柵を求めているのは自分自身。
動きがとれないように理由を付けて。
本当は動きたくないだけなんだ。
Doppel
Act5 fasypain
あれから一年。
年月の経つのはひどく早い。
映る景色が赤くとも青くとも。
その度に気にするほどの感情はもうない。
ただ体の何処かで音がするだけだ。
割り切れるほど強くはないけれど。
24年間何万何十万と繰り返されてきた言葉。
それを簡単に否定できるほどの事実が自分の中に育っていて。
それが形となって現れたのは一年前。
けれどその存在は自分を癒してくれた。
信じきれなかった言葉はそれを機に変わるかと思ったけれども。
新たな事実にやはり簡単に否定された。
だからそんな偽りは欲しくない。
囁かれるたびに又一つ音がする。
愛してるよ
ここに繋ぎ止めるに、十分な言葉。
「ハーレム本当に駄目か?」
「……………………………」
契約期間。
ハーレムとの最初の約束は一年間だった。
いてくれる間に出来るだけのことはやろうと、実行してきたつもりではあるがいざ時期が来るとまだいて貰いたい。
我が儘を承知で問えば、返ってくるのは沈黙で。
一蹴されるとばかり思っていたシンタローは少なからず驚いた。
「………暫く考えさせろ」
「え、マジ!?」
「…………出てくのも楽なんだけどな」
ハーレムの答えに本当に意外な顔をする甥に、そんななら最初から聞くなと悪態付いてやりたくなるが内心に押し留めた。
自分がどんな顔をしているのか分かっているのか。
そんな顔をされて振ってしまったら何とも後味の悪い。
「俺の偉大さが分かったようだからいてやっても悪くはない」
「…………すげー尊大……」
「なにかいったか?」
「別に。もう耄碌しちゃった?」
「………テメェ……」
人が下手に出てやればつけあがりやがって。
どの辺が下手に出ているかは謎であるが、それでもハーレムが譲歩していることに代わりはない。
「なぁハーレム」
「ンだよ」
しかし、怒鳴ろうとした矢先に何とも頼りのない声が名前を呼ぶ。
すっかり毒気の抜かれたハーレムはやり場のない怒りを持て余す。
何をこんなにこの甥は不安定なのだろう。
総帥室のデスクの上。
そこに腰掛けながらハーレムはシンタローの顔を観察しようとするが、生憎シンタローは窓辺へと椅子を回転させた。
晴天の少ないこの国は、今日も曇り空だ。
厚い雲に覆われた空を仰いで、シンタローは口を閉ざした。
「やっぱいーや」
「……そーかよ」
やりにくくて仕方がないハーレムは、突っかかることもせずにデスクから腰を浮かせた。
軽い音を立ててしまったドアと去った気配にシンタローは小さく溜息を付いた。
あの男はもう気付いているかも知れない。
なんだかんだで一番人の心配をしている。
シンタローの様子がおかしいことは承知だろうが、踏み込んでは来ないことに感謝していた。
だからハーレムの存在が必要だった。
彼の力もそうだが、何よりもいい緩衝剤。
「………利用してるんだよな、結局」
逃げ道なのだハーレムは。
総帥という立場が関係なく、上からシンタローを見据えられる人物。
そんな人物は数少なくてその中でもハーレムは恰好だった。
精神の拠と言えばまだ聞こえは良いけれど。
「何でこんなに好きなのかなぁ?」
誰に聞かせるでもなくシンタローは声に出す。
離れられれば一番楽だ。
誰にも迷惑をかけることなく日々を過ごせる。
こんな呵責も必要ない。
「愛してる」
痛みにも似た切なさが胸に落ちる。
デスクの上に突っ伏せば長い黒髪が広がった。
自ら進んでその言葉に捕らわれる。
この苦しみから逃れるには離れるしかないと知りながら、それが出来ずにいる想い故の自責。
不変な物は要らないと思いながら変わることは恐れるその矛盾。
「――――――――遠征の準備しよ」
堂々巡りをする考えを断ち切るかのように顔を上げたシンタローは、総帥の表情に戻っていた。
「え?あいつ何処に遠征行ったって?」
「だからA国のT地区。遠征っていっても今回は割と期間も短いし、偵察に近いけどね」
あまり情報の入ってこない小さな国。
マジックの言葉を聞いたハーレムは目に見えて顔色を変えた。
「どうした?」
「そこ……この前ロッド達が行ってきたんだ」
この前と言っても2ヶ月ほど前にもなるだろうか。
大した噂は聞かなかったがそれでも耳に入ったこともあった。
「物資もないし信憑性も薄かったが………今シンタローが行くと刺激するかも知れない」
ガンマ団の名は全世界に轟いている。
情報が入りづらい国にも名前くらいは知られているだろう。
「なにがある」
マジックもハーレムの真剣な様子に表情を変えた。
少ない言葉の中に言いたいことの予想は大体付く。
「最新のレーザー砲を研究しているって話しだ。もしまだ今のガンマ団のことを知らなかったら」
新生ガンマ団。
誕生して一年経った。
けれどまだ僅か一年の話しで、内部ですら新しい内容に慣れきってはいない。
それが他国、しかも情報が入るのが遅い国ともなると。
「――――――恰好の的だな」
ガンマ団に恨みを持っている国、組織なんて数えたらキリがない。
ガンマ団を攻撃したからと言って賞賛されはすれ責められることはまずないだろう。
「噂が噂ですんでればいいんだけどな!」
「至急連絡を取ろう」
慌ただしく部屋を出ていきながら、ハーレムは嫌な予感が広がるのを抑えられなかった。
「シンタロー総帥、緊急連絡入っとるったい!」
「緊急?ガンマ団の方で問題でもおきたのか?」
ハッチから出ていたシンタローに慌てた声が届く。
閑散とした、何もない土地をぼんやりと眺めていたシンタローはその切羽詰まった声に、急いで通信室のモニターへと足を向ける。
切り替えたモニターには、マジックとハーレムの姿が映った。
「何かそっちで問題でもあったか?」
この二人が揃っていてそれはないと思いながらもシンタローはマイクに向かって問いを発した。
マジックとハーレムの真剣な声が、部屋に響く。
『こっちには何も問題ない。ハーレムからその国について嫌な話を聞いてな』
『あくまで噂の範疇は越えてない。けど念のため連絡しておこうと――――』
ハーレムの言葉は急に鳴り響いた機械音によって遮られた。
レーダーが察知したエネルギー。
それは間違いなくシンタロー達にと向かっている。
「総帥!!巨大なレーザー砲です!!」
「……まずい……!!」
別のモニターを一目見たシンタローは通信機を投げ捨て又急いでハッチにと出た。
目に届いた光。
今からエンジンをフルにしても逃れられまい。
「駄目だこれじゃ……俺しか………」
装備してある武器では歯が立たない。
かといってシンタローのガンマ砲でも迎え撃てるかどうか。
それに主流波をどうにかしようとも余波が残る。
船を捨てても構いやしないがそれでも逃げ延びれないのは明らかだ。
ふとシンタローの頭をよぎったのはいまだ使ったことのないジャンの力。
守備範囲の広い、あれなら。
「今使わないんでいつ使うってんだよなぁ!?」
乱れる精神を集中させる。
イメージをしろ。
ジャンが使える力が俺に使えないはずはない。
俺自身が使ったことはなくとも、この体は覚えているはずだ。
少しずつ、掌に溜まっていく力を感じ取りながらシンタローはなお神経を張った。
まだ、まだ足りない。
この船全体をおおえるくらいのシールドを。
ジャンですらこの広範囲はやったことがないかも知れない。
けれど自分は。
「青と赤の産物だ、両方使わせろってんだ――――――――――!!」
力の半減ではなく増幅を。
迫り来るエネルギーを感じ取りながら一気に集中を高めて。
一気に放出した。
辺り一面を、強い衝撃が包み込んだ。
「オイ!シンタロー!!」
「……駄目だ通信が途切れた……」
モニターに映るのはサンド状の灰色。
ザーッと言うノイズが空しく響く。
一足遅かった。
焦ったシンタローが通信室を出ていく姿を見送ることしかできなかった。
「途切れたのはただ向こうが取り込み中だからならいいんだが……」
「威力の程が私たちには分からない……ただ急すぎた。あの子一人ならかわせるかも知れないが……」
苛立ちを隠しもせずに乱暴に髪の毛を掻きむしる。
通信が復活するのをただただ待つしかできない。
もし、もし通信が復活しなければ。
最悪の事態を予想して、背中を汗が伝った。
「―――――クソっ!!」
「落ち着けよ兄貴!あんたらしくもねぇ。もう一隊偵察をおくるか?」
「いや、逆にシンタローの足手まといになる……待つしかないだろう」
やりきれない感情をどうにかして落ち着かせようとしているが上手くいかない。
本部の通信室を意味もなく歩き回るマジックにハーレムは眉を顰めた。
「―――――なぁ兄貴、」
「なんだ」
こんな時に、言わなくて良いかも知れない。
けれどこんな時だからこそ、言いたい。
「あんた、シンタローのこと好きだよな?」
ハーレムのいきなりの脈絡のない問いに、マジックはその整った顔を歪ませた。
「いきなり何を言い出すんだ」
怒りを顕わにしたマジックに、ハーレムは臆することせず真っ直ぐにその瞳を見返した。
「答えろよ」
「――――――当たり前だろう……そんな言葉では足りないがな」
いつになく真剣な眼差しのハーレム。
その視線に呑み込まれるような錯覚を覚えながらマジックは言葉を返した。
一体、何だというのだろう。
「―――――――なら、いい」
マジックの答えを聞くとハーレムは何事もなかったようにふいっと視線を外した。
わけのわからないハーレムに、マジックは何か問おうとして、中断させた。
「総帥!!通信が復活いたしました!!」
マジックとハーレムは勢いよくモニターを振り返った。
まだ何も映らないモニターに、ゆっくりと通信が入ってきた―――――――。
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埋もれる足取り
倒れそうになるのを
貴方は許さない
Doppel
Act6 いつでも景色の片隅には
「………エンジン全開ッ、急いでここから離れろっ………」
「総帥!!」
ふらふらした足取りで中に倒れ込むように戻ってきたシンタローは、それだけを言うと近寄ってきたどん太にぐらりと身体を傾けた。
「シンタロー総帥ッ!」
「………みんな無事みたいだな……」
辺りを見渡し最後にモニターを伺おうとして、そのままシンタローは床に伏した。
どん太が慌ててその身体を抱え直す。
「機体の損傷は!?」
「少し外壁にダメージがあるぐらいです!行けます!!」
言うが早いが鑑は動き出す。
その振動を遠く身体に感じながら、シンタローは沈んでいく意識を手放した。
「シンタロー!」
「…………無事、か」
慌ただしい飛空鑑内の様子がモニターに映し出され、マジックとハーレムはようやく一心地付いた。
とりあえずは無事らしい。
いつ次の襲撃が来るかわからないため、一時撤退のようだがおそらくは本部に戻ってくるだろう。
肝心のシンタローが気を失ってしまっている。
「出迎える準備しないと」
「グンマに連絡を入れてくれ、機体の修理。残留波が残っていたらそれも分析したいからその準備も」
「シンタローを見せないと……」
「ああ、高松………いやジャンを呼んで置いてくれ」
団員達に指示を下すマジックとハーレム。
しかしマジックの言葉にハーレムは難色を示した。
「何でジャンなんだよ」
「ジャンが、一番分かるだろうあの子のこと」
「…………あんた馬鹿か?」
返ってきた答えにハーレムは思わず言葉を零した。
勿論マジックが聞き流すはずもなく。
「どういうことだ」
明らかに癇に障った様子でマジックはハーレムを見据えた。
ハーレムはちりっとした感覚を覚えながらも、それが何かは明確には分からずひとまず団員達に念を押して置いた。
「グンマ達に連絡を忘れるな、俺達は高松のところにいるから戻ってきたらすぐ連絡を入れろ」
了解の返事を背に、マジックの腕を引きながらモニター室を出た。
マジックはモニターの様子が気になるようだったが見ているだけでは何もならない。
ハーレムのことも気に掛かるのだろう。
すぐに連れ立って、医療室への道を歩き始めた。
「ハーレム、」
「あそこじゃあれ以上話しできねぇだろうが」
「それは分かってるが」
硬質な床を足早に進みながらマジックは眉間にしわを寄せる。
どうも要領を得ないハーレムに、苛立ちを覚えた。
しかし、そんなマジックを気にした様子もなくハーレムは廊下を突き進む。
ここで話す気はない態度を示す弟にマジックもそれ以上は問わず黙って足を進めていった。
シンタロー達が戻ってくるのに全力であってもすぐには帰ってこられない。
高松のところへ居ってからでも遅くはないだろう。
艦のなかでも出来ることなど休ませておくぐらいだ。
またどうすることも出来ない事実に歯痒さを感じながら、無事だけを祈った。
ふわふわとした不安定な足下。
生ぬるい空気の中、不意に酷く冷たい存在が感じ取れる。
「………来たんだ?」
「ご挨拶だな」
夢と夢の狭間。
微睡みの中はとても心地よくて、身体は泥のように動かなかったから目を閉じたままでいたかったけれど。
ひやりとした頬の感覚に目を開けた。
そこには予想したとおりの顔。
「あげないよ」
真っ直ぐに射抜いてくるその視線。
深い蒼が体中を舐めるように這い回る。
「貴様には荷が重いんじゃないのか?」
「お前は俺以上に荷が重いだろう」
この、赤の番人の体は。
「そうでもないさ」
俺の台詞を、青の番人は簡単に否定する。
「嫌いなんだろう?」
「でも捨てる気はない」
俺も男の台詞は否定しない。
思うとおりに動かない、あの男の記憶が残っているこの身体は決して居心地の良いモノではない。
それでも。
「俺はあの人の傍にいたい」
ゆらっとその姿が一瞬ブれた。
目を細めて、愉快そうに笑う。
「それがお前の選ぶ道か」
「お前には関係ない」
ククッと僅かに肩を震わせて、その姿は急激に薄れていく。
「私もまだ本調子ではない。今日はもう引くとしよう」
「二度とくんな」
「そうはいかない、私も体は欲しい」
青の秘石は、今のところ自由に動けないからね。
暗に体を造り出すことが出来ないと言いながら、その青い目が俺を捕らえる。
「変化が起こっているようだから私でも使い易いだろう」
消えかかった指が、俺の目元をふっとなぜた。
「紫。わかりやすい色だね」
最後にそう残して、消えていった。
「紫なんだ」
確かに、わかりやすかった。
辺り一面を、強い衝撃が包み込んだ。
「おやお揃いで」
「シンタローがぶっ倒れたんだ」
「単刀直入すぎますハーレムいくらあんたの頭がど単細胞だとしても省かれまくっちゃ何の準備したらいいか分からないでしょ」
音高々に部屋に入ってきた人物達に驚きもせず、部屋の主は座っていた椅子をくるりと回転させハーレムにぴしっとペンをつきだした。
「力の使いすぎだろう」
と、高松の言葉に返すように聞こえる涼やかな声はハーレムの物でもマジックの物でもない。
「今さっきグンマに連絡が入ってな、大体の状況は聞いてきた」
「早いな…」
「なんとなく、妙な予感はしてた」
そう言ってひょいっとハーレム、マジックの後ろから顔を覗かせたのはシンタローだった。
その行動の速さは少し異様なくらいだ。
自分たちが見てきたことをすでに知って、追いついている。
更にシンタローの言葉にハーレムとマジックは眉を顰めた。
「妙……?」
「ああ……少し引っかかる物があってな」
「で、総帥……シンタロー様はどうされたんです?」
ひとり状況把握がしっかり出来ていない高松は、ハーレムとマジックの不機嫌そうな顔を物ともせずにシンタローにと問いかけた。
シンタローにまだ何か聞きたそうな二人に問いかけたって満足な答えは得られるまい。
そんな高松にシンタローは適切に口を開く。
「オーバーワークだ。慣れていない力を無理に引き出したんだろう、体の方が力の強さに耐えきれなくて電源を切った。そんなとこだ」
「と言うことは秘石関係なワケですね?」
「でもあの力は俺も知ってる」
ジャンに聞いた方が早いかと内心思った高松は、シンタローの台詞にその考えを中断させられる。
「青の力だと、思う」
それだけでもないけどな、とシンタローは考え込むように目を閉じる。
眉間にしわを寄せて悩む様は在りし日のルーザーを思わせて。
その場の三人は誰とも無く黙り込んでしまった。
「………うん、あれだ」
「あれ………?」
「島で、俺とシンタローが二人だけで対峙したときのあの感じ」
「もしかして、私が貴方を迎えに行ったときのですか」
幼い子どものように自分の感情を振り回し叫んでいたルーザーの残した男。
確かに、彼は生まれたてだった。
初めて味わったのは言い様もない敗北感で。
その様を見て高松は思わず涙してしまったのを覚えている。
高松の言葉の頷いてシンタローは続けた。
「あのとき感じた悪寒と、似てた」
「悪寒って……」
「まだ不確かだから何とも言えないがな」
言うだけ言って、シンタローは口を閉ざした。
肝心の聞きたいことは聞けず、シンタローが何を根拠にソレを言いだしたのかわからないままになる。
無理に聞いても答えてくれないことはわかるし、シンタローはその手の冗談を言う人間ではないだろう。
聞き出すことは諦め、マジックは本題にと戻した。
「そう言うわけだドクター、あの子を休ませる準備をしたいんだが…」
「……うーん、本当に寝かせるだけ、しか出来ないですよ?」
トントンとペンで机を叩きながら、シンタローの言葉を反芻していた高松はマジックの要求にそう返す。
「……秘石関連ならジャンに聞くのが一番良いとは思うんですけど」
「「駄目だ」」
揃った声に、高松は思わず続けようとした言葉を呑み込んだ。
「呼ぶ必要は、ないだろう?」
「俺もそう思う」
二人してそう言うもので、多少呆気にとられながらも高松は面白そうにそっと口端を上げた。
「……まぁ私も特に呼ぼうとは思っていなかったですけど」
「ドクター?」
マジックだけが、訝しげに声を上げる。
シンタローに向けていた椅子をマジックにと回転させ高松は口を開いた。
「元々エネルギー切れなら安静にさせておくだけですし、今回はシンタロー様の話からしてもジャンの出番はないんですよ。確かに彼は赤の番人で、シンタロー様の体を誰よりも知る人物。倒れたならジャンに相談するのが得策です」
「………なんかやな言い方だな」
ハーレムの言葉を高松は聞き流して。
ますます眉間にしわを寄せるマジックに対して続ける。
「でもこれが青の石も関わってくるなら別です。赤と青、同じな様でいてベクトルは全く逆を向いている。あの石に関してはとても興味深かったですけれどまぁ調べることも出来ませんでしたし、私が多く語ることも出来ませんが」
「ジャンは青の方の考えを、理解することは出来ないでしょう」
「……背中合わせ、何だな」
「おや、ハーレムにしては良い表現ですね」
「てめ人が真面目に言ってんのに」
高松が言い放った言葉を受けてハーレムはポツリと零す。
聞き逃すはずもない高松はその言葉に頷いてさらに言葉を続ける。
「とても近いようでいて、その実決して見ることが出来ない。あの二人はそんな感じですねぇ……結局別個なんですよ」
いかに同じモノから出来てると言ってもね?
ばさばさと近くの書類をせわしくなくめくりながら高松は三人を順に見やった。
書類に目を戻すとある一点で目を留めそれを抜き出した。
「それに今ジャンが手がけている研究、良いとこらしくて滅多なことで呼び出さないよう言われてるんですよ……、勿論シンタロー様のことがどうでもいいわけじゃありませんよ?」
「何も出来ないの、呼んでも仕方ないしな」
「それは俺達も同じことだけど」
高松の言葉をフォローする形でハーレム、シンタローが続けた。
その言葉にマジックは微かに唇を噛みしめる。
結局は別個なのだ。
高松の言葉が、嫌に頭に巡る。
「そう言うわけで準備するのはあなた達ですね」
「………………は?」
高松の言葉に間の抜けた声を出すハーレム。
そんなハーレムに高松は大きく深く息を吐き出した。
「………別にあなたには特に望んでないですけど」
「テメェはっ………!!」
明らかに馬鹿にしたような高松にハーレムはこめかみに青筋が浮かぶのを自覚する。
しかしそんなハーレムの様も高松にとってはいつものことで。
掴みかかってきそうな勢いのハーレムをさらっと横に流してシンタローの傍にと立つ。
「シンタロー様に私が言うのもおこがましいですけどね」
くすっと笑いながらそっとその薄い金色の髪を梳く。
シンタローは嫌がるでもなく、されるがままにされている。
「休ませるだけって言っても、精神的負荷がかかっていては本当の意味での休息ではないですからね」
ただでさえ、肉体の方は負担掛かってるでしょ?
「…………リラックスさせろと?」
「至難の業でしょ」
確かに。
高松の言うとおりだった。
今のあの男をしっかりと休ませるのは容易いことではない。
普通に睡眠をとることですら良しとしていないのはここにいる誰もが知っている。
見かねて度々忠告をしてもそれを聞く男ではないし、ますますそれを隠す術を覚えてしまう。
心配させてしまうのを嫌がって。
「体の方が動かないんだから、これを機にしっかりと休ませてくださいね?」
「…………………」
「私ではそれは出来ないですからね、あなた方が一番適任でしょう」
だから。と、高松は真っ直ぐハーレムに向かって指を差す。
「たまにはわかりやすい態度で接しなさい」
「だっ!!なっ!!!何言ってやがる!!」
「いじめる愛情表現なんて貴方いくつなんですか」
「テメェとおなじ年だ同期の桜ッ!!」
「―――――、連絡が来たぞ」
二人の漫才を黙って見ていたシンタローは、不意にデスクの上にある内線が赤く点滅しているのを見て口を開いた。
一回高松に視線を送ってからそのままボタンを押した。
「何だ?」
『シンタロー様ですか?その場にマジック様とハーレム様は……』
「ああ、いる。高松もだ。戻ってきたのか?」
用件を伝えられる前にシンタローが問う。
少し慌てたような声は、それを肯定した。
『は、はい!もうすぐ着陸いたします!』
「わかった」
誰が、とは言わなくともわかる。
言葉少なにシンタローは内線を切ってドアにと向かった。
「俺は様子を見に行くが、あんたはどうする?」
廊下に足を踏み出す前にシンタローは振り返り、言葉を発した。
その視線は真っ直ぐマジックにと向かっている。
「私は―――――……、」
先程までならすぐにシンタローの元へと向かっていただろう。
けれど冷静に考えてみればそれは彼の立場を悪くしてしまうのではないだろうか。
いくら不意打ちの事態があったとはいえ、予定よりも早い帰還。
しかもそれは決して良い方向でではなく。
それを父親とは言え元総帥が向かえに出てくるというのは。
基本的に幹部には好意的な団員が多い。
しかしそうでない団員が居ることも事実なのだ。
いますぐ自分の目でその安否を確かめたい。
それは結局マジック自身の感情だ。
彼自身を考慮するべきなら。
「部屋で待っている。チョコレートロマンス達に指示も出しておきたいしな」
遠征扱い中な為、ある程度指示はだしてあるだろうが見直してしておいた方がいい。
後で滞った仕事の処理に追われるのはシンタローだ。
自分がやったと知れば、それはまた彼に影を落とすのだろうけれど。
「そうか」
そう残すとシンタローは、すぐにその場を去っていった。
その背中を完全に見送ってから、マジックも動く気配を見せる。
「さて、と……私も行くかな。ハーレムはどうするんだ?」
「俺?特選部隊動かそうかなって」
マジックの問いかけにハーレムは軽く答えるが、その内容は十分重いものだった。
「あそこにはもう一回行かなきゃいけねーだろ。なるべく早い方が良いだろうし」
「………また勝手に動かすのか」
「仕方ないだろこの場合は。なるべく半壊にしとくし」
やはり物騒なことを簡単に口にするが、その表情は硬い。
マジックは暫く考えていたが、やがて諦めたように溜息を付いた。
「………通信は切るなよ、常時繋げとくんだ」
「分かってる」
了承の返事に、ハーレムはひらひらと手を振りながらドアへと向かい、マジックもそれに続く。
「じゃあな高松。お前も程々にしとけよ」
「あなたにだけは言われたくないですね」
減らず口をたたく同期を見送って。
高松は元の通り静かになった部屋で、ひとつ息を付いた。
「難しい人達ですねぇ」
その呟きを耳にしたものは、いなかった。
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また間があいてしまいました~。
ドッペル6、とりあえず話し進めとけでした(爆)。
高松が異様にでばっちゃって、もうひとり出したい贔屓キャラが出る前に話を切りました。
だって長くなっちゃったんだもん!
つーことで次はもう少し早いアップです。
何か色々出てきましたねぇ。
シンちゃんの出番すくねー。マジック総帥なんだか孤立してますか?(うわ)
色々書くと余計墓穴掘るのでこの辺で。
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