとても慕っていたから」
「じゃ、ハーレムもいねぇな…………」
「多分ね」



いやに気になる花の香り。
カサブランカだろうか、移り香の筈なのにその匂いに頭がくらりとする。
どんな顔で行ってきたのだろう。
真白いカサブランカ。
マジックにとても映えるだろうその花。
少し寂しげだと感じるのは己の気のせいだろうか?
けれど、実際シンタローにとっては関わりのない人物だったためか、何の感慨もわいてこない。
今気になるのは間近の男の存在。
不意打ちに思い切り心臓が跳ねた。
現在だって妙に早い鼓動がばれないか、嫌な汗が背中を伝う。









「…………いー加減に離せよ。仕事あるんだから」
「シンちゃんは今日はもうオフだってティラミスから聞いたよ?」
「の、つもりだったけどみんな出揃っていないじゃねーか。コージ達も遠征から戻ってきてないんじゃ俺が休むわけにもいかないだろうが」
「まぁそうだけど………そう言う台詞はね?」
「あっ!?」
「こういうモノに頼らなくなってから言いましょう」



シンタローが持っていた薬の小瓶。
マジックはソレを目聡く見つけて簡単に手から奪う。
しゃらしゃらと音をならしながら楽しそうに微笑んだ。
この男に言われると、何も言い返せないことが歯痒くて仕方ない。






「………悪かったな」
「責めてないよ、何しろやってることが違うんだから。一から始めるその大変さは私にはなかったからね……でも」



そこで言葉を切って、マジックは真っ直ぐにシンタローを見据えた。
その視線を感じながらも向き合うことは出来なくて。
わざとずらしたままの視線に、マジックの次の行動に反応が遅れた。



「…………ッ!!お、降ろせよっ!!」
「だーめだよ、こうでもしないと逃げそうだからね」
「手でも何でも掴んでりゃいいだろうがッ!子どもじゃねぇんだし………!!」
マジックの肩と抱き上げられたシンタローは顔を真っ赤にして、慌ててその背中を掴んだ。
大きく動こうとするとバランスを崩してしまうのだが、がっちり掴まれた両足は固定されたままだ。
本当にこれが五十台になろうとする男の力だろうか。
ひとつため息を付いて、シンタローは抵抗するのを諦める。
密着した体から香る花の移り香。
先程よりも強く鼻に付くその香りに、目眩を起こしそうになる。






「私にとって君はいつまでも子どもだよ」






―――――――どうして、こう言うことをストレートに言えるのだろう。
深い意味はないのかも知れない。
けれどシンタローにとっては重い言葉だった。
いくつも本心を隠し、騙しているクセにその中に外さない本心。






だから、ソレに溺れたくなってしまうのだ。






「眠れないなら私が眠らせてあげよう♪子守は得意だからね!」
「子守ってなぁ……」
悪態を付こうとして止めた。
言うだけ無駄だ。
甘えてしまおうか。
浸ってしまおうか。
だって今目の前にいるのは『自分』なのだから――――――――。






そう、マジックに体重を預けてしまおうとしたときだった。






「あれ……お取り込み中?」












やはり相容れられないモノなの?
体の奥深く、警鐘が鳴る。






引き出したばかりの力。
傍にいるのは青の一族秘石眼の男と、赤の秘石の番人。






瞳の奥が。
熱かった。












医務室のドアが開き、シンタローは入ってきた人物と視線がバッチリと合う。
寸分変わらぬ同じ顔。
違うものと言えば髪の長さだけ。
高松が留守なんだ、こいつが来るのは当たり前か。
そう思ったのは目が冷めてからだった。



「お疲れさま、じゃあ高松が戻るまで頼むよ」
「了解。でも邪魔じゃないんすか逆に」
「いや別に良いよ、これから移動するところだったし」
「あ、そーなんすか。シンタローはもう今日オフ?」
「うん。最近デスクワークばかりのところに珍しく遠征だったからね、少し休ませないと」
「そーいや顔色なんか悪いぞ?平気かよ……?」
マジックの言葉にジャンがシンタローの顔をのぞき込む。
長い髪が、その表情を隠しているためよく分からなかったが常より確かに蒼い。
「え?さっきまで疲れてはいるようだけど、普通だったのに」
ジャンのその言葉に、今度はマジックがシンタローの顔をのぞき込もうと両足を押さえていた腕の力を緩める。
重力に従い、シンタローの上半身は抱え上げられていた肩から落ちてくる。
軽く音を立て、床に足を置いたシンタローはそれでもマジックに寄りかかったままだ。


「おい、シンタローどうした!」
「シンタロー!?」


きつくマジックの服を掴んだまま、その顔を肩に埋めたまま上げようとしない。
荒くなる呼吸を無理に止めようとしているせいで咽せそうになっている。
不規則な息づかいにマジックは様子を確認しようとするが、シンタローは動かない。
マジックの肩により掛かったまま、微かに震えている。


「シンタロー!堪えるな!!息つまっぞ!!」
明らかにおかしいシンタローの様子。
咽せながら、何とか呼吸をしているようだがこのままでは上手く空気を吸えない。
急な変わり様に手の出しようが分からない。






「シンタロー!!」






糸の切れた人形のように、シンタローの体が傾いだ。









遠くなる二人の声。
何を言っているのか、自分の血流が激しすぎて聞こえない。
耳の奥でうるさいほどに鳴っている。
目の奥が酷く熱い。
噴き出る汗に、酸素が足りない。
体の熱が一気に上昇する。
声が出ない。
とっくに麻痺してしまったはずの、焼けた喉が痛みを訴え始める。
空気の流れにすら体中に電流が走り、意識は朦朧として。
一層強い花の香。
甘すぎるそれがいやにまとわりついて。












傍にすら居られないの?
反発しあう2つの力。
共に行けるのはどちらなの。









自分の名を呼ぶ二人の声が、ひどく心地よく。
最後に耳に届いたのは、窓を叩く水音だった。














--------------------------------------------------------------------------------

 
 


夢を見た。






遠い記憶。






俺のものではない、この体の記憶。









Doppel
Act4 共有するもの









眼前に広がる風景は戦場。
目の前で倒れているのは、まだ幼さの残る顔をした叔父で。
夢というにはリアルすぎるそれに、けれど全く覚えのない情景。
動こうとしてもいうことを聞かない体に、ようやくこれがこの体の記憶なのだと理解した。



コマ送りに場面が飛ぶ。



負け戦だろうか。
辺りは燦然とし、ガンマ団の団員は叔父以外見当たらなかった。
叔父に昔聞いたことを思い出す。
初陣と、殺してしまった親友のために抉ったその右目。
悲しんでくれたのは次兄だけだったと。
そう言っていたことが脳裏によみがえる。
届かない手を懸命に伸ばせば人の足音が耳に入った。
振り向けばそこにいたのはその次兄で。
一度見ただけのときと全く変わりのない男が俺に手を伸ばす。





「あなたは、サービスの兄さんの」
ルーザー。





弟に近付くな………。





そう言いながら、身動きのとれない俺に手をかける。
口に入れられた指の力はひどく強い。




憎悪に満ちた目。
青い瞳に映る俺のいや、ジャンの顔。
その瞳の中に違うものが見えて。



いや、兄弟に。
私の兄弟に金輪際近付くな。



善悪の区別がなかったというこの男は。
このときの感情をなんと言うのか知らなかったのだろうか。














熱い衝撃に意識が一気に浮上する。
ゆるゆると重い瞼をあければ薄い月明かりが目にしみた。
見慣れた部屋に鼻をくすぐった香水。












「あんたも好きだったのか」












頬を伝う濡れた感触。
俺もあんな瞳をしているのだろうか。
拭うこともせず、ふと視線を動かせば鏡が目に入った。
そこに映った青い瞳は先ほどの男の目にそっくりだった。












































「泣いてるのか?」




ふと引っ掛かった感覚に、不意に手がぶれ試験管から薬品が零れた。
チリっと手を焼く痛みに眉を顰める。
「シンちゃん!大丈夫!?」
「ああ、少しかかっただけだ」
水で流しながら心配そうに覗き込むグンマに軽くほほ笑んで返すがその表情は晴れない。
すっと伸びた指が目元をなぞった。
「………どうした?」
「シンちゃん、泣きそうだから………、なにかあったの?」
心配そうな表情。
それを向けられるべきなのは。
「いや俺は何も・・」





俺じゃない。
これは、この傷みは。





きょとんとしたグンマに、大丈夫だとうなづいて空を、彼のいるだろう部屋の方向を仰いだ。





「泣いてるのか?シンタロー」












































「………倒れたんだっけ俺……」
掠れた声。
けれど喉の痛みはなく、過剰反応を起こしていた体も通常状態にと戻っている。
寝汗は酷かったが気分は悪くなかった。


「うわ……とまんねぇ……」
意思に関係なく、零れ続けるそれ。
目が覚めたとき泣いているのに気付いたがどうも止まる様子はない。
目が熱いのと関係あるのかと思いつつ、起きあがってベッドから抜けだし鏡台の前にと立った。


この黒髪には不釣り合いな、蒼い瞳がそこには映る。



「………にあわねー……」
グンマのような明るい空色でも、マジックのように深い蒼でもない。
何処か陰りのある暗い青かと思えば、次の瞬間は透明な透き通る青にも見えて。
「一番近いの、ルーザーの目かな」





ルーザー。
特に思い入れのある人物でもないのに。
今は何故かこんなにも近しい思いを抱いてしまうのは。





「やっぱ同類だからかねぇ」
自嘲気味に口を歪めながらベッドにと戻る。
微かに体温が残っていた枕元に、少し前まで人がいたことを知る。





「……いてくれたのかな」
この部屋は彼のものだし。
目も、青いのは多分彼に反応したのだろう。
俺の傍にいてくれたことに少し胸の支えがとれた気がした。
ちょっとまずかったとは思うけれど。
目の前で倒れて、しかも不自然すぎる。
ただの過労だと思ってくれればいいのだが。
それにしたとしても、たびたび皆から受けていた忠告もあるのだしあまり喜ばしいことでもないが。
特に彼には、仕事に没頭していたことも事実だがなるべく会わないようにしていたから。
ただでさえ顔を合わせる機会は少なかった。
遠征前に、一言だけ言われた。
思えばここ1ヶ月でしたまともな会話はそれぐらいな気がする。
島から帰ってきてからも、数える程度しか顔は合わせていない。
今日のは本当に不意打ちで。
これぐらいですんだのはむしろ幸運かも知れない。






上半身を倒しながらまた鏡にと視線を向ける。

不安定な体はいつからか、その拒絶を瞳にと表すようになった。
気付いたのは力が元通りになってからだった。




「赤と青の秘石ってそんなに仲わりーのか?」
少しくらい優しくしろってんだ。
この体で、俺がその力を使おうとすると現れる。


「秘石な事は変わりないんだからよ……」


精神の動揺でも現れるそれは、本当にそれだけか怪しくて。
何処か引っかかりを感じている。





「まさか……………な」











ボロボロと零れる涙。
泣きたいときには出ないクセに、こう言うときばかり。
やっぱり嫌いだ。











こんな身体。











捨てられないんだけど。











「………………会いたい」
そう届いたら、馬鹿にされるだろうか。











「大人ってのは弱いな…………」
弱いクセにそれを隠そうとするから。
君のために強く在りたい。
そう思うことが弱いのだと、笑われるだろうか。
俺は俺だと、泣くのが何が悪いと。











「…………なぁ……」
まだその名前を口にするには、自分が情けなさ過ぎて。











ただ、涙が止まらなかった。



















































「心配されっかな」
ガンマ団本部の廊下を歩きながらシンタローは一人ごちる。
あのままあの部屋にいたらいつ部屋の主が戻ってくるかわからない。
静かに部屋を抜け出して、ガンマ団にと戻り総帥室で書類を捌いていた。
朝方まで仕事をこなし、夜が明け始めたところで仮眠でもするかと部屋を出た。






「シンタロー」
「お、珍しいな一人か?」
不意に背後から声をかけられて、振り向けばそこにはシンタローの姿があった。
いつもグンマと一緒なので一人の姿は割と違和感がある。
こんな朝早くから居る方が変なのかもしれないが、研究者な二人は時間帯に無頓着であった。
話しかけられたことも特になく、思えば帰ってきてから二人だけで対面するのはこれが初めてかも知れない。


「…………………………」



そして、話しのとっかかりが何もないことにシンタローはまた初めて気付いた。

島であったときは思いっきり敵対視されていたし。
それっきりまともに話したことなぞない。
なんだか気まずくなってしまったシンタローに気付いているのか、シンタローはあの表情があまり変わらない顔でシンタローにと近づいてきた。



「シンタロー」
「…なんだ?」



真剣な声音にシンタローも自然気を引き締める。
なにか大事でも起こったのだろうか。



「今暇か?」
「はい?」



予想と違ったシンタローの言葉に、シンタローは思わず間の抜けた声を出す。
しかしシンタローは特に気に止めた様子もなく、又同じ問いを口にした。



「暇か?」
「………仮眠しようかと思ってけど」
「そうか、良しつきあえ」
「はぁ!?ちょっ、待てって!!」



いきなり腕を引っ張って歩き出すシンタローにシンタローは慌てた声を出す。
しかしそんなシンタローの声にもシンタローは全くお構いなしで。
スタスタと歩を進めていく。



「仮眠取るって言っただろ!?」
「仮眠なら寝なくても良いだろう。俺も研究に集中すると3日くらい平気で寝ない」
「………あのなぁ……」
「いいから付き合え」
「…………どこにだよ」


どうも話しが噛み合わない。
おまけにどんな論理を持っているんだか知らないが、きちんと睡眠と言えば良かったのだろうか。
シンタローはそんなことを思いながら、仮眠を諦める事にして口を開いた。



「特訓」
「はい?」



またもや意外な答えに、間の抜けた声を出しながらシンタローは廊下を引っ張られていったのだった。




























「組み手で良いよな?」
「ああ」
「じゃ、ガンマ砲などはなしって事で」


ヒュッ。


軽く床を蹴って間合いを詰める。
手始めに出した蹴りはブロックされ、間合いを取ろうとする前に鋭い突きが来た。
その突きを逆に掴み、こちらに引き寄せる形で間合いを詰め突きを繰り出す。
しかしそれは寸でのところで交わされ、振り上げられた足に崩された。
重い痛みに、掴んでいる腕の力が緩み外される。
遠く取られた距離に二人は体勢を元に戻す。


「研究ばっかの割にはやるじゃん」
「お前もデスクワークばかりだから鈍ってると思った」
「………そこ狙ってたわけ?」
「いやそう言うわけでは……」
「………まぁべつにいいけどっよッ!」


ガッ!!
鈍い音。
ガードはされてしまったが、ダメージはあるだろう。
しかしそんなことは微塵も見せず負けじと蹴りが入ってくる。


次々と出される攻撃をお互いに交わしながら、しかし着実に相手にダメージを与えていく。



15分ほども経ったであろうか。
お互いに短期決着型である。
あまり長い時間では、体力が持たないわけではないが集中力が途切れる。
使う技が技だからなのだが、今回はそれを使っていないとは言え組み手は瞬発力がいる。
伝う汗が床を叩く。
互いににらみ合いながらいつ仕掛けるか軽く床を踏みならして。


大分息の荒い二人は同時に床を蹴った。





「………参った」
長い黒髪を束ねていたゴムは切れてしまったが、シンタローの繰り出した蹴りは相手の首もとギリギリで止められており、まともに懐に入られてしまったシンタローは届きはしたものの致命傷にならなかった突きを広げて降参の声を上げた。













「やっぱりお前の方が上か…………」
「いや力的には互角だろ。ただ俺の方が圧倒的に実戦の数が多いってだけ」
「そういうものか」
「そうだよ、実戦と訓練じゃやっぱちがうからな」
シンタローは床に座り込みながら、ばらけた髪を高めの位置で一つに束ねる。
差し出されたドリンクを受け取りながら、シンタローの言葉に笑って見せた。
「しかし前にも負けたしな、やはり悔しい」
「んー……でもあれ途中までお前の方が優勢だったろ?しかも勝ったとはいえ俺だけの力じゃねーしなぁ……」
「秘石か?」
「秘石って言うかアスって言うか」
言いにくそうに口ごもるシンタローに対しシンタローはスパッと言葉を吐く。
そんなシンタローにシンタローは調子を崩しながら困ったように缶を煽った。
「それもお前自身の力といえば力だろう?」
「そうかねぇ……あのままいってたらお前殺してただろうし。それは俺の意志じゃないからやっぱ違うような」
「そう言えばそうだったな」
「……わすれんなよ、割と重大だろ?」
「今げんにこうしてここにいるしな、あまりこだわっていない」
「そ、か」
何とはなしに二人して黙ってしまう。
ストレートなシンタローの言葉は飾り気がないぶん、本当のことしかない。
気温が上がり始める時間帯。
暑さがじっとりと身体にまとわりつく。


「べとべとで気持ち悪、早く風呂はいらないとなー」
「でもこの時間ここのシャワー室って電源落としてないか、確か経費削減で」
「いや上のシャワーブースは24時間体制だよ、俺みたいのいるからそうしちゃった~」
「お前それ職権乱用じゃないか……?」
「総帥だし?」


からからと笑うシンタローに、シンタローはすっと腕を伸ばす。
額に張り付いている黒髪を梳いてやると少し驚いたようなシンタローの顔。
「………邪魔じゃないか?」
「髪か?」
「ああ」
「切ったほうがいい?」



にっこり笑ったシンタローに、シンタローはまた妙な引っかかりを感じた。
「いや、お前が邪魔じゃないなら別に……」
「ま、邪魔って思うことも結構あるけどさ」
「なら」
「ジャンと見分けつかなくってもいいわけ?」


それに長いの気に入ってるしな。
笑みを崩さないシンタロー。
その顔にシンタローは少し眉を顰めた。



「ああそう言えば……」
同じ顔だったな、と今更のように言うシンタローに、シンタローは思わず脱力した。
「……お前、俺よりあいつの方が合う回数多いんじゃねぇの?」
「そうだが印象はお前の方が強い」
印象が強いというか。
なんだか釈然としない物を感じながら、高くなってきた日に目を細めてシンタローは立ち上がった。
「シャワー浴びるわ……」
「ああ、俺も行く」





『シンタロー』


シャワーブースの戸を開けながら重なった声に思わず顔を見合わせる。
「………ややこしいよな実際」
「別に俺は構わないが……」
「どうせならお前、高松命名のキンタローでどうよ?」
「それはイヤだ」
キッパリと主張するシンタローに、シンタローは苦笑を禁じ得ない。
「ま、そうだよな」
そう言ってシャワー室へ入ろうとすると、シンタローがその肩を掴んだ。
どうした、問おうとした言葉はシンタローの真剣な表情に呑み込まれて。





「分かるぞ」





「え?」
「髪を切ったって、俺はお前が分かる」














「でも似合ってるし確かに切るのは勿体ないな」


















微かに笑って、シンタローは先にシャワーブースへと入っていった。
ざーっと聞こえてくる水音に、残されたシンタローはずるずると壁伝いにしゃがみ込んだ。
シンタローの言葉に顔は真っ赤だろう。

「…………初めてかも」

この髪を、褒められたのは。
それに。







「あーもう、俺のこと嫌いだったクセに」
勿論その理由は自分がよく知っているが。
こうでも言わないと顔の火照りはとれそうにもなく。
また目の奥が熱くなる。
けれどこれは、いままでのようなものじゃなくて。



「………馬鹿じゃねーの」
男を褒めてどうするよ。


いま鏡を見たら真っ赤な目をしてるんだろうなと思っても、ぼやける視界をどうにかしようとは思わなかった。




















--------------------------------------------------------------------------------

ややこしいわ。
やはりシンタローさん(黒)とシンタローさん(白)を同時に出すのは難しかったですか。
シンタローがシンタローでってどっちがどっちだよッ。
一応区別は付くかなーと……、思って、いるんですが……。


ルー兄再び登場。
シンタローさん(白)も予定通り出ました。
シンタローさんとシンタローさんって同じ体にいたわけだから双子見たく考えても良いかなーってずっと思ってたんですがどうですか駄目ですか。
そしてもってシンタローさんは目が青くなるらしいです。
ラストにちょこっとありましたが赤くもなるようです。(これは意味合い少し違うけれど)
さんざん勿体ぶってた捏造部分ですがいざ書いてみたら勿体ぶる必要…あったのか。
一通り出したい人物は出したかな……サービス叔父は名前しか出てないが。
ハーレムさん出番ですよー(多分)。





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