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「シ~ンちゃん♪」
 相変わらずの浮かれ口調で自分の名を呼ぶアーパー親父に、シンタローは、いつものごとく冷ややかな視線を向けてやった。
「消え失せろ」
「あのね、シンちゃん。パパ、お願いがあるんだけどv」
「聞けよ、人の言葉」
 こちらの拒絶をもろともせずに、突進してきたその身体をどうにか交わしたシンタローは、相手との距離を慎重に保ちつつ、溜息をついた。
 いつものことだが、もっとまともに現れて欲しいものである。
 ついでに言えば、自分の言葉をちゃんと受け入れて欲しい。
 無駄だと思いつつもそんな願いを胸に秘めつつ、シンタローは、自分との抱擁が、今日も拒否されたことに、悔し涙を流す父親に声をかけてやった。
「お願いってなんだよ」
 その一言で、すぅーっと目じりから涙がひいていく。何度見ても気色悪い体の構造である。
 そうして変わりに広がる笑顔が満面になると、マジックは、いつも手にしているお手製『シンちゃんぬいぐるみ』に頬擦りしつつ、答えた。
「あのね。パパね。絵本を書いてみたんだけど~。やっぱり絵本っていったら、挿絵が重要だよねぇ? パパね。シンちゃんに挿絵を描いてもらおうと思ったんだけど、どうかな?」
「却下」
「ほら、昔、シンちゃんが描いてくれたパパの絵をもってきたんだよvvv ―――あ、それコピーだから、破いても無駄だからね―――ほら、シンちゃんって絵が上手いよねぇ。だから挿絵描いてv」
「………無理やり話しを進めてんじゃねぇよ」
 物凄い昔の絵を持ち出され、結構なダメージをくらっている上に、こちらの言葉を一切耳を貸そうともしない父親に、早くもお疲れモードになりかけていたシンタローだが、それでも気になっていたことを口にした。
「絵本って何書いたんだよ、てめぇは」
 絵本を書けるような、夢のある人間か? と疑問ありありな男に―――ご近所迷惑な野望だけはいらんほどもっていたが―――疑いの眼を向ければ、「失敬な」とマジックは、どこに隠していたのか原稿の束を取り出した。
「ほら、見てごらん、シンちゃん。パパだって素敵な絵本を書けるんだよv」
 一枚目の原稿には、タイトルが書いてある。
 シンタローは、それを声に出して読んだ。
「ああ? えーっと『正しい世界征服のしかた』…だとぉ?」
「そうだよ。この絵本を読めば、幼稚園児だって、世界征服をしたくなるという―――」
「眼魔砲っ!!」

 ドゴンッ。

 即行で片手を突き出して、必殺技を叫べば、目の前の原稿用紙の束が、あっという間に消し炭と化した。
「何するのっ、シンちゃん!!!」
「夢ある幼稚園児に何を吹き込む気だ、この馬鹿親父がぁ!」
 『正しい世界征服のしかた』などという絵本など、この世に存在してはいけないものである。
 こんな阿呆な作品を世に送り出したら、世界中のご近所さんに迷惑がかかるのが目に見えるというものである。
「ひどいっ! シンちゃんの馬鹿っ」
「馬鹿で、結構。んな絵本は作らんでよろしい」
「しくしく………せっかく第二弾、『正しい息子の征服のしかた』を書こうと思ってたのに」
「…………………よかった。世界が救われた。つーか、俺が救われたよ」
 まったく油断も好きもないというものである。
「いいか。お前は、本を書くな。ぜーーーーーーったい、書くなよ」
「約束したら、何かくれる?」
「なんで、俺がお前に何かをやらなければいけないんだ」
「等価交換だよ。決まっているじゃないか」
 どっかの漫画みたいなことを抜かしてくる父親に、シンタローは、にこりと微笑むと拳を振り上げた。
「わかった。この熱い拳をてめぇにくれてやる★」
「はっはっはっ。シンちゃん。ここでパパを殴ったら、後でお仕置きたーっぷりだからねv」
「………………さようなら」
 その言葉に、拳を下げると、くるりと踵を返し、シンタローは、一目散に逃げ出した。
 三十六計逃げるが勝ちだ。いつまでも、馬鹿親父に律儀に付き合っていた、自分が馬鹿である。
 だが、それを黙って見送ってくれるような親切な父親ではなかった。
「あ、まってよ、シンちゃ~~~~~~~ん! パパ、逃がさないよ♪」


 
 ――――――どっかに『正しい変態親父の撲滅のしかた』という本はねぇか?

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