「ハーレム♪」
そんな弾んだ声が、すぐ耳元で聞こえた。
聞きなれた声。
いつもよりも少し高めだったが、それでもそれが誰の声だが聞き間違うことはない。
その声と同時に、するりと手が肩から滑り落ちてきた。腕が軽く首に絡まる。
見慣れた赤が目についた。
そうして、背後にいるその人物は、こちらの背中に体重を全て預けるように、寄りかかってきた。
重たいというほどでもない。
密着した身体から熱が伝わるのがわかる。室内は丁度過ごし易いように空調完備されているため、そうされると少し暑さを感じる。
それでも、それを振り払う気はなかった。
さらりと頬に、自分の髪以外のものが撫でていった。
黒い糸の束。
艶やかな漆黒のそれは、自分の金色の髪に絡まるように頬をかすめ落ちていく。
少し視線をさげれば、ゆらゆらと黒髪が波打つのが見えた。
「なあ、チューしよv」
先ほどよりもさらに近く、吐息とともにその言葉が押し込められる。
鼻にかかる甘えた声。
そこでようやくハーレムは、動いた。
右手を持ち上げ、その手のひらを広げる。
そして、それを肩より上に向けた。
「眼魔砲っ」
同時にそこに収束した青白い光は、あっという間に手から離れ、ハーレムの肩上を掠めていった。
後方に爆発音。
「危ねぇだろ、ハーレム!」
その声にハーレムは振り返った。
視線の先にいた人物に、眉間のシワがよる。
やはりというべきか、それは生きてそこにいた。
真っ赤な総帥服に身を包んだ長髪の男。
だが、ハーレムは、その存在を一瞥すると、嫌悪した。
「行き成りなにしやがるっ! 俺のことが嫌いなのか」
抗議の声をあげるその男に、ハーレムは、もう一度、手のひらをそちらへ向けた。
今度こそはずさない、と狙いを定める。
「嫌いじゃねぇよ。その存在が許せねぇだけだ―――――ジャン」
押し殺すように呟かれた言葉は、相手の耳にも届いたようで、性懲りも無くこちらに近づいてきていた足が止まった。
きょとんとした顔。それが、あちゃーと言葉を漏らし、その頭に手を置いた。ずるりと髪が動く。その下から、同じ漆黒の、けれど明らかに短い髪が出てきた。
「なぁんだ、バレてたわけね。でも、おっかしいな。なんでバレるわけ?」
謎だね。と、呟く相手に、こちらは悠長に疑問に答えてやるほど、親切な解説者ではない。
「それは、あの世でたっぷり考えな」
もう一度その手に力を込める。だが、相手の方がすばやかった。
逃げ足だけは、相変わらず天下一品である。
「んじゃね!」
そんな明るい声とともに、こちらに向かってかつらが投げつけられた。
目隠しだ。
「ざけんなっ」
飛んできたそれをハーレムは、即行で腕を使って払い落とし、まだ狙いをつけていた右手を背中を向けて逃げ出すそれに向かって放った。
「眼魔砲っっっ!!!」
もうもうと立ち込める煙。
視界が一気に悪くなり、見通しが全然きかない。
しかし、ハーレムには分かっていた。
「チッ。仕留めそこねたか」
手ごたえのなさに、心底残念な気持ちが湧き上がる。
折角のチャンスだったのだが。惜しいことをした。
こういうことは、めったに無い。
わざわざ殺しに行く気はないのが、そちらから出向いてくれるならついでだから殺す程度の感情である。眼の前にうろつかれなければ、全然問題はないのだが、しとめそこなうのはやはり悔しい。
「しっかし、なにしにきたんだか」
それが謎。
あちらだって、姿をみせれば、自分がどんな行動をとるかなど、知っているはずである。
それでもわざわざあんな格好をして―――シンタローの変装までしてやってきたのはなぜだろうか。
たぶん単なるからかいかもしれないが―――昔からくだらないことをよくする男であったし―――もしかしたら…というか、それが一番可能性が高いのだが―――頼まれたのかもしれない。こちらが何度本心を紡いでも、不安げな顔を時折見せる、臆病な恋人に。
真実は、たぶんもうすぐここへ訪れるだろう、その恋人に尋ねればいい。
そうしたら、こちらも言ってやれる。
「なんでバレるかだって? 愚問だろうが」
愛だよ、愛。
ただ、それだけだ。
―――――自分が誰を愛しているのかなんて分からない奴なんているのか?
そんな弾んだ声が、すぐ耳元で聞こえた。
聞きなれた声。
いつもよりも少し高めだったが、それでもそれが誰の声だが聞き間違うことはない。
その声と同時に、するりと手が肩から滑り落ちてきた。腕が軽く首に絡まる。
見慣れた赤が目についた。
そうして、背後にいるその人物は、こちらの背中に体重を全て預けるように、寄りかかってきた。
重たいというほどでもない。
密着した身体から熱が伝わるのがわかる。室内は丁度過ごし易いように空調完備されているため、そうされると少し暑さを感じる。
それでも、それを振り払う気はなかった。
さらりと頬に、自分の髪以外のものが撫でていった。
黒い糸の束。
艶やかな漆黒のそれは、自分の金色の髪に絡まるように頬をかすめ落ちていく。
少し視線をさげれば、ゆらゆらと黒髪が波打つのが見えた。
「なあ、チューしよv」
先ほどよりもさらに近く、吐息とともにその言葉が押し込められる。
鼻にかかる甘えた声。
そこでようやくハーレムは、動いた。
右手を持ち上げ、その手のひらを広げる。
そして、それを肩より上に向けた。
「眼魔砲っ」
同時にそこに収束した青白い光は、あっという間に手から離れ、ハーレムの肩上を掠めていった。
後方に爆発音。
「危ねぇだろ、ハーレム!」
その声にハーレムは振り返った。
視線の先にいた人物に、眉間のシワがよる。
やはりというべきか、それは生きてそこにいた。
真っ赤な総帥服に身を包んだ長髪の男。
だが、ハーレムは、その存在を一瞥すると、嫌悪した。
「行き成りなにしやがるっ! 俺のことが嫌いなのか」
抗議の声をあげるその男に、ハーレムは、もう一度、手のひらをそちらへ向けた。
今度こそはずさない、と狙いを定める。
「嫌いじゃねぇよ。その存在が許せねぇだけだ―――――ジャン」
押し殺すように呟かれた言葉は、相手の耳にも届いたようで、性懲りも無くこちらに近づいてきていた足が止まった。
きょとんとした顔。それが、あちゃーと言葉を漏らし、その頭に手を置いた。ずるりと髪が動く。その下から、同じ漆黒の、けれど明らかに短い髪が出てきた。
「なぁんだ、バレてたわけね。でも、おっかしいな。なんでバレるわけ?」
謎だね。と、呟く相手に、こちらは悠長に疑問に答えてやるほど、親切な解説者ではない。
「それは、あの世でたっぷり考えな」
もう一度その手に力を込める。だが、相手の方がすばやかった。
逃げ足だけは、相変わらず天下一品である。
「んじゃね!」
そんな明るい声とともに、こちらに向かってかつらが投げつけられた。
目隠しだ。
「ざけんなっ」
飛んできたそれをハーレムは、即行で腕を使って払い落とし、まだ狙いをつけていた右手を背中を向けて逃げ出すそれに向かって放った。
「眼魔砲っっっ!!!」
もうもうと立ち込める煙。
視界が一気に悪くなり、見通しが全然きかない。
しかし、ハーレムには分かっていた。
「チッ。仕留めそこねたか」
手ごたえのなさに、心底残念な気持ちが湧き上がる。
折角のチャンスだったのだが。惜しいことをした。
こういうことは、めったに無い。
わざわざ殺しに行く気はないのが、そちらから出向いてくれるならついでだから殺す程度の感情である。眼の前にうろつかれなければ、全然問題はないのだが、しとめそこなうのはやはり悔しい。
「しっかし、なにしにきたんだか」
それが謎。
あちらだって、姿をみせれば、自分がどんな行動をとるかなど、知っているはずである。
それでもわざわざあんな格好をして―――シンタローの変装までしてやってきたのはなぜだろうか。
たぶん単なるからかいかもしれないが―――昔からくだらないことをよくする男であったし―――もしかしたら…というか、それが一番可能性が高いのだが―――頼まれたのかもしれない。こちらが何度本心を紡いでも、不安げな顔を時折見せる、臆病な恋人に。
真実は、たぶんもうすぐここへ訪れるだろう、その恋人に尋ねればいい。
そうしたら、こちらも言ってやれる。
「なんでバレるかだって? 愚問だろうが」
愛だよ、愛。
ただ、それだけだ。
―――――自分が誰を愛しているのかなんて分からない奴なんているのか?
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