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人形奇譚









「……これは、困ったねぇ」


あまり困ってなさそうにそう呟くのは、プランツドール店の店主であるマジックだ。
視線の先には、常連客であるシンタロー、に連れられた「友達」の姿。
とうに成人したシンタローと、まだ少年である彼の関係は不可思議であるが「友人」という言葉が一番似合っている。
共に暮らしているというが、それ以上のことをマジックは知らない。
それはシンタローと共に少年がこの店に来たのが初めてであることと、マジックが人に踏み込むことが決してないからだ。
それは職業柄と言うこともあるし、彼の元来の性格からそうなのだろう。
人の感情をいう物を、鋭く感じ取れるシンタローは何度も店に訪れる内にそれだけはわかっていた。
特異体質とも言えるほどに、感情を読むことが得意なシンタローはマジックのそれだけは上手く掴めない。


穏やかな笑みを浮かべているが、時に冷たい光を目に宿す。
おどけた表情を見せる割に、プランツに向ける顔は時に辛そうで。


本心を見せない男だと、それだけは知っている。






「……なんか、悪かったか?」
「悪くないけど悪いねぇ…。シンタローの友人…パプワくんと言ったかい?」


シンタローは、けれどマジックのことを決して嫌いではない。
むしろ好いていると言っていいだろう。
彼の入れるお茶は美味しく、優しい低音は聞いていて心地よい。

何度も訪れる内に、自分に対する態度は大分巫山戯た物になっているがそれもまた、なんだか嬉しい。
本人に告げるには癪であるが、どしゃぶりの雨の中、この店に迷い込んだシンタローに何も言わず温かな紅茶とタオルを出してくれた。
甘いミルクと砂糖菓子の匂い。
時折プランツに語りかけるマジックの声。

何も聞かない、優しい空間にシンタローは確かに癒された。
本心を見せない輩に、伝えるには悔しい事実であるけれど。



「パプワがどうかしたか?」
「シンタローは面白いほどプランツに見向かれないんだけど、パプワくんはその真逆にいるんだよ」
「……うるせぇな、ほっとけ。で、パプワが俺の真逆ってなんだよ?」
「稀にいるんだけどね。どのプランツも無条件に目覚めて、懐いてしまう波長の持ち主」


やれやれと、やはり言葉ほど困っていないようにマジックはパプワを見つめている。
いや、正確にはパプワともう一人を、見つめている。


「……それが、この状況の説明か?」
「そう。気むずかしい、我が儘な子なんだけど……見事に懐いたねぇこれは」




シンタローも困惑気味に、隣をみやる。
しげしげと見つめられることをパプワは何とも思っていないのか、己にべったりくっついて離れないプランツの頭を静かに撫でている。
明るい金色の髪に、空色の瞳。
白くまろやかな頬は薔薇色に染まっている。




「なぁ、こいつの名前は?」
「ん、コタロー、って言うんだけど」
「え、もしかして男なのか?このプランツ」
「可愛いだろう?プランツに性別はあんまり関係ないけど、ま、確かにいわゆる男の子だね」



周りの空気にハートが飛んでいそうな程、パプワに親愛を示すプランツ。
自分よりも小さな少年にくっついたまま、にこにことしている。
マジックの言うとおり、店に入った当初は無表情にミルクを飲んでいただけのプランツだったのだがパプワが近づいた途端その顔は一転した。
華やかな笑顔で、パプワに懐いて今の状態に落ち着いている。
シンタローは口元を引くつかせながら、マジックにさらに問う。



「……このプランツも、選ぶプランツ?」
「勿論。気むずかし屋の我が儘な子だから、選ぶも選ぶ。可愛いけど、本当手の焼く子だよ。そこがまた、可愛いんだけど」
「僕が近づいたから、こうなのか?」



パプワが長身のマジックを見上げながら問う。
あまり表情豊かとは言えない少年だが、マジックとシンタローの会話からあまりよくないことなのかと不安になっているようだ。
マジックはそんなパプワの言葉ににこりと笑って、膝を折って目線を合わせる。




「ここまで懐ける相手に巡り会うっていうことは、プランツには幸せなことだよ。ただ…、君とさよならするのも辛くなるから困ったって言ってるだけ」
「他のプランツも、こうなるのか?」
「君に関して言えばそうだね」
「試してみても良いか?」
「それは流石に勘弁してほしいから、お願いそっちには行かないで」





マジックの言葉に、表情を取り戻した(と、いってもシンタローにしかわからないが)パプワは少し楽しそうに奥へといこうとするがマジックがその手をしっかと握って止める。
浮かべる苦笑はどうやら本当のようで、足をどうにか止めてくれたパプワに椅子を勧めながらコタローの食事を再開させた。
少し嫌がる様子を見せたコタローだったが、パプワに同じくミルクを出せば素直に応じる。
少年二人が静かに、けれど楽しそうにミルクと菓子を口に運ぶのを見やりながらさて、とマジックはシンタローに向かい直る。





「で、どうするんだい?」
「……どうするって?」
「此処まで懐いたプランツを元の通りにメンテするのは私としても結構骨の折れる作業でね。だからといってメンテしなければお別れも出来ないだろうし」
「……だから?」
「引き取るのか取らないのか?一緒に住んでいるって言うなら、シンタローにも聞かないと。シンタローは、プランツ苦手みたいだし」



シンタローにもお茶を出しながらマジックはしれりと言葉を口にする。
もっともなようで、あまりそうでない言葉にシンタローは首を傾げた。




「別に俺に聞かないでも…。家主はパプワって言ったろ」
「確かにそうなんだけど、苦手意識のある人が傍にいるとプランツには良くないからねぇ」
「俺がプランツ苦手なんじゃなくて、プランツが俺を苦手なんだろ」
「……そうでもないと、思うけど」




マジックが少し困ったような笑みを浮かべて、そっと息を吐いた。
シンタローはそれに気づいて、眉を寄せる。



ああ、嫌いな笑みだ。
そんな笑い方を、見たいのではない。




そう考える自分に、シンタローは内心でチッと舌打ちした。
なら何を見たいと望むのか。
この、他人を寄せ付けない男に。







「……俺は、あの子、好きだ」

視線を合わせていることも出来ず、シンタローはパプワを見やった。
口から思わず零れた言葉に、シンタロー自身も驚く。

マジックも意外だったのか、珍しく目を見開いていた。


あ、楽しい。
素直に思ったシンタローは、マジックのそんな表情にあの子を見つけた。



あの子…コタローを一目見て可愛いと思った。
華奢で、一見冷たそうに見えるが笑うと屈託のない幼い感じ。
どこか危うげに見えるコタローを、守ってやりたいと感じた。



そして今。
パプワと笑うコタローを見て、わかった。





コタローはマジックと似ている。






コタローのふとした表情に、マジックを見つけて胸に込み上げる思いがあった。
大事にしたい、と無条件に感じた。


決してコタローとマジックを同じに見てるからではない。
ただ自己満足には変わりないのかもしれないと思いながらも、シンタローはマジックに向き直った。





「コタローは気むずかしいって言ったよな。なんかあっただろ」
「……むかぁしにね。教えられないけど」
「別に良い。けどパプワといるとあんなに楽しそうなんだから、俺はコタローと暮らしたい。俺もコタローにあんな顔させてやりたい。何よりパプワも、すごく楽しそうで……」


二人を見つめるあんたの視線が、愛おしい。








「……あの子を、連れてってくれるのかい?」
「パプワはものっそい資産家だぞ。買うって言うのはあれだけど、貰っていける」
「そんなのはいい」


マジックの言葉遣いに、微妙な変化があった。
いつでも余裕しか見せない彼に、人間くさいところが妙に感じられない彼に、僅かな必死さを感じた。





「あの子を愛してくれるなら、それで構わない」








その一言で。
シンタローとパプワの暮らす家に、またひとり住人が増えることが決まった。

話はサクサクと進んでいき、あっという間にコタローに必要な物がまとめられていった。
パプワとコタローは手を繋いで。
シンタローは抱える荷物の量に、軽い目眩を感じている。



「それではありがとうございました、お客様」
「……あんた結局金奪いまくりやがって」
「人聞きの悪い。コタローにはいらないけど、コタローの服やシーツやミルクやお菓子にいらないなんて、言ってないよ。それにお金払ったのはパプワくんじゃないか」



しれっと言い放ってパプワに綺麗な礼をする男を殴りつけてやりたい。
少し前に見せた様子など微塵もなく、そこには見事な「プランツドール店の主」がいた。
にこにこしながらコタローのことを説明するマジックを、パプワも真剣に話を聞いている。
なんだか自分だけ蚊帳の外のような疎外感を味わいながらシンタローはぼんやりとその様子を見ている。
パプワと強く手を握っているコタロー。
マジックは膝を付きながら、パプワの手をとって丁寧に説明を続けている。


シンタローにもその声は届いていて、きっとマジックも承知しているのだろう。
あくまでパプワに説明する姿勢なのが多少腹が立つが、確かにコタローが選んだのはパプワなのだから仕方ない。


パプワにはシンタローも沢山救って貰った。
そんな彼に、シンタローも何かできればいい。

いつも知らずの内に守っていて貰って、きっとコタローのこともパプワは守るだろう。


そしてコタローも、パプワのことを守ってやれる。




そんな二人を守る事が出来れば。
気の安らぐ時間を、重ねていって貰えれば。

そう、思うのだ。






ぼんやりとシンタローが自分の思考に囚われていれば、いつの間にか話は終わっていた。
一緒にいて上げてね、と締めくくるマジックにパプワは力強く頷く。
パプワのその様子に満足そうな笑みを向けるマジックは、客人達のためにドアを開けた。
こんな風に送り出されるのは初めてで、シンタローはオマケだとしてもこそばゆい物を感じる。
荷物を背負って、先に出る。



シンタローに続いて店から出ようとしたパプワが、通り過ぎるところでマジックを見上げた。
マジックが何かと問うより先に、パプワが口を開く。




「いいのか?」





そっと左手の人差し指を唇に立てて、マジックは口端を上げた。
完璧なその笑みに、パプワはそれ以上何をいうでもなくシンタローを追いかける。
コタローが振り返った。


その瞳に浮かぶ心配の色に、マジックはやはり笑顔で手を振った。












パプワとシンタローの住む家に一人家族が増えた、日のことだった。












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最初はコメディチックにほのぼの、の予定だったんですが妙に薄暗い。
プランツdeパプワをお届けします。

こんな設定で気まぐれに書いていくのです。
楽しいです。
ローゼンも捨てがたかったんですが、やはり元祖のプランツパロが好きです。
ローゼン大好きー。

隠し設定を晒すところまで頑張りたいけど、いつ力尽きるだろうか…(笑)(←笑えない)
あ、パプワくんの家にはチャッピーもいます。もちろんで。
作中に入れられなかったのが心残り。


07/04/08


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