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 目の前に存在するそれに、アラシヤマは、薄く三日月形に目を細めた。そのまま視線を固定する。
 それからただ無為に時間だけが経って行った。



 いつまでそうするつもりだろうか。
 馬鹿みたいに突っ立っている自分に、冷静に突っ込みをいれてみるが、それでも動けない自分がいた。
 指先がチリチリと痛い。
 数分前、自分は一つの行動を起こしていた。
 目の前に指先を翳す。
 その結果がこれだ。
 熱を持ち、火傷を負っている自分の指先に視線だけを向ければ、口元が大きく歪んだ。
 部屋に入った時、彼は眠っていた。
 ひどく疲れていた様子で、自分が入ってきても起きる気配はまったくなかった。 真新しい書類の束を枕に涎を少したらしつつ、瞼を硬く閉じている彼の姿に、自分は、無意識に手を伸ばしていた。
 その時の自分の感情はよく覚えていない。
 ただ、無防備な顔で存在していた彼に、制御できないほどの感情が沸きあがり、身体から炎が溢れ出し、彼に向かっていった。 
「阿呆どすな」
 唇に浮んだ笑みは、自らをあざけるもので。相手に攻撃するはずの炎を自身で受け止めたその愚かさを笑う。
 目の前の相手は無傷だ。
 当然である。あふれ出した炎は、寸前で、指先で無理やり止めてしまった。行き場の失ったそれは、普段ならば自分自身を傷つけないとはいえ、オーバーヒートを起こしてしまい、結果、指先を火傷するはめになった。
 たいしたことではないのだが、チリチリとした痛みは鬱陶しい。
 幼すぎて炎の制御できなかった頃から、随分と久しぶりに作ってしまった水ぶくれに、アラシヤマは、懐かしい痛みだと、舌で舐めた。
 どうしてこんなことをしようとしたのだろうか。 
 相手を自分の炎で燃やすつもりなど全然なかった。
 それなのに、無防備な彼を見たとたんに、燃やし尽くしたい気分が生まれたのだ。
「阿呆どすえ」
 いっそう本当に、目の前の存在を自身の炎で燃やし尽くしてしまえば、楽になれるものを。
 できないのは、自分の弱さか、それとも――――彼の存在自体を愛しているためか。

 阿呆らしい。

 どちらにしても、彼の存在がいる限り、この痛みからは逃れられないのだ。
 彼が、自分のものにならない限り、このジレンマに悩まされる。
 そして、それがすでに確定されていることに、泣くことも笑うことも怒ることもできない。
 彼の心が、自分以外に向けられていることは、先刻承知。

 それでも。
 どうしても。
 思うことをやめられず。

「わてのもんになりまへんか?」
 そんな願いを口にしてしまい、チリリと痛む指先を振って、慌てたように、部屋に来た目的である、提出すべきファイルを机の端に置き、退出した。






―――――――――どうしても手に入れられないならいっそ全てを消してもええどすか?

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