忍者ブログ
* admin *
[48]  [49]  [50]  [51]  [52]  [53]  [54]  [55]  [56]  [57]  [58
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

mi



 恋焦がれた末に、どんな手を尽くしても手に入れようと望んだ蝶が、ようやく手の内に。
 一度手にいれしものを手放すことなど、蜘蛛はできるはずもなく――――強固の檻へとそれを閉じ込める。


 魅入られた美しき哀れな蝶。
 魅了されし愚かしき蜘蛛。


 ―――――哀れなのは、蝶か蜘蛛か
 ―――――何処に罪は在りしか無しか

 



 薄暗き部屋に、白く浮かび上がる人影。無機質な冷たさのみを湛えるその部屋の中央に、唯一存在する家具、ベッドの上で、長い髪を重たげに揺らし、その人影は、ゆるりと身を起こした。キングサイズのそれは、中央で眠っていた人の居場所を不確かにする。身を起こすために触れた手のひらの、弾力さで、自分がベッドの上に寝ていたことに気付いた。
 そこまでしないと自分の居場所がわからないのは、そこが、今まで見てきた部屋のどれにも当てはまらないためである。
 全てを封じ込めるような四角く囲まれた部屋。唯一の明り取りである窓は、天井近くに設置されているが、人一人くぐることもできないほど小さな、はめ込み式のそれは、無粋なほど太い格子で塞がれていた。
 おそらく地下室なのだろう。はっきりとわかっているわけではないが、肌が透けるほど薄い着物ひとつまとっただけのその青年は、息も白くなる部屋で、静かに呼吸をする。
 身体が震える。
 寒さのため………そう思いたかった。けれど、違う。青年は、恐れていたのである。いまだにこの場所にいるために行われるだろう行為に。
 逃げ出したい。
 ベッドの上で強く握られたこぶしは白い。強く、強くそう思うものの、それは無理であることは、ここ数日で、よくわかっていた。
 唯一の出入り口である扉は、歯痒くなるほど強固で、自身の必殺技である『眼魔砲』を打ち込もうともビクともしない代物だった。周囲の壁にも目を向けたが、地下室であれば、壁をブチ破ったところで脱出は不可能である。天井という手も考えたが、扉と同じ仕様なのか、破壊することはできなかった。
 なぜ、こんなことになったのだろう。
 考えても、わからない。
 気がついたときには、すでに自分は彼の人に捕らえられ、そうしてこの地下室に―――どこに存在していたのかさっぱりわからないが、脱出不可能な部屋に閉じ込められてしまった。
 どれほど懇願しようとも。
 どれほど泣き叫ぼうとも。
 彼の人は、決してこの部屋から自分を出そうとはしなかった。



『蜘蛛は、ようやく恋焦がれた蝶を捕まえたのだから』



 自身が横たわっていたベッドは、真っ白なシーツでつつまれていた。自分が眠りに落ちる前には、そんなものは存在しなかった。しかし、目が覚めると、真新しいシーツにつつまれていた。それは、忘れかけた外の世界を思い出させてくれる。けれど、青年は、その白さから目をそむけた。
 その場所が、自分を優しい記憶から遠ざける。ぎゅっと目をつぶるが、それが仇となり、そこで行われた数々の羞恥の記憶がフラッシュバックする。
「ッ……」
 赤い染みを散らし、完璧な白さを失ったシーツを波打つように乱しながら、淫らに喘ぐ自分。さらにその上から覆い被さるようにして自分を組み敷いた彼の人の姿。新品のシーツ独特のかすかな匂いを持っていた寝具は、どちらともいえぬ吐き出された体液で、すえた雄の匂いに染まっていた。
 だが、身体中から溢れ出た体液で汚されたシーツは、今はどこにもない。それでも、記憶はありありと残り、自分の心を苛んで行く。
 いったい、それはいつまで続くのだろうか。



 ―――カタン。

 小さな物音と人の気配。
 青年は、振り返りもせずに、びくっと身体を大きく震わせた。
 パチン、と小さな音がして、部屋の中が明かりに満たされる。けれど、その光はさほど強くはなく、周囲をぼんやりと照らす程度だった。それでも、暗闇に慣れた瞳には眩しい。シンタローは、目を細め、与えられた光に耐えた。
「シンタロー」
 自分の名を呼ぶ彼の人に、シンタローと呼ばれた青年は、ゆっくりと振り返り、そうして闇夜を映す深い湖のような漆黒の瞳に彼の人の姿を映した。
「マジック………」
 トクトクと急激に早まる鼓動を押し隠し、シンタローはマジックを見つめた。
 以前と変わらぬ様子で佇むマジック。場所さえ違えば、普通に彼を父親として接することができただろう。しかし、今のシンタローには、それができなかった。
 身にまとっていた着物の襟を合わせ、中央に置かれたベッドから下りる。そのまま、本能のように彼から距離を置いた。
 どうして………。
 壁に背中を押し付けたシンタローは、まだ今の状況が理解できていなかった。
 いまさら、なぜこんなことをするのだろうか。
 今まで自分達は、親子関係を保っていたはずだった。確かに、多少常識を逸したところもあったかもしれないが、それでも父と子の関係は変わらなかったはずだった。
 いったいどこで狂ってしまったのだろうか。
 


『蝶は知らない。自由に飛び回るその姿に、蜘蛛は恐れを感じていたことを。いつか、自分以外のものにその身が捕らわれるかもしれないという恐怖に怯えていたことを』
  


 マジックは、シンタローに魅入っていた。
 わずかな明りの中で、闇とは違う、はっとする輝きをもらす黒髪の髪に、薄明りのせいで艶かしく揺れてみえる黒い瞳、そうして、薄闇の中でも浮かび上がる白い身体。着物に隠されているが、むき出しになっている僅かな箇所からも、所有印が見られることにマジックに愉悦を与え、欲望を掻き立てる。
 マジックは、中央のベッドへと足を運んだ。鈍い光を放つ電灯の真下。ここならば、捕らえた愛しきものの表情を眺められると考えて設置したのだ。
「来い」
 ギシリと音を立てて、ベッドの上に腰を下ろし、シンタローに命ずる。
「ヤダ」
 シンタローは、震える手で着物を掴み、きっぱりと言い放つ。傍によれば、何が起きるのかなど、とっくに教え込まされている。
 しかし、シンタローの拒絶の言葉に、薄っすらと笑みを湛えていたマジックの表情が変わった。
「来い!」
 さらに強い語調でそう言い放つと、素早く立ち上がり、壁際に寄っていたシンタローの手首を力任せにつかみ、ベッドの上へと引っ張り込んだ。
「はなせっ! もうイヤだ。やめろッ」
 手足を無意味にばたつかせる抵抗は、なんなく組み敷いて無効にさせた。二、三日まともに食事をさせてないために、体力が激減しているのだ。それでも、相手は反発することをやめない。
 だが、それを煩わしいなどとは思わなかった。その姿さえも、美しくみえ、マジックの情欲を高ぶらせるものでしかない。



『蝶は自身の美しさなどわかるはずもなく、捕らえられる意味など知らずに、その身の自由を奪われる』

 

 シンタローは、どんどん自由を失っていくなかで、唯一自由である瞳に、力を込めて、マジックをにらみつけた。 
「俺は、あんなことしたくないっ」
 あんな、女にするようなことを、俺にさせるなんて。
 マジックが毎晩自分に行う行為は、どれほど愚かしいものかわかっているのだろうか。あれは、本来ならば異性とおこなうべきもの。子孫繁栄のためにおこなう行為を、なぜ同性にするのか、シンタローにはわからなかった。
 おかしい。マジックは、狂ってる。
 必死に抵抗するシンタローに、マジックの目が、笑みを作るように弧を描き、そこに残忍な光をうかばせ、シンタローとの距離を縮めた。
「っ!」
 噛み付くようなキスが与えられる。そのすべてを貪るような、口付けは、深く舌を絡めさせ、息する隙間さえも与えずに吐息さえも食い尽くされる。
「やっ…………」
 ぞくりと背筋に悪寒を覚え、それに抗いながら、空気を求めて喘ぐシンタロー。こんなのは気持ち悪いとしか思えない。なのに、それは執拗なほど長く深く、自分を追い詰めていく。
「………ぅん………はぁ………っ。こんなのやめろっ!」
 ようやくマジックの身が引いた時には、すでに呼吸は荒く、シンタローは肩で息をしていた。すでに、着物はだけ、覗く肌はほんのりの薄紅色に染まり、目じりには涙を浮かべ艶が溢れた、そそる姿。肉食獣のように、極上の獲物の前にごくりとのどの奥で、それを鳴らしたマジックは、キスの余韻を味わうように、唇を舌でなめる。
「こんなのとは?」
 嘲笑と思えるほど残忍な笑みを浮かべて、うそぶく台詞。
 それに、止めることなどできるはずがない。これほどまで、追い求めた存在が、今目の目の前にいるというのに。
「………こういう事だ」
 マジックの欲望に彩られた瞳に見据えられるのが恐ろしいのか、ふいっと横を向くシンタローに、マジックは、くくっとノドを引き攣らせるように震わせ、そっと近づくと、目の前に向けられた耳の後を舌で撫ぜた。
「わからんな」
 そう言って耳元で呟かれる低くかすれた甘い声。
「っ!」
 その声に、なぜか背筋に甘い痺れが走る。耳を抑え、かっ、と羞恥でされに赤く染める肌に、マジックは楽しげなものを見るように、キュッと目を細めた。
「それに、逆らうなって言ったはずだ?」
 抵抗するたびに、その一つ一つを抑えられ、お仕置きとばかりに、深いキス。
 シンタローは、舌を入れられることに、まだ抵抗があって、嫌がるのだが、だからこそ、仕置きのしがいがあるとばかりに、淫靡な音を立てて舌を絡めてくる。
「っ………はぁ」
「―――少しぐらい慣れないのか?」
 いまだキス一つするだけ、息を荒くさせるシンタロー。
 けれど、それは初々しく、口付けによって熟れた唇は、誘うように半開きになり、目元は真っ赤に染めあげ、とろりとしたぬれた眼差しをこちらに向ける姿は、ひどく人を煽るもので、マジックは、知らず知らずにこぼれる笑みを抑えきれぬまま、呟いた。
「そろそろ、始めようか―――」
 恐怖に怯え、シンタローの引き攣るような悲鳴に、マジックはふわりと笑った。




『捕らわれた憐れな蝶の命運は、すでに蜘蛛の手の中に―――全ては蜘蛛の意のままに』


PR


 生まれたという報告を受け、初めて対面した息子。
 その瞬間自分は、確信した。
 この子はいつか私の手元からいなくなると。
 そんな不安に襲われた。
 
 ――――――黒。

 青の一族にはありえない漆黒の色を宿した息子は、その瞳でじっと私を見つめていた。
 冷たいだけの青い秘石眼を。




 カチッコチッ…カチッコチッ……。

「四時か…」

 アナログ時計の音が耳に大きく聞こえ、目をやると、時針は4時を指していた。
 素肌にシーツの温もりが直に伝わる。
 かすかに身体を動かすと、自分ではないものの身体に触れた。
 驚くことはない。
 そこにいるのは、自身の息子としているシンタローだ。もっともこの光景を見られれば、息子というのも危ういだろう。
 共に裸で一つのベットにいれば。

 白い肌に黒髪が覆っている。モノクロームで構築される世界に、マジックは、目を細めた。

 もちろん、息子とはそういう関係をもっている。
 当然だろう。
 愛していれば、その全てを手に入れたくなるものなのだから。
 許されることではない、などという言葉は必要ない。
 そんなものは、もともと自分の中には、存在していない。
 彼の全ては自分のもので、そして自分の全てもまた、彼のものならば。
 それは、当然の行為だ。

 カチッコチッ…カチッコチッ……。

 時計の音が静寂の闇を刻む。
 止まることもせず、前へと刻む時。
 
 その時の怖さを時折、実感する。

 目を横へと移せば、見事な漆黒の髪が視界に飛び込んだ。
 長い髪は、また少しのびたようだった。
 条件反射のように、それに手を伸ばす。
 さらりと指のすり抜ける心地よい感触。逃げだすそれを捕まえるように、指にからめ、そのまま自身の元に引き寄せると、その黒色の絹糸のような髪に口付けを落とした。

 少々無理をさせすぎたようで、このくらいでは、眠りを貪る彼は、目覚めない。

「まだ、私の元にいる」

 それを確かめ安堵の溜息をついた。

 一度、それがこの手から離れた時には、酷く動揺したものだった。
 自分の不安が的中したのだと思った。
 実際、そうなりかけていたのだ。
 彼は、あそこで急激に変化していった。
 様々な出来事がおこり、そして様々な真実が明らかになり、それが、彼を確実に変え、そして私に焦りを与えた。

 その時を止めることは出来なかった。
 その変化を止めることは出来なかった。

 どれほど悔やんでも、あの頃には戻らない。

 髪を掴んでいた手をはなし、その手を彼の頬へと向けた。
 親指を口元に寄せれば、規則正しい呼吸をしているのがわかる。
 確かに、ここに存在する証。
 
「怖かったよ」

 彼が自分の本当の息子ではないことを知り、恐怖を覚えたのは、事実だった。
 彼と自分を繋ぐものが途切れたのだ。

 その恐怖は忘れられない。
 色彩を全て失い、モノクロームの世界に落ちていくような、喪失感。

 カチッコチッ…カチッコチッ……。

 時はとどめる手をすり抜けて行く。
 彼もまた、自分の元から去っていく。

 シーツの上をすべり、彼の手を探り、掴む。
 しっかりとした感触がそこにある。 

 なのに、彼は、それでも自分の元へと戻ってきてくれた。 
 それでも再び、自身の手の中に戻ってきてくれたのだ。

「もう、手放しはしないよ」

 手を掴んだまま、包み込むように胸に抱き込めば、無意識ながらすりよってくる息子に、口元が笑みに変わる。

 青の一族は皆執着心が強いのかもしれない。誰か一人、愛する人を見つければ、それに固執する。
 まだ、グンマやキンタローのような若い者はそれほどでもないようだが、けれど、もう少ししたらわかるだろう。何を捨てても、何を奪っても手放せない存在がいるということを。
 自分にとっては、この息子として育ててきたシンタローだった。 
 なぜ、彼にこんな思いを抱いていてしまったのか。
 それは、分かりやすいものだった。
 この子は、いつか私から離れていってしまう―――確実に。
 それが、わかっていたからこその執着心だった。

 だが、それがなんであれ、大切なことに変わりない。
 愛しくて愛しくて、誰にも触れさずに、自分のエゴで締め付けたい。

 時が許す限り、自分の手は、彼を捕らえ続けるだろう。
 その身に、自分の証を刻み込み、彼を所有し続けるのだ。

 胸に抱いたその身体をさらに抱き寄せると、マジックは、愛しいその黒髪に口付けをもう一度落とした。
 
「お前は私の物だよ――――シンタロー」 







z
「シ~ンちゃん♪」
 相変わらずの浮かれ口調で自分の名を呼ぶアーパー親父に、シンタローは、いつものごとく冷ややかな視線を向けてやった。
「消え失せろ」
「あのね、シンちゃん。パパ、お願いがあるんだけどv」
「聞けよ、人の言葉」
 こちらの拒絶をもろともせずに、突進してきたその身体をどうにか交わしたシンタローは、相手との距離を慎重に保ちつつ、溜息をついた。
 いつものことだが、もっとまともに現れて欲しいものである。
 ついでに言えば、自分の言葉をちゃんと受け入れて欲しい。
 無駄だと思いつつもそんな願いを胸に秘めつつ、シンタローは、自分との抱擁が、今日も拒否されたことに、悔し涙を流す父親に声をかけてやった。
「お願いってなんだよ」
 その一言で、すぅーっと目じりから涙がひいていく。何度見ても気色悪い体の構造である。
 そうして変わりに広がる笑顔が満面になると、マジックは、いつも手にしているお手製『シンちゃんぬいぐるみ』に頬擦りしつつ、答えた。
「あのね。パパね。絵本を書いてみたんだけど~。やっぱり絵本っていったら、挿絵が重要だよねぇ? パパね。シンちゃんに挿絵を描いてもらおうと思ったんだけど、どうかな?」
「却下」
「ほら、昔、シンちゃんが描いてくれたパパの絵をもってきたんだよvvv ―――あ、それコピーだから、破いても無駄だからね―――ほら、シンちゃんって絵が上手いよねぇ。だから挿絵描いてv」
「………無理やり話しを進めてんじゃねぇよ」
 物凄い昔の絵を持ち出され、結構なダメージをくらっている上に、こちらの言葉を一切耳を貸そうともしない父親に、早くもお疲れモードになりかけていたシンタローだが、それでも気になっていたことを口にした。
「絵本って何書いたんだよ、てめぇは」
 絵本を書けるような、夢のある人間か? と疑問ありありな男に―――ご近所迷惑な野望だけはいらんほどもっていたが―――疑いの眼を向ければ、「失敬な」とマジックは、どこに隠していたのか原稿の束を取り出した。
「ほら、見てごらん、シンちゃん。パパだって素敵な絵本を書けるんだよv」
 一枚目の原稿には、タイトルが書いてある。
 シンタローは、それを声に出して読んだ。
「ああ? えーっと『正しい世界征服のしかた』…だとぉ?」
「そうだよ。この絵本を読めば、幼稚園児だって、世界征服をしたくなるという―――」
「眼魔砲っ!!」

 ドゴンッ。

 即行で片手を突き出して、必殺技を叫べば、目の前の原稿用紙の束が、あっという間に消し炭と化した。
「何するのっ、シンちゃん!!!」
「夢ある幼稚園児に何を吹き込む気だ、この馬鹿親父がぁ!」
 『正しい世界征服のしかた』などという絵本など、この世に存在してはいけないものである。
 こんな阿呆な作品を世に送り出したら、世界中のご近所さんに迷惑がかかるのが目に見えるというものである。
「ひどいっ! シンちゃんの馬鹿っ」
「馬鹿で、結構。んな絵本は作らんでよろしい」
「しくしく………せっかく第二弾、『正しい息子の征服のしかた』を書こうと思ってたのに」
「…………………よかった。世界が救われた。つーか、俺が救われたよ」
 まったく油断も好きもないというものである。
「いいか。お前は、本を書くな。ぜーーーーーーったい、書くなよ」
「約束したら、何かくれる?」
「なんで、俺がお前に何かをやらなければいけないんだ」
「等価交換だよ。決まっているじゃないか」
 どっかの漫画みたいなことを抜かしてくる父親に、シンタローは、にこりと微笑むと拳を振り上げた。
「わかった。この熱い拳をてめぇにくれてやる★」
「はっはっはっ。シンちゃん。ここでパパを殴ったら、後でお仕置きたーっぷりだからねv」
「………………さようなら」
 その言葉に、拳を下げると、くるりと踵を返し、シンタローは、一目散に逃げ出した。
 三十六計逃げるが勝ちだ。いつまでも、馬鹿親父に律儀に付き合っていた、自分が馬鹿である。
 だが、それを黙って見送ってくれるような親切な父親ではなかった。
「あ、まってよ、シンちゃ~~~~~~~ん! パパ、逃がさないよ♪」


 
 ――――――どっかに『正しい変態親父の撲滅のしかた』という本はねぇか?



何処までも暗く、何処までも深い。
この愚かしい想いをマジックが知れば、どう思うのだろう。






The lifetime scar.






人の心に一生残るものは傷だ、と言ったのはどこの芸術家だったか。
優しさや美しいモノは、確かに人の心に残るけれど、
確かに…確実に爪痕を残すのは、傷らしい。


それを聞いた時、俺は笑った。
人間ってのは愚かなもんだ、と笑った。


それなのに、今。
それを痛いほどに、身をもって実感している。



マジックの心に深く深く作られた傷跡。
それを癒してくれたのは、お前だよ、とあの馬鹿は笑っていった。


けれど癒したところで、傷跡は残ったままなんだろ?
マジックという人間とそれは一体化してしまっているんだろ?

癒すとういう俺は、その上を覆い隠すだけ。
傷そのものは、消し去ることができない。


悔しい、という想いはもう超え、
今はただ、マジックに傷を残したいと思うばかりだ。





だから、マジックを拒絶する。
マジックが過去に与えられた傷跡より、更に深い傷を残すため。

例え、どれだけ自分も傷つこうと構わない。

ただ、マジックに深い傷を。
―― 一生消えぬ傷を。





--------------------------------------------------------------------------------
04.11.17
← Back




ポイント 大阪 引越し ドッグフード 北海道 レンタカー


いつものことながら、人が忙しく残業している時に限ってマジックがくる。
そして、下らないことを言う。







Wish.







「シンちゃん、お願いがあるんだけどいいかな?」

「てめぇで叶えろ」

「…そりゃあ、パパ、
 シンちゃんよりお金いっぱいあるけど…」

「…(死ね)…」

「でも、パパそんなのいらないから、
 ずっとシンちゃんに傍にいてほしいんだけど、ダメかな?」

マジックが纏う雰囲気が、変わった。
柔らかく笑いかけながらも、その奥が笑っていない。

不安になる。



「…バカじゃねぇの?」

返す声が、震えそうになる。

「パパのために、傍にいてくれないかな?」

それは、懇願の響きに似ていた。
引きずられそうになる。

「…今、いるじゃねぇか」

振り切るように視線を逸らし、手元の書類を見やる。

「ずっと、がいいんだよ」

その言葉に顔を上げれば、じっと俺を見つめるマジックが…。

泣き出しそうだ、と思うのは、何かの錯覚なのだろうか。
けれどそう思いながらも、呟いていた。






「…願いは、自分で叶えるもんなんだろ」

その言葉にマジックは一瞬驚いた後、満面の笑みで笑った。

「…うん。パパ頑張るよ。
 シンちゃんが、ずっと傍にいてもいいと思えるように」

嬉しさを隠しもせずに笑うマジック。
それに不安を覚え、書類に目を戻す。

どうして、コイツはこうなのだろう。
何でも持ってるのに、どうして俺のこととなるとこうまで不安になるのか。

傍にいてもいいと思えるように、頑張る?

奪うことしか知らないマジックが、そんな態度をとるのは俺しかいないだろう。




怖くなる。
深すぎる愛情に、引きずり込まれそうになる。

俯いていたら溺れる感覚に襲われ酸素を求めて顔を上げれば、マジックと目が合った。

苦笑に近い笑みで、笑いかけられる。

心臓が締め付けられるような痛みを感じる。
言葉を失う。

マジックの目に、不安に戸惑う俺が映っている。







「ごめんね」

呟かれた言葉。

声が不自然に途切れた。
心臓が、激しく音を立てる。

「な…にが…?」

問う声は、掠れた。

問いながらも、答えを求めてはいなかった。
答えを聞くことが、怖かった。

それを悟ったのか、ふっとマジックが笑う。




「…傍に、いてね」

言って、抱きしめられる。
振り払おうと頭は思うのに、行動が伴ってはくれない。

ただ何もできず抱きしめられたまま、努力しろ、と呟けば、
マジックはもう一度、ごめんね、と言った。


そんな言葉が欲しいワケじゃなかった。
でも、それすらも、言えなかった。





--------------------------------------------------------------------------------
~05.02.06
『君のくれたもの』=傍にいてもいいと許してくれたこと。

← Back




ポイント 転職サイトを比較→最高の転職 中途採用 被リンクSEOコンサルティング
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved