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00:PRELUDE (07.11.28)


事の始まりは、コタローを探す為の装置を作ったことにあった。


「シンタロー!ついに出来たぞ、俺が開発した、いいか、この俺が開発したこのアヒル印のアフラ○ク一号を使えば、パプワ島とやらにひとっとびだ!」

「おうこら、なんだそのファンシーな飴玉は。そんなん使ってどうやって、飛ぼうって言うんだ?ファンシーランドにか」

「シンちゃん、その前に一号なのに飴玉っていうのにはつっこまないのかい?」


ここはガンマ団本部にある研究室、帰ってきたキンタローと、グンマが泊り込み作り上げたのが前述したアフラ○ク一号である。
原理は長い説明に飽きたシンタローがちゃんと聞かなかった為不明ではあるが、ワームホールを生身で通ることが出来る、と言うことらしい。

しかもこのアフラ○ク一号を使えばいちいち海に飛び込まなくても良い上に、体内に飴玉の効力が残る時間は向こうで過ごせる、と言うもののようだ。


「おとーさま!シンちゃん、すごいでしょー?僕、がんばっちゃったぁ~」


少々疲れた風ではあるが、グンマは嬉しそうに報告をする。それを見てマジックは爆発のこげ後の残る金の髪を優しく撫で、有難うと呟いた。
この二人、当初に比べ親子である、と言う認識が生まれたのか、中々上手くやっているのだな、とシンタローは感慨深げにこっそりと頷いた。


「えへへっ!」

「で、この飴玉舐めたらそっこーで行けんのかよ?」

「いや、そういうわけではない。流石に飴玉はワームホールで体を持たすため、そして帰る為に使うだけでそれだけでは行けない」


そう言いながらまたごそごそと後ろから取り出したのは、ガンマ団の制服に良く似た青い服、少し違うのは襟元にこれまたアヒルのマークがあることぐらいだろうか。


「なんだ、これは?」

「これはねー、簡単に言うとワームホールを発生させる装置で、えーとね、それで、タイムマシンみたいなものかなー」

「時間は移動しないぞ、グンマ。……シンタローいいか、これはだな、二人以上の人員を必要としている。海に飛び込むと言うのは、飛空艇を使ったとしても危ないものは危ない。それに大きい上に人員も必要になる。先程の893国を片付け多少は暇になったとは言え、今忙しいガンマ団を大人数空けるのは少々問題があるだろう」


更に紙を取り出し説明を開始する。のらりくらりとしたボールペンが壊滅的な渦を書くのを見え、説明を聞くに、どうやらこれは海上に出現した渦潮のようだ。
渦潮の大きさから、飛空挺が通れる程の大きさが現れる時間を計算して、速くとも三ヶ月近くは掛かる、と言うことらしく、シンタローが待てるとも思えない為に今回の単独スーツを作ったようだ。

そういう意味では前回グンマが作ったものでも問題は無いが、渦潮に単独で飛び込ませるという行為は、総帥であるシンタローにさせることが出来る筈もなく、陸上、このガンマ団にワームホールを作ってしまおう、と言うことらしい。
方法としては飴玉を口に含んだ状態でアヒル印の制服に身を包んだ二人以上の人員が手を繋ぎ、ワームホールを発生させ、あとは先に伊達集が通った道を通る、と言うものである。

隊服に身を包んだ人間に何かが起こる場合も視野に入れ、随時この研究室に心音や健康状態などの情報が送られるようになっている。
もしもの際は強制的に此方側へ引き戻すことが可能となっているなど、至れり尽くせりである。


「制服にしちゃったのはねー、手近な服がそれしかなくって……本当はアヒルの着ぐるみにするつもりだったんだぁ、ごめんね?」

「いや、制服でいい。いや、制服がいい」


研究室の傍らに置いてあるアヒルスーツを視界に入れないようにして、シンタローは早速説明を受けだした。


「早速、行って見ようぜ」






「シンちゃん!パパも行くよ!」






今まで黙っていたマジックがシンタローに声を掛ける、多少は自分の責任だと思っているようで、勢い込んでいるマジックにシンタローは首を振った。


「いや、親父はここで残っててくれ。もし、俺に何かあったときは親父がガンマ団を運営してくれよな?」


何か、が何とは言わないがこの作戦が必ずしも成功するとは限らないことをシンタローは言っているのだろう。
普段は自信満々なキンタローですら、その言葉を否定しない。



「シ、シンちゃん………」
「あ、別に俺は死ぬだなんて思っちゃいねーぞ。キンタローやグンマが作ったやつなんだ、大丈夫だろ、それに………コタローが親父見たら逃げるかもしんねーしな」



心配そうな表情を浮かべるマジックを不機嫌そうに見て、シンタローは口を開く。最後は表情を和らげ、からかうような雰囲気ですら、ある。


「シンちゃんってばー、素直じゃないんだから」
「そうだな」

そんなシンタローを見て柔らかな表情を浮かべる二人と、シンタローの心情を汲み取ることが出来たマジックは、力強く頷いた。


「分かった、ガンマ団はパパに任せて、しっかりとコタローを向かえに行ってきなさい。…………ちゃんと、帰って来るんだよ?」

「おう、コタロー連れて帰ってきてやるよ、親父」





******





「つーかよぉ、なんでお前まで来るんだよ、グンマ」
「え、だって僕もコタローちゃん迎えに行きたいし……」
「仲間外れは関心しないぞ、シンタロー」


アヒル印の制服に身を包んだ三人が向かい合い話しをする。シンタローはキンタローと二人で行くものだと思っていたものだからグンマの参加に驚いていた。


「嫌は訳じゃねーけどよ、計測器の点検とかどーすんだよ」

「それは心配要らないよー。研究室には優秀な人たちが集まってるからね!」


親指を立て、自信有り気な表情で研究室を見守る。そもそも計測器云々に関してはグンマは元々ノータッチである。


「………はぁ……ま、いーか、俺達四人が従兄弟で兄弟だもんな」


数秒考えたシンタローはコタローと会ったときを嬉しそうに話すグンマを思い出し、考えを改めたようで、諦めて仕方がない、と言った風体でグンマの同行を許可していた。


「ほら、飴玉だ。手を繋いだらすぐにワームホールが発生する。後は団員が頑張ってくれるだろう」



「分かった。………じゃ、親父、行ってくるよ」


シンタローは少し離れた位置で不安そうに立っているマジックに声を掛けた。そして、手を繋ぐ。
ブゥン、と言う羽音の様な物が耳元で聞こえ、内臓を引っ張られるような感覚が一瞬襲う。

口の中のピーチ味が妙に濃く感じるな、と思いながら浮遊感に身を包んだ。





「シンちゃん!待っているからね!シンちゃんの好きなカレーを作って、だから無事に帰って来るんだよ……」





最後に何時もとは違う真剣味を帯びたマジックの声が聞こえ、聞こえなくなったと思ったときには、意識を失っていた。





01:AUTHENTIC (07.11.28)


耳元の不快な羽音が消え、エレベーターに乗った際に感じる重力も消えた頃、一瞬だけ失っていた意識は回復した。


「……キンタロー……?グンマ……?」


シンタローが瞼を開ける。そこは見慣れたような、見慣れないようは不思議な場所だった。


「シ、シンちゃぁん……ここ、どこぉ?」


辺りを見渡す、ダンボールが山と詰まれ、その側面にはぞんざいにサインペンで書かれた危険な文字が見て取れる。


「……パプワ島、と言うところにはダイナマイトが詰まれた部屋があるのか?」


無論、そんな物はない。弾薬なんていう血生臭いものが最も似合わないと行っても良いところだろう。


「ここは……………ガンマ、団……?」


壁の色や、ボルトの打ち付け具合を見てもどう有っても思い出すのはガンマ団である。


「し、失敗したのか……?」


シンタローはグンマ、キンタローを見る。微妙な表情を浮べ、考えあぐねている。そんな二人にシンタローは埒が明かないとばかりにその長い髪をグシャグシャと掻いた。


「とりあえず、ここは研究室じゃねーみてぇだな……とりあえず、研究室に行こうぜ。親父達だって心配するだろうしな」
「そ、そうだね!変な次元に飛んだんじゃないし、もう一度戻って位置計測しなおそう!」


いち早く立ち直ったシンタローが出口へと近づき、次いで復活したグンマがいまだ復活の兆しを見せないキンタローの腕を引き後に続いた。





******





扉を出て、最初に違和感に気がついたのはグンマだった。


「あれ………?」
「どうしたんだ、グンマ」


実は今の部屋を出てすぐの所に六段程度の低い階段があるのだが、その階段に少々、違和感を感じてしまった。いや、この場合は既視感、だろうか。


「………あれ?やっぱおかしいよ!」


グンマは出た扉を見直し、そうしてまた呟いた。


「だから、どうしたっつーんだ!!」
「あのね、あのね!このドア、古いんだよ、しかもすっごく!!」


ガンマ団は良く壊れる。主にガンマ団を率いる青の一族による眼魔砲が原因であるのだが………それ故にシンタローが新総帥となった際、扉を全て壊れにくい素材にしたのだ、が。


「これ、僕が研究室に入った頃のよりも古い扉だよぉ!」


指を差すそれは確かにどうみても鉄製の扉である。シンタローも自分が扉を付け替え忘れた、なんてことをするとも思えず、首を傾げる。


「確かにな………」
「それにね、それにね、この階段も変なんだよぉ!キンちゃん!!」


いまだ復活しないキンタローを引張り、グンマは階段に下から五段目へと顔を近づけさせる。勢いあまって階段に頭をぶつけたが、興奮気味のグンマは気付かない。


「痛いぞ、グンマ………ん?この痕は……」


涙目で額を摩るキンタローも何かを発見したようで、その階段を凝視する。ついていけないシンタローは首を傾げるのみだ。


「お前等、意味わかんねーぞ」
「……これ、これね、この痕。この痕ってさ、研究所の傍にも階段ってあるでしょ?そこと同じ痕なの!」

「痕、たって似たようなもんばっかだろ………」
「それは違うぞ、シンタロー。この模様。どう見てもファンシーヤンキーランドの例のアレのシルエットにそっくりなんだ」


そう言われシンタローもその痕を覗き込む。何かで溶かしたような奇妙な痕、確かに例のシルエットにしか見えない。


「………ん?……どういうことだぁ……?」


かなり古い扉、研究室傍の階段と同じ痕を持つ、どう見ても倉庫にしか見えない別室の痕。
そしてなによりもワームホールと言う次元の狭間を通ってきた自分達。


「……ここは………過去の世界か……?」


シンタローの口から出た言葉に、否定できる人間は居なかった。





******





今日は珍しく全員が揃っての食事を取ることとなった。父の凱旋、無事の帰りを感謝しながらマジックは料理を作る。

料理の隠し味が愛情、だなんて良く言ったものだな、と思いながら父の好きだと言っていた料理を作る。

時は同じくして双子の弟の誕生日を一週間ほど過ぎたこともあり、誕生会を含め行うこととなった。

常ならばシェフを呼んだりと手を凝らすのだが、今回は急の凱旋であり、もとから二人の弟からリクエストの有った家庭の味、ともあり、マジックは一人昨夜から下ごしらえをしていた。

父はまだ総帥室で執務の最中であろう。帰ってくるのは早くて八時だと聞いていた。双子は今から夜更かしをするために昼寝を慣行し、もう一人の弟はフェンシングの試合で父の為に勝利を勝ち取ってくると息巻いていた。

平和な、平和な日常だった。

そう、父の来客がマジックの心を乱すまでは……





******





三人は倉庫へと戻り作戦会議を開いていた。どうにも先程シンタローの口から出た言葉を否定できなくなったからだ。

どうやらここは後に研究室なる区画の一室のようで、言われて見れば後の研究室にも見たことがあるような傷が幾つも発見できた。
とりあえず隠れることも出来、人が来ることも少なそうなここで作戦を立てる、と言うことになったらしい。


「………いつの時代かは分からないが、とりあえず上の階に行くか?」
「………でもよぉーこれって殺し屋時代のガンマ団だろ?下手に見つかってぶっ殺されたらどうするんだ」
「………こ、こわいよぉ!!」


三人は三様の表情を浮べ、腕を組んだ。とりあえず殺される、に関しては無いだろう。
腐っても今はガンマ団新総帥、過去にもガンマ団No.1を名乗るほどだったシンタローが敵わない、と言うことはない。


いざとなれば眼魔砲を放つことも出来るだろうが……


「……悩んでいても仕方が無い。どうせ食料がないんだ、どうにかして食事にありつくことが先決だろう」


キンタローの意見は正しかった。
倉庫はあくまで武器保管庫であり、食糧貯蔵庫ではない、出発から二十四時間後に予定している定時連絡が向こうから無い限り、こちら側から強制的に元居たところへと戻ることも出来ない。

無論、24時間くらいであれば食事を我慢することなど造作もないが、何よりも強く感じる興味があった。

シンタローが感じているかは定かではないが、キンタロー、グンマは先程から秘石眼のある目が疼いていた。何処か懐かしい、むずがゆい感覚が。
好奇心が猫を殺す、とは言うが、研究者たる二人は好奇心を元より抑える事に向いては居なかった。

そして、シンタローも同様に何か思うところがあるようだ。要するに、誰かが一歩足を出せば、皆行くという心境であるのだ。


「そうだな、よし、いっちょ行ってみっか。制服は昔のアルバム見た感じ発足当時からほとんど変わってねぇみてぇだし………誤魔化せるだろ」


そういって立ち上がったのは、やはりシンタローだった。そして後にキンタロー、遅れまいとグンマが立ち上がる。



「じゃ、冒険に行きますか」
「おう」
「おー!」





02:VESPERA (07.12.01)


ガンマ団本部の構造はほぼ、シンタローの居る世界と変わりが無かった。
多少配置が違う、であるとか、移動がある、と言っただけで基本的には変わりは無い。

記憶を頼りにやってきたのはガンマ団の食堂のようなところである。
一斉に視線がシンタローの後ろ、グンマの隣であるキンタローに集まる。
何も金髪碧眼が珍しいわけではない、ただ、その姿がどうにも総帥一族であり、次男のルーザーと酷似していた為に皆が見つめてきたのである。

そして、そんなことを全く知らず、常より視線を集めまくっている三人は全く意に介さずに食堂を堂々とした様子で歩いていた。
シンタローを前に、その悠々とした歩きは支配者然としており、名も知らぬ一般兵は同じ下っ端だとは思えずただ目を丸くしていた。

そして、何よりもそんな雰囲気の似た二人とは全く別種の金色の長い髪の、男。
どう見ても兵士とは思えないその見た目に、一般兵達はただ首を傾げるのみだった。


「良かったねぇ、別世界のパラレルぅ~とかで皆性別逆転とかしてなくって!」


そもそも過去の世界とは今だって決まっていない。
なんとなく、そんな気がするだけで決定打がないのだから、仕方がないが……

そしてグンマの言葉に、シンタロー、キンタローの両名は目を丸くしていた。
確かに、そんな可能性だってあるのだ、迂闊に動くべきではなかったかもしれない……


「つーか、とりあえず誰かに今が何年か聞かなきゃなんねーんじゃね?」


グンマの一言で動揺した様子など微塵も出さず、シンタローは小声でキンタローに話し掛ける。
小さく顔を上下に動かし、同意を表したキンタローは、手近なところで自分を見つめていた少年兵へと声を掛けた。


声を掛けられた少年兵は、よもや自分に話しかけるとは思っても見なかったのだろう、きょろきょろと辺りを見渡し助けを求めるように視線を彷徨わせたが、誰も彼を助けてはくれず、観念したようにキンタローを見上げる。


「今は、何年何月の何日だ?」






******






「約40年前の世界、と言うことになるわけか………」


あまり美味しくはない食事を喉に通し、シンタローは唸る様に声を上げる。
先程の少年兵の話に寄れば、今より大体40年程前であり、現総帥はマジックではなくその父の世代であるらしい。


「……ここが、別次元の平行世界でなければ、の話だがな」


唸るシンタローと同様に、眉間に深いし皺を寄せたキンタローも更に唸り、応える。そ
んな彼の食器はもう空で、グンマはそういえばあのアフラ○ク一号が完成するまでの間、あまり食事をしなかったな、と思い至った。
グンマ自身の食器ももう空に近く、元来甘党であり、しかも好き嫌いの多い彼も、自分は随分と空腹だったのだな、と他人事のように手にしたスプーンを眺めた。


「………あの、さ、シンちゃん、キンちゃん……」


スプーンを眺める内に、グンマはあることに気がついたのだ。
コレはもしかしたら、喜ばしいアクシデントかもしれない、と。


「どうしたんだ、グンマ」
「食えねぇのがあるんならさっさと入れろ、冷める」
「ち、違うよぉ!全部食べられるってば!」


最後に残っていたスープに浮んだ野菜をシンタローは箸で差し、そう突っ込んだが、どうやらそういう内容ではないらしい。
神妙な面持ちでグンマは口を開いた。


「あのさ、もしかして、だよ、もしかして……キンちゃんのお父さん……ルーザーさんとか、居るんじゃ、ないかな……」
「!!」


グンマの台詞に反応を見せたのは、キンタローだった。
もしここが40年程前の世界と仮定するならば、マジックの年齢で言えば約12~13だろう。

聞いた話では、キンタローの父であるルーザーの死亡年齢が23歳である。
今はそれの約10年前、確実に生きている。ただ、少年ではあるが。


「つーか、つーかさ……俺達のじいさんにも会えるわけ、だよな」


シンタローは慎重に言葉を発している。過去かも知れない、そう思っていた時から長い間考えていたことだ。
じいさん……つまりマジックやルーザーの父親、と言うわけだが、この人は親達が幼い頃に亡くなった、と聞いていた。
会った事は勿論、ない。

とても強く勇敢で優秀な人だった、と聞く。会ってみたい、話してみたい。シンタローは願っていた。

この時、これからのことは決まったも同然だった。
時はものすごくタイミング良く、総帥がガンマ団本部で休んでいる、と言う情報を得たのだ。






******






眠れる獅子を起こすな、これは恐怖からではない。秘書課では当然と言える位、守られてきた掟だ。
彼はとても部下に好かれる男であり、彼もまた、部下を愛していた。

シンタロー、キンタロー、グンマの三人は、慣れた足つきでガンマ団の中枢へと向かっている。
旧セキュリティを破ることは現ガンマ団の頭脳である二人には造作もないことであり、また、ある程度であればわざわざ危険を冒し破る必要は全くないのも本当だった。

ガンマ団中枢は、基本的に青の一族しか入ることは許されていない。それ故、セキュリティも分かりやすく単純、かつ簡単には破られないものを使用している。
現ガンマ団において、シンタローが総帥となったときは全てを取り替えたが、昔のガンマ団は一つのセキュリティを採用していた。

『秘石眼による施錠、及び開錠』である。

秘石眼と言うのは特殊な虹彩パターンを有しており、一見して青に見えるそれだが正確には違う。
そうした特性を生かしたセキュリティがガンマ団には施されており、中枢に近づけば近づく程プラスアルファで他のセキュリティが付随されていく。

今回目指すのは中枢も中枢なのだが、先に述べたようにある程度はグンマ、キンタローの目でどうにかなり、何かが付随する度にシンタローが資料として読んだセキュリティの知識で開けていったのである。


「……シンちゃんってさ、良く覚えてるよねぇ、昔のパスワードとかなんて」
「んー……総帥になる前に読んだんだよ。なんでも、な」


元より記憶力は良い方であるシンタローは、一時期がむしゃらに知識を詰めていっていた。
それはガンマ団を任されることへの責任感であるだとか、重責であるだとか、父親に負けたくないと言うプライドであるだとか、複雑な思いがあってのことだった。


「さてと……次がいよいよ最後の扉だ………」


ここはガンマ団最上階。たった一つの部屋を守るために作られたような内部構造の終着点である。
扉の前に立つ、頑強な扉は戦車が来たところでビクともしなさそうな程に、冷たく重い印象をシンタローたちに与える。

だがしかし、扉には何か特別な施しはされていないようで、目立ったセキュリティシステムもないようだ。
いや、そればかりではない。今まで扉に絶対ついていた虹彩認証システムすら、ないのである。

何か特別な事が必要なのだろう。ここまで来たと言うのに八方塞がりである。
どうしたものかと扉をじぃ、と眺めたところで解決の糸口は見えてこなかった。


「はぁ……俺の時代にゃこんな部屋、無かったなぁ……」


シンタローの時代、未来のこのガンマ団最上階は和室が広がっていた。
どうやら、マジックの趣味であるらしい。

また大きく溜息を吐き、シンタローはその扉に凭れ掛かった。


……かに見えたのだが。


「あぁ!?」


シンタローが扉に凭れた瞬間、シンタローの体が扉にめり込んだ。咄嗟に動いたのはキンタローで、その後を追うようにグンマ。
キンタローがシンタローの腕を掴むが、勢いは止まらず、倒れそうになるキンタローの襟をグンマが掴むが、力を込めるわけにもいかず、そのまま倒れてしまった。






******






「……こ、このドア、ホログラムだったのぉ~?」


シンタローの上に、キンタロー、その上にグンマと折り重なった状態で、グンマは扉を振り向きそう叫んだ。
重厚そうに見えた扉は、ホログラムでありそこに扉なんて存在しなかったのである。

だから当然、セキュリティシステムなんてものも付属されていなかったのである。


「……な、なんという事だ……すぐに気がつかなかったなんて……っく……あそこまで完璧な扉を再現するとは……」


悔しそうに扉を見つめ、拳を固めるキンタロー。余程悔しかったのか恨みがましい視線を送っている。


「てめぇらぁ………」


一番したで仰向けに転がり、お腹の上に二人分の体重を感じているシンタローは何時怒ろうかとタイミングを探っていた。
今すぐどけば、拳骨一発で済ましてやらないこともない。
そう考えながら。


「……騒々しいな、お前達は、誰だ」


失念していた。


大事な場面で抜けているのは何故なのか。


高い位置に見える窓から、夕日が落ちていくのが見えた。

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RHAPSODY


注意書き


この小説にはミツマジと取れなくもない表現があります(ないといえばないですが)
ちょっとだけ、マジックが受けっぽい表現がなくもありません。(書いた本人はそのつもりではないので……

なんと言うか、なんともいえない感じなので、戸惑うなーって人は止めた方が良いかもしれません。
まぁ読んでやるよ!って人、有難う御座います。ずずい!と下にお下がりになってくださいませ!









この寒い冬の季節、何が付き物かといえば、雪でもお年玉でもみかんでもこたつでもなく、風邪だ。

貧乏人だろうが金持ちだろうが、日本人だろうが何人だろうが、風邪は皆平等に引く。
ある意味どこに居るか分からない、多宗派な神様なんかよりも、よっぽど平等だ。

御多聞に漏れずここ、ガンマ団でも風邪が蔓延の兆しを見せていた。






******






「ぶえっくしょーいい!!」


盛大なくしゃみをぶちかましたのは、ガンマ団元総帥であるマジックだ。
先日訪れた海でつい色々と薄着で頑張り過ぎたせいか、しっかりと風邪を引いてしまったらしい。

一緒に居たシンタローはコートを借りたお陰なのか、元より健康管理が行き届いているからか、風邪を貰うことはなかった。


「うぅ……やっぱり年かなぁ……あー…頭痛いぃ……おかゆ食べたいなー、フーフーしてほしいなぁ……」
「うぜぇ」


現在マジックが居るところは他でもない総帥室である。
総帥室には大きなソファが備え付けられているが、マジックは今毛布に包まりながらそこに寝転び駄々を捏ねていた。

今総帥室にはシンタローとマジックの二人しか、居ない。
常ならば頼んでも居ないのに暖めてあげる、などと世迷いごとをのたまいながらシンタローが嫌がるのも気にせずベタベタとしているが、今日は風邪を引いているからか口が煩いくらいで特にシンタローに何かをするでもなかった。

シンタローはシンタローで病人だから、と思っているからか「煩い」「ウザい」「早く寝ろ」程度しか言わず、マジックの好きなようにさせている。


「つーか、俺に伝染るだろうが、早く部屋戻って寝てろよ」
「だぁって、寂しいんだもーん」
「いい年こいたおっさんがだもんとか言うな、気色悪い」


時折鼻を啜り、喉が引っかかるのか喉元を押えながらマジックは応える。
シンタローとしてもこのままでは本当に悪化しかねないから早く帰って欲しいのだが、素直にそれを口にすることは無かった。

不意に扉が開く。秘書である二人や、報告書を持ってきた伊達衆ならば必ず先に内線で連絡が来るはずだが、それがないと言うことは……。


「シーン、ちゃーん!」
「シンタロー、……それに伯父上もいらしたんですね」


やってきたのはアフリカ一号にまたがったグンマと、なにやら分厚い報告書を片手に偉そうに歩いてくるキンタローである。


「ゴッホ……ゴホゴホ……」
「どうしたんですか、急に著名な芸術家の名前を息荒く叫んで……ゴッホ、と言うのは、いいですか?ゴッホと言うのは、本名はヴィンセント・ヴァン・ゴッホで生きているころは―――………」
「違う、違うよ、キンタロー、私はね、風邪を引いているんだ……」


風邪を引いていてもなおきちんとツッコむところはツッコミながら、マジックは少しばかり悪化したような風邪に本当に脂汗をかき始めていた。
シンタローはそんなマジックの様子を横目でチラリと確認すると、先に従兄弟をどうにかしなければ、と言うようにグンマへと向き直った。


キンタローにも声を掛け、自分のデスクの前へと来させると二人の顔を確認する。


「なんだっつーんだ、その分厚い書類は」






******






「あほか!こんなばっか高いもん許可出来るわけねーだろーが!!」
「でもでも!これがあると、クリスマスに活躍できるんだよーぅ!」


キンタローが持っていた書類、それはクリスマスに先駆け少しばかり計画しているとある乗り物だが、グンマのファンシー趣向を刺激したらしく、本物を追及する余り、材料がかなり高価なものばかりになってしまった。


「でももくそもあるか!こんなたっけーもん、俺たちの金からじゃ出ねぇぞ!ガンマ団の資金使うわけにはいかねーんだから!」


ヒートアップする二人の言い合い、デスクが揺れ、机上に置かれた分厚い書類が音を立て床に落ちた。
その書類はマジックの目に見える範囲に落ちた。どうやらそれは、企画書のようである……


[Project-X-](決して某テレビ番組ではない)
内容は激戦区とされる紛争地帯の非戦闘員である国民に、支援物資を配給すること、また、近くクリスマスにその国の子供達にささやかではあるがプレゼントを贈ろう。と言う内容のようだ。

ガンマ団が出張れば内戦自体は簡単に終わるだろうが、それは本当の解決でないことをマジックは知っていた。そして何よりも、戦争を経験した子供達に何かをしたいのであろう。
そう分かるとマジックは緩やかに微笑んだ。

そして更に下にページは続く。どうやら先程から言い合っている内容はこれのようである……


[トナカイ型ソリ付き移動ロボット材料費用概算]


どうやら、シンタロー、キンタロー、グンマ、そして巻き込まれた伊達衆他の人材がサンタに扮し、トナカイ型ソリ付きロボットでプレゼントを配る、と言う内容のようで、材料を見れば確かに本物を追求すれば必要であろうものばかりだが、
如何せん、高い。流石に本物のトナカイの毛皮を使うわけにもいかない為、その道のプロに概観の依頼をしたりと金は止め処なく掛かっているようで、その概算費用はシンタロー、キンタロー、グンマのポケットマネーでは足が出てしまうのだ。

自分の趣向だけではない、子供達の為に本当のサンタになりたい、そのグンマの思いも痛いほど分かる。
マジックは小さく溜息を着くとソファから立ち上がり、三人に向かい言葉を発した。


「追求すれば、果ては無いよ、グンマ。シンタロー、本当は資金さえあれば、君もグンマの意見に同意なんだろう?」


マジックの言葉に三人は視線を寄越す。ピンク色の愛らしいパジャマで立つその男は持っていた携帯で何か調べ始める。


「キンタロー、予算はあとコレぐらいあれば足りるのかな」


そう言って携帯画面を見せる。そこには費用で足の出た分くらいが表示されており、キンタローは深く頷いた。


「そうか……よし、じゃあ、私も費用を出すよ。参加させてくれないかい?」
「!親父……!」


心底驚いたような表情をマジックに向けるシンタローに、マジックは苦笑いを浮べ、瞳を向ける。


「私も、子供達の為に何かしてあげたいんだよ、シンタロー」


その言葉が差す子供達、が内紛に苦しむ子供達なのか、そんな子供を助けたい我が子と我が子同然の子供なのかは分からなかったが、グンマ、キンタローの嬉しそうな表情を見て、決心がついたらしくシンタローは表情を崩した。


「願ってもねぇ、ありがたい言葉だな。人も少なかったし……サンキュー親父、感謝する」


シンタローは悪戯にニヤリと笑った。建前じゃなく本当に、マジックの言葉が嬉しかったのは、他でもないシンタローなのだから。






******






「おとーさまぁ!すごいよすごよー!僕見直しちゃったぁ!」
「俺もです、伯父上。感謝します」


グンマは嬉しそうにアフリカ一号と飛びはね、キンタローは恭しく頭を下げた。そんな二人にマジックは優しく微笑んだ―――………


「親父!」


シンタローの叫びを最後にマジックの世界は暗転とした。






******






「シンタロー、伯父上の様子はどうだ」
「ん?風邪が悪化したんだろ、とりあえず仮眠室に放り込んどくから、高松以外のドクターを呼んできてくれないか?」


シンタローがそうお願いをすると、キンタローは頷き医者を呼びつけた。

ここは、シンタローが控えている総帥室のすぐ隣にある仮眠室で、扉は総帥室にしかないので事実上総帥専用の仮眠室となる。
あるのはベッドと冷蔵庫と簡易キッチン程度でとても殺風景である。

シンタローは、マジックが倒れた際、抱え上げここに運んできたのだ。
(運び方は所謂お姫様抱っこと言うやつで、マジックが実際起きていたら嬉しそうにはしゃいだであろうことは想像に難しくない)

誰も居なくなったこの部屋で、シンタローはマジックの額に触れた。
自分の手が特別冷たいわけではないが、マジックの体はひどく熱く、流石のシンタローも心配になってきたのである。

簡易キッチンに立ち、ボウルに氷水を張るとタオルを取り出し水に浸した状態で、ベッド脇に立ち、サイドテーブルへとそれを乗せた。
首筋に触れれば、扁桃腺も腫れている様子で、シンタローは溜息を吐く。


「……あとで代えのパジャマ持ってくるか……」


小さく零すと水に浸したタオルを取り、しぼると額に乗せる。
それだけでも多少は和らぐのか、マジックの表情の強張りが少しばかり、解けた気がし、シンタローは幾分伸びたマジックの髪を撫でるように解き梳いた。


「シンタロー、連れてきたぞ」


キンタローの声に触れていた手を素早く引っ込め、シンタローは向き直った。






******






「診察してみたところ、まぁ風邪でしょうなぁ……ただ、少しばかり熱が高すぎる気もしますので、充分に注意してみてください。今回は解熱剤を置いていきますので」


老齢の医師は使った道具をしまいながらキンタローに話す。診断結果は風邪で、兎に角変な病気でないことに三人は安堵した。
医師は鞄の中から三日分ほどの薬と、もう一つ、と声を出し少しばかり形の違う解熱剤をキンタローに渡す。


「38度5分を超えるようでしたら、投与してあげてください」


キンタローは老齢の医師を見送った後で、シンタロー、グンマに向き直った。


「なぁ、シンタロー、これはなんだ」


そういって見せてきたのは弾丸のような形をした、例のアレである。


「あー……座薬か……」


まいったな、シンタローは呟いて頭を掻いた。入れること自体はまぁ良いにしても、相手は父親で50代男性である。
本人が嫌がるだろうな、とシンタローは思っていた。


「座薬?」
「座薬って言うのはねー、解熱剤・吐き気止め・抗けいれん薬とかを肛門から挿入して使う薬のことでぇ、成分が直腸の粘膜から直接吸収されるから、飲み薬に比べて利き目が早いし高いんだよぉ」
「なるほど……そうか、座薬は初めてみたぞ」
「大人は滅多に使わないからね」


そうか、と最後に返事をし、キンタローは暫く座薬を凝視していた。このままではマジックを実験体に入れてみよう、などと言い出しそうである。
流石にそれは大人と言うか男の沽券に関わりそうだ、とシンタローは苦笑いを浮かべた。

さて、と前置きをして、シンタローは総帥室へと戻る。まだまだ業務は残っているのだ。


「僕たちも研究室戻って頑張らなきゃ!おとーさまが応援してくれてるんだもん!」
「そうだな、よし、伯父上の為にも頑張るぞ、グンマ」
「うん!」

「そうだ、シンタロー、本来ならば俺が入れてあげたいのだが、どうにも無理そうだ。これを頼む」


そういってキンタローが渡したのは解熱剤に、座薬である。シンタローは一瞬表情を曇らせながらもそれを受け取るとまた机の上の書類に没頭し始める。
まだ山とある作業に少しばかり辟易としながら……。そんなシンタローをグンマは優しげな表情で見やり、キンタローの手を引き総帥室の扉へと向かう。


「シンちゃん、おとーさまをよろしくね」


扉を開け、体を廊下へと出し、グンマはシンタローにそう言う。グンマはちゃんと気付いていたのだ、きっとシンタローが今書類に没頭するのは、後にマジックを看護するためだという事を。
だから邪魔をしないように、キンタローを連れ外に出たのだ。そして、そんなグンマの思いをシンタローもちゃんと分かっていた。だからグンマたちが扉を出る寸前、こんな風に声を掛けた。


「頑張れよ、応援してる……ありがとうな」


そんなシンタローの素直な一言に、キンタロー、グンマは目を合わせ、嬉しそうに微笑むのだった。






******






時間は丁度街では夕食時、と言った時間であろう。
シンタローは時計を見つめ一息吐くために背伸びをした。ぎしり、と音がしたのはシンタローの凭れる椅子の背ではなく、すぐ傍の扉から発せられた音だった。


「親父、まだ寝てろよ。………腹減ってんのか?」


そこに立っていたのは顔を赤くしたマジックである。
先程変えたばかりのパジャマはもう汗か何かでよれており、シンタローは熱が上がったんじゃないかと心配した。

椅子から立ち上がるとマジックに近づく。そんなシンタローに安心したのか、ゆるやかに微笑むが、それはどこか痛々しい。
シンタローはマジックの前に立つと額に手を当てた。


「お前の手はひんやりとしているね……大人になったからかな」

「あんたのデコが熱すぎんだよ。つーか俺はとっくに大人だ」


やはり先程よりも大分上がったな、シンタローは心中一人ごち、マジックにはバレないように小さく溜息を吐いた。当のマジックは、シンタローの手が気持ち良いのか身をゆだねるように瞳を閉じている。
シンタローはマジックにぶつからない様に仮眠室の電気を付け、中に入るよう促した。


「あんた、腹は?」
「減ってない、とは思うけれど、薬を飲まなくては駄目なんだろう?食べるよ」


そう、結局腹に多少何かが入っていなくては薬は投与できないのだ。シンタローは多めに置いておいた乾いたパジャマをマジックに渡し、粥を作る間に着替えるように指示をした。
簡単な下ごしらえも済み、あとは煮立つまでと言うところまで準備を終えるとシンタローはマジックに向き直る。


「……着替え、してねぇのかよ……」


ベッドに横倒しになり、マジックは瞳を閉じていた。どうやら熱は思った以上に高く、座っているのも辛いようである。
かと言って、濡れたパジャマを着させるわけにも行かない。シンタローは出来る限り揺らさないように瞳を閉じるマジックの服を脱がせ始めた。


「はは……情熱、的、だね……シンタロー……」
「軽口叩く暇あったら自分で着替えろよな……」


着替えさせるだけでは、と汗にタオルを当て簡単に拭いていく。それがどうやら気持ち良いらしく、マジックの表情は少し和らいだ。軽口を叩くことは出来るものの、シンタローの言葉に返す言葉はない。
波でもあるのか、時折一層眉間の皺を深めることがあるようで、シンタローの目に少しばかり痛ましく映った。

着替えを終えると、シンタローはまたキッチンに立つ。丁度良い頃合に煮立ったその粥に、卵を落とし、刻んだ鮭も加えまたベッドに戻る。


「ほら、親父、一口でいいから食えよ、あとは薬飲んで寝ればいいから」


とは言うものの、先程座るのすらきつかったマジックが起き上がれるはずもなく、クッションと枕を何段か重ね、マジックを座らせるとベッドに腰掛シンタローはマジックに粥を少し持ったスプーンを差し出した。


「ほれ、口開けろ。食わせてやっから」


くい、と手首を動かせば少し瞼を持ち上げ、マジックが口を開いた。
大目に作ってはみたものの、多分半分も食べることはないだろうが、とりあえず何口かは食べさせなければ、とシンタローは何度かスプーンを運んだ。

途中までは背を張り、体を起こしていたマジックが重ねた枕に身を預けたのはもう食べられない、とのことだろう。
シンタローはスプーンと皿を置き、今度は薬を取り出した。座薬ではなく、普通のカプセルである。


「こういう時、口移しが普通なんじゃないのかい……?」
「風邪伝染ったらどーすんだよ」

「……そっか……」


マジックは簡単に納得すると、ゆっくりとした動作でカプセルを受け取り、水を含み嚥下した。
コレで仕事は終えたとばかりに、すぐにベッドの枕の重なっていないスペースへと身を沈め、ぐったりとし始める。シンタローはコップや皿を片付けてから、用意しておいた氷嚢に氷水を入れまたベッドサイドへと戻る。


「ほら、親父、氷嚢……頭持ち上げるぞ」


言いながらマジックの頭を持ち上げ、枕を敷いてその上にタオルで包んだ氷嚢を乗せ、そこにゆっくりとマジックの頭を横たえる。
そしてもう一つ用意した桶入っているタオルを絞ると今度は額に置いた。その頃には、薬が聞き始めたのか荒い息は随分と抑えられ、ぐっすりと眠っているように見える。
シンタローはここで初めて心配そうに表情をゆがめたのである。


「あほ……あんたが俺にさえコート渡さなきゃ、風邪引かなかったんだぞ……?もう若くねぇのによー……」


素直じゃない物言いだが、シンタローなりに心配しての台詞である。
先日のことを思い出すと、他の事まで思い出してしまうのか、シンタローは長い髪を揺らし首を振ると、最後にマジックの頭を撫でてから仮眠室へと出て行く。
出る間際、おやすみ父さん、そんな声が聞こえたのは、マジックの夢かもしれない……






******






執務も終わりに近づき、時間はもう子供は眠る時間へと差し掛かっていた。時折マジックの唸り声が聞こえたり、定期的に氷嚢やタオルの交換に行ったりとしたが、仕事もようやく片付く目処が見えた。
さて、もうひと踏ん張り、の前にシンタローは今度はしょっちゅう様子を見れない事を考え、マジックの元へと向かった。


「親父!?」


先程(とは言っても30分程前ではあるが)は、唸ることもなく静かな寝息を立てていた筈のマジックが、今荒い息を吐き苦しそうにしている。悪い夢でも見ているのか?シンタローは急いでマジックに近づき緊急事態だと無理やりその体を起こす。


「っ……!」


目を勢い良く開いたマジックはシンタローの方を見ると何事か呟いたようだが、その呟きはシンタローに聞こえなかった。次いではっきりと意識が戻ってきたのか、安心したようにシンタローにしがみつき息を吐いている。触れる体はとても熱く、シンタローは体温計を取り出すとマジックの耳に当てた。
耳温計は数秒で熱を正確に測れる優れものであるが、その体温計が示す数値は39度に近く、大人が稀に発熱する体温としては相当高い。

どうしたものかと焦るシンタローの瞳に映るのは、ベッドサイドに置かれた弾丸状の薬。ごくり、と唾を嚥下する。
覚悟を決めるときが来たようだ。

シンタローはマジックを辛いだろうが我慢してくれ、と呟きつつ、うつ伏せで寝かせると力が入らずちゃんと立たない膝を立たせ、臀部を自分の方に向かわせた。
せめてもの情けと電気を消し、バスタオルを掛けてある。

たとえ恋人と言う肩書きを持っていても、臀部を晒すのは嫌だろう、シンタローは本当に我が事を思い出し深く頷いた。
パジャマのズボンを少しばかりずらし、下着をのぞかせた状態で、少しばかり揉んでみる。


「(流石に細いつったって、慣らさずにつっこんだら痛いよな……なんか潤滑するもん使ってもいいけど、効力なくなっても困るし……)」


そう思いながらぐにぐにと親指の腹で解す。本当にこんなことで解れるとは思えないが、注射と同じで一定時間圧力を掛ければ多少痛みも麻痺するだろう、と思ってのことだ。
どこで得た知識とは言いたいが、解すことに関しては我が身と知れることである。シンタローは少しだけ泣きたくなっていた。


「こんなもんか……」


そういいながらタオルに隠れた下着をずり下ろす。少しばかりどんなものか見たい気もするが、やはり可哀想だな、と思い諦めてシンタローは座薬を取り出すとゆっくりとそこに差し込んでいった。
と、その時、先程まで眠っていたはずのマジックがついに唸り声を上げ始めた。流石にこの状態で起きられたら何を言われるか分かったものじゃないとシンタローは焦るが、この指を離すわけにもいかず、取り越し苦労であってくれ、と祈る。





「……ぅ……ぃ、…。…嫌、だ、……ミツヤ………」





涙交じりのその眼が胡乱下に動きシンタローを捕らえたようにも見えたが、まだ熱に浮かされているらしく、マジックは小さく誰かの名前を呟いたのだ。


『ミツヤ』と。


「(ミツヤ?!ミツヤって誰だよオイ!)」


突っ込みながらも指を推し進め、きっちり入ったところで両脇から臀部をぎゅう、と押し中にさらに入るようにやる。一度手を離してから出てこないことを指先で確認すると下着を上げ、パジャマを直してシンタローはキッチンに手を洗いに向かう。


「(ミツヤ……?……1.格言、2.サイダー、3.三谷とかって苗字、4.誰か知らないやつ)」


シンタローの知らない名前がマジックから飛び出した。正直驚きである。と、言うか状況が状況だけに更混乱は増す一方である。


「(なんで座薬突っ込んでる時に名前が出るんだよ……親父に座薬を突っ込んだ奴がいるっつーことか……?ん?待てよ?もしかしたら親父のケツに何か突っ込んだ奴がいる!ってことかもしんねーぞ?!どこの誰だよ!シンタローにだったら私のバージンを……とか気色悪い事抜かしてた奴はよー!!思い出したら腹立ってきた!くそ!くそ!!)」


苛々は収まらない、けれど収めないと仕事が待ってる。シンタローは総帥室から急ぎ足で外へと出ると、空に向かって最大マックスの眼魔砲をぶちかました……それは人々の目には人魂だ!UFOだ!と騒がれたがそれはまた本筋とは関係ないので置いておこう。






******






そして次の日、薬が効いたのか、はたまたぐっすり眠ったからなのか、あるいはその両方なのか、マジックは熱もすっかりと癒え、多少だるい程度でほぼ回復していた。
爽やかな表情をしてベッドから立ち上がると、総帥室の扉を開けた。
そこに居たのは………


「シ、シン、ちゃん……?」


どうやら、あの後一晩中悶々としてしまい、結局一夜仕事をして過ごしたのである。しかも………


「ねぇ、シンちゃん……あの、どうして、上は裸なの、かな……」
「あぁ?」


これは、と言うのも雑念が雑念が、と深夜の力なのかなんなのか、考えが下に行きまくってしまったため、それを取り払うために自ら上半身を冷やした、と言うのである。
下半身は流石に誰か入ってきた時言い訳が出来ないとはいているのだが、正直総帥室にすぐに下半身は見えないので、見る人が見たら真っ裸で仕事をしているようにしか見えない。
そんなことに気がつかないほど、シンタローはパニックを起こしてしまっていたのである。
そして、やはりと言うかなんというか。





「ぶわっくしょい!」





ずるり、と垂れ下がる鼻水。要するに、風邪を引いてしまったのだ。
無論、この風邪はマジック同様、悪化の一途をたどり、シンタローはマジックに甲斐甲斐しく世話をされることとなるのだが……それはまた機会があったら。






******






最後になるが、シンタローは風邪が回復しても尚、ミツヤと言う人物を気にしていた。
だが、某叔父に話を聞いたところ何かのトラウマスイッチを押してしまったらしく、一言ゲームが……と呟くとどんよりとしてしまい、余計にマジックに聞くのを躊躇ってしまったのだ。
―――いつかは、いつかは…!!!―――
その想いを胸に、クリスマスに向けてシンタローたちの仕事は続く。





終 / 070208


終わった…やっと終わった!!!かき始めた当初と全く違う話になってしまいました。
でも楽しく書けてよかったですー!
ちなみにミツヤとのことは特になにもなくて、風邪を引いたマジックの尻に座薬入れようとして本気で殴られた、とかその程度です。笑
あ、あとクリ子ちゃんは…?とか言うのはなしの方向で……笑
では、ここまで読んでくださって有難う御座いました!!!


マジシン好きに15のお題[03:薬]


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mn
CAPRICCIO


「シンちゃん。遊んで」


そんな不用意な一言で僕は僕を傷つけてしまった。(眼魔砲的な意味で)






******






「いきなり眼魔砲は酷いじゃない!シンちゃんのばかっ!パパ服焦がしちゃったでしょ!」


服焦がしただけで済んだなんて良かったじゃねぇか、と横でとばっちりでアフロヘアーになってしまったハーレムは心中呟いた。
胸元から出したタバコは掴むだけでボロボロと崩れ、だったらどうして服は破けないんだ、読者サービスの足りない奴め、と動揺のせいか更にわけの分からないことをハーレムは思う。
更に心中呟き続けるが、本筋とは全く関係が無い為に省くとしよう。


「俺は、今、大事な、総帥の、お仕事中だっ!てめぇだって前やってたんだろうが、分かれよ馬鹿っ!」


見た目にも苛々としているシンタローは、怒りに震え、怒鳴りながらも手を動かしている。
新生ガンマ団。正義のヒーローとなったシンタローは今兎に角忙しい。
世間の目に「ガンマ団=殺し屋組織」と根強く残っているのだから当然と言えば当然であり、クリーンアップをはかったりと兎に角忙しいのである。

通常であれば、シンタローが全ての書類に目を通す必要は全くと言って良い程ない。
ただ、シンタローが今の実情全てを知りたいと言いだしたことで書類は全てシンタローの元へと回るようになっていた(それでも本当に全てではないが)
見る書類は多岐に渡る。世界各国から寄せられた要請から始まり、敵国の盗聴記録に通信記録、果てはガンマ団の水道代金ですらシンタローの目を通すようになっている。(水道代に関して言えば、節約するのが趣味に等しい彼としては最重要項目なのかもしれないが)

シンタローはマジックが前やっていた、と言っては居るが、実際マジックはそこまでは見ない。
寧ろそういった物は全て秘書課に回していたし、出来る限りシンタローの為に時間を空けておいたのである。

無論、書類に目を通さないからと言って内部反乱を起こしたことも、敵国との問題が起きたこともなかったが……(寧ろ敵国との問題は起こりまくっていたと言っても良い)


「し、シンちゃん……!!」


震える声に、シンタローが顔を上げる、そこに写るマジックの表情は歪だった。


「馬鹿っ!て!馬鹿っ!って……!!!」


怒るか?と誰もが身構える。シンタローと違い彼は基本的に手加減をしないのだ。大惨事は必死である。


「~~~っ!!!ちっちゃい「っ」がかっわぃいいい!!」


お笑いコケを実践してしまったことは、言うまでもない。


「おいおいおい、兄貴ぃ~」


ハーレムは呆れてものも言えないのか、次の句を告げることは出来ない。
そんなハーレムをはじめ、皆の心のツッコミに気付かないのか気付くつもりがないのか、マジックは携帯を取り出し鼻息も荒くシンタローに迫った。


「ねっ!シンちゃん!もう一回言って!もう一回、もう一回でいいからさぁ~」


年甲斐もなくはしゃぐ50代、と言うのは一旦冷静になってから眺めると相当痛々しいものがあるものの、幸せそうな表情に物が言えずシンタローはじぃ、と眺めた。


「……うぜぇ……」


小さく呟いた声は、本当に小さく低く聞き取りにくいものであるが、威圧感は重く鋭い。目の前で聞いていたマジックも途端、平静を取り戻す程だ。


「兄貴、部屋の隅で泣いてるぞ、シンタロー……」


総帥室の部屋の隅に置かれた観葉植物のその隣、デッドスペースにきっちりと納まる2m弱の男は正直不気味であるが、害はない。


「いいんだよ、ほっとく」
「……何かを求める目でこっち見てっぞ、シンタロー」


チラ、チラ、と視線を寄越してくるその瞳は何か強い想いが込められているようで、たまたまその前を通過したチョコレートロマンスの髪型が虹色も目に痛々しい輝くアフロへと変貌を遂げる。
シンタロー、ハーレムは小さい動作でそれを避け事無きを得たが、そろそろ執務に差支えが出てもおかしくはない。

シンタローは怒りを静めるような深く重い溜息を付き、革張りの椅子からその身を起こした。
重い足取りを自覚しても尚、歩みを進めるのは正直億劫であると同時に、ひどくプライド……と、言うか癪に障る。

そんなシンタローを知ってか知らずか、マジックは純粋にシンタローが歩み寄る様を嬉しそうに眺めている。
その笑みは普段の余裕の相好なぞ崩した蕩けそうな程の笑顔だ。

見ているだけで、胸焼けがする。とはハーレムの言葉であるが、しかしその思いは満場一致であろう。


「おい、クソ親父」


目に見えて不機嫌なシンタローは見下ろしたままでそう呟く。この低い声は果たして届いているのだろうか。


「なぁに?シンちゃん」


今にも小躍りしそうな様子の前総帥は手にしたシンちゃん人形を愛しげに撫でる。吐き気がするといわんばかりの表情で、シンタローはその前にしゃがみこんだ。


「どうしたら大人しくこの部屋から出てくっつーんだ」


堪えるように搾り出されたその声は、聞く人によってはそれだけで息の根が止まりそうな程、空恐ろしい。


「ふふ、そうだねぇ……シンちゃんが私にキスでもしてくれたら帰ろうかな」


口の端に現れた笑みは覇道を進むマジックがよく浮かべていた笑みで、そこにはサディスト特有の捻くれた思いが込められているようだった。
こんな微笑を浮かべている時のマジックは、何かしら問題を起こすことをここに居る全員が分かっていた。
しかもそれは何時もの我侭の延長のようなものではなく、もっと別格の面倒臭いものだ。


「本当に、それやったら帰んだろうな」

「あぁ、勿論だよ。私が今まで君に嘘を吐いたことがあったかい?」

「そりゃ、沢山な」


シンタローの返し言葉に付け足すようにハーレムは思う、「(嘘じゃないときなんて、あったかよ)」そう思う心は情感を伴い、ハーレムは知らず息を吐く。


「……そう、かもね。でも今日は本当だよ?シンタロー」


サディスティックな微笑みは何時しかマゾヒズムな笑みへと代わり、自虐的なその無粋な視線にシンタローは眉を潜めた。
こんな風に笑う父親を見る時、シンタローはいつも思う。思い通りにしてやるよ、と。
それは優しさからくるような暖かい物ではなくて、自虐的に笑う彼にシンタローのサディズムな心が反応するのだ。


「………おい、マジック―――――………な」


瞬きと同時に、シンタローは動いた。ピンクのスカーフのついた妙に手触りの良い襟元を掴むと勢いよく自分の方へと引張り、喉を絞めるように押えると、その唇に自分の唇を密着させた。
ギュ、と肉の縮むような嫌な音が唇と唇の間に響いたとき、シンタローとマジックの距離は離れていた。
歪んでいた唇の端は更に歪みを強くし、マジックはシンタローに視線を送った。


「さっきの言葉、ほんとう?」

「あぁ、あんたが邪魔さえしなけりゃ本当になるさ」


それだけ言うとシンタローはマジックの前から立ち上がり、机へと戻る。口の端に残るのは、妙に赤々しい点。


「そ。じゃあ、私は大人しく帰ろうかなぁ………あぁ、ハーレム、シンタローの、邪魔を、しては、駄目………だよ?」


呟く声は不機嫌なシンタローが出す声よりも低く冷たい。ハーレムはただ頷き、あんたじゃねーんだから、と言う言葉は飲み込んだ。
思い空気の中、軽い音が部屋を包み、マジックは総帥室を出て行った。

残されたティラミス、チョコレートロマンスは表面上冷静を装い、シンタローの机に書類を置くと秘書課の部屋へと退室していく。


シンタローは唇の端を親指で拭い、書類に拇印を押す。
血で打った拇印は何れ黒く変色し、相手国を驚かせるだろうが、まぁいいとシンタローは次の書類に取り掛かる。

最後に残ったハーレムは、一番上に置かれた血印付き書類を見てこう呟いた。


「この、変態親子」
「うるせーよ」





終 / 07.12.04


やりたかったこと=みんなの前でシンちゃんからチュー
やりたかったこと=ドSのドMなマジック。マジックのMはマゾのM。
少しでも俺様と言うか、女々しくないシンタローになっていたらいいなぁ……逆にパパは今後は乙女路線でいきたいなぁ。

つーかガンマ団は表向きは普通の企業だと勝手に思い込んでました。笑
なんとなく表は美少年系アイドル養成所で、裏は殺し屋ガンマ団とか。
でもそれだったら士官学校なんて作らんわなー。入学制全員殺し屋だって知ってるしな。笑


マジシン好きに15のお題[01:ケンカ]


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