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「じゃあ、お父さんお仕事がんばってねっ!」
「うん……行ってくるね…………お父さん頑張ってくるよッ………!!」
「兄さんいい加減にしてくれ」



ごすッ。



マジックの後頭部に容赦のない蹴りが入る。
腕に抱き込まれているシンタローには無論分からない。
先程から上記のようなやり取りを何回繰り返しているのだろうか。
だばだばと血涙を流しながら息子を抱き締める兄にいい加減にしびれを切らしたサービスが、その首根っこを掴んでシンタローから距離を取らせる。
「いい加減執務時間は始まってる。チョコレートロマンスが困ってるだろう」
戸口には総帥付きの秘書の一人、チョコレートロマンスが時間を気にしながらマジックを待っていた。
手には書類の束。
「シンタローのためにも行け」
ここでマジックがぐずぐずしている間にも仕事はたまり、後で苦労するのはシンタローで。
結局会う時間は少なくなってしまう。


「じゃあグンマキンタロー、後は頼んだぞ」
「うん、叔父様も頑張ってね」
「じゃあシンタロー、俺達も行くか」




シンタローが外見中身共に五歳児になってから早10日。
繰り返される朝の風景に、サービスの口から溜息が漏れるのもいつものことだった。


















君がいるから僕がいる。


















「データをなくしてしまいました」
その高松の言葉にガンマ砲が数発たたき込まれた。
それでも威力が弱かったのは五歳児シンタローを皆が可愛がっているからだろう。


「生きてるか高松……?」


唯一高松に安否の声をかけるジャンは、ここで高松がくたばってしまったらなんのことはない、己にその役目が回ってくると分かっているからだ。
グンマは工学系だしキンタローもバイオ系にはまだ特に手を付けていない。
よって生体科学者を目指しているジャンは丁度良いわけだ。



「………作れないとは言ってませんよ、ただ時間がかかるだけです」
幸いサンプルが残ってますし。
「俺も手伝おうか」
焦げている高松がよれよれになりながらも声を出す。
その言葉にジャンがほっとした顔で手伝いを名乗り上げれば、他からストップが掛かった。
「ジャンにはシンタローの代わりやって貰わないと」
「そうそう、同じ顔なんだしね」
「俺が総帥の仕事できるわけないだろ!?」
しれっとした顔でとんでもないことを言うサービスとマジックにジャンは抗議の声を上げる。
が。
「何も総帥の仕事をやれとは言っていないよ。流石に無理だろうしね」
「その辺は兄さんに任すとして、外交はジャンがやらないと。兄さんでも顔は十分利くんだけどシンタローの不在を知られたくないからね」
「それって結局総帥の仕事……」
「ああ、別に遠征でもいいね。顔も同じだし能力も変わらない。うってつけじゃないか?」
弱々しくジャンがなお抗議しようとすればあっさりと切って捨てられた。
「チョコレートロマンスやティラミスには流石に知らせるけど、あまり広めたくないからね……、その辺はやって貰わないと」
私だって本当はシンちゃんと過ごしてたいんだけど。
流石にガンマ団が機能しなくなるのはまずいと思うらしい。
不満そうな顔のマジックに、仕方なくジャンも言うことを聞くことにする。
「じゃあ僕は兄さんとジャンのサポートに回るから……」
「シンちゃんは僕たちが見てるね!!ね、キンちゃん!!」
「ああ」
嬉しそうなグンマに、キンタローも頷いた。
確かにこの二人に任せておくのが一番だろう。
それぞれの役割を決め、秘書二人を呼びだしてこの話はおしまいになった。








そして日にちは過ぎ朝のような状態を繰り返す。
サービスの役目はすっかりマジックの見張りとなってしまった。
意外にもジャンは割合平和に日々を過ごしている。
近しい者には事の次第を教えてあるし、それ以外の者には特にばれるようなことはなかった。
高松の薬が出来上がるにはもう少し掛かるらしいが目途はたったようで。
従兄同士は今日も楽しく過ごしていた。





















「シンちゃんプリン食べるー?」
「食べる!」
「それじゃお茶を入れるか」
三人がいるのはグンマの研究室内。
個人用の研究室内は休憩スペースもきちんと取ってある。
決して急ぐ研究もしていなく、シンタローが二人の邪魔をするということはなかったので時間をとることは簡単だった。
研究片手にシンタローを構うのが二人の日課。
キンタローがお茶を入れてくれば、グンマは嬉しそうにシンタローにプリンを食べさせていた。

「はいっ、シンちゃんあーんv」
「あーん」

これほどまでに甲斐甲斐しく誰かの世話をするグンマというのはキンタローは初めてみる。(他の誰もにとってもそうであるが)
掬ったプリンを口に運んでやり、少し汚れた口元をすかさず拭いてあげている様はまるで母親のようだ。
思えばグンマは保護する対象とされるばかりで、このような経験は初めてなのだろう。
幼い頃周りはすでに大人ばかりであったし、同い年のシンタローと言えばグンマをひっぱっていく立場。
シンタローの弟は幼いままに幽閉されたと聞いたし。
守る対象がいることはやはり違うらしい。


煎れてきたお茶をテーブルに置くとグンマは人なつっこいその笑みでキンタローを振り向いた。
「ありがとうキンちゃん!早く一緒にプリン食べよ」
「ああ」
そしてにこやかに笑みを返すキンタロー。
そんな二人に嬉しそうなシンタロー。
微笑ましい、理想の家族がここにあった。





















「………兄さんこの部屋の監視カメラを外されたくなかったらいい加減仕事を再開してくれ」
「ううう……シンちゃーん………グンちゃんってばずるい~それは私の役目だったのにッ」
「グズグズ言ってるとモニター消すよ?」
先程の三人の様子を逐一撮している監視カメラ。
送られている映像に付きっきりの現総帥代理なマジックをサービスは内線片手に見張っている。
手だけは動かし始めたのでカメラ没収は止めにするがいちいち愚痴を聞いてるのは胃に悪い。
と言うよりストレスが溜まる。
息子が可愛くて仕方ないのは知っているがそこはそれ。
マジックの仕事が片づかなければ自分だって構いにいけやしない。
「僕もシンタローに会いに行きたいな…」
「サービス駄目だぞ!私だって我慢してるんだッ!!」
「だから早く仕事終わらせればその分我慢しなくても良いだろう。兄さんが終わらなきゃ僕だって行けないのは重々承知なんだから」
ポツリと零せばほんっきに泣きそうな兄の態度にサービスでなくたって情けなくなる。
前に抜け出そうと試みたがその後チョコレートロマンスとティラミスの二人に散々泣きつかれて結局時間は潰れたことは記憶に新しい。
「こういう役割はハーレムの筈なんだけど」
とりあえず仕事は有能ぶりを発する兄を見張りながら、サービスは溜息を深く付いたのだった。

























「シンちゃん寝ちゃったねぇ」
「小さいからな、体力がないんだろう」
気付けば寝息を立てていたシンタローを、キンタローがそっと抱き上げる。
近くのソファにと寝かせれば、グンマが毛布を出してきた。
首元まできちんとかけてやりながらその頬を指で軽くつついた。
「知らなかったな」
「……何をだ?」
「シンちゃんも、僕と同じだったんだってこと」
額にかかる少し長めの黒髪を払ってやりながらグンマは続ける。
「このころは、も、かな?何をするにもシンちゃんが僕を引っ張ってくれてね。同じ年な筈なのに僕にはすごく大きく見えてさ、シンちゃんに無理な事ってないんだろうなって思ってた」
自慢だったしねー、そう言うグンマが、口調の割には憂いを帯びて見えるいるのは気のせいではないだろう。
愛おしそうに、けれど何処か切なそうにその指でつうっと頬を撫ぜる。



「シンちゃんのこと好きだったけど、すごく羨ましい部分もあったんだよ。僕のお父さんは死んだって聞いてたし」
その死んでいたはずの父親はキンタローの父親で。
シンタローの父親こそがグンマの父親だった。
勿論グンマにもマジックは優しかったし、父親同然に愛してくれる人が傍にはいた。
それでも。


「何をするにもシンちゃんは僕より上だったし……。シンちゃんは一族の異端だって言われてたけど、僕は力が使えなかった。勿論研究の方が好きだったのも事実だけど、やっぱりね」
ぽつぽつと語るグンマの話は全てキンタローには初めてのことだ。
時々『見える』ことはあったが内心の様子など知るべくもなく。
その明るい笑顔に曇りを見いだしたことはキンタローは一度もなかった。
「弱いだなんて思ったことなかった、僕の前で泣いた事なんてなかったから」





「我慢してたことを、僕は分かってあげられなかった」





「……………グンマ、」
「シンちゃん、どうだった?キンちゃんにはどう見えてた?」
泣きそうに顔を歪ませたが、涙は流さなかった。
あのときの、シンタローのように。
グンマの言葉にキンタローは何と言おうかしばし悩んだ。
自分にあるその記憶は憎んでいた記憶が強く、他の記憶がすぐに思い出されない。
自分は外に出られないのに、自由にその体を使っている彼が。
愛されて、明るい笑顔を向けてもらえる彼を。
自分は。










彼がいるせいで自分は孤独でけれど彼がいるから孤独ではなかった。










「夢みたいだった」
「……………夢?」
「ああ」
シンタローの寝顔をのぞき込みながらキンタローは思い出す。
彼がこうやって眠ると会えた。
会おうと思って会っていたわけではない。
ふっとその存在と向き合って。
そしていつの間にか姿を消す。
掴めそうで掴めない、あやふやなその存在。
「実際俺もよくは分からない。ただ同じように成長しているのだけは分かったかな………」
思い出そうとすれば余計に靄が掛かったように薄れる記憶。
いつも泣きそうだった男が、切なそうに笑っていたのはいつの頃だったか。



「ん、…………」



寝ているシンタローが寝返りを打つ。
零れた声に起こしてしまったかと二人はどきりとしたが、起きる様子はない。
収まりが悪いのか少し体をもぞもぞとさせ、眉間に小さくしわを寄せている。


「「あ」」


すうっと消えた額のしわ。
落ち着いた寝息に二人は安堵と嬉しさを覚える。
小さな手に握られた二本の指。
きゅっと強く握られた手からおくられてくる体温は少し高めで。





「小さいね」
「ああ」





守りたいと、そう思う。

























「…………………兄さんいなくて良かったな」
その様子を観察している者が一人。
総帥室でモニターを眺めているサービスだ。
微笑ましい風景は、マジックがこの場にいたらぶちこわされていたことだろう。
マジックは外交のために席を外していた。
ジャンが遠征の方の様子を見に出かけていたためだが、本気に良かったとサービスは思う。
暴走するマジックを止めるのはシンタローの役目だ。
ガンマ砲の2、3発でも放っておしまいとなるのが常なのだが今はそれが通用しない。
何しろ父親にべったりだった時期。
奇異な視線を向けられる中父親だけが信じられるものだったから。
子どもだからこそ好意的でない雰囲気を敏感に感じ取れる。
シンタローにとってマジックは本当に唯一縋れる者だったのだろう。
「……………ん?まて」
そこでふとサービスは気付いた。
シンタローが子どもになってしまったその日。
これまで誰もが知らなかった、いやキンタローだけは知っていただろうがシンタローの抱えていた秘密。
「知ってたんだよなシンタローは、キンタローが自分の内にいることを」
マジックのいる間は仕事の邪魔になると消音にしておいたモニターだが、一人になってからはしっかりと音も聞いていた。
無論二人の会話も全て承知している。
キンタローの言葉から察するに。

「……自分の中にいる同い年の少年。しかも金髪に青い目……」
マジックに似ているのがどちらかと言われれば、答えは一目瞭然だろう。

「―――――――知っていた?」

あんなころから?



「もう今更だが………」



他に気付いている人はいるのかいないのか。
本当に今更なのだが。
なんだか酷くサービスはやるせない気になったのだった。




































「シンちゃんは僕が守るって決めたの―――――!お父さまは総帥やってていいから!!」
「ひどいグンちゃん昼間ずっとシンちゃんに付きっきりなんだから夜ぐらい一緒に寝かせてくれたっていいじゃないかッ!!」





ぎゅうっとシンタローを腕の中に抱き締めたグンマは、あのマジックと対等に争いを続けていた。
無論幼いシンタローの手前ガンマ砲を使うわけにもいかないので本気でないと言えばないが、このグンマはキンタローのサポートがあったとは言え初めて見事なガンマ砲を撃った。
力がないわけではなく、ただ無意識に抑えてしまっていたのだろう。
彼の子どものころも色々とあったのだから。
それはマジックの本当の息子という事実の前に解けたのだろうか。
けれどあれ以来彼は特にその力を伸ばそうという気はないようだった。
確かにグンマには白衣を着て工具をいじっている方がよっぽど似合う。
楽しそうであるし。
けれど二人で本気になったらガンマ団崩壊も嘘ではない。
そんな意味ではある意味平和に言い争い。
両者とも一歩も譲らない。



「…………グンマは絶対誰かの保護が必要な人間だと思ってたんだけどね」
「あいつはあれで芯が強いし意外に頑固だ。周りが勝手に勘違いしてるんだろう」
ポソリと零したサービスの言葉を、キンタローが返した。


「グンマには俺も色々と……支えて貰っている」


相変わらず淡々と喋るキンタローにサービスは尊敬していた兄の面影を見いだした。
そう。
事の始まりは自分らの復讐。
冷たいとしかとれなかった長兄への的外れな恨み。
愛して止まない自分の息子が、弟の息子だと知ったときのその驚きを。
若かったなぁと。
サービスはそうひとつ思うことでこのことは流すことにした。
過去に捕らわれるのはもうまっぴらだ。
どれだけ何を思おうが変わることはない事実なのだし。





「兄さんの息子だしね」
「ああ」






「杞憂だったなぁ」
「何がだ?」
「うん、いやつまらない話し」
血のつながりがどうだとか。
もう本当にそんなことは関係ないだろう。
これだけ本気に愛して貰っているのを感じ取れない人間はいない。




「シンちゃんは僕と一緒に寝るの!!」
「駄目だよ!!シンちゃんは夜中よく寝ぼけてお気に入りのぬいぐるみと間違ってちゅうしてきてくれるんだからいくらグンちゃんでもその役は譲れない!」
「あ、ずるいそんなの初耳だよ!!」









………………例えそれが激しく通常の愛情を逸脱していたとしても。







『シンちゃんはどっちと寝たい!?』
「みんなで一緒に寝よう?」
『そうだねv』












本人がとても幸せそうなのだから。
















「なぁキンタロー」
「ん?」
「お前シンタローのこと好きか」
じっとキンタローを見つめるアイスブルー。
キンタローはその言葉に一瞬きょとんとして。













「ああ」
迷いのない笑顔で彼は言いきった。






























「で、ジャン私はコレをどうするべきでしょうか」
「そだなぁ廃棄処分?」
「勿体ないですよね――――、かなり良い出来なんですけど」
「でも多分見ない振りされる気がするぞ俺は」
「私もです」
「なーんか水差すって言うかさぁ」
「悪者ですよねまるで」


はぁ―――――――。


廊下の隅っこ壁際で。
ヤンキー座りで秘密会議をしている大人二人。
でかい溜息が漏れるのも無理はない。




「シンタロー元に戻るのいつだろうな」




完成された薬を目の前に、二人はやはり溜息を付いたのだった。




 
 


後日談。




「なぁシンタロー……」
「おめいつまでここにいるつもりだべ」
幹部用の寮部屋。
総帥がいるのはおかしくないのがここまで入り浸るのはおかしい。


「……………………」


目立つ赤いブレザーではなく、一般団員と同じ制服。
紛れていれば自分たちはともかく、兵士達にはあまりばれない。
最近姿を見せてなかったと思いきやいきなり居座り始めたシンタローにミヤギ達は疑問顔。
私宅にシンタローはもう何日も帰っていない。


「シンタロー、グンマ博士が心配してたけぇ戻ったらどうだ?」


ぴくりと肩を動かすシンタロー。
しかし動く様子は欠片もない。


やれやれといったようにミヤギトットリコージの3人は肩をすくめた。
こんなになったシンタローが動くとも思えない。





「……………いたら迷惑か?」





「いや別に迷惑ではないっちゃよ?」
「ただなぁ、おめさんの家族がえらく騒いで仕方ないんだべ」
「わしらはかまわんが他の奴らがのぅ」



ようやく返ってきた声にコージ達は順に答えを返す。



「シンタローはん!わてはいくらでもいてくだはってかまいま「おめは黙ってろ」
「ややこしくなるっちゃ」



しゅぴっと出した生き字引の筆で古毛四と書かれるアラシヤマ。
トットリがコージの方に追いやってコージはそれを部屋の奥にと片づけた。




             んだ。
「「「…………何があった」」」っちゃ。
             だべ。




重なった3人の声にシンタローは。







「聞くな」






「「「はい」」」







総帥が通常業務に戻るまでもうしばし。








「どういう顔して今更会えってんだよッ」
総帥談。














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