「うぁーん、チンさんなんかに負けちゃったわいや~!!」
「こんのクソがきゃあ!負けてもその言い草かッ!!」
第三試合はトットリVSジャン。
なかなかに良い試合はしていたと思うが、やはり実戦の差が大きかった。
一つ大がかりな技が出たかと思うと、トットリが地に倒れ伏していた。
完全に気を失っているその状態に勝利者はジャンとなる。
大きく勝利者の名をティラミスが挙げた途端、目を覚ましたのは流石だろうか。
しかし、本人的にはあのジャンに負けたことが本当に悔しいらしく、参加者席に戻っても顔を膨らませている。
「トットリ~、しょうがないべ?」
「そうそう。 無駄に 長く生きてるんだからそりゃもう ずる賢い手を使う のは天下一品だぜぇ? 不意打ち食らった 俺が言うんだから間違いない!」
「――――…本当にお前俺嫌いだよな………!!」
「好きだなんて言ったこと一回もねぇ」
肩を叩くミヤギに、シンタローもトットリを慰めている。
というかジャンを苛めている。
勝ったはずなのになんだかとんでもない仕打ちを受けていやしないだろうか。
けどこれで負けていたとしても激しく罵られるに違いない。
結局どっちに転んでも自分に良いことなぞないジャンは、だくだくと血の涙を流しながら肩を落としている。
「キンタローどうした?救急箱なんか持って」
「いや…二人とも大きな怪我はないがかすり傷が多いから…手当はして置いた方がいいだろう?ジャン、ほら右腕のところ血が出てる」
姿を消していたキンタローが、緑十字の付いた木の箱を持って帰ってくる。
それに首を傾げれば彼は中身を出しながら説明をしてくれた。
トットリの隣にいるミヤギにも、消毒液やらカットバンやらを手渡すキンタローはジャンの腕を軽く引いた。
自分の隣りに座るよう促せば、ジャンの顔がへにゃりと歪んだ物になる。
「キンタロォっ!!お前だけだ俺のことを労ってくれるのは………ッ!!」
バッと両腕を広げて、消毒液片手にジャンを真っ直ぐ見据えているキンタローをジャンは感激の勢いに任せて抱き締めようとした。
が、それはかなわない。
ものすごい速さでキンタローの横から足(スニーカーだったはずがいつの間にか軍用ブーツに変わっているのがさらに辛い)が伸びてきて顔面にジャストヒット。
めきょ、と完璧に足がのめり込んだのをまって後ろから首根っこを捕まれたジャンは勢いよくキンタローから引き剥がされる。(いや、まだ手も触れてすらいなかったが)
ふらりと意識が遠のきそうになったが、そこは元赤の番人。
こんな大勢の前で、(しかも試合でもないのに)気を失うなんてプライドが許さない。(まだある、あるんだ!)
ぐらりと揺れる視界をなんとか正常に保って、衝撃の元へと口を開いた。
「てめなにしやがるシンタローッ!」
「テメェこそ何馴れ馴れしく触ろうとしてんだ、あぁ!?」
こっちだって本気(とかいてマジと読む)で怒るぞと凄んでみせれば数倍増しの睨みでもって返される。
やばいやぶ蛇だった。
と思ってももう遅い。
キンタローをしっかりと抱えるようにしていたシンタローは、彼をさりげなく自分の後方にと押しやるとずずいっと前に出てくる。
それに合わせてジャンも後ろにと身体を仰け反ろうとするが、いかんせん首根っこを捕まれた状態では不可能だ。
というか、掴んでいる人物も確認したいのだがひしひしと感じる殺気に振り向きたくない。
「お前なんぞに触られたらキンタローが減る!」
「減るって、減るわきゃないだろッ!!」
「いいや減るッ!なんか絶対悪影響が出る!!」
「アホかぁぁぁぁぁッ!!」
ぜぇぜぇと、声を張り上げながら(もしかしたら試合中よりも疲れるかも知れない)シンタローの容赦のない言い分にジャンは項垂れる。
神様(つうか秘石さま?)、そんなに俺悪いことしましたか?
いや確かにシンタローに恨まれる節は色々と思い当たって思い当たりすぎていやなんですけども。
「シンタロー、何か問題でもあったのか?」
「ああ大有りだ。大有りだからお前はこの紙に書いてあることを口に出して読め」
かさりといつの間に用意していたのか小さな紙切れを、キンタローに手渡すシンタローの目線は鋭い。
確かに色んな事をしたけれど。
どうしてここまで俺だけが恨まれなきゃいけないんだろうか。
隅々にまで棘があるシンタローの言葉の暴力はいい加減辛い。
「小鳥の首キュッキュッ」
「ゲフォッ!!」
背後で激しく嫌な音がした。
背中にかかる生暖かく錆くさいものから意識を逸らしたい物の、そんなことをさせてくれるほど青の一族は優しくはなかった。
「シンタローてめぇ何考えてやがる!?」
「あ……、これ対ハーレム用のやつだったわーるい」
「んな爽やかな笑顔で誤魔化される思ってんのかぁッ!!」
間に挟んで怒鳴り合わないでください。
そんな願いが届くはずもなく、いつ終わるのかと思いながらジャンは細く息を吐くのだった。
「シンタロー、コージを応援しなくて良いのか?」
「あ、やべ試合始まった?」
「いまチョコレートロマンスが開始の合図をしたところだ」
キンタローの言葉に、シンタローはぱっと意識を切り替える。
ああ流石だなと思いもするが、結局はただの気分の問題か。
天然俺様め……!!と、もう口に出すことすらしたくない。
ハーレムもコージの対戦相手はGなことから興味を無くしたようだ。
ぱっと手を離されてぼとっと地に落ちる。
キンタローが遠くでなにやら心配してくれるような声が聞こえるけれどもいいんです。
シンタローもハーレムも俺をあんたに近づけたくない理由は、よく分かるから。
次の試合が始まるまで寝ていよう。
そっと掛けられた毛布と、横に置かれた救急箱に涙が滲みつつ。
今度こそジャンは意識を遠ざけたのだった。
「シンタロー、本当に良いのか?」
「いーんだよ別にあいつはあれで」
まだ気にかけたように後ろを振り返ろうとするキンタローの腕を無理矢理引いて、椅子にと落ち着く。
キンタローはそんなシンタローに肩をすくめながらも隣りに腰を下ろした。
「あーもう、チンさんにはまだまだ敵わないっちゃ」
「あれでやっぱり強ぇんだべな~」
「やっぱり基本がすげぇしっかりしてるんだよな、むかつくことに。年の功には勝てねぇ」
「やっぱあれだべか?技と体捌きはどっちが得意なんだべか」
「ん~、体捌きは僕も自信あったんだったちゃ。けどやっぱりあの衝撃波と組み合わせられるとかなり…」
「あれはすごかったなー…、途中で俺も目追い付かなかった」
「ギリギリ動きは追えたんだけど、反応しきれなかったっちゃ~…」
「……………………」
いきなり真面目に先程の試合に話し合い出す男達に、キンタローはしばし考え込む。
口元に手を当ててそのまま三人の話を聞いているが、不意に手を叩く。
「本人の目の前では素直に言いたくないのか」
「アイツの実力だけは認めるが、それ以外は認めてない」
きぱっと答えるシンタローに、キンタローは珍しく苦笑を零した。
そんなキンタローを軽く小突きつつ、シンタローはコージの試合を集中して見始める。
コージとG。
二人は割と正当派な戦いをするが、それでも気になることがひとつあった。
「なぁ……コージの必殺技って、何」
「「さぁ」」
シンタローの呟きは、即座にハモって答えられた。
そこまで来るといっそ清々しい。
多分、そうだ。
そうなんだ。
「ねぇよな」
「「うん」」
誰もが思っていて口にしなかったこと(いや前に本人が言ったような)をあっさり口にしたシンタローに、ミヤギとトットリもあっさりと同意する。
その会話を聞いている実は割と常識人なロッドがそれで良いのかお前等と内心でツッコミを入れているが、口に出すことはしない。(だって新総帥天然俺様だし)
なまづめハーガス君がいるわけもなく、キヌガサ君を担いでリングにあがるわけもいかず。(って言うか持ち帰ったっけキヌガサ君)
「でもこの間、確か相当良い日本刀を強化してくれって……」
「あ、そういや持ってるな」
「勿体ないかと思ったんだが、ここには特殊破も多いし……、元の切れ味は変えないよう強化コーティングを施してある」
確かに、リング上にいるコージはその手に日本刀を握っていた。
肉弾戦をやっている今、Gに間合いを計られてなかなかそれを取りだすことはしていない。
次々に繰り出されていくその拳を避ける。
力の込められたそれはとても重そうだった。
実際一つ、地響きが鳴るたびにリングの形が変わっていく。
「――――…これ、次の試合出来るのかぁ?」
「一応修復作業員は待機させているが…、それじゃ間に合いそうもないな」
ドゴッ、と鈍い音と共にリングまわりにリングの破片が増えていく。
見る見るうちに数を増すそれを、キンタローが眉を顰めて見つめている。
「キンタロー、発注」
「ラジャ」
言うが早いがキンタローは席を立ち、後ろの方で携帯片手に話し始める。
それを確認してシンタローは改めてコージの試合を見やった。
スピードこそジャン達よりは遅いが、やはりパワーが桁違いだ。
まともに受けたらかなりのダメージだろう。
今のところ優勢なのはG。
コージは避けるのがやっと、というところだろうか。
「コージ根性見せろ――――ッ!!」
「G!若輩者に負けるんじゃないぞ!!」
シンタローのコージへの声援に、マーカーからもGへ声が飛んだ。
ふっとそちらに顔を向けると同じように彼もこちらを向いており、目があった瞬間にやりと笑ってやる。
「とてつもなく今更かも知れないが」
「どしたべキンタローさん」
「何か問題あったっちゃ?」
「シンタローは主催である総帥なくせに、特定な人物だけを応援して良いのか?」
キンタローのそんな疑問は。
本人によって解決される。
「総帥の前に一人の人間だし?」
その言葉にキンタローは、小さく息を吐くことで終わらせる。
まぁたしかにその通りではあるし。
コージとGの試合に到っては、今までで一番まともな声援だろう。(と言うか今までは対戦相手側に私怨がありまくりだった)
「コージはどうだ?」
「ってお前もコージ気にしてるじゃん」
「いや、俺が改良した日本刀がどう使ってるか気になって」
「それもなんか酷くないか?」
「俺はGにも世話になっている。この試合はどちらかだけは応援しにくい」
ああなるほどと。
シンタローは数回小さく頷く。
最初にキンタローが接したのは特選部隊のやつらだ。
何も知らないキンタローへ、多少の事柄を教えたのは彼らであって。
それが残っているキンタローは、まぁ彼らに懐いているんだろう。
なんだかんだでハーレムもキンタローのことは気にかけているようだから。
「しっかしなかなかコージに間合いを詰めさせないな」
「そうだな……、これで終わりにはならないだろうが」
ドッゴォォォォッツ!!
ひときわ大きな音がしたかと思うと、参加者席の目の前にこれまたひときわ大きなリングの破片。
ぱらぱらと余韻なのか、細かな石の破片が最前列で見物していたシンタローとキンタローにふりかかる。
目の前に大きく立ちふさがった石の固まりに、シンタローは無言で右手を構えた。
「「眼魔砲」」
チュドドォォォォォン。
威力を控えめにした物の、それが二つ重なってはあまり意味がない。
思ったよりも飛び散った破片に、ぎぇだかぐぇだかひきつった声がしたが聞こえなかったことにしよう。
どうせ不死身なヤローの物だし。
「正直どっちが勝ってもよくなってきたんだけど俺」
「そう言うこというな主催者」
思ってもないくせに、と続ければ意味深な笑いが帰ってくる。
確かにある意味膠着状態なのは認めるけれど。
コージは必殺技を持っていない分、人との手合わせをよくしている。
素早さに関しては1、2を争うトットリや、間合いを取ることには長けたミヤギ。
そんな彼らと(もう一人いたような)修練を積んでいるコージは、少しだけ遅いGの攻撃をずっと避けている。
しかし、そこから攻撃に転ずるまではGは許してくれないのだ。
いい加減、二人の緊張感もピークに達しているだろう。
「頃合い見計らって……、出るな」
「確かGの必殺技は………」
「「―――――――――――……」」
「「リング発注して置いてよかった」」
二人揃って脳裏に浮かんだGの必殺技に。
改めて自分たちの行動を褒めるのだった。
トォンと、遠く間合いを取る。
リングの端と端。
そこにお互い位置して相手の様子を伺っている。
すでにリングは何度も叩きつぶされ、平坦な部分の方が少ないくらいだ。
チョコレートロマンスが、よろめきながらなんとか試合の様子を見定めていた。
「なかなか……、やるな」
「これでも鍛えてますんで」
へろっと笑って返すコージに、Gはすっと構えを取る。
相手の力量を見くびるわけではないが、それでもコージは思っていたよりも良い動きをしていた。
しかし、それ以上はなかなか踏み込めなかった。
このままではお互い膠着状態。
試合を長引かせても、体力を無駄に使うだけだ。
あまり使いたくはなかったが、とは思うがこれは真剣勝負。
本気で行かなければ相手にも失礼だ。
そう判断したGは、思い切りリングを蹴りつけ高く飛び上がる。
コージの間合いよりも、自分の技の方が広い範囲。
たぁんっと軽い音をさせたかと思うと、その手をリングにと思い切り叩きつける。
「地爆破ッ!!!」
手を突きつけた先を中心に、地面から振動が怒り爆発が起きる。
一撃必殺の技。
範囲をコントロールするのが面倒な技だが、破壊力はそれと引き替えにしても十分だった。
コージの身体能力なら再起不能ということはないだろう。
そうGは考えていたから、少しばかり気のゆるみが出てしまっていたのだ。
真剣勝負といえど、これは命を賭した勝負ではない。(それはごく一部を除いて、だが)
常識人であるがゆえに招いてしまった油断だった。
もうもうとたちこめる砂煙と、爆破の煙。
それに紛れて。
まさかコージが空から飛んでこようなどとは。
「――――――――…大文字、」
「なッ――――…!?」
「斬りィッ!!!!!!」
キラリと煌めく日本刀が、大きく振りかざされるのが目に入った。
「チョコレートロマンス無事かぁぁぁぁぁッ!!?」
「死ぬかと思ッ………!!!」
参加者席はリングと近い。
けれど参加者席にいるのは皆自分の身は自分で守れる。
そして、一般団員席までは届かない範囲の技。
けれど。
リング上で司会を務めなければいけない総帥秘書はどうなのだろうか。
Gが必殺技を繰り出すだろうと言う予想は付いていたが、司会者のことがすっかり頭か抜け落ちていたシンタローは、技の発動と共にそれを思い出した。
大きな爆発音に耳を押さえながらその安否を問えば、弱々しくぐしゃぐしゃの声が返ってきた。
「よし死んでねぇッ!!」
「――――…シンタロー…」
お前それはないだろうと、呆れた声がかけられた。
確かにチョコレートロマンスだって、ガンマ団の一員で人並み以上の能力を持っているが決して戦闘要員ではない。
それなのに誰よりも間近で試合を見届けなければいけないという、実はさりげなく一番危険な仕事をしているのだ。
「大丈夫大丈夫特別ボーナス弾むし」
「何かあったら使えないだろう…」
もうもうと爆発の凄さを見せる煙を見つめながらキンタローは深く溜息を付いた。
本当に危険になれば助けを出すのだろうと分かっているので、別に良いのだが。(いやよくないです)
それでもあまりと言ってしまえばあまりな発言に、キンタローの眉間には深くシワが刻まれる。
「美人が台無しだぞ」
「………その基準が分からない。それに俺はお前の顔の方が好きだ」
「おー、そうかじゃあ俺自分の顔大事にするからお前も大事にしろ」
「――――…誰かつっこめよ」
「試合前に無駄に命張りたくありません」
疲れたようなハーレムの声音に、マーカーが淡々と答える。
確かにその通りであるが。
誰か奴らに常識という物を教えてやってくれ、という願いを叶えるよりも素手でドラゴンを倒す方が万倍も楽だ。
ふ、と遠い目をしながらハーレムは試合の行方を冷静に(ある意味現実逃避)見ていた。
「どうだろうなぁ……」
「影が一つ、飛びましたからねぇ」
果たして。
どちらが勝ったのか、薄くなる煙を待って宣言されるだろう名前を、待った。
「―――――――…この勝負、引き分け!!」
「誰シードにしようか」
チョコレートロマンスの必死な仕事遂行に。
総帥はそんな言葉を呟いたのだった。
お待たせいたしました!KOFの第三話です~。
この話のコンセプトは天然俺様ゴーイングマイ上へシンタローさんです。
彼が楽しければそれで良い深く考えてはいけない話しです。
今回はなんかジャン苛めに走ってしまいましたねぇ……、御免ジャン。
嫌いじゃないはずだ。
正直どんな試合をするのかよく分からないので逃げまくっていますが、本題はシンちゃんが楽しいか否かなので!どうぞご了承を!!
ハーレムとの絡みをあんまりかけなかったのが今回心残りですか。
つかアラシヤマ氏はどこですか。
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