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「ではこれから、ガンマ団幹部限定異種格闘技戦大会を行います!」





総帥の一声で決まったこの大会は、高松のアナウンスで幕を開けた。









The King Of Fighters










「体鈍ってるよー……」
「デスクワークばかりでは無理もあるまい」
一通りのトレーニングを終えたシンタローは床にへたり込む。
涼しい顔をしたキンタローを少し恨みがましく見上げた。
「何か動かしにくいんだよ、ジャンの体だからかな」
「多分な。それにそれは18才当時の体だろう。出来上がっていたこの体とは違う、まだ成長する余地がある」
「…………嬉しくねぇ」
大きく息を吐くシンタローは、疲れたようで、何処か物足りないようだ。
「動かしにくいだけで、まだ暴れたいんだな?」
「言い方物騒だけど、そんな感じ。ガンマ砲とかの練習もしたいけどここ禁止されてるしー」
「お前等親子の破壊活動が著しいからな、ここまで定期的に補修するのは大変だ」
「……………手加減無しの、本気勝負したいよなぁ」
「逃げるな」
右から左へ言葉を流したシンタローにキンタローは小さく溜息を付く。
今更言ってどうにかなることならとっくに誰かが何とかしてるだろう。
「真剣勝負、やりたくない?」
「………楽しそうではあるが」
「じゃ決まりッ!!」
そんなキンタローの内心を知ってか知らずか、シンタローはなにやら考え込んでいたかと思うと不意に問いをぶつけた。
キンタローも実戦にはいかないので全力を出すことがまずない。
真剣勝負をやってみたい気は、多々ある。



「………………何が、決まりなんだろう」



少し不吉な予感を抱きつつも。
あっという間に小さくなって背中を、キンタローは止めることが出来なかった。















「…………よくやったもんだよ」
「だって、たまにはこういうのもいいじゃん。仲間とはやりあう機会なんてないし、面白いと思うぜ?」
一週間後に完璧に立てられたプランを見せられてキンタローは思わず絶句してしまったほどだ。
忙しいくせにいつこんな時間を見つけていたのだろう。
あれよあれよといううちに日にちは過ぎていき、こうして今日を迎えている。
特設会場も立派な物だ。
多分終わる頃には見るも無惨な物となっていることであろう。
「でもシンちゃん、何で幹部限定なの?」
「同じ団員でもやっぱり力の差は歴然だからな、今回は幹部達だけで技の競い合い。見てるだけでもかなり勉強になるだろ?これが上手くいったらちゃんと今度は一般団員での大会やろうとおもってるし」
「ただ単に自分が思う存分暴れたいだけだろう」
「そうだ悪いか!」
手加減するの嫌だからなとキッパリ言い放つシンタローは短パンにランニングシャツ。スニーカーととにかく軽装で動きやすい格好をしていた。
髪の毛はポニーテールですでにまとめてある。
「手加減しないからな、覚悟しとけよ?」
「それはこっちの台詞だ」
キンタローはTシャツに下はジャージ着用。足下も割とごついタイプの靴で固めてある。
「二人とも頑張ってねーv」
グンマは勿論不参加である。
幹部であって、実力も秘めたものを持っているがそこはそれ。
本人はいたってそちらに興味はない。
「これからくじ引きだね、誰とあたるかどきどきだねぇ」
アナウンス役の高松が、ちょうど出場者をステージに集める放送を流した。
どうやら準備が出来たらしい。
「じゃあグンマ、いってくる」
「きちんと高松かマジックの傍にいろよ?色々飛んできてあぶねーからな」
「うん!」
ぶんぶんと元気良く手を振るグンマに軽く返しながら、二人はステージへと向かっていった。








『…………じゃ、皆さん引き終えましたので対戦者、発表です!』
高松のアナウンスに会場が盛り上がる。
中央ステージに集められた幹部達も真剣な表情で放送に耳を傾ける。
『とりあえず出場幹部の名前確認からいきますよ、シンタロー総帥、キンタロー様、他シンタロー様直属幹部と特選部隊の一行+αの計12名です』


「…………手抜きな確認だべな」
「っちゃ」
「時間省けて丁度良いわい」
「相手も気になるどすえ」
「後で高松絞める」
「うーん、最近真面目にやってなかったからなぁ勝てるかな?」
「………………」
「相手に不足がなければいいが」
「……+αって何だよ畜生高松」

「……………なんで俺ここにいるんスか?」

だくだく涙を流しながらロープでぐるぐる巻きにされているのは、今はパプワ島で番人をしているはずのリキッドだった。
「人数合わせ」
「ひとりシードにすればいいじゃないですかッ!俺島の番人なんスよ!?」
「パプワのほうが強ーもん」
ぐさ。
シンタローの言葉はリキッドにクリティカルヒットする。
棘があるのは絶対に気のせいではない。
「でもでも、やっぱりひとりにさせときたくないしっ……!!」
ドグァッ!!
シンタローの足下のステージが、ひび割れる。
「番人だってならぐだぐだ言わず優勝しろよ?」
第一チャッピーやイトウやタンノ達だっているからひとりなんて事ないし。
そういってにっこりと笑ったその顔が、激しく笑っていない。
「ここに赤の番人もいるしーぃ」
「そうだな、力を図るには丁度良いな」
「………………………」
理不尽な怒りが向けられているのは致し方ないことなのだろうか。
シンタローに話しを振られたジャンも、リキッドの弁護どころかやる気満々だ。
「あたったら手加減無しでいくからよろしくな」
「……………………はい」
爽やかな笑顔で言いきったジャンに、素直に返事することしかリキッドは出来なかった。




『はいはいはい私語は慎んでくださいねー、一回しか言わないから耳かっぽじってよーく聞きなさい』
ガサガサと紙を開く音がマイクから伝わってくる。
高松の言葉に会場からざわめきが消えた。
『………コレは、いきなり一回戦から好カードですねぇ。皆さんきちんと気合い入れて見学しなさい自分の身は自分で守らないと怪我しても補償金なんて出ませんからねー』
曲がりなりにもガンマ団の一員。
飛び火くらいは自分で避けて貰わないと困る。
全員緊張を高めて、続けられる高松の言葉に耳を澄ませた。



『一回戦からどうなるんでしょう恐ろしい組み合わせシンタロー総帥VSハーレム。師弟対決アラシヤマVSマーカーに割と正当派ごついコンビのコージVSG。面白い対決が期待できそうなトットリVSジャン、ヤンキー同士ですか地毛ですかその金髪はミヤギVSリキッドそして変な接近したら許しませんよこの変態イタリアンロッドVSキンタロー様です!!』



おーーーーーー!!
会場が一気に期待と興奮でわき上がる。
それをよそに、出場者達は各々色んな思いを抱いていた。

「……………変態って」
「そうなのか?」
「違いますって!もう!!」
「ワシのは地毛だべドクター!こげな枝毛ばっかりでキシキシした汚い金髪ヤンキー野郎と一緒にしてくれるな!」
「テメェ好き勝手言い過ぎだぞこらぁッ!覚悟しやがれ!!」
「わー、いきなりチンさんとだっちゃ」
「ジャンだ!!」
「よろしく頼みますわ」
「………ああ」
「さて、どこまで強くなったのか良いテストだな」
「余裕かましてますと大火傷しまっせ」


わやわやとなんだかんだで楽しそうな10人。
しかし、すでに完全に空気の違う二人が、いる。



「…………まさか初戦からお前が相手とはな。俺を退屈させんなよ」
「おっさんいくつだよ?年考えて俺にモノ喋れよな」
「いっかいその生意気なツラおもいっっっっっきりひっぱたいてやりたかったんだ」
「俺も完膚無きまでに叩きのめしてみたかったんだよね」


「やるか?」
「今からやるんだってば耄碌しすぎてるんじゃないの?」
「…………ぜってー殺すッ」



『はーいそこの単細胞挑発にまんまと乗ってるんじゃありませんこれから諸注意ですよ。あんたが一番きいとなきゃいけないんだから進行妨げないでくださいよ』



「シンタローほら、これから嫌でも手加減無しでやるんだから」
「分かってるよ」
「隊長始まれば思う存分出来るんですから」
「だってあいつ生意気すぎだろ!!」
キンタローとマーカーの手によってシンタローとハーレムは距離を取らされた。
それを確認した高松は放送を続ける。



『トーナメント方式の勝ち抜け戦です。基本的に武器の持ち込みは可。事前にリングなどへの細工は不可です。まぁ始まったら何でもあり、ですが死なない程度にボコッて下さい。死んでも何にも出ませんからねせいぜい2階級特進です。対戦相手が負けを認めるか、続行不可能と判断されれば勝ちです』
高松の放送の間に対戦相手が書かれた表が張り出される。
先程発表された対戦相手と共に、2回戦、3回戦の相手が確認できるようになっていた。

「あ、俺お前とはラストまであたんねーや」
「そうだな、決勝までお前との対戦はおあづけか」
「闘いの配分きちんと決めないとあとでつらいぜ?」
「お前こそ感情で突っ走るなよ」
シンタローとキンタローは互いに端に名前が記されており、勝ち進んでいかなければあたらない。
「っててめーらすでに勝った気でいるんじゃねーよ」
「そうそう、こちとら実戦経験豊富だぜ?」
二人の会話を聞き捨てならないとばかりに割り込んできたのは互いの一回戦の相手。
確かに、気分の良いものではない。
その言葉に二人を睨み付けるシンタローとキンタロー。
又互いに火花を散らせようとしたときに、高松のアナウンスが入った。


『はーいそこー!!もう始まりますからもう少し我慢なさい。それでは一回戦第一試合はロッドVSキンタロー様!!この二人以外は全員下がってください』




ばらばらと出場者達は専用テントにと足を運び、リングの上にはキンタローとロッドの二人だけが残され、審判役のチョコレートロマンスが間にと立った。
『用意は良いですね?』
「あ、技って何でも有りなんだよな?」
『はいそうですよー、武器の他もちろん持ち技なんでも好きなの使ってもいいです。ただキンタロー様ハーレムに限り秘石眼は無しです』
『私以外完璧にコントロールできないからねぇ。 暴走したら身内以外命の保証はないね』
放送に続けてはいった声に二人は揃って本部テント(来賓とか放送席とか運動会で良くある中央のテントの意)に顔を向けた。
そこにはいつの間にか姿を現したマジック元総帥。
その隣には彼の長男グンマの姿もある。
『キンちゃん頑張ってねーv』
『あー、必要以上の接近したら秘石眼解除ですからそのつもりで』


「………すでにものすごい贔屓入ってねーか?」
「審判はチョコレートロマンスだし心配ない」
ロッドがいつもの調子をすでに崩されがっくり来ていてもキンタローに動じるようすはない。
足下を確認するように足を滑らせている様に、ロッドも表情を常よりも引き締める。


「格好良いところ見せて、ボーナス上げてもらわないとなッ!」
「俺も無様な姿をさらすつもりはない」



『では、第一試合、スタートです!』



チョコレートロマンスの声を合図に、二人はリングを蹴った。























「羅刹風ッ!!」



軽く間合いを詰めていきなりのロッドの必殺技。
これは流石のキンタローも予想していなかったことだろう。
避けきることは敵わずに風の刃がキンタローへと向かう。



「―――――――チッ!」



右腕を犠牲にガードするキンタロー。
十分に力を練った物ではないため見た目よりは軽いが、それでもやはり特選部隊の一員。
威力の程は十分だ。


「せっかくの美人に傷つけちゃったねぇ」
「――――こんなものすぐ治る」
「治らなかったら責任とって上げようか?」
「いらん世話だな!」


強い風圧により右腕には無数の切り傷。
リングを血が滴り落ちる。
しかしそれよりも目を引いたのは左頬に走った大きな一筋だった。




『………………後であのイタリアンには特別に実験してあげなきゃいけないようですねぇ』
『高松、キンちゃんのあの傷治るかなぁっ!すごく痛そう……』
『治してみせますよ医者という名にかけてッ!!』
『私情をアナウンスで流すなッ!!』

ブツッと鈍い音がしてアナウンスが止まる。
本部テントに視線を見やればそこには何時のまに移動したのかシンタローの姿。
グンマを軽くこづきながら注意をしていた。

「これは真剣勝負なんだからそんなこと言ったらロッドだけじゃなくてあいつにも失礼だぞ」
「だって……」
「あの傷を負ったのはあくまでキンタローのミス。第一あの距離からロッドの必殺技受けてあれだけで終わらしたんだから逆にすげーんだよ」
「う……ごめんなさい」
「はい、よろしい。今度から気を付けろよ?」
シンタローのもっともな説明にグンマはしゅんと項垂れる。
そんなグンマの頭を軽く混ぜっ返してやりながらシンタローは続けて高松に向けて口を開いた。
「ドクターもな。いくら何でもアレはマズイだろうが」
「分かってますよ、でも許せません」
「だからさ?ここはぐっど我慢して後でン倍にもしてこっそりやっちまえって、そうじゃないとキンタローが気分悪くするぞ」
「止めはしませんね?」
「別に良いよ」
「……………あんまり良くないと思うけど、まぁいいか」


「最強な方々や……」
高松や審判の補佐として今回は欠場。
本部にいるどん太は、会話を聞きつつロッドにこっそり合掌したとかしないとか。


プツッ。
そしてまた無機質な軽い音とともに放送が復活する。
『ってことで悪かったなロッド、キンタロー。さっきの放送はぜんっぜん気にしなくて良いから集中して続行してくれ』






「ぜんぜんって強調されてるのが逆に気になるです総帥さん……」
「よそ見してる暇はないぞ」

騒がしい本部席にどうしても気を取られてしまうロッドは肩を落とす。
しかしキンタローの方はやはり動じていない。
お返しとばかりに一気に間合いを詰める。


「はっ!!」
「おっと!」


懐に潜り込んだキンタローはそのまま勢いに乗せた拳を繰り出した。
しかしロッドの反応は一瞬早くそれを寸でで避ける。
少し上体を逸らし、僅かにバランスを崩したその隙をキンタローが見逃すはずもなく、続けざま回し蹴りをロッドへお見舞いする。


「―――――つっ」
首筋へと入った蹴りは体に響いた。
一瞬目の前が暗くなり、足下に妙な浮遊感。
嫌な目眩に体は踊ったが、タンッと耳に届いた軽い音。
上空からの威圧感に咄嗟に横に体を動かし、その手から風を生み出した。



ザクッ!!
肉を切り裂く音。
小さい、けれど鋭い見えない刃は確実に体にと突き刺さった。

「クッ………!!」


蹴りを決めたキンタローは次には高く上空へと飛んでいた。
上から眼魔砲を叩き込めば広範囲に及び避けきれはしない。
ロッドの羅刹風で相殺される恐れはあったが、それも考慮に入れて十分に掌に意識を集中させていた。
その折りだった。

上空に逃げ場はない。
相手へのダメージを大きくできる攻撃だが、その分自分も危険にさらされる。
そのことを頭では分かっていたつもりだったが実際目の当たりにするとそれは予想以上の物だった。
技は大きければいいという物ではない。
そのときそのときに的確に出せるかどうか。
それは実戦をほとんど積んでいないキンタローには大きな課題だった。


鎌鼬は肩を突き進み、その鋭い痛みは力を簡単に分散させてしまう。
無様に床に倒れ伏すことすらなかったが、片膝を付いて痛みに顔を歪めた。




「うっわいまのほんとキたわ……」
互いに大きく距離を取り体勢を立て直す。
首を大袈裟に振っているロッドはまだまだ余裕のある様だ。
反対にキンタローは荒い息で呼吸を繰り返し、肩を揺らしている。
肩からの出血は白いシャツをあっという間に赤く染める。


「ま、やっぱり力はあるんだろうけど使い方がまだまだだね」
「確かに……俺は実戦が足りない」
「わかってるじゃん?」
戦い慣れしたロッドの言葉はもっともな物で、キンタローはそれを肯定した。
それにロッドは僅かに眉を動かしたが今のキンタローに気付く余裕はない。
「お前にはあって俺には経験がほとんどない。だがな、逆に俺にあってお前にない物だってあるんだ」
「―――へぇ?」
そこで言葉を切って、キンタローは人差し指でトントンと己の頭を差した。
それに、ひくりとロッドの口はしが動く。


「―――――――知識だ」


「………それは俺を馬鹿っていってるんですかねぇ?」
ピクピクと揺れるこめかみにキンタローは気づいているのかいないのか。
ようやく整った呼吸と、変わらない表情で更に続ける。
「それもだが後はデータだな。俺にはお前のデータが全部はいっているがお前はどうだ?」
「データって……そんなの」
「お前の戦闘パターンは少し調べればわかるからな。逆に俺のはまったくないはずだ」
というよりそれもだがって。
さりげに毒を吐くキンタローは、あまりにもしれっというので悪気があるかどうか分からない。
きゅっと軽く拳を握ったロッドはその言葉の続きを黙って待つ。
「今ので、データは何とか揃った」
「ただではやられてないワケね」
「俺を誰だと思ってる」


「どんなに嫌でもお前の隊長の血を引いてるんだぞ」


歪めたその口元がまさしく己の隊長そっくりで。
ロッドは背中に冷や汗が伝わるのを感じた。








「どんなに嫌でもって良い度胸じゃねぇかキンタロー」
こちらは明らかに額に青筋立っているハーレム。
ハーレムの半径三メートルからはざざっと人がいなくなった。
唯一止められそうなシンタローは未だ本部テントのまま。
おどろおどろしい空気が選手待機テントに広がる。

「ぶちあったったらぜってぇ絞める」
「じゃあ隊長さんはもうロッドの負けと思ってるんかいの?」

怒り心頭なハーレムの言葉に返したのはコージ。
どこまでもおおらかな彼は小さいことは気にしない。
小さくない小さくないと周りは首を横に振るがそこはそれ。
気になったことはあっさりと聞く。
「………さてな。最初のキンタローの戦い方ならロッドの圧勝だったろうがなんか感付きやがったみたいだし」
「五分ってところかの」
「冷静ならロッドのがまだ優勢になるがあいつ、俺の身内だってのを上手く利用しやがった」
「普段の行い悪いと部下も大変じゃのう」
「―――――――……」
あっはっはっはと豪快に笑うコージにハーレムは思わず手が出かけたがぐっと耐えた。
ここで無駄な力は使えない。
シンタローとの試合に全開能力を出そうとしているハーレムは更に周りの空気を重くしながらも、噴火することだけは耐えたのだった。








「隊長に似てるからぐらいで俺が動揺するとてもッ!?」
「十分してると思うがな」
少し呂律の怪しいロッドにキンタローは肩の止血をしながらさらっと返す。
体が寒い。
少々血を流しすぎたのだろうか、冷えてきた体にきっとロッドに睨みを付けた。
その視線を真っ向から受けるロッド。
長引くことはキンタローにとって不利。
ここで決着を付けなければ負けるのは自分だ。


掌に溜始めた気を感じ取って、ロッドが先に仕掛けてきた。
無数の刃がキンタローにと向かってくる。
それを今度は難なく避け、後ろにと大きく飛んだ。
ガンマ砲を打てる準備が整うまであくまで距離を取ろうとするキンタローに、今度はロッドが間合いを詰めて接近戦にと持ち込む。
次々に繰り出されてくる拳。
キンタローは距離を取りたいところだが、意識を掌に集中されているため詰められてしまうのは必須だった。
しかしその突きや蹴りは見切ったようによけてあたることはない。


「実戦はほとんどないに等しいが……それでも訓練は欠かさないからなッ」
「訓練だけでは限りがあるぜぇ?」
「それでも、お前よりはシンタローのほうがスピード早いんでな!」


そのキンタローの言葉にロッドの表情が変わる。
怒りの浮かぶ真剣な表情。
他人と比べられる、それも侮辱的な言葉だった。
確かにシンタローの戦闘センスは高いものだったが、闘いの仕方という物が違うのだ。
簡単に比較して欲しくない。
バッとキンタローから離れたロッドは大きく構えを取った。
羅刹風。
初っぱなに出した物とは違う十分に力を込めたそれ。
キンタローも同じく構えを取っていた。



「羅刹風!!」
「眼魔砲!!」




巨大な力がぶつかり合った。





『チョコレートロマンスッ!無事か!!?』
『は、はい大事ないですッ……!』
爆風でリングの視界は利かない状態となってしまっていた。
低い轟音にシンタローは慌てて審判のチョコレートロマンスにと呼び掛ける。
どうやら咄嗟にリング下に降りて回避したらしい。
姿を確認したシンタローは安心したように息を吐き、高松にマイクを譲った。
『で、どうなんです?二人は?』
『今、人影はうっすら見えますが……両方とも立ってはいるよう』
チョコレートロマンスが言いきらないうちだった。
また閃光が、会場に煌めいた。


そして続く爆音。
晴れた煙の中に立っていたのは。




「―――――――流石に手強かったな」
あちこちに血を滲ませた、キンタローであった。





『勝者、キンタロー様!!』
チョコレートロマンスの宣言と共に、会場からは大きな声がわき上がった。







「あーららこりゃ完全に伸びてるな………」
運ばれてきたロッドを見ながらハーレムは溜息を付く。
見事に眼魔砲の直撃を受けたらしい。
あちこち焦げている部下を見ながら懐から手帖を取りだした。
「……………マイナスの棒が……」
「一回戦負けだからな、あんなものだろう」
そっと後ろからその様子を覗くリキッドには多量の冷や汗。
傷ついている部下に容赦のない仕打ちにけれどマーカーは平然とした表情だ。
「よかった……俺今査定要らないからっ!」
「馬鹿だなリキッド」
「はい?」
「逆に言えばロッドは給料やらボーナスを引かれるぐらいですんでいるがお前の場合それがない。負けたらその代償となるモノを支払うんだぞ?」
「それってつまり」
「ボコられるな」


「ところであのときはどうなってたんだ?」
真っ白になったリキッドをさておき、戻ってきたキンタローに同じく戻ってきたシンタローが声をかける。
結局一番良いところは煙で見えなかった。
他の皆も気になっているところだろう。
「ああ……そんな複雑なことなんてやってない」
シンタローの後ろから顔を覗かせたグンマが、心配そうにキンタローに近寄ってきたのを安心させるように頭を撫でてやり近くの椅子にと腰を掛けた。
その両横にシンタロー、グンマが座り救急箱を開いている。
「常ならロッドも簡単に分かっただろうがな。少し頭に血を上らせて貰って仕掛けた」
「たしか羅刹風と眼魔砲がぶつかり合って、それからすぐ」
「俺が眼魔砲を飛ばしたんだ」
「え?そんな時間……」
「なるほどな」
キンタローの言葉に思案顔なグンマとようやく納得したようなシンタロー。
切り傷を消毒液で洗ってやりながらその傷を一つ一つ確かめていく。
綺麗な切り傷は塞がるのが早い。
流した血も多いが、そのおかげでくっついている傷に丁寧にガーゼを貼っていく。
「どういうことシンちゃん?そんなすぐに眼魔砲って打てるっけ?」
グンマの疑問はもっともなもので、どんなに集中しようとも僅かなタイムラグは生じる。
ロッドも同じことで羅刹風を放ったばかりの彼は、そのせいで眼魔砲を防ぐことが出来なかったのだろう。
「だからあれは、元々溜めてあった眼魔砲なんだよ」
「その通りだ」
「両手で構えたからロッドも気付きにくかったんだろうな。全部放出させたフリで、片手に残して置いたんだろ」
溜める時間が長かったのはそのせい。
シンタローの言葉にキンタローは黙って頷いた。
わざわざロッドを怒らせるような言葉を吐いたのは騙されて貰うためだった。
怒りはまわりをを見えなくする。
「さっすがキンちゃん!すごかったよv」
「ンナ単純な手に引っかかるとはこいつもまだまだだな」
「隊長が単細胞だから仕方ないんじゃねぇの?」

グオッ!!
キンタローシンタロー二人の言葉を黙って聞いていたハーレムは、簡単な種明かしに肩をすくめた。
そんなハーレムにシンタローの台詞。
近くにいたリキッドが鈍い声を上げて倒れ伏す。
「………何で俺……」
「うっせぇ!シンタロー今に見てろよそんな減らず口がたたけるのは今のうちだ!」
「あーやだやだ年とるとひがみっぽくていけねぇな」


「シンちゃん駄目だよ今から試合なんでしょ?」
「ああ?別に良いよ」
「駄目だってば。僕、怪我して欲しくないもん!」
テント内部の気温が二、三度上昇しただろうか。
他メンバーがざっといなくなるのを我知らず、グンマは心配の声をシンタローにかける。
キンタローの腕をぎゅっと握ったその様はまるで自分が傷を負ったように痛ましい。
「………悪かったなグンマ。心配かけて」
「ううん、痛いのはキンちゃんだから…その傷、治ると良いんだけど」
不安げに揺れるグンマの視線にはキンタローの左頬に走った大きな切り傷。
塞がりかけてはいるが、赤い筋がやたらと生々しかった。
「まだ血がこびりついているな」
「ああ、仕方あるいまい」
立ち上がって血まみれのシャツを脱いだキンタローは、シンタローの手渡す着替えに腕を通す。
その際ピリッと走った鈍い痛みに思わず眉を顰めた。
「じゃ、治るようにおまじないしてやるかな」


『――――――――――――――ッ!!』



眉を顰めたキンタローに、シンタローはそっと傷に手を這わす。
そのまま傷を緩やかに撫ぞって、顔を寄せた。

クチュ。

微かに響く濡れた音。
小さく漏れたその音は、しかし誰の耳にも確かに届いた。
ぺろりと、紅い舌が白い頬を舐める。
まわりに付いていた乾いた血液はそれに解けて、舌に乗り切れなかった分が一つ。
つ、と頬に弧を描いた。



『そっこぉ!!不純同姓交友は禁止です――――――――――――ッ!!』
ゴス。
「高松うるさい」
「アナウンスで喋るなとシンちゃんに言われたばかりだろう」
テントにいた人々の代表高松の言葉はあっさりと切って捨てられた。
頭には大きなコブと共に白い煙が上っている。
容赦のない青の四兄弟長男と末っ子の拳が降ったのだ。
「………も、元総帥冷静なんですね?」
意外すぎるほどに。
後の言葉は何とか呑み込んだどん太が恐る恐る言葉を掛ける。
息子を異常な程までに溺愛している彼の反応は本当に天変地異が起こるんじゃないかと思うほどのもので。
高松の反応の方が普通に見えるどん太は、やはりガンマ団の一員だった。

「え?だってあれ普通でしょ」
「よくやってるよね」
「私も昔はよくやって貰ったなぁ。最近は傷負わないから全然だけど」


貴方の教育の賜ですか。
青の一族って青の一族って。
脱力に支配されるどん太に、この場に救いの手を差し伸べるものはいなかった。






「うぇー、鉄の味がするー不味い――」
「鉄分含んでいるからな。ちょっとくすぐったかったぞ」
「いいじゃん。番人から守護者へ癒しの贈り物」
「まてやテメェ等」
平然とした二人。そして一人。
そこに突っ込む青の一族ヤンキー三男。
この一族にもまともな思考回路な持ち主はいたらしい。
「なんだいまのはッ!!」
「見て分かるだろ?傷に気送りこんでやったの」
「――――――そんなこと出来たのか」
「さあ?でも効きそうな気ぃするし」
「しないわボケが!!」
もっともらしいシンタローの言葉に納得し掛かったハーレムだったが、そんな思いはすぐに払底させられた。
何で、何でこいつ等はこう……!!
当人達はいたってしれっとしてるし、グンマに置いても動じた様子などない。
気にしてしまう自分が変なのか。
なんともいえない疎外感を覚えつつそれでもハーレムは頑張った。
「お前等少しはおかしいと思わないのか!」
「別に?」
「ああ」
「当たり前だよねぇ?」
「違う!ぅぅぅ!」
頑張れハーレム!
いつになくその場の人間の心が一つになっていた。
「何?ハーレムもして貰いてぇの?」
「んなわけあるか!!」
「しゃーないな」
「人の話を……………ッ!!」
ふっと動いたかと思うとシンタローはすぐさまハーレムの隣にと移動していた。

ちゅ。
右頬に走った柔らかな感覚と、湿った音。
それが頭に届く頃は、ハーレムの顔は真っ赤になっていた。
「て、てめぇ!!」
「何照れてるんだよ。挨拶じゃんか」
「挨拶って言ってもな!」
ハーレムの方がシンタローより僅かに高い。
その僅かな高さのせいで、ちょっと背伸びをして口付けたシンタローはハーレムの反応に思案顔だ。
首を傾げてきょとんとしてるその様は、絶対に自分がおかしいだなんて思っちゃいない。
「……………もう、いい」
どうでも。
「変な奴だな、人が折角祝福してやったってのに」
「祝福って」
「負けるハーレムに慰めの挨拶」
「ぜったい叩きのめす!!」


「ほんと仲いんだからシンちゃんと叔父さん」
「そうだな、喧嘩するほど仲が良いというしな」
絶対違うと思います。
この天然ボケコンビにつっこめるものなどいるわけもなく。
ツッコミだと思っていたシンタローですらやはり一族の一員だった。
何処か遠くを見つめながら、アナウンスが流れるのを待っていた。




『それでは、第2試合開始です!!』
リングの整備が終わり、次の選手の名前が会場に響いた。




『では両者リングへ上がってください!』



そんなティラミスの声と共に、二人の男が対峙する。
絡み合う視線。
片や拳を軽く握り構えを取り、片や背中につるした己の獲物に手をかける。




「………おい」
「んだべ」
「なめとんのかてめぇはッ!!」


一回戦第2試合、リキッドVSミヤギ。
ミヤギが手にした生き字引の筆に対してリキッドは、思わず声を荒げる。



「あいつ知らなかったっけ?ミヤギの筆のこと」
「使ってたっちゃよ」
「あ、俺体借りてたわ」
「なるほどのぅ」
「………それで済ますのかお前等」
それじゃ仕方ないなぁと笑い声を上げる四人に、流石にハーレムは元部下にほんの少しばかり同情をした。
と、いうよりも。
「あの馬鹿でかい筆が何なんだよ?」
「……ハーレムはいたよな?」
「使ったすぐ後に来てたっちゃ」
「多分、よく分からなかったんじゃろ」






「……馬鹿にされてんじゃねぇかてめぇ」
「知らないなら仕方ねぇべ」
「そんな筆でなにが出来るっ!!」
確かに構えを取る様は決まっている。
だがしかし。
肝心なものがただの筆では、馬鹿にされている気は否めない。
「大体な、同僚の弟子の同僚に負けるはずねぇだろ。一応これでも俺は特選部隊張ってたんだ…なのに相手の獲物が筆とは……」
明らかに馬鹿にした様子のリキッド。
大仰な溜息に、ミヤギのこめかみがぴくりと動く。
「アホなヤンキーにんなこと言われたくないべッ」
「方言ばりばりヤローが何を言う!」
「東北弁をバカにすんでねぇ!立派な文化の一つなんだべ無駄にでかいリーゼントしてるだけのヤンキーごときにこの高尚な諸地域の文化を分かった風に言われたくないべ!!」
「何がこうしょうだ何が!!」
「おめ絶対漢字で言えてねぇべ!!」



『………あ、あの試合開始してください』




ティラミスの控えめな申し出に、ようやく火蓋は切って落とされた。







「その筆見ると、戦意失うんだけど」
「俺の誇れる武器はこれなんだべッ」
「…………ただでさえ同僚の弟子の同僚相手だし、丁度良いか」
あからさまな物言いに、ミヤギの額に青筋が浮き出た。
だれきった姿勢。
いつでもきやがれと言うようなリキッドに、ミヤギは反撃を開始した。
「確かに俺はおめの同僚の弟子の同僚だけどな、総帥の同僚でもあるんだべ!」
「う、」
「それに総帥直々の部下でもあったんだべな俺は」
「それがどうした俺は特選部隊の一員だ!」
「マジック様とハーレム様のどちらが強いと思ってるんだべおめはッ!!」


うわ究極の選択。


この場合問いを発したミヤギは、特に問題はない。
この問いを発した時点で、彼自身はマジックのほうが強いと思っているととれる。(だってマジックの部下だったしリキッドに格下と見られているミヤギが同等もしくは上と思わせるにはどの人物の下に付いているかが問題になるわけだ)。
が、そちらの方を深くとる人間はこの場合あまりいない。
どちらかと言わなくとも問いを向けられた人物、リキッドにと注目が行くのは必然だ。




「どっちを強いとおもっとるかの」
「さーな……とりあえず本気ではマジックのが強いと思ってるんだけど下手に自分はハーレムより弱くて後の報復に耐えられないことを分かっているからそうとも言えずしかもハーレムって言ったらマジックも黙っちゃいないだろな」
「………辛口だな」
「だってあいつミヤギのこと馬鹿にしてるじゃん。相手の力量を見下して嘗めてかかる奴は、弱い」
シンタローの言葉にすぐ後ろのトットリが真剣に頷いている。
大切な親友を悪く言われるのははっきり言って腹正しい。
そして少しばかりハーレムをこき下ろしているシンタローに、いつもの怒の空気は生まれなかった。
ハーレム自身、自分より兄の方が強いことは認めているのだろう。
ただそれを部下に言われるのは別な話なだけで。
しかもシンタローの言っていることは正論だった。
「島に行って呆けたかあいつ」
「とりあえず終わったらいっぺん絞めなきゃいけませんね」
勝っても負けてもどちらを選んでもリキッドを待っているものは変わらない。



「ま、気持ちは分かるんだけどね」
「ん?」
「なんでもないなんでもない」
ポツリと零した本心。
キンタローが聞き止めてしまったがさらりと笑顔で流した。
自分も当初あの筆を見たときは、こいつ本気でやる気なのかと思ったものだ。
でもシンタローがリキッドの弁護に回ることなど考えるはずもなく。
筆の威力にどう反応するのか、うきうきと行方を見守っている。





「そっ!そそそそそそ、そんなの決まってるだろッ!?」
「どっちだべ」
「だ、だからあれだよ!」
「あれって」
『いいからいい加減普通に試合しなさいあんた達』
狼狽えるリキッドにようやく救いの声。
高松が呆れた声で試合を促す。
その言葉に、リキッドはようやく我を取り戻した。

「そうだっ!いつまでもこんなくだんねぇ茶番やってられるか、行くぜ!!」
「逃げたべな………」
そういいつつも、確かにこのまま口喧嘩では拉致が開かない。
リキッドがやる気になったのを見て、ミヤギが構え直した次には。

すぐ傍にまで迫ってきていた。

「うらッ!!」
「くっ!!」
鋭い拳が、ミヤギに向かって繰り出される。
それを筆でもって交わしてはいるが、押され気味なのは確実にミヤギだった。



「ミヤギくん!」
「………ほう、なかなかやるな」
「ほらヤンキーって喧嘩慣れしてるし?」
「あ、なるほどー!」
「……少しは素直に褒めてやれやシンタロー」
心配そうなトットリの声。
感心の声を上げるキンタローにシンタローは軽口を叩く。
それに納得するグンマにコージは苦笑しながらシンタローの肩を叩いた。
シンタローがリキッドに好意を持っていないのは明かで。
それはやはりリキッドの今いるポジションのせいなのだろうが、それに対して誰も突っ込むことは出来ない。
「俺ヤンキー嫌いだもん」
「お前も十分不良じゃねぇか」
「テメェと一緒にすんな獅子舞」
「シンタローはただ少し短気なだけだろう。こいつは根は真面目なイイコちゃんだよ、特にマジックの前ではな」
「……そう見えるのか?」
「お前はマジックに嫌われるのを一番怖がってるだろ。余計な心配もかけさせたくないのとあいまって優等生してるんだよ、わりと」
「あーそうなのか。お前に言われると否定できねーからなぁ」
「だろ」

「………そんなあっさりとした口調でかなり深いこと話すなよ」
「いや、それよりも話しがずれてるの気にしないかの、普通」
キンタローとシンタロー両名の会話に突っ込むジャンにツッコミを入れるコージ。
そんなコージの隣ではトットリが一人、心配そうにリングに目を向けていた。
「そうだよシンちゃんキンちゃん惚気てる場合じゃないよ、ミヤギくんのこと応援しなくちゃ!」
「………リキッドどうでもいいのかお前は」
「だって僕リキッドくんと話したことほとんどないもん。何か怖いし」
どこまでも自分の感情には正直な青の一族。
グンマもその例に漏れていない。


「多分そろそろ反撃の時間だろ」
「そうじゃな」
そんなシンタローの言葉に合わせたかのように、リングではミヤギの筆が空中を踊った。








「必殺!生き字引の筆―――――!!」
「な、何だッ!?」
リキッドが仕掛けてくる拳を避けたミヤギは、その伸びた腕に筆を走らせる。
『鋼』。
達筆な文字で書かれたそれに、リキッドは眉を顰めた。
―――――と、途端に腕が重くなる。

「って!!」
ズシンと腕からリングに落ちるリキッド。
腕が、リングにとのめり込む。
タンッと軽くリングに降りたったミヤギは勝ち誇ったように口を開いた。
「どうだ!オラの筆の威力思い知ったべかっ!!」
「てめ俺の腕になにしやがった!!」
「この筆はなぁ、漢字で書いた文字の通りに変えることの出来る筆なんだべ。しかも特訓によって一部だけを変えることも可能になったんだべな!!」




「お、レベルアップじゃん」
「ミヤギくんすごいっちゃ~」
選手テントから感嘆の声があがる。





いきなり腕を鋼に変えられたリキッドは、その重さに上手く動かすことは出来ない。
それでも、何か体勢を立て直す。
「…………なるほど」
「その腕じゃ自由に動かせねぇべ」
「元特選部隊を、甘く見るなよッ!!」

そういってリキッドは、地を蹴った。
鋼になった腕を武器としてミヤギに殴りかかる。
その腕はスピードこそないものの威力は十分な物で。
先程のように筆で交わすことは出来ず、けれど避けることは何とか出来た。


「ウラウラウラウラウラウラウラウラぁッ!!」


リキッドの猛攻撃。
してやられたことが悔しいのだろう。
一発事にスピードは増していく。
そして。


ガッ!
少しばかり鈍い音と共に、生き字引の筆が空を舞った。



「これ、誰でも使えるんだよな?」
「………………」
無言は肯定の証。
悔しそうなミヤギの視線に、リキッドはにやりと笑う。


「形勢逆転、だな」






「マズイ!」
「あの武器の弱点は敵の手に回ってしまうとどうしようもないってとこだな!」
「でもリキッドくんって馬鹿だよね!?」
「おう九九は二の段からまともにいえねぇぞ」
「太陽は西から昇ると自信満々に言っていたな」
「鎌倉幕府はいいくにつくろうで2960年に出来たって聞いたっちゃ」
「確かあの筆は漢字じゃないと効力を示さないと……」
「いいや」
シンタローが苦々しげに口を開く。


「ヤンキーは漢字が書けるッ!!」



夜露死苦―――――――――――。
そんな言葉が、皆の頭に横切った。






「覚悟しなっ!!」


「ミヤギくん!」
「ミヤギッ!!」



ミヤギの体に、黒い文字が刻まれる。
―――――――――――が。




「何で何もかわねぇんだッ!?」
「―――――……漢字が、間違っとるべ」
「ナニィ!?」



馬鹿は何処までいっても、馬鹿だった。
『植物』とでも書きたかったのだろうか。
ありそうでないその漢字に、寒い風が二人の間を流れた。



「返して貰うべっ!!」
「あっ!」
しばし呆けに取られたりキッドの隙をついて、ミヤギが筆を取り返す。
ぴしっと筆を突きつけられたリキッドは、しかしすぐに我を取り戻した。


「へっ!ようはかかれなきゃ良いんだろうが。俺にはれっきとした必殺技が―――――」
「別におめにかかんでも使い道は色々ある。今度はこう使うんだべッ!!」
言ったが早いがミヤギはリングにと筆を滑らせた。
大きく書かれたその文字は。



把婦輪。



「コレで絶対おめは必殺技がだせんべ!!」
「………これって何で出せなくなるんだよ!ぐだぐだいってんじゃねぇよいくぜッ」
そういってリングを蹴ったリキッドは、次に聞こえた声にピタリと動きを止めた。


『痛いぞリキッド。僕に攻撃するなんて良い度胸だな』
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


胸を張ったミヤギが、その口端を上げた。
「このリング、パプワくんに変えさせて貰ったべ!おめが必殺技なんかだそうとしたら、わかるべな?」
「べっ、別に俺パプワなんか怖くねーもん!帰った後多少怒られようが」


みし。


嫌な音が、選手テントの方から聞こえる。
恐る恐るリキッドがそちらの方に視線を向ければ。
「―――――――そのリングを少しでも欠けさせて見ろ。容赦しねぇぞ」

笑ってない笑顔の人が、椅子をひとつ破損させていた。



「………………、俺が動けなかったら、お前だって動けねーだろがッ!」
顔色を真っ青にさせたリキッドは苦し紛れに反論する。
しかしミヤギはなにやらリングに両手を優しく付けながら、何か話しかけている。
「御免なパプワくん。少し痛いかもしれんけど我慢してもらえるべか?なるべくリングに足付けないようにするべ」
『大丈夫だ。僕はそんなに柔じゃない』
「ちょっとパプワお前それなに!?」
『だってお前は家政夫だがミヤギはシンタローの友達だからな。友達の友達はトモダチだ』
いまだにまともに飯も作れんやつが、文句言うな。
そうキッパリと言われたリキッドは、青を通り越して白い。
立ち尽くしたリキッドにミヤギが、高く飛んで筆を走らせた。




植物―――――――――。




必殺技、エレクトリカルパレードを出す前に植物に変えられたリキッドは。
動くことは敵わず試合続行不可能とされ、第2試合はミヤギの勝利に終わった。




「ありがとなパプワくん」
「―――――……パプワ」
ミヤギはきょうりょくして貰ったパプワにお礼を言い、少し離れたところではシンタローが先程のパプワの言葉に嬉しそうに笑っていた。





「さてこいつはどんな実をならすのかな~」
そして植物となったリキッドは、ハーレム隊長の手によって鉢に植えられて水を与えられていたりした。

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