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雨が降る。
すべてを洗い流すかのように。

けれど、きっとこの想いは消え去ることはないのだろう。







Rain of farewell.







「シンちゃん、風邪ひくよ」

心配そうに声をかけてくるマジックも、ずぶ濡れだ。

「帰ろう」

差し伸ばされる手。
その手から視線を上げれば、声同様に心配そうなマジックが。



「…なぁ、アンタ俺のこと好き?」

突然の問いに、マジックが僅かに驚く。
が、それも一瞬で苦笑に変わる。

「普段から好きだとも愛してるとも言ってるのに、シンちゃんは信じてくれないね」

「俺も、アンタが好きだ…って言ったら?」

視線を逸らすことなく告げる。





「…シンタロー?」

マジックが戸惑いながら、名を呼ぶ。

「別に、変なことじゃないだろ?
 子どもが親に愛情感じるなんて」

さらりと言ってのければ、納得しかねる声で頷かれる。

「…そうだね。
 でも、私の想いはそういったモノじゃないよ」

「そうか?
 似たようなモノだと思うけどな」

マジックが、解らない、と目で問うてくる。
その視線を受け止めながら、答える。






「アンタ、俺によく似たジャンってヤツのことが好きだったんだろ?」
 
その言葉に、マジックが僅かに目を見開いた。
けれど、反論しない。
事実だから、反論のしようがないだけかもしれないが。

「だからアンタがどれだけ俺を好きだと言っても、俺は信じない。
 その想いが、俺に向かって言われているとは思えないからな」

「…過去は、どう足掻いても変えられないよ。
 変えられるとしたら未来だけなのに、お前はそれさえも拒むの?」

「過去はどう足掻いても変えられない――だからだ」

マジックは、何も言わずに俺を見つめた。
その目を真っ直ぐ逸らすことなく見つめた。




「すべてを、欲してしまう。
 過去さえも。
 …でも、そんなの無理だろ?
 手に入らないなら、いらない。
 だからアンタを想う気持ちも、ずっと親への愛情止まりだ」

「そんなことを言っている時点で、それ以上の愛情だと思わない?」

言われるまでもなく、そんなことは解っている。
けれど、言わなきゃマジックは気づかない。
だから言うんだよ。

「だから、だよ。
 アンタを親以上に思わないと言ったからには、思わないんだよ。
 思っていたとしても、それ以上は望んでない」

「…牽制?」

「そうだ」

「そこに私の気持ちはないの?
 お前中心で、私の気持ちは無視するのかい?」

「俺が好きなんだろ?
 だったら、俺のために諦めろ。
 それが互いにとって、一番いいことなんだよ」

マジックは溜息を吐いて、ゆっくりと瞬きをした。
開けられた目は、何処までも穏やかなものだった。



「お前は、怖いの?」

「…っ何を」

「怖いんだね」

逸らすことなく穏やかな目で声で問いながら、はぐらかすことは許さないと告げてくる。
それに、押された。

マジックの言っていることは、自分でも解っていることだったから。
諦めるように、一度ゆっくりと目を閉じた。

「…あぁ。
 だから、アンタも諦めろ」

「どうして?
 怖いのは、ひとりだからだよ。
 ふたりなら怖くないよ。
 お前が暗闇を怖がっていた小さい時、
 手を繋いでやればお前は安心して笑ったじゃない」

「もうガキじゃねぇよ」

「…お前は」

言いかけて、マジックが言葉を噤む。
言葉にならなかった声が、聴こえた気がした。

だから、笑った。





「お前はいつまでも私の息子だ、って今言いたかったんだろ?
 そうだよ。
 俺は、いつまでもアンタの息子だ。
 それでいいんだよ。
 …だから、さっき言ったことは忘れろ」

目を見て言い切って、背を向けた。
もう話すことは、何もない。

「…忘れろって言うなら、どうして話したの?
 私はお前の本当の気持ちを知ったのに、お前が拒むのは残酷だよ」

その言葉に、足を止めた。
けれど、振り返らなかった。



そんなことは、解っている。
でも、仕方ないだろ?

手に入らないなら、いらない。

そう思う気持ちは、確かにある。
けれどそれ以上に、アンタが俺以外の奴のことを想うのは嫌なんだ。




「諦めろ」

それだけ言った。
自分で言って、何を諦めろ、と言ったのか解らなかった。

ただ、俺自身を諦めろ、とは、
マジックは取らないだろうと知っていた。

それを解っている上で、
こんな俺だと解っても思い続けろ、と言いたかったのかもしれない。




雨が降る。
すべてを洗い流すように。

けれど、この雨は何も洗い流してはくれない。
このどうにもならない想いを、消し去ってはくれない。

それどころか枷のように、俺にもマジックにも降り注いで止まない。





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『愛してるよ』

何度そう告げられたところで、心動かされることはない。
言葉は軽く、その場限りのモノでしかない。
そんなモノを信じろと、マジックは言うのだろうか。






Kiss of beginning.







「…信じない」

いい加減、もういい。
そんな言葉を貰ったところで、俺は絶対に信じることなどないのだから。

「…どうしたら、信じてくれるの?」

真っ直ぐに見据えてきながらも、浮かぶ苦笑で問われる。
その目を真っ直ぐに見返しながら、呟いた。

「態度で示せば?」

その言葉に、ゆっくりとマジックは目を閉じる。
そして再びゆっくりと開けられたそこには、肉食獣を思わせる強い目があって…。

「いいの?」

「信じて欲しいのなら」


そう答えながらも、それは違うと知っていた。
信じて欲しいから、ではなく、
本当は、信じさせて欲しいから、だ。

なんて、情けない。
けれど、それはどうしようもない本音。


絡み合う視線。
緊迫した場の雰囲気。

けれどきっと互いに、現実感を伴っていなかった。
白々しかった。
でも、互いに流されたかった。



近づく手に、目を閉じる。
触れる大きな手は、何年ぶりか。

幼少期、この手で安心を覚えていた。
そして今も、安堵を覚えている。

還る場所はここでしかない、と思い知らされる。
望む場所も、ここでしかない、と。




唇に触れた、温もり。
すぐに離れたそれ。

目を開ければ、表情のないマジックの顔が。

何を、思っているのだろう。
そして、俺は何を思っているのだろう。

数瞬見つめあって、マジックがまた問う。




「いいの?」

後には戻れないよ、と告げてくる。

「信じて欲しいんだろ?」

変わらぬ答えを告げる。

「信じて欲しいけど…、それだけのために一線を越えていいの?
 元には、もう戻れないよ。
 私は、もう我慢することを止めるよ。
 お前は、本当にそれでもいいの?」

「…別に」
 
「…そう。
 でもどうせなら、違う言葉で了承を得たかったよ」

マジックが、苦笑する。
その言葉は、聞かなかったことにする。



傷つくことが、怖い。
自分が望んでいることを例え知られていたとしても、それを言葉にする強さはない。
下手に期待を持って、後で裏切られることが怖いから。

それが卑怯だと解っていても、俺は何も言わない。
この先、一生言うつもりもない。


だから答えない代わりに、目を閉じた。
だから答えない代わりに、腕をマジックに回した。







そろそろ結婚を、後継者を。

そう囁かれる日々。
持って生まれた力とカリスマ性のおかげで、
意見を申し立てる者などいなかったが、それもそろそろ限界らしい。







The treasure named a crime.







怯えながらも、誰もが同じ言葉を告げてくる。


跡継ぎなど、何も絶対に私の子供でなければならない、
と言うわけではないだろうに、何故そうも拘るのか。
戦闘好きのハーレムに継がせればいい、
と、本気とも冗談ともつかないことを返しても納得してはくれない。


いい加減納得してくれぬ一族や幹部どもに、条件を突き出した。
――黒い目と髪を持つ女ならばいい、と。

そう告げた時のことを、今でも覚えている。
一族と幹部どもは目を見開き、愕然と私を見ていた。
条件の意味を知らぬルーザーは特に気にすることなく、お好きなように、と言った。
意味を知っている双子の弟たちだけが視線を逸らし、苦い顔をしていた。

けれど、そんな彼らを見ても何も思わなかった。

ただ手に入れることができなかった彼と同じ色彩を持つ女ならばいい、と愚かにも思った。






青の一族に、黒い色彩を持つ者はいない。
どんなに他の色彩の血が混じったところで、その色彩を持つものは生まれてこない。
それに敵対する一族の色彩を迎え入れることを、忌み嫌う。

それが解っていたからこそ提示した条件だというのに、反対されることもなく了承された。
ここに来て初めて、自分の価値を知った気がした。

一族の掟を覆してでも、私の子どもが欲しいらしい。

忌まわしき、この両眼の秘石眼。
その血を濃く受け継ぐ子どもが、欲しいらしい。



自分の言葉に責任を持つ、それは父から教わったことのひとつ。
だから、覆すことなどできない。

それに、どうでもよかったのだ。
血を分けた私の子どもが生まれても、別にどうでもよかった。

彼が手に入らないなら、すべてがどうでもよかったのだ。
人の命を奪う私は、命の尊さを説ける人間ではない。
命の価値など、ないに等しいとすら思っていた。





一族が用意した女は、酷く儚げな女だった。
そして、私が望んだ彼と同じ黒い髪と黒い目を持つ女。


「私は君を愛してもないし、これから先も愛すことはないよ」

初対面で、しかも第一声で告げた。
内容も声すらも、酷く冷たいものだった。

「君は、子どもを生んでくれさえすればいい。
 その後、どうしようと君の自由だ」

泣かれても仕方ないと思う言葉にも、彼女は静かに笑った。

「存じ上げております」

儚いと思っていた彼女は意外にも強く――その強さが、哀れだった。







ただ子をなす為だけに彼女のもとへと足を運び、妊娠を知れば足は遠のいた。

それから数ヵ月後、子どもは生まれた。


黒い色彩を纏った子ども。
そして、秘石眼を持たぬ子ども。

どんな色彩を纏う血が混じっても、
濃淡はともかく、決して金と青の色彩が失われることはなかった。
それなのに、生まれた子どもはその色彩を欠片も持って生まれてこなかった。

秘石眼を持たず生まれたことだけでも一族の非難の的だったというのに、
そのこともあって、彼女は不貞を働いた、という疑いをかけられた。

けれど、それは有り得ないことだった。
セキュリティーが、私以外の人間が彼女に与えた家に訪れていないことを証明していた。

しかし、それでも納得しない一族の者たち。

けれど、そんなことはどうでもよかった。
秘石眼を持たないことすらも、どうでもよかった。

自分の子どもが可愛い、という人間的な感情からではなく、
ただ彼と同じ色彩を纏った子どもが私の子どもとして生まれた、ということが嬉しかった。




手に入らなかった彼とは違うけれど、
それでも欲してやまなかった彼と同じ色彩を纏う子どもが手に入ったのだから。
――それに欲してやまなかった彼は、もうこの世にはいない。

彼はもういない。
どんなに望んだところで、誰のものにもならない。

誰のものにもならないなら、それでいい。
私は私だけの、彼と同じ色彩を纏うこの子どもを愛する。

歪んだ幸せ。
歪んだ執着。





子どもが生まれれば、約束どおりに彼女の元へと行くことはなかった。
自由にしていい、との言葉とともに離婚届を渡した。

彼女は、ただ笑った。
その後彼女は離婚届を出すこともなく、家を出ることもなくずっと与えた家で静かに暮らしていた。

子どもを一度として彼女の元に連れて行かなくても、彼女は何も言わなかった。
会いたい、とも、会わせてくれ、とも何も。
ただ部屋に引きこもり、静かに精神を病んでいったと聞いた。

けれどその報告を聞いたところで、私は何も思わなかった。
彼女の存在は、その程度でしかなかったのだから。



その間、シンタローと名づけた子どもは日々成長する。

驚くことに、子どもは彼に似てくる。
そんな子どもに、愚かしくも執着は深まるばかり。


愛おしくてたまらない。


彼には届くことなかった気持ちが、
子どもには届き受け止められ、返してくれさえもしたのだから。





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強くなったつもりだった。

団内の試合でも、連覇を遂げている。
ガンマ団一とも言われるようになった。

けれど、そんな強さは何の意味も持たない。







The treasure named a crime. -side.S-







思えば、母さんの顔を見たことがなかった。
いつも傍にいたのは、マジックだけ。

母さんは病気だから、その一言で終わらされていた。
コタローが生まれた時も、母さんの姿はなかった。
ただ、死んだ、と聴かされた。

その言葉にショックは受けなかった。
だって、知らない人だから。

写真すら見たことのない人。
それが、俺を生んだ人。

疑問が生じなかったワケじゃない。
ただ、考えることが怖かった。

だから、考えることを止めた。
その代わりに、弟を――コタローを愛そうとした。



金の髪。
今はまだ解らないけれど、きっとそれは秘石眼だろう青い目。
一族の子どもと一目で解る、その姿。

もしかしたら、自分を愛したかったのかもしれない。

纏ってくるはずだった色彩を持って生まれたコタローを、
纏ってくるはずだった色彩を持って生まれなかった自分の代わりに。


それなのに、マジックはコタローを拒絶した。




纏うはずの色彩を持っていない俺に対して異常なほどに愛情を注ぐのに、
何故、一目見て俺より確実に自分の子どもだと解るコタローを拒絶し幽閉までするのか。

もし纏うはずの色彩を俺が持って生まれてれば、
マジックは俺も拒絶したのだろうか。



――それなら、
真意の見えない『愛してる』を囁いたのは、誰に対して?

自分の息子だから、ではないのか。
纏うはずの色彩ではなく、こんな色彩を纏って生まれたせいなのか。

何を、信じればいい?

考えれば考えるほどに、怖くなる。
知らず、血の気が引いていく。






「コタローを何処にやった」

それでも訊かずにはいられなくて必死の思いで訊いたのに、
マジックは、何処か虚ろなままに答える。

「シンタロー…コタローのことは忘れろ」

「何を言ってんだよ、親父。
 気は確かかよ」

頭ごなしに、怒鳴ってくれればよかった。
言い訳をしてくれれば、よかった。

それなのに、マジックはただ忘れろと言うだけ。

不安が、助長する。
それを隠す余裕もなく縋るように見上げれば、頬に触れられる。



「私の息子は、お前だけだ…。
 お前さえいればいいんだ」

告げてくる表情も言葉も、何処か虚ろなまま。
それなのに、それは紛れもなく真剣だと解ってしまう。

「な…何言ってんだよ。親父…」

否定の言葉が聞きたいと、必死で出した言葉は無様に震えた。
けれどそれさえも無意味なように、続けられる言葉。

「覚えておけシンタロー。
 一族の後継者はお前だ」

そんな言葉が、欲しかったんじゃない。

「違うよ。
 俺は後継者なんかじゃねえっ。
 秘石眼すら持たないできそこないだ」

長年まとわり付いて離れなかった負い目が、抑えることもできず溢れ出す。

マジックの目が、僅かに見開かれた。
傷ついているように見えた。

けれど、もう言葉は止まってはくれない。
言ってはいけない、最後の言葉を言ってしまった。




「俺はアンタみたいにゃなれねえ」

後悔、なんて生易しいモノを感じる前に、床に吹っ飛んだ。

殴られた頬に、打ちつけた背に痛みを感じるより先に、
心臓を抉られたと錯覚するほどの痛みが走った。

マジックの表情を見てしまったから。

怒りを前面に表しているそんな顔は、今まで見たことがなかった。
だけど、目が怒っていない。
傷ついていた。

そんな表情は、本当に初め見た。


胸が、痛い。
マジックにのまれぬようにと睨み返しながらも、泣きそうになる。

息が止まるほどの張り詰めた空気を破るように、
マジックは一度だけ大きく踵を鳴らし、去っていった。

その姿を見ながら、泣いた。
哀しいからなのか悔しいからなのかも解らずに。





マジックのことなど、切り捨てればいい。

あんな非道な人間など、見捨てればいい。
絶対に哀しむ奴より、喜ぶ奴のほうが多い。

それなのに、見切れない自分がいた。
何処かで、信じていた。

頼めば、すぐにコタローを解放すると信じていた。
俺を俺として見てくれていたと信じていた。

けれど、もう限界だ。


マジックが、何を考えているのか解らない。
いつも下らないことばかり口にして、核心を見せてはくれない。
初めて本心が垣間見れる傷ついた目を晒して見せても、その心中は語ってはくれない。

信じられなくなる。



だから、決意した。

マジックを憎んでしまう前に。
見せてくれたあの笑顔も貰った愛情すらも、信じられなくなる前に。


――離れよう、と。




ジャラリと響いた音。
不自然な重みに伴い痛みを伝えてくる、右手首。





On a chain.





「…いつかはやると思ってたよ」

嫌な予感を通り過ぎ、
諦めに似た確信で視線を投げれば、想像通りに鈍く光る銀の手錠。

「だって、そうでもしなきゃ手に入らないんだもん」

「…だって、とか、だもん、とか言ってんじゃねぇ」

「お前は余裕だね。
 私は、酷く怖がっているんだけどね」

どこがだよ。
怖がってるヤツは、苦笑なんて浮かべねぇんだよ。


「どうでもいいから、これ外せ」

「私が外すと思う?」

「…思わない。
 どうせ、高松あたりに頼んで作らせた特注だろ?」

鎖に目を落とせば、変らず鈍く光っている。
ずっしりとしたそれは、単なる金属だけではないと悟る。







「よく解ったね。
 でも、それでお前は諦めるの?」

「…アンタ、言ってることとやってること矛盾してないか?」

「そうだね」

静かに目を伏せ、マジックが笑う。

「…何がしたいんだ?」

「さぁ、解らないよ」

「解らないのに、態々特注の手錠なんて用意したのかよ」

伏せられていた目が、俺を捕らえる。
ただただ、静かな目がそこにある。



「そうだね。
 私は、お前が暴れると思ったんだよ。
 例えそれが特注で作らせた強固なモノだと解っていても、
 お前は、血を流してでも逃れようとすると思っていたんだよ」

「…何だ、それ」

「…うん、何だろうね。
 だから、解らないんだよ」

「暴れて欲しかったのか?」

問う声が、震えそうになるのを必死に耐えた。

「…そうみたいだね」

「…アンタは、アレだな。
 無理やり手に入れようとする時はどんな手でも使ってそれをやろうとするのに、
 手に入った途端それに価値を見出せなくなる。
 最低だ」

「それは否定できないけど、お前に関しては違うよ」

告げられた言葉は、真実だと知っている。
けれど、それをすべて信じられないのは事実。

マジックの冷酷さを知っている。
それが、自分にだけ当てはまらないとは言い切れない。

どれだけの愛情を貰ってきたとしても。




「それに、お前は本当に私の手に入ったと言える?」

「…ふざけんな」

「だろ?
 お前は、私の手になど堕ちないよ」

「…アンタ、何がしたいんだ?」

「何がしたかったのかな」

マジックが、手錠に手を伸ばす。
じゃらり、と再び鎖が音を立てた。

手を取られ、恭しくも口付けられる。
その手を掴んだまま、静かな笑みを浮かべる。







「私は、お前が解らないよ。
 どうして、逃げようとしないのかな」

「逃げようとして欲しいのか?」

「違うよ。
 私は、理由が知りたいだけだよ。
 ねぇ、どうしてかな」

問うてくる目が、苦しそうに歪んだ。


「…無駄だと知ってるから」

「それ、本当?
 お前は、いつでも足掻いてきたくせに?」

「…アンタ何が言いたいんだよ」

さっきから、マジックが何を言いたいのか解らない。
矛盾した言葉ばかり吐き出してくる。

「だから、解らないって言ってるじゃない。
 でも…、そうだね。
 言って欲しいのかもしれないね。
 お前の口から否定の言葉が聴けることを」

「…何を」

何をして欲しいんだ?、と訊く声が掠れた。
怖かったのかもしれない。



息を、呑んだ。
体が強張る。

それに気づき、マジックがふっと笑った。







「聞き出そうとしてるわけでも、無理やり言わすつもりもないよ。
 いつかお前が自分から言ってくれたらいいと、勝手に思っているだけだから」

俺の手を掴んでいない手で、頭を撫でられる。
ガキの頃、早く大きくなって、と言いながら撫でた優しさで。

それから、ごめんね、と小さく呟いて手錠を外される。
カチリと無機質な音が、やけに耳に付いた。




その一連の動作を、瞬きもせずに見ていた。





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04.12.02~07.03.21
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「パパのお仕事って何?」

キラキラと目を輝かせて、シンタローが訊いた。

答えに喘ぐ頭の中で、
だから言ったんだ、というハーレムの声が聴こえた気がした。





Past decision.





「よく集まってくれたね」

久しぶりに、兄弟全員を集めたのには理由がある。

ルーザーはニッコリと笑って頷き、
ハーレムはやる気のなさを隠しもせず頬杖をついて欠伸をし、
サービスは表情を変化させることなく私を見ていた。

「何だよ、兄貴。
 俺は忙しいんだから、早く用件言えよ」

「すぐに終わるから、待ちなさい」

周りを見渡せば、兄弟皆こちらをちゃんと見ている。

もう誰もが、とうに大人になった。
幼い者は、ここにはいない。

大きく息を吐き、本日の目的である事を告げる。




「ガンマ団は今日をもって、
 世界最強傭兵集団から世界最強殺し屋集団とする」

それを聞いても、
ルーザーは変わらずニッコリと笑ったままで、
サービスは変わらず表情に変化はなく、
ふたりは、そうですか、という同じ言葉を吐き出した。

ただ一人、反対したのはハーレム。

「っ何でだよ、兄貴」

やる気なげだったのが、今は席を立ち上がってまで訊いてくる。


「何を驚いているんだい、ハーレム。
 傭兵集団と言っても、やってることは殺し屋と変わらなかっただろ?
 ただそれを大々的に言うかどうかの違いじゃないか」

「だったら、今まで通り傭兵集団でもいいじゃねぇか」

ムキになるハーレム。
他のふたりの反応は予想通りだったが、ハーレムだけが違った。

戦闘好きのハーレムのことだから、喜ぶとしか思っていなかったのに。

「同じ事をするのなら、言葉の持つイメージが大きいほうを選んだほうがいいだろ。
 傭兵と殺し屋では、受け取るイメージが大きく異なる。
 そうすれば、無駄に軽く見られることもなく有利になることも多いだろ?」

でもっ…、とそれでも納得のいかない様子のハーレムに、
これは相談ではなく決定だ、と言い放つ。







「…後悔するぞ」

絶対に、とハーレムがぐっと眉間に皺を寄せて唸るように言った。

「何を後悔する?
 するはずなんてないだろう。
 お前もサービスも、もう子供じゃない。
 一族が何をやってきたのか知っている。
 今更だろ?
 だから、後悔するはずなんてない」

それこそ、絶対に、だ。

言い切ったところで、
それでも納得できないようにハーレムは苦渋に満ちた声で何かを言った。




あの時ハーレムが、
何を言ったか解らなかったけれど、今ならそれが解る。

解ってしまった。
解りたくもなかったのに。

けれどそれを気づかせた存在は、
大切で、大切すぎて、その存在を否定することなどもうできないのだ。













視線の下には、目を輝かせたまま返事を待つシンタロー。
いつものように私は、視線を合わせようとしゃがみこむことさえできず立ち尽くしたまま。















シンタロー、私は怖かったんだ。

自分の甘さを知っていた。
それを断ち切れない限り、総帥としてはやっていけないと知っていた。


だから、切ったんだ。

冷酷非道の青の一族が残した逃げ道を、私は断ち切った。
やっていることは人殺しに過ぎないくせに、
傭兵だといい逃れる逃げ道など残せば、私は潰れると思ったから。




それに、兄弟の他は誰も愛さないと思っていた。
愛すべき兄弟たちは自分たちの一族の仕事を理解したうえで団に残っていた。
だから、彼らは一族の所業に関して傷つくことなどない。

それならば、もういいと思った。

結婚したとしても政略結婚の相手など愛せるはずもなく、
そんな女から生まれてくる子どもも愛せるはずもないと思っていた。




それなのに、シンタロー。
結婚相手に愛情を微塵も感じないくせに、
お前には絶えることなく愛情が溢れかえってくる。

幸せにしたいと思う。
血に塗れた手だと言うのに。













「…シンちゃん、パパのこと好き?」

震える声で訊いた。
シンタローは自分の問いに答えない私に首を傾げながらも、
ニッコリと笑って、大好き、と言った。

後悔が押し寄せる。
止め処なく、押し寄せる。

それを押し留めるように、小さなシンタローを抱きしめた。


逃げ道を残して置けばよかった。
傭兵集団だと言えれば、まだよかった。
人のために力を貸す仕事だと、多大なる嘘を吐けたのに。



子どもに言えない仕事にしてしまったことの後悔は勿論、
いつしかこの子が大人になった時の選択を考えることが怖かった。

穢れなきこの子が私の仕事を知り去って行くことも、
私の兄弟のように思うことはあったとしても受け入れることも、
どちらも耐え難いことに思えてならない。



けれど、それはいつか来る現実。
それならば、私は出来うる限り嘘を続けよう。

一秒でも長く、この子が本当に笑っていられる時間が長いように。





「誰かの役に立つことをしてるんだよ」

どんな嘘だ、と自分でも思う。
けれど、すべてが嘘だと言い切れないのだ。

誰かが団に暗殺を頼み、それを果たすと言うことは、
誰かの役に立っていると言えないこともない。

嘘で塗り固めていたとしても、すべてが嘘じゃない。





眩しいまでの笑みで、凄いねパパ、と笑うシンタロー。


ごめんねと、何度謝っても足りない。
あの時の選択が間違っていたとも言い切れない。
そうしなければ、私は潰れていただろうから。

それでも今、私はどうしようもないほどに後悔している。






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05.10.29~07.01.03
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