四年経った。
総帥としての俺のペルソナはすっかり定着して。
今日も貴方との距離を測る。
ねぇ。
時が来たようだ。
Doppel
act11 そして始まる君の物語
「あー……、きたか」
すとんとそれは俺の中に落ち着いた。
いつくるか、総帥になってからの四年間その日を迎えることにどこかで怯えを感じていたと思う。
無論それを知るものは少ない。
いない。と言いたいところだが、いかんせん不都合な体は時々主の感情を無視するのだ。
しかし訪れれば簡単に受け入れることが出来た。
ああ、こんな物なのかと。
始まる前は、どうにかしてそれをくい止めることは出来ないかとゼロに近い可能性に縋ってしまうけれど、いざ動き始めてしまえばもうその流れにのるしかないのだ。
「さて……俺はどうするべきなのかな」
これは君の物語。
止まった時間を動かすための君の物語。
本部へと戻る艦の中。
一人窓辺にと佇んで流れる景色を何とはなしに見やる。
目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
深い蒼にすいこまれそうな空。
白い砂浜にうち寄せる波。
暑さを含んだ空気が頬を撫ぜるのが心地よくて。
「………もう、四年か………」
それともまだ四年だろうか。
あの島ですごしたのは一年ほどだった。
けれど、一生分の輝きを詰め込んだような一年だった。
まだ三十年も生きていない分際で、と言われるかも知れない。
でもわかる。
だってこれから歩いていく道に彼はいない。
そして選んだ道は果てなく続くのに、一緒に歩く人は一人また一人と減っていくのだろう。
これはすでに決められた結末。
「………言える資格ねぇよな」
同じ顔をしたあの男はその中で生きてきた。
幾度の別れがあったことだろう。
けれど決して自らの使命を放棄することはなかった。
たった独り。
何度彼は見送ったのだろう。
どこまでも近いようで、けれどその実遠い存在は。
やはり目の前に在る。
鏡像のように、彼と交わることはないけれど。
その生き様に。
あの男は惹かれたのだろうか。
「俺のが先に逢えてたら……、何か違ったのかな」
何も違わないだろう。
俺はあの男の息子として生まれたのだから。
そしていまがあるのだから。
「どうしようか?」
俺は今すぐ貴方に会いたい。
そう。
今動き出した弟よりも。
俺は今すぐ貴方に会いたいんだ。
「でも……追ってなかったらそれはそれで怒るんだろうなぁ」
あの愛し子を。
今度こそ父親としての役目を果たすと言っていたあの男が、それこそ何の動きも見せていなかったら容赦しないだろう。
傍にいて欲しいのと供に、あの男が一番傍にいるべきなのは弟だと思っているから。
「……………違うな」
自嘲気味に軽く頭を振れば、長い黒髪が静かに音を立てた。
随分と伸びた気がする。
四年間一度も髪に鋏を入れたことはない。
これは俺の唯一の抵抗。
貴方を好きだと思う俺の。
唯一の自己主張。
「あいつを見てもらいたくないのは、変えられないんだよ」
四年かけて納得をさせた。
無論少し揺さぶられれば簡単に零れてしまう、そんな脆い殻だけど。
それでも閉じこめた。
何の解決になりはしないのは自分でも分かっている。
けれど離れられない。
そんな俺の選べる手段なぞ、後は自己防衛に走るしかないだろう。
「―――……無茶苦茶情けないけどな、」
折角あそこに行ったのに。
俺は今でも成長していないんだろうか。
今回呼ばれなかったのは。
ただ単に俺が必要なかったから?
「今度は、お前の物語だ……」
口に出して己自身に言い聞かせる。
彼の物語に、俺は必要ないのだろうか。
それともあの島に俺も行ってしまったら。
――――――――――今更ながらに、選んだ道を違えてしまうからだろうか。
「ありえない。って断言できないところが自分で辛いな」
ふっと、鼻だけで自分をせせら笑う。
そう。
たった一人の男に簡単に揺れてしまう自分は。
それと同じようにあの島に惹かれている。
背負っている物が、あのころとは違う。
四年前に辿り着いたときは、総帥の嫡男という肩書きこそあった物のその肩に負っている物は自分自身だけだった。
けれど今は新生ガンマ団総帥として、自分だけの体ではない。
今更全てをかなぐり捨てることを選ぶほど愚かではない、と思いたい。
ただ目の前にして、誘われないとは言い切れないのが事実で。
「そもそも……あいつにぶっ飛ばされそうだ……」
置いていかれたと思ったのは自分なのだろうか。
あそこで手を伸ばされていれば。
――――――多分、俺が選んだのはあいつだ。
「会いたいよ」
君にも。
貴方にも。
決して交わることのない二つの線。
それがまた交差しようとしている。
「今度こそいっぱい愛されろよ……」
あのどうしようもなく不器用な男は。
さて、どう出るのだろう?
「そろそろ俺も………覚悟決めないとな」
また動き始めたことに、今こそ自分は何も関係していない。
けれどあまり遠くなく、関わることは間違いないだろう。
だって俺は秘石から作られた人間なのだから。
「何を考えている?」
「シンタロー、」
不意に軽い音を立てて開いたドアに、シンタローは己の思考から浮上する。
気配を感じられなかったのは訪問者が消していたからか、それともそこまでのめり込んでいたのか。
両方かも知れないと思いつつ、シンタローは後ろを振り返った。
「ちょっと、これからのこと」
軽く笑みを乗せながら答えれば、そこには少し気むずかしそうな顔をしたシンタローがいた。
多分他の人から見れば、いつもと変わらない表情に見えるのだろうが。
困ったように眉を寄せているシンタローに、シンタローは問いかける。
「どうした?何か変わったことでも起きたか」
「いや……それもある、が……」
こいつにしてはいつになく、歯切れの悪い口調。
思ったことは歯に衣を着せずずばっというタイプだから(それが素なところが恐ろしい)かなり珍しい。
本当に何か起きたのかと、シンタローが表情を固くしたときだった。
目の前に立つシンタローが、ふっと手を伸ばしてくる。
「シンタロー……?」
「連絡が入った。お前には厳重に口止めされている」
何がそんなに辛いのだろうか。
冷たい指先が、そっとシンタローの頬に添えられて泣きそうにその瞳が歪んだ。
「もう、多分知ってるんだろう……?」
その一言で、シンタローは全てを察する。
無論、シンタローが分かったことは漠然とした物だったが目覚めた後の行動くらい容易に想像できている。
けれど、それと今シンタローがこんなにも苦しそうな表情をするのはそんなに関係があることだろうか。
確かに目の覚めぬ弟を気遣っていたし、この男が『生まれた』時に懐いていたようではあるが。
「コタローが目覚めた。それだろうな」
「ああ…、そしてあの島へ向かったらしい」
きゅ、と力無く頬を伝った指がシンタローの服を掴む。
なにを。
何をこんなに不安がっている?
まるで縋るように伸ばされる腕が、目にするのはこの四年の中もしかしてはじめてでは無かろうか。
いつもさりげなくこの男はシンタローの隣にいてくれたけれど。
自分自身はどうだっただろうか。
総帥という役割と。
自分に手がいっぱいで。
当たり前のようにいてくれる存在を。
軽んじてはいなかっただろうか。
必死で伸ばしていなければいつの間にか届かなくなりそうな存在ばかり。
追いかけて。
追いつけなくて。
「シンタロー?」
「………お前が、気に病む事じゃない……」
気持ち声を潜めて呼び掛ければ、少し掠れた声が出た。
自分でも思わぬその声に、シンタローはふるふると首を振る。
「俺が勝手に……揺れているだけだ」
「…………え?」
ポツリと零されたシンタローの言葉。
聞き取りにくかったが、確かに彼はそう言った。
そしてシンタローの胸元に顔を埋めるように、彼は抱きついてくる。
突然のシンタローの行動に、シンタローは戸惑いを隠せない。
なにが、あったのか。
常にないこの男の様子にシンタローはしばし逡巡して、眼下にある彼の肩にそっと手を置いた。
「………少しだけ、このまま」
抑揚のない声で、けれど何処か儚さが含まれる声色にシンタローは何も聞くことは出来なかった。
ただ、微かに体重を預けてくる男をゆるく腕に抱き込む。
自分がそうであるように、シンタローも自分から言わないことは、問い質されても口を開くことをしない。
己がそんなときは、シンタローは少し困った顔をして。
けれど何も言わず隣にいるのだ。
それがシンタローにはいつもありがたかった。
いて欲しいときにいてくれる。
そんな存在が。
「悪い……」
「いや、構わねぇよ」
お前のそんな姿は初めて見た。
そう口に出しそうになって寸前で止める。
多分、こんな事言ったら二度と彼は自分の前で弱った姿を見せることはあるまい。
誰よりも感情を表すのが苦手なクセに、感情を察することは誰よりも得意なのだ。
緩慢な動きで、ほんの少しだけシンタローから離れる。
その温もりが動くことがシンタローに少しだけ寂しさを感じさせた。
「あの男の気持ちが分かった気がする」
そう言って彼は微笑んだ。
微かに、泣きそうになりながら。
でもそれ以上を語ることはしなかった。
「多分今頃本部では大騒ぎだろうな」
「ああそうだろうなー……、絶対あいつ等担ぎ出されてる気がする」
一回だけ俯いて、次に顔を上げたときにはいつもの自分が知っているシンタローだった。
切り替えたように先程の話題を口にするのにシンタローものった。
それとなく背中を押してくれる存在だった。
大切な仲間たちは、一足先に島へ向かっていることだろう。
「いや、向かわされてるって言った方が正しいかな」
「報告、上がってると思うが……」
「あー別に良いよ。帰れば分かることだ」
シンタローが聞いてくるかと目線だけで問うのに首を横に振って答える。
あいつ等なら大丈夫。
なんだかんだで島になじんでいたし、大切なあの子ども達に危害を加えるような真似はしない。
「俺が心配なのは弟じゃなくてむしろ―――……」
「叔父貴か?」
「ぜってぇ怯えてるね。俺の弟への執着は奴が一番知っている」
勿論シンタローだってあの父親が何もしなくて弟が島へ行ったのではないことぐらい分かっている。
その場にいたとしても止めきれなかったとは思うのだ。
秘石の影響を特に受けやすい、両目に秘石眼を持つ弟。
たとえあの男もそうだとしても、本家に勝てるとは思えない。
と、そこまで思ってシンタローはふと気づく。
「そういやお前平気なの?調子悪くしてねぇよな」
「なんだいきなり」
「いやだって」
片目だけ秘石眼であるけれど、例外が一人いた。
目の前にいるこの男は、ずっと秘石の影響下にいたせいかその力をもろに受けやすい。
シンタローはそう考えている。
同じモノを共有していたせいもあるが、自分が秘石の番人なのも関係しているのではないかと思い始めたのだ。
そう考えれば、妙に不安定だったことも納得がいく。
「……別に、おかしなところはないと思うが」
少し困惑気味なシンタローの頭をくしゃくしゃと掻き回す。
自分のことを不器用だとかよく言うこの男も、存分に不器用だと思う。
まだよく分かっていない。
自分のことなのに、理解していないことが多かった。
今ではまだマシだが本当に元に戻った当初は大変だったのだ。
熱があることに気づかない。
眠いと言うことがわかっていない。
そして痛みに鈍感だった。
ある意味、Nopain者であると言っても過言ではないだろう。
勿論感覚はきちんと持っている。
しかし頭で理解しているだけで、それがどういう状態かはよくわかっていないのだ。
「俺の痛みは、俺の物だったしなぁ……」
小さく呟いて、シンタローは改めて目の前の従兄がどれだけ通常とは違うのかを思う。
確かにシンタローはシンタローの中にいた。
朧気ながら、その事実は認識していたらしい。
例えばシンタローがナイフで手を誤って切る。
刃物で傷を付ければ皮膚の下を走っている血管が傷つき血が出てしまう。
それは分かる。
けれど感覚は体がないため分からない。
それが危ないことだとはかろうじて分かるが、どうして危険なのかと言うことを理解していないのだ。
痛いと思えばそのことを人は避けるだろう。
けれどシンタローはその痛いが、傷口と結びつかないのだ。
どういうときに痛いのか。
まだ切り傷かなんかはわかりやすくて良かった。
一回や二回、元に戻ってから経験すれば簡単に分かる。
こうすると痛い。と言うことがすぐに理解できるからだ。
「………分かってても、つい近づちまう場合もあるけどな」
「シンタロー……?」
理解していても痛いことに近づく。
自分の状況はまさにそうではないだろうか。
この痛みは手に負えない。
例え血を流していても、傍目にはそれと分からないのだから。
例えどんなに苦しくても、死ぬことはないのだから。
もう随分と当たり前のようになってしまった自嘲の笑みが知らず浮かんだ。
僅かにシンタローの眉が顰められたことに、シンタローは気づかなかった。
「もうすぐ、着く……」
「そうだな」
「あまり手荒なことはするなよ?」
「さてねぇ………?」
楽しそうにシンタローに笑いかけたシンタローに、ようやくシンタローは知らずつめていた息をそっと吐いた。
やっぱり、重傷だ。
この男の背負っている物は。
シンタローによって乱された薄い金髪に手をやりながらシンタローは心の中だけで呟いた。
お前がいなくなりそうで怖かったんだ。
そう、口に出して言うことは彼の重荷を増させる。
通信室から連絡が入り、一足先に部屋を出ていった背中を見送って。
シンタローは僅かに乾いた目を強く瞑る。
「………本当に、あの男の気持ちが分かる気がする……」
もうすぐ到着するガンマ団本部。
一悶着あるだろう事は想像しなくたって決まっていることで。
「何があってもついていってやる」
一人決意を新たにして。
それでも前に進める彼を、眩しく思った。
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だから。
知られたくなかった。
だから。
必死になっていた?
めぐし子達よ、幾度この手をすり抜けていけば。
かえってくる。
Doppel
act12 だからその手を
「ガンマ砲ッ!!」
容赦のない攻撃に、ガンマ団本部は大きく揺れていた。
道化などいくらでも演じて見せよう。
それでお前が離れていかないと言うならば。
けれど所詮は足掻き。
分かっていたことだ。
あの子が手許から離れていったときから。
この子も島に行ってしまうのだ。
「奪うな」
壊すことしかできない私が。
唯一生み出せたモノなのです。
「頼むから………」
どうかこの手に。
あの子たちを。
彼の人はこんなに脆かっただろうか。
すっかり有り様を変えてしまった辺りを見渡す。
潮を含んだ湿っぽい風が、髪の毛を撫でていく。
次いで舞う粉塵。
からからと砕かれたもとは壁だったものが足元を転がっていった。
「またひどくやったものですねぇ」
かつん、と硬質な音が背後に現れる。
のんびりとした、客観的視点をいつでも崩さない。
科学者としてとても優秀だが、弟のこととなると少し盲目的なところがある。
私に言われたくはないだろうが。
「怒られちゃった」
「まぁそうでしょうねぇ……また修復費がかさみます」
「ハ―レムに出させようか」
「あ、丁度良いですねどうせそちらへ行くことですし」
さらりと吐かれた台詞にマジックは眉をわずかにあげた。
「シンタロ―様が、総帥に言われたと艦の準備を始めていたので。貴方にも報告しておいてくれと頼まれました」
「シンタロ―はあの子と?」
「ええ、彼とともに行くそうです。本来なら残るべきなんだろうと言っていましたが」
空を仰ぎながら高松は細く息を吐く。
「でもシンタロ―さんを止められるのはあの方だけですからね」
色々な意味で。
その台詞に彼も多分、自分と同じ不安を感じてるのだろうと思う。
あの子は島に近すぎる。それを彼は間近に知っている。
「シンタロ―が二人とも留守で特選部隊もいない。その上幹部達まで島か―――、ガンマ団が随分と手薄だな」
「ですね。まぁ貴方がいますし、ジャンとサ―ビスでなんとかなるとは思いますが」
ジャン、高松から出たその名にマジックは目を細める。
「そういえば―…、ジャンは行かないのか?」
「はい?」
マジックの言葉に、高松はまじまじとその黒い瞳をこちらに向ける。
思いもしていなかったらしい問いに、困惑しているようだ。
「あ―…、貴方はある意味当事者ですものねぇ……」
「高松?」
「第三者の方が状況を正確に判断できるという事です」
白衣の裾を翻しながら高松は、マジックの横をすり抜けて部屋(だった場所)の端にと立つ。
眼下の海を覗き込みながら言葉を続けた。
「ジャンは島に未練があるわけではありません」
シンタロ―さんと違って。
振り返らずとも、マジックの顔が歪んだことがわかる。
風だけではない、体を刺すような空気にけれど高松は臆することをしなかった。
「ジャンは自分の意思でここに来たんですよ。島の番人としての役目も存分に理解していた彼が、その島から出てきた」
いまさら―……。ようやく彼は選択出来たのだ。
「帰る理由がありません」
サ―ビスの隣にいることを選んだ、ジャンには。
「ただ、シンタロ―さんも『番人』としての意識はないですからその点では島に惹かれてはいませんよ」
「………それぐらいは、私にだって分かるさ」
島自体への恋慕だったら、こんなにも繋ぎ止めたいと思わない。
「あの赤の少年だろう?相反するからこそ惹かれたのか……」
マジックの言葉に高松もその記憶を思い起こしながら言葉を口にのせる。
「それは違うと思いますけどね」
「それならジャンとシンタロ―さんだってもう少し仲良くったっていいです」
「それは……また違うだろう?」
今度はマジックが高松の言葉に異を示し、それに高松も賛同した。
「ま、そうかも知れないですね」
「しかしあまり仲が良いと言えないのも事実だ。もう少し歩み寄った方がお互い楽だろうに」
似たものをその裡に持っているのだから。
「………―――まさか気付いてないんですか?」
「高松?」
「あの二人は……いえ。シンタロ―さんは」
続いた言葉は海風にさらわれて。
そして、第三者の介入に聞き返すことも叶わなかった。
「シンタロ―様、どうなさいました?」
「…………………」
高松の視線はマジックの後ろに真っ直ぐ注がれている。
軽く床を叩いて青年はその足をマジックへと進めた。
不意な登場に思わず被った。
弟と。
彼は彼が『産まれた』ときからすでに父親より年上だった。
弟の享年は23。
その形から年老いることはなく、そしてそれより年上になったと言っても彼の容貌は弟に瓜二つだった。
「追い掛けてきてくれ」
口数が少ないこの青年は、いつも単刀直入だ。
その分一言一言が重い。
あまり変わらない表情のなか、今は眉間に皺が寄せられている。
「あいつらを追い掛けてきてくれ」
「どういう」
ことだ?
続けようとして、青年を呼ぶ声がそれを遮った。
青年に聞こえないはずもなく、声の方向に一度視線を向けると踵を返そうとする。
「シンタロ―様」
「手を、掴んでやれ」
「グンマももう少しで鑑を完成させる」
いつもの薄い、蒼が。
深い海の色を反射させてどこまでも濃いブルーにと色を変えている。
「それで、貴方も島まで」
「島に……私が?」
潤んでいるように見えるのは。
私の気のせいなのか。
「離したくないのなら掴みに行けばいい」
例えそれがアイツを傷つける結果になろうとも。
それを彼自身が望んでいる。
そこで立ち止まるか突き進んでいくか。
彼の選択だ。
俺が出来るのは。
そのとき見ていることだけだ。
「……………シンタロー」
「生憎俺じゃ役不足だからな」
「頼む」
そう言う彼が浮かべる笑みは。
切ないほどまでに綺麗だった。
「………私、貴方の気持ちが少しだけ分かった気がします」
「高松……」
「あの方が、このまま帰ってこなくなるんじゃないかと」
「…………そうだね……」
すでに彼はこの場にいない。
まもなく出立するだろう。
迎えに行くために。
新たな道を進むために。
「私たちも準備をしようか?」
「そうですね………」
いつの間にか立ち止まっていた。
ただ得体の知れないそれに恐れて。
「若い子には敵わないなぁ」
「ちょっと引退長かったですか?」
「食らいたい眼魔砲?」
「あー……、仕組みに興味はあるんですけど」
まだこの手を離れきったわけじゃない。
今ならまだ間に合う。
ただ受け入れて貰えるかどうかが恐いだけなんだ。
それをお互い思っているのにも気づかないのが。
また愚かしいんだけどね。
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久しぶりのドッペルです。ああんまとまってねぇ!!(泣)
何かまとまって無さ更新しちゃった感じです。(駄目じゃん)
なんつーかシンちゃんが欠片しかいないのがすげぇびっくりだ。
つかマジックさんと高松だけですか。
おかしいな……。
相変わらず視点がころころ変わって読みにくくてすいません。
キンちゃんとマジックさんもう少し掘り下げたかった…のですが。
書けば書くほどやっぱりへにょってるようなッ。あう。
しかも今までの中で一番副タイトルがきにくわなかったり。(ヘタレ)
……どうぞついてきてやて下さいませ……。
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