1.ケンカ
真実を押し潰してでも
護りたいものはなんですか――?
「眼魔砲ーーーーッ」
怒声と共に起こる爆発音に、人々は「またか」と思う。
ガンマ団内では既に黙認となっている、前総帥と現総帥の『親子喧嘩』は、現総帥が遠征から帰ってくる度に繰り返されていた。
ただのケンカなら可愛いものだが、世界でも名を馳せるガンマ団のトップと元トップのケンカは一般レベルではない。その度に本部内のあちこちが破壊されてしまうのだから、それの修理に当たる団員達はたまったものではない。
しかしながら、そのトップレベルの争いを止められるものなどいる筈もなく、今日も今日とて破壊された部屋の修理に団員達は涙するのであった。
+++++
「また壊したの?」
あ~あ、と呆れたように室内を見回したのはグンマだった。
すっかりと風通しの良くなった総帥室の真ん中には、怒りを抑えきれないまま仏頂面でソファーに座るシンタローの姿。
「悪ィ」
口ではそう言うものの、責められる筋合いはないと主張するその瞳に、グンマは肩を竦めた。
「この前ティラミスが『予算が…』とか言って青い顔してたよ?」
「う…」
グンマのその言葉に、シンタローの表情が一瞬固まった。
「確かに懲りないおとーさまも悪いけど、シンちゃんだっていい加減パターンなんだから、少しは落ち着いて対処したら?」
初っ端から眼魔砲を撃つんじゃなくてさ――グンマにそう責められて、シンタローは思わず反論した。
「あのなー、俺は必死に働いて疲れて帰って来るんだヨ!それこそもう、くたっくたになってな!!それなのに突然『シンちゃ~~ん♪おっかえりなさ~~いッvvvさぁ!!パパと熱い抱擁を!!』なんて言って飛び掛られたら、冷静な対処もクソもねぇだろ!?身体が勝手に動いちまうんだぜ!?」
悪いのはどう見てもあの馬鹿親父じゃねーかと、主張したシンタローにグンマは「確かにそうなんだけど…」と困った顔をした。
「でもおとーさまのアレってもう治らないじゃない?だったら、やっぱりシンちゃんの方で何とかする方が、団の皆にも団の予算にも優しいんじゃない?」
ね?と可愛らしく小首を傾げられてしまい、シンタローは深々と溜息を付いた。
「…確かにあの馬鹿は死んでも治らねーだろうな…」
否定出来ないことが哀しいが、こればかりは事実である。
どんなにヤメロと言っても聞いてくれたためしがないのだから。
「困ったおとーさまだね」
「お前な…所詮他人事だろう?自分がされたら気色悪ィって思わねーのかよ」
「あははー、じゃあシンちゃんには高松をあげようか?」
「……俺が悪かった」
笑顔でドクターの名を出されて、シンタローの脳裏に浮かんだのは血塗れのその姿。
それと父親とを見比べて――どちらも大差はないと瞬時に悟ったシンタローは、グンマはグンマで大変なのだと素直に認め、謝罪の言葉を口にした。
「ほんとに困った大人達ばっかりだね」
「全くだ」
うんうんと頷きあう二人の間には、必要以上の親近感が湧いていた。
「…いっそのこと本気の喧嘩になっちまえばラクなのにな」
不意にシンタローが、眼魔砲の衝撃でなくなってしまった壁の外を見つめながらそう呟いた。
「シンちゃん?」
急に真面目な顔になったシンタローの顔を、グンマは訝しげに覗き込んだ。
「アイツのふざけた態度の中に本気が隠されてることぐらいは知ってる」
「シンちゃん…」
「だったらふざけたりなんかしねーで、真面目に『お帰り』って言ってくれりゃーそれですむ話じゃねーか。それだったら俺だって何も…」
――眼魔砲なんてぶっ放したりしないんだ――
シンタローの声が何処か悔しそうに聞こえるのは気のせいじゃないだろう。
「おとーさま…シンちゃんのこと好きだから」
シンタローの思いを汲んで、グンマはただそれだけを口にした。
「アイツは――親父の中ではいつまでたっても俺は『シンちゃん』のままなんだろーな」
過剰な愛情表現は恐らくその命が尽き果てるまで続くのであろう。
「シンちゃんはおとーさまのこと、好きなんだね」
「気色悪ィこと言うんじゃねー」
グンマの言葉に隙を入れずにシンタローは返したが、その言葉を否定はしなかった。
「アイツが真面目に俺に向き合うなんざ、そうそうねーからな」
いつだって『本気』と言いながらはぐらかされてばかりいる。
「シンちゃんはおとーさまと喧嘩したいの?」
「したいもなにも――喧嘩になんかなんねーだろ」
「どうして?」
つまらなさそうに返答するシンタローに、グンマはまた首を傾げた。
「親父が俺に本気なんて出すかよ。…どんなに本気にさせようとしたって――アイツはすぐに逃げるんだから…」
「シンちゃん…」
そう言ったシンタローの顔がやけに哀しそうに映って見えて、グンマはまるで自分の事のように胸が痛むのを感じた。
マジックの前ではいつまでたっても子供だと――大人として認められていない歯痒さをシンタローは感じているのだろう。
それはグンマ自身も高松に対して感じている事だった。
「…困った大人達だよね」
「ああ――」
静かに先程と同じ言葉をもう一度呟いたグンマに、シンタローは小さな声で返事をした。
それっきり黙りこんでしまったシンタローに、グンマは声をかけることなく寄り添うように座って――ただ黙って外の景色を見ていた。
あと数時間もすれば、いつもどおりこの部屋を修理する為に団員がやってくるだろう。
そうして元通りになった壁と同じように、シンタローの心にもまた壁が貼られる。
『グンマ様からも何とか言ってもらえませんか?』
先日団員の一人から懇願されて、軽い気持ちで引き受けた事をグンマは後悔していた。
父との遣り取りの後――毎回彼はこんなに辛そうな顔をしていたのだろうか――。
今までその事に気付いていなかった自分に腹が立った。
もっと早くに気付いていたら、いつでもシンタローが帰ってきた時に傍にいるようにしたのにと。
「…ごめんねシンちゃん」
「…なんでお前が謝るんだヨ」
意識するでもなく、勝手に出てしまった謝罪の言葉にシンタローはムッとした表情になった。
「うん、なんとなく」
「なんだよそりゃ」
ふふ、と笑って見せたグンマに、シンタローは呆れた顔をした。
その顔からは、先程見せた哀しげな色を読み取る事は出来なかった。
やがて何人かの足音が近付いてきた。
間違いなく、ボロボロになったこの総帥室を修理する為にやってきた団員達だろう。
「此処にいたら邪魔だな」
あいつらには特別ボーナスでもやらねーと駄目だなと、シンタローが苦笑した。
「そうだね」
立ち上がったシンタローに続いてグンマも立ち上がる。
「さーてと、部屋に戻るか」
総帥室ではない、自分の部屋へ。
「僕は研究室に戻らないと~」
「今度は何作ってんだヨ?」
「へへ~v秘密。出来上がったら一番にシンちゃんに見せてあげるから楽しみにしててね」
「…変なもん作んなよ」
若干引き気味のシンタローに不満げな顔をしながらも、グンマは「じゃあね」と明るく手を振った。
「ああ。…サンキュな」
ほんの少しだけばつの悪そうな顔をしているシンタローに「どういたしまして」と付け加えてから、グンマはシンタローよりも先に総帥室を後にした。
+++++
「ありがとうグンちゃん」
「あれ、おとーさま」
ぱたぱたと通路を歩いていると、何処から現れたのか――父、マジックが立っていた。
「『ありがとう』って何が?」
何となく分かるような気がしたが、あえてそれを聞いてみる。
「聞かなくてもわかってるでしょ」
ネ?と優しく微笑まれて、グンマは渋々頷いた。
「おや、グンちゃんは少しご機嫌ナナメかな?」
おちゃらけた様子で尋ねてくるマジックに、グンマはぷぅと頬を膨らませた。
「シンちゃんのこと、気付いてるんでしょう?おとーさま」
――なのにあんなに哀しそうな顔をさせるなんて。
「おや、グンちゃんはシンちゃんの味方かい?」
淋しいなぁと、ちっともそう思っていない表情の父親に、グンマは聞こえるように溜息を零した。
「おとーさまはシンちゃんのことキライ?」
「まさか!」
グンマの質問に即答するマジック。
「だったらどうして――」
「グンちゃん」
言い募ろうとしたグンマの唇に、マジックが人差し指をそっと当てた。
まるでその続きを言うなと言わんばかりに。
「…おとーさま」
「あのねグンちゃん、それ以上は言ったら駄目だよ。私が本気になってしまうから」
「おとーさま…?」
にっこりと微笑んでいるはずのマジックだが、妙に威圧感を感じてグンマは一歩だけ後ずさった。
「私が『本気』になってしまったら、あの子を傷付けてしまう」
「でもシンちゃんは本気の喧嘩を…ッ」
『したい』と望んでいるのに――。
グンマはそう言いたかったが、何故かそれを言ってはいけない気がして――ギュッと口を引き結んだ。
「そう、それでいいんだよグンちゃん」
そんなグンマにマジックは優しく笑いかける。
その笑顔からは先程の威圧感は感じられない。
「おとーさま…どうして…?」
「パパはシンちゃんが大好きだからね。シンちゃんと喧嘩なんかしてシンちゃんが怪我でもしたら大変だろう?」
グンちゃんだって、シンちゃんが怪我するのは嫌だろう?――そう言われて、グンマは腑に落ちない様子のまま小さく頷いた。
恐らくというか絶対、今のマジックの言葉は本音ではない。
勿論シンタローに傷を付けたくないというのは本音だろうが、軽い言葉のその奥にもっと重要なものが隠されているような気がした。
だがグンマは本能的にこれ以上踏み込んではいけないと、悟った。
「おとーさま…僕、研究の途中だったからもう行くね」
「おや、そうだったかい?ごめんね足を止めちゃって」
にっこりと笑うマジックは普段のままだ。
それでも『何か』が違うとグンマは思った。
「グンちゃん」
立ち去ろうとしたグンマの背に、マジックが声をかけた。
「なぁに、おと-さま?」
くるりと振り返ったグンマに、マジックはもう一度「ありがとう」と告げた。
それは何に対しての「ありがとう」なのか――。
「これからもシンちゃんをよろしくね」
「え?あ、う、うん!」
突然の予想外の言葉に戸惑いながらもグンマは頷いた。
「研究が上手くいったらパパにも見せてネ」
それから――いつもの口調で、思い出したように明るくそう付け加えたマジックに、グンマは肩の力を抜いた。
「勿論見せるから見てね。あ、でも一番はシンちゃんだから!」
「はいはい。お仕事頑張ってね」
「は~~い」
グンマはいつものように明るく笑い返した後、ぱたぱたと音を立てながらその場を後にした。
――だから聞いていなかった。
マジックの小さな呟きを――。
『本気』になるなど容易いこと。
それはギリギリのラインを保ってなんとか踏み止まっているけれど、いつでも踏み越えることは出来るもの。
一度踏み越えてしまったら、押さえが効かない感情。
大切で大切で仕方ないから護りたいと思う心。
愛しくて愛しくて仕方がないから手に入れたいと思う衝動。
二つの心は相反していて、後者の想いはいつでもどす黒い渦を巻きながらマジックの心を支配している。
それを抑えているのは失う事への恐怖。
ただの喧嘩ですむのならどれだけでもしていい。
それがただの喧嘩ですまないから、マジックはひたすら道化を演じる。
本音など言うことなど出来ない。
何故なら――。
「シンタローは私に『父親』を望んでいるから…ね」
誰に聞かせるでもなくそう呟いたマジックの顔が、先程のシンタローの表情と同じであったなどと、知る者は誰もいなかった――…。
END
2006.04.28
2008.08.24サイトUP
真実を押し潰してでも
護りたいものはなんですか――?
「眼魔砲ーーーーッ」
怒声と共に起こる爆発音に、人々は「またか」と思う。
ガンマ団内では既に黙認となっている、前総帥と現総帥の『親子喧嘩』は、現総帥が遠征から帰ってくる度に繰り返されていた。
ただのケンカなら可愛いものだが、世界でも名を馳せるガンマ団のトップと元トップのケンカは一般レベルではない。その度に本部内のあちこちが破壊されてしまうのだから、それの修理に当たる団員達はたまったものではない。
しかしながら、そのトップレベルの争いを止められるものなどいる筈もなく、今日も今日とて破壊された部屋の修理に団員達は涙するのであった。
+++++
「また壊したの?」
あ~あ、と呆れたように室内を見回したのはグンマだった。
すっかりと風通しの良くなった総帥室の真ん中には、怒りを抑えきれないまま仏頂面でソファーに座るシンタローの姿。
「悪ィ」
口ではそう言うものの、責められる筋合いはないと主張するその瞳に、グンマは肩を竦めた。
「この前ティラミスが『予算が…』とか言って青い顔してたよ?」
「う…」
グンマのその言葉に、シンタローの表情が一瞬固まった。
「確かに懲りないおとーさまも悪いけど、シンちゃんだっていい加減パターンなんだから、少しは落ち着いて対処したら?」
初っ端から眼魔砲を撃つんじゃなくてさ――グンマにそう責められて、シンタローは思わず反論した。
「あのなー、俺は必死に働いて疲れて帰って来るんだヨ!それこそもう、くたっくたになってな!!それなのに突然『シンちゃ~~ん♪おっかえりなさ~~いッvvvさぁ!!パパと熱い抱擁を!!』なんて言って飛び掛られたら、冷静な対処もクソもねぇだろ!?身体が勝手に動いちまうんだぜ!?」
悪いのはどう見てもあの馬鹿親父じゃねーかと、主張したシンタローにグンマは「確かにそうなんだけど…」と困った顔をした。
「でもおとーさまのアレってもう治らないじゃない?だったら、やっぱりシンちゃんの方で何とかする方が、団の皆にも団の予算にも優しいんじゃない?」
ね?と可愛らしく小首を傾げられてしまい、シンタローは深々と溜息を付いた。
「…確かにあの馬鹿は死んでも治らねーだろうな…」
否定出来ないことが哀しいが、こればかりは事実である。
どんなにヤメロと言っても聞いてくれたためしがないのだから。
「困ったおとーさまだね」
「お前な…所詮他人事だろう?自分がされたら気色悪ィって思わねーのかよ」
「あははー、じゃあシンちゃんには高松をあげようか?」
「……俺が悪かった」
笑顔でドクターの名を出されて、シンタローの脳裏に浮かんだのは血塗れのその姿。
それと父親とを見比べて――どちらも大差はないと瞬時に悟ったシンタローは、グンマはグンマで大変なのだと素直に認め、謝罪の言葉を口にした。
「ほんとに困った大人達ばっかりだね」
「全くだ」
うんうんと頷きあう二人の間には、必要以上の親近感が湧いていた。
「…いっそのこと本気の喧嘩になっちまえばラクなのにな」
不意にシンタローが、眼魔砲の衝撃でなくなってしまった壁の外を見つめながらそう呟いた。
「シンちゃん?」
急に真面目な顔になったシンタローの顔を、グンマは訝しげに覗き込んだ。
「アイツのふざけた態度の中に本気が隠されてることぐらいは知ってる」
「シンちゃん…」
「だったらふざけたりなんかしねーで、真面目に『お帰り』って言ってくれりゃーそれですむ話じゃねーか。それだったら俺だって何も…」
――眼魔砲なんてぶっ放したりしないんだ――
シンタローの声が何処か悔しそうに聞こえるのは気のせいじゃないだろう。
「おとーさま…シンちゃんのこと好きだから」
シンタローの思いを汲んで、グンマはただそれだけを口にした。
「アイツは――親父の中ではいつまでたっても俺は『シンちゃん』のままなんだろーな」
過剰な愛情表現は恐らくその命が尽き果てるまで続くのであろう。
「シンちゃんはおとーさまのこと、好きなんだね」
「気色悪ィこと言うんじゃねー」
グンマの言葉に隙を入れずにシンタローは返したが、その言葉を否定はしなかった。
「アイツが真面目に俺に向き合うなんざ、そうそうねーからな」
いつだって『本気』と言いながらはぐらかされてばかりいる。
「シンちゃんはおとーさまと喧嘩したいの?」
「したいもなにも――喧嘩になんかなんねーだろ」
「どうして?」
つまらなさそうに返答するシンタローに、グンマはまた首を傾げた。
「親父が俺に本気なんて出すかよ。…どんなに本気にさせようとしたって――アイツはすぐに逃げるんだから…」
「シンちゃん…」
そう言ったシンタローの顔がやけに哀しそうに映って見えて、グンマはまるで自分の事のように胸が痛むのを感じた。
マジックの前ではいつまでたっても子供だと――大人として認められていない歯痒さをシンタローは感じているのだろう。
それはグンマ自身も高松に対して感じている事だった。
「…困った大人達だよね」
「ああ――」
静かに先程と同じ言葉をもう一度呟いたグンマに、シンタローは小さな声で返事をした。
それっきり黙りこんでしまったシンタローに、グンマは声をかけることなく寄り添うように座って――ただ黙って外の景色を見ていた。
あと数時間もすれば、いつもどおりこの部屋を修理する為に団員がやってくるだろう。
そうして元通りになった壁と同じように、シンタローの心にもまた壁が貼られる。
『グンマ様からも何とか言ってもらえませんか?』
先日団員の一人から懇願されて、軽い気持ちで引き受けた事をグンマは後悔していた。
父との遣り取りの後――毎回彼はこんなに辛そうな顔をしていたのだろうか――。
今までその事に気付いていなかった自分に腹が立った。
もっと早くに気付いていたら、いつでもシンタローが帰ってきた時に傍にいるようにしたのにと。
「…ごめんねシンちゃん」
「…なんでお前が謝るんだヨ」
意識するでもなく、勝手に出てしまった謝罪の言葉にシンタローはムッとした表情になった。
「うん、なんとなく」
「なんだよそりゃ」
ふふ、と笑って見せたグンマに、シンタローは呆れた顔をした。
その顔からは、先程見せた哀しげな色を読み取る事は出来なかった。
やがて何人かの足音が近付いてきた。
間違いなく、ボロボロになったこの総帥室を修理する為にやってきた団員達だろう。
「此処にいたら邪魔だな」
あいつらには特別ボーナスでもやらねーと駄目だなと、シンタローが苦笑した。
「そうだね」
立ち上がったシンタローに続いてグンマも立ち上がる。
「さーてと、部屋に戻るか」
総帥室ではない、自分の部屋へ。
「僕は研究室に戻らないと~」
「今度は何作ってんだヨ?」
「へへ~v秘密。出来上がったら一番にシンちゃんに見せてあげるから楽しみにしててね」
「…変なもん作んなよ」
若干引き気味のシンタローに不満げな顔をしながらも、グンマは「じゃあね」と明るく手を振った。
「ああ。…サンキュな」
ほんの少しだけばつの悪そうな顔をしているシンタローに「どういたしまして」と付け加えてから、グンマはシンタローよりも先に総帥室を後にした。
+++++
「ありがとうグンちゃん」
「あれ、おとーさま」
ぱたぱたと通路を歩いていると、何処から現れたのか――父、マジックが立っていた。
「『ありがとう』って何が?」
何となく分かるような気がしたが、あえてそれを聞いてみる。
「聞かなくてもわかってるでしょ」
ネ?と優しく微笑まれて、グンマは渋々頷いた。
「おや、グンちゃんは少しご機嫌ナナメかな?」
おちゃらけた様子で尋ねてくるマジックに、グンマはぷぅと頬を膨らませた。
「シンちゃんのこと、気付いてるんでしょう?おとーさま」
――なのにあんなに哀しそうな顔をさせるなんて。
「おや、グンちゃんはシンちゃんの味方かい?」
淋しいなぁと、ちっともそう思っていない表情の父親に、グンマは聞こえるように溜息を零した。
「おとーさまはシンちゃんのことキライ?」
「まさか!」
グンマの質問に即答するマジック。
「だったらどうして――」
「グンちゃん」
言い募ろうとしたグンマの唇に、マジックが人差し指をそっと当てた。
まるでその続きを言うなと言わんばかりに。
「…おとーさま」
「あのねグンちゃん、それ以上は言ったら駄目だよ。私が本気になってしまうから」
「おとーさま…?」
にっこりと微笑んでいるはずのマジックだが、妙に威圧感を感じてグンマは一歩だけ後ずさった。
「私が『本気』になってしまったら、あの子を傷付けてしまう」
「でもシンちゃんは本気の喧嘩を…ッ」
『したい』と望んでいるのに――。
グンマはそう言いたかったが、何故かそれを言ってはいけない気がして――ギュッと口を引き結んだ。
「そう、それでいいんだよグンちゃん」
そんなグンマにマジックは優しく笑いかける。
その笑顔からは先程の威圧感は感じられない。
「おとーさま…どうして…?」
「パパはシンちゃんが大好きだからね。シンちゃんと喧嘩なんかしてシンちゃんが怪我でもしたら大変だろう?」
グンちゃんだって、シンちゃんが怪我するのは嫌だろう?――そう言われて、グンマは腑に落ちない様子のまま小さく頷いた。
恐らくというか絶対、今のマジックの言葉は本音ではない。
勿論シンタローに傷を付けたくないというのは本音だろうが、軽い言葉のその奥にもっと重要なものが隠されているような気がした。
だがグンマは本能的にこれ以上踏み込んではいけないと、悟った。
「おとーさま…僕、研究の途中だったからもう行くね」
「おや、そうだったかい?ごめんね足を止めちゃって」
にっこりと笑うマジックは普段のままだ。
それでも『何か』が違うとグンマは思った。
「グンちゃん」
立ち去ろうとしたグンマの背に、マジックが声をかけた。
「なぁに、おと-さま?」
くるりと振り返ったグンマに、マジックはもう一度「ありがとう」と告げた。
それは何に対しての「ありがとう」なのか――。
「これからもシンちゃんをよろしくね」
「え?あ、う、うん!」
突然の予想外の言葉に戸惑いながらもグンマは頷いた。
「研究が上手くいったらパパにも見せてネ」
それから――いつもの口調で、思い出したように明るくそう付け加えたマジックに、グンマは肩の力を抜いた。
「勿論見せるから見てね。あ、でも一番はシンちゃんだから!」
「はいはい。お仕事頑張ってね」
「は~~い」
グンマはいつものように明るく笑い返した後、ぱたぱたと音を立てながらその場を後にした。
――だから聞いていなかった。
マジックの小さな呟きを――。
『本気』になるなど容易いこと。
それはギリギリのラインを保ってなんとか踏み止まっているけれど、いつでも踏み越えることは出来るもの。
一度踏み越えてしまったら、押さえが効かない感情。
大切で大切で仕方ないから護りたいと思う心。
愛しくて愛しくて仕方がないから手に入れたいと思う衝動。
二つの心は相反していて、後者の想いはいつでもどす黒い渦を巻きながらマジックの心を支配している。
それを抑えているのは失う事への恐怖。
ただの喧嘩ですむのならどれだけでもしていい。
それがただの喧嘩ですまないから、マジックはひたすら道化を演じる。
本音など言うことなど出来ない。
何故なら――。
「シンタローは私に『父親』を望んでいるから…ね」
誰に聞かせるでもなくそう呟いたマジックの顔が、先程のシンタローの表情と同じであったなどと、知る者は誰もいなかった――…。
END
2006.04.28
2008.08.24サイトUP
PR
>>マジシン覚え書き
読んでみたいマジシンというか…、書いてみたいマジシンってことで。
『南国~』でマジックとシンタローが本当の親子でなかったという事実と、
シンタローが青の秘石の番人の影であったという現実に直面した二人。
これ以降、確実に二人の関係は形を変えた訳ですよ。
マジックにしてみれば、息子と思っていた男は息子ではなく、ましてや人間でもなく。
シンタローにしてみれば、唯一血の繋がりだけに縋っていた男は父親ではなく…。
“親子”であるという鎖が無くなった現在、二人を繋ぐものは24年間共有した時間だけ。
少なくともマジックはシンタローを息子として慈しみ、
また、シンタローも思春期以来、父親であるマジックを遠ざけていたけれども、
心の隅では父親として甘えていた過去もある訳で。
◇ ◇ ◇
きっとね、マジックは変わらずシンタローを愛し慈しみ、大切にしてくれると思います。
しかし、ここでマジックの心に陰を落とすものが。
今までシンタローに対して、限りない愛情を注いできたけれども、それはあくまでも息子に対する愛情。
まあ、多少過激なスキンシップを計ろうとはしたけど、それはあくまでおふざけの範囲で。
―――…だけど、時折、シンタローに触れるのを躊躇ってしまうのはどうしてだろう?
何時もの様に振舞えば良いのに、何故だかその手を伸ばす事は出来ない。
はい、マジックかなり乙女入ってます。
いや、私が病んでます。
“親子であること”
これがストッパーになって、一人悶々と悩むマジック。
しかし、事件以降ストッパーは外されてしまった、と。
誰憚る事無くシンタローに愛を伝えても構わん状態に。
…だけど、ともう一回悩むマジック。
―――シンタローは私を“父親”として慕ってくれている。
それを裏切ってしまっても良いのか?
葛藤に葛藤を重ね、眠れぬ夜を過ごすマジック。
一方シンタローはと言うと、薄々マジックの自分に対する気持ちというか、苦悩みたいなのは感じていたと。
◆ ◆ ◆
最近、親父の様子が変だ。
相変わらず『遊べ』『構え』と煩いが、ふとした瞬間に違和感を感じてしまう。
例えば俺に触れる時。
指先が触れる間際、指先に緊張が走るのか、僅かに動きが止まるのを見逃さなかった。
いや、見逃せなかった。
あの島で俺たちが本当の親子ではなく、ましてや俺は人間ではなかったという事実を知って以来、
親父は俺に触れるのを躊躇うようになった。
例え俺が青の秘石の番人の影だとは言え、赤の番人の身体に触れるのが厭わしいのか。
今まで通りの笑顔の下、全く本心を見せてくれなくなった。
俺は何を考えているんだ。
いいことじゃないか、あれだけ親父を鬱陶しく思っていたんだ。
それなのに、俺は寂しいなんて考えてる。
一瞬躊躇った親父の指に、傷付くなんて。
そして俺は唐突に一つのことに思い至る。
俺の親父に対するモヤモヤの正体ってやつに。
俺は夢想する。
…もし、親父が俺と同じ理由で触れるのを躊躇っているのだとしたら。
いや、考えられない事は無い。
親父は変な処で臆病だった。
◆ ◆ ◆
ストレートに
『シンちゃ~~~ん!!愛してるよ~~~vVvV』
『だぁ~~~っ!!何恥ずかしい事叫んでやがるっ!!!』
なマジシンも勿論好きなんですよ。
いや、むしろ読み手に回るならラヴラヴなマジシン大好物です。
しかし、いざ自分が書こうとするとね…(遠い目)
でも、障害を乗り越えただけ、より深い処で繋がりあえるのではないかな~~と思ったり。
以上、そんなことをつらつらと考えてみました。
2004/04/01
あなたとワルツを
シンと張り詰めた冬の空気に、薪の爆ぜる音が静かに響く。
外は夕刻から降り始めた雪で真っ白に染まり、夜目にも美しい。
暖炉の前に寝そべっていたシンタローは立ち上がると、窓辺に身体を預ける。
窓ガラス越しに伝わる雪の冷たさが、酒で上気した身体に心地好い。
シンタローは今、“休暇”と言う名目で数ある別荘の一つに滞在していた。
『こうでもせんと、貴様は休むということをせんからな』
寸暇を惜しみ職務に没頭するシンタローを気遣ったキンタローに無理やり運ばれて来たのだ。
未だ感情表現の得意でない従兄弟は、怒っているような、心配しているような、実に複雑な表情でそう言った。
あの顔は見ものだったとシンタローは知らず微笑む。
残してきた仕事は気になるが、せっかくの好意を無駄にするのも気が引けて、
ありがたく休暇を満喫している。
しかし、一つだけキンタローに問いたいことがあった。
それは一緒に別荘に居る男の存在だった。
「シンちゃん、暖炉のそばを離れると寒いよ。
風邪を引かないうちに此方においで」
ラフなセーターに身を包んだマジックが、それは嬉しそうにシンタローを手招きする。
「…俺はゆっくり休養したいんだがな」
それでもシンタローは素直に言葉に従うと、暖炉の前のチェアーに腰掛けた。
あの島から戻って以来、こうして二人きりで時間を過ごすのは何時以来であったか。
二人は互いにその昔を思い出しているのか、会話は少ない。
けれどそれは存外心地好く、穏やかに時間は流れていく。
「ああ、そうだ」
マジックはそう呟くと、部屋の隅に置かれた蓄音機の蓋を開けセッティングを始める。
やがて静かにレコード盤が回りだし、小さなノイズの後に静かな調べが流れ出す。
「あ、これ…」
「覚えてる?」
調べに耳を傾けるシンタローにマジックが問う。
何を、とは聞かない。
「ああ、うん」
何が、とも聞かない。
それはかつて今と同じように、二人で聞いた曲だった。
ちょうどシンタローが士官学校にあがった頃、こうして二人でこの別荘を訪れたことがあった。
その時すでにシンタローのマジックに対する反抗はかなりのものであったが、
何故だかシンタローはマジックの提案を断ることが出来ずに、マジックに伴われてやって来た。
幼かったシンタローにマジックの意図はわからなかった。
けれど、普段落ち着いて話をすることの出来なかった親子は、少しばかりの話をした。
そして本部へと帰る前夜、マジックはシンタローを呼ぶと一枚のレコードをかけたのだ。
『次期総帥たるもの、ダンスの一つや二つ踊れなくてどうするんだい?』
マジックの突拍子の無さに、シンタローは思わず返す言葉を失った。
「そうそう。そんで嫌がる俺を延々と振り回してくれたんだよな」
溜め息混じりにシンタローが言う。
「だけどワルツの一曲も踊れないんじゃ、パーティーの時大変だったろ?」
マジックの言葉にも一理あった。
総帥という地位に就いてから、公式の場に呼ばれることの多くなったシンタローが一番苦手なのは、
来賓の婦人方によるダンスの申し込みだった。
何も無理して御機嫌をとることはないが、そう自侭を言っていられない場合もあるのだ。
場を濁すために『ではワルツを一曲』と恭しく手をとり管絃の調べに乗る。
「私はシンちゃんの勇姿を見たことはないが、キンちゃんから聞いてるよ」
「何だよ、ああいったのはあいつの方が向いてるのにな」
ばつが悪そうに視線をそらすシンタローの姿に、マジックはますます笑みを深くする。
マジックは満足していた。
シンタローは嫌な顔をするだろうが、無理にでもついて来て良かったと。
以前と全く同じには戻れないが、昔のように二人で静かに言葉を交わし笑いあう。
そんなささやかな時間を持てたことに喜びを感じる。
あの島に行く前の二人の間にあった隔たりは、形を変え未だあるのだが、
それでも立ち向かうことの出来ないものではなくなった。
少しずつ、少しずつ埋めていけば良い。
マッジクは立ち上がると、すいとシンタローに右手を差し出した。
「もし宜しければ、一曲お相手頂きたいのですが?」
一瞬シンタローの瞳が見開かれるが、すぐに少し困ったように微笑むとその手を取る。
「俺が女性ポジションってのはあれだが…。どうせ無理やり相手させるんだろ?」
シンタローのぼやきに、マジックは悪戯っぽくウィンクで答える。
「しょうがねぇな。相手してやりますか」
冬の夜、軽やかなワルツの調べ。
「こういうときは、“喜んで”って答えないと」
「…ばーか」
重ねた手の平に、そっと力を込めた。
e n d
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◇ ◇ ◇
え~~、甘 い で す か ?
これ、新年更新に乗り遅れたssでして…(汗)
当初はシチュも全く違ったんです、書いてるうちになんかこう、
リ リ カ ル ホ モ に(笑)
一応、マジック×シンタローではなく、マジック&シンタローで。
親子の対話を求めているマジックパパを書きたかったんですよ?
20050111
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ストレリチア
そう長くない遠征から戻り、総帥室に足を踏み入れたシンタローの視界の端に、
その鮮やかな色彩は突然飛び込んできた。
窓際に置かれたそれに視線が釘付けになる。
「シンタロー、何をしている」
何時までも入り口に立っているシンタローの後ろから、膨大な資料を両腕に抱えたキンタローが顔を覗かせた。
「遠征の疲れは解るが、早めに今回の問題点を…」
「いや、あれ」
キンタローの言葉を遮り、シンタローが言葉少なに応える。
何時もらしからぬシンタローの態度に、キンタローはシンタローの指差す方に目を向けた。
其の先にあるのは、大振りの花らしからぬ花を咲かせたストレリチア。
シンタロー自身、花が嫌いなわけでは無い。
花を美しいと愛でる心も持っている。
ただ、今はその余裕が無いだけ。
それに、健気に咲く小さな花も、美しさを、生命力を誇るように咲く花も、
かつて過ごした楽園への郷愁を掻き立てるしかなく、無意識の内に遠ざけていた。
「…ああ、あれはマジック伯父だ」
ぼそりと答えたキンタローの声に、シンタローが振り返る。
「親父?」
「そうだ。お前は行った事はないだろうが、それは見事な温室だぞ」
かつて、目的の為なら人の命など何物とも思わなかった男ーマジックは花を育てている。
敷地の外れに建てられたその温室は、四季折々の花に溢れているという。
やがて目覚める息子の為に、ようやく解り合えた息子の為に。
それは陳腐な罪滅ぼしでしかないかもしれない。
けれど、言葉に表せぬ思いを込めてマジックは温室を花で埋め尽くす。
「ストレリチア。花言葉は“輝かしい未来”」
「…え?」
キンタローはシンタローの傍を通り抜け、抱えた資料を机の上に無造作に投げ出すと、
窓際に寄りストレリチアに軽く手を添えた。
「この先、お前はあらゆる困難に突き当たる。
しかし、その先にあるのは暗闇ばかりじゃない。
何時の日か、必ずお前の望む道は開ける」
だからとキンタローは言葉を継ぎ、シンタローに微笑み掛ける。
「お前は自分を信じて、歩き続ければいいんだ」
e n d
copyright;三朗
◇ ◇ ◇
花に想いを託すマジック。
皆に愛されるシンタロー。
ストレリチア《極楽鳥花》
花言葉:輝かしい未来。輝く心。
花言葉補足
『お洒落な恋。気取った恋。恋の伊達者。伊達男』
いや、マジックはきっと真面目な意味で花を飾ったに違いない筈(笑)
間違ってもアプローチのつもりでは…(笑)
20041025
copyright;三朗
恋をしよう
「どうしてそんなに無駄に元気なんだっ!!」
「それはね、恋をしているからだよ」
ああ、どうしてコイツはこんな恥かしい台詞をサラリと言ってしまうんだ。
大体その歳で恋ってなんだ?
今更純情振るような歳でも無かろうに。
俺があんまり変な顔をして見上げていた所為か、親父は俺の肩を抱き寄せるとギュッと抱き締めた。
「お・おい!!何しやがるっ…」
咄嗟の事に身を捩るが、しっかりとホールドされて逃げ出せない。
しかし悔しいかな、俺よりも鍛え上げられた胸の中は居心地が良かった。
「こうやって、シンちゃんを抱き締めるのも久しぶりだね」
暫し感慨に耽っていた俺を、親父の声が現実に引き戻す。
しまった、思わぬ安心感に気を許しすぎた。
己の不覚に自己嫌悪半分、照れ隠し半分。
今更ながらのように親父の胸を力一杯押し退ける。
「いい加減離せよ」
下を向いてぐいぐい押すけれど、きっと俺の顔は真っ赤だ。
あまりのガキ臭さに、さらに耳まで染まる。
だけど、そんな俺の必死の様子さえ、親父を楽しませてるんだろうな。
そう考えると、何だかむかつく。
何時しか俺の肩や背に回された腕が外され、ふぅと息を吐く。
実の所ハグは嫌いじゃない。
でも、今更親に甘える歳じゃない。
それに、この腕を必要としているのは、俺だけじゃないんだ。
「シンちゃん、君が今何を考えてるのか何となく予想が付くんだけど…」
視線を上げれば少しだけ困ったような親父の顔。
「私の息子はグンマとコタローだけど、君だって私の大切な息子だよ?」
ごめん、俺はアンタにそんな顔をさせたい訳じゃ無いんだ。
「ね、シンタロー」
そして優しい笑顔。
ほんの子供の頃、何も疑う事なく駆け回ってた子供の頃に大好きだった親父の笑顔。
「…うん」
再び抱き寄せられたけど、今度は素直に身体を預ける事が出来た。
煩わしい枷でしかなかった腕に、ゆっくりと心が解きほぐされる。
「これは親子の親愛表現」
もう一度ぎゅっと力を篭めて、それからゆっくりと身体が離れる。
次第に遠ざかる温もりを離したくなくて、思わずしがみ付いた俺に親父がクスリと笑う。
ああ、そうさ。
俺は何時までたってもガキで、アンタの息子なんだ。
開き直り、グリグリと額を押し付ける俺に、親父が囁いた。
「そしてこれは…」
髪を梳く手が気持ち良い。
「恋人の愛情表現」
「うん…って!えぇっ?!」
今、不穏な言葉を吐かなかったか?
俺が問い質そうとするより早く、髪を梳いていた手が背中を滑り、するりと俺の腰に回ると、
先程とは打って変わった激しさで強く抱き寄せられた。
「お・親父…?!」
「何時だって私の心は君にときめいているよ」
言うや否や、端正な顔が俺の視界を覆う。
こんなヤツを信じた俺が馬鹿だった。
俺は持てる力の限りを篭めて眼魔砲を放った。
e n d
copyright;三朗
◇ ◇ ◇
パパは何時でもシンちゃんに恋してるんですよ。
◇ ◇ ◇
メモ帳より発掘。
ギャグなんだかシリアスなんだか…。
ただ一つ確かなのは、ずっとマジシン好きだということ(笑)
20040320
copyright;三朗