恋をしよう
「どうしてそんなに無駄に元気なんだっ!!」
「それはね、恋をしているからだよ」
ああ、どうしてコイツはこんな恥かしい台詞をサラリと言ってしまうんだ。
大体その歳で恋ってなんだ?
今更純情振るような歳でも無かろうに。
俺があんまり変な顔をして見上げていた所為か、親父は俺の肩を抱き寄せるとギュッと抱き締めた。
「お・おい!!何しやがるっ…」
咄嗟の事に身を捩るが、しっかりとホールドされて逃げ出せない。
しかし悔しいかな、俺よりも鍛え上げられた胸の中は居心地が良かった。
「こうやって、シンちゃんを抱き締めるのも久しぶりだね」
暫し感慨に耽っていた俺を、親父の声が現実に引き戻す。
しまった、思わぬ安心感に気を許しすぎた。
己の不覚に自己嫌悪半分、照れ隠し半分。
今更ながらのように親父の胸を力一杯押し退ける。
「いい加減離せよ」
下を向いてぐいぐい押すけれど、きっと俺の顔は真っ赤だ。
あまりのガキ臭さに、さらに耳まで染まる。
だけど、そんな俺の必死の様子さえ、親父を楽しませてるんだろうな。
そう考えると、何だかむかつく。
何時しか俺の肩や背に回された腕が外され、ふぅと息を吐く。
実の所ハグは嫌いじゃない。
でも、今更親に甘える歳じゃない。
それに、この腕を必要としているのは、俺だけじゃないんだ。
「シンちゃん、君が今何を考えてるのか何となく予想が付くんだけど…」
視線を上げれば少しだけ困ったような親父の顔。
「私の息子はグンマとコタローだけど、君だって私の大切な息子だよ?」
ごめん、俺はアンタにそんな顔をさせたい訳じゃ無いんだ。
「ね、シンタロー」
そして優しい笑顔。
ほんの子供の頃、何も疑う事なく駆け回ってた子供の頃に大好きだった親父の笑顔。
「…うん」
再び抱き寄せられたけど、今度は素直に身体を預ける事が出来た。
煩わしい枷でしかなかった腕に、ゆっくりと心が解きほぐされる。
「これは親子の親愛表現」
もう一度ぎゅっと力を篭めて、それからゆっくりと身体が離れる。
次第に遠ざかる温もりを離したくなくて、思わずしがみ付いた俺に親父がクスリと笑う。
ああ、そうさ。
俺は何時までたってもガキで、アンタの息子なんだ。
開き直り、グリグリと額を押し付ける俺に、親父が囁いた。
「そしてこれは…」
髪を梳く手が気持ち良い。
「恋人の愛情表現」
「うん…って!えぇっ?!」
今、不穏な言葉を吐かなかったか?
俺が問い質そうとするより早く、髪を梳いていた手が背中を滑り、するりと俺の腰に回ると、
先程とは打って変わった激しさで強く抱き寄せられた。
「お・親父…?!」
「何時だって私の心は君にときめいているよ」
言うや否や、端正な顔が俺の視界を覆う。
こんなヤツを信じた俺が馬鹿だった。
俺は持てる力の限りを篭めて眼魔砲を放った。
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copyright;三朗
◇ ◇ ◇
パパは何時でもシンちゃんに恋してるんですよ。
◇ ◇ ◇
メモ帳より発掘。
ギャグなんだかシリアスなんだか…。
ただ一つ確かなのは、ずっとマジシン好きだということ(笑)
20040320
copyright;三朗
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