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mas




ぼくのものになれば良いのに







「こうやって、家族みんなで夕食っていうのも久しぶりだね。高松もいるけど」
「そうだな。高松もいるがな」
「これでおじ様方がいないのは残念だねー! 高松はいるけど」
「キンタローもグンマもここん所いっそがしそうだったもんな。ドクターはいてもなァ」
「どんな家族の絆ですかそれは」

 なにはともあれ晩餐会。
 こうして5人で進めてました。

「まったく…グンマ様のおっしゃる事しか嬉しくありませんよ」
「まーまー。   それで、最近の目玉はナニよ? おまえら共同でなんかやってたんだろ?」
「んとねェ、固形のモノから抽出してー、液状化してるのをいっぺん粉末ゲル化してみたりしたんだけど、」
「それで思うようにいかなかったので霧状にしてみたり凝固させてみたり、また戻したり。色々だ。素地は出来ても加工に手間取っていた」
「……随分主語の見えない話だね。通じてるの?」
「さーあ? 一応毎回訊くことは訊くんだけどよ。研究組の遣り取りなんか分かった試しがねェ」
「それは好都合」
「あ?」
「いいえ。…今夜は随分と皆様、ご機嫌宜しいようですね。弁舌が冗長なのに諍いもなく。私を貶す程度で済んでいる」
「根に持つなー」
「いいえ? 喜ばしい事だと言ってるんです。マジック様も御誕生日を迎えて更にご健勝でいらっしゃる。御酒も最高。良い事づくめじゃありませんか」
「ああ、コレ美味いよな。なんて銘柄   …丸に…六芒星、中に…G印??」
「良い事づくめで  そろそろ思わぬ方向に向かった方が、均衡とれるでしょう?」


「……これは油断したね。3人これのグラスにだけ手をつけてないのに気づかないとは」
「何、」
「これが獅子身中の虫というやつだシンタロー。覚えておけ」
「それが陥れた奴の言うセリフかッ!」
「ふぅ……さて、どうなる? 訊いておきたいんだが、これは研究の成果かい? それとも……途上のモルモットかな!?」
「そんなぁ。おとーさままで怒らないでくださいよー。これでも間に合わせようと精一杯頑張ったんですから」
「何をかな」
「だから、言ってたじゃない? 誕生日にはパパ、シンちゃんとラヴラヴな夜が過ごしたいナ。って」
「あ゛?」
「え? そっちの話だったの? なァんだ早く言ってよグンちゃん♪」
「僕ら頑張って誕生日までに完成させようって思ってたんだけど、」
「さっきも言ったように加工に時間がかかってな」
「そー。せめてクリスマスには間に合うようにーってもう皆でずうっと研究してたんだから!」
「うわーグンちゃんキンちゃんありがとうっ! パパ喜びの涙で前が見えないヨ!」
「見事に私は抜け落ちてますねぇ」
「……うるせェ…俺のこの身の不幸をどうしてくれる………」
「おやおや影響が出る前から落ち込んじゃ駄目ですよ。万が一良いように作用したらどうします」
「万分の一より低いだろが…。キンタローが参画している時点で既に」
「シンタロー。どう作用しようとも、気は持ちようという言葉もあるぞ」
「正論ばっかが通る世の中だと思うなよキンタロー」
「んー。でもけっこう時間が必要なんだね。出るの」
「出?」
「ヒトはラットより大きいからな。時間がかかるのは当然だ」
「何が!? つか俺一人にリアクション任せて何のうのうとしてんだヨ親父ッ」
「大丈夫! パパはパパの強運とキンちゃんグンちゃんを信じてるからネー♪」
「そーかテメエが元凶だったナ…!」
「おや。やっと出ましたね」
「だから何がだッ!?」
「耳だ」
「み」
「シンちゃんちょっと後ろ向いてみてー? しっぽも出るハズなんだけど」
「…!!!! ………なん…なん…」
「わーいvvv シンちゃんとおそろーv 色違ーいvv」
「ふたりとも可愛いーv」
「馬鹿やろ! 治せよ! 戻せ!」
「ではシンタロー。伯父貴と向き合え」
「こうか?」
「じゃ、おとーさまはシンちゃんをぎゅっv ってして?」
「はぁいv シンちゃん、パパとハグしようv」
「……戻るんだろうナ!?」
「そして2人とも思い切り深呼吸」
「「…すー…っはー…」」
「…。ハイ、お互いのニオイを覚えましたね。ではこれで、つがいの猫の完成です」
「っな!? ちょ、高……キンタローてめッ、嘘ついたな!」
「いや? 嘘をつくのと無言の否定は違うと思うが?」
「なんだかキンちゃんとシンちゃんが話してると、どうしても目の前の問題が言葉の上での擦れ違いに変わっちゃうよね」
「ああでも、ご覧なさい、口はどうあれシンタロー様の方からマジック様に擦り寄ってます。特性が雌雄それぞれに巧く分かれたようで」
「いや~こんなに熱烈にハグv されたらパパのスーツが皺になっちゃうナv」
「~~~? 違、これッ…何だ……?」
「ニオイに発情する」
「うわ~キスだけで瞳うるうるしてる…vv さあシンちゃん…ベッドに行こうか…? 愛してるよ…v 2人で幸せになろうね?」
「と言いますか、我々の興味の先はこれからなんですよね。ラットじゃ心への影響までは分かりませんから」
「え~? 家族のベッドにまで研究を持ち込む気かい?」
「できれば。そうさせて貰えるととても助かる」
「僕は止めとくよっ♪」
「…よし。グンマ…その調子で、2人も止め…」
「だって、おとーさまにめろめろでうるうるでラヴラヴなシンちゃんのネコ耳プレイなんて見ちゃったらもう、全部日記に書いちゃうもーん」
「…………グンマ、おま、今、…今、誰よりも非道な事、…言って…」
「では改めて。誕生日、おめでとう。伯父貴」
「遅れちゃったけどおめでとーございます!」
「おめでとうございます」


 そんなこんなの晩餐会。
 こうして3人と2匹になりました。
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おやすみ

 







 み・見なきゃよかった…。
 2時間近い鑑賞の後、やっと訪れたエンドロールに集中していた一同は、ほっと一息ついていた。
 その中で俺はとてつもなく後悔を、そう。とても、思いっきり、後悔、している。
 たかがB級。されどB級。
 さ、最初は。平気だと思ったんだいい加減俺も大人だしグンマが見たいっつーくらいのモンだからよしそれなら高が知れてんだろーと。
 たいして怖く、ないんじゃねェのと。
 俺は忘れていた。
 あまりにも長い年月それから意図的に遠ざかっていたために幼い俺が何をどう、おそれていたのかを。すっかり忘れきっていた。
 俺が必死で逃げ道探してるっていうのになんで正面から飛び出てくんだよさっきまであっちにいたじゃねェかならどっちに行けばいいんだどうやって逃げれば主人公はつまり眼魔砲すら手段にない俺は生き残れるんだヨあッ畜生まただこっちが動けねェ時に追いかけてくるんじゃねえぇ  ッッ!!
 と、ほぼ2時間、心の中で叫びながら敷くはずのクッションを握りしめて抱きしめて、なんとかやり過ごした。終わった今でも心臓は早鐘のようだ。
 なんか、考えすぎてか、ぼんやりしてきた。
「やあ、なかなかに笑える出来だったねぇ。予算がなかったのかな?」
「確かに。ピアノ線で吊っていたのが丸見えだった」
 ピアノ線? ちゃちい小道具? そんなんがどーした!
 マジックとキンタローの会話を横目に俺は黙って心の中で毒づく。
 そんななぁ、つくりモンなのは最初っからわかってんだヨ。映画なんだから。
 馬鹿かテメーらは。問題はそこじゃねェだろ。
 そう、B級ホラーのあの不自然なほど辻褄の合わないストーリー展開が俺を恐怖に陥れるのだ。決して悪くはない頭をフル回転させて俺が納得できる筋書きを考えてる端から話は破綻していく。怖がらせる、を念頭につくられているものだから土台、物語じたいに重点は置かれていない。早打つ心臓に悪い突然の大音響。思わせぶりな演技。来るな来るなと思うところに必ず現れる演出。
 その辻褄のあまりのあわなさにずっと脳内補筆を続けていたら映画の内容より怖い展開が頭の中で繰り広げられている…ような気がする。散々だ。
「そうかなぁ。僕すっごい怖かったけど」
 ああグンマ、オメーはそうだろうな。
 だがグンマの事だ。どうせ、
「でもハッピーエンドで終わって良かった! 最後まで怖いと僕、眠れなくなっちゃうもの。あ、でもキンちゃん今日は一緒に寝よう~?」
 …やっぱな。どうせそれくらいのアタマだろうよ。単純明解馬鹿グンマめ。
「ああ、俺は別に構わない」
 しかもさっさとキンタローっつー都合の良い抱き枕をキープしやがって。
 俺としてはハッピーエンドに終わったからといって、あの話の終わり方がこれまたちっとも納得できないのだ。
 なんでいきなりああなるんだ?!
 それが説明されなきゃこっちは安心できねェんだヨッ!!
 くそう。
 つくづく、見なきゃよかったと、思うのだ。
 加えてド派手な重低音の余韻が身体にまだ残っているのも不安の種だ。
 5.1chサラウンドのハイビジョンプラズマも今回ばかりはその臨場感が恨めしい。
 これは、クる。確実な予感がある。
 絶ッ対うなされる。眼が醒める。二度寝が薄ら怖くなる。
 いや馬鹿言うなヨ俺怖いわけあるかただ怖いような気がするだけだ。
 そう、気が。
「じゃあ、皆明日も早いだろうから、これで解散しようか?」
「あ!? っあ、そうか…もうそんな時間か…」
「はぁい。おやすみなさーい」
「おやすみ」
 う、わ。待て待て。
 ちょっと待てっての、俺にだって心の準備ってモンがッツ。
 うがーっ。行ーくーなーっ!!
 そんな態度は口にも出せず顔にも出さず、俺はグンマとキンタローが部屋を去るのを見送った。





 ***





 きっかり三歩、じぶんの先を歩かせる。
 振りむくマジックは隙あらば立ち止まり絡んでくるので、黙々と背後から脚を蹴るようにして、先へ先へと追いやる。
 不機嫌を不器用によそおう俺に何度も促されては、痛いよシンちゃん、とさして痛くもなさそうに、マジックはまだ、笑う。
「いーから黙って歩けっっ」
「ええとシンちゃん。これは何の罰ゲームかな? 今夜はみんなでホラー映画を見ただけで、そういうゲームはちっともしなかったよねえ?」
「何がホラーだ。ったく、ヤローが夜中に集まってパジャマパーティもねェだろが。せーぜー猥談で盛り上がってろってんだヨ」
「シンちゃんこの前は正反対の事言ってたじゃない」
「そりゃテメーが嬉々として俺の性癖語るからだろッ。なーにが悲しくて身内相手に自分の性感帯暴露されなきゃなンねーんだっ!!」
「いやあ。あっはっは~」
「笑って済ますな!」
 苛々とさんざん蹴りこんで寝室まで追いやる。
 部屋に踏み込むとマジックはくるりと振り返り、間をあけずいきおい続いた俺を抱きとめた。
「これ以上はストップ。パパの足、アザだらけになっちゃうよ」
「てめ離っ………!」
 マジックの胸板から剥がれようと腕を伸ばしかけて、やめた。
 疲れきって夢も見ずに眠れるくらい、今日はこのまま流されてしまおうという妥協と思惑と打算が俺の脳裏を走馬燈のように駆け抜けたからだ。
 マジックは俺を抱き込んだまま顎に手をかけ、顔を上向かせると唇を舐めてきた。唇を伝う舌に身体の芯がじくりと融けるような感じがして、思わず声が漏れると、その隙に差し込まれた舌が歯列をなぞった。
「…ぅん…」 
「今日はやけにおとなしいね…そんなにあの映画、怖かった?」
「!」
 がばっと見上げると、青い瞳が笑っている。
「終わってから後悔するなら見なければよかったのに~」
 くつくつと心底愉快そうに喉で笑うマジックを見て、頭に血が上った。
「うるっせー!! グンマが見れるモンが俺に見れねーって道理があるか! それに中座なんかしたら後でナニ言われるか書かれるか判ったもんじゃねえッ」
「逆恨みの優越感云々されたくないんだったら日頃からグンちゃんいじめちゃダメだよ、シンちゃん」
「いーんだよグンマなんだからっ」
 ぶちぶちと文句を言いつつベッドに入った。
「   」
 マジックも同じベッドに滑り込むと、俺の傍らで肩肘をついてこちらを向いた。
 もう一方の腕は俺の胸の上でトン、トンとかるくリズムをとる。
 子供が安まる、心音に似せる動作だ。
 ガキの頃は、よくこうされて眠った覚えがある。
「シンちゃんがちっちゃかった頃を思い出すよ。懐かしいなあ」
 …考える事は同じか。
「ちっちゃい頃のシンちゃんも怖がりでねぇ、ちょっと怖い話するだけですぐおもらししちゃったり、やっぱり今とおんなじで眠れなくなって、パパ、ぜったい起きててねって。泣きべそかいて言ってたよねーvv」
「………あん時は。アンタ絶対寝ないって約束したのに俺が夜中怖い夢見て起きたら完璧寝てたじゃねーか」
 あれで酷くショックを受けたぞ。
「そんで起こそうとしてもちっとも起きねェで…」
「パパのうそつきーっ! て大泣きしてたねえ。その顔が可愛くて可愛くてvv 今でもハッキリ覚えてるよ。狸寝入りしてた甲斐があった」
「何?! …てめぇ…いたずらに子供心にトラウマ作りやがって…!」
「まあまあ。お詫びに今夜は一晩中シンちゃんが怖い夢を見ないように起きていてあげるから」
「……別にンな事、頼んでねー」
「私がそうしたいんだ。大丈夫だよ。安心して」
 そう言って、親父は俺の頬にキスをする。
 それはないだろう子供じゃないんだから。
「明日も仕事だろう? よーくおやすみ、シンちゃん」
「…」
 それもそうだ。とにかく寝よう。
 途中で起きた時には今度こそコイツを叩き起こしてやる。そうしよう。
 もぞもぞと、身じろぎして、俺は自分の眠りやすい体勢を探す。
 ふと思いついて、親父の肩肘をついていた腕を勝手に伸ばして、腕枕にする。
 そうすると、俺としては丁度よく収まった。
 親父は腕が痺れてしまいそうだが。ふん、いい気味だ。
「…おやすみ」
 今まであんなに怖い思いをしてきたんだ。今更そう簡単に眠れるもんかと。
 思い、俺は。
 親父の微笑みを睨んでから、瞳を、閉じた。





 ***





 光を感じて瞳が覚めると、視界に入ったのは、よく知った形をした爪。
 長い指。
 シーツに広がる俺の黒髪の一房を、指の背で愛おしそうに撫でている親父。
 口元。鼻筋。睫毛。
 キス。
「おはようシンちゃん。朝ご飯は何がいい?」
 夢は、見なかった。
「…寝てないのか?」
「ああ、一晩中ずっとシンちゃんの寝顔を月明かりに眺めていたよ。たまにはこんな夜があってもいいね」
「…」
 普段なら怒鳴り散らすところだが、ゆうべ、あんな言葉だけで熟睡しきった自分が恥ずかしくなって、俺は何も言い返す事ができなかった。





かえり道







「おかえり」
 ドアハッチが開き、長い黒髪が見えると、抑えきれずに寸時に声をかけた。
「…ただいま」
 ひとつ、間を空けて言葉が戻ってくるのは一週間ぶりで、懐かしい。
 このこが意地を張る癖だ。
「は、なんだそれ。親父、髪ばっさばさ」
 一報を聞いてヘリポートに来てからずっと、高層の風に嬲られていた私の様態を鼻で笑うと、シンタローは機内からばさりと大きな花束を引きだした。
「行くぜ」
 そしてそのままパイロットを置いて、私のほうへと歩きだす。
 何かを考えている顔で、後ろ手で花束を持って私に視線を投げた。
 ちょうど私も今、思案顔でシンタローを見つめている。
「何だよ」
「パパにくれる花束?」
「違う。これはコタローへのプレゼントだ。やんねーよ!」
 えぇ、と私が声をあげて眉を下げるとそれが可笑しかったのか、飛び切りの笑顔で肩をぶつけてきた。
 いつもと違うスキンシップを受けてそのままエレベーターに乗り込むと、シンタローは機嫌の良い顔で後から続く。
 ああ手がふさがってるから。
 肩をぶつけるしかなかったようだ。
 他愛ない。
 信用がないのか、奪われるのを避けるように花束を持ったまま、シンタローは表情を戻す。
 エレベーターの降下の重力を感じながら、しばらく2人、無言でいたら、珍しいと無表情に呟かれた。
「随分いつもと違うんじゃねェの?」
 黒曜の色をした瞳がこちらに向かう。
 吸い込まれるように冷えた手を伸ばして頬に触れてみる。
「うわ、冷てー」
 でも、逃げられなかったので、そのまま鼻と鼻を擦りつけてみた。
 瞬きの、睫毛も触れる距離だ。
「……クリスマスだからね、今日のパパはカッコ良いんだ」
「は、」
 また薄く笑われた。
 シンタローの顎が上がって、皮膚一枚、唇が掠める。
 それを首を傾いで寄られた分だけ、わずかに退いた。
「シンちゃんは、いつもの可愛いパパが良かった?」
 唇が触れてもキスじゃないような、触れては離れるだけの。くちづけ。
 逃げては追う、そんな事をゆっくりと繰り返す。
「…どっちも、お断りだ」
 意地を張る、癖。
 後ろ手に花束。
 軽い落下感。
「どっちも?」
「…、ン」
 答えず、切なげに瞳が閉じられ。
 それと同時にエレベーターは落ちることをやめ、加重が為され、扉が開いた。
 目的の階に到着したのだ。
「……」
 廊下のまばゆい明るさに、エレベーター内の柔らかな明かりの中での内緒のいたずらのような雰囲気は一気に掻き消されてしまった。
「…ぷッ。あっはははっ」
 乗り気を崩されて、呆気にとられたシンタローの顔に堪らず吹き出すと、私に笑われたシンタローは不機嫌な顔を作る。これは照れ隠しだろうから別段構わない。
「あー…クソッ!」

 他愛のない、キスの話。




perfect blue







    ねえパパ。誕生日、何が欲しい?

 物心ついた時から毎年繰りかえされた俺からのクエスチョン。
 対する親父のアンサーは常にひとつ。

    おまえのくれる物ならなんだってv

 …って、馬鹿のひとつ覚えかっつの。
 そういう答えが返ってくんのはわかりきってたけど、今年もきいた。
 別にこんな質問、しなくたってよかったんだ。
 いやむしろ、その一人ツッコミをしたいから、きいたようなもんだった。
 …逃げ場をつくる言いわけなのは、マジックだってわかってただろうけど。
「…なんか、欲しいもん、あんの? 誕生日」
 おやすみのあいさつ。
 唇の触れない、かるいAir Kissをして。
 しどろもどろにきいたのは、あの視線をみつけたから。
「ああ、」

 最近、時々。
 不思議とマジックは、こういう目をするようになった。
 あの青、どこか冷たくこわく感じていた青は、ふと気づくと炎のようにゆらめいた青色をしてる。青いのに、熱い。
     見てはいけない。
 とっさに思うのはその言葉で、何故いけないのか、警鐘を鳴らすのは自分の中のなんなのか、いまだ理由はわからない。
 ただ、ひきこまれそうで。
 “それ”から逃げろ逃げろと、思ってしまう。
 今までみたいな怖いとか嫌だとか、気持ちとか感情が追いつく前に条件反射で。思うコレと、思わせるまなざしはなんだ。
 転ぶ前に手をつくとか、反射運動のひとつみたいな?
 それとも本能ってこういうもんか。

「ごめんね、シンタロー」
 あやまる言葉をつづけて俺の頬をつつんだふたつの手のひらの、さらりと乾いた感触も、ゆれたその瞳も。
     ああ。
 嘘だ嘘だ。
 重ねられたくちびるが熱くて、胸がぐっと苦しくなる。
 親愛なんてとっくにすぎてるじゃないか。
「シンちゃんの、ぜんぶが欲しいんだよ」
 はじめて知ってしまった。


 こんな、たましいのふるえるキスを。


 今までの、嘘を。






余計な鎖


You're so fucking special
I wish I was special








 Tokyoに初めて来た時の事だ。
 その頃の俺はシンタローと分化して暫くというぐらいで、シンタローの内に抑圧されていた時のような、シンタローというフィルター越しの世界と違う、よりリアルで新しい“体験する事”を新鮮に感じていた。
 回数は、まあ多くはないが少なくもない程度に、請われれば。その程度だ。

 ただマジックを交えて、というのは初めてだった。プレジデンシャルスイートの密室で初めて3人で、初めてづくしで東京の思い出にはなるな、と頭の隅で思っていた。…こういう時は善し悪しは別として、と加えておくのが文法上正しいか?
 否マジックを交えて、というのは誤謬かもしれない。マジックがいればシンタローはマジックとやる、俺が二人の行為に交じるのが初めて、それが正しい。
 シンタローが俺と欲を吐き出すのは大抵、マジックがいない時。シンタローのパターンだと、ある程度の回数のうちに俺はそれを理解していた。

 未分化時の俺をどう表現すればいいのだろう。
 多重人格者の説明のように、ステージに出たり引っ込んだり、というのは分かりやすい表現だ。真っ暗な世界の中、スポットライトで一点だけ照らされた、丸く光で切り取られたかのような人格のステージ。そこに二十数年立ち続けたシンタローと、シンタローの演技を闇から見続けた、永遠に出番の回ってこないバイプレイヤーでもありオーディエンスでもある俺。ステージ上のシンタローが語り、感じ、どう行動するか、シンタローを見てシンタローの世界を推測し理解する、それの繰り返し。だからこそ俺は、唯一の存在だったシンタローをただ憎んだ。俺達の状態を仮に“ステージ”と言ってのけるとしたらそういう事だ。シンタローと俺が共有している部分を、こころと称してしまえば確かに分裂しているのだろう。
 そして真実俺達は永遠に分かたれた。Till death do us part,死が2人を別つまで、なんて道徳的な誓いを立てた事もこれから立てる気も一切ないが、兎に角俺達は生きて俺達になり、取り敢えず今は道徳観念からかけ離れた一室にいる。

「んっ……んっ…んっ…んうっ」
 突き上げられる快感は、俺の身体にも残っている。シンタローを追い出す前からこの身体は、今同じベッドにいる血縁のこの男に、とっくに穿たれているからだ。これは分裂と並べた表現では事足りぬ感覚だろう。…ああ、やはり違うな、人格のステージなんて表現では言い切れない感覚もあるか。そう、確かに共有もしていた。主人格だからという問題ではなく、お互いが覚えている。否、共有している事もある。…面倒な。
 くぐもったシンタローの喘ぐ声は後ろから責めたてる俺の律動に揃えてあがる。
 シンタローが喘ぐのは俺も責任の一端ではあるが、その声がくぐもっているのは俺のせいではない。
「苦しいようなら、こっちは少し休もうか? シンちゃん」
「んっ。…や・ぁっ!」
 早速とした息苦しさに笑ってマジックが怒張する自分自身を口に銜えこんだシンタローの顔をあげようとしたが、唇から離れようとするそれにシンタローは頑是なく追いすがった。
 再び深く銜えられ、これでもかというばかりに、ぢゅッ、と音を立ててきつく吸い上げられて思わずマジックも息をのむのが分かる。そんな2人を間接照明の薄暗さは俺の目の前に淫靡に映しだしている。
「いつも、こうなのか?」
 腰の動きを休めず俺が訊くと、マジックも欲情したまなざしのままで笑って見返してきた。
「いや、3人でなんて初めてだよ。随分…シンちゃんはお気に入りみたいだけど。…キンちゃんとはいつも3人で?」
「いや、俺も初めてだ。…俺が訊いたのは、シンタローが伯父貴とする時はいつもこんなに興奮しているのかという事だ」
「フフッ…君らのいつもっていうのがどんなのか、聞いてみたいねぇ」
「ん…そうだな…」
 いつもの感覚を思い出せるように、動きを止めてみると、シンタローの舌の動きだけが部屋に響いた。
「さして、自慰と違いはないだろう。独りでもやれるが身体が2つあるんならお互いで吐き出したほうが感度が増すだけ手っ取り早い」
 言うとマジックは少し呆けた顔をした。
「だからこんな風に貪欲なシンタローは初めて見る」
 俺が生真面目に正直な感想を言うと、シンタローはヒクリと少し反応しただけで押し黙ったまま、マジックは少しだけ我慢をしてすぐに堪えきれずに肩を震わせて笑った。
「…他には?」
「……あんまり熱中しすぎてイク時には目を閉じて『父さん』って言ってる」
「! ンな事っ……ぐッ!」
 これには異議ありだったのか、シンタローが抗議の声をあげようとしたがマジックに頭を抑えこまれて思い切り喉をついたようだ。
「それはそれはそれは…いー事を聞いたv」
「あとは……酔った拍子に俺は男でも女でも金髪碧眼としかやったことがないとか何とか。随分と自慢気に喋ってたな…。代償行為だと俺は分析しているんだが」
「    !     ッッ!」
「そうなんだ? ところでシンちゃんはキンちゃんに動いて欲しいみたいだねェ」
「そうか? やはりいつもと違うな」
 俺の下で暴れるように藻掻いているシンタローの意図をマジックに言われて成程と納得すると、俺は途中だった自分の快感に再び没頭し始める。
「嬉しいよ」
「うる…っへ…! あ、は……んん!」
「ね…、キスしよっか? シンちゃん。…ん?」
 俺とシンタローの荒い吐息にマジックの睦言が続く。シンタローの形にならない抵抗も、煽るだけだとどうやら2人とも、シンタローさえも理解しているようだった。口淫をキスに変えて、悔しげに言葉を紡いでは喘ぐシンタローの狂態と、更に更にと煽っていくマジック。
 異様に興奮している2人の様は、段々と俺の理性をも侵してくる。
 慣れた、上りつめる感覚。
「   うアッ!」
 先にイッたのはシンタローだった。いつもより早い絶頂の、ひどい痙攣じみた締めつけに俺の視界がざらつく。…やばい。
 やはり、いつもよりも何と言うか     色々と、凄い。
 思った瞬間、呻いて一気にシンタローの中に吐精した俺は、汗だくの身体をベッドから引き離してふらりと窓際のソファに沈む。
 火照った体が自然と涼を求めていた。
「おや、続けないのかい? 3人揃うなんて折角の、滅多にないシチュエーションじゃないか」
「いい。少し   見ている」
「そう? じゃ、見えるように?」
 汗に濡れてぐったりしているシンタローの背を抱えると、マジックは自分の膝の上に引きあげた。シンタローの背中といたずらに笑っているマジックの胸がぴったりと重なる。
 ああとても楽しそうだ、俺は息を整える。
 マジックがちらりとこちらを見て、両手でシンタローの腿に触れて脚を開かせた。
「…シンちゃん。パパだよ」
「……あ、…ァ…」
 瞳を閉じたまま、囁かれてシンタローが眉を寄せる。触れてもいないのにあっという間に再び熱を持ち始めるのが此処からでも見てとれて、先ほどの興奮が醒めてしまった俺は呆れて、そして感心した。
「…すごいな」
「ん?」
 自分では知らず呟いていたようで、その呟きに快感に耐えているシンタローに降るようなキスを与えるマジックが答えを返してくる。聞かれているとは思わなかった。蕩けきったシンタローに比べてマジックの方はまだ余裕という事か。
「いや…すごい反応だな、と。……伯父貴に囁かれただけで勃つ、シンタローのそれは一体なんだろう、本能とでも言うやつか?」
 もしくはPavlov's dogs。条件反射。理性で抑えられぬ犬のそれと同じ調教か。
 探求心むき出しの俺の言葉に、何故かマジックは幾分表情を和らげた。
 それから汲み取れる感情を言葉にするなら、切ないとか、哀しそうな、が適当だろうか。または憐憫。…誰に? 俺に対する?
「そうだね。…でも、」
「んっ…ッ」
 ひとつ、唇を重ねた。余裕もなくシンタローの腕がマジックに絡みつく。
「…愛だといいなと、私は思うよ」
 そう言った後にマジックがシンタローの耳元で囁いた言葉は聞こえなかった。
 けど、続いたシンタローの反応でなんとなくわかったような気になる。
 多分、いいことなんだろう。



 俺にもこんな、どうしようもない部分でまで愛せる誰かができればいい。
 思って、ふと窓の外を見た。

 孤独とはこのようなものかな、初めて思った。


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