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いつだって俺は。





自分のことしか見えてなかったんだ。









Doppel
OtherAct 雪の降る音

















どうしようもない喪失感。
突如襲われたその不安定な心持ちは、俺の物ではない。





「ハーレム………?」




絶対、何かあった。
この感が外れることなどありはしない。
走り出した際に散らばった書類を気に止めることもなく、研究室を飛び出した。













「ハーレム」
「……お前か」


ハーレムはシンタローの姿を見てあからさまに顔を顰めた。
怒りの空気がまとわりついているハーレムの周りに人は見当たらない。
このまま誰にも会わずに出て行ければ楽だったのだが。
特に、この男には会いたくなかった。


「お前シンタローに何をした?」
「何もしてねぇよ。話をしてただけだ」
「………それだけじゃないだろう」


嘘だ、とは否定しない。
桜の花のことは聞きもしない。
シンタローは、シンタローに関して妙に勘がいい。
勘がいいとは少し違うのだろうが、何故か誰よりも早くその異変を嗅ぎつけるのだ。
そう、それを強く感じたのは一月ほど前のこと。
シンタローが倒れたとき、この男はその場にいなかったにも関わらず素早くその状態を把握していたのだった。
そんなことをハーレムがつらつらと考えていると、シンタローが強く睨んでくる。
淡い金髪に薄い青。
…………いつも淡い笑みをたたえていた、自分の兄が被る。


「話した内容は話さなくても良い。けど、お前は一体シンタローに何をしでかした?」
「矛盾してねぇか?まぁ別に構わねぇけどよ……、しでかしたってのは人聞き悪いな」
「…………そうでもなければ、なんだって言うんだ」


ハーレムが出ていく前よりも強いこのざわめきは。




知らず握りしめていた拳が、震えだす。





「ま、確かに仕事を増やしてきたけどな」
「ハーレム」
「黙っててもすぐ分かることだし言っておく。俺、ガンマ団抜けるわ」
「……………何?」


呆然としたシンタローに、ハーレムは淡々と続ける。



「あいつの考え方は理解できねぇよ。本気で。……理解したくもないけどな」
「お前自分が何言ってるのかわかってるのか?」
「俺よりそれはあいつに言えよ。あいつこそ何言ってるのかわかんなかったよ俺は」
「シンタローは、お前のことを」
「あいつは……少しは思い知った方が良いんだよッ……、何も見えちゃいねぇ」
「…………………それは」



ハーレムの独り言のようなその言葉。
シンタローも薄々分かっていたことで。
けれど肯定は出来ない。
否定はもっと出来ない。
何も見えていないわけではない。
けれど見えなくなっている物が多いのは事実で。
でもそれを彼は決して分かっていないわけじゃないのだ。
だから手に負えない。
手を差し伸べようとすれば何でもないように振る舞うから。



「けど、今のシンタローはっ………!!」
「いいじゃねぇか俺がいなくなっても。衝突しまくりだし命令違反しまくりだし誰もおかしくは思わない。総帥の面子は保てるだろうよ」
「俺はそんなことが言いたいんじゃない!!」



総帥の立場とか体裁とか。
そんな物より、俺が大事なのは。




「………欲しがれば良いんだよ。辛くて苦しくて支えが欲しいなら、望めば良いんだ。振り払うことまでは、しやしない」





「そうじゃなくて……!!」
「話しすぎたな、お前が納得できなくても俺は止めるって決めたんだ。口出ししても無駄だ」
小さく舌打ちをしたハーレムは、シンタローの様子を一瞥して踵を返した。
いなくなる。
ハーレムが去ってしまう。




「ハーレムッ…………!!」




「……………お前等はホント手に負えねぇな」
溜息混じりのその言葉に何が含まれていたのだろうか。
表情が伺えず、それ以上呼ぶことも出来ず。
シンタローはハーレムの背が小さくなるのを、ただ見送っていた。





ハーレムの意図が分からないわけじゃないのだ。
ただ。
その意図を、彼は気づけない。
自分が気づけても、彼は気づけない。


「あんな状態のシンタローから、離れたら」


何があったかは分からない。
けど、ハーレムはどのように別れたかくらいは見当が付いて。







「見限られたとしか、思えないだろう………?」
例え貴方が別の考えを持っての行動だとしても。
それに気づける彼ならば、貴方をそんな風に動かしたりしないのだ。



「シンタロー……」
くしゃりと右手で髪を掻き上げながら、自分ではどうしようもない事態に。
臍を噛んだ。






















































どこまでも白い。
白い冷たい世界が広がっている。
数メートル先でさえ降り積もる雪で見えなくて。
吐く息が白く溶け込む先を、厭きることなく眺めている。



もう、二年目が終わろうとしていた。
ハーレムが去ってからあと少しで一年。
忙しさは増したが、それはそれで構わなかった。
他のことに没頭していればその間は思い出さなくてすむから。


相変わらず進歩がない。


自嘲気味に笑おうとするが、寒さで顔の筋肉が麻痺したように思うようには動かなかった。





キン、と張りつめた空気。
思い切り吸い込むと、体の中から浸透していきそうなその冷たさ。
少しのぼせたような身体には丁度良かった。


雪深い北国。
説得を手こずっている国へ総帥自ら足を運ぶ。
それは他の組織はどうか知らないが、ガンマ団では当たり前のことだった。
下手に小隊を送り続けるよりも早くすむ。
それは……自分が決めた『殺すな』という組織の在り方のせいでもあるから。


乾燥した唇を噛みしめると、僅かに錆の味がした。


この決断を悔いたくはない。
今更悔いたら、この二年間はいったい何になるのだろう。
自分の命令ひとつで、消えていった者達は。










想像してたよりも深い雪と、冷え込んだ空気は艦のエンジンにダメージを与えた。
このまま動かし続けるには流石に不都合が生じる。
一端メンテナンスの時間をとると同時にシンタローは、艦外へと足を運んだ。
まわりの物は誰か護衛を、と何度も言っていたがここにいる誰よりもシンタローは強い。
それに、自分の我が儘で外に行くのを付き合わせるわけにも行かなかった。
この間にしっかりと体を休ませて置けと言うシンタローに、団員はそれでもなかなか首を縦には振らず最後は総帥命令といって今に至る。




突き刺すような寒さは作業を手こずらせるだろう。
辺りが山で囲まれているというのがかろうじて分かるそこは、次から次へと降ってくる雪で本来の形が覆われていた。
足跡を付けてもすぐに大きな雪の粒が埋めていく。
あまり離れると艦は簡単に見えなくなってしまう。



ざくざくと雪を踏みしめる音以外、何も聞こえない。
まるで全てを隠してしまうかのように。
ここは、雪が抱き尽くしていた。
見上げれば降り積もる雪に、逆に空に吸い込まれていきそうで。

手を伸ばせば、限りなく高い空に届かないことを知る。




音もなく降り積もる。
立ち止まれば唯一の音源は無くなり不可思議な感覚に陥った。
自分だけが取り残されたような空間で考えることは、やっぱりあの男のことだった。
どうしようもなく捕らわれて。
思い出したくないことばかり、頭によぎる。



『私はお前の父ではない』

初めての拒絶の言葉。
不意に思い出されたこの言葉に、息が詰まる。
まだ、まだ気にしているのか。
己自身の思わぬ動揺に、それこそ狼狽えてしまった。

自分の正体が何者か。
そんな混乱の最中だったからだろうか。
余計に、苦しかったのだ。
伸ばされていた手を、取ろうとした直前に振り払われてしまったような置いてけぼりの気持ち。
恐れていたことが、現実になってしまったその瞬間を。
多分生涯忘れることは出来ない。








「…………いや、いつか忘れるかもな」



結局はどこまでも人間なのだ。
長い時間を経ていけば、それはどれもが思い出になって記憶から薄れていくだろう。
それがいつになるかは分からないけれど。



発した言葉は響くこともなく、雪の中に消えていった。
吹雪でもないのに目の前を覆い尽くす雪。
その存在感は圧倒的だ。
思い立って、手袋を外した手に雪をひとつ落とせばそれは簡単に溶けてしまうのに。
降り続ける雪は逆に己を隠してしまいそうで。





白銀の世界の中、一人だった。














「―――――――戻るか……」
流石に冷えきってきた。
また、倒れたりしたならどうしようもない。
この白い世界にいるのは割と心地よかったのだが。
漆黒の髪に張り付いた雪を落としながら、踵を返した。
さくりとした雪の中を進むのはなかなかに難しい。
幾度か足を縺れさせそうになりながら、艦に戻っていくそのときだった。







「――――――――ぶえくしゅッ!!」






「――――――――何だぁ?」
いっそ別世界のようなそこに突然入ってきたくしゃみ。
その間抜けな音に、シンタローは思わず後ろを振り返った。
普通なら警戒するとこなのだろうが、聞き覚えのある声で。
考え事をしていたとはいえ、気付かなかったから殺気もない。(確かに殺気を消すことも出来るだろうが、それならばとっくにアクションしていてもおかしくない)
辺りは相変わらず雪のせいで視界が悪かった。
それでも目を凝らしてみれば、数メートル先に人影が浮かびあがる。



「ミヤギ!?お前いったい何を………」
「それはこっちの台詞だべ」




ずずっと鼻を啜りながら近づいてきたのは、肩書きとしては総帥直々の部下。
ガンマ団幹部の一人。
シンタローの大事な仲間でもある、ミヤギだった。
総帥と幹部が同じ目的のために一緒に出かけると言うことは少ない。
戦力の分散から言って、シンタローを含む五人は大概バラバラなのだ。
今回はたまたま居合わせたミヤギに、急ぎの仕事もなく向かう国が北とあって連れてきたのだった。
もしものときに今回シンタローの眼魔砲は出しにくい。
地の利は向こうにある上に、この雪では自分たちにもダメージがあるだろう。
ミヤギの武器は、接近戦でなければいけないが一番平和的に戦える武器でもある。
そのことを考慮に入れて、連れてきていた。


この深い雪の中を器用に歩きながらミヤギはは近づいてくる。
金髪碧眼、整った容姿にはてしなくギャップのあるばりばりの東北弁。
元々白い肌はこの寒さのせいか余計に白くなり、色が悪い。
頭の上に積もった雪が、更に寒々しさを増していた。



「あー……しゃっこえーなー……」
「すまんわからねぇって言うかお前こんなになるまでいったいなにしてんだよ!」
「総帥の護衛だべな」
「…………俺護衛いらないって言っておいたんだけど」
「そんなこと言ってもな、おめさんはやっぱり総帥なんだしそういうわけにいかねぇべ。それにオラはそれ聞いてないしな」
しれりと何でもない風に言うミヤギの鼻が赤い。
自分が出ていってすぐに後を追ってきたのだろうか。
近づいただけで冷気がひやりと伝わり、その体が冷えきっていることが分かる。
軍服の上にコートすら着ないで、かろうじてマフラーは巻いているが手袋はしていなかった。
「お前はあほか!?こんな冷えきるまでこんなとこいるんじゃねーよ!」
「………それそのままシンタローにけぇすべ」




指さしで思い切り怒鳴る声もこの雪の中では、かき消されてしまう。
そういうシンタローの顔も十分に白く、黒髪の対比で蒼白にすら見えるぐらいだった。
そもそも冷えきるまで外にいたのはシンタローも同じで、この寂しい場所で彼は一体何を考えていたのだろうか。




「こんなに雪が降り積もってるべな」
「………お前もだって言ってんだろうが」
肩に積もった雪を振り払うミヤギの手の動きが固い。
シンタローも頭に積もった半溶けの雪を払ってやりながら不意にその手を取った。
………………激しく冷たい。
「あんだべ?」
「……………どうしたらこんな冷たい手になるんだよテメェは」
「シンタローもしゃっこえぇべ」
「俺はいいんだよ」
「それならオラも別にいいべ」
「…………………」

こんな不毛な会話を繰り広げているだけでも、雪はどんどん降り積もっていく。
シンタローの憮然とした表情に、ミヤギはふっと息をもらした。


「あんなぁシンタロー」
「んだよ」
「オラな、雪を素手で触るの好きなんだべな。手袋とかしてると上手く雪で遊べないべ?さっきもなぁ、シンタローがぼーっとしてるときずっと雪いじってたんだわ」
「………………………」

そういってミヤギは不意にしゃがみ込み、足下の雪を丸く形作っていく。
どこから取ってきたか分からない赤い木の実と、緑の細長い葉。
それをその雪の固まりにくっつけて、掌サイズのそれをずいっとシンタローの目の前に差し出した。
思わずその雪を受け取れば、ミヤギは満足したように一人頷く。
「……なんだこれ」
「雪ウサギ。シンタローが、ぼけっと雪眺めてる間にいくつも作れたべ」
「ぼーっとっていうなよ!」
「端から見れば考えごとしてるのもそれもあまり変わらねぇよ」
そういって、笑うミヤギの顔は何を考えているかよく分からない。
いきなり突きつけられた雪ウサギなるものも、どうしてそれなのかよくわからない。



「………こげに寒い場所でぼーっとしてるんは、オラみたいに雪で遊ぶ、とかこの冷たさを楽しむ、とかそういうきちっとした目的がねぇと体によぐねぇからよ」
「目的って……」
「だってシンタローはここにいたけども、違う場所におるんだもん」
自分の台詞に自分で首を傾げながら、ミヤギは笑う。
シンタローはそのミヤギの言葉に思わずどきりとした。



なにかとても、図星を突かれたようで。
その図星がなんなのかは分からないのだけど。




「そげなことしてたら心まで冷たくなってしまうわぁな」




そういってミヤギはまたひとつ、雪ウサギを作り上げる。
シンタローから先程渡した雪ウサギを取り上げて、その隣にと寄り添えた。



「何にせよ体にワリィのは事実だからな、早くみんなのとこ戻るべ」
「――――――ああ」
すぐ雪に埋もれてしまうだろう雪の造形。
それを嬉々として作ったミヤギは、シンタローの背中を押して艦へと促す。
その手に逆らうこともなく足を進めはじめれば、ほわっと暖かい物が首筋に触れた。


「ッなんだぁ!?」
「トットリから預かってきたんだべー、渡そうと思って実は追いかけてきたんだけんどもがよ。話しかけるにかけれねぐて」
驚いて振り返ったシンタローの手に渡された物は、小さな金属のケースだった。
見慣れないそれは、振ればカタカタと僅かに音がする。
「………これ、何だ?」
「ん――、ホッカイロみてぇなもんでねぇかな。中にそれ炭が入っててな、あったかいべ?」
「ああ………」

確かにそれは、じんわりとした温かさが心地よい。
冷えきった指先にも熱くは感じず、ゆっくりとそこから解けていくようだ。



「寒いだろうから気をつけぇだとよ。それ炭さえ入れ替えればなんべんも使えるしな」
「炭って……そんなのどこに」
「艦に置いてきたけど持ってきてっからな、アラシヤマでもおれば完璧だべな」
そういって歩き始めたミヤギの背を、二、三歩遅れてシンタローも歩き出す。
トットリの心遣いを握りしめて、シンタローはほぉっと息を吐いた。
思っていたよりも体は随分と冷えていたようだ。
こうして、温かい物に触れるとそれがよく分かる。


「……後でトットリに礼を言わないとな」
「そうだべなー、そんならアラシヤマとコージにもいわねぇと駄目だけどな」
「え?」
「預かりもん、まだあるんだべ」
そういって前を歩いていたミヤギは振り返り、シンタローに向かって何かを投げた。
それは軽く弧を描いてシンタローの手の中にと収まる。


「………お守り?」
「アラシヤマからだべ。何か中にはいっとるような気がしたけども…」
流石に自分が開けるわけには行かないから、とミヤギが言うのを受けてシンタローはようやく暖まった指先でその紐をほどいた。
そこに入っていたのはおきまりの小さな板と、布きれだった。

「お守りだからこっちの板は分かるとして、こっちの布は……」
「発火布でねぇか?確かシンタロー様がつくっとった覚えがあるけども」
「………なんかお前に様って言われるの、すげー寒い」
「おめさんのこと言ったんでねぇよ。寒いならそれ燃やせばいいべ」

意味が違う。
ミヤギの指摘を受けて、よく見れば確かにそんな気がしてくる。
以前グンマがそんな話しをしていたことが思い出された。


「………やっぱあいつすげーな……でも雪の中でも効くのか?」
「無能かもな。だけんどもアラシヤマは、よくもらえたなぁ。シンタロー様なら直接シンタローに渡しそうだのに」
「遠征の準備でなかなか会えなかったんだ最近は……。お前こそよく預かって来れたな」
「オラが一緒行くってどこからか聞いたらしくてな、チョコレートロマンス通じて持たされたわ」
「………………そこまでして」


苦笑を称えるシンタローに、ミヤギはほんの少しばかり眉を寄せた。
ざくざくっと雪を踏みしめてシンタローの目の前にと立つ。
そんなミヤギにシンタローは少々呆気にとられていれば、眼前にびしっと指を突きつけられた。



「みんなおめさんが心配なんだべ!今回はたまたまオラ一緒に来れたけども、もしおめさん一人だけだったらぁ、こげとこで………体さ暖めることもなく一人で冷えとったんでねぇのか…?」

最初は勢いの良かったミヤギの言葉は、最後には雪にかき消されてしまった。
伸び始めた髪が俯いた彼の表情を隠す。








雪が。
雪が降り積もる。
容赦なく降り続ける雪はあっという間にその姿を隠そうとして。
追いかけても追いかけても手が届かない。
――――――悔しい。
どうしてこんなにも。
距離が遠い?








「ミヤギ、」
「わかったら!早く戻るべまた冷えてしまうでねぇかっ」
シンタローが手を伸ばそうとしたときだった。
黄色の頭が勢いよく起きあがり、顔を赤くしたミヤギが怒ったように口を動かした。
シンタローのその勢いに押されて頷けば。
彼はすぐに笑顔にと戻った。


「分かれば良いんだべ」
「―――――――てめ、もしかして憚ったか?」
楽しそうに笑うミヤギに、シンタローは思わずはっとなる。
拳をわなわなと震わせれば、彼は急ぎ足で艦にと向かっていった。

「おいミヤギ!」
「早く戻るべな~、メンテナンスもおわっとると思うんだけんども」
シンタローの怒声もどことやら。
さくさくと雪の中を進む彼は、大粒の雪を楽しそうに掻き分けていく。


追いかけるように進んでいけば目の前には、艦の影が見えてくる。
後もう少しで着く、というときだった。
目の前のミヤギは不意に、消えてしまった。



「ミヤギッ!?」
「――――――――……」
シンタローが慌てて近寄れば、そこには雪に埋もれた彼の姿が。
僅かに高低差のあるそこは雪のせいでみえなかったのだろう。
そのまま足を縺れさせてその勢いで雪にダイブしてしまったらしい。
心配したシンタローは雪に倒れ込んでいるミヤギの姿を見て、笑った。



「俺を憚ろうなんて考えるからそんな目に遭うんだよ!」
「……性格悪いなおめさん…」
雪に突っ伏していたミヤギは、シンタローの笑い声に体を反転させる。
シンタローが涙目を浮かべながら笑うのを確認してぽつりと呟くが、ミヤギもやがて口の端を上げた。
「とりあえず起こしてくんろ」
「総帥使って起きあがるなんててめーしかしねぇだろうな……」
差し出された掌。
雪に座り込んだままのミヤギを腕を取って起きあがらせてやれば、彼はなんだか嬉しそうにシンタローを見やっていた。


「――――――なんだ?」
「おめさんはやっぱりそげな顔しとる方が、いいべ」



ぱたぱたとあちこちに付いた雪を払いながらのミヤギの言葉に、シンタローは思わずきょとんとする。
ちょいちょいとミヤギが手招きするのに従い目の前に立ってやればさらに手で指示された。

「……少しだけ頭下げてくれねっがな」
「ああ?なんなんだよいったい」
ミヤギの要望に、シンタローは首を傾げつつもその通りにしてやった。





吐く息が白い。
しん、としたこの空間で眼前にはいるのは雪ばかりだと思っていたのに。




――――――頭を撫でられる感覚に、シンタローはバッと顔を上げた。




「……撫でにくいんだけども」
「そうじゃなくて、」
「これが、コージからの預かりもんなんだべ」
「………はい?」
「『気ぃ張りすぎるんじゃねぇよ』だと。オラが撫でれば意外性で驚くから丁度良いっていっとったなぁ」
「……あの野郎……。お前も律儀に……」


なおも頭を撫でようとして、けれど雪を振り払うだけに留まってしまったミヤギはシンタローの髪を梳いた。
冷たいのだろう。
けれど己の掌も同じように冷えきってしまっているのでよく分からない。
感覚のない手で撫ぜているとシンタローの呆けた顔が、赤みを増した。



「えーとな……まぁ役に立ってるかしらんけど」
僅かばかり眉を下げて、でも口元には笑みをたたえて。
ミヤギは口を開く。





「俺等はここにおるからな、」







耳に痛いほどの静寂。
こんな近い距離でも、雪がそれを見にくくする。
降り積もる雪は音を閉じこめて。
いつの間にか、己の心すらも。








「あ、催促きちまったが」
不意に訪れた軽い電子音に、ミヤギはイヤホンを取りだし口元に近づけた。


「ああ、今戻るべ。何も異常ねぇから安心さしとけ。うん、もう目の前だぁ」
『―――――……』
「わかっとるって、――――ああ、うん」


シンタローからには流石に相手の声は聞き取れない。
ミヤギの言葉からして、艦に戻ってこいと言うのだろう。
連絡が終わるのを待たず、シンタローは歩き出した。



「あ、シンタロー、おめッ!――――ああ、なんでもねぇって。すぐ戻る」
先を歩き始めたシンタローを、通信を切ったミヤギが追う。
後ろから来る足音に追いつかれないよう、シンタローは早足で歩く。








だってこんな情けない顔、見せられない。
自分のことに精一杯で。
差し伸べられる手にも気付かないで。
選ばなきゃいけないだなんてそんな固定観念に縛られて。








「―――――……今なら少しだけ分かるよハーレム」
貴方が言いたかったこと。
それでもやっぱり離れることを選択することは出来ないけど。






だけど。






「ああ?なんだべいったい」
「聞こえなくていいよ」
うっかり漏らしてしまった声は、この静寂の中聞き咎められるかと思ったがそれは杞憂だった。
本当にこの雪は音と言う音を包み込んでしまうらしい。
雪をしっかりと踏みしめていれば、後ろからはのんびりとした声が聞こえてくる。


「本当に、やかましいほどに降っとるからなぁ、声が聞こえにくくって仕方ねぇべ」
「――――――…やかましい?」
意外なミヤギの言葉にシンタローは思わず立ち止まり、振り返った。
制服のポケットに手を突っ込んだミヤギは、振り向いたシンタローに首を傾げてみせる。


「どしたべ?」
「だってお前、こんな静かなところのどこがうるさいって……」
「…………聞こえんか?」





「雪の降る音。故郷じゃあ、雪が積もる頃になると、聞こえたべ」









よく小説とかで雪がしんしんと降る、なんて描写があるけれど。
雪が降るのに音なんてないと思ってた。
その張りつめた空気などで雪が降り積もった朝は分かったものだけど。







「変な特殊能力持ってるな…………」
「そうだべかぁ?ん――――、ま、いいべ戻るべ」
鼻の頭を更に赤くしたミヤギは体を縮こませながらまた歩き始めた。
シンタローもその後ろをすぐに歩き始める。





雪の降る音。
今まで気付かなかった、その音。
この雪独特の気配をそう呼ぶのだろうか。









「……気付かなかったな」
「ん?そうかぁ?気にすることはないべ」
「ああ………でも、気付かなかったんだ」












これだけ近くにあったのに。
これだけ長く過ごしてきたのに。
ねぇ、気付いてなかったよ。









「気付いてなかった」









いまだ深い棘を抜くことは出来ないけど。
この脆さに、多分耐えることが出来なくて目を知らず逸らしていた。
全てを受け入れられない。
けれど受け入れるべき物も排除してたのではないか?


けっして問題と向き合ったわけじゃない。
向き合えるほど強くない。



ああだけど。







俺はここに一人じゃない。















吐く息が白く、雪の中に溶けていった。

































--------------------------------------------------------------------------------

幕間なのでいつもよりライト風(そうか?)。
はい、今回頑張った刺客ズはミヤギです。つかすげーでばりましたな!
この人(とトットリとアラシヤマ)は、実は1話以降出ても名前だけという扱いでした。
………コージは出してたんだけどね?
シンちゃんに少し吹っ切れる要素が欲しいなって話です。
幕間なのでどっちかって言うとまわりがメインか?いえその割にはポエ夢ってますが。
なんでミヤギかって言うとまぁ私が好きだからってのもあるんですけど(さりげに名前出る頻度が高い)、こういうのはミヤギが一番あってるかなーと……私は思ったんですよ。
コージは大人だから見守ることが出来るのです。
シンちゃん(白)は分かっているから口に出せない。
アラシヤマは口を開こうとは思わない。
となるとトットリととミヤギが残るんですけど(消去法か!)(違いますけどね)トットリの忍者という設定を最大限に妄想すると(大得意ですよコレ。作ってあるし)…この場合トットリは、傍観者に回るかと。
ミヤギは言えるんですよ。言える何かを持った子(子ってあなた)だと思うんです。
見てるだけに徹することが出来ない(くしゃみでばれてる間抜けさな)、少し的を外れた言い方だからシンタローさんは気負わなくてもいい。でも決して本質は外していないから……。
…………ってのが書きたかったのですが、なんか書ききれなくて最高に解説しまくりですな。
その解説すらもわかりにくいってなにさ。
鈍すぎるシンタローさんはシンタロ-さんじゃねぇだろって事で。(あれだけまわりが考えていて何の反応もないシンちゃんは嫌だ)

次からガンガン追いつきますー。多分。
03/8月号辺りかな?その辺からです。
シンちゃん出てないところからは流石に書けないので。
ようやく空白の四年間は終わりですねー。すげーとびとびですけど。
どうぞお付き合いしてやって下さいませ。





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