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ゴキゲン







「はぁ~いここからは、エロエロティック・タイムでェす」

「埋めてやるから死んでくれ」

「え~いいじゃないか~。遊ぼうよ」

「仕事中」

「だってもうこれ一つで終わりだろう?」

「…アンタなあ、本気で俺に引き継ぐ気ィあんのか? サポートするっつーからここん所ずっと一緒にいるけど碌に仕事しねェじゃねーか!」

「SMごっこをしよう!」

「………」

「うんあの頸椎ヒットは痛めかななんてはっはっは。シンちゃんがSでいいヨ!」

「あぁ?」

「シンタローのSはサドのSでしょ。パパのMはマゾのMでしょ。ホラぴったり!」

「SはMを埋めてもいいのか?」

「はいはいシンちゃんパパのお膝に座って~! 人間椅子だよ!」

「聞けヨ」

「肉椅子! 家畜人ヤプー! あ、ヤプーだとシンちゃんがMになっちゃうね!」

「……」

「ヤプーってねー未来の話でねー。日本人が白人美人の、んーなんて言うのかな…ぶっちゃけ性隷? こう色々肉体改造とかしちゃってねーェ」

「知ってるよ気色の悪ィ……。アンタの本棚なんなんだ」

「おや、どうしてパパのコレクションをシンちゃんが知ってるのかなァ?」

「う。ッ…不本意ながら。ガキん時に単なる興味で親父の本棚見たんだよ!」

「はっはっは。シンちゃんたら・エッチ★」

「…やってやろうじゃねェの。縛って叩いて磔か? どれからだ?!」

「だ・か・ら。はい膝の上! よぉーしパパ頑張っちゃうゾー」

「…はー………仕事するんだから喋るなよ。黙ってろよイス!」

「わーいv」


 *****


「親父…あのさあマジな話、」

「んー?」

「本気で意味がわからない」

「んー♪」

「単にソファに座ってるアンタの上に座ったこれの、どッこがSMなんだよ! もっとこー器械体操のピラミッドの体勢とか、あンだろ乗られて苦しい格好がよ!」

「んっふっふー♪」

「しゃ・べ・れ。コノヤロウ」

「酷いなァ。黙れって言ったのはシンちゃんじゃないか~。仕事は? いいの?」

「あー……も・いいや。方針は決めたから、どっちにしろ明日キンタローたち招集して草案練るしな……親父も責任とって叩き台の3つや4つ、根性で出せヨ!」

「OK! パパはシンちゃんの責任だったら幾らでもとるさ! じゃあまず結婚しようか!」

「じゃあの意味がわからない。つーか普通のイスにシートベルトはアリマセン。手ェど・け・ろ・よ! この、馬鹿力!」

「え~だって、仕事終わったんでしょ?」

「チッ…………SMぅう~~~?」

「まあまあ。そんなイヤそうな顔しないで。シンちゃんの好きなようにしていいからさv ね?」



「~~~~手、どけろって。…    そっち、向くから」








2003.12.20. BGM:マジックの憂うつ

シンちゃんは幼少パパの蔵書を読みかけましたが
きもち悪くなってやめました。不審感つのるつのる。






「……ご主人さま、」
 ソファの上で、マジックの両脚を跨ぐようにして俺が見下げた光景。
 顔を近づけてほんとうにギリギリのところで熱っぽく呟いたマジックの唇が、俺の唇をちらりと掠めたのに、うわ、と思いながらキスをした。
 初めて呼ばれるその響きに、ぜんぜん慣れていなくて、一気に熱があがった。
 こういう、ちょっとしたところで煽るの巧いよなァ。
 何だか口惜しい思いでゆるりと開いて待っていた口中に舌を伸ばして触れても絡めてこない舌先に、あ、ホントにマグロだ。と思う。
 …Mってマグロの事だったか? ホントにってなんだよ。
 つか、俺主導のキスって。
 これもあんまり、ない。つーか、ない? え、なかった? いやまさかンな事。
 変なところで男の沽券にぐるぐるしてしまう。まだキスの途中だ。
「……俺の好きなように、って?」
 唇を離すと目を合わせるのが忌々しくて、ぎゅ、と強く首に腕を回して確認する。
 …あんまり抗わないから、このまま絞めてしまえるんじゃないかとさえ思った。
「うん」
 頷く感触に、ぞくりと肌が粟立った。ああこのひとが好きだ。
 理窟なく、埒外に。唐突に思う。
 好きなようにって、何だ。好きなのと好きなようにと違うのか。それって俺が今まで好きなようにやってきてないって事なのか。好きな気持ちと好きな行為は違うのか。俺だってちゃんと好きなようにやって、
 っいやいやいや待て待て何だその恥ずかしい考えはッツ!
 頭の中でぐるぐるしすぎて親父を抱きしめたままでいると、俺のとっくに張りつめてしまった部分を一度だけ、撫ぜられた。
 うっわ俺、段取り悪ぅー。
「触れよ」
 しなきゃそれ以上動かなそうだったので、憮然として命令を、した。
 …されたほうは命令だかゴネられたんだか、どう受け取ったかは知らねェけど。
「Sir.Yes.Sir.」
 軍隊なんか統率した事はあっても入った事なんかないだろうに、そう嘯く親父に、ヂ、とファスナーを下ろされて解放され。
「ッ……ゥ…」
 つ、と親指が先端を縁取り撫ぜていく。
 身体の芯の、腰のところ。にぶく重くなるような。
 直接キた快感に眉を寄せた。
 どうされても気持ち良く弄られている自分をうっとり眺めていたのに、視線を感じて顔をあげると嬉しそうな眼があって、瞬間、瞳を伏せた。
「…見てんじゃねぇよ」
 親父の余裕に対して、こっちはなんだかものすごく分が悪い気がする。
 視線を遮るように膝立ちして、マジックのさらさらの金髪を抱えて、唇を合わせた。最中いつもされているみたいなキスじゃなく俺の好き勝手に、キス。
 静かだなあと思うのは、やってる時にいっつも親父が色んな事囁いてくるからだろう。なんて言うか、アイシテルとかスキダとか、親父みたいな事は絶対言いたくない俺主導だと黙々とただ単にやりたい情動だけでやってるだけ、みたいな感じでちょっと複雑な気持ちになった。
 …言葉責めがイイって話じゃないんだが。
 舌にやわく噛みついて引っ張りし出してみたり、唇を重ねるだけだったり。
 ずっと舌を絡めているような濃厚なのじゃない、遊びのようなのを繰り返すのは、俺が子供っポイっていうんじゃなくて。
 ずっとなんてしてたら息が苦しいからであって。
 キスの合間に息をする。
 その間に親父の瞳を至近から覗き込むと、まばたきの先には欲情の色しか見えなかった。煽る手の動きと、キスと、呼吸と、キスを重ねる毎にリズムが重なってきているから、きっと向こうから見ても自分の瞳も同じように欲情しか映していないんだろう。
 そういうキスを繰り返す間に親父は俺の腰が上がっているのを良い事に、下を全部脱がしてしまった。
「   」
 蕾に直に触れられて、すぐ近くの予兆に身奮いしたのに、マジックの指は犯す事なく入り口を行き来する。
「どれが、」
「あ…?」
「どの指入れて欲しい?」
「…! このっ…言、えるかよッ……」 
 欲しくて疼くのは確かだけれど。言いたくないものは言いたくない。
「ちゃんと教えてくれないとパパ分からないなー?」
 くそ、好きなようにしていいって言った癖に! 嘘つき親父めっ!!
 親父の揶揄に頭に来て、今まで寄せていた身体をがばっと起こして蕾を玩ぶ手を引きはがした。腹が立つセリフにすら頭がジンジンする。
「~~~っ俺の好きにしてイイんだろっ!?」
 言い放って中指の爪先に齧りついた。
 マジックが痛みに顔を鹿爪るのを様ァ見ろとしっかり見届けてから飲み込む。爪に喉の手前を引き掻かれて少しだけえずいたが気にしない。続けて人差し指にも噛みついた。
 マジックの眉根の皺が強くなる。
「まったくもって沈黙は金、だねェ。……2本も欲しいんだ?」
 それなのに楽しそうな声音でずばりと指摘されて頬が熱くなった。
 む、ムカつく…!! 
「大体てめえがムリ言うから…ッツ!」
 身包み剥いで喰い尽くしてしまいたくなった。
 感情に任せて勢い引っぱると2人でソファから転がり落ちて、乗り上がる。
 ベッドまでなんて、とてもじゃないが遠すぎて気持ちが間に合わない。
 生憎、ひどく気分が高揚していた。


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くちなしの花







 議定書の原稿にシンタローの決をもらおうと、総帥室に向かった。
 部屋の前では秘書が事務仕事を片づけていたが、俺に気づくと、キンタロー様、と起立する。見知った相手でもある、いつものように俺はかるく手を挙げてそれを制すと、デスクに歩み寄ってシンタローに用がある旨を短く告げた。
 勝手知ったる場所なので案内の必要もない。秘書の先導も断り、何とおりもある下書きの束を持って、総帥室の扉を開いた。

「あっ…は…ぁン!」

 扉を閉めた。
 なんだ。どうして今、扉を閉めたんだ俺は。何故だ。
 理由はあれから既に数秒、経過している今ならもちろん見当がついている。
 扉を開けた瞬間、視覚は眼前に立てられている衝立で遮られていたが、ひときわシンタローの声がフロアに響いたからだ。わかっている。だが考える前に身体は行動していたぞ。何故だ。倫理観? 俺に、この俺に?
 …興味深い。
 ふと秘書の様態が気になって振り向いてみると、ぽかんと口をあけているのが見えた。俺と目があったのに秘書は狼狽えたが、それも少しの間で、また自分の仕事に没頭しはじめる。成る程、と思う。
 つまりよくあることなのだと、推察しておこう。
 知らないこと、わからないことは面白い。
 仕事中でも平時でも臨時でもそれは変わらない。
 好奇心猫をも殺すと言うが、猫でもないので平気だろう。
 と思って、再び扉を開いた。
 一段と毛足の長い絨毯に、踏み入って靴底を沈める。
 かすかに甘い芳香と、情交に喘ぐ声が満ちた部屋へ。
 背後で秘書があわてて椅子を蹴って立ち上がる気配がしたが、俺は彼に声を出される前にさっさと入室して閉めてしまう。
 あの調子だと俺が(否、俺も、か? 否仕事中の情事がよくあることでもニアミスは滅多にないはずだ。あれば耳に入る)諦めて帰ると思っていたのだろうか。
 わかっていないな。
 制止の声などかけられたらふたりに気づかれてしまうじゃないか。
 これが出歯亀というものかと、まるで縁のなかった言葉に妙に感心してしまう。
 静かに歩を進めると衝立の向こう、手前にはソファが対に置かれているのが見えた。床には総帥服の赤いズボン、編み上げの黒い靴、ベルト、下着といった着衣が点々と散乱していた。
 更に奥、上座ともいえるガンマ印を背負う形で、高価な設えの机がある。
 そこに広い、伯父のスーツの背中があった。その腰に絡もうとするシンタローの日焼けしていない素足が、マジックの腰の動きとともに揺れるのが目につく。
 人を乗せる用途は考えられていないだろう机が、押しつけられているシンタローとシンタローに乗りかかるマジックという1人+αの加重に耐えられるのだろうかと気になった。壊れたりしたらそれはそれで面白いのだが。
「父さ……あっやぁっ…! そこ、…ぅんッ」
「ここ…? 気持ちイイ? シンちゃん」
「ん…もっと…!」
「ふふ、積極的だね…溜まってたんだ?」
「ふぁっ…は……馬鹿やろ…言うなよ、んなこと…」
 残念なことに俺の立ち位置から見えるのは先述のとおりマジックの後ろ姿とシンタローの脚だけだ。せめて横から俯瞰できれば良いのだが、それでは気づかれてしまう。ふん、覗きというのもいろいろと面倒なものだな。
 俺は持っていた書類を部屋の角にある花器の脇に置き、あらためて壁に背を預けると、ふと隣から甘い芳香がした。
 眺めると小さな白い花々は、枝振りも見事に活けられている。
 これは何という花だろう。イランイランやムスクには強い催淫作用があるというがこの花も同類か。否そんなものを職場に置くほど馬鹿ではないか。マジックの言うとおり単に仕事に忙殺されて溜まっていただけかもしれない。花の名前は活けた本人であろう秘書にあとで尋ねてみよう。
 それにしても喉が渇く。
 かるく咳払いをすると、シンタローの胸にくちづけを落としていたマジックがぴくりと顔をあげ、抜き身の刃のような瞳をこちらに向けた。
 ああ気づかれてしまったか。
 怒って眼魔砲でも打たれるかと少し緊張して背を浮かせたが、マジックは俺を認めると意外にもにっこり笑ってひとさしゆびを唇に当てた。
 あれは知っている。グンマが時々やる、内緒だよ、の仕草だ。
 伯父も存外稚気のある男だな。俺も倣って唇で笑むとひとさしゆびを当てた。
「とうさん…?」
 俺と紳士協定を結んでいて抜挿がおろそかになったマジックの頬に、シンタローが指先を伸ばして自分のほうを向かせると、ぐいとばかりに引き寄せた。蕩然と、余裕なく行為に夢中でマジックが気をそらした理由にも気づいた風はない。
「うん…シンちゃん、残念だけど、そろそろイこうか…。お仕事まだいっぱい残ってるもんねぇ」
 長いキスの後、やさしく囁いて、マジックはシンタローを無茶苦茶に貫き始めた。
 嬌声と、息遣いと、肌の打ち合う音と、濡れた音。
 マジックは何度も角度を変えては激しく内壁を穿ってシンタローを悦ばせる。
「   ィ…! あ・ああぁッ!!」
 シンタローの爪先が引き攣って、絶頂を迎えたのを知る。間を置かずにマジックも呻いて身を震わせた。
 ふたりとも、暫く黙って荒い呼吸で抱き合っていたが、マジックがシンタローを起こすとその顎を自分の肩に乗せる。シンタローは余韻に浸っているのか充足した顔で瞳を閉じているのが見えた。
「…足りなかったらまた今夜、…ねv」
「ん…」
 甘えるように鼻を鳴らして瞳を開くと、俺と目があった。
 そうか、見えるということは見られる可能性もあるのだな。
 覗きもなかなか奥が深い。
「なッ…! い……!!」
 当て推量だが恐らく、何故、いつからここにという質問だろう。
「なに、ほんの少し前からだ。議定書の原稿を持ってきたぞ」
 言うと真っ赤になって相変わらずシンタローを抱いているマジックを引きはがして逃げると、俺の目の前に汗だくで総帥服の前をはだけた身体が現れた。
「別に今更」
「だよねぇ」
「うるせェ! …っあーもー…何してんだよオメーはよッツ」
「出歯亀だ」
「んなこと堂々と言ってんじゃねェ」
「訊くから答えたまでだろう。……だが色々と勉強になった」
「なんのだ」
「それはパパのテクニックさっv」
「黙りやがれ畜生」
 後始末をしていたマジックが口を挟んだので、シンタローは悔し紛れに毒づき、俺は素直に首肯する。
「ああそれもある。特にあの最後の腰つきは今後の参考に…」
「するな馬鹿ッ!」
 罵倒するシンタローに俺は、やれやれと壁にもたれるのを止め、落ちている総帥服をシンタローに放った。
「さて、総帥の机がベッドじゃないことを思い出せたら服を着るんだな」
 言って俺は喉の渇きを癒すため、三人分の水を持って来ようと、いちど総帥室を後にした。















「あのさ」







 どうやら雲の中に入ったようだ。
 眠るコタローの様子を見に行き、何事もないのを確認すると、ガタガタと大きく上下に揺れる機内を不安定に、狭い通路を歩いていく。
 通路の小さなアクリル製の窓の外を覗き込むと、瞬間目の前が真っ白になる。と思うといきなり大粒の雨が窓を叩き、ふっと視界が開けた先にある黒々と陰影をつけて続くものが雲影なのだと理解した時点でとっくに風勢で水滴は吹き飛ばされている。

「すげぇ風」

 雲間を縫うように飛んでいるのを理解してまた歩き出す。
 たどり着いた先の重厚なドアが開くと、書斎ぐらいの大きさの部屋の中で、真面目な面持ちでソファに座って、マジックも俺と同じように窓の外を見ていた。
 俺と目が合うと、途端に真面目とかけ離れた破顔一笑。

「シンちゃんようこそおかえりご苦労様!」

 …見なかった事に。
 なんつーかもう手の中の俺に模したヌイグルミ(ンな時にまで持ってきてやがったのか)といい浮かれた調子といいただひたすらムカつくので。
 見てない。俺は何も見てない聞いてない。

 さっきまでの激動がまるで嘘みたいにユルい空気。
    いや、嘘じゃない。パプワ島での俺達の運命は絶対に嘘なんかじゃない。
 無理矢理自分の中の時間を5分ほど前、つまり親父のいなかった状態に戻す。親父のテンションにつきあっていたら永遠に俺の話が進まない。
 こっちは真剣なんだ。

「あのさ」

「ん? なんだい」

 俺のひどく勝手な印象だろうが、コタローが親父の腕の中で気を失った時から、このひとは今まで俺が見てきた中で一番穏やかな顔を、している気がする。いや今のコレとはまた違う顔の話で、だ。そこん所は分かっておいてくれ俺。特に俺。思いこみでいいから。

「あ…」

 駄目だ。
 いきなり理由もなくパニックに陥りそうになる。
 知らないのは怖い。ことこの男に関しては特に。
 すべてを知るほど自分が見ていたとは全然思えない。
 もっとちゃんと見ておけばよかった、後悔もよぎる。
 知ろうとしなかった事がただ悔やまれた。
(だから今のコレとは違う話なんだってば忘れんな俺)
 ああ、もう。
 …こんな事にまで、弱い。
 畜生。
 自信なんか全然ねェよ。
 それでも踏ん張れヨ俺。
 言え。

「アンタの総帥席、俺にくれ」

 よし言ったッ。

「これ? いいよーさぁどうぞ!」

「違ーう」

 俺の言葉にマジックはうきうきと机の向こうにあった本革張りのハイバックチェアを差し出してきて脱力した。
 俺の一大決心をお約束でかわすなッ!

「そうじゃなくて…ガンマ団の、親父が今いるガンマ団の総帥の地位を俺に譲って引退しろって言ってんだ」

 なんとか立て直して、ぎり、と睨みつけて言った。言う事に必死だった。
 俺の言葉を受けても、親父の手元は未だヌイグルミを玩んでいる。
 っつか、どっかに置け。それ。邪魔。俺に向かってヌイグルミで手ェ振ってくンな。

「……本気かい?」

「…俺は本気だ」

 反問されると無性に苛立つ。
 分かれよ、自分勝手に思う。親父の事なんて分かろうともしなかった癖に。
 俺が、本気なんだって。
 分かって欲しい。勝手だ。知ってる。
 でも、分かって欲しいんだ。

「さあて…、急な事だ。   話を聞こうか」

 一段、親父の声のトーンが変わった。
 これは、…これがガンマ団総帥マジックの声だ。
 さっきの、パプワ島で見せた時と同じ。
 餓えた獣と向き合っているような、スキのない、くそ、眼が逸らせない。

「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。別にパパはシンタローに反対しているわけじゃない。だけど今は三国相手に仕掛けてる最中だからね。煩雑だよ。色々と」

「戦争は、しない。  殺しはしないんだ。ガンマ団は人殺しの集団じゃなくする」

 瞬きもせず俺が言い切ると、失笑された。
 届かないのか。伝わらないのか。
 まだ俺はアンタの手の中なのか。

「難しいね」

 笑いを収めて俺の目の前に改めて対峙した男に言われて、穴が開いたような失望を覚える。理解してくれと願ってやまない自分に。理解をしない、アンタに。埋まるはずのないものに。
 出来もしない事と。
 俺だって分かるさ。そんなの。
 それでも。それでも。それでも。

「今更そんな風に変えられるかな。…おまえの言うのは夢でしかないよ」

「でも変える」

「どうやって」

 寸分の間もおかずに聞き返されて、言葉に詰まる。

「統制ひとつとった事のないおまえにそれが出来るのかい。それとも殺されかけても平和裏に、そして死ねとでも?」

「ッ…そんな事、出来るわけないだろ!」

 カッと頭に血がのぼった。
 怒鳴り散らしたのだと最初気づけなかった。

「ならどうする」

「   それでも変える。誰でもない俺が決めた」

 大きく深呼吸をして、頭に血が上るのを抑えようとする。
 もう一度、親父の瞳を睨めつける。

「俺は、あそこに、パプワ島に来た事を無駄にしたくないんだ! …そりゃ、分かってるよ。俺一人で出来る事なんてないじゃないか。出来ない癖に誤魔化して力業で、盲打ちでがむしゃらにやっていくしかないんだよ! こんな、今にもアンタにワガママぶつけて八つ当たりしたいのに、そんな大層な事出来るわけがねェ…!」

 それでも。退くな。言っちまえ!

「でも俺は一人じゃない。俺だけで変えるんじゃない。皆で。目の前の、出来る事から始めていく。一個ずつでいいんだ。変えていく。変えていける」

 大丈夫だろうか。
 マジックに語る俺の外側から、客観性が空間を認識しようとする。
 今いる己の立ち位置を。
    泣きそう、かも。俺。情けねェの。

「だから頼むから、」

 弱さが溢れそうになるのを必死で押し隠そうとする。
 駄目だ。引くな。

「頼むからこれ以上、   」

 これ以上あんたが、ひとの命を奪わないでいられるように。
 言わせないでくれ。
 頼む。

「OK。ダーリン   おまえの望むままに」

「……~~~」

 なんかもう、震えた肩を抱きしめられてぽんぽんって背中たたかれて宥められて髪にキスされて、いつもならものすごく不本意な扱いをされてるけど。
 ひとりじゃない。
 だからこんな風に俺が力が抜けてても大丈夫なんだって、信じたい。











































2003.12.17. BGM:リリィ

24歳。パパと対等に近づこうと努力すると
単にワガママ言うてるかんじになるのはどうして。





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キミとボクのキョリとアノコ







 *****


 現在、既に肉体的に関係のある内縁の夫婦みたいなでも戸籍上は父親。
 の、幼少時の童貞を頂いてしまったのに淫行条例は該当するのかどうかという
 ウロボロス的ミステリーが発生しています。

 閑話休題。


 *****



 こん。こん、こん。かん。
 想像したより響かない、何度、指の骨で叩いても、何の変哲もなく堅くまろい音がした。
   通り、抜けねェな。
 当たり前か。
 そう思ってから、否、そうだよそれが当たり前なんだよとの思いをより深める。
 鏡とは、映し出すためのものだ。
 通り抜けさせて、どこかにやるためのものではない。
 …ってかもう、どっかに来ちまってんだけどよ。なんだコレ。
 いくら小突いても別段変化がないのに諦めて、キッチンへ戻った。
 3日も経てばある程度慣れる。
 あの島でもそうだったが、自分は往生際は悪いがけっこう環境適応能力が高いほうなのかもしれない。
 オズの魔法使いのドロシーも不思議の国のアリスも、迷い込んだ世界から元いた世界に戻る方法を探して奔走してたけど、それって状況次第だよな。
 俺の場合は、年下の恋人は可愛いは恋人の弟たちはカワイイは、ここはどこの天国ですかってくらい幸せだ。
 元の世界に戻れなくて、このままここに永住するのもいいナー。
 シンタローは半ば本気でそう考えつつ、鍋の具合を見る。
「ただいま。シンタロー」
 声をかけられ振り向くと、制服姿のマジックがいて、思わず笑みが零れた。
「おかえり」
 シンタローを見るとほっとした顔で、マジックも笑い返して抱きついてくる。
 昨日も同じようにして抱きついてきた。
「晩ご飯は?」
「ああ、カレーにしようかと思って。これで形なくなるまで煮込んじまえばバレねーだろー。今日こそアイツに玉葱食わせてやる!」
 アイツというのはハーレムを指している。
 けっきょく、胡乱ながらも魔法の鏡という事実を夜伽話に語って取り敢えずの信用というか信頼というか恋は盲目というか、を得たシンタローは、マジックが学校に行っている間、暇を持て余して双子の世話を筆頭に、なにやら慣れたもので家政夫まがいのことに勤しんでいた。これも悦に入るほど楽しい。
 抱きついたマジックの胸が息を切らして上下している。
 シンタローが出現してからずっと、マジックは授業が終わると息せき切って帰ってきた。
   家に帰ったらシンタロー、いなくなっているんじゃないかと思って。
 マジックはそれが怖いと言って、急ぐ。
   傍に、一緒にいられないと、夢だったんじゃないかと思っちゃうんだ。
 不自然な、それでいて幸せな邂逅の終わりは、いつ不自然にやってくるのか。
 シンタローにも似たような想いはあり、甘やかすのをやめられない。そしてそんな風にシンタローに情熱を傾けてくれる所が可愛く思えてしまうのだから重症だ。
「ハーレムとサービスは?」
「昼寝。つかさっきやっと眠ったって感じだけどナ。ルーザーは…クラブだっけ? 遅くなりそうだな」
「うん。正選手に選ばれたって言っていたからきっと遅くなると思う   」
 一気に言い募って息が足りなくなったのか、マジックは大きく深呼吸をした。
「なんか飲むか? 喉乾いただろ。座って待ってろヨ」
 言うと、マジックはシンタローをじっと見つめた後、その服に顔を埋めた。
「……ベッドが、いい」
「   っ」
「ベッドがいい」
 どきんと胸に衝撃が走ったところに擦り寄るようにしてもう一度繰り返されれば、シンタローに否と言える筈もなかった。もう相当に、甘くできている。
 シンタローは火を止めるとマジックの髪をゆっくり撫ぜて名前を呼んだ。
「…途中で脱水症状なんて洒落ンなんねーからな。なんか飲んでから来いヨ」
 頬を染めてこくんと頷くマジックにキスをすると、シンタローは先にキッチンを出てマジックの私室に足を向けた。


















キミとボクのキョリとアノコ







 *****


 数時間経過。

 あやうく晩ご飯にカレーが間に合わなくなるところでした。


 *****




 先に頬をふくらませたのはハーレムのほう。
「カレー からぁ~ぃっ」
「からぁい」
 続けてサービスも舌を出してシンタローの髪をつんと引っ張る。
 料理の途中から髪を高い位置で結い上げていたシンタローが、そんなサービスに苦笑して席を立つ。
「んじゃ蜂蜜でもいれるか? あ、林檎。すりおろしてもいいし。甘くなるぞー」
「やーっ」
「いやーぁ」
 冷蔵庫を物色しながら双子に問いかけると、異口同音にブーイングされた。
 ふたりとも、シンタローにかまって欲しくて大仰に嘘をつく。
「なんだよ。ふたりとも辛いのヤなんだろ?」
「からいの たべれるもん ハーレムと ちがうもん」
「ボクだって ちがうもん オトナだもん へぇきだよっ!」
「こらっ。どっちなんだおまえ達はー」
 双子の興味がシンタローからお互いに移って睨みあった所を、とっくみあいになる前にマジックが諫めると、ふたつの小さい首がぴょこりと竦んだ。
「まったく…ケンカばかりする癖にワガママ言う時だけは息が合う」
「いいよ、マジック」
「甘やかしちゃ駄目だよ。ただシンタローに構ってほしいだけなんだから」
「子供なんてオトナぶりたいもんだろー」
 シンタローがたしなめるとマジックは表情をなくして大きく溜息を吐いた。
 そんなマジックの目の前にレモン水が置かれる。シンタローだ。
「別にオマエのこと言ってるんじゃないぜ?」
「シンタローだって。そんな風にしていると25になんかちっとも見えないよ」
 年下の恋人のコンプレックスを見透かして訂正すると、そんな不貞腐れた反撃にあった。それさえも可愛くてシンタローは笑うしかない。
「…シンタローから見れば僕なんて、よっぽど子供に見えるんだろうね」
「や、どっちかってーと経験者は語る、かな。ガキの頃から今に至るまでさんっざん子供扱いされてっからさ、俺。気持ちはよくわかるんだよなー」
 俺をガキ扱いしてんのは未来のオマエなんだけどな、とは言わないでおく。
「誰、に?」
 緊張をまとった声でマジックが問うてくる。
 緊張の意味もコンプレックスの元もぜんぶわかってしまうことがこんなにも愛おしく思えるなんて考えたこともなかった。
「俺の、親父」
 今のマジックに未来のマジックの詳細を語ることはしていない。
 意地悪ではなくこれ以上面倒な説明をしたくないのと、喋ってしまえば、それとそっくり同じレールを歩む努力をしてしまうのだろうか、と考えるとそれは厭なことだったからだ。
 だからこのマジックは、シンタローの父親というのが自分を指しているのだとは知らないでいる。
 俺の恣意なんかじゃなく、知らないままで、将来また俺に惚れるんだったらそれも結構ロマンだなあ、とシンタローは内心のんきに含み笑いをしていた。
「……ただいま帰りました」
 そこに冷たい声で、ルーザーが帰宅を告げる。
 おかえりと皆から言われるのに返事をせず、ルーザーはさっさとキッチンへ向かう。四兄弟の中でひとりルーザーだけがシンタローを信用していなかった。
 判断力のある当然の反応だと思っているシンタローは別段気にすることもなく、ルーザーの後を追う。
 カレーを食べながらマジックが様子を窺っていると、結構です、構わないでください、と一方的に厳しい声と普通の声とが入れ違いに聞こえてくる。
 ルーザーもシンタローも、どちらも大切だ。仲良くしてくれればいいのに。
 見に行って仲裁に入ったが良いものかとマジックが考えあぐねていると、先にシンタローがカレーを手に戻ってきた。
 ルーザーは腹に据えかねた様子でシンタローを追ってくる。
「やめてください。  僕は貴方が嫌いだ」
「ルーザー!」
 暴言にマジックが制止の声をあげるが、それを振り切ってルーザーはシンタローを傷をつけたいがための言葉を続ける。
「とてもじゃないが信用ならない」
「ルーザー、やめなさい」
「  これにだって、毒でも盛ってあるんじゃないですか? 一度じゃ効かなくても、毎日微量に投与すれば…」
「ルー!」
 強く愛称で呼び止めて、マジックは恐る恐るシンタローを見た。
 目を丸くしたシンタローは、一度ぐっと堪えるようにしてから穏やかに皿を置く。
 ルーザーと、向かいあった。
「あーもーカワイっ」
「  っっっ!!」
 怒るのか悲しむのかと、シンタローの次の行動に身構えていたルーザーだったが、突然ぎゅっと抱きしめられて声にならない悲鳴をあげた。
 かしゃん。
 何か落ちたような音がしてそちらを見ると、マジックがショックを受けた顔をして手を空に固まっている。しまったと思ったがもう遅い。
「あ、悪ィ」
 そしてシンタローが腕をほどく前にルーザーのほうから逃げ出す。
「ッ……気に食わないっ!」
 全身鳥肌を立てて、屈辱に震えて怒るルーザーと、無言で出て行くマジック。
 どちらが大切かなんて比べるまでもなく、シンタローはマジックを追った。



















キミとボクのキョリとアノコ







 *****


 大変です大変です。
 なんかこのまま流連してるとシンちゃんは四兄弟みんな喰(後略)。

 (冗談で済めばいいんですが)


 *****











(あいつにああいう顔をさせるのは、誰でもない俺だからだ)
 シンタローは長い廊下を走っていく小さな背中を追いながら、その思いを噛みしめる。
(泣く、んだろうなー)
 その顔を見たいような見たくないような逡巡と一緒に、マジックの腕を捉えた。
「おい」
 振り向いた顔は早、涙目だ。
 うわー(可愛い)と思(ってしま)ったシンタローは、取りあえずマジックの私室に行こうと背中を押す。
 扉を閉めると、感に堪えられずマジックはシンタローの懐に飛び込んできた。
「シンタロー…!」
 小さな声で呼び、強く取りすがってくる。
「何だよ。…言えよ」
 促してもいやいやと首を左右に振って金髪を乱すだけだ。
「ルーザーのは悪かったよ。もうしない。から、えーと、口きいて?」
 基本的に謝ることなど皆無に近いから、なんだか口元が不如意だ。
「シンタローは…」
「ン?」
「シンタローは、ルーザーのこと…、ルーザーに嫌いって言われてもそれでも可愛いの? 僕が。僕が、言っても…」
 胸元がじわりと熱く、濡れて滲んだ。
「いやだ。シンタローのこと、きらいだなんて…言えないよ…っ」
 胸の中で震えている少年を抱き上げて、  抱き上げることなど、否そもそも抱き上げたいという望みを抱いたことが至極当然のことながら、今まで一度もなかったので  シンタローはマジックを手近な椅子まで運んで座らせた。
 この部屋には二人がけで座れるものがない。
「マジック」
 正面にしゃがみこんで名前を呼んで、金の髪を指に絡める。
 マジックの名前を呼ぶ度にシンタローの胸裡は妙にざわつく。
 ただ名前を呼ぶだけなのに。
「わかってるよ。俺があいつと…否、誰と仲良くしてもケンカしても。ダメなんだろ? 俺のやること全部がおまえを不安にさせるんだ」
(…コイツの不安は、どうすれば取り除ける?)
「シンタロー、お願い。僕のことを好きって言って。ぼくだけを、すきって」
 シンタローは目の前にある少年の手を握った。マジックの視線が落ちてそれに向いたのを見て、シンタローも触れあう手と手を見つめる。
 マジックがまばたきをする度に、ほとほとと涙の粒が落ちてくる。
「こっち来て、眼ェあけて。おまえにはじめて逢った時。手の甲の、先の手首ンとこらへん。神経ビリッてなった。息苦しくて心臓うるさくても自分で何ヤッてんのかは判ってたヨ。悪ぃけど俺大人だし。そんなの、言い訳にもならねェって、判ってたのにな  」
 シンタローがちょっと屈んで顔を近づけるとマジックも意を介して上を向き瞳を閉じる。潤んだ瞳からつと一筋、涙が伝う。
「愛してる。…そればっかりだよ、俺は」
 触れたばかりの唇で告げると、マジックは目を丸くした。
「…ありがとう」
 ゆっくりと口元をほころばせると、マジックはシンタローの言葉にくすぐったそうにして額と額をくっつける。
「シンタロー、僕だって心から愛してる。本当のほんとうに愛してるんだ」
「はは、知ってる」
 軽く笑ってシンタローは立ち上がると大きく伸びをした。
 仰け反り蹌踉けて数歩、後退る。
 さてと腰に手をあて、シンタローはマジックを振り見やった。
「まだ食事の途中だったろ? 戻っ…」
 うすぐらく視界が左右から遮られる。
「シンタロー!?」
 マジックの驚いた声があがる。シンタローはまだ状況が理解できない。
 ただ、手が後ろから。  後ろから。何故。
 大きな手。
「親父ッ……?」
 背後を振り向くこともできず、首筋を肩を掴まれ思い切り引かれる感覚。
「いや! シンタロー!! いやだッ!」
 覚えているのは、マジックの悲痛な表情と自分を呼ぶ声。
 掴みとどめようと伸べられた小さい掌。
 それが最後だった。







 *****










 紅茶のいい香りに目を覚ませばマジックの腕の中で  おそらくここは。
 シンタローがぼんやりと視線を転じれば、いつのことかマジックに投げ捨てられたニューズウィークが折りたたまれてテーブルの上にある。
「おかえり、シンちゃん」
 微笑まれて、嫌そうに顔を歪めると自然、涙が零れた。
 戻って、きた。
「   あんっっっっっなに可愛かったのに………!!」
「はっはっは。シンちゃん心底残念がってるでしょう。本気で泣いたね?」
「うるせー! チクショー離せ返せもったいねー!!」
「その反応、パパはちょっと複雑で、でもとても嬉しい」
 言ってマジックはシンタローのどんな抵抗も許さずに、抱きしめた。
 怒鳴って押し返そうとしたが、マジックの突然の沈黙をシンタローはいぶかる。
「おい…親父?」
「そう。そして、ああ、やっと。やっと逢えた…。私を、昔の私を知るシンタロー」
 少し黙っていたと思ったら早口で捲し立てて、シンタローの顔をのぞき込んでくる。その表情は、今にも泣きそうで。
 誰かと重なる。
 誰かと?
「…ほんとうに、逢いたかったんだよ」
「…俺だって、」
「ずっと気にかけていたんだ。いつから、一体いつからシンちゃんは、昔の私を知ることになるのだろうって。知らなくたってシンちゃんはシンちゃんだし、愛に変わりはないけれど、でも。…それでも、逢いたかったんだ…」
 マジックはもう一度、シンタローを強く抱きすくめて言葉を続けた。
「だんだん、薄れていくんだ。忘れていくんだ。あの時のシンタローのことを。一日一日と。少しずつ。…声の、色が薄れ、顔を忘れ、そして今日、一瞬。出会ったことさえ忘れそうになって、突然怖くなったよ」
 淡々と。
 マジックの、他の誰でもないマジックの肩越しに続けられる独白を、シンタローは黙って受け止める。
「このままだと何もかも無かったことになるんじゃないかって。恐慌したよ。それで、それから、だから今日だと思ったんだ。忘れないためには、自分で自分の所に、あそこにシンタローを送り出さなきゃいけないんだって。考えたらとても嬉しくなって、だから」
「あの乱痴気騒ぎ、か? 話の順はなんとなく判ったが…ほんっと、馬鹿だナ」
「馬鹿でいいんだ。シンタローを忘れずにいられた。だから、いい」
 耳元で聞こえる存外な声音に、シンタローは吹き出した。
「ガキみてェ」
 どけよ、と身体を離して頬をぬぐって、なんて言おうか考えて。
 ただいま、を思いつくと同時に、最後に見た幼い泣き顔が頭をかすめた。
「あー…今頃泣いてンのかなー」
「勿論だよ。泣きながらシンちゃんが作ってくれたカレーを最後まで食べて、それから泣きに泣いて。誰に慰められても失意は紛れなかった」
「そ・か…」
 それを聞いてしまっては、ただいまとは言えない。
「失ったままだった。  今日までは、ね」 
 マジックはシンタローに向けてウィンクする。
 いつもの伝だ。
 それを見て、あっちには心から伝えようとした愛してるも思い出したけれど。
 こっちに言うのはなんだか業腹で、言えずじまいで。
「紅茶でも飲もうか」
 その言葉に頷くだけにして、シンタローは戻ってきた日常を受け入れた。


















END



10 【眩暈がするほど愛してる】


いやだ、と途切れる吐息に掠れた声が上がる。
その身体を組み敷き貪りながら、「何が嫌なの、シンちゃん?」と問えば、答えは無くただ首を横に振るだけだ。
……じゃあ、当ててあげようか。
パパに抱かれるのが嫌かな?
それとも私の存在そのものが?
そしてそんな相手に快楽を感じる事が…?
そんな言葉を囁けば、固く閉ざされていた瞼が上がり、黒い瞳が私に向けられた。
睨みつけているつもりだろうが、その歪められた表情は泣きそうなものにしか見えない。


この問いには、否定されたい思いと、それとは逆に肯定されたい思いが両方存在している。

───これ以上傷つけないように手放したい。だから肯定して、この手から逃れて欲しい。
───この腕に閉じ込めて手放したくない。だから否定して、この手を離さないで欲しい。

己の中にある相反する想いに、歪んだ愛情に、眩暈すら覚える。
私はこの子をどうしたいのだろう。
こんなに傷つけてまで、どうしたいと思っているのだろう。


ただ、愛している。誰よりも。
それだけは真実なのに。


お題は溺愛なのに、何かダークになってしまいました、すみません…;
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